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障がい者制度改革推進会議 第29回(H22.12.17) 資料1

障害者制度改革の推進のための第二次意見(案)

目次

はじめに

Ⅰ 障害者基本法の改正について

1 障害者基本法改正の趣旨・目的

2 総則関係

1)目的

2)定義

3)基本理念

4)差別の禁止

5)障害のある女性

6)障害のある子ども

7)国及び地方公共団体の責務

8)国民の理解・責務

9)国際的協調

10)障害者週間

11)施策の基本方針

12)その他

3 基本的施策関係

1)地域生活

2)労働及び雇用

3)教育

4)健康、医療

5)障害原因の予防

6)精神障害者に係る地域移行の促進と医療における適正手続の確保

7)相談等

8)住宅

9)ユニバーサルデザインと技術開発

10)公共的施設のバリアフリー化と交通・移動の確保

11)情報アクセス・コミュニケーション保障

12)文化・スポーツ

13)所得保障

14)政治参加

15)司法手続

16)国際協力

4 推進体制

1)組織

2)所掌事務

Ⅱ 「障害」の表記

障害者制度改革の推進のための第二次意見(案)

はじめに

(第一次意見後の流れ)

 本年1月から始まった「障がい者制度改革推進会議」(以下、「推進会議」とする)は、12月17日現在で29回目を数えている。
 「第一次意見」(障害者制度改革の推進のための基本的方向)は、第14回推進会議(6月7日)でまとめられ、閣議決定(「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」6月29日付)されて以降、推進会議においては、次の取組が行われている。

 「第一次意見」において横断的課題の第1に位置付けられている障害者基本法(昭和45年(1970)法律第84号)(以下、基本法という。)の抜本改正は、本年末を目途に作成予定の「第二次意見」の内容を踏まえて、平成23年の通常国会に法案を提出することになっている。
 「第一次意見」後の推進会議においては、「第二次意見」の策定に向けて、追加的な個別分野の事項として「住宅」「文化・スポーツ」「ユニバーサルデザイン」「障害の予防」について、省庁ヒアリングを実施して議論を行ってきた。
 また、基本法改正の議論においては、総則・各則・推進体制ごとに、事務局が提出した条文の規定ぶりイメージをもとに議論を行ってきた。

 横断的課題の第2に位置づけられている差別禁止法の制定については、11月に1回目の「差別禁止部会」が開催され、今後は検討項目を整理して、平成25年の通常国会に法案が提出できるよう本格的な取組を行うことになっている。

 第3の横断的課題である障害者総合福祉法(仮称)について検討を行う「総合福祉部会」は、現在、同法の重要なテーマ(項目及び論点)ごとに九つの作業チームを設置して、10月から検討作業を行っている。その中では、「第一次意見」で個別分野の課題として位置付けられ、検討項目及び論点が総合福祉法の範囲を超えている「就労」「医療」「障害児支援」は、推進会議の委員との合同作業チームを設けて基本法改正に盛り込む事項の取りまとめも含めて検討を行っている。
 「総合福祉部会」では、平成23年8月には部会としての意見を取りまとめ、平成24年の通常国会に法案提出を行い、平成25年8月の施行を目指している。

 「第一次意見」をもとに、各地で「地域フォーラム」が14ヶ所(11月末現在)で開催され、毎回100人~500人の参加者が集まり、推進会議の意義と一連の取組について、各地で大きな注目と期待がもたれている。
 今後、「地域フォーラム」は、平成23年2月までに合計19か所で開催する予定になっている。

(障害者基本法制定の経緯)

 現行の障害者基本法は、国内の障害者関係の各個別法及び施策の基本的な理念、方針及び推進体制を包括的に定めているが、現在、国内外の情況の変化によって大きな転換期を迎えている。

 戦後の障害者施策は、1940年代の終わりから60年代にかけて、身体障害者福祉法や精神薄弱者(当時の表記)福祉法、精神衛生法にみられる「特別法」、又は社会福祉事業法や児童福祉法を始め、医療・教育・職業訓練及び雇用促進・年金・住宅・交通等に関連する個別法の中で分散して限定的に取り上げられ、その基本的考え方は、障害者を「対策」の対象とすることにとどまっていた。
 このような現状に対して、関係者から障害者対策に総合性と一貫性が欠けており、行政機関相互の連絡調整の必要性が指摘されていた。また高度経済成長から取り残されていく障害者への無関心な社会の実態が、障害者団体や関係者から強く指摘され、根本的な対策を求める声が高まっていた。
 こうした背景のもとで、「心身障害者対策基本法」(昭和45(1970)年)が制定されたが、法律名称に表れているように、障害者を「対策」の対象とすることに変化はなかった。

 「国連・障害者の十年」(1983-1992)の展開と国際的潮流を踏まえ、「心身障害者対策基本法」を大幅に改正した障害者基本法(平成5(1993)年制定)は、当初、主に3つの側面を有していた。
 1つは、それまでの障害者の自力更生と社会復帰、優生思想を背景とした障害の予防と早期発見、障害の克服等を基調とした「心身障害者対策基本法」をノーマライゼーション理念に基づいて改編していくという点である。もう1つは、「国連・障害者の十年」とノーマライゼーション理念の提唱による国内の「障害者対策に関する長期行動計画」(昭和58(1983)年~平成4(1992)年)の策定と実施による経過と実績を踏まえて、当時の障害者施策の到達点を基本法によって事後的に確認するという意味があった。さらに、3つ目は基本法の成立によって、ようやく精神障害者が法的に障害者として位置づけられたのであった。

 その後、10年を経て平成16(2004)年に改正された基本法は、1990年代のアメリカ、イギリスなどにおける障害者差別禁止法の実現や障害者への差別を禁止する法制化を求める国連・社会権規約委員会による日本政府への勧告(平成12(2000)年)等の国際的動向と国内の地域社会における障害者の生活保障を求める多様な取組に影響を受け、次の新設条文が追加された。

  • 「基本的理念」(第3条3項)に差別禁止事由、「国及び地方公共団体の責務」(第4条)に「差別の防止」が規定された。
  • 「施策の基本方針」(第8条2項)に、「可能な限り、地域において自立した日常生活を営むことができるよう配慮されなければならない。」という規定が盛り込まれた。

 これまでの障害者基本法にかかわる主な経過を振り返ってみると、内外の動向に少なからず影響を受けてきたことが明らかになっている。
 現在、「障害者の権利に関する条約(仮称)(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)」(以下「障害者権利条約」という。)の国連採択(平成18(2006)年)を契機に、条約の批准に向けて、条約が要請する障害者の権利を実現する枠組みと水準に見合う国内の障害者制度改革をどのように行うかという点において、基本法は、関係個別法の上位法として障害者制度改革の要の役割を果たすことが要請されている。
 今般の基本法の改正は、障害者権利条約を批准し、同条約の規定を遵守するために必要な国内の制度改革全体の理念と施策の基本方針の要に位置し、今後の障害者施策の方向に大きな影響を与えるものとして、極めて重要かつ大きな意義があるということができる。

Ⅰ 障害者基本法の改正について

1 障害者基本法改正の趣旨・目的

 障害者は、古今東西いかなる社会であれ、普遍的に存在している。社会には、子ども、青年、壮年、高齢者が存在するように、障害者も社会の普遍的な構成員として存在する。

 しかし、障害者が社会の対等な一員として地域社会で暮らすには、いまだに大きな社会的障壁が待ち構えている。たとえば、交通機関、建築物等における物理的な障壁、欠格条項をはじめとする法律制度の障壁、点字、文字情報、手話通訳等による情報保障の欠如における文化・情報面の障壁、障害者を庇護されるべき存在としてとらえたり、障害者を外観だけで判断するなどの意識上の障壁などである。

 日本の障害者施策は、特に戦後から本格的に講じられるようになり、その結果、大きな発展を遂げてきたともいえる。ところが、これまでの障害者施策は、障害者をいわゆる健常者と対比して、心身の機能に障害をかかえ、能力的に劣っているものと把握し、障害者が遭遇するさまざまな困難の原因を個人の心身の状態に求める考え方を起点として、体系化されてきたものである。障害者が受ける制限の原因を障害の存在に求めている現行基本法の障害者の定義ひとつをとってもそれは明らかなところである。

 しかし、人類社会はしだいに社会との関係において障害を考察するようになり、ついには、障害が個人の機能障害と社会参加を妨げる社会的障壁との相互作用によって発生するものであるとの認識に達した。そしてこうした認識の変化は、障害者を保護の客体として扱ってきたこれまでの社会の対応に反省を促して、自己責任・家族依存から社会的支援としての地域社会での生活支援を拡大するとともに、障害に基づく差別を撤廃し、社会は障害者を権利の主体者として扱うべきであるとする根拠をもたらした。

 現行基本法は、先に述べた経緯をたどり、国際社会の影響や国内の状況を反映し発展してきたものであり、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本的理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めるものとなっている。

 しかしながら、いまだ多くの障害者が施設や精神科病院での暮らしを余儀なくされ、地域社会における生活も多くの困難を抱えるだけでなく差別や虐待も後を絶たない現状にあり、国際障害者年(昭和56(1981)年)以来叫ばれてきたノーマライゼーションや完全参加と平等は、いまだ遠い夢でしかない。

 かような状況において、基本法が単に既存の施策のリストに終わることなく、真に障害者施策をリードしていくためには、いくつかの条件が必要である。

 すなわちそれは、第1には、障害に基づく差異を否定的な評価の対象としてではなく人間の多様性の一つとして尊重し、相互に分け隔てられることなく個性と人格を認め合うインクルーシブな社会の構築を基本法の目的に組み込むことであり、第2には、基本法が依って立つ障害概念を転換したうえで、差別禁止も含め、障害者に認められるべき基本的な人権を確認し、各種施策が人権確保のために国や地方公共団体の責務を定めるものであるとの位置付けを与えることであり、第3には、障害者に関連する政策決定過程に障害者が参画する重要性に鑑みて、障害者に関する施策の実施状況を監視する権能を担う機関を創設することである。

 以上の改正の趣旨・目的を踏まえ、改正基本法には前文を規定すべきである。

 推進会議は、かかる観点から、基本法の抜本改正に向けて精力的な議論を重ね、ここにその成果を第二次意見として示す。
 本意見を受け、今後政府においては、基本法の改正に向けた検討・調整がなされていくものであるが、その内容が最大限に踏まえられたものとなるよう期待するものである。

2 総則関係

1)目的

(推進会議の認識)

【基本的人権の享有主体性の確認】

 障害者を保護の客体であるとする見方から、すべての基本的人権の享有主体であるとの見方へ、考え方の根本を転換することが障害者権利条約の理念であり、今後の障害者施策の基本となるべきである。したがって、かかる観点から、障害者権利条約を締結することを目指して、基本法の目的の見直しが行われるべきである。

【格差の除去と平等の権利の保障】

 障害者は、障害に基づく日常生活上及び社会生活上の様々な制限や制約を受けている。また障害者の中でも、制度の対象になる障害とならない障害があるなど、制度内にも障害の種別・程度による格差(*)1といえるものが存在する。こうした現状を改善し、すべての障害者に障害のない人と平等の権利を保障することができるよう、基本法の見直しが行われるべきである。

【インクルーシブ社会の構築】

 すべての障害者が国民から分け隔てられることなく、社会の一員として受け入れ、合理的配慮や必要な支援の充足を通じて、障害の有無に関わらず地域社会で共に自立した生活を営むことが確保されたインクルーシブ社会を実現することが日本の目指すべき社会であることを明記し、そのための国及び地方公共団体の責務を明らかにするよう、障害者基本法の見直しが行われるべきである。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • すべての障害者が基本的人権の享有主体であること及びこの権利の実現のためには自立と社会参加を保障するための支援が必要であること。
  • 障害のない人との格差、及び障害者間の種別・程度による制度間格差をなくすと共に、各障害の独自の障害特性やニーズにも配慮することによって、すべての障害者に障害のない人と平等の権利を保障すること。
  • 障害の有無にかかわらず、何人も分け隔てられることのない、インクルーシブな社会が日本の目指すべき社会であること及び国はこの社会の形成に向けて合理的配慮や必要な支援が充足されるよう、政策を実施する責務があること。
  • 現行基本法の第1条(目的)は、本意見書「Ⅰ-1.障害者基本法改正の趣旨・目的」の観点を踏まえて修正し、「福祉を増進する」という表記は用いないこと。

1 (*)「障害の種別・程度による格差」
 障害者に対する各種生活支援は、障害種別・程度を判断基準とした医学モデル的な観点からではなく、生活の実態に基づくニーズを基礎とする社会モデル的な観点から、その必要性が判断されるべきであるところ、障害の種別や程度のみで、その必要性が判断され、その結果、不合理な格差が制度的に発生している場合を以下、「障害の種別・程度による格差」と表現する。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者が、障害のない人と等しく、基本的人権の享有主体であることを前提として障害者基本法の目的を改正すること。

