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第30 回障がい者制度改革推進会議
(H23.2.14)佐藤久夫委員提出資料

2010年12月 日

障害者制度改革推進会議 総合福祉部会 部会長 佐藤 久夫 殿
特定非営利活動法人全国薬物依存症者家族連合会 理事長 林 隆雄
日本ダルク代表 近藤恒夫

 第45回衆議院選挙で新政権が誕生し、平成21年12月8日に閣議決定され発足した障害者制度改 革推進会議の中で、薬物やアルコールをはじめとする、いわゆる「依存症」について、議論がされるこ とを強く願ってきました。
 なぜならば、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の第五条で、「依存症」が精神障害者で あることは明記されているからです。しかしながら、「当事者」が委員として招致されるどころか、議 論にすら上がっていないのが現状です。
 このことに、私ども特定非営利活動法人全国薬物依存症者家族連合会は、強い危機感を感じておりま す。依存症者の中には、精神保健福祉手帳所持者であり、障害年金を受給し、自立支援医療の対象者と なっている人も、少なくありません。にもかかわらず、現行の自立支援法下で、依存症者が使えるサー ビスが皆無といっても過言ではありません。
 「薬物に依存しない生き方」を学び、実践しなければ、社会の中で生きていくことができません。
そこで、我々は以下の事項について、障害者制度改革推進会議において時宣に即した適切な議論を行 うよう、強く要望します。なお、時間をかけて論議すべき事項については後日要望させていただきます。

1 24時間の共同生活が実施できるような施策の議論
2 全国に存在する民間の依存症者施設の実態調査
3 薬物使用者(薬物未使用歴の長い)がスタッフとして常駐できる施策の議論
4 依存症者に対する偏見や差別を払拭するための啓蒙啓発
5 家族会活動への助成
6 生活保護法との関係に関する議論
7 予防(未成年者・家族)、治療(依存症者・その家族の生活)、社会復帰、各段階のプログラムの議論
8 依存症者及び薬物に起因する犯罪者に対する回復医療を含めた適切な刑法上の処置と、刑罰によらな い人間回復支援の議論
9 医療・司法・地域社会を結ぶ依存症回復施設の議論

問い合わせ先
全国薬物依存症者家族連合会
TEL 0285-30-3313 FAX 0285-30-3314
担当 ; 米澤大
TEL 077-527-9788 FAX077-527-9789
携帯電話 090-3162-6231
E-MAIL d_yonezawa@aja.or.jp


制度改革への意見

2011 年1 月19 日
全国薬物依存症家族連合会
理事長 林 隆雄

私どもの法人では、全国の薬物依存症者のいる家族支援を中心にしていますが、同時に 薬物依存症者社会復帰施設の支援もしています。参考HP(http://www.yakkaren.com/) 薬物依存症者の回復のためには、治療共同体(仲間)が必要であると考えています。その ために、家族とともに家庭で回復していくのではなく、依存症当事者は、これまでとは違 った地域、環境の中で生活し、人間性を回復し、社会生活可能な状態にまで回復していく ことが重要であると考えております。
入寮している者の一部は、遠く離れて生活している家族が金銭的な支援を受け、寝食可 能な状態で回復プログラムに取り組める状態にあります。 しかしながら、多くの入寮者は生活保護受給者であり、かろうじて寝食は可能であって も、満足のいく回復プログラムに参加することができません。そこで、公的な資金を得よ うと考えるのですが、現行の障害者自立支援法の中には、依存症当事者が利用できる制度 すらないのが現状です。 ① 依存症の特徴から、24時間の見守りが必要であることがあげられます。つぎはぎで制 度を利用し、グループホームと日中活動の場を利用している施設もありますが、かなり 現状とかけ離れているのが実態です。 ② 施設長やスタッフも含めて当事者であることがあります。サービス管理責任者の要件を 満たすことはもちろん、複雑な福祉制度についても理解できない部分が多いのです。 ③ 前述のように「これまでとは違った地域での回復」をしていくために、新たに住民票 を 持つことになります。そこで、生活保護の申請や自立支援給付を申請することで、施設 のある自治体の負担となっています。滋賀県では「滋賀型地域活動支援センター」、鳥 取県では「薬物依存症リハビリ施設助成モデル事業」など、単独予算で支援してくれて いる自治体もあります。しかしながら、残念なことにすべての自治体で実施されている わけではありません。また、地域間での格差が大きく生じているということも実情です。

