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場所:戸山サンライズ 大研修室
 

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*障がい者制度改革推進会議(第20 回)(2010 年9 月27 日)

障害者の権利条約第3 回締約国会議

長瀬修(東京大学大学院経済学研究科)

締約国会議とこれまでの経緯

 9 月1 日から3 日まで米国ニューヨークの国連本部で、障害者の権利条約の第3 回締約国 会議が「障害者の権利条約の実施を通じた障害者のインクルージョン」をテーマとして開 催された。筆者は、幸いにも出席の機会を得た。同条約の締約(批准)国は、会議の時点 で90カ国であり、署名数は146に上っている。締約国会議は条約の第40 条に規定があ り、「この条約の実施に関するいずれの事案をも審議するため、締約国会議を定期的に開催 する」とされている。

 障害者の権利条約(以下、「条約」と略す)が2006 年12 月に採択、2007 年3 月に署名 開放、2008 年5 月に発効という経緯を経て、第1 回締約国会議は2008 年10 月31 日と11 月3 日に国連本部で開催されている。同会議は、まず議長団の選出を行い、議長には、条 約の提唱国であるメキシコが就任した。副議長には各地域を代表して、ハンガリー、ヨル ダン、ニュージーランド、南アフリカが就任した。次に、条約の第34 条に基づいて、障害 者の権利委員会の12 名の専門家の選出が行われた。この委員会が締約国から提出される報 告書の検討を行うという国際的モニタリングの中心的な役割を担うのである。人権の道具 としての条約とミレニアム開発目標という世界の貧困撲滅への取り組みとの関連について のパネルディスカッションが開催された。

 第2 回締約国会議は2009 年9 月2 日から4 日までやはり国連本部で開催された。条約実 施のための法的方策がテーマとして掲げられ、「アクセシビリティと合理的配慮」、「法の前 の平等、法律へのアクセス、支援と意思決定」、「条約実施への国連システムからの支援」 それぞれに関するパネルディスカッションが開催された。また、市民社会の参加を得て、 非公式のセッションが「世界的経済危機、貧困、条約の実施」に関して開催された。

障害者の権利委員会の専門家選出

 第3 回締約国会議の主要な議題の一つは、条約の国際的モニタリングの中心的な役割を 果たす障害者の権利条約委員会の専門家の選出だった。第1 回締約国会議で選出された12 名のうち6 名は2009 年1 月から通常の4 年間の任期であり、残りの6 名は2 年の任期で ある。

 今回の締約国会議では締約国から指名のあった23 名の候補者から、合計12 名が選出さ れた。まず、前述の第1 回締約国会議で選出された専門家のうち、今年末で任期が切れる6 名の後任の選出がなされた。オーストラリア、韓国、ケニア、チュニジア、ドイツ、メキ シコの6名であり、4 年間の任期を務める。

 次に条約第34 条に基づき、批准国数が80 を越えた段階で追加される新たな6 名の専門 家(アルジェリア、エクアドル、グアテマラ、セルビア、デンマーク、ハンガリー)の選 出があった。この6 名の半数3 名は4 年の任期であり、残りの3 名は2 年の任期である。 したがって、次回の選挙のある2012 年以降は2 年ごとに9 名ずつの選出が行われる。なお、 再選は1 度まで可能である。

 第1回締約会議で選出された専門家は4分の3が障害者であり、今回、選出された専門 家も圧倒的多数は障害者であり、“Nothing about us without us” の精神はここでも活か されていることを強く感じた。今回はこれまでのケニアに加え、ハンガリーからも精神障 害者である専門家が選出されたことは心強い。

 選挙運動は活発に行われていた。紙幅の都合で投票の詳細は避けるが、第1 日の9 月1 日は、冒頭の開会の発言や手続きを除けば、午前、午後共に全部で計7 回の専門家の選挙 の投票に費やされたのには正直、閉口したが、条約交渉に大きく貢献したドイツのテレジ ア・デゲナーや、隣国の韓国の金亨植の選出は特にうれしく思った。当選者は、それぞれ 自国の政府と障害者組織の大きなバックアップを受けていたことは明らかである。経歴等 を含むカラー刷りの冊子を配布したり、候補者を紹介するためのレセプションを事前に開 催した政府もあったほどである。第1 回締約国会議で惜敗したモンティエン・ブンタン(上 院議員)を擁するタイは、すでに2 年後に向けて予算を含め、準備を始めていると同国の 政府関係者は語っていた。