○ 障害の有無にかかわらず、国民が分け隔てられることなく相互に個性と人格を尊重する社会を実現するために必要な施策を推進する旨を障害者基本法の目的に加えること。

○ 障害者を福祉施策の客体としてのみとらえているという印象を与える表現は用いないこと。

2)定義

(推進会議の認識)

 これまでは、個人の心身の機能の損傷と、様々な社会生活における不利や困難としての障害を同一視したり、障害を個人に内在する属性としてとらえ障害の克服を個人の適応努力に任されたりするなど、障害の軽減や除去のために医学的な働きかけ(治療、訓練)を優先する医学モデルが社会に浸透していた。
 しかし、障害者の社会参加の制限や制約の原因が障害者個人にあるのではなく、機能障害(インペアメント)と社会的障壁との相互作用によって生じるものであるという「社会モデル」に立つ障害者権利条約を踏まえるとき、基本法の改正に当たり、障害の定義に「社会モデル」の観点を反映させることが、障害者に関連する日本の施策の制度改革と国民全体の意識変革にとって極めて重要なことであり、そのことは、他の法律での定義にも反映されるべきものである。
 また、制度の谷間を生まないためには、あらゆる障害が「障害」の定義に入るよう幅広く捉えることが必要である。
 さらには、現行の基本法上の「継続的に」という文言との関係で、「周期的」又は「断続的」に発生する日常生活又は社会生活上の制限を受ける人を排除しないようにすることも重要である。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害の定義は、制度に基づく支援を必要としながらもその対象から除外される障害者、いわゆる「制度の谷間」を生まない包括的なものとし、個人の心身の機能の損傷と社会との関係において社会的不利益を発生するという視点を明らかにし、さらに、周期的に変調する状態なども含みうるものとすること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害の定義は、「社会モデル」の考え方を踏まえたものとするとともに、周期的又は断続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける場合も含まれるような包括的で幅広いものとすること。

3)基本理念

(推進会議の認識)

【基本的人権の享有主体】

 法の目的でも述べたように、すべて障害者は、基本的人権の享有主体であり、障害者権利条約の理念である、「障害者を保護の客体から権利の主体へ」という考え方の転換を基本理念にも反映すべきである。

【地域社会で生活する権利】

 障害者権利条約は「すべての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を認め」ている。すなわち、全ての障害者が分け隔てられることなく、障害のない人と対等な構成員として位置づけられ、合理的配慮や必要な支援の充足を通じて、障害の有無にかかわらず地域で共に生活することが確保されたインクルーシブ社会を実現することが求められている。このため、締約国は、この権利が完全に享受され、地域社会が完全に受け入れるために必要な措置等を講ずることが求められている。
 具体的には、居住地を選択し、どこで誰と生活するかを選択する機会を有することや、特定の生活様式の生活を義務づけられないこと。また、地域社会における生活や地域社会への受入れを支援することや、地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスなどの地域生活支援サービス(パーソナル・アシスタンスを含む。)を障害者が利用できるようにすること。一般住民向けの地域生活支援サービス及び設備が、障害者にとって障害のない人と平等に利用可能であり、かつ、障害者のニーズに対応していることである。
 日本においては、施設や精神科病院で多数の障害者が暮らしており、地域社会で生活しようとしても地域生活の社会資源が不足している現状にあり、また、現に地域社会で暮らしている障害者も、その日常生活や社会生活に多くの困難に囲まれている現状がある。
 このような現状を変えるために、基本法において、特定の生活様式で生活するよう強いられることなく、地域社会で生活する権利を確認し、その実現に向けた施策の具体化のための措置を取るべき旨を規定すべきである。

【自己決定の権利とその保障】

 すべての障害者は、障害のない人と平等に自己選択と自己決定の権利を有する。
 しかし、自己決定にあたって、必要な社会的体験の機会がなかったり、支援する立場にある者から選択肢が示されないなど、十分な情報を含む判断材料が提供されないことや、独力で決定することだけが自己決定とされ、支援の必要性が軽視されたり、必要な支援を提供もせずに、本人が決めたことだからとして責任を転嫁されることなどもある。
 自己決定にあたっては、自己の意思決定過程において十分な情報提供を含む必要とする支援を受け、かつ他からの不当な影響を受けることなく、自らの意思に基づく選択に従って行われるべきである。

【言語・コミュニケーションの保障】

 日常生活及び社会生活において、多くの障害者が必要な言語を使用し又はコミュニケーション手段を利用することに多くの困難を経験しているが、その問題の深刻さが省みられることは少なかった。そのため、今日の情報化社会において、改めて、コミュニケーションに困難を経験している障害者が障害のない人と等しく人権が保障されるよう、言語には音声言語及び手話等の非音声言語が含まれることを確認するとともに、等しく情報にアクセスして、その情報の意味を等しく理解し、等しく情報を発信するために必要な言語の使用又はコミュニケーション手段の利用が保障されるべきである。
 コミュニケーションを保障するための必要な手段には、言語及び言語を起点とする音声、筆談、点字、文字表示、わかりやすい言葉、拡大文字、指文字、また実物や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達がありまた、手話、要約筆記、指点字、触手話、手書き文字、朗読などの通訳者や説明者等の人的支援、さらに補聴援助システムその他の情報支援技術を利用した補助代替的手段を含む。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 現行法の規定に加えて、障害者が基本的人権の享有主体であることを確認すること。
  • 地域社会で生活する権利を確認するとともに、その実現に向けた施策の具体化のための措置を取ること。
  • 障害者が必要とする支援を受けながら、自己決定を行えることが保障されること。
  • 障害者のあらゆる生活分野において、情報へのアクセスを確保する施策を促進すること。
  • 言語には音声言語とともに手話等の非音声言語が含まれることを確認し、必要な言語の使用及びコミュニケーション手段の利用が保障されること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ すべて障害者は障害のない人と等しく基本的人権の享有主体として個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有すること。

○ 障害者権利条約における「地域社会で生活する平等の権利」を踏まえたものとすること。

○ すべて障害者は必要とする支援を受けながら自らの決定に基づき、社会を構成する一員として様々な分野の活動に参加する機会を有すること。

○ 手話等の非音声言語が言語であることを前提として、障害者が、必要な言語を使用し、必要なコミュニケーション手段を利用するという障害者権利条約における「表現及び意見の自由についての権利」を踏まえたものとすること。

4)差別の禁止

(推進会議の認識)

【差別の禁止】

 障害者に対する差別が存在することは、内閣府の調査だけでなく、地方公共団体における差別禁止条例制定のプロセスでも明らかにされているところである。
 そもそも、障害の有無にかかわらず、何人も法の下に平等であるはずであり、障害に基づいて政治的、経済的、社会的、文化的、市民的関係を含むあらゆる分野において差別されることがあってはならず、また、あらゆる活動への機会が均等に保障されなければならない。

【法の下の平等と差別の禁止】

 そのためには、まず、基本法においても、法の下の平等のもとで差別が禁止されるべきものであって、何人も障害に基づく差別を受けない権利を有することを確認し、さらに差別の定義などの基本的事項を規定することが必要である。

【差別の定義】

 基本法における差別の定義としては、障害者権利条約の定義を踏まえ、あらゆる区別、排除又は制限が不利益な結果をもたらす目的を有する場合はもとより、行為者の主観的意図にかかわらず、不利益な効果が発生する場合も含むものであること、さらには、相手方に均衡を失した又は過度の負担を課すものではないにもかかわらず、特定の場合において、障害のない人と等しく機会の均等を確保するための必要かつ適当な変更及び調整である合理的配慮を提供しない場合も含むものであるべきである。

【差別禁止法制の整備】

 また、差別を実効的に禁止するには、障害に基づくあらゆる分野の差別を禁止し、権利の侵害から救済を図る機関を規定する法律が別途制定されなければならないが、この差別禁止法の制定が基本法の抜本改正の後に予定されているため、まずは、基本法において差別禁止法制の整備に向けた規定を置くべきである。

【複合差別に対する認識と対応】

 さらに、障害に基づく差別の問題において、被害を受けた人自身が相談したり、権利主張すること自体が困難であり、社会的に潜在化していることを考慮すると、啓発、相談、研修などの分野において、差別の問題が考慮されるべき重要事項であることの確認がなされるべきであり、なかでも、障害のある女性や子ども、重度障害のある人が複合的又は加重的な差別を受けているという視点、及びその状況に配慮した対応が、基本法の定めるあらゆる施策分野に提供されなければならない。

【実態の調査と事例収集】

 これらのためにも、国は、障害に基づく差別に該当するおそれのある事例の収集、整理、及び提供を行い、実態を明らかにしたうえで障害に基づく差別を防止するための普及啓発を図るべきである。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 法の下の平等のもとで障害に基づく差別が禁止されること。
  • 差別の定義において、直接差別のみならず、間接差別も含むものとし、さらに合理的配慮を提供しない場合も差別であることを明らかにすること。
  • 障害者権利条約を踏まえて、合理的配慮の定義を設けること。
  • 障害に基づく差別を禁止する法制度を整備すること。
  • 障害者にかかる啓発、相談、研修等の分野において、差別問題、特に複合差別についての視点を踏まえて施策が行われること。
  • 差別の実態を明らかにし、その防止に向けた理解の普及啓発を図るため、国は事例の収集、整理、及び提供を行うこと。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者権利条約における直接または間接的な差別や合理的配慮の定義を踏まえ、障害に基づく差別に係る規定を見直すこと。

○ 国は、障害に基づく差別の実態を明らかにし、その防止に関する普及啓発を図るため、差別事例の収集、整理及び提供を行うものとすること。

5)障害のある女性

(推進会議の認識)

 日本が女性差別撤廃条約を締結して以降、同条約の国内実施においては、障害のある女性についても、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、性の違いに基づくあらゆる差別を受けることなく、すべての人権及び基本的自由を享有することが求められている。
 障害者は、障害のない人と比較し、日常生活又は社会生活上多くの社会的障壁に囲まれ、様々な領域で不利益な状態を強いられている。
 なかでも、障害のある女性は、性の違いに基づく差別と障害に基づく差別という二重の差別等社会的不利益を受ける立場にある。
 例えば、夫等の暴力や住宅事情、経済的理由等の生活上の困難さをかかえる母子が対象になる母子生活支援施設の入所者に占める障害のある母親は16.4%(4,092人の内671人、平成18年)となっている(*)2。これは、総人口に占める全国の障害者の割合(6%前後)と比較した場合、極めて高い数字となっている。
 また、配偶者からの暴力等から被害者を保護するために都道府県に設置されている婦人相談所一時保護所は、バリアフリー整備の取り組みが始まる以前に設置されている建物が多く車いす使用者の利用が困難であること、又は介助者や手話通訳者等も配置されていないため、DV(ドメスティック・バイオレンス)被害を受けた障害のある女性が利用できない、又は利用を最初からあきらめている実態がある。  このような条件整備の不備や障害への配慮がないことによって、障害のある女性は、障害を理由に複合的な差別を受ける状況にもおかれている。  これまでの障害者施策には、障害者の中でもっとも差別や不利益を受けるリスクの高い女性が置かれている差別的実態を問題にする視点が欠落していたと言わざるを得ない。  さらに、かつて国際会議で採択された指針である「第4回世界女性会議行動綱領(1995)」においては障害のある女性に関する行動は実施されず、また「びわこミレニアム・フレームワーク(2003-2012)」及び「びわこプラスファイブ(2007-2012)」でも効果的な施策は行われていないという反省もある。

 以上の事実を深刻に受け止め、基本法には、男女共同参画社会基本法の趣旨も踏まえ、次の観点を盛り込むべきである。

  • 日本が女子差別撤廃条約を締結したことを政策に反映すべく、障害のある女性が、性の違いに基づくあらゆる区別、排除又は制限を受けることなく、すべての人権及び基本的自由を享受する権利を行使できるようあらゆる施策を講ずること。
  • 障害のある女性が、家庭の内外で暴力の犠牲になりやすい存在であること、すべての女性が当然享受できるはずの性と生殖の権利を認められなかった過去の歴史等、不当に取り扱われてきた事実を受け止め、障害のある女性の性と生殖に係る人権が、侵されないよう、最大限の注意をはらわなければならないこと。
  • 障害のある女性が複合的な差別を受けていることを施策上の重要課題に位置付け、障害のある女性の完全な発展、地位の向上、及びエンパワーメントの確保に必要な措置を講ずること。
  • 基本的施策において示される各領域の施策は、障害のある女性の権利を確保することを考え方の基本として踏まえつつ実施されること。

2 男女共同参画会議 監視・影響調査専門調査会資料「新たな経済社会の潮流の中で生活困難を抱える男女について」(平成21年11月26日)図表46。元データ:社会福祉法人全国社会福祉協議会「平成18年度全国母子生活支援施設実態調査」(平成19年3月)

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 複合的な困難を経験している障害のある女性が置かれている状況に十分に配慮しつつ、その権利を擁護するために必要な施策を講ずること。

6)障害のある子ども

(推進会議の認識)

