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2008年(平成20年)2月29日 金曜日

朝日新聞

知的障害者に自白誘導

誤認逮捕に慰謝料

宇都宮地裁命令

04年に2つの強盗事件で逮捕、起訴された後に真犯人が判明し、無罪が確定した宇都宮市に住む知的障害者が、精神的苦痛を受けたとして国と栃木県に計500万円の慰謝料を求めた国家賠償請求訴訟の判決が28日、宇都宮地裁であった。福島節男裁判長は、「警察官が知的障害者の迎合的である特性を利用し、被害者供述に合致した虚偽の自白調書を作成した」などと認定。ほぼ原告側の主張に沿って、県警と宇都宮地検の操作の違法性を認め、国と県に計100万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

訴えていたのは吉田清さん(56)。吉田さんの逮捕や勾留(こうりゅう)に「十分な合理的根拠があったかどうか」をめぐり、①捜査当局が吉田さんの責任能力をどう認識していたか②自白の誘導や調書作成に違法性があったかなどが争われた。

判決で、福島裁判長は吉田さんについて「重度の知的障害があり、質問者に迎合しやすいという特性があった」と指摘。そのうえで「自白調書などは警察官が大半を一定の方向に誘導して作成された」と県警の取り調べの違法性を認定した。

また、供述調書に添付された犯行現場を示す見取り図を「吉田さんが定規を使って書いた」とする県警の主張に対し、判決は「警察官の説明方法で作成されたとするには大きな疑問が残る」と述べた。この点について吉田さんは、「警察官に無理やり手を持って書かされた」と証言していた。

さらに判決は、物証が全くない強盗事件は「自白が最も重要な証拠資料」だったとしたうえで、宇都宮地検の捜査に言及。「自白調書の裏付け捜査を行うべきだったのに行わず、自白調書の信用性を持たせようと、つじつま合わせの調書作成に終始した」と指摘したうえで、起訴自体が違法だったと結論づけた。

可視化含め捜査再考を

《解説》 知的障害者への違法捜査、それも検察の起訴にまで踏み込んで違法だと認定した宇都宮地裁判決は、極めて異例だ。それだけ違法性が強かったことの裏返しでもある。

弁護団によれば、原告は、過去に微罪で摘発されていたが、いずれも責任能力の程度が問題となり、ほとんどが起訴猶予にされていたという。障害の程度が重いと認定された原告は集中力が続かず、疲れると無意識にうなずく癖もあった。

それを「強盗」という凶悪犯罪で逮捕して自白させた県警、十分な裏付けをしないまま起訴に持ち込んだ検察。いずれもずさんというしかない。

この事件をきっかけに、大阪弁護士会が全国初となる「知的障害者刑事弁護マニュアル」をまとめ、取り調べの全過程を録音、録画する「可視化」の必要性を訴えるなど、捜査対象となった知的障害者への対応も模索されつつある。

鹿児島県警、富山県警と相次いだ冤罪事件を受けて、警察庁は「取り調べ適正化指針」をまとめたが、知的障害者をめぐる捜査にも可視化にも触れていない。判決を踏まえれば、捜査当局は可視化の議論も、知的障害者をめぐる捜査のありようについても、一から考え直す構えで臨まなければならないのではないか。

(金子智彦)

「警察、弱みつけこむ」弁護側

吉田清さんと弁護団は判決後、宇都宮市内で記者会見した。

新調したばかりの黒いスーツに身を包んで現れた吉田さんは、ふだんの生活を支えてくれている金子晋也さんと晴れやかな笑顔を見せながら、判決について「わかんねえな」とつぶやいた。

一方、代理人の副島洋明弁護士は「警察は弱みにつけ込んで無実の人を犯罪者にする罪を犯した。検察もそれを取り繕った。(判決は)何事だと言っている」と怒りをあらわにし、大石剛一郎弁護士は「筋の部分では全面的に認めてくれた。非常に満足だ」と語った。

県警は山手康男・警務部長が記者会見。再発防止策に力を入れていることを強調したが、判決については「内容を精査し検討したい」と繰り返すばかり。宇都宮地検も「事件を教訓として基本に忠実に適正な捜査に努めたい」とのコメントを出しただけだった。

笑顔を見せる吉田清さん

支援者(左)に話しかけられ、笑顔を見せる吉田清さん=28日午後2時58分、栃木県庁で、細川卓撮影