教育と地域生活のラウンドテーブル

 第2 日(9月2日)には、二つのラウンドテーブルと呼ばれるパネルディスカッション と一つの非公式フォーラムが開かれた。

 午前に開催されたインクルージョンと教育の権利に関するラウンドテーブルでは、世界 銀行の代表者から、教育を受けていない途上国のこどもの3 分の1 は障害児という推定が示さ れ、教育を受けていない生徒の状態の把握がないことが課題であることも明らかにされた。また、 8 割を越すこどもが学校に通っている場合、通っていない子供には知的障害がある子供が多いと いう指摘もあった。世界ろう連盟のマルク・ヨキネン会長からは、手話がろう者のすべての権利 の基盤であること、9 割のろう児が教育を受けていないこと、バイリンガル教育が有効であるな どの発言があった。障害者の権利委員会の専門家であるアナ・パレーズからは、インクルーシブ 教育に向けた政治的、経済的な措置と国際協力でのインクルーシブ教育の実施の重要性の指摘が あった。

 次に開催された地域生活に関するラウンドテーブルは、欧州議会議員であるアダム・コサ が議長を務めた。コサはハンガリーのろう者である。

 障害者の権利委員会の専門家であるヨルダンのモハメド・アル=タラワネは、地域での生 活の権利と、生活の形態を選択する権利の重要性を指摘し、選択を可能とする環境の確保のため の国家の役割を強調した。米国のデラウェア大学のスティーブン・アイデルマンからは、知 的障害者の入所施設を閉鎖したニュージーランドや一部のカナダ、イギリスの取り組みの 紹介があった。

 今回の3 日間の会議で拍手が最も大きかったと感じたのは、東欧のクロアチアのサナダ・ ハリルセビッチの発言だった。少し長めに紹介させていただく。現在は本人活動協会の会 長であるハリルセビッチは、知的障害者として自らが子供時代を過ごした施設生活を振り 返った。養護学校高等部を卒業後、自宅に帰ったが仕事も見つからず、施設に戻った時、 地域生活をしている若い知的障害者を見ると、自分はなぜできないのかと思ったという。 仲間との付き合いを自由にしている地域生活者たちをうらやましいと感じたのだった。職 員からは「あなたの暮らしはまるでホテルで、ちゃんと屋根がある暮らしなのよ。何の心 配もいらない」と言われたという。知的障害者の生活支援を得て地域生活をするようにな って今は3 年半が過ぎた。最初は大変だったが、新しいことを学び、いつでも助けてと言 えるようになった。最初は多くの支援が必要だったが、今は家事面で最小限の支援が必要 なだけになった。助けがどれだけいるのか、自分が決める。今も施設にいる多くの仲間を 考えると、条約の実施が課題だと感じている。特に第19 条の実施が欠かせない。「私の人 生は30 歳から始まりました。施設を出たその日から始まりました」と締めくくった。 出席していた多くの締約国からは、教育と地域生活に関する自国の取り組みの報告と、 パネリストへの質問があった。注目されたのは、チリからの視覚障害者の読書権との関連 での世界知的所有権機構(WIPO)の動きに関する発言だった。

 二つのラウンドテーブルの終了後、締約国会議としては終了し、国連公用語の通訳はな くなったが、「危険な状況及び人道上の緊急事態」(第11条)について非公式のフォーラ ムが開催された。

国連システムとしての取り組み

 第3日(9月3日)は午前だけのセッションであり、国連システムとしてどのような取 り組みが条約の実施に向けてなされているかの報告が国連の各機関からあった。国連事務 局統計部の大崎恵子からは、障害に関する統計の不備により利用可能性、信頼性、比較可 能性のどれも十分でないという現状と共に、途上国を含め、次第に多くの国で障害に関す る 人権高等弁務官事務所からは、条約の国内実施に関する仕組みの構造と役割に関する 研究の報告があり、パリ原則に則って独立した監視機関の重要性が指摘された。また、次 の研究は、国際協力に関するもので、来年の3月に公表予定とされた。国連人口基金から は、特に障害女性の妊娠や、産科フィスチュラ(ろうこう)のある女性の深刻な問題に関 する報告があった。世界銀行からはWHO と協力して準備中の世界障害報告は本年遅く、 もしくは来年はじめに発表予定であるとされた。

