差別禁止部会 第8回(H23.9.12) 資料2 条例に基づく救済に関して 横山正博氏 資料 「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」の概要 及び施行状況について T 条例の概要 1 条例の特徴 ・県民から発案され、当事者・家族が主体的に議論に参加し、その必要性を社会に訴え成立に至ったこと。 ・差別をする側とされる側という対立構図を克服し、「全ての人にとって暮らしやすい社会をつくる」と いう基本理念に立っていること。 ・何が差別に該当するか具体的に明らかにしたうえで、重層的な事案救済の仕組みを定めていること。特に、合理的な配慮の欠如を差別としていること。 ・制度や習慣等が背景にある課題に対応するための議論の場や、差別解消のためにがんばっている人を応援する仕組みを定めていること。 (参考)条例の構造 ・第1条 目的 ・第2条第1項 「障害」の定義 ・第2条第2項 「差別」の定義  以下の8類型及び、合理的配慮に基づく措置の欠如  福祉サービス、医療、商品・サービスの提供、労働者の雇用、教育、建物・公共交通機関、不動産の取引、情報の提供等 ・第2条第3項 「障害のある人に対する虐待」の定義 ・第3条 基本理念 ・第4〜7条 責務役割等 ・第8条 差別の禁止 ・第8条但書 適用除外 ・第9条 虐待の禁止 ・第10条 虐待の通報 (差別を解消するための3つの仕組み) (1)第12〜28条 個別事案解決の仕組み (2)第29、30条 誰もが暮らしやすい社会づくりを議論する仕組み(推進会議) (3)第31、32条 障害のある方に優しい取り組みを応援する仕組み(理解を広げるための施策) ・第36条 罰則(守秘義務違反のみ) 2 目的・基本理念 目的(第1条) ・この条例は、障害のある人に対する理解を広げ、差別をなくすための取組について、基本理念を定め、県、市町村及び県民の役割を明らかにするとともに、当該取組に係る施策を総合的に推進し、障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会の実現を図り、もって現在及び将来の県民の福祉の増進に資することを目的とする。 基本理念(第3条) ・すべて障害のある人は、障害を理由として差別を受けず、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしく、地域で暮らす権利を有する。 ・障害のある人に対する差別をなくす取組は、差別の多くが障害のある人に対する誤解偏見その他の理解の不足から生じていることを踏まえ、障害のある人に対する理解を広げる取組と一体的に行われなければならない。 ・障害のある人に対する差別をなくす取組は、様々な立場の県民がそれぞれの立場を理解し、相協力することにより、すべての人がその人の状況に応じて暮らしやすい社会をつくるべきことを旨として、行われなければならない。 3 「障害」の定義(第2条第1項) 障害者基本法に規定する身体障害、知的障害、精神障害、発達障害者支援法に規定する発達障害又は高次脳機能障害があることにより、継続的に日常生活又は社会生活において相当な制限を受ける状態と定義。 4 差別の定義(第2条第2項) 障害を理由とした「不利益取扱い」及び「合理的な配慮に基づく措置の欠如」を差別と定義。 ア 不利益取扱い 障害のある人に対し、次に掲げる8分野の行為をすること(参考参照) イ 合理的な配慮に基づく措置の欠如 障害のある人が障害のない人と実質的に同等の日常生活又は社会生活を営むために必要な合理的な配慮に基づく措置を行わないこと (参考)不利益取扱いによる差別 ○福祉サービス (1)障害を理由として、福祉サービスの利用に関する適切な相談及び支援が行われることなく、本人の意に反して、入所施設における生活を強いること。 (2)本人の生命又は身体の保護のためやむを得ない必要がある場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、福祉サービスの提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。 ○医療 (1)本人の生命又は身体の保護のためやむを得ない必要がある場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、医療の提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。 (2)法令に特別の定めがある場合を除き、障害を理由として、本人が希望しない長期間の入院その他の医療を受けることを強い、又は隔離すること。 ○商品及びサービスの提供 サービスの本質を著しく損なうこととなる場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、商品又はサービスの提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。 ○労働者の雇用 (1)労働者の募集又は採用に当たって、本人が業務の本質的部分を遂行することが不可能である場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、応募若しくは採用を拒否し、又は条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。 (2)賃金、労働時間その他の労働条件又は配置、昇進若しくは教育訓練若しくは福利厚生について、本人が業務の本質的部分を遂行することが不可能である場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、不利益な取扱いをすること。 (3)本人が業務の本質的部分を遂行することが不可能である場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、解雇し、又は退職を強いること。 ○教育 (1)本人に必要と認められる適切な指導及び支援を受ける機会を与えないこと。 (2)本人若しくはその保護者の意見を聴かないで、又は必要な説明を行わないで、入学する学校を決定すること。 ○建物等及び公共交通機関 (1)建物の本質的な構造上やむを得ない場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、不特定かつ多数の者の利用に供されている建物その他の施設の利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。 (2)本人の生命又は身体の保護のためやむを得ない必要がある場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、公共交通機関の利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。 ○不動産の取引 障害のある人又は障害のある人と同居する者に対して、障害を理由として、不動産の売却、賃貸、転貸又は賃借権の譲渡を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。 ○情報の提供等 (1)障害を理由として、障害のある人に対して情報の提供をするときに、これを拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。 (2)障害を理由として、障害のある人が情報の提供をするときに、これを拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。 5 差別の禁止と適用除外(第8条) 「何人も、障害のある人に対し、差別をしてはならない」と定めるとともに、不利益取扱いをしないことや合理的な配慮に基づく措置を行うことが、社会通念上相当と認められる範囲を超えた人的負担、物的負担又は経済的負担その他過重な負担になる場合には、適用を除外。 6 個別事案解決の仕組み (第2章第2節及び第3節) ・この条例の事案解決の仕組みは、第三者が間に入り、話し合いを通じて問題解決を図る仕組みを基本スキームとしている。 ・身近な地域で相談業務に当たる「地域相談員」や、相談員への助言や事実の調査などを行う「広域専門指導員」が、地域で事案の解決にむけた活動を実施。地域での解決が困難な事例については、「障害のある人の相談に関する調整委員会」が助言・あっせんを行う。 ・悪質な事例については、知事が是正勧告を行うことができる。 *元のPDF資料には、「対象事案解決の仕組み」を図示したものが掲載されている。 ア 広域専門指導員(第16条) 市町村から推薦のあった候補者について、調整委員会の意見を聴き、知事が委嘱。(障害保健福祉圏域ごとに1名配置。計16名) イ 地域相談員(第12条から第14条) ・身体障害者相談員 278名 ・知的障害者相談員 133名 ・その他の相談員 226名(精神障害・人権擁護・不動産関係など) ・計637名(H23.8.20現在) ウ 千葉県障害のある人の相談に関する調整委員会 千葉県行政組織条例による知事の附属機関 ・委員構成 「障害のある人」8名、「各分野の専門家」9名、「県議会議員」3名計20名。 委員は、委員会運営の中立・公正の確保をする観点から、各分野ごとに多くの関係者が加盟する団体や関係機関と調整の上、選任。 ・事務局 県障害福祉課職員6名専任。 ・開催状況 19年度4回、20年度4回、21年度4 回、22年度3回開催。 広域専門指導員や地域相談員の選任、条例の解釈指針、「推進会議」へ提起する課題な どについて審議。 これまで、差別事案の解決のための助言・あっせんの申立は3件あったが、いずれも対象事案と判断されず、地域での相談活動の継続による対応となった。 7 差別の背景にある制度や習慣を変えていく仕組み (第3章)  障害者用駐車スペースのマナーの問題や、目や耳の不自由な方に情報提供する場合の配慮の仕方など、制度や習慣・慣行などが背景にあって、構造的に繰り返される差別について、解決に向けた取組を話し合うため、障害のある方、事業者、県などで構成する「推進会議」を設置。その成果を広く県内へ発信している。 (取組の例) ・医療関係者が、障害のある人に対する理解を深め、適切な配慮を行うための小冊子の作成や、知的障害のある人がスムーズに買物ができるための接客ガイドブックなどの作成と普及を、モデル事業として実施。 ・県の各機関向けの「障害のある人に対する情報保障のためのガイドライン」の作成と普及 ・金融機関における視覚障害のある人の口座開設や口座振り込み手続き等の配慮の取組み ・障害のある人の不動産取引に係る問題の検討会の設置 ・障害のある人が使いやすい公共トイレについての意見募集 等 8 差別解消に向けて頑張っている人を応援する仕組み (第4章)  差別解消に向けて積極的に頑張っている人を応援する仕組みとして、県民の模範となる民間の活動等を表彰するとともに、これらの活動について県民への情報提供などを行っている。  平成21年度、取組事例を募集したところ、136件の公募があり、優れた取組み13件を選考した。これらに対しては認定書の授与を行い、応募のあった全件については、県のホームページ等で紹介している。 U 対象事案等に関する相談活動の状況 1 相談分野別  条例制定後から平成23年3月31日までに受け付けた差別に関する相談は1022件である。  この1022件について、本条例第2条第2項各号に規定している差別の分野別に整理したところ、福祉サービスが218件(21.3%)と最も多く、次いで労働者の雇用が142件(13.9%)、建物・公共交通機関が122件(11.9%)となっている。  反対に相談が少ない分野は、件数が少ない順に、情報の提供等が33件(3.2%)、不動産の取引が34件(3.3%)、教育が64件(6.3%)となっている。 2 障害種別  条例制定後から平成3年3月31日までに受け付けた相談1022件を障害種別ごとに分類すると、精神障害が320件((31.3%)と最も多く、次いで肢体不自由の身体障害が234件(22.9%)、知的障害が164件(16.0%)の順となっている。  なお、その他の44件(4.3%)は、難病の方や、知的障害や精神障害が疑われるという段階で相談が寄せられ、障害が判明あるいは確定していないものや、障害の種別が明らかにされないまま相談が終結したものが含まれている。 3 取扱件数からみた相談分野と障害種別との関係(条例制定後から) ア 相談分野からみた相談状況  相談分野ごとに、どのような障害のある方からの相談が多かったかについてみると、福祉サービスの218件は、他の相談分野に比べ相談件数が多く、障害の種別を問わず様々な障害のある方から相談が寄せられている。中でも精神障害や知的障害のある方、肢体不自由のある方からの相談が多い。  また、労働者の雇用142件や医療の76件は、精神障害のある方からの相談が最も多く、教育の64件については、発達障害や知的障害のある方、建物・公共交通機関の122件については、肢体不自由のある方や視覚障害のある方からの相談が多い傾向がみられた。  なお、その他の235件については、精神障害のある方からの相談が圧倒的に多く、次いで知的障害のある方からの相談が多い。 イ 障害種別からみた相談状況  障害種別ごとに、どのような分野の相談があったかについてみると、身体障害のある方からの相談418件については、相談が多い順にみると、建物・公共交通機関が97件、福祉サービスが79件となっており、これらは肢体不自由のある方からの相談が顕著に多い。  知的障害のある方からの相談164件については、福祉サービスが50件と最も多い。また、その他が52件と多いが、虐待の疑われる相談や隣人や家族からの差別的な言動に関する相談が含まれており、虐待に関する相談の場合、関係者からの相談が多いことが特徴となっている。  精神障害のある方からの相談320件については、多い順に福祉サービスが65件、労働者の雇用が47件、医療が42件となっている。知的障害の場合と同様に、その他が107件と多く、家族や近隣の人等が障害を理解してくれない、差別的発言を受けたという相談が多い。また、虐待が疑われる相談もあるが、知的障害の場合と違い、障害者本人から相談されてくる場合が多く、その虐待者は家族であることが特徴となっている。  発達障害のある方からの相談65件については、教育が27件と最も多くなっている。 4 相談経路別状況  条例制定後から平成23年3月31日までに受け付けた相談1,022件を相談経路別に整理すると、広域専門指導員が最初に相談を受けたケースが502件(49.1%)と最も多く、次いで県障害福祉課が257件(25.1%)、地域相談員が100件(9.8%)となっている。  なお、相談専用電話は、広域専門指導員が不在の場合、県障害福祉課に転送される仕組みとなっているため、県障害福祉課で受けた257件についても、実際は、広域専門指導員に寄せられた相談が多いと思われる。 5 相談態様別活動状況  条例制定後から平成23年3月31日までに受け付けた相談1,022件について、活動した回数は、延べ11,349回となっている。  また、この1,022件のうち、985件(96.4%)は平成23年度末までに終結している。  なお、この終結した事案985件を相談態様別に整理すると、助言・調整を行った事案が326件(33.1%)、関係機関につないだ事案が177件(18.0%)、情報提供をした事案が200件(20.3%)、相談者の意向等により話を聴いて終わった事案(状況聴取)が282件(28.6%)となっている。  