 このような中で、現在皆様が中心となって進めていただいている推進会議並びに総合福 祉部会の中で、全国の依存症者の社会復帰に向けた取り組みを、もう一度見直し、なんら かの手立てをしていただけることを、切に願っております。

◆依存症とは?
 飲みすぎ、食べ過ぎ、買い物しすぎ、働きすぎなど、個人の心身の健康・生活を脅かす ような、自己破壊的な習慣にふけることをアディクション(嗜癖)と言います。
 アルコール・薬物依存・ギャンブル癖、摂食障害、盗癖、買い物中毒、ワーカーホリッ ク、女性や子供等の弱者への暴力などは、すべてアディクションの病、依存症です

◆薬物依存とは?
 身体依存と精神依存がある。身体依存とは、薬物摂取の繰り返しの結果、切れると離脱 症状(禁断症状)が出てくる状態。精神依存とは、「欲しい」という渇望に抗しきれずに、 使用に対する自己コントロールを失った状態。身体依存が薬物依存の本体と思われがちで すが、薬物の中には身体依存を引き起こさないものがあり、その典型が覚醒剤です。従っ て、薬物依存とは本質的に精神依存をさす。
 薬物によって興奮作用、抑制作用、幻覚作用等与える作用は異なるが、共通して中脳に あるA10神経系の異常を引き起こす。A10神経は、努力して目的が達成されると「至上 の喜び」を体験させてくれる重要な神経系で、薬物を体に入れると、努力なしに、いきな り、「至上の喜び」を体験させてくれるため、渇望から逃れられなくなり精神依存状態をつ くる。この神経系異常は、半永久的に持続する可能性があるとさえ言われている。
 これらの依存症は慢性の病気であり、完全に治癒する事はありませんが、回復し健全な 生活を取り戻すことはできます。依存症から回復しつつある人たちが、まだ苦しんでいる 依存症者たちの回復を援助し、社会復帰を手助けする民間のリハビリテーション施設が各 地に出来ています。

◆マック・ダルクとは?
 私たちが暮らす現代社会はアルコールやその他の薬物が急速に広がっています。
特に若い人たちはこれらのアルコール、薬物に接する機会が多いため、依存症に陥るケー スも増え、家庭や、学校、地域社会で大きな問題となっています。しかしこのように増え つつあるアルコール・薬物依存の対策となるときわめて乏しいのが現状です。
 アルコール、薬物依存症者とその家族にとって、今切実に求められているのは、この病 気からの回復者、と専門家、市民が協力し合って設立された治療・リハビリテーション施 設であるマック・ダルクです。
 マック・ダルクでは、アルコール・薬物依存者が依存性の薬物から心身共に解放される ことを、一人の人間として成長することを目指しています。

◆ダルクとは?
日本の薬物依存症者の回復を支援する
DARC(DrugAddiction Rehabilitation Center)=通称ダルクは、1985 年近藤恒夫らによ って東京都荒川区日暮里の古い一軒家を借りて始められた。薬物依存からの回復を願う者 たちの共同生活が原点である。
「薬物依存症は病気なのである」病気である以上、一度薬物依存症になった人間がそこか ら立ち直ることは決して不可能ではない。
「ダルクとは毎日グループセラピーを行っている薬物依存から回復したいという仲間の集 まる場である。ダルクの目的は薬物を止めたい仲間の手助けをすることだけである。どん な薬物依存者でもプログラムに従って徹底的にやれば必ず回復するという希望のメッセー ジである。ダルクで回復している仲間が証明している。このプログラムは薬物依存者が社 会の有用な一員として歩む時出会うであろう、さまざまな困難を乗り越えるための道案内 である」。なお、ミーティングで仲間からの話は外部に対して秘密とする」と記されており、 当事者としての」経験を分かち合う自助グループスタイルを用いた活動で、活動開始当初 から当事者どうし支援のみがダルクの目的である。
当事者による相互援助的関係の運動体である。ともに薬物依存経験者であるという当事者 である。いま現に薬物から回復しようとする人と、すでに回復経験のある人がそれを手助 けしようとする人であるということ。
「スタッフは当事者であるから共感できる」「次の人たちの役に立てるようになるとその人 はもう再発しない。何故なら役に立つということで自己評価が上がるから」経験を生かし て次の人を支援する事が援助者である当事者の回復を強める。