【障害のある子どもと障害のない子どもの平等の確保】

 障害のある子どもに対しては、一般の児童施策において取り組まれるべきであり、障害のない子どもと等しく、すべての権利が保障されるべきである。生命、生存、及び成長の権利が保障されると共に、医療、福祉、教育について、同年齢の子どもと同じ権利が保障されるべきである。子ども期においては、特に、遊びや余暇について、同年齢の子どもと同等に楽しむことができるよう、障害に基づいて不利益な取扱いが生じないようにしなければならない。

【障害のある子どもにとっての最善の利益】

 障害のある子どもにかかわる判断や決定においては、最善の利益が考慮されなければならない。その際に、障害のある子どもの父母、又は親権者が第一次的責任と権限をもち、障害のない子どもと同じように尊厳と成長が保障されるよう、基本的人権が保障されなければならない。

【障害のある子どもの意見表明をする権利】

 障害のある子どもは、障害及び年齢に適した支援を活用しつつ、自己にかかわる事柄について自由に意見を表明する権利をもち、その表明された意見が障害のない子どもの意見と同等に、すべての関係者において、考慮されなければならない。意見表明における意見には、明示された意見のほか、子どもの意思や感情の動きを含めるべきであり、国及び地方公共団体は、意見表明権を保障するため、それらを的確に読み取ることができる体制や環境を整備しなければならい。

【障害のある子ども及び家族への支援】

 乳幼児期の障害のある子どもについては、早期に適切な支援を得られなければ後に障害をもつ可能性が高い子どもを含め、機能障害の存在が確定できない段階から継続的で、「養護している他の者の資力を考慮して可能な限り無償」の支援が子どもとその家族に対して講じられるべきである。
 家族への支援では、障害のある子どもが家族の一員として尊重されるように提供されるべきであるが、家族による養育が困難な場合であっても、親族や家族に代わるような代替的な監護を提供する環境が保障されるべきであり、障害に基づいて家族や地域社会から隔離されないように配慮されなければならない。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害のある子どもは、障害のない子どもと等しく、すべての権利が保障されること。
  • 障害のある子どもに対しては、一般の児童施策において取組まれ、個人に必要な合理的配慮と必要な支援を講ずること。
  • 障害のある子どもは、意見を表明するための支援を受けつつ、自己にかかわる事項について意見を表明する権利があり、表明された意見はすべての関係者によって考慮されること。
  • 障害のある子どもにかかわる判断や決定について、第一次的責任と権限を有する保護者及び親権者は、障害のある子どもが表明した意見を最大限尊重して、その判断をなすべきであること。
  • 障害に基づいて家族や地域社会から隔離されたり、不利益な取り扱いを受けずに、一人の子どもとして尊重されるよう、障害のある子ども及びその家族に対する支援を講ずること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害のある子どもが障害のない子どもと等しく一人の子どもとして尊重され、地域社会において必要な支援が提供されるとともに、その保護者等に対しても必要な支援が提供されるための施策を講ずること。

7)国及び地方公共団体の責務

(推進会議の認識)

【障害者の権利を保障する責務】

 国及び地方公共団体は、あらゆる人権の享有主体であるすべての障害者が地域社会で自立した生活を営むことができるよう、その権利を保障する責務を有すると同時に、身体障害や知的障害が対象となる障害者雇用義務や地方自治体の医療費助成制度などが精神障害には適用されないなど障害の種別・程度により福祉・医療施策に制度的格差がある現状を改める責務を有している。障害者基本法の改正に当たり、この点を明らかにするべきである。

【差別を禁止する措置を取る責務】

 国及び地方公共団体は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するための措置を講ずる責務を有している。また、国及び地方公共団体は障害者への合理的配慮義務を有すると同時に、事業者、企業、学校設置者など合理的配慮を行うべき者に対し、財政的、技術的な支援を行う責務を有している。

【インクルーシブ社会の構築】

 国及び地方公共団体はあらゆる差別や偏見をなくし、障害者の置かれている状況についての国民の理解を広げ、障害者が障害のない人と平等に地域社会で自立した生活を営むことができるインクルーシブな社会を構築する責務を有している。
 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者が地域社会で自立した生活を営む権利を保障し、並びに障害者間の制度的格差をなくすための措置を講ずる責務を有すること。
  • 障害に基づくあらゆる差別を禁止するための措置を講ずる責務を有すること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 国及び地方公共団体は、障害者権利条約における「地域社会で生活する平等の権利」を保障し、地域生活と社会参加に必要な支援を講ずるとともに、容易に合理的配慮を提供できるための支援を含め障害に基づく差別を防止する責務を有すること。

○ 国及び地方公共団体は、障害の種別や程度に基づく不合理な制度的な格差を無くす責務を有すること。

○ 障害者を福祉施策の客体としてのみとらえているという印象を与える表現は用いないこと。

8)国民の理解・責務

(推進会議の認識)

【障害者を含むすべての人の責務】

 「国民は、社会連帯の理念に基づき、障害者の福祉の増進に協力するよう努めなければならない」との現行規定は、国民から障害者を切り分け、障害者を一方的に庇護すべき対象とみなしているとの誤解を与えかねない。そこで、障害者も障害のない人も対等であるという前提のもとに相互に協力するという観点に立って、現行の規定は改められるべきである。

【具体的な意識啓発】

 インクルーシブな社会の構築には、障害者の人権や障害そのものについて、障害者を含むすべての人の理解を得る必要があるが、そのためには、障害及び障害者の理解を促進する一般的規定を設けるだけではなく、社会全体の意識向上に資する具体的な取組を規定するべきである。そのために、例えば、障害者が社会参加することによって、社会的役割を果たしている好事例を収集し、社会へ発信することで障害者の権利促進を図ることも必要である。

【事業者等の責務】

 特に、雇用主である事業者、学校の設置者等が障害者の権利を理解、促進する責務があることを明らかにすることが必要である。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者を含むすべての人が、障害と障害者に関する理解の上で、相互に権利を尊重する責務があることを確認するとともに、障害者は保護されるべき対象であるとの誤解を受けかねない「障害者の福祉の増進に協力するよう」との表現は避けること。
  • 事業者等の責務を明らかにすること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 国及び地方公共団体は、障害のない人と等しく有する障害者の権利に関する国民の理解を深めるために必要な施策を講ずること。

○ 国民は、障害の有無にかかわらず、相互に権利を尊重しなければならないこと。

○ 障害者は庇護される対象であるかのような誤解を招く表現は用いないこと。

9)国際的協調

(推進会議の認識)

 昭和56(1981)年の「国際障害者年」、昭和57(1982)年の「障害者に関する世界行動計画」の実施を求めた「国連障害者の十年」、「第1次・第2次アジア太平洋障害者の十年」といった国際的な流れのもと、「完全参加と平等」「ノーマライゼーション」といった国際的理念を取り入れ、国内普及に向けた取り組みを行ってきた。
 このような経緯を踏まえ、基本法において、今後も、障害者の尊厳の尊重及び権利の確保を目的とする障害者権利条約を生み出した国際的な潮流の中で積極的な役割を果たし、国際的協調の下で国内施策を進めることを確認すべきである。
 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者の尊厳の尊重及び権利の確保に資する観点から国際的協調のもとで障害者施策が進められること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者に関する施策は国際的協調の下に行われなければならないこと。

10)障害者週間

(推進会議の認識)

 障害者週間を設けることには大きな意義があり、今後とも精力的に展開すべきであるが、現状の障害者週間に関しては、以下の点について考慮すべきである。

  • 「障害者の福祉」という現行規定の表現は、障害者の権利条約を踏まえて、再考すべきであり、例えば、「障害者の権利と尊厳の確保及び促進」という言葉に変えるべきである。
  • 「積極的に参加する意欲を高める」という現行規定の表現は、個人の意欲の無さに問題があるかのような書き振りであるので、自由意思であらゆる分野の活動に参加できる環境の促進という観点から表現を見直すべきである。
  • 現行の障害者週間は国民への周知が少ない。効果的に事業を展開して、障害(者)をより多くの国民が理解する機会とすべきである。例えば、障害者の文化あるいはスポーツの分野について、更に力を入れるべきである。
  • 12月3日から9日までが現行の障害者週間であるが、障害者権利条約が国連で採択された12月13日を障害者週間に含めて、同条約についての啓発という視点を取り入れたものにすべきであるとの意見もある。他方、12月3日は国連が定めた国際障害者デーであり、国際協調を強調するのであれば、12月3日を障害者の日として、その日に啓発を集中すべきという意見もある。ただ、障害者の日であった12月9日は、国連で障害者の権利宣言が採択された日でもあり、これらを踏まえ、期日や期間の設定は今後検討すべき課題である。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者週間の目的を表わすにあたって「障害者の福祉」や「積極的に参加する意欲を高める」といった表現をさけ、社会の在り方の問題を踏まえて、より一層の社会参加を図るといったことが理解できるような表現とすること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者の社会参加を促進する観点から障害者週間を位置づけるとともに、障害者は庇護される対象であるかのような誤解を招く表現は用いないこと。

11)施策の基本方針

(推進会議の認識)

 施策の基本方針を考える前提として、「第一次意見」の基本的考え方として示された。
 ①障害者が「権利の主体」としての社会の一員であること
 ②「差別」のない社会づくり
 ③「社会モデル」的観点からの新たな位置付け
 ④「地域生活」を可能とする支援
 ⑤「共生社会」の実現
 を確認する必要があるとともに、改正が予定されている新たな「目的」や「基本的理念」等との整合性を確保することが重要である。とくに「社会モデル」的観点から新たな指針が示されるべきであり、障害のある女性などに対する複合的差別による格差や障害種別による制度的な格差に着目し、障害者の生活実態を踏まえること、さらに「地域生活」を可能とする支援に向けた施策であることが、方針の基本的な要素として組み込まれるべきである。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者に関する施策は、障害者の自立、社会参加を困難にする社会的な要因を除去する観点から、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、関係機関の効果的な連携のもとで、総合的に策定され、実施されること。
  • 障害者に関する施策は、障害の特性や状態に必要な配慮をしながらも障害者の選択した生活形態や環境において必要な支援が受けられるよう「社会モデル」の視点の判断がなされるべきである。
  • したがって、障害の種別・程度の違いにより、支援が受けられないなどの制度的な格差や制度の谷間が生ずることのないよう実施される必要があるとともに、障害者の選択と自己決定(支援された自己決定を含む)が十分に尊重され、障害者が地域において、切れ目のない支援を受けながら自立した地域生活を営む権利が保障されるものでなければならないこと。
  • 障害者に関する施策は、その施策の策定と実施のプロセスに対して、可能な限り障害者その他の関係者が過半数を占める委員会を設置するなど、当該意見が尊重されるようにすること。
  • 障害者に関する施策は、障害者の生活実態に関する調査を一般国民と比較可能な形で行い、これを踏まえて策定され、実施されること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者に関する施策は、障害者の自立及び社会参加を困難にする社会的な要因を除去する観点から、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて実施されなければならないこと。

○ 障害の特性や状態に配慮しつつ、それぞれの障害者の生活の困難さに応じて必要な支援が提供されること。

○ 障害者への必要な支援等、障害者権利条約における「地域社会で生活する平等の権利」を踏まえ必要な施策が講じられなければならないこと。

○ 障害者に関する施策を講ずるに当たっては、障害者その他の関係者の意見を聴き、当該意見が可能な限り尊重されなければならないこと。

○ 障害者を福祉施策の客体としてのみとらえているという印象を与える表現は用いないこと。

12)その他

(推進会議の認識)

【障害者基本計画等】

 国及び地方公共団体は、障害者に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより障害者基本法の目的を達成するため、障害者及び関係者の参画を得て、障害者のための施策に関する基本的な計画を策定するべきである。

【法制上の措置等】

 国は、障害者基本法の目的を達成するために、差別禁止法制を含む必要な法制上、及び財政上の措置を講ずるべきである。

【年次報告】

 政府は、障害者の置かれた状況、及び障害者のために講じた施策の概況に関する報告書を毎年国会に提出するべきである。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 国及び地方公共団体は、障害者及び関係者の参画を得て、障害者のための施策に関する基本的な計画(国にあっては障害者基本計画、地方公共団体にあっては都道府県又は市町村障害者計画)を策定すること。

○ 国は、障害者基本法の目的を達成するために、差別禁止法制を含む必要な法制上及び財政上の措置を講ずること。

○ 国は、障害者の状況及び障害者のために講じた施策等の概況に関する報告書を毎年国会に提出すること。

3 基本的施策関係

1)地域生活

(推進会議の認識)

 基本理念で述べたとおり、基本法において地域社会で生活する権利を確認し、その実現に向けた財政上の措置も含めた施策の具体化のための措置を取るべき旨を規定することが求められるが、権利の実現に向けた地域生活支援について、以下の諸点が基本事項として議論された。