 障害者の権利委員会の現委員長であるロバート・マッカラム(オーストラリア)からは、 同委員会の動きについて、これまでに3回開催された同委員会では、委員会規則や報告ガ イドラインの策定を終え、本年10 月4 日から8 日までの第4回会期では、すでに最初の定 期報告書の提出のあったチュニジアとの対話を行う予定であり、また、10 月7 日には、ア クセシビリティの権利に関する一般的討議を公開で行うとの報告があった。

国際協力に関する市民社会フォーラム

 この締約国会議に関連して、前日の8 月31 日午後に国連本部で国連事務局経済社会部(D ESA)と国際障害同盟(IDA)が主催する、国際協力に焦点を当てた市民社会フォー ラムが開催され、障害とミレニアム開発目標(MDGs)との関連が強調された。

 第32 条の国際協力について基調講演を行った、国連の社会開発委員会の障害に関する特 別報告者である、シュアイブ・チャルクラン(南アフリカ)からは、開発協力をはじめと する国際協力での障害の重要性について指摘があった。大変うれしかったのは、国際協力 機構(JICA)がアフリカで自立生活センターの支援を始めようとしている例を特に挙げ、 こうした障害者運動と政府の協力を「JICA モデル」という表現を使っていたことである。

 国連事務局の経済社会部(DESA)で条約事務局のチーフを務める伊東亜紀子と共に共同 議長を務めた国際障害同盟の会長であるダイアン・リッチラー(国際育成会連盟前会長) からは、次回以降の締約国会議においても市民社会との連携を深めるための、このフォー ラムの継続的開催の提案があった。

今後の日本の動き

 条約交渉が終了してから国連本部を訪問する機会もなくなり、久しぶりに国際的な動き に現場で触れる機会だったが、締約国会議は各国がその取り組みを国際的に共有する機会 として機能していることが分かったのは一つの収穫だった。昼休みや夕方にサイドイベン トと呼ばれる関連行事が主にNGO によって開催されているのも特別委員会時代と全く同 様である。

 会議では、締約国だけでなく署名国も発言の機会があったが、残念ながら日本政府の発 言はなかった。昨年12 月の「障がい者制度改革推進本部」、本年1 月の同本部のもとの「障 がい者制度改革推進会議」それぞれの発足、本年6月の同会議の「障害者制度改革の推進 のための基本的な方向(第1次意見)」策定、同意見に基づく「障害者制度改革の推進のた めの基本的な方向について」の閣議決定という、条約の批准(締結)そして肝心の実施に 向けて真剣な取り組みを行っていることを政府の発言で国際社会にアピールする重要な機 会だった。来年は是非、日本政府に参加そして発言をしてほしい。この関連では、米国は 国務省の国際的障害者の権利に関する特別顧問に就任したジュディ・ヒューマンが、昨年 のバラク・オバマ政権による批准を受けて、署名国として、全米で450 以上の自立生活セ ンターが地域生活の推進のために活動していると、積極的に発言を行っていた。

 国内での制度改革、そして、特別報告者からも賞賛された日本の政府開発援助での障害 の取り組みを伝える努力が日本政府からいっそう必要である。さらに、日本の批准は少な くとも2011 年の障害者基本法の改正、2012 年の障害者総合福祉法制定を受けてからにな ると思われるが、批准のあかつきには、日本の障害者代表を是非、障害者の権利委員会に 送り出したいと強く思った。同委員会にはアジア太平洋からオーストラリア、韓国、中国、 バングラデシュ、ヨルダンから専門家がこれまでに選出されている。

(敬称略)

*第3回締約国会議については以下の国連のウェブサイトを参照。
http://www.un.org/disabilities/default.asp?id=1532