このように始められた薬物依存症の当事者自身による支援活動である「ダルク」であるが 開始から25 年を経て現在42 団体68 施設まで増え全国展開されている。伸びた背景として (ア)従来の薬物政策に縛られなかった。
(イ)当事者活動であることを前面に打ち出したこと。
(ウ)公的助成を受けられない半面医療や司法の補完的役割をとらずにすんだ。
(エ)あいまいな組織ゆえに位置づけされにくく、活動の制約がすくなかった。

◆精神保健福祉法
精神保健福祉法の第五条に「精神障害者」の定義として「・・・・精神作用物質による急 性中毒、またはその依存症・・・を有するもの」と謳われているとおり、薬物依存症者を 「精神障害者」と定めています。それまで精神医療・福祉行政の中であいまいであった依 存症を医療を必要とする「傷病者」であると同時に、福祉を必要とする「障害者」として医 療・福祉の援助対象として明確に位置付けた。しかし薬物依存症を「病気」と認め障害者 として対応する取り組みは、司法、・医療・福祉いずれの場でも不十分です。
薬物依存はWHO(世界保健機関)により世界共通概念として定義づけられている。
薬物の 乱用繰り返しの結果として生じた脳の慢性的異常状態で、使用を止めようと思っても、渇 望を自己コントロールできず薬物を乱用してしまう状態。

◆障害者自立支援法では新たな困難が
いくつかのダルクがNPO 資格をとり障害者自立支援法のグループホーム等の対象施設に なっていますが、日割り計算による給付費の支給が施設運営を困難にし、障害者認定から 排除される薬物依存症者も多数存在します。また、障害者自立支援法や医療法に持ちづく 医療計画の中で、精神病院の病床削減が進められ、ますます薬物依存症者の受け入れ態勢 は狭まってきています。一方、うつ病や薬物後遺症等の治療に対しても過大な処方箋投与 が行われ、刑務所内での多大な処方薬投与がなされ、処方薬依存が増大しています。病院 から追い出されていき場を失い、入所者の40%が処方薬依存という事態が各地のダルク で起こっています。障害者自立支援法を廃止し、それに代わる新法制定の運動が高まって います。その際、薬物依存症の特性とその家族の実態を踏まえた制度をつくっていくこと が必要です。

◆ダルクの意義
[社会的意義]
ダルクは当事者によって運営されるNGO(非政府組織)であり日本に於いて薬 物依存を専門とした回復施設としてパイオニア的役割を担っていること、従来一般市民に はなじみの薄かった薬物という問題を出版物、フォーラム、マスメディアなどを通して身 近な問題として啓発を行っていること、依存症者がその依存症者によって引き起こされる であろう社会的損失(医療費、裁判費用、受刑コスト、労働力の損失)を軽減していることな どがあげられる。特に注目すべきことは、ダルクのプログラムが単に薬物の使用を止める ことを目標としておらず、人間性の回復を目指している点である。それによってアディク ション(依存)の世代間連鎖を防ぐことによる社会的損失の防止として長期的にその効果が 期待できるのである。この点に於いて、従来の管理型の強制弾薬を主とした医療や、懲罰 による抑制効果の短期的効果とは大きく視点が異なっているといえる。

