差別禁止部会 第18回(H24.5.11) 委員提出資料 ○浅倉むつ子委員、太田修平委員、池原毅和委員、大谷恭子委員、川島聡委員 「障害と性(家族も含む)に関する論点」への共同意見書 2012年5月7日 浅倉むつ子 池原毅和 太田修平 大谷恭子 川島聡 1 DPI女性障害者ネットワークが行った実態調査によると、障害女性が非常に生きづらい状態にあることが示されており、障害があることと、女性であることによって、複合的に差別されていると思われる事例も見受けられる。この場合、「障害差別」又は「性差別」という類型ではなく、「障害女性差別」という別個の類型を設けることについてどう考えるか。  また、「障害女性差別」という類型を概念上想定できたとしても、そのような類型を設けなければ救済できない事例が具体的にあるかどうか。 (意見)障害女性差別という別個の類型を設けるべきであると考える。  その理由の第一は、障害女性は、女性であることによって障害差別そのものを解消出来ないことがあるからである。障害差別一般の禁止と併せ、障害女性特有に生じる差別の禁止に言及することによってはじめて、障害女性にとっての差別が禁止される。  第二に、障害女性に対する差別は、それが障害に基づくものかあるいは女性に基づくものか判然としないことがある。どちらが積極的理由であるのかは不明であっても結果として障害女性が非障害男性と比較して不利益を受けている場合があるのであり、このような場合も、障害女性差別という別個の類型を設けることによって、差別の理由を女性もしくは障害として特定することなく、救済することができる。  第三に、障害女性への差別は、障害と女性であることとの二重の差別として行われるために、その被害の程度が重大となる恐れがある。  さらに、第四に、障害女性は、障害に加えて女性であるということから容易に差別されやすくもなっている。  以上の点から、差別類型として障害女性差別を規定するべきであると考える。  このように障害女性差別を差別として類型化しないと救済しえない事例としては、以下の事例が考えられる。  (A)たとえば、職場のある課に所属する障害女性が、重要なプロジェクト会議に出席させてもらえないという場合。これは障害差別になるのか、性差別になるのか。そもそもこの事例でも、「障害を理由とする」差別であることを立証できれば、これは障害差別になるはずであるが、もし、障害男性も非障害女性も、その会議には出席しているという事実があると、本件は障害差別でもなく、性差別でもない、とされてしまうことがありえる。その場合には、障害女性に対する差別規定を設けておけば、これを障害差別の一類型(複合差別あるいは結合差別)として差別として認定されることになる、と考える。  (B)また、複合差別により被害を受ける結果が重大となる事例は、例えば障害女性に対する障害を理由とする人工妊娠中絶や不妊手術の強要がある。もちろん、障害を理由に不妊手術を強要することは男性障害者への差別としても許すことはできないが、障害女性の場合は家族および社会のジェンダー意識あるいは優生思想により、より強要されやすく、また身体への重大な侵食を伴うことがある。  (C)さらに、合理的配慮義務との関連でも、障害女性差別という類型を設けておくことは重要である。たとえば障害女性が、トイレの使用時や入浴時に、男性介助を望まない場合、女性障害者からの要求に応じて同性介助を提供することは、過度な負担にならないかぎり、合理的配慮義務と観念される必要がある。しかし、もし男性障害者が異性介助を差別と認識しない現状においては、同性介助という合理的配慮を提供しないことが障害差別であるということは、認められにくいであろう。  以上の理由により複合差別を別個の類型として設けるべきである。 2 浅倉委員、太田委員、川島委員の3委員共同意見の第C条として、「性と生殖に関する権利」について提案がなされている。しかしながら、「性と生殖」については、様々な立場からの主張があり、権利として認めるかどうかやその具体的内容について議論が分かれる大きな論点である。加えて、これまでの部会においては、必ずしも権利規定を設けた上でその権利行使又は享受に当たって差別を禁止するという形では議論を行っておらず、また、必ずしも権利と言えないものについても、機会の均等という観点から議論を行ってきた経緯がある。以上の観点から、3委員の共同意見について、どう考えるか。 (意見)性と生殖に関する規定を設けるべきである。  国際文書には、性と生殖に関する権利について定めるものが、いくつか見いだされ、その内容も明確である。障害者に関して、性と生殖の権利を定める文書もある。障害者権利条約23 条b、cは明らかに「性と生殖に関する権利」を規定しており、その内容も具体的である。すなわち、「障害者が子どもの数、出産間隔について自由に、責任をもって決定する権利、並びに年齢に応じた情報を入手する権利、性と生殖、家族計画に関わる教育を受ける権利を認め、これらの権利を行使できるようにするために必要な手段が提供される権利を保障する」(b)、「障害のある子どもも含めて、障害者が他者との平等に基づいて、生殖に対する権利能力を保持する」(c)と規定する。  一方、日本の国内法においては、未だこれに相当する規定がないことも事実である。このような場合、すなわち国際法上はすでに「性と生殖の権利」は権利概念としては認知されてきたにもかかわらず、未だ国内法においてはこれを明記したものがないという現状のとき、これを障害者差別禁止法において先行的に規定することができるのか、障害者のみについて、そのような権利を有すると定めることの不整合さはないのか、という問題はあるかもしれない。しかしこれについては、今回の提案としては、性と生殖の権利そのものを障害者のみに保障せよ、というものではない。障害者であるがゆえに非障害者が享受している性と生殖に関する機会を奪われていることについて、問題としているのであり、障害者のみにかかる権利を保障するということを想定しているわけではない。  一方、これまで部会では、権利規定を明記したうえでその権利行使または享受にあたっての差別禁止という形では論議をしてこなかったという点については、必ずしもそのような扱いばかりではなかったと考える。たとえば、障がい者制度改革推進会議においては、障害者基本法改正時の議論の際、権利規定の必要性について議論がなされたし、障害女性について討議が行われた際(第16回会議)、障害女性が性と生殖に関する権利を有した存在であることを前提として議論したと思われる。よって、これらは、立法の規定ぶりの問題であって、現時点でその権利性そのものについて否定的な立場をとることについては、必ずしも賛成できない。  実際、障害者は、非障害者が享受している性と生殖に関する機会を等しく享受しているとはいえないし、特に女性障害者はそれが顕著である。なぜなら、女性障害者は、病院や家族から中絶を強く勧められることがないわけではなく、それを拒絶できないままに中絶に応じているという場合もあるからである。これに鑑みれば、障害者が性と生殖に関する機会を障害に基づいて奪われないように、法的な手当をする必要がある。規制すべき実質的な内容としては、妊娠、出産、避妊、家族形成等に関して、障害を理由として差別してはならないということである。  以上、性と生殖に関する差別禁止を明記するべきである。  なお、第17回差別禁止部会に提出した3委員からの意見でも、「権利」という言葉にこだわっていたわけではない。したがって、たとえば、以前の第C条を、「○○は、性と生殖に関する事項(妊娠、出産、避妊、家族形成等)に関して、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない」という規定へと修正することは十分に可能であることを、付言しておきたい。 (第18回差別禁止部会への3名の「共同意見書(改訂版)」を参照のこと)。 3 性(家族も含む)に関係する事項における差別禁止をどう考えるか。  (意見)前項の性と生殖に関する以外の性に関係する事項としてどのようなものがあるのか不明だが、とりあえずは2、に対する意見と同旨で、性に関係する事項について、他の者と比べて不利益な取り扱いをされない、という禁止規定は必要である。またこれが、障害者の子育てを含む家族責任に関係する事項であるとしたら、同じくその趣旨が分かる規定が必要である。 以上