第9回障がい者差別禁止部会/2011年10月14日 差別禁止部会委員 小島 茂 「差別禁止部会」と「労政審・障害者雇用分科会」との役割について  今回の部会を欠席しますので、表題の意見書を提出します。  労働・雇用分野における障害者差別禁止については、すでに、労働政策審議会障害者雇用分科会において、障害者権利条約の批准を念頭に、障害者雇用促進法の改正に向け、審議され、「中間的とりまとめ」まで審議がされてきました。  労働・雇用分野における障害者差別の具体的な内容については、引き続き、公労使の3者で構成されている障害者雇用分科会で審議を行っていく必要があります。その際に、障害当事者の意見も十分反映させていくことも必要です。  当差別禁止部会では、「障害者の定義」「障害の定義」、「差別の類型」(直接差別、間接差別等)の整理、権利保護の在り方など、基本的な枠組みについて論議をしていくべきと考えます。  この雇用分科会と当差別禁止部会の役割、論議の棲み分けの整理は、包括的な「障害者差別禁止法」と個別法としての「障害者雇用促進法(改正)」との関係整理でもあります。 <別紙:参考資料、連合の「雇用における障害差別禁止法」(仮称)制定について>  なお、連合は、第20 回中央執行委員会(2009 年5 月21 日)で「雇用における障害差別禁止法」(仮称)制定について取りまとめており、これに沿って、障害者雇用分科会で意見反映をしてきましたので、参考資料として、連合の考え方を添付させて頂きます。 以 上 参考資料 第20回中央執行委員会/2009.5.21 連合の「雇用における障害差別禁止法」(仮称)制定要求について 1.はじめに  2006年12月、国連総会において障害者権利条約(「障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的・総合的な国際条約)が採択された。我が国は2007年9月28日に署名を行った。  本条約は、障害者の権利及び尊厳を保護するための包括的・総合的な国際人権条約である。雇用・労働分野に関しては、障害を理由とする差別禁止とともに、職場における合理的配慮の提供確保を定めている。条約締結に当たっては、さまざまな法整備が必要と思われるが、雇用の分野における差別禁止法制定が不可欠である。  このような状況において、厚生労働省は、2010年の通常国会への法案提出を想定し、審議会での審議を予定している。  連合は、障害の有無、種別及び程度にかかわらず、障害者の人権が尊重され、共に働ける社会をめざし、「障害者権利条約」の早期締結及び実効性ある国内法整備として「雇用における障害差別禁止法」(仮称)の制定に取り組む。 2.基本的な考え方  我が国においては、障害者雇用施策は、障害者雇用促進法による法定雇用率制度を中心に進められている。障害者基本法第3条第3項は、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」と定めているが、基本理念であり、実効性を持った形での障害差別の禁止規定はない。  「障害者権利条約」は、雇用・労働分野において、差別の禁止と積極的差別是正措置(ポジティブアクション)の双方を盛り込んでいる。我が国においても、障害者雇用率制度を積極的差別是正措置と位置づけて維持するとともに、包括的な雇用差別禁止法への発展も視野に入れながら、雇用の全ステージにおいて、障害を理由とする差別を禁止する「雇用における障害差別禁止法」(仮称)の制定に取り組む。 3.連合が求める「雇用における障害差別禁止法」(仮称)の内容 <法の目的>  法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり、雇用の場における障害を理由とする差別的取り扱いの禁止および障害を持つ労働者に対する合理的配慮の提供を義務づけること等により、障害にかかわらず労働者がその意欲と能力に応じて就労できる環境整備をはかることを目的とする。 <障害を理由とする差別の禁止>  すべての労働者は、募集・採用、賃金をはじめとする労働条件、配置・昇進、教育訓練、福利厚生、退職、定年及び解雇、労働契約の更新など、雇用の全ステージにおいて、障害を理由とする差別的取り扱いがなされることがないよう、すべての事業主に対して、合理的理由なく障害を理由とする差別的取り扱いを禁止する。