【支援の対象】

 支援を必要とする障害者に制度の谷間を作らないようにすべきである。具体的には、障害者手帳の有無にかかわらず、対象として明確でなかった発達障害、高次脳機能障害、難病やてんかん等により支援の必要な状態にある人、乳幼児の段階でいまだ障害が確定しえないが支援の必要な状態にある子どもなども支援の対象から除外されたり、申請の段階で締め出されたりすることがないようにすべきである。

【家族支援】

 障害者がその生活を施設や病院から地域へ移行しようとしても、地域で生活する上での社会資源が不足していることや精神障害者の保護者制度などの制度の存在によって、家族に依存せざるをえず、その家族の大きな負担が地域移行を困難ならしめている。このような現状を改めるには、家族や家庭に対する支援が必要である。

【支給決定の仕組み】

 必要とする支援の内容と程度の判断は、ADL(日常生活動作)等を中心とした医学モデルに基づく障害程度区分に法定のサービスを連動させるというシステムによって、本来必要な障害の種類や程度に応じた支援が制限又は限定されることなく、障害者の選択した生活形態や環境において「社会モデル」的視点から何が必要な支援であるかの判断がなされるべきであり、本人の意思を前提とした協議と調整のプロセスが用意されるべきである。

【支援の内容とあり方】

 障害者に対する支援は、自立に向けた支援である以上、一般就労、教育及び文化・スポーツ等の場面など、社会一般で通常行われている社会生活全般にわたって支援が提供されるべきであり、サービスメニューもそれに即したものであることが求められるとともに、社会参加や日常生活の場面が切り替わっても切れ目のない形で提供されることが求められる。
 たとえば、入院時においても日常利用している地域生活支援サービスを利用できるようにする必要がある。また、高齢障害者が65歳で自立支援法から介護保険へ移行する際に、従来受けていた支援のレベルの低下を招かないような制度の改善が必要である。他にも就労が困難な障害者に対しては、生産的活動、創作・趣味活動、自立訓練、生産活動、居場所の提供等の場が整備される必要がある。

【地域移行】

 いかなる障害者も通常の生活形態が保障されるべきであり、家庭から分離され、見も知らぬ他人との共同生活を強いられ、地域社会における社会的体験の機会を奪われるいわれはない。障害者に対する支援は、本来、通常の生活形態を前提として組み立てられるべきである。
 しかしながら、地域社会で生活する選択肢が用意されないまま、今も多くの障害者が施設や病院で長年にわたって生活している。
 したがって、施設や病院から地域への移行が進められなければならないが、地域移行に当たっては、介助や見守り、医療サービスなど、施設や病院の中で行われている諸機能を通常の生活形態、若しくは、よりそれに近い少人数のグループホームやケアホームでの生活を前提とした形に過渡的に転換し、滞在型(常時支援型)の24時間介助を含む地域移行のための多様な選択肢を用意しなければならない。
 また、地域移行に当たっては、国は一定の年次目標を掲げて取り組むべきであり、その年次目標の実現のため、受け入れ先となる住居(グループホーム、ケアホーム、公営住宅、民間住宅の借り上げ等)の計画的整備が必要である。

【利用者負担】

 支援を受ける際の費用に関して、応益負担の原則は廃止し、仮に負担が求められる場合であっても、本人の所得を基礎とした応能負担を原則とするべきである。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者の生活を支える支援は、障害者手帳の有無にかかわらず、支援を必要とするあらゆる障害者に提供されること。
  • 支援の支給決定に当たっては、本人の選択しようとする生活に困難をもたらす障壁を除去するために必要な支援を本人との協議調整を経る仕組みとすること。
  • 支援は、就労が困難な者を対象とした生産的活動や創作・趣味活動の場等を含む福祉施策の分野にとどまらず、家庭、学校、職場、その他の社会生活における幅広い分野においても適切な形で、しかも、本人の必要に応じて切れ目なく提供されること。
  • 地域移行に向けて、通常の生活形態である自宅や賃貸住宅等における生活支援や24時間の介助、過渡的にはグループホームやケアホームなどの地域社会における生活を可能とする多様な選択肢が確保されること。
  • 障害者の地域における生活を実現するために家族支援を行うこと。
  • 障害者の地域移行を計画的に進めることとし、そのための住居の整備を計画的に推進すること。
  • 利用者負担に関して、仮に負担が求められる場合でも、本人の所得を基礎とした応能負担を原則とすること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者が地域社会において生活する上で必要とする支援がニーズに応じて障害者に提供されるよう必要な施策を講ずるとともに、障害者の地域移行を計画的に推進すること。

2)労働及び雇用

(推進会議の認識)

【労働施策と福祉施策の一体的展開による労働の権利の保障】

 一般就労において、障害者の就業率や賃金等の労働条件は、障害のない人と比べかなり劣悪である。一方、福祉的就労においては労働の実態があるにもかかわらず、多くの障害者が一般労働法規の対象外とされ、通常の労働条件を確保する展望もない状況に置かれている。
 こうした現状を改善するためには、現在は分立している労働施策と福祉施策を一体的に展開できる仕組みを創設し、必要な支援によって労働能力が十分に発揮され、働くことを希望する障害者が可能な限り働く場から排除されることなく一般労働法規の対象となるようにすべきである。これにより、労働者としての権利が保障され、公正かつ良好な労働条件、安全かつ健康的な作業条件、及び人権侵害を含む苦情に対する救済制度の下で、障害者が安心して働くことができるようにする必要がある。
 併せて、生計を維持するための賃金補填等によって所得が保障されるよう、適切な措置が講じられるべきである。

【合理的配慮等の提供による雇用及び労働の質の向上】

 障害の種別、程度にかかわらず、働くことを希望するすべての障害者が差別されることなく障害のない人と平等に就職、職の維持や昇進、昇給、復職等ができるよう、職場において事業所から適切な合理的配慮が行われる必要がある。
 また、労働能力を向上させるために必要な支援(職業生活を維持、向上するための人的、物的及び経済的支援や生活支援、通勤を含む移動支援、コミュニケーション支援を含む。)が行われることが必要であり、これにより、障害者の雇用及び労働における処遇や技能の向上を図るべきである。

【雇用義務の対象拡大と職業的困難さに基づく障害程度の認定】

 現在は、障害者雇用義務の対象は身体障害者と知的障害者に限定されているが、その対象を、精神障害者を含むあらゆる種別の障害者に拡大するべきである。また、障害者雇用にかかる障害程度の認定は、機能障害ではなく職業的困難さに基づいて行うべきである。

【一般の職業紹介サービス等の利用】

 障害者が障害のない人と平等に労働及び雇用に参加できるよう、個別のニーズに応じた適切な職業紹介サービス等の提供を確保するためには、限られた特定の機関で障害者を対象とした特別な職業紹介サービス等が提供されるだけではなく、一般市民を対象とした身近にある通常の職業紹介サービス等を障害者も等しく利用できるようにしなければならない。また、生涯にわたりキャリア形成の機会が確保されなければならない。

【多様な就業の場の創出及び必要な仕事の確保】

 障害者が自由に選択し、又は納得できる労働に就けるよう、企業や公共機関での雇用に加え、自営・起業、社会的事業所や協同組合での就業、並びに在宅就労等を含む、多様な就業の場が創出されると共に、そこで就業する障害者が生計を立てうる適切な仕事を安定確保するための仕組みが整備されなければならない。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 労働施策と福祉施策を一体的に展開する仕組みを整備することにより、可能なかぎり障害者が障害のない人と平等に一般労働法規の適用が受けられるようにするとともに、生計の維持可能な賃金の確保等のために必要な支援を受けられるようにすること。
  • 働く場での合理的配慮及び必要な支援として、障害に応じた職場環境と労働条件の整備、ジョブコーチや介助者等の人的支援の配置、コミュニケーション支援などの支援を受けられるようにすることにより、障害者が障害のない人と平等に雇用され、働くことができるようにすること。
  • 障害者の求職、昇進及び復職に関し必要な措置を講ずること。
  • 障害者雇用義務の対象を知的障害、身体障害から、他のあらゆる障害に拡大すると共に、職業上の困難さに着目した障害認定を行うために必要な措置を講じること。
  • 障害者が障害のない人と平等に、職業紹介等のサービスを利用できるようにすること。
  • 障害者に対し、障害のない人と平等に多様な就業の場が整備され、また生計を立てうる適切な仕事が安定的に確保される仕組みが整備されること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者が合理的配慮を受けることにより、障害のない者と平等に働く機会が確保されるよう、必要な施策を講ずること。

○ 障害者が多様な就業の場における仕事により、生計を立てる機会が確保されるよう、必要な施策を講ずること。

○ 障害者の雇用に係る施策を講ずるに当たっては、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難であると認められる障害者が、その対象に含まれるようにすること。

3)教育

(推進会議の認識)

 日本における障害者に対する公教育は特別支援教育によって行われており、法制度として就学先決定にあたっては、基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に就学する原則分離別学の仕組みになっている。障害者権利条約は、障害のある子どもとない子どもが共に教育を受けるインクルーシブ教育制度の構築を求めており、こうした観点から、現状を改善するために以下を実施することが必要である。

【インクルーシブな教育制度の構築】

 人間の多様性を尊重しつつ、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害者が差別を受けることなく、障害のない人と共に生活し、共に学ぶ教育(インクルーシブ教育)を実現することは、互いの多様性を認め合い、尊重する土壌を形成し、障害者のみならず、障害のない人にとっても生きる力を育むことにつながる。
 また、義務教育だけでなく、就学前の教育、高校や大学における教育、就労に向けた職業教育や能力開発のための技術教育、生涯教育等についても、教育の機会均等が保障されなければならない。

【地域における就学と合理的配慮の確保】

 障害のある子どもは、障害のない子どもと同様に地域の小・中学校に就学し、かつ通常の学級に在籍することを原則とし、本人・保護者が望む場合に加え、ろう者、難聴者又は盲ろう者にとって最も適切な言語やコミュニケーションの環境を必要とする場合には、特別支援学校に就学し、又は特別支援学級に在籍することができる制度へと改めるべきである。
 したがって、「障害の状態に応じ、十分な教育が受けられるようにする」という現行の規定は、障害の種別と程度によって就学先が決定されることを許容し、インクルーシブな教育制度と矛盾する恐れがあるため改められるべきである。
 障害のある子どもが小・中学校等(とりわけ通常の学級)に就学した場合に、例えば分かりやすい授業や教材、必要なコミュニケーション、学校における移動支援、医療的ケア等、その他各人のニーズに応じた合理的配慮が提供されなければならない。当該学校の設置者は、追加的な教職員配置や施設・設備の整備等の条件整備を行うために計画的に必要な措置を講ずるべきである。

【学校教育における多様なコミュニケーション手段の保障】

 手話・点字・補聴援助・要約筆記等による教育、発達障害、知的障害等の子どもの特性に応じた教育を実現するため、ろう者を含む手話に通じた教員や視覚障害者を含む点字に通じた教員、手話通訳者、要約筆記者等の確保や、教員の専門性向上に必要な措置を講ずるべきである。
 さらに、教育現場において、一人ひとりのニーズに基づき、あらゆる障害の特性に応じたコミュニケーション手段を確保するため、教育方法の工夫・改善等必要な措置を講ずるべきである。

【交流及び共同学習】

 交流及び共同学習には、様々な形態がある。例えば、特別支援学校と小・中学校等の間で行う学校間交流、特別支援学級と通常学級との学校内での交流、居住地の学校で行う居住地校交流、地域の人々との地域交流等があり、それぞれ、直接一緒に活動する直接交流と、手紙やビデオテープの交換等を介して行う間接交流がある。
 しかし、学校間交流は年に数回であることが多く、直接交流が可能となっても移動の際に親が付き添いを求められるなど、多くの課題がある。交流及び共同学習は分けられた教育環境が前提となるため、原則分離の教育のままでは障害者権利条約で規定しているインクルーシブ教育は実現しない。地域社会の一員となる教育の在り方という観点から見直されるべきである。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害のある子どもは、他の子どもと等しく教育を受ける権利を有し、その権利を実現するためにインクルーシブな教育制度を構築すること。
  • 「障害の状態に応じ、十分な教育が受けられるようにする」という現行の規定は、障害の種類と程度によって就学先が決定されることを許容し、インクルーシブな教育制度と矛盾する恐れがあるため表現を改めること。
  • 障害のある子どもとない子どもが、同じ場で共に学ぶことができることを原則とするとともに、本人・保護者が望む場合に加えて、最も適切な言語やコミュニケーションを習得するために特別支援学校・学級を選択できるようにすること。
  • 本人・保護者の意に反して、地域社会での学びの機会を奪われることのないようにすること。
  • 学校設置者は、当該障害者に必要な合理的配慮を提供することはもとより、追加的な教職員の配置や施設・設備の整備等の条件整備を行うために計画的に必要な措置を講ずること。
  • インクルーシブな教育の原則を踏まえ、子ども同士のつながりを障害のない子どもと同程度にするように交流及び共同学習の実施方法を見直すこと。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害のある子どもの教育的ニーズに的確にこたえられる教育を提供する多様で柔軟な仕組みを整備するとともに、そのために必要な合理的配慮や必要な支援が提供されるために必要な施策を講ずること。

