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障がい者制度改革推進会議 第33回(H23.6.27) 資料2-1

部会作業チーム報告(1)

1.法の理念・目的

概要版

2.障害の範囲と選択と決定


総合福祉部会 第12回(H23.2.15) 資料1

「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」(案)
法の理念、目的、総則部分

総合福祉部会「法の理念・目的チーム」
2010年12月8日

【前文】

「わが国及び世界の障害者福祉施策は「完全参加と平等」を目的とした1981年の国際障害者年とその後の国連障害者の10年により一定の進展を遂げたが、依然として多くの障害者は他の者と平等な立場にあるとは言いがたい。

そのため、2006年12月国連総会にて「障害のある人の権利に関する条約」(以下「権利条約」)が採択され、2007年9月に日本政府も署名し、2008年5月には国際的に発効し、わが国も批准に向けた準備をすすめてきた。

この法律の制定はわが国の障害者の権利保障を法的に根拠付け、障害者支援に関する国内法を権利条約の水準に引き上げる障害者制度の改革を目的とする。

憲法第13条、14条、25条等の諸規定に基づき、障害者は人間としての固有の尊厳及び自由並びに生存が平等に保障される基本的人権を有しており、従来この国で保護の対象とされてきた障害者が人権行使の主人公であるという改革の理念を確認し、障害福祉施策は憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援することをこの法律の基本とする。

さらにこの法律は、権利条約の掲げるインクルージョン、すなわち障害者が社会の中で当然に存在し、障害の有無にかかわらず誰もが排除されず、分離・隔離されずに共に生きていく社会こそが自然な姿であり、誰にとっても生きやすい社会であるとの考え方を基本としている。それは、障害は個人に責任がなく、参加を拒んでいる社会の側に責任があるとする考え方を基礎としており、わが国で根強い障害の個人責任、家族責任を否定し、障害に基づく様々な不利益が一部の人に偏在している不平等を解消し、平等な社会を実現するために社会が支えることをこの法律は目的とする。

とりわけ人生の長期にわたって施設、精神科病院等に入所、入院している障害者が多数存在している現状を直視し、地域で自己決定の尊重された普通の暮らしが営めるよう支援し、地域生活への移行を推進するための総合的な取り組みを推進することがこの法の使命である。

そして障害者の自立とは、経済的な面に限らず、誰もが主体性をもって生き生きと生活し、社会に参加することを意味することを確認し、この法律は、障害者が必要な支援を活用しながら地域で自立した生活を営み、生涯を通じて固有の尊厳が尊重されるよう、社会生活を支援する。これは現在障害を持つ人に限らず全ての人のためのものである。

人権保障としての支援という趣旨に照らせば、国・地方公共団体の義務的経費負担が原則的仕組みとなる。

この法律は、これらの基本的考えに基づき、障害の種別、軽重に関わらず、尊厳のある生存、移動の自由、コミュニケーション、就労等の支援を保障し、障害者各自が、障害のない人と平等に社会生活上の権利が行使できるために、あらゆる障害者が制度の谷間にこぼれ落ちないように必要な支援を法的権利として総合的に保障し、差異と多様性が尊重され、誰もが排除されず、それぞれをありのままに人として認め合う共生社会の実現をめざして制定されるものである。」

【法の目的】

「この法律は、憲法第13条、第14条、第25条等の基本的人権諸規定、障害者基本法、近く批准が予定されている障害者権利条約の精神に基づき、国・地方公共団体が、障害を持つ一人ひとりが人として尊厳ある暮らしと社会生活を営むことのできるようその権利を十分に保障し、障害の種別,軽重、年齢等に関わりなく、各自の必要性を満たす支援を、制度の谷間にこぼれる者のないように柔軟に実施し、障害を持つ人が当たり前の市民として社会参加できるための実質的な平等を保障し、障害を持つことに対する社会的不利益、不平等を解消する義務を尽くすべきことを明らかにし、障害の有無にかかわらず人が相互にそれぞれをありのままに人として認め合い、差異と多様性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現をめざすことを目的する。

また障害を持つ人はその居住地、施設入所、病院入院にかかわらず、入国管理局施設や警察署、刑事施設矯正施設に収容されているか否かを問わず、この法の支援の対象とする。」

【保護の対象から権利の主体への転換を確認する理念規定】

「従来、障害者は、障害者対策実施の対象、保護の対象として、当事者として扱われてこない面があったが、この法律は、障害者が権利の主体、当事者であることを明確にする。」

【社会モデルへの転換に関する理念規定】

(障害の本質の確認)

「障害の本質とは、機能障害、疾病を有する市民の様々な社会への参加を妨げている社会的障壁にほかならないことをここに確認し、機能障害、疾病を持つ市民を排除しないようにする義務が社会、公共にあることが今後の障害者福祉、支援の基本理念であることをここに確認する。」

【他の者との平等の権利の保障】

「本法は、障害者には、社会生活、コミュニケーション、政治参加、教育、労働、司法、表現の自由、プライバシー、市民活動、文化等、あらゆる分野において、他の者との同等、平等の権利が保障されることを基礎としており、障害者に新たに特別の権利を付与するものではなく、従前保障されてこなかった当然の権利の保障が十分に尽くされるように、具体的に各条項に規定されたものである。」

【個別事情に最も相応しい(合理的配慮を尽くした)支援の保障】

「障害者にとって、各自の個別の事情に最も相応しい、当然に必要とされる合理的配慮が欠如してきたことによる社会生活上の不利益は依然として大きく、それを埋める公的な支援が尽くされることをめざして本法は制定される。」

【障害者の公的支援を請求する権利】

「市民として生きていくために公的支援を必要とする障害児者は、障害に起因して被っている社会的不利益の是正を国・地方公共団体に求め、固有の尊厳の尊重された生活を営む権利が保障されるよう、国及び居住する市町村に対して、この法律に基づき必要な支援を求める公的請求権が保障される。」

【地域で自立した生活を営む基本的権利】

「1 障害者自らが選択した地域において自立した生活を営む権利は憲法13条、14条、21条、22条、25条等に基礎づけられた基本的で重要な人権であり、本法に基づき、障害者にその権利が保障される。
2 障害者は、みずからの意思に基づきどこに誰と住むかを決める権利、どのように暮らしていくかを決める権利、特定の様式での生活を強制されない権利が保障される。
3 国及び地方公共団体は、障害者に対して前項の権利を保障する公的義務を有する。」

【支援選択権の保障】

「1 障害者には憲法第13条等に基づき、活用する支援を選択する権利が保障され、特定の施策を強制されない権利を有する。
2 前項の支援選択権を実効あらしめるために、地域の中に多様で選択できる社会資源や支援システムが,地域格差なく用意されていく必要があり、国・地方公共団体には、それらの整備義務を有する。」

【情報・コミュニケーション支援請求権の保障】

「この法律は、全ての障害者、とりわけコミュニケーションに関して制限のある、『ろう者』『難聴者』『盲ろう者』」等、重複聴覚障害者を含む全ての聴覚障害児者、視覚障害者、言語障害者、知的発達障害者に憲法第13条、第21条等に基づき、自由で民主的な社会を成立させる不可欠な前提条件としての基礎的な基本的人権として、障害者が自ら選択する言語(手話など非音声言語を含む)及びコミュニケーション手段を使用して、市民として平等に生活を営む権利を保障し、そのための情報・コミュニケーション支援に関する請求権を保障する。」

【移動の自由の保障の重要性】

「この法律は、視覚障害者、全身性障害者、知的障害者をはじめ、移動、行動に制限を伴う全ての障害者に憲法第13条、第22条等に基づき、自由で民主的な社会を成立させる不可欠な前提条件としての基礎的な基本的人権として、障害者が自らの意思で移動する権利を保障し、そのための外出介護、ガイドヘルパー等の支援に関する請求権を保障する。」

【就労支援の実現の必要性の確認】

「この法律は、就労を希望する障害者の就労が真に実現するよう、企業への支援を含め、その就職を支援するための制度を準備し、また、従来低い工賃等のもとで訓練を強いられていた「福祉的就労」の現状を解消するため、賃金補填を含む、抜本的制度改革が必要であることを確認し、具体的規定は、『障害者労働保障法』等の別法に規定する。」

【介護保険との選択権保障】

「1 旧障害者自立支援法第7条が規定していた介護保険優先原則は廃止する。
2 65歳(一部40歳)以上の障害者に、介護保険の利用と障害者支援施策の利用を選択する権利を保障する。」

【国の義務】

「1 国の法制度整備・充実義務
国は、本法各規定の定める障害者の支援請求権が実効的に保障されるため、法制度を整備・充実する責務を有する。
2 国のナショナルミニマム保障義務、地域間格差是正義務
憲法に保障された基本的人権を保障する義務は第一義的には国にあることから、障害者支援の最終責任は国にあることを確認し、市民の障害の有無、障害の種別、軽重に関わらず、定住外国人も含め、自らこの国のどの地域に居住しても等しく安心して生活することができる権利を市民に保障する義務があり、そのため、国は自治体間での支援の格差を解消するための制度設計をする責務を有する。
3 国の財政支出義務
国は、地方公共団体の財政事情に障害者の権利の保障が左右されないよう、必要な支援を保障することを可能とするため、地方公共団体に対して必要な財政援助を行なう義務を有する。
人権保障としての支援である以上、支援の必要性があるにも関わらず年度予算の範囲内で支出すれば義務が免責されるものでなく、義務的経費負担制度を基本とする。
4 国の制度の谷間解消義務
国は、難病患者、高次脳機能障害、発達障害者をはじめ、障害者が各制度の谷間に置かれて支援が不十分とならないよう、制度の谷間・空白を作らないように注意を尽くす義務を負う。
5 国の長時間介護等保障義務
国は、地域で自立した生活を営むために1日8時間を超えるような長時間介護を必要とする障害者に対する介護等の支援が万全に行われるよう保障する具体的義務を負う。」

【所管省庁を横断した総合的支援の必要】

「制度の谷間のない支援という本法の目的を実現し、ライフステージや場所、分野に分断されない継続的な支援を実現するため、この法律は、内閣府、厚生労働省はもとより、文部科学省、国土交通省、総務省、財務省、経済産業省、法務省等全ての官庁により横断的かつ有機的な連携が取られながら実施されることに特に留意が必要である。」

【都道府県の義務】

「都道府県は、この法律の実施に関し、次に掲げる責務を有する。
1 市町村が行う障害者支援が十分に保障されるよう、市町村に対する必要な助言、情報の提供、財政支援その他の援助を行うこと。
2 市町村と連携を図りつつ、必要な障害児者支援を総合的に行うこと。
3 障害者に関する相談及び助言のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものを重点的に実施すること。
4 市町村と協力して障害児者の権利の擁護のために必要な援助を行うとともに、市町村が行う障害者等の権利の擁護のために必要な援助が適正かつ円滑に行われるよう、市町村に対する必要な助言、情報の提供その他の援助を行うこと。
5 コミュニケーション支援について支援が不十分な自治体に居住する障害者の社会生活上の不利益が生じることのないよう、都道府県が直接支援事業を実施することを含めて責任を負うこと。」

【市町村の義務】

「市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、この法律の実施に関し、次に掲げる義務を有する。
1 障害者が自ら選択した場所に居住し、全国どこにおいても等しく自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、当該市町村の区域における障害者の生活の実態を把握した上で、必要な支援を実施、保障する。
2 障害者の支援に関し、必要な情報の提供を行い、並びに相談に応じ、必要な調査及び助言を行い、並びにこれらに付随する業務を行うこと。」

【市町村の説明責任と申請妨害に対する制裁】

「1 市町村には、支援を必要とする人が支援のネットからこぼれおちないように、障害者支援に関する制度を適切に周知・教示する義務がある。
2 市町村には、障害者の本法に基づく支援の申請権を保障する義務があり、支援の必要な人からの申請または申請に関する相談があった場合は、申請に必要な書式や説明文書を交付し、施策内容・申請方法等を適切に本人が十分に理解できるよう説明する義務がある。
3 市町村が前項の義務に違反し、障害者の申請権行使を妨げた場合、本法施行令の定めに従い、市町村長個人及び妨害行為者個人は検察庁の処分に基づき過料の制裁に服する。」

【事業所整備義務が国・地方公共団体にあること】

「『措置から契約』への制度変革に伴って、国・地方公共団体は、「自分で事業所を探してください」といえばそれ以上の責任を問われないかのごとき状態は問題である。
「契約制度」のもとで「地域で暮らす権利」が保障される前提条件は、支援を実施する事業者が地域に存在していることである。障害者福祉は本来、国・地方公共団体の責任で履行されるものであり、事業所のない地域が生じないよう、事業者への財政援助、育成を含めた、基盤整備義務が国、地方公共団体にあることをここに確認する。」

【国民への広報、啓蒙】

「共生社会を実現するためには一般市民の理解が不可欠であり、国・地方公共団体は、障害者支援の重要性の理解を広報、啓蒙する義務がある。
障害は誰にでも何時にでも起こりうるものであるが、現実には社会的不利益・負担が一部の当事者、家族に偏在、固定していることが不公平・不平等であり、この不平等を解消することが大切であり、そのためにはこの障害者支援制度改革が障害のある人に限らない全てのひとにとってわがこととして感じられ、教育・広報等により、幅広い世論の共感が得られるよう、努力する義務がある。
具体的制度は個別に規定する。」

【障害児の支援を求める権利】

「1 障害のあるなしに関わらず共に生きる社会を実現することためには未成年段階で障害のあるなしにより隔離、分断されない療育、教育、生活を保障することが重要であることを確認する。
2 障害児のその成長発達の段階と差異と多様性に応じて、個別に必要な支援を請求する権利が、児童福祉法及び本法に基づき障害児及びその保護者に保障される。
3 障害児支援に関する費用負担を含めて、障害に起因する特別な経済的支出を親子、配偶者を含む家族が負担しない権利が保障される。」

【障害福祉分野の労働者の人権保障の必要性の確認】

「この法律は障害者を支援するための法律であるが、障害福祉分野の労働者の給与水準等が低く、労働条件が劣悪で人材が希薄なことは障害者の生活の質が保障されないことを意味する。障害者支援の事業所に経営努力義務があることが前提であるが、この法律は、障害福祉分野の人件費が適正水準を下回ることが障害者の尊厳ある生活を受ける権利を侵害することを認め、そのような事態を生まないための努力義務が国・地方公共団体にあることを確認する。」

【この法律による権利保障を目的とした相談支援を受ける権利の保障】

「1 すべての障害者は本人の自己決定権を尊重され、この法律による権利保障を目的とした相談支援を受ける権利がある。
2 なん人もこの法律による支援についての情報を得るために相談支援を受ける権利がある。」

以下、定義条項

【障害の定義 規定】(定義)

この法律において「障害者」とは=「障害の範囲」作業チーム担当

【自立の定義条項】

「本法における障害者の「自立」とは、必要な支援を駆使して自己の意思で(支援を活用した自己決定を含む)主体的、自律的に社会生活を営み、自己実現をはかることという。」

【地域生活の定義条項】

「本法における「地域生活」とは、障害者が地域社会で排除、孤立、隔離されることなく他の者と自然に共存し、特定の生活様式を強制されることなく、自分の選択に基づいて普通に暮らすことをいう。」