これを年度別にみると、助言・調整を行った事案については、平成19年度では21.6%だったのに対し、平成22年度では37.7%となっており、年々その割合が多くなっている。これは地域相談員や広域専門指導員が双方の間に入って助言や調整をするというこの条例の本来の相談活動が、定着してきているといえる。  また、終結した事案985件の活動回数は延べ10,993回で、個別事案によってかなり差はあるが、1件あたりの平均活動回数は11.2回であった。特に、相談態様別にみると、助言・調整を行った事案は、平均16.0回、関係機関につなげた事案は平均13.9回と多くなっており、相談者や相手方の調整活動だけでなく、関係機関との連絡調整にも活動を要している結果を示している。 V 相談活動を通じて ・障害者差別の解消には、障害のある人の生きにくさや暮らしにくさの理解が不可欠である。特に「合理的配慮に基づく措置」は、個々のケースを通じ、実行可能な措置を関係者が同じテーブルで考えるプロセスが重要。そのために、第三者による事案解決の仕組みは有効であると実感している。 ・また、「合理的配慮」の理解を進めるうえで、法令等によりアクセシビリティの基準等を定め、社会的に求められる水準を明らかにすることも重要である。その際、基準の必要性について十分な理解を得るための取組が必要である。 ・相談の中には、家族への支援も含め多様な生活支援ニーズが潜在するケースが多く存在する。福祉サービスだけでなく様々な社会資源の利用支援など、生活支援と一体となった権利擁護活動が求められている。 ・相談者において権利侵害が意識されない、あるいは問題が整理されていないケースも多く、傾聴によるエンパワメントの視点が重視されている。また、地域社会における代弁者の存在は不可欠である。千葉県条例の相談活動では、中立・公正さが求められる一方、アドボケーターとしての地域相談員の活動を活性化させることが課題となっている。 (参考)「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」制定の経過 H15.12.24 第10回新・千葉県障害者計画(仮称)策定作業部会において、委員から「障害者差別禁止条例の制定を検討すべき」との意見が提案される。 H16.2.13 「第三次千葉県障害者計画(骨子案)」に「障害者差別禁止条例(仮称)の制定を検討」と記述。 H16.7.8 「第三次千葉県障害者計画」を発表。堂本知事「千葉県障害者地域生活づくり宣言」の中で重点的に進める施策の一つとして条例づくりを掲げる。 H16.9.16 「障害者差別に当たると思われる事例」を募集。(同年12月まで約800事例が集まる) H17.1.26 「障害者差別をなくすための研究会」発足。(同年12月まで 20回開催) H17.2.20 「障害者差別をなくすためのタウンミーティング」の開催。(同年12月まで 32回開催) H17.12.22 「障害者差別をなくすための研究会」最終報告の発表。 H17.12.26〜H18.1.12 「障害者差別をなくすための条例要綱案」パブリックコメント実施。 H18.2.28 平成18年2月定例県議会に「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例案」を提案。「更に関係者の意見を聞く必要がある」という理由で継続審査となる。 H18.4〜6 県において、市町村教育委員会ほか関係者から意見を聴取。この頃から、当事者・家族が中心になって県内各地で条例の勉強会が開催される。 H18.5.12 健康福祉常任委員会を開催。県から関係者の意見を報告。 H18.6.21 平成18年6月定例県議会開催。堂本知事、条例案の一部修正を表明するも「修正を行なうのであれば撤回すべき」との意見強まる。 H18.6.28 「障害者差別をなくすための研究会」を臨時開催。委員から「条例の灯を消さないで欲しい」(否決により議論を終らせないで欲しい)という意見相次ぐ。 H18.7.3 知事、条例案を撤回、廃案となる。議会に対し、議論の継続と研究会からの意見の聴取を申し入れ。 H18.7.13 第1回健康福祉常任委員会協議会が開催される。「障害者差別をなくすための研究会」野沢座長から意見を聴取。 H18.7.28 第2回健康福祉常任委員会協議会の開催。 県から新たな条例案のたたき台として「検討用試案」を提示。 H18.7.31〜H18.8.16 「検討用試案」に対するパブリックコメント実施。 H18.8.21 第3回健康福祉常任委員会協議会の開催。各会派の意見が寄せられる。 H18.9.22 平成18年9月定例県議会に「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例案(新案)」を提案。 H18.10.11 「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例案(新案)」可決・成立。 H19.7.1 「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」施行。