差別禁止部会 第2回 H23.1.31 資料3
フランスの障害者差別禁止法制 永野仁美氏資料
フランス差別禁止法
2011年1月31日
上智大学 永野仁美
1.沿革 ( ← 障害に焦点)
1990年:障害・健康状態を理由とする差別を禁止する法律
刑法典・労働法典を改正。障害を理由とする差別を禁止
2005年:障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する法律
「適切な措置」概念の導入(労働法典)← 2000年EC指令の国内法化
2.全体像
◎障害を理由とする差別禁止に特化した、体系的な法律は存在しない
◎各法典、各法に、障害を理由とする差別を禁止する規定が散在
- 刑法典:軽罪の1つとして、差別罪を定める。
- 労働法典:雇用における障害を理由とする差別を禁止
- 公務員各法:労働法典類似の差別禁止規定
- 教育法典:障害者の教育を受ける権利、教育分野における機会の平等
- 建築・住宅法典:アクセシビリティの保障
- 賃貸借関係の改善を目指す1989年7月6日の法律:
賃貸借における障害を理由とする差別の禁止(2002年法改正で導入) - 差別対策分野のEU法への適合を目指す適合を目指す2008年5月27日の法律:
直接差別・間接差別の定義、証言者・供述者の保護、等々を規定
◎障害の一般的定義
【社会福祉・家族法典L.114条】
本法において、障害(handicap)とは、身体、感覚器官、知能、認知、精神の機能の1つ若しくは複数の実質的、永続的、決定的悪化、重複障害(polyhandicap)、又は、障害を生じさせる健康上のトラブルを理由として、人がその環境の中で被る活動の制限、又は、社会生活への参加の制約を言う。
◎直接差別・間接差別の定義
【2008年法1条1項】
特定の民族若しくは人種への実際若しくは想像上の帰属若しくは非帰属、宗教、信条、年齢、障害、性的指向、又は、性別に基づいて、ある者が、比肩し得る状況の他の者が受けている、受けていた、又は、受けるであろう処遇よりも不利な処遇を受けるとき、それは、直接差別に当たる。
【2008年法1項2項】
見かけは中立的な規定、基準、又は、慣行が、第1項に記載の理由の1つのために、特定の者に他の者より特別な不利益をもたらす可能性がある場合、この規定、基準、又は、慣行は、正当な目的によって客観的に正当化され、かつ、この目的に到達する方法が必要かつ適切である場合を除き、間接差別にあたる。
3.個別法
3.1 刑法典
◎障害(等)を理由とする、以下の行為を差別罪にあたるとして禁止
- 財又はサービスの支給拒否
- 何らかの経済活動の正常な遂行の妨害
- 採用拒否、懲戒、解雇
- 財又はサービスの支給に条件を付すこと
- 募集、研修申請、企業内職業訓練の期間について条件を付すこと
- 社会保障法典が定める研修への受入れ拒否
3.2 労働法典
(1)障害(等)を理由とする、以下の行為を禁止。これに違反する措置・行為は無効
- 募集手続や企業での研修・職業訓練からの排除
- 懲戒
- 解雇
- 労働条件(*)における直接的・間接的な差別的取扱い
(*)報酬・利益配分又は株式付与・職業訓練・再就職・配属・職業資格・職階・昇進・異動・契約更新
(2)例外規定
- 本質的かつ決定的な職業上の要請に基づく取扱いの差異で、目的が正当で、要請も均衡のとれたものである取扱いの差異
- 労働医が認定した労働不適性に基づく取扱いの差異
- 平等取扱いを促進するために障害者に対してなされる「適切な措置」
→「適切な措置」の拒否は、差別に該当する。
*ただし、使用者に過度の負担が生じる場合は、この限りではない。「過度の負担か否か」は、使用者に対する助成(*)等を考慮して判断される
(*)雇用義務から発生する納付金の管理運営を行うAGEFIPHから多様な助成が提供される(差別禁止原則と雇用義務制度との関係:相互補完的)。
(3)適切な措置の内容
◎個別具体的に検討
(e.x.①労働環境の適応、②労働時間の調整)
3.3 公務員各法
◎公務員についても、労働法典類似の差別禁止規定を導入
c.f.障害者を対象とする嘱託制度あり。
3.4 教育法典
◎障害者の教育を受ける権利、教育分野における機会の平等を規定
- インクルーシブな教育環境の創出
→ 自宅から最も近い学校への登録制度(2005年法改正で導入) - 特別学級の存在は、否定しない。ただし、障害児に対し、普通学級との間の頻繁な行き来を保障
3.5 建築・住宅法典
◎アクセシビリティの保障
- 障害者が、ある一定の場所から排除されることを予防
- アクセシビリティの確保に関する規定への違反には、罰則あり。
3.6 賃貸借関係の改善を目指す1989年7月6日の法律
◎賃貸借における障害を理由とする差別の禁止(2002年法改正で導入)
1989年法1条3項:
何人も、その出自、姓、身体的外観、性別、家族状況、健康状態、障害、風習、性的指向、政治的信条、組合活動、又は、特定の民族・国家・人種若しくは宗教への実際もしくは想像上の帰属若しくは非帰属を理由として、住宅の賃貸を拒否されない。
4.差別に対する救済
4.1 刑事訴訟(刑法典違反)
- 立証責任:検事
- 刑事訴訟法のルール(無罪の推定等)が適用される。
4.2 民事訴訟(労働法典、その他の法律違反)
- 立証責任の軽減:
原告(差別被害者)は、直接差別又は間接差別の存在を推認させる事実を提示すれば足り、被告側が、当該措置は差別とは関係のない客観的な事実により正当化されることを立証する責任を負う。
4.3 行政上の救済
- 高等差別禁止平等対策機関(HALDE)(*)への申立て
(*)2004年12月30日の法律によって創設された独立行政機関で、調停の 斡旋や、和解案の提示、勧告を行う権限を有する。調査権限あり。
c.f. HALDEが扱う案件の約20%が、障害を理由とする差別