【障害者支援の公的責任の定義条項】

「本法における「公的責任」とは、民間事業による福祉の実践を否定する趣旨でなく、障害者支援は憲法に基づく基本的人権の実現にほかならないことを前提に、障害福祉、障害者への社会生活の支援が最終的な責任が国家、自治体にあること、契約制度においても、支援が社会資源の不足等により満たされない場合の障害者に対する支援保障義務、基盤整備義務のあることをいう。」

【請求権の定義条項】

「本法における「請求権」「支援請求権」とは、本法の規定に基づいて、障害者個人が国、地方公共団体等の公的機関に対して、個別の公的支援を求める具体的権利であり、司法救済の対象となるものをいう。」

【支援請求権の基礎】

「障害者の公的支援請求権を基礎付けるものは、憲法の人権諸規定、障害者基本法で確認される基本的な権利に加え、権利条約により国際的な人権規範として確立されつつある合理的配慮義務の理念等により重層的に構成される。」

【受給権なる表現について】

保護の対象から権利の主体へという本法の改革の理念に照らして、「受給権」なる表現は、施策の対象としての受け身の存在を前提としており、相応しくない。
「支援請求権」「請求権」等を利用するべきである。

【支援の定義条項】

「本法における「支援」とは、障害者は庇護されるべき弱者とみなすのでなく、本人の自律した自己決定を尊重し、本人らしさを発揮開花させるためのバックアップサポートをいう。」

【自己決定の定義条項】

「本法における「自己決定」とは、支援者とともに悩む過程や、意思決定、意思形成において支援を活用することも含めて、自分の主体的な意思に基づき、生活、人生を切り拓いていくことをいう。」

【合理的配慮の定義条項】

「本法における「合理的配慮」とは、障害者が他の者と平等に基本的人権を享有し、行使するために必要な、障害に伴う社会的不利益を埋めるために社会公共が果たすべきその人の個別事情に則した最も相応しい支援をいう。」

以上


「新法の理念・目的」分野に関する意見

2010年12月8日
総合福祉部会「法の理念・目的チーム」

第一章 本法制定に至る経緯と障害者支援の基本原理

第1 障害者自立支援法導入に至るわが国の障害者福祉

戦後、わが国の社会福祉は行政の職権に基づく「措置制度」を基本に実施されてきた。バブル崩壊の社会状況のもと、1995年、社会保障審議会が「自己責任と社会連帯」を強調する勧告を出し、国民には自らの努力によって自らの生活を維持する責任、自己責任があることが強調された。

1998年6月17日中央社会福祉審議会社会福祉構造改革分科会から「社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)」が発表され、戦後50年変わらない措置制度を抜本的に見直し、「契約制度」に移行させ、「サービス」提供者と利用者の対等性を確保し、市場原理を活用して「サービス」を向上させ、高齢化社会により増加する社会保障費用を公平に負担するべきと言われた。

2003年には社会福祉事業法が消滅し、社会福祉法が制定され、障害者福祉の分野では自己決定の尊重を理念として、2003年4月1日から身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、児童福祉法に「支援費制度」が導入された。

支援費制度開始からまもなく同制度の財政破綻等が盛んに言われるようになり、2005年10月に当時の「国民が痛みをわかちあう」という「国民自己責任論」の世論も背景として「障害者自立支援法」が成立、2006年4月1日から施行された。

第2 障害者福祉の基本原理

障害の「社会モデル」を基本とした障害理解の必要性。

障害者の完全参加と平等の実現を目標として1981年が国際障害者年とされ、1983年から1992年に国連障害者の十年が行なわれた。

そこにおける「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱くもろい社会なのである。

障害者は、その社会において特殊なニーズを持つ特別な集団と考えられるべきではなく、通常の人間的なニーズを満たすことに特別な困難を持つ普通の市民と考えられるべきなのである」とのテーゼを改めて再確認してきたい。

1993年1月21日付の中央心身障害者対策協議会の「国連・障害者年の10年以降の障害者対策の在り方について」と題する内閣に対する答申でも

「障害者は特別な存在ではなく、基本的人権を有する一人の人間として最大限尊重されなければならない。」

「障害者は決して障害のない人々と違った存在ではなく、社会の中に障害者が存在し、社会経済活動を行なっていくことが正常な社会の姿であり、障害者が各種の社会経済活動へ参加することを拒んでいる現在の社会の姿こそがむしろ問題である。」とされている。

1990年身体障害者福祉法の目的から「更生」という言葉が削除されたように、障害を「治療と訓練と努力により自分で克服するべき対象」という「自力更生主義」から、「社会の側が障害者の社会参加を実現するために支援するべき」という方向で改革が進んできたはずであった。

今回の改革は、上記の改革の方向性を再認識することである。

テーゼとして掲げれば「障害自己責任、家族責任からの解放、障害の公的責任原則へ」がスローガンである。

医学モデルに偏った従来の障害理解を変革し、社会モデルに立脚した改革が必要である。

第二章 改革の必要性

第1 障害者権利条約の批准に向けた改革の必要性

2006年12月国連総会にて「障害のある人の権利に関する条約」(以下「権利条約」)が採択され、2007年9月に日本政府も署名し、2008年5月には国際的に発効し、わが国も批准に向けた準備をすすめてきた。

この法律の制定はわが国の障害者の権利保障を法的に根拠付け、障害者支援に関する国内法を権利条約の水準に引き上げ、権利条約が批准され、国内法的効力を発効する場合に、相互に矛盾のないように国内法を整備するための障害者制度の改革を目的とする。

従来のわが国の福祉法は恩恵的な色彩が色濃いが、権利条約は障害者のすべての人権と基本的自由の完全な実現の確保を締結国が約束しており、国内法を人権主体性の明確にした権利保障体系に変革する必要がある。

そして、障害の概念について、様々な障壁との相互作用により社会参加を妨げることを確認する社会モデルを意識しており、批准に向けて、応益負担制度に象徴される障害者自立支援法の自己責任原則の撤廃が必要となる。

また、権利条約第19条は自立した生活(生活の自律)及び地域社会へのインクルージョンを規定し、障害者が地域社会で生活する平等の権利を認めているが、依然として数十万人の障害者が施設、精神科病院に入所している現状と制度は、権利条約の精神に背反するものであり、地域での支援保障がないために例えば人工呼吸器装着を選択できず、生きることそのものをあきらめざるを得ない現状があり、人の生命と生存が守られる社会とするためこの新法制定による障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障するための根本的な改革が必要である。

第2 障害者自立支援法の問題点と是正

1 自己責任論を障害福祉に持ち込むことの過ちの解消

国民一般に努力義務、自己責任があることは当然であり障害者も国民、市民として一般論として努力義務・自己責任があることは当然であろう。

しかし、心身上の障害に起因する社会的障壁・社会的不利益が障害の本質であることが正しく理解されるならば、障害者に障害を自己責任と感じさせる仕組みは障害福祉の本質に抵触するものといわなければならない。

障害に基づく不利益の是正を支援するに際して本人に「利用料」名目で自己負担を求める仕組みは障害を自己責任に帰するものであり、今回の新法制定とともに廃止しなければならない。

2 障害福祉の公的責任強化・増大の確認

措置制度から契約制度への移行自体を根本から否定することは現実的でない。

しかしながら、日本国憲法により本来最終的に公的責任のある国・自治体等の公的機関が、民間事業者に障害福祉の実施を託したことに伴い、障害福祉の公的責任が後退し、様々な弊害と限界があると指摘されている。

措置制度が変更されることにより、とりわけ障害者福祉に関して言えば、公的責任の後退は断じて許されず、むしろ、福祉の公的無責任状態をもたらす危険性があるがゆえに、法的な公的責任は強化・増大したと整理・確認されるべきである。

障害者が地域で自立した社会生活を営むためには、たんに「ご自由に事業者と契約して下さい。」で公的責任が終わるのではない。

障害者がどの地域においても、個人の尊厳が保障された生き方が可能なように、国・自治体には地域間格差を是正する公的義務があり、契約の前提としての障害者の意思決定、意思形成を支援する仕組みを構築する義務があり、自治体には支援を活用出来る様に事業者の育成・財政支援も含めて、基盤整備を尽くす義務がある。

さらには、障害児童の支援の分野では契約制度自体が相応しくなく、職権主義、措置制度に戻るのではなく、支援が充足し、権利が保障される方向で新たな制度が構築されるべきである。

第3 脆弱なわが国の障害者福祉水準

1 世界水準とかけ離れた劣悪な障害者福祉水準の引き上げの必要性

OECD(経済協力開発機構)の2007年社会支出統計(SOCX)によれば、加盟各国のGDP(国内総生産)に対する障害者関係支出額の比率を対比すると、わが国の障害政策公的支出費用比率は0.673%とされ、加盟30ヶ国の中で、最低のメキシコ、韓国についで下から3番目であり、圧倒的に低い水準である(*1参照)。

このことは、国民一般にあまり知られていない事実であるが、障害施策の財政支出の必要性が理解されるため、障害関係者だけでなく、広く周知されるべき事柄である。

国外、国内とも不景気の続く時代とはいえ、2009年時点でアメリカ合衆国に次いで世界2位の国内総生産を維持し、先進国として世界の人権規範のモデルとなるべきわが国のあり方として、もっとも手篤く支援するべき障害者に対する施策が飛びぬけて劣悪な水準は一刻も早く根本的に改善されるべきである。

*1 国立社会保障・人口問題研究所刊「季刊 社会保障研究 2008年秋号 通巻181号」138~149頁「国際比較からみた日本の障害者政策の位置づけ―国際比較研究と費用統計比較からの考察―勝又幸子」

2 国民一般とかけ離れた所得水準と家族依存状態の解消の必要性

2004年4月の厚生労働省の資料によれば、全人口の労働年齢の就業率は67%であるのに対して、労働年齢の在宅障害者300万人のうち一般就労者は102万人とされ、34%程度である。50万人を超えると思われる施設入所者、精神科病院長期入院者等の労働年齢のほぼ全員が一般就労していないことと思われるので、その割合は更に低いものとなる。

厚生労働省発表の2009年度工賃月額実績によると福祉工場、就労継続支援A型を含む「福祉的就労」における平均工賃月額は16,894円(年額202,728円)であり、小規模通所授産施設では8,208円(年額98,496円)である。

2005年度末で障害年金受給者総数は約175万人とされ、平成22年度の障害基礎年金1級の月額は約82,508円(年額990,096円)、2級は約66,008円(年額792,096円)とされる。年金受給の認められない障害者も多い。

厚生労働省統計情報部編平成20年「賃金構造基本統計調査」によると、国民平均賃金は年間約486万円である。

これらにより、障害者の所得水準がそれ以外の国民一般に比較して掛け離れて劣悪であることが明らかである。それにも関わらず障害者が現実に生活を送っているのは、この国が障害者の支援を家族に人的、経済的に依存しているからに他ならない。国が障害者支援の本来の機能を果たし「他の者との平等」を実現、保障するためには、従来の障害福祉の予算水準を抜本的に引き上げることが不可欠である。

第三章 改革の理念の確認

第1 障害者の基本的人権を実現するための権利保障法体系への変革

…人権の主役としての明確化…

推進会議第一次意見第2の「改革の基本的考え方の1」は、「権利の主体」である社会の一員とされている。

措置制度から支援費制度に変わったとき、障害者の権利を保障する法体系に変わっていない。

従来の「障害者は市町村の支給決定を受けなければならない」との権利者と義務者が逆の規定ではなく、障害者の公的支援の請求権の保障を法文に明記しなければならず、権利保障体系への変革として法文に国・自治体の障害者支援義務が明確に規定されることが必須である。

障害者の権利の本質とは、障害に起因する社会的障壁により傷付けられている自由と個人の尊厳を回復するためのものであり、障害福祉施策を活用する権利は天賦の基本的人権である。

障害者福祉は基本的人権の実現のために行なわれるものである。

このことは国(厚生労働省)と障害者自立支援法違憲訴訟団との平成22年1月7日付け基本合意第一条「障害者自立支援法廃止の確約と新法の制定」において、「そこ(障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する)においては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」とされている。

また、基本合意第二条「障害者自立支援法制定の総括と反省」第1項は「国(厚生労働省)は、憲法第13条、第14条、第25条、ノーマライゼーションの理念等に基づき、違憲訴訟を提訴した原告らの思いに共感し、これを真摯に受け止める。」とされている。

すなわち新たな法制度は、憲法第13条に基づき障害者の個人の尊厳の保障し、第14条に基づき障害者に法の下の平等を保障し、第25条に基づき障害者の生存権を保障し、ノーマライゼーション理念に合致した新法にしなくてはならないことを意味している。

基本的人権として当該支援に関する請求権が当事者に保障されなければ、何時でも消滅する脆く、淡い立場のままであり、政治や行政の「政策裁量」に左右されない普遍的な権利性の確立がなされなければならない。

今回の改革の意義は、人権保障としての障害者支援を確立するための改革である。

そのために、憲法第14条に基づく、障害者の平等の保障の明記が重要である。

そして、憲法第25条生存権の保障が法の基礎にあることを明記すべきである。

機会の平等を保障しただけで、裸の競争原理に放り出すことで障害福祉の責任は到底果たせない。障害者支援における生命の保障、生存権の保障の原理、誰もが安心して生きていかれる社会保障の原理もまた、重要な理念である。

また、憲法第13条障害者の個人の尊厳の保障、自己決定権、幸福追求権の保障の明記が重要である。基本合意第二条第2項で国(厚生労働省)は「障害者の人間としての尊厳を深く傷つけた」ことを心から反省し、この反省を踏まえて、今後の施策の立案・実施にあたるとされているところ、これは憲法に則していえば、新法制定において、憲法第13条の個人の尊厳の保障を大切にするということである。

さらに、障害者の生活支援において、ただ生命が維持されれば足るということではなく、全ての個人の尊厳が保障されることが重要であり、人間の尊厳が保障されることが必要である。

そして、公的支援を活用しながら自分の生きたいように生き、各自が自らの幸福を追求する権利を有するという当事者の自己決定の原理、当事者主権と幸福追求権の保障(憲法13条)が重要である。

夜間の見守り介助の必要性を訴える障害者に対して、「オムツをすればいい」と言う障害者福祉行政が現実に横行している。それが憲法第13条違反の人権侵害であることが、一般市民にも行政職員にも容易にわかる規定が必要である。

第2 地域で生きていくことが可能な法律にすること

…誰もが地域で当たり前に生きられるインクルーシブな社会の実現…

推進会議第一次意見第2の「改革の基本的考え方の4」は、「地域生活」を可能とするための支援とされている。

権利条約第19条は障害者が他の者と平等に地域社会で生活する権利を認め、障害者がどこで誰と生活するかを選択し、特定の生活様式を義務付けられないこと、地域社会からの孤立と隔離のないようにパーソナルアシスタンスを含む支援の確保を謳っている。

長年この国で課題とされてきた「入所施設から地域での生活へ」を題目に終わらせること無く、地域で生きていくことが可能な、一人ひとりの支援の必要性に則した支援体系を整備し、新制度にすることが重要である。

基本合意第三条⑥「どんなに重い障害を持っていても障害者が安心して暮らせる支給量を保障し、個々の支援の必要性に即した決定がなされるように、支給決定の過程に障害者が参画する協議の場を設置するなど、その意向が十分に反映される制度とすること。」