[医学的意義]としては、薬物依存の治療的共同体としての実験的試みとして、極めて古典的 であったそれまでの薬物依存の治療概念を近代化させたこと、とくに薬物リハビリテーシ ョン概念への注目を高め薬物依存に対する精神医療の治療限界を提示すると同時に、回復 支援という医療サポートのあり方を提示してきたこと、フォーラムなどの活動を通して薬 物依存のみならずアディクション問題の情報拠点としての役割を担い、その活動を契機に 地方にさまざまなアディクションからの回復を目指すセルフ・グループが誕生する原動力 になってきたこと、相談窓口が開かれたことによって初期段階での医療が可能になったこ と、日本ではほとんど注目されなかった回復者カウンセラーの社会資源としての価値を認 知させてきたことなどがあげられる。

[司法的意義]としては2006 年監獄法が改正され、刑務所内での薬物依存離脱指導に於いて 当事者が果たす役割に高い評価を与えている。薬物事犯の弁護士支援として裁判での情状 証人として意見を述べたり、出所後にダルクが受け皿となることで再犯の防止を支援する ケアプログラムとして機能している。また薬物依存症者が回復する事によって薬物の需要 (売人)と供給(薬物使用)は減少するため、薬物問題の抑制とという役割を果たしている。

[福祉的意義]としては従来ほとんど未整備であった薬物依存者の社会復帰に寄与している こと、行政機関の精神保健相談に於いて敬遠されてきた薬物問題について直接的な支援を 行い相談機能を向上させてきたことなどがあげられる。また薬物問題の社会資源ネットワ ークが整備されていない現状に於いてダルクの持つ人脈と経験の蓄積へのニーズが高まっ ている。

[教育的意義]としては先述した学校における予防教育への寄与と、教員への講演活動を通し た啓発があげられる。本来、予防機関ではないダルクに講演依頼が殺到すること自体がこ れらの問題についての社会資源の貧困を象徴しているわけであるが、教育現場に薬物問題 の新しい視点を持ち込んだことは、長期的視点から考えると教育会とダルクの双方にとっ て有益な事であると思われる。

◆ダルクの今後の課題
①各施設の財政は多くの苦難を抱えていること。
②入寮費の家族負担が大きいこと。
③生活保護の需給者が65.2%がと高く、生活保護支給額も低レベルに抑えられており、ダ ルク・NA(自助グループ)の活動が公的に評価されていないこと。
④スタッフの養成は重要課題で、研修プログラムや体制・財政を含めて確立すべきである 事。
⑤ダルクのもつネットワークは偏りが大きく、回復施設としての認知を関係機関に衆知し 有効な連携を図ること。
これらの問題以外にも、薬物依存の問題を持つ者に厳しい社会の「偏見」の払拭と、薬物 依存にほかの精神障害を合併した重複障害ケースの対応、未成年者特に義務教育中の薬物 依存症者への対応、薬物依存を抱える家族の回復支援体制の確立など様々な問題が累積さ れているのが現状である。
これらに問題の中にはダルク自身の問題だけでは解決できないものも多く、さらに広い 領域からの支援と知恵が必要であろう。依存症が精神保健福祉の対象になっているにもか かわらず薬物依存症を「病気」と認め障害者として対応する取り組みは、司法・医療・福 祉いずれの場でも不十分です。アディクションの回復支援に携わる現場から見れば、さら に推し進めて従来の精神保健福祉の考えにとらわれることなく、回復モデルを主軸とした アディクション(病的依存)という枠から独立したものとしていく必要性を感じている。回復 支援の最前線の現場に身を置くものと施政者の温度差は小さくないし、その差を埋めてい くことは容易ではないだろう。それであっても毎日どこかのダルクにたどり着いてくる新 しい仲間のために、回復の道を広げていく努力を少しずつ積み重ねていくしかないのであ る。その積み重ねによってさらに時代のニーズに近い医療・福祉が実現していくことを期 待している。