○ 障害のある子どもと障害のない子どもの交流及び共同学習について、互いに地域社会を含む社会の一員としての相互理解が深められるよう必要な施策を講ずること。

4)健康、医療

(推進会議の認識)

 障害者権利条約の考え方を踏まえ、すべての障害者が可能な限り最高水準の健康を享受し、その尊厳にふさわしい生活を営むことができるよう、障害に基づく差別なしに必要な医療が自らの選択によって受けられるようにすべきであり、医療提供に当たっては、人権の尊重が徹底されなければならない。
 こうした医療の提供は、地域生活を支援する必要なサービスの提供と相互に連携してなされなければならない。
 同時に、先端医療分野で障害原因の軽減や根本治癒が再生医療として可能となりつつある現状を踏まえ、この分野においても希少疾患として障害者が取り残されることがないように、必要な措置が講じられるべきである。

【地域生活を可能とする医療の提供】

 障害者が安心して地域社会で生活を営むことができるためには、まずは、障害に基づく医療拒否等の差別が禁止されなければならない。
 また、医療及び医療的ケアの必要性が高い重症心身障害者や重度障害者等が地域社会での日常生活を営むためには、医療及び医療的ケア(たん吸引、経管栄養等)が日常生活、社会生活の場において円滑に提供されなければならず、そのための体制確保が必須である。
 さらには、日常生活における医療的ケアが、介助者等にも行えるようにするなど、地域生活のために必要な行為として制度的に保障されるべきである。

【難病、その他希少疾患等に対する適切なサービス提供及び調査研究の推進】

 難病、その他希少疾患等(以下、「難病等」という。)については、本人、家族や周囲の者はもとより、医療関係者においても適切かつ十分な理解がなされておらず、これらの難病等に対して早期になすべき対応に遅れが出たり、適切な医療が提供されなかったり、地域社会で生活するうえで必要となる生活支援のためのサービスがない場合もある。
 そこで、これらの難病等により支援の必要な状態にある人に対して、医療面での対応として、身近なところで専門性のある医療サービスを受けることができる環境整備を進めるとともに、地域社会で生活するうえでの困難に対して、その生活を支援するためのサービスが提供されなければならない。
 さらに、障害の原因となるこれらの難病等の予防や治療に関する調査及び研究を推進することが必要である。

【人権尊重の観点からの精神医療の体制整備】

 精神医療のニーズを十分に精査し、必要最低限かつ適正な数の病床数への削減を行い、急性期・重症患者等への医療の充実を図るとともに、入院を要しない精神障害者への地域での医療提供体制を確保する。その際には、人権への理解を含め高い資質を備えた者による医療サービス提供体制が確保されなければならない。
 入院及び隔離拘束の際の保護者に代わる公的機関(司法の関与を含む。)の責任が明記されなければならない。
 さらに、苦情処理、権利擁護などを行う第三者機関による新たな監視システムが必要である。
 今後、これまでの病院への入院を主体とする施策を転換し、人権擁護に基づいた地域に根差した精神医療体制を構築すべきである。
 また、精神障害者及び家族に対して、病状及び治療方針などの情報が十分に提供されなければならない。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 十分な説明を受けた上で、自由な意思に基づく同意・選択によって障害に基づく差別なしに必要な医療が受けられること。
  • 医療及び医療的ケアの必要性が高い重症心身障害者や重度障害者等が地域社会で自立した生活を営むことができるよう、日常生活、社会生活の場において訪問医療等の必要な医療や生活支援サービスが提供されること。
  • 日常生活における医療的ケアが、介助者等によっても行える体制の整備がなされること。難病その他の疾患等により支援の必要な状態にある人には、身近なところで専門性のある医療が提供されるとともに、地域社会で自立した生活を営むために必要なサービスが提供されること。
  • 障害原因の軽減や根本治癒についての再生医療に関する研究開発の推進が図れるよう必要な措置をとること。
  • 難病等についての調査研究の推進がなされること。
  • 人権尊重の観点を踏まえた適切な精神医療の体制整備が図られること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者の人権を確保しつつ、必要な医療が提供されるために必要な施策を講ずること。

○ 障害者が地域社会で自立した生活を営むことができるよう、日常生活における可能な限り身近なところで必要な医療や支援サービスが提供されるために必要な施策を講ずること。

○ 障害の原因となる難病等の治療や症状の軽減に係る調査及び研究を推進すること。

5)障害原因の予防

(推進会議の認識)

 「障害の予防」という表現には、「障害はあってはならず、治療しなければならないもの」という否定的な障害観が反映されている反面、障害の悪化を防ぐことや、健康維持と適切な保健サービスの提供という観点から、疾病等の早期発見、早期治療を含む予防の必要性を読みとることも可能である。
 このようにこれまでの早期発見、早期治療による「障害の予防」にかかわる施策の背景として、①優生思想に基づく障害を否定する考え方、②健康維持と予防医学の観点から障害の原因となる傷病の発生予防や早期発見及び早期治療を推進する考え方、③障害の原因となる難病等の予防及び治療に関する調査及び研究を推進する考え方があり、「障害の予防」という言葉をめぐって関係者の間で見解の相違が生じていたものと思われる。
 早期発見及び早期治療が優生思想や否定的な障害観に基づいて行われることなく、誰もが適切な保健・医療サービスを安心して受けられるようにしていかなければならない。

【「障害の予防」に対する基本的考え方】

 そこで、障害の原因となる傷病や疾病に対する予防対策は、障害者施策としてではなく、一般公衆衛生施策の中で行われていることから、「障害は不幸である」といった差別や偏見を与えかねない「障害の予防」という表現は避けるべきである。
 必要な情報提供の下で快適な生活を送るための健康の増進に不可欠な条件整備の一環として、疾病等の発生原因解明のための基礎研究、治療法の開発・改善に係る臨床研究に対して積極的な対策を講ずるべきである。

【予防と支援】

 どのような障害があっても地域社会の中で育ち、学び、生活し、働くといった地域生活を実現していくためにも、障害の原因となる疾病等が早期発見されることによって、それ以前の生活が脅かされることなく、他の者と同じ地域社会で生活を送りながら、早期の段階から医療を含めた必要な支援を得ることができる体制づくりが重要である。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 「障害の予防」という表現は使用しないこと。
  • 障害の原因となる疾病に対する予防対策は、一般公衆衛生施策の中で位置付けられて行われること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害に対する否定的な考え方を前提とする表現は用いないこと。

○ 障害の原因の予防のための施策は、公衆衛生又は医療に係る施策の一環として講ずること。

6)精神障害者に係る地域移行の促進と医療における適正手続の確保

(推進会議の認識)

 障害者施策のなかでも、従来の精神障害者施策においては、保護と収容に重きが置かれてきたことを背景として、いわゆる「社会的入院」患者が推定で7万人いると言われる状況が存続している。
 また、精神障害者の非自発的入院に関する現行制度は、措置入院、医療保護入院等の入院形態や「保護者制度」も含め、自由を剥奪することなく本人の自己決定権を尊重すべきであることや家族の負担の軽減等の観点から大きな問題を含んでいる。
 精神障害者施策をめぐるこうした諸課題の解決には、退院促進や地域生活支援のサービスが有機的に連携して提供され、社会的入院を解消して地域社会で生活できるよう現状からの具体的かつ速やかな移行の仕組みが構築されなければならない。
 同時に、自らの選択により医療を受けることが基本であることを再確認するとともに、入院しなくても治療が地域で受けられる体制の整備により、入院を選択せずに治療をうけられるようにするなど自らの意思に基づく入院自体が必要最小限になるよう図り、制度上の問題を多く含んでいる現行の精神保健福祉法及び医療観察法については、その廃止を含め抜本的に見直し、非自発的な医療が提供される場合には適正な手続が確保されるようにする必要がある。

【社会的入院の解消】

 精神障害者が長期間にわたり病院の閉鎖された空間での生活を強いられる制度設計がなされてきたことを踏まえ、国の責務として、精神障害者が地域社会での自立した生活へと移行することを支援し、地域社会へのインクルージョンを実現していくことが喫緊の課題となっていることに鑑み、以下の施策を展開していくことが必要である。

  • 精神障害者及び家族への地域生活支援に関する十分な情報の提供。
  • 精神医療は、地域に根差した医療体制を基本とすること。地域支援を含む不安や困難に対する常時利用可能な相談支援を24時間365日提供可能な体制の整備。

 この仕組みを構築するにあたっては、地域社会で生活を営むことを基本としてサービスが提供されなければならない。

【非自発的医療に係る人権尊重の観点からの適正手続の確保等】

 精神障害者に係る非自発的な入院や医療上の処遇については、人権の尊重を徹底する観点から、適正な手続を確保することが不可欠である。特に、以下の点が重要である。

  • 非自発的な入院、隔離拘束等が行われる場合に、障害者権利条約を踏まえ、人権尊重の観点から、自らの判断と選択による医療の利用が基本であることに鑑み、非自発的な(本人の意に反した又は本人の意思を確認することができない状態における)入院の際の他の者との平等に基づく具体的な適正手続の在り方を明確化するとともに、第三者機関による監視等を含め、現行制度を大幅に見直し新たな仕組みを構築すること。
  • 医療保護入院に係る同意を含む現行の「保護者制度」を抜本的に見直すことが必要である。すなわち、現行の医療保護入院制度を廃止し、公的機関がその役割を適切に果たすよう新たな仕組みを構築すること。
  • 精神疾患を有する者の、急性期・重症患者等入院ニーズを精査した上での必要精神病床数を算出し、それを超えて現存する精神病床については、国の責務で削減を行い、それに代わる地域での医療体制を構築すること。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • すべての精神障害者が強制的な入院を受けることなく、地域社会において必要な支援を受けながら自立した生活を営む権利があること。
  • 自らの判断と選択による精神医療の利用が基本であるとともに、例外的に非自発的な医療が行われる場合には、厳密で適正な手続が確保されること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 精神障害者の地域移行を計画的に推進し、地域社会において必要な支援を受けながら自立した生活を送れるように必要な施策を講ずるとともに、精神医療の提供に当たっては、適正な手続きに従って行われなければならないこと。

7)相談等

(推進会議の認識)

 障害者にとって、乳幼時やその後の人生の節目において、また医療、就労等を含む生活の様々な分野に関し相談できる体制があることが重要である。しかし、どこに、どのような相談機関があるのかを探すことから始めなければならず、ようやく相談が始まっても高圧的な対応をされたり、必要なコミュニケーション支援がないばかりに必要な情報を得られずに放置されてしまう等の経験をもつ障害者は多い。

【身近な地域での相談等】

 そこで、まず、地域の身近な場所で、いつでも対応できる相談の体制づくりが求められる。相談機関相互の連携だけでなく、専門的知見を有する障害者団体による支援、様々な相談を受け止め、相談分野を限定しないいわゆるワン・ストップ・ステーションを含め障害者の権利を擁護し、本人中心の支援を行い、相談内容を解決できる相談体制が必要である。

【相談におけるコミュニケーションの確保】

 相談において、手話、点字、筆談、要約筆記、指点字等の使用をはじめ、知的障害・発達障害においても、一人ひとりの個別のニーズに対応したコミュニケーション手段を活用することができるよう、多様なコミュニケーション手段を求めに応じて確保すべきである。

【障害当事者による相談活動】

 障害当事者が、障害者自身の尊厳を回復し、自己の権利を理解し、自己決定できるよう、障害当事者が相談活動を担ういわゆるピア・カウンセリングや障害者の親同士、兄弟・姉妹同士の相談等を積極的に活用し、促進する必要がある。地域での自立生活体験等の機会を提供し、地域生活のイメージを具体化する等のエンパワーメント支援ができるようにする必要がある。また、専門的知識を有する障害者団体が、広域的な相談支援ができるようにする必要がある。

【相談者の研修】

 相談を効果的に実施するためには、相談業務にかかわる者の資質が大きく問われる。
 そこで、まず、障害を正しく理解でき、適切に相談業務が担えるよう、研修を充実するべきである。
 また、障害者が尊厳を回復し、権利を主張できるよう、相談を担う者の知識や技能を高めることが求められる。
 さらに、障害者に対する差別に関する知識、障害のある女性、子ども、重度障害者が複合的な差別を受ける立場にあることについての理解等、人権について研修が実施されるべきである。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者が利用しやすい身近な場で、いつでも相談を利用できる体制を整備し、相談の場面では、本人中心の支援がされ、障害者の求めに応じ必要なコミュニケーション手段を提供すること。
  • 障害者・家族が相談業務を担う機会を増やすために必要な措置を講じること。
  • 相談業務を担う者に対し、障害についての知識、障害者に対する差別に関する知識、障害のある女性、子ども、重度障害者が複合的な差別を受ける立場にあることについての理解等、人権について研修を行うこと。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者が必要なコミュニケーション手段の提供を受けながら身近な地域で相談することができるための施策を講ずること。