できる限り訴訟団のこの指摘を踏まえた制度にすることが必要である。

各地の重度障害者から、「現在の支給量では生きていかれない」との声が挙がっている。

また、大量の社会的入院状態が長年にわたって解消されないわが国の精神障害の分野での、地域移行を実現するための総合的かつ具体的プログラムが必要である。

第3 制度の谷間にこぼれおちない支援

…障害の種別を超え、支援のネットからからこぼれ落ちている人を一人でも減らす…

従来の制度において「障害」は、身体、知的、精神の三障害に限定され、発達障害、高次脳機能障害、難病等、障害者支援のネットからこぼれ落ちることの多かった障害者が適切に支援を受けられることの出来る新法構築が改革の最重点課題の一つである。

これは「申請主義」の弊害を是正する取り組みも含まれる。

すなわち、自己決定の尊重という観点からすると形式的には「申請なければ支援なし」となりかねない。

しかしながら、現実には様々な社会的障壁により、どのように相談したらよいかさえ判らずに必要な支援が届かずに放置されている人々が多数存在している。

個人のプライバシーの尊重を大切にしながらも、障害者の潜在的なニーズを掘り起こす支援も含めて、支援に辿りつけない人を一人でも減らす包摂社会を実現するべきである。

また、障害者が刑事手続きの被疑者、被告人、未決拘留者、受刑者等の立場になった場合、制度や関係者の認識において、障害者にとって必要な当然の支援、合理的配慮が欠如していたことに起因する不利益には大きなものがあり、新しい法の支援がこれらの者に普く及ぼされることが確認されるべきである。

第4 他の者との平等の権利の保障、個別事情に最も相応しい(合理的配慮を尽くした)支援の保障

…平等に扱われてこなかった現実を直視し、平等な権利、社会の実現と個別事情に即した支援を…

障害者には、社会生活、コミュニケーション、政治参加、教育、労働、司法、表現の自由、プライバシー、市民活動、文化等、あらゆる分野において、他の者との同等、平等の権利が保障される。

この法はそのことを基礎としており、障害者に新たに特別の権利を付与するものではなく、従前保障されてこなかった当然の権利の保障が十分に尽くされるように、具体的に各条項に規定されたものである。

そして、個々の障害者の暮らしにおいて当然に必要とされるその個別事情に最も相応しい合理的配慮が欠如してきたことによる社会生活上の不利益は依然として大きく、障害者にとって、各自の個別の事情に最も相応しい、当然に必要とされる合理的配慮が欠如してきたことによる社会生活上の不利益は依然として大きく、それを埋める公的な支援が尽くされることをめざして本法は制定される。

第5 障害の社会モデルへの転換

…障害の自己責任、家族責任からの解放…

権利条約の考え方の基礎である障害の医学モデルから社会モデルへの転換を図るべきである。

それは、障害は個人に責任がなく、参加を拒んでいる社会の側に責任があるとする考え方を基礎としており、わが国で根強い障害の個人責任、家族責任を否定し、障害に基づく様々な不利益が一部の人に偏在している不平等を解消し、平等な社会を実現するために社会が支えることをこの法律は目的とする。

第6 公的支援を活用しながらの労働

…働きたい誰にでも誇りある労働を…

障害者自立支援法は、就労支援の強化を謳いながら、就労支援のために利用料を徴収し、通勤や職場内での支援を認めない(認めるのは極めて例外)矛盾があった。

障害者の尊厳ある労働を保障するための新法の構築が求められる。

これは、障害者の労働基本権保障法等の別途の個別法律にて十分に規定することが必要である。

第7 医療と福祉の連携の重要性、医療的ケアの地域での保障

障害者各自の医療や福祉を選択し利用する権利に基づき、医療と福祉の責任範囲を区別しつつ、互いに連携して支援することは重要である。

この法の実施にあたり、どんなに重い障害を持っていても自身の望む地域で自立した生活ができるよう、本人の選択に基づき医療との連携を図り、十分な質を備えた必要な医療的ケア(精神医療的ケアは除く)が支援されるよう務める。医療が責任を持つケアを安易に福祉に押し付けてはならないことを前提に、本人の生存と生活の支援の観点から実情に即した医療的支援が保障されるべきである。

但し、精神保健医療及び福祉の分野においては、医療的ケアの名のもとに本人の意思を尊重しないことが問題視されている点に十分に留意しなければならず、原則として、精神障害者についての医療は、医療法において規定されるべきものである。

第8 権利擁護機関の設置

この法における権利を十全に保障し、かつ侵害されないために、権利保障・擁護機関設置の必要性を提言する。

この法律による障害者の権利を保障し、権利侵害されないために権利擁護者制度を置くべきと考える。権利擁護者は行政および事業所から独立して作られた権利擁護機関によって提供されるべきである。権利擁護機関の構成員の過半数を障害者とし、国は十分な財政保障を行うべきである。権利擁護機関は障害者の要請に基づき公費で弁護士を個別障害者に保障することが望まれる。

そして、これらの権利擁護機関は、本法に限らず、「障害者差別禁止法」「障害者虐待禁止法」その他障害者の権利に関する関係法令に関する権利の擁護全般を司る機関とすることが望ましい。

第9 現行の民法等に基づく成年後見制度の抜本的改革の必要性の提言

1 現行成年後見制度の廃止を含めた抜本改革

民法等に基づく現行の成年後見制度は、本人の意思、意向を引き出して支援するという本来のあり方よりも、本人の意思能力と財産管理を中心とする生活上の権利を否定、剥奪し、本人の権能のほとんどが後見人に権限として移管される仕組みと批判されており、権利条約第12条2項「締結国は、障害のある人が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。」等の規定の趣旨に照らしても、本質的に問題が大きく、一旦廃止することを含め、本人の意思と能力を最大限尊重し、それを基礎として側面から支援する仕組みに抜本的に改革されるべきである。

2 報酬援助

現行の成年後見制度の抜本改革を前提として、自己決定、意思形成に関する支援員のための報酬援助金を請求する権利を保障するべきと考える。

「契約制度」等における障害者の自己決定を実効的に保障するため、上記の現行成年後見人制度の抜本的改革を前提として、本人の自己決定、意思形成への支援に関する支援員のための報酬援助金が本人に個別給付請求権として保障されるような法制度改革が必要である。

第10 共生社会実現のための幅広い世論の共感が必要

…共に生きる社会を実現するために広報、世論喚起を…

推進会議第一次意見第2の「改革の基本的考え方の5」は、「共生社会」の実現である。

障害は誰にでも何時にでも起こりうるものであるが、現実には社会的不利益・負担が一部の人に偏在、固定していることが不公平・不平等なのである。

この不平等を解消することが大切であり、そのためにはこの障害者福祉制度改革が障害のある人に限らない全てのひとにとってわがこととして共感することが重要である。

教育・広報等も含めて幅広い世論の共感が得られなければ改革の成功はなし遂げられない。

その観点を実現することを目的とした具体的制度を新法に組み入れる必要がある。

第四章 論点と意見

第1 【法の名称】「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」

基本合意第一条において、「そこにおいては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」と確認されている。

恩恵的歴史を辿ってきた日本においては法の名称に「福祉」も用いないほうが適切である。

「人権保障としての障害者支援」を確認することがなにより大切である。

「憲法に基づく基本的人権保障としての障害者支援法」を確立しなければ、すべては「行政施策上の裁量権」に収斂され、当事者が支援の中身に立ち入ることはできない。

①障害者権利条約の国内法化という法制定の意義に鑑みれば、権利という文言は不可欠。
②障害者の権利保障の法規の確立こそが重要という認識を関係者が共有し、基本合意で確認されたことを活かす。
③本法のメインの守備範囲を明確にするため、「社会生活の支援」を入れる。
④誰もが制度の谷間にこぼれ落ちない総合的な支援の必要性を法名に入れるべき。

これは、本法に基づく支援が、上記③の「社会生活」を中心としながら、わが国で顕著な縦割り行政の仕組みで支援が分断されがちの支障を解消し、教育、労働、交通等の関係隣接分野にも柔軟に適用、利用できることを強調する狙いがある。

以上から、この名称が適切と考える。

第2 【前文の必要性】

結論:前文はこの法に必須である。

議員立法にあっても内閣提出法には付けないなどという旧弊に縛られる必要は何らない。

全国1000万人を超えると思われる障害者と、その家族、支援者、一般国民、全ての人にとって、今回の改革の経緯と理念が伝わり、新法の意義を関係者が共有し、個別規定の解釈指針とするためにも、前文でこの法の精神を高らかに謳うことが改革を成功させるためにも不可欠である。

第3 【そもそも、この総合福祉法は、誰の何のためにつくるのか?】

障害をもつ人々が普通の市民として生きるために必要不可欠な社会的支援を行うため。ライフステージの全ての段階における個人の尊厳の保障を図るための制度。

これは現在障害を持つ人だけでない全ての市民のためのものである。

また、何らかの機能障害あるいは疾病を持ち、生命の維持および一般の市民と平等に人としての尊厳を尊重され幸福追求権をもち、社会の一員として社会に参加するにあたって支援を必要とする人のためである。

なおこれらの人についてはその居住地、性別、国籍、年齢、施設・病院に入院、入所しているか否か、矯正施設刑事施設(受刑者には一定の制約はありうるが)入管施設にいれられているか否かを問わず平等にこの法の対象として権利を持つ。

この法律は障害者権利条約の国内履行のための法律であり、障害者権利条約1条目的3条一般原則、4条一般的義務に照らして、上記が求められる。

第4 【憲法、障害者基本法等と「総合福祉法」との関係をどう考えるか?】

基本合意で確認された「障害者の基本的人権の支援」ということ、憲法に基づく制度ということが明文で記載されることが必須である。

基本合意書第一条「新たな総合的な福祉法制においては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」が新法の基本である。

個人の尊厳(憲法13条)と生存権(憲法25条)が平等に保障される(憲法14条)ことが障害福祉の本質であり例えば

「この法律は、憲法第13条、第14条、第25条、障害者基本法、障害者権利条約の精神に基づき、国・自治体・公権力が、障害を持つ市民一人ひとりが人として尊厳ある暮らしを営むことのできる権利を十分に保障し、障害を持つ市民が当たり前の市民として社会参加できるための実質的な機会平等を保障し、障害を持つことに対する社会的不利益、不平等を解消する義務を尽くすべきことを明らかにする。」等の条項が必要。

基本法自体について、差別禁止法及び支援権利保障法の上位法規として、さらに権利性を強める改正を実行することを前提に(基本法においてある程度の権利の抽象性は止むを得ないが)、下位規範としての位置付けを「基づき」等として明確化するべき。

第5 【障害者権利条約の「保護の客体から権利の主体への転換」「医学モデルから社会モデルへの転換」をふまえた理念規定についてどう考えるか?】

法の理念規定を作るべきである。

従来、障害者対策実施の反射的利益を享受する受け身の客体に過ぎなかった機能障害者は、自力で更生する努力をして障害を克服し、更生のための障害者の努力を支援するのが福祉の目的だとされてきた。

そうではなく、「障害の本質とは、機能障害を有する市民の様々な社会への参加を妨げている障壁にほかならないことをここに確認し、機能障害を持つ市民を排除しないようにする義務が社会、公共にあることが今後の障害者福祉の基本理念として確認される」等と規定されるべき。

障害者支援制度の存在意義は「障害を持つあなたは何も悪くない、何の責任もない、障害による様々な社会的不利益、不平等を公的に支えるからこの社会で共に生きていきましょう。」そういうメッセージを与え、そのための具体的支援をすることである。

第6 【推進会議では「地域で生活する権利」の明記が不可欠との確認がされ、推進会議・第一次意見書では「すべての障害者が、自ら選択した地域において自立した生活を営む権利を有することを確認するとともに、その実現のための支援制度の構築を目指す」と記された。これを受けた規定をどうするか?】

新法の前文で「すべての障害者が、自ら選択した地域において自立した生活を営む権利」が憲法13条、14条、21条、22条、25条等に基礎づけられた権利であることを明らかとした上で、各種支援規定を設けるに際して、この権利が実質的に確保されるためのより具体的な権利規定ないし請求権規定を置くべきである。

「すべての障害者が、自ら選択した地域において自立した生活を営む権利」は、障害者権利条約19条でも定められている重要な権利であり、その具体的内容も多岐にわたる。障害者権利条約19条では、(A)から(C)項が掲げられているが、これは例示列挙と解すべきであり、新法ではこの権利の実質的確保のため、さらに十分に内容を検討した上で、各種支援を定めるに際して、この権利の趣旨を十分に踏まえた権利規定ないし請求権規定を置くべきである。

個別規定としては、
「1項 障がいのある人は、みずからの意思に基づきどこに住むかを決める権利、どのように暮らしていくかを決める権利、特定の様式での生活を強制されない権利が保障される。
2項 国及び地方公共団体は、障がいのある人に対して前項の権利を保障する公的義務がある。」などの条項を設ける。

第7 【障害者の自立の概念をどう捉えるか?その際、「家族への依存」の問題をどう考えるか?】

自立概念については、自律自己決定と同時に、支援を受けた上での自律自己決定ととらえられるべきであり、さらに自律自己決定の前提は選択肢の保障であり、自律の概念規定以前に選択肢保障が法的になされるべきである。選択肢保障のないところに自己決定はない。国・自治体が公的に保障するべき障害者福祉が家族に依存することは否定されるべき。

自立はたんに経済的自活や、一人で何もかもできることではないということが確認されるべきである。そうでないと「自立」のために一生訓練に費やすことを強いられたり、全生活を医療の傘に下に置かれることになり、障害を持つ者が他の者と平等に扱われないことになる。

また病院・施設しか生きる場がない、あるいは限られた選択肢を押し付けられるということがないよう、選択肢の保障は自律自己決定の前提である。

なお否定されるべき「家族への依存」は、障害者の家族への依存のことでなく、国が果たすべき支援を家族へ依存していることである。

第8 【「地域で生活する権利」を担保していくために、サービス選択権を前提とした受給権が必要との意見があるが、これについてどう考えるか?】

当事者に支援選択権のあることを条文で明記すべき。

なお、「受給権」なる表現は、施策の客体としての受け身の存在を前提としており、今回の改革の方針に照らして相応しくない。

そして、支援選択権を実効あらしめるために、地域の中に多様で選択できる社会資源や支援システムが、地域格差なく用意されていく必要があり、国・地方公共団体には、それらの整備義務のあることが明記されなければ、支援選択権は絵に描いた餅になる。

支援請求権の根拠は憲法第13条の自己決定権であり、当事者に選択権があることが根本である。在宅支援を求める当事者に公権力が入所施設への入所を選択する権限は原理的にない。

それにも関わらず、それを条文で明記しなければ、そのような不条理が抑止できない。

そして、支援申請権を明記し、その重要性の担保を制度化する必要がある。

支援申請権が権利として保障されていることを明記することは当然の前提として、行政が申請をさせないという申請拒否行為が違法であることを明記し、処分庁個人及び違法行為者個人に制裁を課すなど実効性確保の制度が必要である。

第9 【条約第19条の「特定の生活様式を義務づけられないこと」をふまえた規定を盛り込むか、盛り込むとしたらどのように盛り込むか?】

特定の生活様式を障害当事者の意向等を無視して強制することが問題であり、特定の生活様式が問題ではなく、それを強制することが問題であると考えられる。規定するとすれば「本人の意に反して特別な生活様式を強制してはならない」とすべきである。

