音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ


WWW を検索 サイト内を検索 Google

メールマガジン登録

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会

障害者情報ネットワーク

日本障害者リハビリテーション協会の活動にご支援をお願いします。(ご寄付)

JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部

被災者生活支援ニュース(厚生労働省)

マルチメディアDAISY(デイジー)で東日本大震災に関わる情報を

障がい者制度改革推進会議

DINFのお知らせ

シンポジウム 「もっと知ろう、デイジー教科書を!」
日時:2013年02月03日(10:30~16:00)
場所:戸山サンライズ 大研修室
 

Enjoy Daisy 読めるって楽しい!

公益財団法人日本リハビリテーション協会は国際シンボルマークの取扱いを行なっています。

障害者福祉の総合月刊情報誌『ノーマライゼーション』発売中

マルチメディアDAISYのCD-ROM付き絵本『赤いハイヒール』発売中

関口委員提出資料

医療観察法を廃止し、精神医療改革を実現するための提案

(第1 版-修正3 案)

医療観察法廃止と精神医療改革を考える会
2010 年9 月6 日

はじめに

 私たちは、様々な立場から、司法との関連領域も含め精神医療改革に関わってきました。

 しかし、わが国の精神保健医療福祉は、精神障害者の保護と収容を中心とした施策を抜け きれず、精神障害者の地域からの疎外、精神病床の過剰、社会的入院の増加、良質な医療提 供の困難、地域資源の未成熟という状況が続いています。

 2003 年には「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法 律(以下、医療観察法)」が制定され、新たな強制収容施設と通院管理システムが加えられ、 多くの関係者が願っていた精神医療全体の抜本的改革の道はむしろ遠ざかってしまいました。

 医療観察法の施行後5 年の見直しの時に当たり、また障害者制度の抜本改革が推進されよ うとしているこの時期こそ、医療観察法を廃止し、これまでの精神保健医療福祉施策を抜本 的に見直す良い機会です。

 本提案では、これまでの小手先の改善策の延長線上には精神医療の未来は見えてこないと いう立場から、少し遠い先を見据えた大胆な改革案を提示し、それに近づくための道筋を具 体的に示します。

 改革の過程では、国には一時的だが財政負担をしてもらうことになります。また、精神科 病院経営者、そしてそこで働く労働者には一時的にせよ痛みを強いることになるでしょう。 しかしこの改革は、精神病患者とその家族、そして国民全体の精神保健の向上のために先送 りすることはできません。

 私たちの提案が受け入れられ、精神医療改革が一刻も早く実現することを切に願います。

1 改革の到達点の明確化と改革計画

 精神障害者を精神科病院に収容することを優先してきたわが国の施策を地域ケア中心に変えて いこうとする提案や試みはこれまで繰り返しなされてきました。しかし、都道府県の精神科病院 設置と運営の責務放棄を黙過し、民間精神科病院に依存しながら精神病床の増床を図ってきたこ れまでの国の施策を根本から変えることができずに現在に至りました。

 入院中心の医療を地域中心の医療に転換するためには大胆な精神病床の削減策が必須です。そ の上で、他害行為に至った患者も含めて、どんな重症な症状を有する患者でも受け入れることが できる質の高い入院精神医療を提供できる体制を構築しなければなりません。

 最終到達点は精神科医療が内科や外科と同様に診療科の一つとして普通に提供され、通院医療 も病院や診療所で緊急時も含めて24 時間いつでも受けられる体制を構築することです。そのため には、後述するように、精神医療を特別扱いし、その医療水準の向上を妨げてきた医療法を改正 するとともに、精神保健福祉法の見直しあるいは廃止も必要になります。

 実現にはさまざまな隘路があり、一挙に改革することは困難です。しかし、これまでのように 妥協に妥協を重ねた、その場しのぎの施策の積み重ねでは何も変わりません。改革の原則を明確 にした上で、最終到達点を目指して短期・中期・長期の計画を立てることが必要です。