○ 障害者に関する相談が適切に行われるよう、障害者自身による相談対応やそれ以外の者による相談対応など、相談対応を行う者に対する必要な研修等の必要な施策を講ずること。

8)住宅

(推進会議の認識)

 日本ではいまだに多くの障害者が施設や精神科病院での暮らしを余儀なくされている。また地域社会で暮らす障害者にとっても、住居の確保にさまざまな困難を抱えている。
 そこで、国又は地方公共団体は、特定の生活様式を強いられることなく、何処で、誰と住むかについての選択ができる障害者の地域社会で暮らす権利を促進するため、下記の諸点を含む計画的な住宅の確保のための措置を取るべきである。

【公営住宅利用における課題】

 障害者にとって利用しやすい公営住宅の提供は、不十分である上に、障害に配慮したアクセシブルな住宅の提供は、限られている。市街地から離れた場所に建設される公営住宅は、公共交通機関等を利用しにくい場合、社会参加が制限される。公営住宅法施行令には重度障害者の単身入居について一定の条件を付したいわゆる「相対的欠格条項」があり、単身入居が制限されている。
 このような状況を改善するため、以下を実施すべきである。

  • 公営住宅が地域生活を可能にし、地域移行を促進するための基盤の一つとしての役割を果たし得るものであることから、バリアフリーの観点から障害に配慮した公営住宅の数を増やすだけでなく、ユニバーサルデザインの観点から、すべての建物が障害者や高齢者が利用できる公営住宅の整備を計画的に取り組む。特に、障害者の単身者用の公営住宅の整備を促進する。
  • 公営住宅の申し込みに当たり、常時介助が必要な障害者であっても入居資格に条件を付されることなく、単身で入居申込みができる制度にする。

【国土交通省】

【民間賃貸住宅利用における課題】

 障害者が民間賃貸住宅を利用する際に、申込者又は同居予定者が障害者であること、バリア(障壁)を除去するための改造が必要であること、退出時の原状回復が困難であること等を理由に、入居拒否される等のトラブルが生じている。
 このような状況を改善するため、以下を実施すべきである。

  • 障害者の利用しやすい民間住宅の建築を促進するため、バリアフリー化が進んだ良質な住宅建設に対し、補助金や金利優遇措置等を講ずるとともに、小規模賃貸住宅も含めバリアフリー改修工事に係る費用助成等の施策も促進する。
  • 公的な家賃債務保証制度は、基本約定締結の対象戸数に比べ保証引受件数が少ないことから、利用者に対する制度の周知を図るとともに、利用しやすい仕組みづくりの在り方を検討し、より利用しやすい債務保証制度となるように必要な措置を講ずる。
  • 住宅セーフティネット法に基づき居住支援協議会(地方公共団体や関係事業者、居住支援団体等で構成)を組織することができるが、有効に活用されていない実態を踏まえ、必要な支援を講ずる。
  • 民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するとともに、賃貸契約の申込み拒絶等、民間賃貸住宅の利用に当たり生じる問題において、差別問題が発生しないよう当面対応可能な必要な措置を取りつつ、その解決の仕組みの在り方について、差別禁止部会での議論を踏まえ、引き続き推進会議においても検討を進める。

【国土交通省】

【グループホーム、ケアホームに関する課題】

 グループホーム、ケアホームは、施設からの地域移行や保護者に依存した生活から自立するための多様な住まいの一つの形態としての役割を担っている。
 しかしながら、グループホーム等の建設に当たり、周辺住民からの反対がおき、中断されることがある。障害者が入居する時に限って、地方公共団体によっては法律上の根拠がないにもかかわらず事業の実施主体に地域住民から建設の了解を取るように求める場合もあり、これについては障害者に対してだけ特別な条件を課すものではないかとの指摘もある。グループホーム等を建設するに際して、建築基準法や消防法の規制に対応できず、建築を断念せざるを得ない場合もある。
 さらには、利用者に対して、居宅支援サービスの利用ができるようにすべきとの要望がある。
 このような観点から、以下を実施すべきである。

  • 公営住宅をグループホーム等として利用が進むよう必要な措置を講ずる。

【国土交通省】

  • グループホーム等における支援の在り方について、居宅支援サービス等も含め、通常の生活形態により近い形の規模と内容において、居住者のニーズに応じた多様な支援が可能となるよう、引き続き総合福祉部会で検討する。
  • グループホーム等の建設に当たって、建築基準法や消防法の基準を満たす上で必要となる設備等に対する必要な支援を講ずるとともに、既存の集合住宅等を利用した棟を一にしない形のグループホーム等の形態について、総合福祉部会における議論も踏まえつつ必要な措置を講ずる。
  • グループホーム等の建設に際し、地域住民との間に生じたトラブルについては、差別禁止部会における議論も踏まえつつ、紛争を調整する仕組みの構築等必要な措置を講ずる。

【厚生労働省】

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者の地域社会での生活を可能とするため、公営住宅施策においては、障害者の地域移行を促進し、また重度の障害者も含め、障害者の居住に適した住宅の提供という観点から計画的に整備し、民間住宅政策においては、民間賃貸住宅への入居の円滑化を促進するとともに、居住可能な住宅建設や容易に利用するうえで必要となる支援の措置を取るという観点から、総合的な住宅施策をとること。

(政府に求める今後の取組に関する意見)

○ 障害者の個々のニーズに応じた住宅を確保するため、公営住宅を含めた賃貸住宅等が的確に供給されるよう、総合福祉部会における議論との整合性を図りつつ検討し、平成23年内にその結論を得る。

○ 住宅のバリアフリー化を促進するための支援策について検討を行い、平成24年内を目途に結論を得る。

○ 公的な家賃債務保証制度を利用しやすくするための具体的方策や、住宅セーフティーネット法に基づく居住支援協議会が有効に活用されるための具体的方策について検討し、平成24年内を目途に結論を得る。

○ 民間賃貸住宅の利用に当たり生じ得る障害に基づく入居拒否の問題への対処を含め、障害者が円滑に民間賃貸住宅へ入居できるよう、必要な支援について、差別禁止部会での議論を踏まえて検討し、平成24年度内を目途に結論を得る。

○ グループホーム等の建設に際し、地域住民との間において生ずるトラブルへの対応については、差別禁止部会における議論も踏まえつつ検討し、平成24年度内を目途に結論を得る。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者の地域移行を促進し、地域社会における生活を実現するため、様々な障害者自らの必要に応じた住宅を確保するために必要な施策を講ずること。

9)ユニバーサルデザインと技術開発

(推進会議の認識)

 現代社会において、規格化された大量に生産される商品だけでなく、自動化された機器、それらが組み込まれた一連の様々なシステムとそれに基づくサービスなどが利用できなければ、障害の有無にかかわらず、多くの人が日常生活や社会生活を営む上で、多くの困難を経験することになる。
 そこで、調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲ですべての人が使用することのできるというユニバーサルデザインの考え方が、単に製品だけでなく、広く、環境、計画及びサービスの設計等についても、求められることになる。
 しかし、特に障害者の日常生活や社会生活は、利用できない商品やサービスや様々な社会環境に囲まれていると言っても過言ではない。
 例えば、視覚障害のある人にとって、改良が加えられたといっても、中にはいまだに使えない銀行のATMのタッチパネルや駅の券売機も存在する。
 また、従来は車いす専用のトイレとされていたものが、多機能化され一般に開放されることで、だれにとっても使いやすいトイレとしてユニバーサル化された反面、一般のトイレの多くは、ユニバーサル化されないままである。その結果、一般のトイレを使用できない車いす利用者が本当に必要な時に使えないといった問題も発生している。
 さらに、機器単体としてはユニバーサルであっても、システム全体として見ると使えないといったこともある。
 したがって、ユニバーサルデザインの普及は、障害者があらゆる分野において社会から分け隔てられることなく、日常生活や社会生活を営む上で、不可欠である。
 このように、様々な製品、環境、計画及びサービスの設計がユニバーサルデザインに基づいて行われる必要があるが、このためには、研究開発における具体的な指針やガイドラインの策定、財政的支援、計画的普及のための措置を含む体制の整備を図ることが必要であり、ユニバーサルデザインを社会全体で進めていくには障害当事者が規格策定や評価に関与できるような社会的仕組みも必要である。
 また、補装具など、一般の商品などではそもそも対応できない分野も存在するので、ユニバーサルデザインの普及とは別個に障害者のニーズを踏まえた様々な支援機器の改良、技術開発も重要であり、さらに、障害者の日常生活や社会生活にとって障壁となるものを除去するためのバリアフリーのための措置も同時に講じられなければならない。
 このような障害者のニーズに応えるための改良開発やバリアフリー化の措置は、一般商品等のユニバーサル化を促進する側面も有しているという点でも大きな意義を有している。例えば、元来は聴覚障害者の利便のために考えられた携帯電話のバイブレータ機能、電車内で次の停車駅等を知らせる電光表示装置、視覚障害者の利便を考えたシャンプーとリンスの容器を区別する凸のしるし、当初患者用に開発された医療用便座が改良されてウォシュレットとして普及したこと等がこれに当たる。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 製品、環境、計画及びサービスの設計などに当たっては、可能な限りすべての人が利用できるようにするというユニバーサルデザインの理念が、施策に反映されるようにすること。
  • 同時に、特定のニーズに応じ、又は生活上の障壁となるものを除去するため、障害者のニーズを調査研究し、世界の技術開発の成果をも取り入れた障害者の支援機器の普及、技術開発について、必要な措置を講ずること。
  • 障害当事者が規格策定や評価に関与できる社会的仕組みを設け、障害者の意見を踏まえたものとすること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ ユニバーサルデザインの理念があらゆる施策に反映されるようにすること。

○ 障害者が自立した日常生活や社会参加を行うために必要な福祉用具等の研究開発や普及のために必要な施策を講ずること。

10)公共的施設のバリアフリー化と交通・移動の確保

(推進会議の認識)

 障害者が、必要に応じて、公共的施設、交通機関等を円滑に利用できるようにすることは、あらゆる権利行使の前提であり、障害者の日常生活又は社会生活を営む上で欠かすことのできない切実な課題である。

【国及び地方公共団体の責務と地域間格差の解消】

 公共的施設のバリアフリーにおいては、一定の進展はみられるものの、地方においては、バリアフリー新法の対象となる規模以上の建築物や施設等が大都市よりも少ないため、結果として地方における整備が進んでいない現状がある。今後の交通基本法の法案内容を視野に入れながらも、バリアフリー新法には責務の主体として「国」、「地方公共団体」及び「公共的施設を設置する事業者」が明記されていることに留意し、地方における公共施設や交通機関等のバリアフリー整備の遅れを解消することが必要である。そして、地域間格差の解消のため、整備対象施設の更なる範囲の拡大も含めた効果的な方策が実施されなければならない。

【交通計画又は市町村の基本構想策定に必要な視点】

 現在、検討されている交通基本法との関連を踏まえ、国及び地方公共団体による交通計画の策定やバリアフリー新法に基づく市町村の移動等円滑化基本構想の作成・改定にあたっては、利用や移動が困難な障害者の参画を図り、その意見を尊重することが必要である。

【合理的配慮の位置づけ】

 国は、公共的施設、交通機関等のバリアフリー化における最低基準を示して基盤整備を行っているところであるが、その最低基準による基盤整備をしてもなお、障害者の障害特性等によって利用や移動に制約が残る個別的事案が生じた場合には、事業者が合理的配慮の提供を適切に行うことができるよう、国及び地方公共団体は、必要な技術的又は財政的支援を講ずることが必要である。
 また、公共的施設や交通機関等の利用や移動における差別事案の解決の在り方については、差別禁止部会での議論を踏まえ、引き続き推進会議においても検討を進める。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 地域間格差の実情を踏まえ、切れ目のない交通・移動手段を確保するという観点から、地方における公共施設や交通機関等のバリアフリー整備の促進をより一層計画的に推進すること。
  • 国及び地方公共団体における公共的施設、交通機関等の整備に関する計画の策定にあたっては、障害者の参画と意見を尊重し、当事者のニーズを適切に踏まえたものとすること。
  • 合理的配慮を確保するために必要な施策を実施すること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者のニーズを踏まえた形で大都市部のみならず地方部においてもバリアフリー化を計画的に推進すること。

11)情報アクセス・コミュニケーション保障

(推進会議の認識)

 基本理念で述べたように、日常生活及び社会生活において、多くの障害者が必要な言語を使用し、又はコミュニケーション手段を利用することに困難を経験しているが、その問題の深刻さが省みられることは少なかった。それ故に、コミュニケーションに困難を抱える障害者が障害のない人と等しく人権が保障されるために必要な措置が講じられなければならない。

【必要とする言語の使用及び多様なコミュニケーション手段の利用】

 国及び地方公共団体は、すべての障害者に情報へのアクセスとコミュニケーションを権利として保障するため、障害者が必要とする言語の使用及びコミュニケーション手段の利用を可能にする支援の確保やそれにかかわる人材の養成等、必要な措置を講ずるべきである。
 また、国及び地方公共団体は、情報通信技術を含む支援技術において、電気通信及び放送その他の情報の提供に係る役務の提供並びに電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器の製造等を行う事業者が、この製品・サービスを提供するにあたって、障害者に障害のない人と平等に情報へのアクセスとコミュニケーション手段を提供できるよう、必要な措置を講ずるべきである。