第10 【障害者の福祉支援(サービス)提供にかかる国ならびに地方公共団体の役割をどう考えるか?】

社会全体の一般的な地域主権(地方分権)の方向性は否定されるべきでないものの、生命と個人の尊厳保障に直結する障害者支援の分野において、国はナショナルミニマムとしての社会福祉を公的に保障する責務があり、国の果たすべき役割は大きい。

地域に実施を任せた地域生活支援事業に象徴されるように障害者自立支援法が、様々な地域格差、サービス低下を招いたと強く批判されており、その反省にたった改革が大切である。

少なくとも生きていく上で不可欠な福祉支援については、住んでいる地域によって差がつけられるようなことがあってはならない。常時介護を必要とする人に対する支援について、地域での生活が継続可能となる最低保障水準については、地方公共団体に委ねるのではなく、ナショナルミニマムとして、制度・財源の両面において国が責任を負うべきである。

障害者の福祉支援(サービス)提供は、障害者の生存に関わるものであり、A市においては生きられるが、B市においては生きられないなどということがあってはならない。

いくら地域で暮らすことの自由を言ったところで、そのための支援を実施する事業所が地域に存在せず、支援員もいない状態では、暮らすことが出来ず、それは公権力の公的責任履行義務違反であり、基本的人権が保障されていない憲法空白地域を意味するものであり、基盤整備義務を国と自治体の法的義務としなくてはならない。

また、情報格差のもとで障害者の自己決定の保障を実質化していくための仕組み作りの観点が重要である。国・自治体の制度、施策の教示・周知義務を徹底し、福祉にたどり着けていない人、支援のネットからこぼれ落ちている人を一人でも減らす努力が必要である。

第11 【新法の守備範囲】

障害者が一市民として暮らし、社会参加するために受けている社会的制限を除去・是正するための支援一般がこの法の対象である。

中でも、社会生活上の支援を中心の守備範囲とする。

従来の障害者福祉の分野を基本としながらも、教育・司法・労働等にも横断的に適用できるような法制度とする。

分野ごとに分断されてきたわが国の縦割り行政の弊害で、一人の人間の支援も分断されて使いづらい仕組みであったことを解消するため、この法の支援は他の分野の垣根を超えて、制度の谷間のない(シームレスな)支援を実現するため、柔軟に利用できる制度。

医療:自立支援医療に相当する分野は本法の対象。

排痰ケアーなど、医療と福祉の重なる分野において、本来的な範疇を医療法にて定めることも前提としながら、障害児者支援のために必要な規定は本法に設ける。

労働:障害者雇用促進法の廃止を含む抜本的見直しとともに障害者就労支援保障法として別個の法律を制定。日中活動の場の保障は本法で。

コミュニケーション:聴覚障害者団体の意見にあるように独立法とすることも一考に価するが、障害種別を超えたコミュニケーション支援が必要であり、今回は本法の対象と考える。

障害児:児童福祉法を基本とするが、障害のある児童の障害特性にあった支援保障がなされるための基本的な権利を本法でも規定しておく必要がある。現在の行動援護、重度訪問介護、居宅介護等は障害児の権利も保障するべき。

高齢者:介護保険法が基本であるが、障害のある高齢者等が介護保険優先利用を義務付けられることが無く施策利用の選択権を保障するべき。

住宅政策・移動支援・交通バリアフリー:国交省の施策との有機的連携が必要。

社会福祉法:今回の改革の理念に照らして必要な条項の修正。

教育:通学支援、学校内介護等は本法で規定。財源は文部科学省の予算。

精神保健福祉法:将来的には廃止の方向。

第12 【身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法、児童福祉法、その他の既存の法律のあり方、並びに総合福祉法との関係についてどう考えるか?】

当面は、関連法の必要な改正。

障害の種別ごとの制度の谷間をなくすことが今回の法制定の目的である以上、身体・知的・精神の障害別3法は廃止の方向性を確認しつつ、5年から10年等の中長期的課題として実務的課題として進める。

精神分野については精神保健福祉法廃止とともに精神医療の充実のためにも精神に特化しない医療基本法および患者の権利法制に統合するべきである。

新法の理念に則して、社会福祉法の改正も必要。

また発達障害者支援法も今後発展的に新法に包括・統合されるべきである。

新法制定と同時に「社会福祉法」の改正が必要不可欠である。

「障害者自立支援法」に関する規定が新法に基づくものに改正されることは当然の前提。

それ以外の部分について。

改正前

第3条(福祉サービスの基本的理念)福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない。」

改正後

第3条(福祉支援の基本的理念)
1 福祉支援は、個人の尊厳の尊重を旨とし、その内容は、福祉支援の利用者の幸福追求の権利が尊ばれ、各自が自立した社会生活及び日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない。
2 福祉支援は憲法第25条、第13条、第14条等の個人の基本的人権を保障することを基本とし、支援の最終責任は国・地方公共団体にあることを確認する。」

他の条項も サービス→支援

事業体系等に関しては、他の作業チームの意見参照。

第13 【地域生活移行促進のための時限立法の必要性】

わが国では障害者の地域生活移行が一向に進まない現実があり、地域生活移行を実現するための総合的プロジェクトとして「地域支援充実と地域移行促進法(仮称)」といった時限立法制定と施行が必要である。

この点は、地域資源チームが主に検討。

また、このプロジェクトが国民的課題として周知され、官民一体となったムーブメントとなるよう、政府広報を行うことはもとより、定期的に番組を放映する、民放を含めテレビで積極的に取り上げてもらうよう活動するなど積極・果敢な活動が必要である。

以上

理念・目的チームについての主要な意見【補足版】

■「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」(案)についての主要な意見

*本文中に書かれている「本法」の表記は「この法律」にする、障害をもつ人の表記は障害のある人などと統一すべき。

*法の名称に関わって、広汎な領域について提起しているが、総合福祉法としての整備を軸として他法の関連領域についての整備をする法とすべきが適切なこの法の位置付けと思われる。従って、その内容にふさわしい名称とすべきである。

*自立の定義は、非常に重要であるにも拘らずあいまいな表現になっている。具体的な表現をすべきである。例えば、かわさき基準推進協議会のものを参考にしてはどうか(*かわさき基準推進協議会:「自立」とはすべてを自分でできることを意味するのではなく、「自らが望む」、「主体的に選択、自己決定できる」ことであり、家族や地域が協力することも含めて実行、実現できることを意味します)。

*請求権との表記があるが、解釈によっては自治体の裁量権とも捉えられかねず、むしろ受給権と記した方がいいのでは。但し、受給権が受け身的なニュアンスがあるとすれば、別の表現を模索するのも。

*都道府県・市町村の義務については、表現方法の検討を、また地方自治体が担う公的責任の範囲については、国と地方自治体との役割も含めて、今後十分な議論・検討が必要である。

*国・都道府県・市町村の義務に、24時間の支援が必要な障害者も含めること、その際財政調整や支援を保障する具体的な義務について明記すべき。

*障害児の支援を求める権利の3項目目は、推進会議の第二次意見6)「障害のある子ども」の「障害のある子ども及び家族への支援」の趣旨を踏襲すべき。

■「新法の理念・目的」分野に関する意見についての主要な意見

●第3章、第7医療と福祉の連携の重要性、医療的ケアの地域での保障について

*・・・医療的ケア(精神医療的ケアは除く)・・・、とあるが括弧内の削除。また、但し・・・・精神障害者についての医療は、医療法において規定されるべきものである。とあるが、精神障害者の医療を医療法に限定するような表現は修正して欲しい。医療・合同作業チームでも統一した意見集約に至っていない。

*連携するにあたっては本人の意向を尊重することが重要である。また、医療的ケアの必要な全身性障害者で、本人が望まない場合は、ヘルパー等の福祉施策のみで対応すべき。

●第4章、第12 身体障害者福祉法、知的障害者福祉法・・・

*3 法は廃止の方向性を確認しつつ、・・・精神分野については・・・・精神に特化しない医療基本法および患者の権利法制に統合するべきである。とあるが容認できない。理由は、精神障害者の医療の問題は、入院前後を含めての包括的な対応が必要であり具体的には、保健(行政、保健所)医療、福祉が関与しなければならない。その際、非自発的な入院や治療が提供される場合には人権的視点からの「適切な手続」きが必要不可欠である。医療法で規定することは困難であると考える。


総合福祉部会 第11回(H23.1.25) 資料4-2

第11回総合福祉部会提出用「法の理念・目的チーム」サマリー

総合福祉部会「法の理念・目的チーム」
2011年1月25日

一 法律案

新法の理念・目的という法の骨格・総則部分について、条文イメージを提案する。

どのような新しい法律が出来るのか関係者も注目しているところ、総合福祉部会における改革の意義を反映するものを可能な範囲で法案の形で示すことが重要と考えた。

1 【名称】「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」を提案する。

2 【前文】障害者支援の新しい1頁の始まりを謳う前文は是非とも必要と考える。

3 【法の目的】障害者権利条約の国内法に向けて、「権利」としての支援を明確に法の目的に掲げる必要があること、制度の谷間に置き去りにされてきた人にスポットを当て、誰もが排除されないインクルーシブ社会の実現をめざす。

4 改革の理念のポイントを明記する規定
【保護の対象から権利の主体への転換】【医療モデルから社会モデルへの転換】【他の者との平等の権利】【個別事情に最も相応しい(合理的配慮を尽くした)支援の保障】【障害者の公的支援を請求する権利】【地域で自立した生活を営む基本的権利】【支援選択権の保障】【情報・コミュニケーション支援請求権の保障】【就労支援の実現の必要性】【介護保険との選択権保障】【障害児の支援】【障害福祉分野の労働者の人権保障】【相談支援を受ける権利の保障】

5 国、自治体の義務規定
【国の義務】1法制度整備・充実義務 2ナショナルミニマム保障義務、地域間格差是正義務 3財政支出義務 4制度の谷間解消義務 5長時間介護等保障義務
【所管省庁を横断した総合的支援】【国民への広報、啓蒙】【都道府県の義務】【市町村の義務】【市町村の説明責任】【事業所整備義務】

6 定義条項
【自立】【地域生活】【障害者支援の公的責任】【請求権】【支援】【自己決定】【合理的配慮】等

二 意見書

第一章 本法制定に至る経緯と障害者支援の基本原理
第1 障害者自立支援法導入に至るわが国の障害者福祉 措置から契約へ、そして自立支援法
第2 障害者福祉の基本原理 医学モデルから社会モデルへの改革

第二章 改革の必要性
第1 障害者権利条約の批准に向けた改革の必要性
第2 障害者自立支援法の問題点と是正
 1 自己責任論を障害福祉に持ち込むことの過ちの解消
 2 障害福祉の公的責任強化・増大の確認
第3 脆弱なわが国の障害者福祉水準
 1 世界水準とかけ離れた劣悪な障害者福祉水準の引き上げの必要性
 2 国民一般とかけ離れた所得水準と家族依存状態の解消の必要性

第三章 改革の理念の確認
第1 障害者の基本的人権を実現するための権利保障法体系への変革…人権の主役へ…
第2 誰もが地域で当たり前に生きられるインクルーシブな社会の実現
第3 制度の谷間にこぼれおちない支援
第4 他の者との平等の権利の保障、個別事情に最も相応しい(合理的配慮を尽くした)支援
第5 障害の社会モデルへの転換…障害の自己責任、家族責任からの解放…
第6 公的支援を活用しながらの労働
第7 医療と福祉の連携の重要性、医療的ケアの地域での保障
第8 権利擁護機関の設置
第9 現行の民法等に基づく成年後見制度の抜本的改革の必要性の提言
第10 共生社会実現のための幅広い世論の共感が必要

第四章 論点と意見
第1 【法の名称】第2 【前文の必要性】法案に規定。
第3 【そもそも、この総合福祉法は、誰の何のためにつくるのか?】
障害をもつ人々が普通の市民として生きるため、そして全ての市民のためのものである。
第4 【憲法、障害者基本法等と「総合福祉法」との関係をどう考えるか?】
基本合意で確認された「障害者の基本的人権の支援」、憲法に基づく制度を明記。
第5 理念規定 作るべき。
第6 【「地域で生活する権利」の規定】 法文に明記。
第7 【障害者の自立の概念「家族への依存」の問題】
支援を受けた上での自律自己決定選択肢の保障。家族に依存することは否定されるべき。たんに経済的自活や、一人で何もかもできることではない。定義条項に明記。
第8、第9、第10 略
第11 【新法の守備範囲】社会生活上の支援を中心の守備範囲とする。
従来の障害者福祉の分野を基本としながらも、教育・司法・労働等にも横断的に適用できるような法制度とする。この法の支援は他の分野の垣根を超えて、制度の谷間のない(シームレスな)支援を実現するため、柔軟に利用できる制度
第12 【身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法、児童福祉法、その他の既存の法律のあり方、並びに総合福祉法との関係についてどう考えるか?】
当面は、関連法の必要な改正。身体・知的・精神の障害別3法は廃止の方向性を確認しつつ、5年から10年等の中長期的課題として実務的課題として進める。
精神分野については精神保健福祉法廃止とともに精神医療の充実のためにも精神に特化しない医療基本法および患者の権利法制に統合するべきである。新法の理念に則して、社会福祉法の改正も必要。また発達障害者支援法も今後発展的に新法に包括・統合されるべきである。
第13 【地域生活移行促進のための時限立法の必要性】
「地域支援充実と地域移行促進法(仮称)」といった時限立法制定と施行が必要である。
この点は、地域資源チームが主に検討していただきたい。
また、このプロジェクトが国民的課題として周知され、官民一体となったムーブメントとなるよう、政府広報を行うことはもとより、定期的に番組を放映する、民放を含めテレビで積極的に取り上げてもらうよう活動するなど積極・果敢な活動が必要である。

以上


総合福祉部会 第12回(H23.2.15) 資料2

「障害」の範囲チーム 作業チーム報告

平成23年1月25日

1 本作業チームにおける検討範囲

(分野B 障害の範囲)に列挙された各論点

2 作業チームにおける各論点についての議論

(1)項目B-1 法の対象規定について

ア 論点
論点B-1-1) 推進会議では、障害の定義について、「社会モデルに立った、制度の谷間を生まない定義とする」ことが確認されている。これをふまえた、「総合福祉法」における障害の定義や支援の対象者に関する規定をどう考えるか?
論点B-1-2) 「自立支援法」制定時の附則で示されていた「発達障害、高次脳機能障害、難病(慢性疾患)」等も含みこんだ規定をどうするか?制限列挙で加えるのか、包括的規定にするのか?
イ 結論
前記アの各論点についての作業チームにおける議論の結果は、別紙1「障害」の範囲チーム~「障害」の定義規定に関する検討整理案記載のとおりである。

(2)項目B-2 手続き規定について

ア 論点
論点B-2-1) 障害手帳を持たない高次脳機能障害、発達障害、難病、軽度知的、難聴などを有する者を排除しない手続き規定をどう考えるか?
イ 結論
前記アの各論点についての作業チームにおける議論の結果は、別紙2「障害」の範囲チーム~手続規定に関する検討整理案記載のとおりである。

以上


別紙1 「障害」の範囲チーム~「障害」の定義規定に関する検討整理案

第1 作業チーム案について

(作業チーム案)

「障害者とは、身体的または精神的な機能障害(慢性疾患に伴う機能障害を含む)を有する者と、これらの者に対する環境に起因する障壁との間の相互作用により、日常生活又は社会生活に制限を受ける者をいう。」