 そのためには「精神医療改革を推進するための法律」(仮称)も必要です。

2 改革に必要な10 原則

 精神医療改革を進めるに当たって重要なことは、改革理念を明確にして、それに沿ってぶれる ことのない施策展開をすることです。

 また、権利と尊厳がないがしろにされがちな精神障害者の医療や支援について、最低限でも、 既に1991 年に採択された、「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための 諸原則(以下、国連原則)」に照らして我が国の精神保健医療福祉の現状を検証する必要がありま す。また、「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰に関する条 約(以下、拷問等禁止条約)」(1984)を遵守すること、そして国連の「障害者の権利に関する条 約」(2006)の批准に向けて、実効性のある権利保障を行うための国内法の整備をめざして、法制 度全体の見直しを行うべきです。

 改革は次の10 原則に沿って推進されるべきです。

(1) 国は、これまでの精神保健医療福祉施策の誤りを率直に認め、精神病患者及び家族 に謝罪し、改革を推進することを国民に宣言する。

(2) 精神保健医療福祉の問題は、国民全体の問題であり、国は国民の精神健康を守るた めに最善を尽くす義務がある。

(3) 新たな施策を立てるにあたっては、精神保健の問題を持つ人々や家族の立場を最大 限に尊重し、医療・保健・福祉の提供者の既存利益を優先してはならない。

(4) 精神保健医療福祉にかかわる政策の立案にあたっては、もっぱら精神障害者の健康 の向上維持、生活の質の向上を目的とし、精神保健医療福祉を社会治安のために用い ない。

(5) 精神医療が担うべき役割はもっぱら医療の提供にある。保健・福祉の分野との役割 分担を明確にした上で、医療の質を向上し、保健・福祉分野との緊密で対等な連携を 可能にする。

(6) 精神障害を持つ人々の治療・リハビリテーション・福祉サービスは原則として地域 社会の中で行われるべきであり、日常の生活の場から切り離して行われてはならな い。

(7) 精神科病院への入院や施設への入所は他に本人の利益を守るための手段がない場 合の一時的な例外措置として位置づけられるものであること。病院への入院や福祉施 設への入所が必要な場合は原則として本人の自由意志に基づいて行われるものとす ること。治療上やむを得ず強制入院が必要な場合は人権に配慮した厳格な手続きと治 療内容、治療環境、処遇内容についての第三者による厳正な点検が行われる。

(8) 精神障害者の個人としての尊厳と権利が侵害されないように、本人に代わって尊厳 と権利を守るための権利擁護者制度を創設する。

(9) 精神障害者の医療や処遇は、医療施設、福祉施設、矯正施設のすべての施設におい て、他の市民に提供されるものと同様に、市民としての尊厳が最大限に尊重され、そ の時代に望みうる最高水準のものが提供される。

(10) 精神障害者の医療や保健福祉サービスに関する情報はすべて公開され、市民に共 有されるべきである。特に精神科医療機関に関する施設や職員配置、医療内容、治療 実績などが定期的に公表される。

3 改革の道筋

 私たちは、医療観察法制定に反対し、施行後も法運用の状況を分析し、その問題点を明ら かにしてきました。その結果、ここでは詳細を述べることはしませんが、この法律を廃止し、 この法律の対象者も含めて必要な医療を提供できる新たな精神医療供給体制を構築すべきで あるという結論に達しました。

 しかし、精神保健福祉法下の精神医療の改革が遅々として進んでいない状況の中で、医療 観察法を廃止すると同時に一気に私たちが目指す到達点にたどり着くはずもありません。
そこで、以下に「医療観察法廃止に向けた準備段階」「精神医療改革に向けた法改正作業」 「精神医療改革の推進のための財政投資」の順に具体的な道筋を示します。

4 医療観察法廃止に向けた準備段階

 医療観察法は、司法と医療との役割をあいまいにして、迅速な医療の機会を奪い、長期入 院等の問題を招いています。医療観察法廃止を前提として現行制度の枠内で改善できるとこ ろから手をつけておく必要があります。