【災害時の情報と必要な支援の提供】

 国及び地方公共団体は、自然災害や人為による災害が発生したときには、通常の生活に重大な支障が生じる、又は生命に危険が及ぶあらゆる現象に関する情報と、これらの支障や影響を回避するための情報を障害者に提供しなければならない(発生場所、規模、内容、今後の動向、避難ルート、避難場所、避難先で得られる情報保障の内容(手話通訳者の有無等)、医療や配給等の情報、交通情報など)。
 また、こうした情報を一方的に伝えるだけではなく、災害時に障害者と連絡を取り、必要な支援を把握、提供しなければならない。

【情報提供における障害者の参加】

 電気通信、放送、電子出版及びその他の情報の提供に係る役務の提供並びにコンピューターなどの情報通信機器の製造等を行う事業者は、役務の提供並びに機器の製造等のプロセスにおいて障害者の意見を聴取する機会を設け、もって障害者の利用の便宜を図るべきである。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者は、すべての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするため、必要な情報及びコミュニケーション手段が保障される権利を有する。
  • 障害者が情報にアクセスし、必要とするコミュニケーション手段を使用することができるよう、必要な施策を講ずること。
  • 災害時において、障害の特性に対応した伝達手段による緊急連絡等の必要な支援を障害者に提供及び相互に連絡できるよう必要な施策を講ずること。
  • 事業者が障害者に障害のない人と同等の情報を提供できるよう、必要な施策を講ずること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者が必要とする情報収集手段やコミュニケーション手段を使用することができるよう必要な施策を講ずること。

○ 災害情報の提供に当たっては、障害者の特性に配慮した伝達手段が提供されるよう必要な施策を講ずること。

12)文化・スポーツ

(推進会議の認識)

 自由に文化・スポーツに参加し、これに貢献し、又は楽しむこと、そして、レクリエーション・余暇等を楽しむことは、障害の有無にかかわらず、すべての人の権利である。しかしながら、障害者はその機会へのアクセスを欠き、排除されることもある。また、文化やスポーツは贅沢なものであり、障害者の享受には制限があっても仕方がない、というような社会的通念もあるが、これらは変えていかなければならない。
 現行の基本法には「障害者の文化的意欲を満たし、若しくは障害者に文化的意欲を起こさせ」とあるが、障害者は文化的意欲が乏しいという想定で支援しなければならないとも受け取られかねない表現になっている。むしろ、障害者が文化・スポーツ等に参加、貢献する主体であることを前提とした表現に改めるべきである。

【文化等について】

 障害者が文化、余暇、レクリエーション等を享受しようとする場合に、物理的バリアのため施設やその機会を利用できない、映画の字幕など情報保障の欠如のために文化作品等を鑑賞できない、文化施設等までの交通アクセスが整備されていない等の実態があるため、障害のある人が障害のない人と同等に文化、余暇、レクリエーション等を享受できるようにする必要がある。また、障害者が芸術・文化活動等創造的な分野で活動ができるような支援や環境整備も必要である。
 このような観点から、以下を実施すべきである。

  • 美術館や博物館における字幕や音声解説の普及、鑑賞しやすい展示方法の改善や劇場での補聴援助システム等の整備などとともに、国内の文化的に重要な記念物及び遺跡、歴史的建造物への障害者のアクセスについて、どのような不都合が生じているかについての実態を把握し、可能な限り障害者の利用への配慮をするなど、鑑賞しやすい環境整備が行われるように必要な支援を講ずる

【文部科学省・関係省庁】

  • 第一次意見における情報バリアフリーの一環として、映画、DVDへの字幕付与等について、障害のある人に対する情報保障が行われるように必要な環境整備を図る。

【関係省庁】

【スポーツについて】

 障害者がスポーツを楽しもうとする場合に、物理的バリアのため施設を利用できない、精神障害を理由に施設の利用が拒否される、車いす利用であるために一般の市民マラソン大会への参加を拒否される等の実態がある。
 たとえば、スポーツへの参加資格が問われない場合、又は参加資格が必要ではあるが参加資格を満たす場合において、障害に基づいて参加が拒否されたり、合理的配慮の提供が当該競技の本質を害することがないにもかかわらず提供されないことで、参加ができないなどの差別があってはならない。
 また、国際レベルの大会に出場できるアスリートであっても海外等で長期の遠征に行く際に費用の問題や職場の理解を得られないなどのために、競技を断念せざるを得ないこともある。
 しかしながら、障害の有無に関わらず、スポーツに参加する機会は平等に与えられるべきであり、障害もある人も障害のない人も共にスポーツを観戦したり、参加できるようにしなければならない。
 このような観点から、以下を実施すべきである。

  • 国又は地方公共団体は、障害者が差別なく、スポーツに参加できる機会を有することができるように、官民の施設整備やスポーツ大会等の運営に当たってバリアフリーの整備及び合理的配慮の確保が行われるようにするなど、必要な環境整備を行い、障害者スポーツの振興を図る。
  • 国又は地方公共団体は、特に競技性の高い障害者スポーツについては、競技スポーツとしての一般への周知・理解を広め、これを育成するために財政的支援を含め必要な措置を講ずる。
  • 国又は地方公共団体は、障害者がスポーツに触れる機会を増やし、スポーツを行う障害者の裾野を広げるために、障害者スポーツの指導者の育成等必要な措置を講ずる。

【文部科学省・厚生労働省】

【文化・スポーツ等のいずれにもかかわる点について】

 障害者が障害のない人と同等にスポーツに参加したり、観戦を楽しんだり、又は文化活動に参加したり、文化等を享受するためには、そもそもこれらの機会にアクセスできなければならない。
 このような観点から、以下を実施すべきである。

  • 移動支援、身体介助、コミュニケーション支援などの福祉的支援は障害者が文化・スポーツ等を享受するために不可欠であることから、平成23年末を目途に総合福祉部会において進められている福祉的支援の在り方の検討に当たっては、こうした観点も踏まえた検討を行う。

【厚生労働省】

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者は、文化、スポーツ、レクレーション、余暇に参加し、これに貢献し、これらを楽しむ権利があることを確認すること。
  • 障害者は文化的意欲が乏しいので意欲を喚起させなければならないとの誤解を招きかねない現行の「障害者に文化的意欲を起こさせ」という表現は用いないこととし、障害者が文化を創造し、貢献する主体であることを前提にした表現を用いること。

(政府に求める今後の取組に関する意見)

○ 障害者が芸術・文化活動をする際に必要な配慮や支援等が提供されるための環境整備を図るための具体的方策を検討し、平成23年度内を目途にその結論を得る。

○ 障害者スポーツ振興のために必要な環境整備を図るとともに、障害者スポーツの指導者の育成等の在り方について検討し、平成23年度内を目途にその結論を得る。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者が文化・スポーツ等の分野において自主的に様々な活動をすることができるようにするために必要な施策を講ずること。

○ 文化・スポーツ等の分野において、障害者は庇護の対象であるかのような誤解を招く表現は用いないこと。

13)所得保障

(推進会議の認識)

 人の生活を賄う所得は一般的には就労による所得と年金や手当などに大きく依存している。
 しかし、障害者の場合、就労に関しては、障害者雇用促進法に基づく一般就労における法定雇用率自体が全体として達成されたこともなく、働く希望を有している障害者に法制度自体が応えられていない現状がある。
 また、障害者自立支援法に基づく、就労継続支援B型において得られる工賃も月額平均1万3千円程度である。
 さらに、障害基礎年金は、長年の労働による財産の蓄積が期待できないにもかかわらず、保険方式を原則とする年金制度においては例外的地位なるがゆえに、老齢基礎年金を基本とした給付設計となっており、障害者の生活実態を踏まえた住宅にかかる費用や障害ゆえに追加的に必要な費用を補填できる内容とはなっていない。
 このような社会保障制度の中にあって、障害者の所得水準は総合的に極めて低い状態に置かれている。例えば、20~65歳未満の障害者は、福祉的就労を含む「仕事あり」の比率においてさえ、全就労者が77.1%に対して、障害者は58.5%にとどまっている(*)3。さらに、就労収入を含む総年間収入においても、障害者単身世帯においては、男性が約174万円、女性が92万円と、全就労者の収入と比較して、男性が42.5%、女性が33.9%と、著しく低い水準にとどまっている(*)4
 障害者も含めてすべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するところ、以上の状況からみると障害者が単身で暮らそうとしても、日常生活に必要な所得を就労や年金によることが困難な状況に置かれていることは明白であり、逆に言えば、家族に依存するか、公的扶助に依拠した生活又は施設や病院で暮らさざるを得ない状況にあることがわかる。

【公的年金制度改革における検討】

 第一次意見にあるように、多くの障害者が国民一般の所得水準に達していない現状を踏まえ、障害者が障害のない人と同等に地域社会で自立した生活を営むことができるよう政府において平成25年常会に法案提出を予定している新たな年金制度創設に向けた議論と併せて、障害者が地域社会において自立した生活を営むために必要な所得保障の在り方について、給付水準と負担、並びに稼働所得との調整の在り方を含めて検討を行うべきである。
 基本法においては、地域社会で生活するに足りる所得保障の一環として、稼働所得の不足分を補えるような年金、手当施策が取り組まれるべき旨を反映すべきである。

【無年金障害者の所得保障】

 同じく、第一次意見にあるように、国民年金制度の発展過程において生じた特別な事情等により、障害基礎年金の支給対象から除外されている無年金障害者(20歳以前の初診日認定ができない者、国籍条項撤廃時国籍条項撤廃時(昭和57(1982)年)に20歳以上の在日外国人障害者等)が、現在多数存在している。
 このような現状を受けて、学生無年金障害者等を福祉的措置によって救済するために設けられた「特別障害給付金」の給付対象範囲の拡大を含め、無年金障害者の困窮状態の改善を図る措置を早急に講ずるべきである。
 基本法においては、地域社会で生活するに足りる所得保障の一環として、無年金障害者の救済を含みうる形で、手当などの施策が取り組まれるよう反映されねばならない。

【経済的負担等の軽減】

 住宅にかかる費用や障害ゆえに追加的に必要な費用等に関して、国及び地方公共団体は、障害者の地域社会で生活する権利を促進し、その自立を支援するために、障害者及び障害者を介助する親族等の経済的負担の軽減を図らねばならない。
 その中でも大きな問題として提起された「障害福祉サービス」における利用者負担の問題は、自立支援医療も含めて、応益負担を廃止することを前提に、総合福祉部会の議論を踏まえて、利用にかかる負担の在り方を引き続き検討しなければならない。
 また、現行の経済的負担の軽減を図るための税制上の措置については、その有効性を検討するべきである。
 公共交通機関や公共的施設の利用料等の減免については、距離等の制限を見直して日常生活に有効に機能するよう是正に努める。
 さらに、これらの軽減措置において、障害種別・程度を判断基準とした医学モデルの観点からではなく、生活の実態に基づくニーズを判断基準とする社会モデルの観点から、その必要性が判断されるべきであり、不合理な格差はなくさなければならない。
 したがって、基本法においては、国及び地方公共団体は、障害者の自立支援の観点から、障害の種別・程度にかかわりなく、障害者が置かれたその生活実態に基づいて、障害者及び障害者を介助する親族の経済的負担の軽減を図るため、有効な税制上の措置、日常的に必要な公共交通機関や公共的施設の利用料等の減免だけでなく、日常生活又は社会生活上必要な住宅にかかる費用や障害ゆえに追加的に必要な費用に関しても軽減措置を図るべき旨を反映すべきである。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 地域社会で生活するに足りる所得保障の一環として、稼働所得の不足分を補えるような年金、手当施策が行われること。
  • 地域社会で生活するに足りる所得保障の一環として、無年金障害者の救済を含みうる形で、現行規定の手当などの施策が行われること。
  • 国及び地方公共団体は、障害者の自立支援の観点から、障害の種別・程度にかかわりなく障害者の置かれた生活実態に基づいて、障害者及び障害者を介助する親族の経済的負担の軽減を図るため、有効な税制上の措置、住宅にかかる費用や障害ゆえに追加的に必要な費用等に関して軽減措置を講ずること。

3 遠山真世(2008)「障害者の就労実態:参加と自立を阻む要因」p.37(勝又幸子主任研究者『障害者の所得保障と自立支援施策に関する調査研究』平成19 年度総括研究報告書)

4 土屋葉(2008)『障害者の自立支援に向けた生活実態把握の重要性‐「障害者生活実態調査」の結果から-」』p.200,『季刊社会保障研究』Vol.44 No.2

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害者が地域社会において自立した生活ができるよう、年金、手当等の制度に関し必要な施策を講ずるとともに、税制上の措置、公共的施設の利用料等の減免その他必要な施策を講ずるなど障害者が障害のために追加的に要する経済的負担の軽減を図るために必要な施策を講ずること。