新聞記事より
 薬物依存 矯正施設より長期の治療を

 朝日新聞(2009 年10 月22 日) 松元俊彦 国立精神神経センター精神保健研究室長 国内の支援状況をみると民間の薬物依存症回復施設「ダルク」等が活動する一方、医療は 遅れている。専門病院は10 に満たない。薬物依存は犯罪だという医師側の偏見もいまだに 根強い。薬物依存の再犯率が高いのは治療サービスを十分に提供できていない、国側の責 任にもある。依存症治療は「貯金のできない治療」とも呼ばれ、継続的な治療が必要だ。数 少ない専門病院に入院しても自宅から遠ければ、退院後の通院も難しい。だからこそ、治 療を行う医療機関や専門家はもっと地域で身近な存在とならなければならない。

薬物使用 刑事的悪か公衆衛生的悪か
 朝日新聞(2009 年11 月5 日) 佐藤哲彦 熊本大教授(社会学)
 9月下旬、ベルギーで開かれた欧州連合(EU)の委員会主催の薬物政策に関する研究学 会に参加した。薬物政策という言葉は日本ではなじみがないが、薬物や薬物使用者の処遇 に関する政策を意味し、国際的には刑事政策や保健医療政策にかかわる社会政策の一つで ある。欧州ではヨーロピアン・アプローチと呼ばれる独特の方法で薬物使用者を処遇して いる。その特徴の一つは、薬物使用は公衆衛生上の問題という認識である。米国や日本の 薬物使用者に刑罰を加えるアプローチと異なり「薬物依存は病気である」という認識が政 策の基礎にある。・・・薬物が悪いものであり、その使用が問題だということは論を待たな い。しかし、それが刑事的悪なのか公衆衛生上の悪なのかといったことを私たちはもう少 し真剣に考え議論してもいいかもしれない。薬物をやめられないことが問題なら必要なの は刑事処分ではなく、医療的処置であるとも考えられるからである。


平成23 年1 月26 日

障がい者制度改革推進会議本部
本部長 菅 直人 様
推進会議担当室長 東 俊裕 様

「障害者基本法」の抜本改正と推進会議「第二次意見」

― 障害者権利条約批准への第一歩として ―

意 見 表 明

財団法人日本ダウン症協会
東京都新宿区西早稲田2-2-8
理事長 玉井邦夫

 「障害者基本法」抜本改正の第二次意見として財団法人日本ダウン症協会 を代表し、現在までの推進会議の論議動向を踏まえて、以下のように意見を 述べさせていただきます。

【基本理念について】
・ 保護の対象から権利の主体へという基本的な改革の理念は、障害の種別を問 わず堅持されなければならない。
・ そのための中心概念のひとつとなっている自己決定については、すでに第二 次案においても「単に本人が決めたから良い、という単純な課題ではない」 という認識が示されている。この点は知的障害を含む発達障害当事者にとっ て決定的とも言える意義を持っている。同時に、この点は技術的・制度的に も多くの課題を有するものであり、差別禁止規定や属性への配慮と併せて、 恒常的に検証と見直しが保証されていく制度設計でなければならない。
・ 「障害の社会モデル」「自立」という鍵概念についても、上記の指摘と密接 に関連する。そもそも、旧来の障害者施策の根底にあったのは、一度障害者 (児)と認定された人は生涯にわたって障害者であるというモデルであり、 このモデルへの抜本的な改革であることを認識すれば、改革推進会議の理念 を制度として定着させるためにはあらゆる領域のヒューマンサービスの形態 や必要性判定の基準を根本的に改正することが必要とされると考えなければ ならない。ダウン症には、知的、精神、身体の各障害を含む場合が多く、各 障害に共通する政策が必要であり、一つの障害が解消すればその後の支援の 必要性がなくなるというような短絡的な制度であってはならない。