(1) 医療観察法対象者と想定された者への迅速な医療提供と慎重で的確な司法判断を可能と する運用を行う。そのためには現在あまり行われていない司法と医療の双方向的やりとり を弾力的に行う必要がある。この問題は医療観察法制定以前から問題にされ、医療観察法 施行後も改善されていない課題のひとつであるが、いまのままでは医療観察法が廃止され たとしても問題がそのまま残ることになる。

具体的には、
○ 急性症状の著しい患者については、司法手続きをする前に一旦措置入院等で治療を 先行させ、一定の段階を経たところで司法手続きを検討する。そのためには現行の措 置指定病院の指定基準を上げて、診療報酬制度上の改善も併せて行う必要がある。
○ 司法手続きに乗せるべきかどうか迷う事例は、入院中に起訴前鑑定を実施する。
○ 治療可能性を迅速に見極めるために、逮捕・勾留中の診察が容易に行われるように して、治療すべき人を見落とす可能性を低くする。治療が必要であれば、保釈や勾留 執行停止を活用する。一旦、不起訴になって医療に回された者であっても、逆に起訴 すべきであることが判明した場合には、一旦検察に戻す、あるいはそれが受け入れら れない場合は検察審査会の活用するなどによってあらためて司法判断を求める。

(2) 鑑定入院医療機関の指定基準を上げ、鑑定入院中の医療の質の保障、行動制限の少ない 処遇の確立を目指す。

(3) 鑑定が難しい事例の鑑定や鑑定医育成のための専門機関(集中治療鑑定センター)の創 設に向けての準備作業に着手する(医療観察法指定入院医療機関の一部を実質的に集中治 療鑑定センターとして先行活用する)。

5 精神医療改革のための法改正作業

 わが国の精神保健医療福祉施策は保護と収容を優先させてきました。近年になってそれを 改め、地域医療、地域ケアに力点を置くようになり、ようやく入院期間の短縮傾向が見られ るようにはなりました。しかし、多くの精神科病院はなお社会的入院を抱え込む体質を引き 継ぎ、さらに空いた病床に認知症を入院させつつあります。閉鎖的空間への長期保護がまだ 当たり前という病院が少なくなく、医療が本来担うべき救急医療・合併症医療に取り組む病 院は少数派で、医療機能が貧弱で保護機能だけが肥大している病院も多いのが現状です。こ のような実態が医療観察法を成立させてしまった側面もあります。

 この状況が変わるには、精神保健に関する国民の認識、社会保障制度、権利擁護者制度、 そして国家予算など大きな枠での転換が必要です。

 第二段階では主として関連する法律の制定あるいは見直し作業について行います。

 なお、作業にあたっては、「障害者の権利に関する条約」、「国連原則」「拷問等禁止条約」、さ らに改正が予定されている「障害者基本法」、将来制定される可能性がある「障害者総合福祉 法(仮称)」「障害者差別禁止法」「患者の権利に関する基本法」なども念頭に置く必要があり ます。

1)「精神医療改革を推進するための法律」(仮称)の制定

 「精神医療改革推進法」を制定し、これまでの保護中心の誤った精神医療政策について国 が精神障害者および家族に謝罪するとともに、精神医療改革を確実に進める決意を国民に示 す。

 その上で、精神疾患患者の市民としての尊厳と権利を守ること、当事者や家族の願いを最 大限に生かすことできるように改革の立案や制度設計の過程に当事者等が参加すること、精 神疾患患者がどこに居住していても安心して適正な医療を受けられるように精神科医療機関 を配置すること、強制入院を段階的に減少させるなど数値目標を明確にしつつ、精神科病院 の精神病床を当面は半減させ、徐々に一般病院精神科中心の入院医療へと切り替えて行くこ と、入院患者の処遇の審査体制を強化するとともに精神病床に関する情報公開を徹底するこ となど、精神医療改革の基本指針を明示する。その上で、改革の具体的な道筋を改革推進計 画で示し、年次目標を設定するとともに定期的に評価と計画の見直しを行うことを謳う。