1 「身体的または精神的な機能障害」

(1)作業チームでは、当初、障害者権利条約1条後段における「身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害」という文言や、発達障害者支援法2条1項の「脳機能の障害」という文言を参考とした上、「その他これに類する機能障害」という文言を付して、障害の種類を例示列挙しつつ、包括的な規定とすることを検討した。

(2)しかし、特定の障害名に着目し例示列挙とする場合、どの特定障害名を例示列挙の対象として条文に明記し、どの特定障害名を「その他これに類する機能障害」の概念に包摂するものとするのかについて合意を得ることが難しい。また、例示列挙の対象となる障害名が多数にのぼり、条文が長くなることや、今後新たな障害が発見・認知された場合、これを例示列挙の対象とする要請が強まることが予想され、その都度、法改正作業が必要となる可能性があることなど、多くの問題点が指摘できる。

(3)そこで、特定の障害名に着目することを行わず、人の活動実態が身体活動と精神作用であることに着目して、「機能障害」の範囲を定めることが適切であるとの結論を得た。すなわち、「機能障害」とは、人の身体活動機能または精神作用機能の双方または一方が、その全部または一部において喪失し、または減弱した状態と捉えることとし、これを表す文言として、「身体的または精神的な機能障害」という文言を採用することとしたものである。このように捉えることにより、全ての「機能障害」を谷間なく拾い上げるとともに、今後新たに発見・認知される障害をも含み得る規定になると考えられる。

(4)なお、この「機能障害」が「長期的」なものであることを要するかについては、議論があるので、後述する。

2 「慢性疾患に伴う機能障害を含む」

(1)これは、難病が「機能障害」に含まれることを注意的に規定するため、挿入することとした文言である。

(2)難病に罹患した者は、日常生活を営む上で、医療的サービスとともに、福祉的サービスを受けることが必要となる。しかし、現実には、「疾患」は病であって医療的サービスの対象、「障害」は福祉的サービスの対象とする二者択一の立場が根強い。このような現状に照らせば、「機能障害」の解釈として、「疾患」によるものを除くとする解釈が採られかねない危険がある。

(3)そこで、本条における「機能障害」概念は、「疾患」に伴うものを排除しない趣旨であることを明らかとするため、「慢性疾患に伴う機能障害を含む」という文言を注意的に規定することとしたものである。このような文言は、医療サービスを受けながら、福祉サービスを必要とする障害者が多数存在すると考えられることや、従来、制度の谷間に置かれていた発達障害、高次脳機能障害、難病の他、精神障害など、症状が固定せず、可変的な障害者が、医療サービスを受けつつも、本法の支援の対象者であることを確認するために挿入することとしたものである。

3 「これらの者に対する環境に起因する障壁との間の相互作用により」

(1)この文言は、障害者権利条約の前文(E)項を参考としたものである。

(2)「障害」をどのようなものとして捉えるかについては、作業チームにおいて、障害者が他の者と平等な立場で社会に参加することが阻害されていることとして捉えること、すなわち「参加障害」として捉えることで意見の一致をみたが、人間が生物としての存在である以上、「機能障害」の側面を無視する規定となっては、「障害」の概念自体が漠然としすぎるきらいがあるとの指摘がなされていた。

(3)そこで、作業チームとしては、「障害」を、「機能障害」を起点としつつ、最終的には「参加障害」として捉えることで意見の一致をみた。そこで、作業チームとしては、「機能障害」と「環境に起因する障壁との相互作用」が「参加障害」の原因であることを定めることを一案とすることとした。

(4)なお、「環境」の内容、及び「相互作用」を規定するか否かについて、議論があるので、後述する。

4 「日常生活または社会生活に制限」

(1)この文言は、障害者基本法2条、発達障害者支援法2条2項でも用いられている表現であり、「障害」を「参加障害」として捉える場合、具体的にどのような点で参加が阻害されているのかについて、その阻害内容を包括的に定めようとするものである。

(2)この文言の解釈にあたっては、「生活」、「制限」の内容を狭く解されないよう注意する必要がある。この「生活」という文言は、「生活上の主要な活動」という意味に狭く解されるべきではなく、また、「制限」という文言は「多大な支障」という意味に狭く解されるべきではない。前述したとおり、「障害」を障害者が社会に参加することを阻害される状態(参加障害)として捉える以上、「生活」とは主要な活動であるか否かを問わず、また「制限」とは多大な支障であるか否かを問わず、広く障害者の社会への参加が阻害される状態を含むものとして解される必要がある。

(3)また、この文言については、「継続的に日常生活または社会生活に制限」とすることや、「日常生活または社会生活に相当な制限」とすることなどの案がある。このように「継続的に」や「相当な」という文言の双方または一方を付するか否かについては、議論があり、後述する。

第2 要検討事項

論点1 例示列挙の要請について

(1)本作業チームにおいては、「身体的または精神的な機能障害」とすることで一致をみたが、特定の障害名に着目して、例示列挙を行うべきであるとの要請も強い。特に、発達障害については、既に発達障害者支援法が制定され、その対象者も相当数に達するとの調査結果があることから、身体、精神、知的に並ぶものとして発達障害を法文上明記すべきとの意見が、本作業チームでも出されている。

(2)これまで制度の谷間にあった障害については、法文に明記すべきとの要請が強いことは十分に理解されるべきである。高次脳機能障害、難病の他、社会の理解が得られにくいてんかんなど、社会の認知をはかるべき障害は多数に上る。

「障害」の定義規定については、障害者基本法の定義規定がどのように定められるのかという点との関係もあり、例示列挙の手法も含め、引き続き検討される必要がある。

論点2 「長期的な・・機能障害」とすべきかについて

(1)「長期的な」との文言を機能障害に付するべきとの意見は、一時的な機能障害は本法における支援の対象とはならないのではないかとの考え方に基づくものである。

(2)一時的な機能障害については、二つの見方が可能である。その一つは、一時的なものであれば、将来回復・治癒することが前提であるから、本法の支援対象から外しても問題はないとする見方であり、他の一つは、一時的なものであっても支援の必要性が存在する限り、本法の支援の対象とすべきであるとの見方である。前者は、支援の対象者が過度に広がりすぎることへの懸念から、定義規定自体に絞りをかけようとするものであり、後者は、定義規定には絞りをかけず、支援を申請する際の手続きにおいて、支援の必要性や支援の相当性を判断する中で、絞りがかけられれば十分であるとの考え方に基づくものである。

(3)いずれの見解を採用するかについては、手続き規定をどのように定めるのか、相談支援業務の内容などとの関連の中で判断していく必要がある。引き続き検討が必要な事項である。

論点3 「環境」、「障壁」、「相互作用」の内容について

(1)「環境」について

ア 「環境」の内容としては、一般的に、物理的環境、制度的環境、情報環境、心理・態度に伴う環境が含まれるとされる。

イ しかし、「態度」による「障壁」は、差別禁止法により解消されるべき問題であるとも考えられることから、本法に定める「環境」の内容としては考慮しなくてもよいのではないかとの見解も成り立つ。今後、「環境」という文言を用いる場合には、その内容を検討する必要がある。

(2)「障壁」について

この文言についても、内容が不明確となる可能性がある。どのようなものを「障壁」とするのかについては、その内容をある程度検討し、例示できるようにしていく必要があると考えられる。

(3)「相互作用」について

ア この文言についても、内容が不明確となる可能性がある。作業チームにおける議論では、内容が不明確であるがゆえに、この「相互作用」を用いない定義規定も検討する必要があるとされていたが、十分な検討を行うことができなかった。

イ 今後、「相互作用」という文言を用いる場合には、その内容をある程度検討し、例示できるようにしていく必要があると考えられる。

論点4 「継続的に・・制限」、「相当な制限」とすることについての議論について

(1)「日常生活または社会生活に制限」という文言に「継続的に」または「相当な」という文言を付するか否かについての議論も、論点2で述べたように、「障害」の定義規定自体に絞りをかけるのか、定義規定自体には絞りをかけず、手続き規定における支援の必要性や支援の相当性を判断する中で絞りがかけられればよいとするのかに関わる議論である。従って、手続き規定の定め方、相談支援業務の内容とも関連する問題として、引き続き検討する必要がある。

(2)ただ、いずれの立場を採用するとしても、これを判断する者の問題は残ると考えられる。どのような者に判断を委ねるのか、判断者は一人か複数か、判断が区々にならないような方策をどのように立てるのかなどが、引き続き検討される必要がある。

以上

(部会委員からの追加意見)

  • 「慢性」と認定される期間の検討が必要である。新法における「障害者」と認定されるためには、一定の期間継続の要件を付すことによる線引きが必要である。
  • 「難病」の内容について、具体化する必要がある。

別紙2 「障害」の範囲チーム~手続規定に関する検討整理案

第1 手続規定における論点について

手続規定の議論においては、定義規定で定められた障害者が、その者が必要とする支援を受けることができるようにする手続きを定めることになる。すなわち、支援を必要とする者が(支援の必要性)、その必要に応じた相当な支援(支援の相当性)を受けられるような制度が議論されなければならない。したがって、ここで議論すべき点は、以下のように整理することができる。

A 支援の必要性をしめす指標
 A1 「機能障害」を示す具体的資料
 A2 本人の支援申請行為
 A3 環境による障壁との相互作用により、日常生活または社会生活に制限を受けている事実の認定

B 支援の相当性の確保
 支援の必要性に応じた相当な支援計画の策定のための方法

第2 A1 「機能障害」を示す具体的資料

1 基本方針

機能障害の存在を示すための資料としては、従来、障害者手帳が用いられてきた。しかし、新法における支援は、手帳の有無に関わらず、支援を必要とする障害者が、自らの必要とする支援を受けられるようにしなければならない。本作業チームにおいても、このような基本方針の下に、議論を行った。

2 作業チームにおける議論

(1)機能障害を示す具体的資料としては、まず、医師の診断書の利用が考えられる。医師の診断書は、機能障害の存在を示す資料として、公正性が担保される点で優れているが、他方で、発達障害、高次脳機能障害、難病など、医師の診断書が得にくい場合も考えられる。

(2)そこで、公正性を確保しつつ、医師の診断書が得られにくい場合に対処する方策としては、以下の2つの方策を検討すべきであるとの意見が出された。

①医師の診断書に限定せず、意見書でもよいものとする。
②「機能障害」の存在を判断する者を医師のみとせず、その他障害特性に関して専門的な知識を有する専門職の意見でもよいとする。

(3)特に、前期②に関しては、具体的な専門職として、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士、発達心理士、精神保健福祉士、看護師などが挙げられている。

(4)また機能障害の認定に際しては、各障害当事者団体が有する認定基準を用いることも一方法として考え得る。各障害当事者団体の有する認定基準を用いる場合には、公正性を確保し、国民の理解を得られるよう、公表することが検討されなければならない。

(5)なお、この「機能障害」には、「長期的な」という文言が付される余地も残されている。この「長期的な」という文言が付された場合、その期間をどの程度とするのかについて、議論がなされる必要がある。また、障害の性質によっては、症状を発祥した後、速やかな支援の実施が必要な場合も考えられ、このような緊急性の要請がある場合と、「機能障害」の認定のために一定期間の経過を必要とする「長期的な」という文言を付すこととの調整が検討課題となると考えられる。

第3 A2 本人の支援申請行為

1 基本方針

「保護の客体から権利の主体へ」という基本的立場を前提とする以上、新法における支援の提供は、まず、障害者本人の意思に基づく申出が必要となる。本作業チームにおける議論も、この点を出発点としている。

2 作業チームにおける議論

(1)障害者の場合、障害者本人が十分に支援の必要性を理解し、申請を行うことができない場合も考えられる。このような場合には、家族など、障害者本人の生活を支える関係者の意見を、障害者本人の意思を推認するものとして考える必要がある。従って、新法においては、障害者本人の家族による支援の申請も許容することが望ましい。

(2)ただ、家族が抱える事情も様々であって、家族であっても障害の理解が不十分な場合や、障害者本人の立場を尊重していない場合なども考えられる。家族からの申請を許容する場合には、どのような支援が必要であるのかについて、相談支援機能の充実をはかり、障害者本人や、その家族をサポートしていく体制を整える必要がある。相談支援事業の一内容として、第三者アセスメントの制度が検討されてもよいと考えられる。

(3)また、障害者本人のみならず、その家族においても、障害の理解が十分ではなく、必要な支援の申請にさえ結びつかない場合も考えられる。このような場合に備えて、相談窓口と、障害者本人、またはその家族とを結ぶためにも、地域ネットワークの構築をはかる必要がある。

(4)申請行為に用いる申請用紙には、予め特定障害名を列記しておき、これを定型として全国一律に用いる方法が考えられる。「障害者」の定義規定において、「身体的または精神的な機能障害」という包括規定により定める場合、あらゆる障害を包摂して谷間を生まない利点がある反面、具体的にどのような障害が含まれているのかが条文上は不明確となってしまう。そこで、この包括規定の具体的内容を申請用紙に列記することにより、利用者に対して包括規定の内容を明らかにすることが望ましいとの意見が出されている。しかし、この意見に対しては、申請用紙上の列記だけでは法的拘束力に欠けるとの問題点を指摘する意見も出されている。

(5)申請行為における支援の申込み方法には、以下のような複数の方法が併用されてよいと考えられる。

①申請者が特定の支援を申し込む方式
②申請者が相談窓口において必要な支援の提案を受ける方式
③申請者が特定の支援を申込んだ場合であっても、相談窓口でその他に必要と考えられる支援の提案を受けることができる方式

第4 A3 環境による障壁との相互作用により、日常生活または社会生活に制限を受けている事実の認定

1 基本方針

この要件は、「障害」を社会モデルを基調として捉える立場から、障害者権利条約の前文(E)項をを参考として、新法における「障害者」の定義規定に取り込んだものである。しかし、「環境」、「障壁」、「相互作用」という必ずしもその内容が明確ではない文言が含まれるため、新法における支援を求める手続きの中で、どのような事実をもってこれらの要件を認定していくのかが検討される必要がある。

2 作業チームにおける議論

(1)この要件については、以下のような疑問点が出された。

①遷延性意識障害など、障害によっては「環境」とは無関係に支援が必要な場合が考えられるのではないか。
②障害者本人が支援を申請する際に、「障壁」、「相互作用」の各要件を認定するために必要な事実を挙げなければならないとするのでは厳格にすぎるのではないか。

(2)これに対して、障害者本人から支援の申請がなされれば、申請行為の存在という事実をもって、申請した障害者本人が「環境による障壁との相互作用により、日常生活または社会生活に制限」を受けていることを推認することができると考えれば問題はないとの意見が出されている。そして、障害者本人が、具体的にどのような「環境による障壁との相互作用」によって、どのような「日常生活または社会生活に制限」を受けているのかは、相談支援員が個別のケースに応じた支援計画を策定していく上で確認することが必要となる事実であるから、障害者本人が申請時にこれらの要件に該当する事実を挙げる必要はないとする。

(3)また、「環境に起因する障壁」の原因が人的要素にある場合には、差別禁止法上の「合理的配慮」によって解消すべき問題ではないかとの指摘も出されている。「障壁」の原因には種々のものが考えられることから、相談支援員は十分に障壁の原因を特定した上で、これを除去するために適切な方策として、総合福祉法における「支援」と、差別禁止法における「合理的配慮」のいずれが適切な方策であるのかを選択していく必要が生じる可能性がある。