14)政治参加

(推進会議の認識)

 政治参加の問題は、投票行為、障害のある議員の議会活動、障害者の政治活動への参加、議会や政治に関する情報保障、公的活動への参加等、幅広い分野に及び、多くの課題を抱えている。
 たとえば、成年被後見人は、公職選挙法における欠格条項により選挙権・被選挙権を奪われ、国や地方公共団体の関連する審議会や検討会への参画にあたって、障害の特性やニーズによる合理的配慮が行われないことによって、公的活動への参加の機会が奪われるなど、政治参加にかかわる障害に基づく制限や排除、又は欠格条項の問題は、障害に基づく差別の問題として、今後、差別禁止部会での議論を踏まえ、引き続き推進会議において検討を進めることが必要である。
 選挙等に関する情報提供や投票行為にかかる環境整備については、点字及び音声による選挙公報等の発行が十分になされていないことや、政見放送において字幕、手話の付与が十分にはなされていない等、障害者が情報を得ることが困難な状況がある。また、重度の在宅障害者等が対象になる郵便投票が「自筆」を条件としていることや、投票所までの又は投票所内の移動、情報アクセス及びその他必要な配慮の確保などの多くの不備があるなど、公正かつ適切な選挙の実施の観点で大きな問題が指摘されている。

【選挙等に関する情報提供と投票のための必要な体制の整備】

 国及び地方公共団体は、法律の定めるところにより行われる選挙、国民審査又は投票において、障害者が障害者でない者と同等に容易に必要な情報が提供され、投票することができる条件整備が必要である。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害者の選挙権及び被選挙権を障害のない人と平等に保障するために、障害の種別や特性に応じた必要な施策を講ずること。
  • 選挙等に関する情報の提供と投票を容易にする観点から、障害の特性に配慮した必要な体制を整備すること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 選挙等の実施において、選挙等に係る情報の提供や投票等について障害の特性に配慮した施策を講ずること。

15)司法手続

(推進会議の認識)

 刑事訴訟手続きや民事訴訟手続きを始めとする司法手続きにおいては、障害があるために意思表示や理解の面で制約を受けている人に対する配慮が、著しく欠けているとの指摘がある。例えば捜査段階においては、逮捕状の内容や黙秘権などについて取調べ者が一般的な説明しかしないため、障害者は何を言われているのか理解できず、有効・適切に自己防衛することができないことが多い。公訴、公判、刑の執行、拘禁施設全般にわたっても同様で、障害のある被疑者等が意思表示等の面でどのような困難さをもっているかを把握、留意するという過程は全くないという指摘がある。
 民事手続においても、口頭弁論手続のみならず、尋問や証拠調べ手続、さらには、判決等の手続においても、手続き上の配慮があるとは言い難い。
 さらに、民事訴訟手続や刑事訴訟手続等における障害者のコミュニケーションの確保のために必要な人的、物理的支援に係る費用についても、障害のない人の場合と比較して不利益を負う状況にある。
 以上のような状況を踏まえ、障害者への司法手続き上の手続的適正を確保し、もってその権利を保障するための措置を講ずることが必要である。

【司法に係る手続等と必要な配慮】

 国及び地方公共団体は、障害者が被疑者、被告人、受刑者等の直接の当事者の場合において、少年事件の手続き、捜査(取調べ、実況見分、逮捕等)、公判、判決、刑の執行、受刑を含む拘禁手続及び処遇、民事事件における口頭弁論、証拠調べや判決手続き等、手続及び処遇全般にわたって、障害者の特性に応じた手続き上の配慮が必要であり、それらにかかる費用負担を含め、そのために必要な措置を取らなければならない。また障害者が司法関係者、参考人、証人、裁判員、傍聴者など間接的な関わりを持つ場合においても、同様の措置が行われなければならない。

【コミュニケーション手段等の確保措置】

 国及び地方公共団体は、上記手続き及び処遇上の配慮、特に障害者が必要とする適切なコミュニケーション手段等を確保するための措置を講ずると同時に、これらのコミュニケーション手段等についての情報を、障害者に告知するべきである。このコミュニケーション手段等には、手話通訳者、要約筆記者、盲ろう通訳者、知的障害者等への説明者等の立会いによる情報保障を含み、司法機関としてこれらの者への研修を行うべきである。

【司法関係者に対する研修】

 国及び地方公共団体は、司法手続に係る関係職員(警察官及び刑務官等を含む。)に対して、障害の理解と必要とされる手続き及び処遇上の配慮に関して、研修を行うべきである。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 司法手続において、障害者が必要とする手続及び処遇上の配慮、特に適切なコミュニケーション手段等を確保するための措置を講ずること。
  • 司法手続に係る関係職員(警察官及び刑務官等を含む。)に対して、障害の理解と必要とされる手続及び処遇上の配慮に関して研修を行うこと。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 司法手続において、障害の特性に応じたコミュニケーション手段の確保等の必要な配慮がなされるとともに、関係職員に対して障害の理解等に関する研修を行うなどの必要な施策を講ずること。

16)国際協力

(推進会議の認識)

 日本は、第1次及び第2次「アジア太平洋障害者の十年」の提唱国として、NGO等と協力しつつ、アジア太平洋における障害分野の国際協力に積極的に貢献してきており、諸外国からも高い評価を受けている。今後も国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)を中心に、更に積極的な役割を期待されている。さらに、アフリカや中南米での実績もあり、アジア太平洋地域を越えた広範な地域での活動を継続し、推進すべきである。日本は、障害分野での国際協力について、法的には直接的な規定を有していないが、障害者権利条約は国際協力の必要性をうたっており、障害分野における国際協力を促進するためには、基本法に、国際協力に関する取組を行う旨を盛り込む必要があるべきことを明記する必要がある。
 また、国際協力においては、障害に特化した国際協力事業だけでなく、あらゆる国際協力事業について障害者が担い手及び受益者となりうるようアクセシビリティの確保等を重視するべきである。その際、外国政府や国際機関だけでなく、NGO等、特に障害者の組織と共同して取り組むことが重要である。

 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。

  • 障害分野における国際協力に必要な取組を行うこと。
  • 障害分野における国際協力は、外国政府、国際機関又は障害者の組織を含む民間団体との連携により行うこと。
  • 障害分野における国際協力について、その取組の担い手及び受益者として障害者が参加できるように、国際協力事業全般のバリアフリーの促進とともに、合理的配慮の提供を確保すること。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 障害分野における国際協力を推進するため、外国政府、国際機関等との相互の連携や協力を図るために必要な施策を講ずること。

4 推進体制

1)組織

(推進会議の認識)

【組織】

 障害者権利条約では、監視機関(モニタリング機関)について、締約国に対して、自国の法律上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を監視するための枠組みを自国内において維持・強化・設置すること等を要請している。

(国)

 中央障害者施策推進協議会及び推進会議を発展的に改組し、障害当事者、学識経験者等で構成する審議会組織を新たに内閣府に設置すべきである。その際、当事者の意見を反映させる観点から、構成員の過半数を障害当事者とすることが必要である。

(地方)

 各都道府県及び市町村において、実態を踏まえた実効性のある都道府県障害者計画を策定し、地方においても障害者権利条約の理念を実現していくためには、地方における施策の実施状況の監視を、協働による地域づくりといった観点から行う権限を新たに付与するなど、現行の地方障害者施策推進協議会の権限を強化し、当事者の意見を反映させる観点から、その構成員の過半数を障害当事者とすることが必要である。
 また、地方における障害者施策の多くは、市町村により実施されていることから、市町村においても、現行の地方障害者施策推進協議会の権限を強化した新たな組織を必置とすべきである。

2)所掌事務

(推進会議の認識)

【所掌事務】

(国)

 国に置かれる審議会組織は、障害者施策の確実な実施を図るため、以下の事務を担う必要がある。

  • 障害者基本計画策定の際の意見具申を行うこと
  • 障害者に関する基本的な政策に関する調査審議を行うこと
  • 障害者に関する施策の実施状況を監視し、必要に応じて関係各大臣に勧告を行うこと

 また、勧告が行われた場合に、関係大臣は、これに基づき講じた施策について、審議会組織に適切な期間内に報告を行わなければならないこととすべきである。
 改革集中期間内にあっては、これらに加えて、障害者制度の集中的な改革の推進のため、必要な調査審議を行うとともに、関係大臣に意見を述べられるようにするべきである。
 また、調査審議を実効あるものとするため、関係各大臣に資料の提出や説明など必要な協力を求めることや、意見具申を行えるようにすることが必要である。加えて、地方における障害者施策の推進状況を的確に把握するため、地方の監視機関に対して、施策の実施状況の報告を求めることができるようにすべきである。
 上記の任務を十全に果たすため、監視等の審議に当たって、必要な情報保障を含めた委員の適正な待遇の確保や必要な事務局体制の整備をすべきである。

(地方)

 地方に置かれる審議会組織は、地方における障害者施策の実施を図り、障害者権利条約の理念を実現するため、現行の事務に加えて、以下の事務を新たに担う必要がある。

  • 施策の実施状況の監視事務(検証、評価、提言等を含む。)を行うこと

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)

○ 中央障害者施策推進協議会及び障がい者制度改革推進会議を発展的に改組し、障害当事者、学識経験者等で構成する新たな審議会組織を内閣府に置くこと。

○ 新たに国に置かれる審議会組織は、基本法の理念に基づき障害者基本計画及び障害者に関する基本的な政策に関する調査審議を行うとともに、施策の実施状況を監視し、必要に応じて応答義務を伴う勧告を行うことができるようにすること。

○ 国に置かれる審議会組織は、改革の集中期間において、制度改革の推進に関する事項についても調査審議を行うものとすること。

○ 国に置かれる審議会組織が任務を十全に果たせるようにするため、関係行政機関、関係団体等に対し必要な協力を求めることができるようにすること。

○ 地方に置かれる審議会組織は、現行の事務に加えて、新たに施策の実施状況に関する監視に関する事務を行うこと。

Ⅱ 「障害」の表記

(推進会議の認識)

【作業チームの設置】

 推進会議は、「障害」の表記に関する作業チームを設置し、「障害」のほか、「障碍」、「障がい」、「チャレンジド」等の様々な見解があることを踏まえ、それぞれの表記を採用している障害者団体、地方公共団体、企業、マスメディア、学識経験者等10名から、その考え方や運用状況等についてヒアリングを行うとともに、障害団体関係者も含む一般からの意見募集を実施した。同作業チームによる報告を受けた推進会議はその報告に基づき、現時点における考え方の整理と今後の課題について検討を行い、以下のことを確認した。

【表記問題に対する結論】

 「障害」の表記については、様々な主体がそれぞれの考えに基づき、様々な表記を用いており、法令等における「障害」の表記について、見解の一致をみなかった現時点において新たに特定の表記に決定することは困難であると判断せざるを得ない。  他方で、この度の様々な関係者、有識者からのヒアリング等を通じて、これまで明らかになっていなかった検討課題や論点も浮かび上がってきており、今後「障害」の表記に関する議論を進めるに当たっては、以下の観点が必要と考えられる。

  • 「障害(者)」の表記は、障害のある当事者(家族を含む。)のアイデンティティと密接な関係があるので、当事者がどのような呼称や表記を望んでいるかに配慮すること。
  • 「障害」の表記を社会モデルの観点から検討していくに当たっては、障害者権利条約における障害者(persons with disabilities)の考え方、ICF(国際生活機能分類)の障害概念、及び障害学における表記に関する議論等との整合性に配慮すること。

 これらを踏まえ、法令等における「障害」の表記については、当面、現状の「障害」を用いることとし、今後、制度改革の集中期間内を目途に一定の結論を得ることを目指すべきである。

【今後の課題】

 今後の取り組みとして、具体的には、以下の取り組みが重要であるが、その際、障害は様々な社会的障壁との相互作用によって生ずるものであるという障害者権利条約の考え方を念頭に置きつつ、それぞれの表記に関する考え方を国民に広く紹介し、各界各層の議論を喚起するとともに、その動向やそれぞれの表記の普及状況等を注視しながら、今後、更に推進会議においても検討を進め、意見集約を図っていく必要がある。
 なお、表現の多様性を確保する観点から自治体等が「障碍」という表記を使いやすくするべきとの意見もあり、「碍」を常用漢字に追加するよう提言することの適否について、併せて検討すべきである。
 以上を踏まえて、次のことを行うべきである。

  • 各種シンポジウムや障害者週間等の啓発事業を通じて、「障害」のそれぞれの表記に関する議論を紹介するとともに、幅広く様々な主体における議論を喚起していくこと。
  • 「障害」のそれぞれの表記の普及状況について、定期的に調査を行うなど、その把握に努めること。
  • 近年、国会においても「障碍」や「障がい」等の表記を挙げて、「障害」の表記の在り方に関する議論が度々なされており、このような動向も注視しつつ検討を進めること。