2)医療観察法の廃止と指定入院医療機関の活用

(1) 医療観察法廃止法を制定し、たとえば3 年~5 年後に廃止することとする。

(2) 医療観察法廃止後、既存の指定入院医療機関は以下のように有効活用する。

 
○ 集中治療鑑定センターとして精神鑑定および鑑定中の治療を実施する。
○ 精神鑑定医の育成と鑑定の質の向上のための研修・研究を行う。
○ 精神疾患を有する矯正施設入所者を一時的に受け入れ入院医療を行うとともに矯正 施設に出向いて精神医療に関する相談支援を実施する。
○ 治療や社会復帰に支障を来している非自発入院患者(従来の措置入院・医療保護入 院患者)の診療支援を行う。

(3) 保護観察所に配置されている社会復帰調整官は、精神鑑定のための調査協力、矯正施 設から退所した障害者の生活支援等の調整を行う。

3)精神保健福祉法の見直し

 精神障害者の保健医療福祉を他の疾患や障害と区別してきた精神保健福祉法を抜本的に見 直し、原則として医療については医療法に、保健については地域保健法に、福祉については 障害者総合福祉法(仮称)へと整理する。

 これによってこれまで区別が曖昧で混乱を招いた精神疾患と精神障害の定義問題も解決し、 精神病床を保護の場としてきた旧弊を改めることも可能となる。

 しかし、精神疾患については非自発入院が避けられない場合がある。精神保健福祉法にお ける措置入院あるいは医療保護入院に相当する患者が一般病床で入院治療を受けられる医療 環境を整えることは現時点では困難である。したがって、この段階では精神保健福祉法の措 置入院、医療保護入院、応急入院、あるいは移送制度などは残さざるを得ない。

 任意入院については、医療法上の一般病床の規定にしたがって、治療契約が結ばれ、一般 病床に入院することになる。しかし、精神保健福祉法の下で作られた精神科病院の精神病床 をただちに医療法における一般病床に切り替えることは現実には不可能であり、精神科医が いない既存の一般病床への転院にも無理がある。したがって、精神科病院が医療法よる一般 病床あるいは精神保健福祉法による精神病床を選択できる経過措置を、10 年を限度として、 認めることとする。この間、一般病床への移行を促進するために必要な財政措置を行う。な お、任意入院が一般病床において行われるようになった段階では、精神保健福祉法は実質的 には「精神疾患を有する人々の非自発入院に関する適正手続きと適正医療に関する法律」(仮 称)に生まれ変わることになる。

 現行精神保健福祉法については当面以下の事項の改正が必要である。

(1) 対象者規定

 精神病床への入院が必要な精神疾患患者を精神保健福祉法上の対象者とする。

 一般病床に入院する精神疾患患者については医療法上の規定に従うことになるのでこ の法律の対象から除外される。

(2) 非自発入院制度の創設と手続き規定

 保護者の同意を要件とする医療保護入院を廃止し、措置入院を改変し、非自発入院制 度を創設する。非自発入院の必要性の判断は行った行為でなく、医療の必要性、とりわ け精神疾患の重症度、緊急度を評価する。その際差し迫った他害行為や自殺の恐れの存 在を入院判断基準の一つにするかどうかについては幅広い視点からの検討を要するが、 医療必要性以外の要素が非自発入院の判断に入り込むことによって精神医療の変質や社 会的入院の容認に繋がることから判断基準から除外すべきであろう。

 入院必要性判断は現行措置入院制度に準じ、都道府県が指定する精神保健指定医2 名 の診察を必要とすることとする。形式的にしか行われていない市町村同意制度も廃止し、 市町村単位(地域によっては二次医療圏単位)で精神科ソーシャルワークステーション を設置して、非自発的入院患者の権利擁護、退院支援、退院後の生活支援、危機調整を 行い、入院の適正性、医療の質、社会的入院防止を担保する新たな仕組みを創設する。 たとえば、退院支援と社会的入院防止のために、精神科ソーシャルワークステーション に入院患者の希望を聞いた上で円滑な社会復帰を図るための転院調整機能を付与するな どが考えられる。