(4)なお、「日常生活または社会生活に制限」の要件については、「継続的な」、「相当な」という文言が付される余地が残されている。このような文言が付された場合には、「制限」を受けている期間の長短が「継続」性の認定にあたり必要となり、「制限」を受けている程度が「相当」性の認定にあたり必要となる。この点についても、公正性を担保するため、一定の基準が議論される必要が生じる可能性がある。

第5 B 支援の相当性の確保

1 基本方針

新法における支援は、障害者本人にとって必要とされる支援が、その必要性に応じて提供されなければならない。そして、障害者本人に提供される支援は、支援計画の策定の段階から、提供された支援が適切なものであったかどうかに関する事後的なチェックに至るまで、障害者本人の意思が反映されたものにする必要がある。

2 作業チームにおける議論

(1)支援計画の策定の段階においては、障害者本人のニーズを十分に把握する必要がある。そのための方法としては、現在、例えば、生活困難度の尺度の研究が進められているところであるが、このような基準作りの検討も、障害者本人のニーズの把握のために重要である。

(2)支援計画の具体的内容については、予め定められた支援メニューを割り振るような定型的な方法ではなく、障害者本人のニーズに応じて柔軟に決する方法、すなわち創設的に支援計画の内容を決する方法がとられることが望ましい。この支援計画の策定にあたっては、ケース会議などの手法により、数人のチームにより対応することも検討されるべきである。

なお、障害者本人の症状や、置かれた状況によっては、即時に支援が必要となる場合も考えられる。このような場合には、支援計画の策定がなされる前であっても、仮の支援計画を策定し、必要不可欠な支援を即時に実施することができる途を開いておくことが望ましい。

(3)また、決定された支援計画に沿って、試行的に支援を実施する期間を設けることも検討されてよい。このような試行的な支援の実施に対して、障害者本人の意思を聞き取り、この意思に基づいて支援計画を修正していくことが重要である。

(4)支援計画が策定された後においても、障害者本人から継続的にヒアリングを実施し、当初策定した支援計画に対する事後的な検証を行うことが必要である。障害者本人の症状や、障害者本人を取り巻く環境は、時の経過とともに変化していく可能性があり、当初策定した支援計画が、現時点における障害者本人のニーズに合致していない場合も考えられる。そこで、これを是正する機会を確保するため、障害者本人からは継続的なヒアリングを実施し、当初策定した支援計画と、本人のニーズとの間にずれが生じている場合には、支援計画に修正を加えていく必要がある。

(5)以上のような、支援計画の策定から事後的な検証に至る過程において、各障害当事者団体との連携は重要である。各障害当事者団体は、長年にわたり、社会の理解をはかるため、さらには、制度の創設・改善を求めて努力を重ねてきている。このような各障害当事者団体の障害特性に関する知識と経験、あるいは障害者本人の心情、家族の心情などに関する知識を、支援計画の策定から事後的な検証に至る過程において活用していくことが、より障害者本人のニーズに応じた支援計画のあり方につながると考えられる。

(6)また、支援計画に関する地域間格差が生じないように留意する必要がある。特に、社会における認知・理解が不十分な障害については、市町村レベルに至るまで、十分な理解がはかられるよう、官民一体となった努力が必要である。重症心身障害児など、対象者が希少な障害については、窓口の設置場所に工夫を加えることも必要ではないかという意見も出されている。

第6 手帳制度について

本作業チームでは十分に議論することができなかったが、現行の手帳制度については、よりよいものとするために、その問題点や具体的改善策などを議論する場を別途設けた上で、議論を尽くす必要があるとの意見が出されている。

今後の要検討事項として、委員会を立ち上げるなどの具体策を求めたい。

以上

(部会委員からの追加意見)

  • 「機能障害」にも原因が不明な場合があり、この場合には、医師も専門職もまったく協力できない。こうした場合に機能障害を示す客観的資料をどう確保するのか疑問がある。
  • 現行各種手帳制度は医師の診断書に基づいて交付されており、手帳がなく、診断書を得にくい谷間にある方々には、医師の意見書などが有効であるから、医師の診断書の表記は不要と考える。
  • 相談窓口で対応する職員の裁量権について検討されたのかが疑問である。

総合福祉部会 第11回(H23.1.25) 資料5-2

「障害」の範囲チーム 作業チーム報告 要旨

1 法の対象規定について

ア 論点
「社会モデル」の視点をふまえた、制度の谷間を生まない障害者の定義は?
イ 結論
「障害者とは、身体的または精神的な機能障害(慢性疾患に伴う機能障害を含む)を有する者と、これらの者に対する環境に起因する障壁との間の相互作用により、日常生活又は社会生活に制限を受ける者をいう。」
ウ 説明
「身体的または精神的な機能障害」
「慢性疾患に伴う機能障害を含む」
「これらの者に対する環境に起因する障壁との間の相互作用により」
「日常生活または社会生活に制限」
エ 要検討事項
例示列挙の要請について(法律では包括的規定とし、申請用紙に障害名を列挙して理解促進を図るなど)
「長期的な・・機能障害」とすべきかについて
「環境」、「障壁」、「相互作用」の内容について
「継続的に・・制限」、「相当な制限」とすることについて

2 手続き規定について

ア 論点
障害手帳を持たない障害者を排除しない手続き規定は?
イ 結論
支援を必要とする者が(支援の必要性)、その必要に応じた相当な支援(支援の相当性)を受けられるような制度が求められる

A 支援の必要性をしめす指標
 A1 「機能障害」を示す客観的指標(支援の必要性を示す客観的側面。障害者手帳、医師の診断書・意見書、その他の専門職の意見など)
 A2 本人の支援申請行為(支援の必要性を示す主観的側面)
 A3 環境による障壁との相互作用により、日常生活または社会生活に制限を受けている事実の認定

B 支援の相当性の確保
 支援の必要性に応じた相当な支援計画の策定のための方法


総合福祉部会 第12回(H23.2.15) 資料3

相談支援・支給決定作業チーム報告

Ⅰ.はじめに

作業チーム検討範囲

当作業チームでは、第一期の検討範囲として、自己決定支援・相談支援(論点C-1)について、現状の問題点や課題を明らかにし、新法においてのあるべき姿について検討を行った。現在の障害者の相談支援事業については、おもな問題点としては、

①地域支援事業に位置付けられていること等により、市町村による格差が大きいこと【市町村格差】
②相談支援事業についての十分な理解が定着していないために、問い合わせや情報提供といった「一般相談」をイメージした体制整備にとどまり、具体的な生活を支援するための踏み込んだ訪問相談や同行支援、継続的な支援を行うのが難しい状況にあること【相談支援体制の不備】
③各相談事業の守備範囲により、対象や制度に合わせて対応せざるをえず、限定的な支援となってしまうか、または他の相談機関に「たらいまわし」になりがちであること【限定的な支援】
④手帳を所持していない谷間の障害に十分に対応できていないこと【谷間の障害への未対応】
⑤横断的な課題をもった複雑なニーズをもつ人の相談支援に十分にこたえきれないこと【横断的な対応の不備】
⑥難病(難治性慢性疾患)、高次脳障害、発達障害など、障害特性に応じた専門的な相談支援が必要な場合に、身近な地域での相談支援が整備されていないこと【障害特性に応じた専門相談体制の不備】
⑦前記④~⑥を支えるための他職種・機関の連携・調整の制度的な保障がないこと【他職種・機関との連携調整体制の不備】
⑧これらの相談支援体制にかかわる専門職を含めた人材が大幅に不足していること【人材の不足】

などがあげられた。

また現在の支給決定と相談支援の関係においては、

①本人の希望やニーズを聴ききとり、必要な支援についての計画を立案する以前に支給決定がおこなわれているため、ほとんど計画策定のための相談支援に至らない。
②障害程度区分により国庫負担基準が定められているため、市町村によっては、これが上限設定となってしまい、ニーズがあっても支給に反映されない場合がある。

などがあげられた。

今回の報告では、これらの現状の課題をふまえて、地域で暮らすために、障害のある本人のセルフマネジメント、また支援付き自己決定を支える相談支援の在り方について、その役割と機能、および相談支援体制について示した。

さらに、「協議・調整による選択と決定のプロセス」(C-3-1)についても、合わせて検討した。なお、第一期の検討にあたっては、以下の点に留意した。

①目的の順守 本人の思いに添う支援体制づくり
②目標 目的に添って機能しやすい支援体制づくり
    当事者参画によるシンプルでわかりやすい仕組み

Ⅱ.結論

新たな相談支援の在り方について

相談支援のあり方の抜本的な見直し(質と量)、エンワパワメント支援、ピアカウンセリング、ピアサポートの充実についての検討結果は以下のとおり。

論点表(C-1-1)、(C-1-2)、(C-1-3)、(C-1-4)

1.「自己決定支援」及び「相談支援」の目的と内容

○障害の特性や状態によって、コミュニケーションや自己表現の在り方は異なることはいうまでもないが、相談支援は、「障害のある人が地域で暮らし、社会参加していくための自己決定や選択を、その人の立場にたって支援する」ことが目的である。

○さらに、障害のある当事者、家族自身が支援を通じてエンパワメントされていくことも、相談支援の重要な目的として位置づける。

○相談支援の対象は、福祉制度を利用する際の相談のみでなく、障害、疾病などの理由があって生活のしづらさ、困難を抱えている人びとに、福祉・医療サービス利用の如何に関わらず幅広く対応する。

○当事者の抱える問題全体に対応する包括的支援の継続的なコーディネートを行う。

○障害のある人のニーズを明確にするとともに、その個別のニーズから、新たな地域での支援体制を築くための地域への働きかけも同時に行う。⇒障害のある個人に対する働きかけと、地域への働きかけを行う。(自立支援協議会との連携の在り方を明確にする。)

2.相談支援の機能と体制について図1参照)

(1)多層的相談支援体制の整備充実と各相談機関の役割と機能

○地域相談支援センター、総合相談支援センター、広域専門相談支援センターの配置を基本とし、多層的な相談支援体制を整備する。

○地域相談支援センター、総合相談支援センター(総称して、以下相談支援事業所とする)は、障害当事者の側に立って支援することから、給付の決定を行う市町村行政やサービス提供を行う事業所からの独立性が担保される必要がある。そのため、都道府県・政令市が指定することを基本とし、地域の実情に合わせて障害保健福祉圏域単位や市町村域の単位で障害当事者や障害福祉関係者、行政関係者が参画する運営委員会の設置などを通じて、必ず運営のチェックが実施されることを担保する。財源は出来高払いではなく、人件費相当の義務的経費による。(相談支援の事務所等の確保・整備にかかる費用も含む)

○相談支援事業所は、市町村ないしは広域連合、及び都道府県・政令市の自立支援協議会の運営(事務局)の任を行政とともに担い、相談支援から見えてきた新たなニーズに対応する地域資源開発を行う。(これについては、地域資源整備チームにおける検討内容との調整が必要)

○相談支援事業所間の連携を目的とした、対応困難事例を含めた情報交換や相談が可能となる仕組みを構築する。

(2)地域相談支援センターの規模と役割

○地域相談支援センターは、もっとも住民の生活に身近な圏域(人口3~5万人に1ヶ所を基準とする)を単位に、都道府県が市町村と協議して一定の条件を満たした事業者に事業を委託して設置する。(都道府県指定、国庫補助事業とすることについては、第二期で継続検討とする)

○本人に寄り添った相談支援(アウトリーチを含む)、継続的な相談支援を行う。具体的には、下記のような人への対応を想定する。

①支援を受ければ、ある程度希望の実現やニーズの解決が想定できる人
②生活の質の維持や社会参加に継続してサービスを利用する必要があり、また希望の表明や制度手続き、サービス調整などに一貫した支援を希望する人
③社会資源の活用をしておらず、生活が困難な状態にあり社会参加が果たせていない人(手帳をもたない人も含む)
④部分的にサービス等を利用しているものの、生活の立て直しを必要としている人
⑤既存のサービス等では解決困難な生活課題を抱えている人
⑥家族等の身近な関係のなかで問題を主体的に相談できる人がおらず、踏み込んだ支援を必要としている人(虐待を含む)
⑦その他、相談支援を希望する人

○地域相談支援センターのみの支援では困難な場合は、総合相談センターおよび広域専門相談機関に協力や助言、直接の対応を要請する。具体的には上記のうち、③④⑤⑥を想定する。

○一定の研修を受講した相談支援専門員(仮称)3名以上を配置する。(相談支援専門員の条件、研修等の在り方については第二期で検討する)

○所属する相談支援専門員は、希望する人を対象に本人中心支援計画・サービス利用計画を策定できる。

(3)総合相談支援センターの規模と役割

○総合相談支援センターは、15万~30万人の圏域を単位に、都道府県が市町村と協議して一定の条件を満たした事業者に事業を委託して設置する。(都道府県指定、国庫補助事業とすることについては第二期で継続検討とする)

○一般相談のなかで、特に複雑な相談事例について対応する。具体的には地域相談支援センターからの要請に応じて③④⑤⑥の対応にあたる他、長期に入院・入所をしている人の地域生活への移行の相談、刑務所等から出所してくる人の相談等に対応する。

○地域相談支援センターへの巡回を含めた相談支援専門員のスーパービジョン、および人材育成(研修)を行う。

○一定の研修を受講した相談支援専門員5名以上を配置する。

○所属する相談支援専門員は、希望する人を対象に本人中心支援計画・サービス利用計画を策定できる。

(4)広域専門相談支援センターの規模と役割

○広域専門相談支援センターは、都道府県を単位として設置された、障害特性に応じた専門相談を担う。具体的には、身体・知的障害者総合相談センター、精神保健福祉センター、発達障害者支援センター、視覚障害者支援センター、聴覚障害者支援センター、難病相談支援センター、地域定着支援センターなどを含む。

○障害種別、特性に応じた専門的な総合相談を実施する。

○地域相談支援センター及び総合相談支援センター等への専門的助言や専門的人材の養成支援を行う。

○本人中心支援計画・サービス利用計画策定にあたっての助言を行う。

(5)地域におけるエンパワメント支援(C-1-2)について

○身近な地域での相談支援体制(市町村、広域圏、人口5万~30万人)に最低1ケ所以上、障害のある当事者等によるピアサポート体制(エンパワメント支援事業)を位置づける。

○エンパワメント支援事業は、障害のある人たちのグループ活動、交流の場の提供(たまり場機能)、障害当事者による自立生活プログラム(ILP)、自立生活体験室、ピアカウンセリングなどを提供することで、地域の障害者のエンパワメントを促進することを目的とする。

○エンパワメント支援事業を実施できるのは、当事者やその家族が過半数を占める協議体によって運営される団体とする。

○エンパワメント支援事業は、地域相談支援センターに併設することができる。

3.相談支援に基づく本人中心支援計画、サービス利用計画の策定について図2参照)

○本人中心支援計画(本人のニーズに基づく総合的な生活プラン)、サービス利用計画(法が求めるサービス利用計画)を定義する。

○本人中心支援計画とは、本人の希望に基づいて、相談支援事業所(地域相談支援センター、総合相談支援センター)の相談支援専門員が本人とともに立案する生活設計の総合的なプランとする。本人の希望を聴き取り、その実現にむけた本人のニーズとその支援のあり方(インフォーマルな支援も含めたもの)の総合的な計画策定となる。