【教育制度について】
・ 現状では、ダウン症のある子どもを通常の学級で受け入れる地域は限られて おり、多くの地域においては、地域の学校の通常の学級への就学を希望した 場合、親の付き添いを強要されたり、特別支援学級や特別支援学校への転学 を勧められている。
就学先の決定は本人・保護者の意思に反しないことを原則とし、通常の学級 に就学した場合には合理的配慮や必要な支援が提供されるべきであるとする 障がい者制度改革推進会議の意見に強く賛同する。
・ インクルーシブな教育制度の提言については、基本的人権としての主張と、 教育権・学習権の確保という主張とがともすれば衝突するかのような論議が なされてきた。インクルーシブという考え方が「障害をもつ子どもの教育の 改革」という視点に留まる限り、この対立は充分な解決を見ることはないと 考える。インクルーシブ教育を真に実現するために、教育制度については、 基本的人権の観点からの大原則を定めた上で、別の部会において継続的な検 討を必要としていると考える。

【地域生活について】
・医療、保健、福祉の領域においては、発達障害・知的障害という認定を受け た人が、必ずしもその障害領域でのみニーズを抱える人生に留まるとは限ら ないという認識を明確にすべきである。この点は総合福祉法の検討において 具体化されていくことを望む。
・生活基盤に係る領域に関しては、平等の権利を守るために、ダウン症におい ても、特性と個人差を踏まえた理解に基づき、可能な限り自己決定の権利を 満足できる支援サービス、具体的には医療・教育・福祉等のサービスへの橋 渡しを担うパーソナル・アシスタント等の制度を創設することや、そのため の人材育成を含めた対策が講じられなくてはならない。

以上


知的障害者等の意思決定支援制度化への提言

平成23年2月4日
NPO 法人 東京都発達障害支援協会
理事長 柴田洋弥

 私たちは、東京都内において知的障害児者への支援を行う施設・事業所の団体です。
現在、障がい者制度改革推進会議および同総合福祉部会で、障害者制度改革について審 議されています。国連障害者権利条約に基づき、障害者を保護の対象から権利の主体へと 変革するという基本的な方向性については、それを支持し、改革に期待します。
 しかし知的障害者等の意思決定支援については、現在示されている改革案においてきわ めて不十分であると言わざるを得ません。
 ここに私たちの考え方を提言し、改革の中に位置づけられるよう要望します。

●知的障害者等と意思決定支援
○わが国の法律に「知的障害」についての定義はありませんが、一般に「知能指数が概ね 70 以下で、18 歳以前に発症し、生活適応困難を伴う状態」とされています(アメリカにお ける「精神遅滞」の定義に拠る)。「知的障害者」には、身体障害や自閉症等と知的障害を 合併している人も含めます。19 歳以後に発症する場合は「高次脳機能障害」と呼ばれます が、支援の必要性についてはほぼ同じなので、それを含めて「知的障害者等」と言うこと にします。
○どんなに最重度といわれる知的障害者等でも、その人なりの意思があります。また、わ ずかに表現された意思を尊重して支援することによって、その人はますます自信をもって、 はっきりと表現するようになります。
○知的障害者等の当面の意思や行動がその人自身や周囲の人を傷つけてしまうような場合 でも、支援者がその人と根気強く安心感に基づく信頼関係を築くことによって、その人も 満足でき、周囲にも受け入れられるような新たな意思決定に至ります。
○このように、知的障害等の特徴は、社会生活に当たって「意思決定への支援」を必要と することにあります。

●障害者権利条約における意思決定支援
○障害者権利条約第12 条は、次のように定めています(外務省仮訳)。
 (1) 締約国は、障害者がすべての場所において法律の前に人として認められる権利を有 することを再確認する。
 (2) 締約国は、障害者が生活のあらゆる側面において他の者と平等に法的能力を享有す ることを認める。
 (3) 締約国は、障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用すること ができるようにするための適当な措置をとる。
○「法的能力」の行使には「意思決定支援」の必要な場合があります。第1項は知的障害 者等も意思決定の権利主体であること、第2項は生活のあらゆる側面においてその意思決 定が尊重されるべきこと、第3項はその意思決定に当たって必要な支援が受けられるよう に支援の制度を構築することが国の責務であることを示しています。
○「生活のあらゆる側面」における意思決定には、「日常生活」における意思決定と、サー ビス利用や財産などの「非日常的な契約時」における意思決定を含んでいます。