(3)非自発入院指定病床

 非自発入院を受け入れる病床は一般病床よりも職員配置、施設基準などを高くして、 隔離・拘束などの行動制限を可能な限り少なくする。原則的に精神科救急医療圏内の公 的病床を非自発入院指定病床とするが、「情報公開」「第三者による経営監査」「外部委員 が参加する院内人権擁護・倫理委員会設置」「救急医療への参加」などを条件として、既 存の民間病院の一部病床を指定し十分な施設整備費と運営費助成を行い、公的病床の空 白を埋める。地域医療支援病院、特定機能病院、大規模病院の縮小によって病床を再配 分(後述)された地域の中核一般病院等は原則的に非自発入院指定病床の指定を受ける こととし、精神病患者の合併症医療の充実も図る。

(4)精神医療審査会の機能強化

 精神医療審査会を行政機関から独立させ、たとえば精神科救急医療圏域ごとに設置 する。法律家委員など審査会委員の増員、事務局員の増員を図る。入院届けの審査を行 うと同時に、非自発入院日からできるだけ近い時期に病院に出向いて個別審査を行う。 退院請求・処遇改善請求審査とは別に長期非自発入院患者については抜き打ち審査をこ まめに行う。形式的な病状報告審査は行わないこととする。退院受け入れ環境が整わな いために長期入院になっている患者については、精神科ソーシャルワークステーション に退院支援の実施を勧告することができることとする。

(5)権利擁護者の選任

 患者権利擁護者制度を新設して、患者の希望に応じて、登録された弁護士、精神保健 福祉士などの中から、精神医医療審査会が権利擁護者の選任を行うことができることと する。

4)医療法の改正

 精神疾患の治療が他の疾患と同条件で受けられるようにするために以下のように医療法を 改正する。

(1) 精神病室以外の病室への収容禁止規定と職員配置数規定の見直し

 精神疾患患者の差別的な受療制限を規定している医療法施行規則の「精神病患者を精 神病室でない病室へ入院させてはならない」とする条項を削除する。併せて職員配置数 についての精神病床規定も削除する。これによって、現行精神保健福祉法上の任意入院 については、精神病床であろうと一般病床であろうと、他疾患患者と同様の入院契約に よって自由な医療環境に入院し、同じ水準の医療を受けることができることになる。

(2) 一般病床における行動制限に関する規定の追加

 現行精神保健福祉法では精神科病院および精神病床を有する一般病院の管理者につい て行動制限に関する規定が定められている。上記の改正により精神病床以外に入院する 精神疾患患者が増え、一般病床での行動制限が一時的にせよ必要になる場合が想定され る。また、精神疾患患者以外についても、たとえば外科や内科における意識障害患者あ るいは認知症患者の治療に際して拘束などの行動制限が現在もしばしば行われている。 将来は拘束などの行動制限をせずに済む環境整備や職員配置をすべきであるが、現状で は一時的にせよ行動制限をせざるを得ない状況にある。このことを踏まえて行動制限に 関する規定を入院医療一般に広げ、その手続き規定や第三者による審査規定を新たに設 ける必要がある。短期の行動制限については患者または家族への告知と診療録記載を義 務づけ、院内行動制限委員会(仮称)で承認を得ることとする。一定時間を超える行動 制限については、現行精神保健指定医に準ずる資格を有する専門職の判断を必要とし、 一定期間を超える行動制限については定期的に精神医療審査会の審査を受ける仕組みを 創設する。

(3) 地域医療計画の見直し

 精神病床についてはこれまで都道府県単位での医療計画であったが、これを廃止し、 最終的には一般病床と同じく二次医療圏ごとの配置計画とする。しかし、現在の精神病 床偏在を直ちに是正することは困難なので、当面は精神科救急医療圏単位の基準病床数 を定めることする。その際、後述の非自発入院病床も含めて人口1万人当たり15 床程度 を医療計画上の基準病床数とする。将来は、任意入院が一般病床へと移行するので、人 口1万人当たり7~10 床以下で十分となる。