本人中心支援計画立案の対象となるのは、セルフマネジメントが難しい支援付きの自己決定が必要な人で、相談支援専門員は本人に寄り添い、本人の思いや希望を明確化していく。

○サービス利用計画とは、法律による福祉サービス等を利用するにあたって、市町村に提出する計画。

本人のニーズに基づいて、福祉サービス等の利用希望を明らかにする計画となる。

(本人自身による策定、または相談専門支援事業所が、本人とともに策定することができる。)

○サービス利用計画の提出は、法律によるサービスを利用申請する際に必須とする。

4.支給決定の仕組みについて図3参照)

C-3-1 協議・調整による支給決定プロセス

第一期は、その概要について示すこととし、より詳しいシステム(特にガイドラインの在り方など)などは、第一期のサービス体系の提案などをもとに、第二期でより具体的に検討をすることとした。

○支給決定の仕組みについては以下のとおりとする。

①支給決定にあたっては、本人(または相談支援機関)と行政の協議調整を前提とする。実施主体である市町村が支給決定についての決定権(責任)をもつ。
②本人、または本人と相談支援事業所が、本人のニーズをもとに「サービス利用計画」を策定し市町村に申請する。
③市町村は、まずガイドラインに基づいてアセスメントを行う。
④ガイドラインは、市町村がサービス利用計画の内容に基づいて支給決定をするためのアセスメントの「水準・モデル」であって、基準や上限を示すものではない。ガイドラインは、全国レベルの方向性をふまえて、市町村で策定する。(ガイドラインの指針などのより詳細な内容等は、第二期でさらに検討する)
⑤個別のニーズに応じて、本人、本人及び相談支援専門員と市町村間で「協議・調整」を行い、市町村が支給決定をする。協議調整は、「障害のない人の地域生活の水準」及び、「支援事例」に基づいて検討する。
⑥支給決定内容に関して、ガイドライン及びこれまでの「支援事例」等では判断が困難な事例に関して、市町村は「合議機関」にその意見を求めることができる。(合議機関の詳細については第二期で検討する。)
⑦支給決定内容に対して、本人は「市町村ごとに設置された不服申し立て機関」に申し立てをすることができる。(不服申し立て機関の詳細は第二期でさらに検討)
⑧サービス実施後モニタリングを行い、支援困難事例などについて、相談支援専門員は自立支援協議会に報告する。
⑨個別のサービス実施状況のモニタリング結果を受けて、自立支援協議会において、ガイドラインの見直し、社会資源開発などについて検討する。

Ⅲ.第二期作業チームでの検討事項

第1期の相談支援体制を踏まえて、協議調整による支給決定システムの明確化を行う

○論点は
C-2-1 現行の支給決定・障害程度区分の評価
C-2-2 国庫負担基準の評価
C-3-2 支給決定にあたっての必要なツール
C-3-3 自治体担当者のソーシャルワーク機能
C-3-4 不服審査やアドボカシーの仕組み

○そこで以下の事項について、第二期で検討する。

(1)現在の障害程度区分や支給決定についての評価と問題点の検討
(2)支給決定にあたって必要なツール(ガイドライン・支援の必要度や支給決定のためのアセスメントなど)のあり方と策定の指針について
(3)支給決定に際しての「合議機関」の設置や役割についての検討
(4)不服審査やアドボカシーの仕組み
(5)相談支援専門員(仮称)の役割や位置づけおよび研修体制(当事者相談員も含む)の在り方
(6)障害者自立支援法改正法(つなぎ法)」における相談支援の関する、基幹相談支援センター等の施行規則や運用基準等が、今後の新法の方向性と矛盾することがないよう、「つなぎ法」の施行規則や運用基準等を精査するとともに、その整合性について検討する

尚、(2)(3)については、委員から、ニーズアセスメント調査の実施や支給決定モニタリング委員会の設置という具体的な提案が出ていることから、この提案についても検討をしっかりと行う。

他の作業チームへの申し送り・調整事項

○法の範囲にある障害を有するか否かの判断については、法の範囲チームの「B-2続き規定」の結果による
○相談支援機関から、地域に対する働きかけを担保する仕組み(自立支援協議会の役割と相談支援機関との関係性について)を設定する
○児童分野、就労分野の相談支援体制(現行の就業・生活支援センター等のあり方の再検討を含む)との関係についての調整が必要
○長時間介護の財源調達は、地域生活資源整備チームで検討する(C-2-2)

付記(本報告に対する部会委員からの主な意見は以下のとおり)

○障害者をすべて悩める人と捉えることを前提とする重層の相談支援体制については疑問がある。これに財源を投入することが国民的な理解を得られるとも思われない。

○「重層的」の実践内容が見えない。精神障害の人など自ら窓口に行きづらい人に対して、身近なところで適切に相談に応じられる体制について更に検討してほしい。

○相談支援事業所を人口比で設置すると、アウトリーチを考慮しても、過疎地では利用が難しい。面積も考慮した配置が必要ではないか。また他の自治体の相談支援事業所も利用可能とすべきである。

○支給決定と相談支援を同じチームで議論することについて、そもそも違和感がある。支給決定のための支援と相談支援、特に権利擁護(アドボケーター)としての役割は分けて整理するべきである。またこの権利擁護組織については、障害者運営による団体が適切と考える。

○支給決定前に支援計画をつくるというのは協議・調整モデルではない。協議調整の場で支援計画を策定すべきである。

○協議・調整におけるガイドラインを作成するのであれば、本人中心とエンパワメントを徹底した内容とするべきである。

○平成24年度実施予定の「児童発達支援センター」の役割も含めて、障害児やその家族の成長や不安に対する相談支援体制についても言及すべきである。

○相談支援事業所に対して人件費を保障するのは、委託になるので反対である。後発の組織が自由に参入できるように、指定制度として出来高払い制度(単価を上げ、交通費等の実費払いとする)とすべき。

○人工呼吸器利用者、24時間介護利用者、ALS患者、重度脊髄損傷者等の特に高度な専門的ノウハウを要する場合など、都道府県単位の相談支援体制では対応が難しい際には、全国レベルの広域センターが対応できるようにすべき。その際本人中心支援計画、サービス利用計画の策定も可能とすべきである。

○支給決定内容に対しての不服申し立て機関については、市町村のみでなく、都道府県レベルでも必置とすべき。また障害者基本法に基づく都道府県障害者政策委員会が、市町村のガイドラインについてモニター機能を担うこと。

図1.多層的相談支援体制

図1.多層的相談支援体制

都道府県・政令指定都市
<広域専門相談支援センター>
難病相談支援センター
発達障害者支援センター
高次脳機能障害相談支援センター
精神保健福祉センター
身体・知的障害者総合相談センター
視聴覚障害者支援センター
ハローワーク
定着センター
保健所 広域
基礎自治体人口別設置基準(※都道府県が指定) 30万人 総合相談支援センター 地域相談支援センター

当事者エンパワメント支援
地域相談支援センター

6箇所以上(内、最低1箇所は『当事者エンパワメント支援事業併設型』)
 
行政、当事者などによる運営委員会等よるチェック体制を設ける
 
15万人 総合相談支援センター 当事者エンパワメント支援
地域相談支援センター

3箇所以上(内、最低1箇所は『当事者エンパワメント支援事業併設型』
3~5万人   当事者エンパワメント支援
地域相談支援センター

or

地域相談支援センター

1箇所以上

図2.相談支援における、自治体ガイドラインと本人中心支援計画/サービス利用計画/個別サービス計画との関係と、協議調整のイメージ

図2.相談支援における、自治体ガイドラインと本人中心支援計画/サービス利用計画/個別サービス計画との関係と、協議調整のイメージ

本人の想い、希望

本人エンパワーメント支援機関

国の方向をふまえた各自治体のガイドライン

  • 家族関係の調整
  • 地域住民との協同

現状のサービスでは対応できないニーズ

  • アドボカシー
  • 社会資源開発等

協議調整による支給決定
本人(&相談支援者等)⇔自治体担当者

A事業所
B事業所
C事業所

多層的相談支援機関

本人中心支援計画(ORセルフケアプラン)

本人サービス利用計画(市町村に提出)

個別サービス計画(協議調整による支給決定後の、サービス事業所別のプラン)

図3.支給決定のフローチャート

図3.支給決定のフローチャート

エンパワメント支援<ピアサポート>
・ピアカン
・ILP
・自立生活体験室等

本人・家族

相談(情報提供含む)

本人(セルフマネジメント)
サービス利用計画
本人&相談支援機関
本人中心支援計画
サービス利用計画

※暫定支給決定

申請

※暫定支給決定

※支給決定までの期間中、必要性と緊急性を勘案し、市町村が暫定の支給決定を行う。

合議機関(支給決定へのアドバイスなど)

地域自立支援協議会への報告
・ガイドラインの見直し
・社会資源開発等

行政(市町村)
ガイドラインによるアセスメント
協議・調整
本人or本人&相談支援機関

市町村

支給決定

サービス利用

モニタリング

不服申し立て機関

アウトリーチ

相談支援機関

総合相談支援センター 地域相談支援センター

広域専門相談支援センター


総合福祉部会 第15回(H23.6.23) 資料1-2

「障害の範囲と選択と決定~選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)第2期」部会作業チーム報告書

Ⅰ.はじめに

当チームでは、論点Cについて、第一期では主に自己決定支援及び相談支援体制についての提案を行った。第二期はそれを受けて、協議調整による支給決定システムをさらに明確に示すことを目的に検討を行った。第二期作業チームの論点検討範囲としては、C-2-1現行の支給決定・障害程度区分の評価、C-2-2国庫負担基準の評価、C-3-2支給決定にあたっての必要なツール、C-3-3自治体担当者のソーシャルワーク機能、C-3-4不服審査やアドボカシーの仕組みであり、具体的には、以下のような検討内容となっている。

  1. 現行の程度区分や支給決定の仕組みについての評価と問題点の検討
  2. 支給決定にあたって必要なツール(ガイドライン・支援の必要度や支給決定のためのアセスメントなど)の在り方と策定の指針について
  3. 支給決定に際しての「合議機関」の設置や役割について
  4. 不服審査やアドボカシーの仕組みについて
  5. 相談支援専門員(仮称)の役割や位置づけ及び研修体制(当事者相談員も含む)の在り方

検討経過としては、まず厚労省から示されたデータ等をもとに現状の支給決定の在り方(とくに障害程度区分の実態など)の評価を行った。さらにメンバーによる報告をもとに、諸外国の支給決定システムについて概観し、日本への適用についての意見交換を行った。また当事者と行政の協議調整による支給決定については、①先駆的な自治体事例として、西宮市の行政担当者へのヒアリングを行い、②千葉県内市町村の行政担当者に対しての意見交換も合わせて実施した。(ご多忙中にもかかわらず、ボランティアで参加いただいた自治体職員の方には深く感謝いたします。)合わせて、三回にわたる部会での議論を中心に、メンバー間で意見交換を行ったのち、作業チームとしての見解として報告することとなった。

Ⅱ.結論とその説明

1.現在の障害程度区分や支給決定体制の評価について

結論:

○現状の一次審査に用いられている機能障害の自立度を中心とした指標は、障害種別を超えた福祉的支援のニーズを反映するものとして妥当とはいえない。

○個別の利用者の特性や状況、特に社会的状況も踏まえた障害者のニーズを明らかにする新たな支給決定の仕組みとツールが必要である。

理由:

○現行の支給決定・障害程度区分については、知的障害、精神障害では、その一次判定から二次判定の変更率が4割から5割以上と極めて高いものとなっている。また判定結果の地域間格差も大きく、障害種別を超えて全国一律の客観的、公平な指標とするには課題が多い。

○また程度区分による利用制限や、国庫負担基準に連動しているために支給量の上限として用いられている実態もあり、基準を超えて支援が必要な重度障害者などの地域生活に影響を与えている。

○障害者基本法改正案においても、障害を「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義しており、障害の程度については、新たに社会的状況を勘案した指標とすることが妥当である。以上から、総合福祉法(仮称)では、本人から示された支援ニーズの妥当性を検討するための指針が求められる。

2.支給決定にあたって必要なツール(ガイドライン・支援の必要度や支給決定のためのアセスメントなど)の在り方と策定の指針について

結論:

○支給決定にあたっての基本的な考え方については、以下のとおり。

①支援を必要とする障害のある本人の生活と意向を基本とすること。
②その地域での他の者との平等を基礎として、必要な支給量が確保されること。
③一定程度の標準化が諮られ、公平性、透明性があること。
④申請から決定までわかりやすく、スムーズなものであること。

2-1.支給決定のプロセスは、原則として以下の流れとする。

①本人中心支援計画(支援付き自己決定のもとに)の策定。(全員ではない)

②法律の対象となる「障害」があることを確認する。(障害の範囲チームの報告では、各種障害者手帳のほか、医師の診断書、意見書など客観的指標による認定となっている。)事前に確認方法を示し、サービス利用計画策定に入る前に本人及び相談支援専門員が確認可能な対応をとるようにする。

③本人サービス利用計画(必要なサービスを申請する計画)策定(申請者全員が策定)をもとに市町村に申請を行う。

④本人サービス利用計画について、市町村がガイドラインに基づき、ニーズアセスメントを行う。

⑤ガイドライン水準を超える申請の場合、本人(及び支援者)と市町村による協議調整を行い、支給決定する。

⑥両者による調整が困難である場合、もしくは本人が第三者機関での調整を要請した場合については、市町村に設置された合議機関において検討し、その結果を受けて市町村が支給決定を行うことができる。

2-2.このシステムの前提条件として以下の点が重要である。

○本人の自己決定支援の抜本的な強化(日常的な支援者、当事者によるピアサポート(エンパワメント事業)の充実、相談支援システムの充実など)が具体的に諮られること。

○市町村のニーズアセスメント能力の向上が諮られること。OJT(研修体制)の充実。

○市町村の合議機関の役割と機能の明確化。

○支給決定プロセス全体について一定の共通事項をルール化し、公平性・透明性を担保すること。(支給決定プロセスの指針・ガイドラインの策定)

2-3.ガイドラインのあり方について

結論:

○ガイドラインは、法における権利性に基づいて、「その地域の他の者との平等を基礎として生活することを可能とする支援の水準」を示すものである。

理由:

○ガイドラインとは、障害のある人が住み慣れた地域で生活していくために必要な支援の必要度を明らかにし、その人の生活を支援する支援計画の作成過程において、公費により利用できる福祉サービスを明らかにすることを目的に作られるものである。

○ガイドラインの策定にあたっては、(1)利用者への説明、(2)支援の必要度の把握、(3)公費によるサービス提供水準、(4)市町村の障害者自立支援計画との連動、の4つの視点を持つものとする。

○ガイドラインは、国が基本的な設定を示し、自治体ごとにその設定を最低ラインとして、ガイドラインを策定することとする。(国基準以下のガイドラインは認めない)

理由:

○市町村ガイドラインの策定は不可欠である。当事者(障害者・家族など)と行政、相談支援事業者、サービス提供事業者などの関係者の参画のもと、その地域のその時点での地域生活の水準を協議しながら作成される必要がある。この策定により、当事者、行政、事業者の協働が生まれる。しかし、当事者の声が出にくい地域などでは、格差が広がるリスクもある。そのため、当分の間は国がガイドラインの設定指針を示し、地方ごとにその指針内容を最低ラインとして、独自のガイドラインを策定することとする。また財政面から国基準をそのまま引用する自治体が出る可能性が高いので、国のガイドライン水準を超えて、市町村が必要に応じた支給決定ができる財源的な保障が必要となる。