間接差別も禁止する。 ○対象労働者の範囲  すべての労働者に対して、「障害」を理由とした差別的取り扱いを行うことを禁止する。募集・採用に関しては、求職者も含む。「障害」は、障害者雇用促進法第2条の「障害者」が有するその「障害」および発達障害者支援法第2条の発達障害とする。 ○事業主の範囲  すべての事業主とする。労働者派遣の場合には、労働者派遣法において定められている使用者責任の範囲で派遣先も事業主とする。 ○障害を理由とする差別的取り扱い  「障害を理由とする差別的取り扱い」とは、次に掲げる事項を理由とした、合理的理由のない、直接又は間接的な差別的取り扱いとする。 (1)労働者本人の障害を理由とする差別的取り扱い (2)労働者本人に過去に障害があったことを理由とする差別的取り扱い (3)障害者又は障害者集団を排除するか、又は排除する傾向のある基準等を基にした採用、昇進、配置等(間接差別の例)  また、下記の合理的配慮措置の提供を拒否することも、差別的取り扱いに当たるものとする。  なお、具体的に何が差別的取り扱いにあたるのかは、個別に判断されるものであり、指針等は作成せず、行政は公的紛争解決機関における解決事例の収集・提供を行うこととする。 ○差別的取り扱いが禁止される事項  募集・採用、賃金をはじめとする労働条件、配置・昇進その他の処遇、教育訓練、福利厚生、退職、定年及び解雇、労働契約の更新など、雇用の全ステージにかかる事項。 ○法的効果  障害を理由とする解雇・雇止め等は無効とするなど、私法上の効果を規定する。 ○その他の事項  労働基準法第3条の均等待遇の事由に「障害」追加する。  職業安定法第3条の均等待遇の事由に「障害」を追加する。 <再配置義務>  事業主は、疾病・事故等により、労働者が従事してきた職務に再び従事できない場合、当該企業に存在する職務のいずれかを遂行できる場合は、解雇を回避するとともに、必要があれば、配置転換、労働時間の調整等を行い、労働者の能力に応じた労働者の希望に沿った職務を提案する義務(再配置義務)を負うものとする。 <合理的配慮措置の提供義務>  事業主は、障害を持つ労働者の請求に対して、過度の負担が生ずる場合を除いて、合理的配慮措置を提供しなければならないこととする。労働者が求めた合理的配慮を拒否することは、差別的取り扱いとする。合理的配慮を求めたことを理由とした不利益取り扱いも禁止する。 ○合理的配慮措置の義務  障害を持つ労働者は、事業主に対して、合理的配慮措置の提供を請求することができることとする。事業主は、労働者からの請求があった場合には、事業場における労働者代表委員会等と協議し、過度の負担および均衡を失した負担が生ずる場合を除いて、合理的配慮措置を提供しなければならないこととする。  労働者代表委員会等は、労働者代表委員に障害を持つ労働者がいない場合には、事業主との協議に際して障害を持つ労働者からの意見を聴取しなければならないこととする。  合理的配慮措置の提供を合理的理由なく拒否することは、障害を理由とする差別的取り扱いとする。また、合理的配慮措置を求めたことを理由とする不利益取り扱いも禁止する。 ※労働者代表委員会等・・・連合「労働者代表法案要綱骨子(案)」の労働者代表 委員会および労働者代表員をいう。 ○障害を持つ労働者  合理的配慮措置の対象となる「障害を持つ労働者」は、障害者雇用促進法第2条の障害者である労働者および発達障害を持つ労働者とする。 ○合理的配慮措置  「合理的配慮」は、「障害を持つ労働者」が、その配慮措置があれば、募集・採用手続きへの参加や職務の遂行等が可能になる措置とし、その内容は、@施設整備、情報保障など労働環境への配慮措置、A通院や労働時間の調整など労働条件への配慮措置とし、概念を法で規定する。  合理的配慮措置は、対象労働者や事業の実情に応じて個別に判断されるものだが、厚生労働省は合理的配慮措置の類型や具体的内容をガイドラインで示す。 ○過度の負担等  「過度の負担」「均衡を失した負担」については、企業の経営状況や業種、企業規模、慣行等に応じて個別に判断されるものであり、使用者が説明責任を負う。  合理的配慮措置の規定の実効性を確保するため、障害者雇用調整金および各種助成金の拡充をはかるなど、障害者雇用納付金制度を見直すことも必要である。 <障害を理由とするハラスメントの防止>  事業主は、障害を理由とするハラスメントの防止に向け、相談窓口の設置や苦情処理体制の整備など、必要な措置を講じなければならないこととする。 <紛争の解決>  差別禁止規定及び合理的配慮の提供義務については、職場の集団的労使関係において履行が確保されることが重要だが、職場で解決できない場合の、実効性ある紛争解決の仕組みが必要である。そのため、@通常民事訴訟および労働審判制度等の司法救済、およびA行政救済(都道府県労働局紛争調整委員会による調停)を予定し、関連規定を整備する。 ○立証責任  差別的取り扱いの禁止規定に関する訴訟(労働審判も含む)における、労働者の立証責任の軽減をはかる規定を置く。原告労働者は、差別の存在を推認させる事実を提示することとし、使用者はその措置が障害を理由とするものではなく、客観的理由により正当化されるものであることを立証するものとする。  合理的配慮措置の提供義務違反については、合理的配慮措置の内容の特定と義務違反については労働者が証明責任を負い、過度の負担であることについては使用者が証明責任を負うものとする。 ○行政救済:都道府県労働局紛争調整委員会による調停  障害を理由とする差別的取り扱い等をめぐる労働者と事業主との間の紛争に関して、簡易・迅速で費用負担の少ない救済システムも必要である。行政から独立し、調査や勧告など強い権限を持つ第三者機関を整備することが望ましいが、早期の実現をはかる観点から、都道府県労働局紛争調整委員会を紛争解決機関とし、調停の対象とする。  実効性を高めるため、紛争調整委員会に出頭命令権限を付与し、応じない場合の過料を規定する。また、この法律の規定に関する調停手続きにあたっては、調停会議メンバーに、@障害に関する専門的な知識・経験を有する専門家、A労使代表、B障害当事者(各障害者団体より推薦)を加え、5名による合議体制をとるなど、委員会の権限・体制を強化する。さらに、調停会議に勧告権限を付与する。 ○行政制裁  この法律の差別禁止、合理的配慮措置の提供および障害を理由とするハラスメント防止措置の規定に関しては、厚生労働大臣による報告の聴取、助言、指導、勧告、企業名公表の規定を置く。 4.その他の関連事項 (1) 法定雇用率のダブルカウントについては、障害当事者の受け止め方を重視すべきとの意見や重度障害者の雇用促進に寄与しているとの見解および障害の定義の見直しが必要であるとの指摘など、様々な意見があるため、 引き続き検討する。 (2) 特例子会社については、障害者を分離することが差別的取り扱いにあたるとの指摘もあるが、障害者の雇用促進に寄与している面も大きく、当面、積極的差別是正措置の一つと位置づける。 (3) 法定最低賃金は基本的には授産施設等も含めて障害者にも適用すべきと考えるが、「減額特例」については、障害者雇用の進捗状況を踏まえつつ、賃金補填制度の創設も含めて引き続き検討する。  なお、現行の「減額特例」に関しては、使用者が許可を申請するにあたって労働者代表委員会等からの意見聴取および意見添付を義務づけることも検討すべきである。 (4) 障害者雇用促進法で規定する障害者雇用状況報告については、事業主は厚生労働大臣への提出前に、労働者代表者委員会等より意見聴取し、意見を添付して提出するものとする。 (5) 障害者雇用率制度の実効性をあげるため、公的部門との取引については、雇用義務を履行している企業のみを対象とすることも検討すべきである。 (6) 移動サービスを必要とする障害者に対する通勤支援メニューの整備についても検討する。 (7) 「障害者権利条約」の第27 条は、「(c)障害者が他の者と平等に労働組合についての権利を行使することができることを確保すること」と規定し、労働組合における差別的取扱いも禁止している。今後、障害者の労働組合への参加、意思決定機関への参画等を検討していくこととする。 以上