(4) 大規模精神科病院の小規模化と病床再配分

 300 床以上の大規模単科精神科病院の病床を縮小し、地域の中核的な一般病院に精神 病床を再配分する。当面は地域医療支援病院、特定機能病院、その他地方都市の中核病 院に精神病床設置を義務づけ、そこに優先的に病床移転を行う。

(5) 地域医療支援診療所の新設

 精神科救急医療への参加、過疎地域の診療支援、重症精神疾患患者の包括的支援プロ グラム(ACT)の導入などを行う診療所を地域医療支援診療所と位置づけ、補助金あるい は診療報酬上の加算を付ける。

(6) 過疎地精神医療の支援強化

 精神科医の偏在等で精神医療過疎地となっている地域を支援するために、地域医療支 援病院等がサテライト診療所を開設したり、インターネットを介した遠隔診療を行った りすることを促進する仕組みを医療法上で規定する。

5)医師法の改正

 精神科医の育成と偏在是正を図るために、(精神科に限らず)医師が免許取得後一定期間、 過疎地の医療あるいは救急医療に従事する仕組みを設ける。また、うつ病や認知症患者の早 期治療等の重要性から医師研修制度における精神科必修を復活する。

6 精神医療改革の推進のための財政投資

 これまで主として法律面から改革を構想したが、欧米と異なり民間の精神科病院が大部分 を占めるわが国でこの構想を実現させることは容易ではありません。改革へのインセンティ ブをどう高めるかが課題である。空き病床が少し増えるとたちまち病院経営が苦しくなると いう現実があります。仮に地域の受け入れ態勢が整ったとしても、地域移行や精神病床削減 が進むわけではありません。精神医療改革の実現には以下のような大幅な財政投資が必要と なります。しかし、医療観察法への投資と違って、いずれも一時的なものであり、将来的に は国や地方自治体の負担を軽減することになるはずです。

(1) 長期在院患者の地域移行を積極的に進め、病床返上あるいは過疎地への病床移転を しようとする精神科病院への強力な医療経済的なインセンティブ

(2) 非自発入院患者の入院環境整備と職員配置の充実

(3) 非自発的入院患者のあらたな権利擁護システム(ソーシャルワークステーション、 独立した精神医療審査会、権利擁護者制度)の構築と運営

(4) 退院患者のための良質な住居提供、退院後支援システムの充実、当事者による退院 支援等活動の強化

(5) ACT など重症患者の入院防止システム構築

(6) 過疎地の精神医療支援システムの運営

(7) 認知症患者が精神科病院に入院せずに済む介護システムの充実

おわりに

 わが国では精神障害者の保護と収容のための特別法はしっかりと作られてきましたが、精 神障害者の権利保障と生活向上のために特別法を制定することが検討されたことはありませ ん。それどころか、医療観察法制定にみるように新自由主義の潮流のなかでノーマライゼー ションやインクルージョンといった理念が片隅に追いやられてきました。

 政権交代によりようやくこれまでの施策が大きく修正されようとしています。患者本位、 当事者本意の視点に立って未来像を描く時です。精神障害者と直接接したことのない人々の 先入観や偏見に左右されることなく、精神障害者が地域に留まり、一市民として地域で生き ることができる社会、すなわちインクルージョン社会の実現が目指されなければなりません。

 わが国のリーダーには、精神医療のあるべき姿を率先して国民に示し、大胆な改革に踏み 切ることを期待します。


医療観察法廃止と精神医療改革を考える会

(五十音順)

池原毅和(弁護士)
伊藤哲寛(北見赤十字病院精神科)
大塚淳子(精神保健福祉士)
岡崎伸郎(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター精神科部長)
小川 忍(看護師)
金杉和夫(精神科医)
木太直人(精神保健福祉士)
富田三樹生(多摩あおば病院、日本精神神経学会法委員会委員長)
中島 直(多摩あおば病院)