●非日常的な契約時における意思決定支援
○個人の意思決定は、その時々の環境や人間関係との相互作用によって決まってくるので あり、その人に固定された「意思決定能力」というものはありません。成年後見制度は、 本人の行為を一律に制限する制度であるため、行為の制限については最小限に限るべきで あり、現在の制度は抜本的な見直しが必要です。ましてや、被後見人の公職選挙権を剥奪 している現状は基本的人権の侵害であり、早期の改革を求めます。
○次に、支給決定やサービス利用計画作成・契約に当たって、本人と相談支援の専門員の みで構成される相談支援の仕組みでは、本人の意思決定支援が困難です。本人が信頼し本 人のことを日常的によく理解している支援者(グループホーム・日中活動・訪問系事業・ 入所施設等の支援職員や家族)が、本人とともに参加して一緒に話し合う仕組みが必要で す。第11 回総合福祉部会における「相談支援・支給決定作業チーム」報告はこの点を欠落 していますので、再検討を求めます。

●日常生活における意思決定支援
○重要なのは、「何を食べ、何を着るか」というような身辺に関することから社会参加まで、 日常生活において行う意思決定です。
○日常生活における意思決定支援を担っているのは、グループホーム・日中活動・訪問系 事業・入所施設等の支援職員やともに暮らす家族です。自立生活を支援するための個別的 な日常生活支援職員(パーソナルアシスタント)が制度化されれば特に大きな役割を担う こととなるでしょうが、それのみがこの支援を担うわけではありません。
○知的障害者等にとっては、この日常生活における意思決定支援こそが最も重要です。私 たちはそれを「本人中心の支援」として究明してきました。特に、本人の意思と支援者の 意思がお互いに影響を与えあうこと、安心と信頼に基づく相互関係の中から本人の新しい 意思が生まれることを明らかにしてきました。
○措置制度の時代の知的障害者福祉法では、「指導・訓練」することが支援職員の役割とさ れてきました。障害者自立支援法では「入浴・排せつ・食事の介護」をすることが支援職 員の役割とされています。しかし、今構築されようとしている新たな法制度において、知 的障害者等に関しては「指導」でも「介護」でもなく、「意思決定支援」が支援職員の果た す役割として明確に位置づけられるべきです。
○しかし、障がい者制度改革推進会議第二次意見書においても、また第11 回総合福祉部会 相談支援・支給決定作業チームの報告書においても、知的障害者等へのこの「日常生活に おける意思決定支援」については、全く考慮されていません。私たちは、このことについ て再検討を行うよう、強く求めます。

●知的障害者等の人的支援の重要性
○知的障害者等への意思決定支援は、金銭や補助具で代用することはできません(補助具 については活用することはありますが、人的支援が前提です)。ここに、知的障害者等の支 援サービス必要度の高い理由があります。障害者自立支援法により三障害の支援制度が統 合されるとサービス利用者の約6割を知的障害者が占めている結果となった理由もここに ありますし、今まで入所施設の利用率が高かった理由も、またグループホームというよう な特殊な制度を必要とする理由も、ここにあります。
○今後は、個別的な日常生活支援職員の制度化や、多くの支援を必要とする知的障害者等 の生活可能なケアホームの制度化が必要です。またわが国の現状では、機能を明確化しつ つ入所施設を今後も活用しなければならず、手薄な入所施設の支援職員配置を改革して利 用者が地域の日中活動に参加できる体制を整えるとともに、地域生活の基盤を早急に整備 して地域移行を推進すべきです。

以上、ここに提言します。

(東京都発達障害支援協会事務局)
〒185-0021 東京都国分寺市南町2-11-14-3F
電話 042-300-1366
E メール t-gojyo@eos.ocn.ne.jp
ホームページhttp://www.t-shien.jp/index.html