差別禁止部会 第18回(H24.5.11) 資料3 <難病の置かれている現状について> 大野更紗 ・制度の現状  難病に関する施策は、難病の治療・研究を目的とした「難病対策」によって進められている。そのため難病は、これまで研究対象として捉えられており、福祉や就労支援等といった社会制度の対象としては扱われてこなかった。  「難病対策」では、以下の図に示したように研究協力に対する見返りとしての患者に対する医療費助成や、時代の流れとともに地域の相談支援、療養体制の整備や福祉サービス、就労支援等の施策が僅かずつではあるが講じられてきている。しかし、これらはあくまでも「難病対策」上の研究対象として指定されている難病に対する制度でしかない。 難病対策の流れ 難病対策要綱の策定・・・・・1972年→8疾患が対象(うち4疾患は医療費助成あり)  ・難病対策の3つの柱  ・@調査研究の推進ex) 難治性疾患克服研究事業等の研究補助  ・A医療施設等の整備ex)重症難病患者拠点・協力病院設備整備事業  ・B医療費の自己負担の軽減ex)特定疾患治療研究事業による医療費補助 生活支援に関する施策の拡充・・・・・3つの柱から5つの柱へ  ・C地域における保健医療福祉の充実・連携(1989年〜)   ex)難病相談・支援センター事業(2003年〜)  ・D QOLの向上を目指した福祉施策の推進(1996年〜)   ex)難病患者等居宅生活支援事業(現在130疾患+関節リウマチが対象) 現在・・・・・2011年→364疾患が対象(うち56疾患は医療費助成あり)  ・研究事業の拡充  ・研究奨励分野の新設(2009年〜)・・・・・現在234疾患が対象(H23年度)  そのため、まずはその難病が研究の対象として指定されなければ、こうした医療費助成や福祉サービスといった制度の対象にはならず、「難病対策」上の難病に指定されない難病については何の制度の対象にもならない、という現状がある(例えば慢性疲労症候群など)。  また、「難病対策」上、研究対象として難病に指定されているものの中にも利用できる制度には格差があり、研究以外の施策の対象になっていない疾患も数多い。このような難病の範囲についての詳細は以下の図にまとめた。なお、難病患者のための福祉サービスとして実施されている難病患者等居宅生活支援事業のうち、難病患者等ホームヘルプサービス事業の利用実績は、H22年度で315人の利用にとどまっている。難病患者への就労支援策についても難治性疾患患者雇用開発助成金の支給件数はH22年度で133件、雇入れ件数が136人となっている。 難病の範囲 国際的に言われているすべての希少性疾患 【5000〜7000疾患希少性のガンを含む】 難治性疾患克服研究事業 研究奨励分野 H23年度:234疾患対象患者数不明 →対象となる施策:研究 (21年度より開始) 臨床調査研究分野 全130疾患(56疾患含む) 約750万人 非特定疾患部分:74疾患約680万人 →対象となる施策:研究+難病患者等居 宅生活支援事業+難治性疾患患者雇用 開発助成金 特定疾患治療研究事業 56疾患約68万人 →対象となる施策:医療費助成 +研究 ※なお、130疾患以外に難病患者等居宅生活支援事業については関節リウマチが、難治性疾患患者雇用開発助成金については進行性筋ジストロフィーがそれぞれ制度の対象となっている。 ※※この図は、第15回難病対策委員会で配布された資料1の別紙1「現行の難治性疾患研究概念図」として示された図をもとに作成したものである。  もちろん、難病に起因して生じる機能障害が身体障害者福祉法における障害等級の別表に該当する場合は、障害者手帳を取得することは可能である。しかしながら、難病の医療費助成制度の対象となる56 疾患の難病(約68万人)のうち、障害者手帳を所持している者はおよそ20%程度にしか過ぎない。  そして、なにより難病に起因して生じる機能の障害は、特定の種類や部位だけでなく、身体の至るところで生じることが多い。そして、その障害の程度も様々であることから、実質的に一部の難病患者が障害者福祉の対象となっている実態があるといっても、それをもって難病が福祉制度の対象となっているとは言い難い。 ・難病に対する医療の現状について  難病は、多種多様な疾患があり、その病態や症状も様々である。また、見た目にわかりにくいことから、周囲の理解が得られにくい、ということがよく言われている。これは、原因や治療方法がよくわかっていない難病であるために、医療の現場に置いても例外ではない。財団法人北海道難病連「難病患者等の日常生活状況と社会福祉ニーズに関するアンケート調査実施事務局」が実施した「難病患者等の日常生活と福祉ニーズに関するアンケート調査」(http://www.do-nanren.jp/zenkoku/z10/pdf/110530b.pdf)によると、難治性疾患(難病)の診断がつくまでに通った医療機関が3〜5 箇所の割合が最も多くなっている。 難治性疾患の診断がつくまでに通った医療機関のおおよその数について a@カテゴリ 件数 (全体)% (無回答除く)% 1 1ヶ所 358 25.9 28.2 2 2ヶ所 406 29.4 32 3 3.5ヶ所 413 29.9 32.5 4 6.7ヶ所 34 2.5 2.7 5 8.9ヶ所 24 1.7 1.9 6 10ヶ所以上 34 2.5 2.7  無回答 111 8  サンプル数(% 1,380 100 1,269  発症したと思われる時から実際に診断が確定するまでの期間についての結果は見られなかったが、身体の異常をきたしてから1 年以上経ってからようやく診断がついたというケースや、診断がついたと思ったら実は他の難病であった、というケースなどもきかれる。  このように診断する医師ですらよくわからないことも多い難病では、継続的に治療をしてくれる医療機関を見つけることも容易ではない。前述の調査結果では、医療機関までの移動時間(片道)についての設問もあり、「30分未満」が最も多いものの、「30分〜1時間未満」と「1時間〜2時間未満」を合わせればほぼ50%という高い割合になっている。 住居から医療機関までに要する(片道の)時間 a@カテゴリ 件数 (全体)% (無回答除く)% 1 30分未満 502 41.1 42.2 2 30〜1時間未満 342 28 28.8 3 1〜2時間未満 267 21.8 22.5 4 2〜3時間未満 34 2.8 2.9 5 3〜4時間未満 24 2 2 6 4〜5時間未満 7 0.6 0.6 7 5時間以上 13 1.1 1.1  無回答 33 2.7  サンプル数(%ベース) 1,222 100 1,189  そのため、通院する上での課題・不安についても「通院費の負担が大きい」、「近くに医療機関がない」、「公共交通機関の便数が少ない」、「医療機関における緊急時の対応が不十分」などの割合が多くなっている。 通院する上での課題・不安 a@カテゴリ件 数 (全体)% (無回答除く)% 1 近くに医療機関がない 231 18.9 26.2 2 医療機関における夜間・休日の対応が不十分 159 13 18 3 医療機関における緊急時の対応が不十分 168 13.7 19.1 4 通院費の負担が大きい 253 20.7 28.7 5 通院先の病院では満足できる治療が受けられない 113 9.2 12.8 6 通院介助してくれる人がいない・少ない 101 8.3 11.5 7 公共交通機関の便数が少ない 189 15.5 21.5 8 公共交通機関に段差があるなど利用しづらい 100 8.2 11.4 9 道路に段差があったり障害物があるなど移動しづらい 73 6 8.3 10 医療機関に段差があったり、手すりがないなど利用しづらい 21 1.7 2.4