○ガイドラインで示す支給水準は、権利条約に規定されている障害者の「他のものとの平等」「地域生活の実現」を基本原則にするべきである。この基本原則に基づき、障害のある人の支援の必要度を類型化し、類型ごとの標準ケアプランに基づく支給水準を示す。類型化については、長時間介護、見守り支援、複数介護、移動支援などの必要性を含めて検討するべきである。

○また類型に当てはまらない事例(類型を超える時間数など)については、個別の生活実態に基づいて協議調整を行う。その場合、本人(支援者)と市町村の協議で調整がつかない際は、第三者で構成された合議機関での検討の結果を受けて、市町村が支給決定を行う。

○国と都道府県は、各地域のガイドラインとそれを超える支給決定の事例にかかわる情報を集約して、国の指針の見直しに反映させるとともに、その情報を自治体やその合議機関等に提供し、各地域におけるガイドライン作成・見直しや支給決定事務の参考に資するように努めなければならない。

3.合議機関の内容と機能について

結論:

○合議機関は、当事者相談員、相談支援専門員、地域の社会資源や障害のある人の状況をよく知る者等の関係者の参画を得て、市町村に明確に位置付ける。

○本人と市町村の協議で調整がつかない場合、もしくは本人が第三者機関での調整を要請した場合については、市町村に設置された合議機関において検討し、その結果を受けて、市町村が支給決定を行うことができる。

○合議機関では、障害特性や障害福祉サービス等の必要性をより適切に支給決定に反映するため、本人中心支援計画(サービス利用計画案を含む)及び、個別支援計画に具体化されなかったニーズ、概況調査(介護を行う者の状況、障害のある人の生活環境等)、市町村のガイドラインによるアセスメント等を勘案し個別事例についての検討を行う。

○市町村は、合議機関での結論をもとに支給決定を行うべきである。

尚、合議機関の機能について、申請されたすべてのサービス利用計画案について合議機関で協議調整を行い、承認後、市町村が支給決定する仕組みとすべきという意見もあったことを付記する。

4.支給決定の不服審査やアドボカシーの仕組みについて

○支給決定の関係する権利擁護システムは大きく3つ考えられる。

①サービスの利用に関して、本人の自立生活をエンパワメントするシステム
②本人中心支援計画の作成に当たって、本人をエンパワメントするシステム
③支給決定における、不服申し立てを執り行うシステム

①サービスの利用に関して、本人の自己決定・自己選択を支援し、エンパワメントするシステムについて

○実際に地域で生活するする障害者の自己決定・自己選択を支援し、エンパワメントを支援しているのは、本人のことをよく理解する家族や支援者であると共に、各地の自立生活センター(CIL)や知的障害の本人活動、各種の難病や精神障害等の仲間によるさまざまな当事者相互支援活動(セルフヘルプグループ)である。

○問題は、一定の当事者リーダーとその活動をサポートする仕組みが存在する地域と、存在しない地域の大きな格差である。

○制度改革にあたっては、当事者リーダー養成や、真に障害者をエンパワメントできる当事者組織とその活動を公的にサポートする仕組みを創出していくべきである。(例えばアメリカにおいては、リハビリテーション法第7章において、自立生活センターのピアカウンセリングと権利擁護活動等が補助金化されており、また2001年度のメディケイドの改正で、精神障害者のピアサポートが予算可能プログラム化されている。)

○その方法については、各地の取り組みが参考となるが、今後は、当事者活動を先進的に取り組む地域をモデル指定し、その成果を検証しながら、全国的に格差を解消していくことが望まれる。

②本人中心支援計画の作成に当たって、本人をエンパワメントするシステムについて

○本人中心支援計画の作成に参加するのは、その本人と、本人のことをよく理解する家族や支援者、また支援に関する法・制度と地域の社会資源を熟知し、本人の支援計画の作成を支援できる相談支援専門員である。

○相談支援専門員は、本人によりそって本人中心支援計画の作成をサポートするが、本人の思いや意見を促したり、それを代弁する権利擁護者の役割を担うのは、①の関係者であり、また本人が選んだ家族や支援者である。

○つまりは、本人中心支援計画の作成会議は、本人と、それを支援する多様な人たちが、自由に意見を述べ合え、考えあうことのできる、本人の希望する場で行われる会議でなければならない。

○その際、権利擁護者の役割を担うにふさわしい家族や支援者や法定代理人が存在しない場合には、本人の思いや意見を促したり、それを代弁する権利擁護者として、本人が選んだ当事者メンバー等の参画も考慮すべきである。

③支給決定における、不服申し立てを執り行うシステムについて

○支給決定は、一連のプロセスと協議・調整に基づいた、最終的に行政の裁量による行政処分であるが、それが、本人の思いや希望とかけ離れている場合には、極めて簡便に不服申し立てできる仕組みが望ましい。

○今後支給決定が、最終的に合議機関の調整を経て出されるとすれば、合議機関は複数設置を基本とし、当該市町村への差し戻し(再調整)請求を位置づけた場合に、その市町村が有する他の合議機関で再調整する方法を検討する必要がある。

○さらに次の段階では、市町村を超えて、都道府県レベルの不服審査機関が機能していく必要がある。

○わが国の障害者介護給付等不服審査会への審査請求がほとんど有効ではないのは、調査権限も調査システムもぜい弱なだけでなく、そもそも、差し戻し以外の強制権限を有していないことによる。

○しかし法的には、関係当事者を呼んで審査することが可能となっていることに鑑み、基本的に両当事者を呼んで調査・審査を行い、その結論をできる限り順守させる方向で展開することは可能だと思われる。

○2年後の障害者差別禁止法で構築されるであろう、都道府県レベルでの権利擁護機関の調査・審査方式の展開も考慮にいれれば、今後は労働審判制度以外でも、准裁判方式である「仲裁権限者と両当事者の審問形式」で、調査・審査がなされ、仲裁者の結論は、裁判に持ち込む以外絶対権限とされるような制度展開が必要と考える。

5.相談支援専門員(仮称)の役割や研修について

5-1.相談支援についての第一期報告の補足について

○相談支援の対象は、「身体障害、知的障害、精神障害その他心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」とその家族を対象とする。(手帳所持者に限定しない)

○相談には一般相談と特定相談という福祉サービスに結び付けるための相談支援とがある。

○一般相談は、障害者およびその家族に関するあらゆることの相談で、相談の入り口としてその後の展開に責任を持つことが大切であり、ワンストップ相談を心がける。そのためには現在分担されている発達相談、教育相談、就労支援相談、医療相談等が統合された相談体制をつくることが望ましい。当面は、地域において有効な相談支援のネットワーク体制を構築することが重要な課題である。

○一般相談は、人口規模に見合った体制整備が必要であり、整備計画については実態調査の結果にもとづき具体的に検討されるべきである。また、地域における障害者の生活課題に、公共的な立場から積極的にアウトリーチしていくことが求められることから事業費補助が適当である。

○特定相談は、本人の意向、ニーズ中心の支援計画を本人(ないし代理人)とともに立案し、その意向・ニーズを満たすためにフォーマルサービスに限定することなく、インフォーマルサービスの利用調整と現実具体的生活支援体制の構築を図る。尚、特定相談は、その利用を希望する当事者と特定相談を提供する相談支援事業者との契約にもとづいて行われることとし、実績に応じた出来高払いとするのが適当である。

5-2.相談支援専門員の役割や研修について

○相談支援専門員(仮称)の基本理念は「すべての人間の尊厳を認め、いかなる状況においても自己決定を尊重し、常に平等(対等)な関係性を築き、人権と社会正義を実践の根底に置く」ことである。

○相談支援専門員は、本人のニーズを満たすためにフォーマルな支援に結びつけるだけでなく、インフォーマルな支援を含む福祉に限らない教育、医療、労働、経済保障、住宅制度等々あらゆる資源の動員を図る努力をする。また資源機能の不足などについて、その解決にむけて活動することも重要な役割となる。

○具体的には以下のような業務内容を担う。

①利用者の包括的なニーズを把握する。
②地域生活支援計画(本人中心支援計画/サービス利用計画)を本人とともに立案する。
③本人の地域生活のニーズを満たすために、総合的なフォーマル・インフォーマルサービスの利用、支給決定のために行政等関係機関との協議を行い調整する。
④サービス資源が不足しているときは必要なサービス(社会資源)の開発につなげる。
⑤相談プロセスを通じて、利用者の権利擁護を行う。
⑥サービスの質の評価を行う、等。

○相談支援専門員は相談する当事者(本人・家族など)の利益のために存在することを一義とする。そのためには福祉サービス等を決定し提供する役割から独立することを原則とする。但し、行政において相談に応じ、支給決定にかかわる職員は相談支援専門員の研修を受けた者であることが望ましい。

○相談支援専門員は当事者に寄り添い、信頼関係のもと当事者の生活を成立させ、継続でき、夢・希望などを叶えることを含む個々の人生を支援する専門職である。本人によって選択される立場にあることから、選択できる体制整備も必要である。

○相談支援専門員のなかにはソーシャルワークに関する理念・知識・技術をもって業務を遂行する者が必要である。加えてスーパーバイザーとしての役割や、障害者の地域生活支援システムのコーディネーターとしての役割を担う者が必要である。

○将来的には相談支援専門員の質を担保するうえでソーシャルワーク専門職を基礎資格とすることを目指すべきである。

そのためには、現行の専門職養成課程では、その内容が不十分であり、今般の障害者制度改革の趣旨に照らし、必要な見直しが諮られるべきである。

○当事者(本人ないし家族)との連携は、本人中心の支援を行うにあたり、重要な課題である。当事者が相談支援専門員となり、地域の相談支援体制全般において、協働することが望ましい。尚、当事者が相談支援専門員になる際には、当事者としての生活経験などを実務経験として勘案するなどを検討すべきである。

○また当事者が、身近な地域において助言者、支援者として、本人のエンパワメントを高めることも重要である。一定の地域に、当事者(本人及び家族)の参画による「エンパワメント支援事業」が設定され、相談支援専門員と協働する体制が必要である。

5-3.相談支援専門員の研修について

○国は研修要綱を定め、都道府県において研修の企画から実施までの実務を担う者に対する指導者研修を行う。

○都道府県が実施する研修には基礎研修、フォローアップ研修、専門研修、更新研修、その他などがある。都道府県は自立支援協議会に人材育成の部会を設け、指導者研修修了者とともに企画し実施するが、研修運営などについて委託することもできる。

○現在行われている相談支援従事者研修は、一部サービス管理者研修と一体的に行われるなど、相談支援専門員固有の役割、機能を習得する研修としては内容が不十分と言わざるを得ない。新法で求められる内容を整理し、相談支援専門員の研修体制については、研修カリキュラム内容の充実とその体制の確立が諮られる必要がある。

○全ての相談支援専門員は実務を行っている者に限って5年毎に更新研修を受け、任用資格の更新を行う。また市町村及び広域連合などの都道府県が認めた圏域での自立支援協議会の個別支援会議部会などにおいて、事例検討などに参加し事例を報告することが一定義務付けることなども検討すべきである。

6.おわりに

以上の新法における新たな支給決定体制や、相談支援体制の実現にむけては、スムーズな移行のために、なるべく早期に協議調整による支給決定の試行事業実施とその検討が必要である。また、そこからの知見も含めて、国レベルでのガイドライン策定がなされねばならない。新制度実施のための十分な準備期間を設けて、その実現化を図ることが新しい支給決定体制の導入に際しては極めて重要である。


総合福祉部会 第11回(H23.1.25) 資料6-2

障害の範囲と選択と決定‐選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)
第一期作業チーム報告の要旨

1.はじめに-現状の相談支援の課題について

【市町村格差】【谷間の障害への未対応】【横断的・包括的対応の不備】【障害特性に応じた専門相談体制の不備】【他職種・機関との連携調整体制の不備】【人材の不足】等

2.多層的相談支援体制について

これまでの相談支援の在り方の課題を受けて、身近な地域での障害種別や課題別によらないワンストップの相談支援の充実と、一定地域における総合的な相談支援体制の拡充、広域の従来からある専門相談支援機関とのネットワークやサポート体制の整備をめざす「重層的相談支援体制」を提案した。さらに当事者の交流や相互支援をおこなう地域エンパワメント事業を提案した。

  • 地域相談支援センター(人口3~5万人に1ヶ所。アウトリーチを含む本人に寄り添う継続的相談支援。相談支援専門員(仮称)3名以上配置)
  • 総合相談支援センター(人口15~30万人に1ヶ所。困難事例中心。地域相談支援センターの支援や研修。相談支援専門員(仮称)5名以上配置)
  • 広域専門相談支援センター(障害種別に設置された専門相談機関。
  • 地域エンパワメント事業(当事者や家族が運営するピアサポート事業)

相談支援事業所の専門相談支援員は、希望する人を対象に、本人中心支援計画・サービス利用計画の策定できる。尚、相談支援事業所は当事者の立場にたって支援することから、市町村行政やサービス事業所からの独立性が担保されるべきである。また国庫補助事業として、財源は出来高払いではなく、人件費相当の義務的経費によるべきと考える。

3.支給決定プロセスについて

支給決定にあたっては、本人(または本人及び相談支援事業所)と行政の協議調整を前提とする。(1)本人(または本人と相談支援事業所)がサービス利用計画を策定し、市町村に申請する。(2)市町村は、ガイドラインに基づいてニーズアセスメントを行う。(ガイドラインのあり方については第二期で詳細に検討)(3)さらに個別ニーズに応じて、協議調整により支給決定を行う。(尚、支給決定に関してのニーズアセスメントのあり方や合議機関のあり方については、第二期で検討)

4.第二期での検討課題、他の作業チームへの申し送り・調整事項について

支給決定プロセスについてのさらなる検討(ニーズアセスメントの方法や協議調整のあり方、苦情申し立て機関、モニタリングや資源開発のあり方)、相談支援専門員の役割や研修のあり方など。障害者自立支援法改正法(つなぎ法)」における相談支援に関する事項。


総合福祉部会 第15回(H23.6.23) 資料1-1

「障害の範囲と選択と決定~選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)第2期」部会作業チーム報告書の概要

はじめに(作業チームの検討範囲と課題)

  1. 現行の程度区分や支給決定の仕組みについての評価と問題点の検討(C-2-1、C-2-2)
  2. 支給決定にあたって必要なツール(ガイドライン・支援の必要度や支給決定のためのアセスメントなど)の在り方と策定の指針について(C-3-2、C-3-3)
  3. 支給決定に際しての「合議機関」の設置や役割について
  4. 不服審査やアドボカシーの仕組みについて(C-3-4)
  5. 相談支援専門員(仮称)の役割や位置づけ及び研修体制(当事者相談員も含む)の在り方

1.現行の程度区分や支給決定の仕組みについての評価と問題点

  • 現状の一次審査に用いられている機能障害の自立度を中心とした指標は、障害種別を超えた福祉的支援のニーズを反映するものとして妥当とはいえない。(変更率、地域格差大)個別の利用者の特性や状況、特に社会的状況も踏まえた障害者のニーズを明らかにする新たな支給決定の仕組みとツールが必要である。

2.支給決定にあたっての必要なツールのあり方と策定の指針

  • 支給決定のプロセスは以下の流れを基本とする。
    ①本人中心支援計画(支援付き自己決定のもとに)の策定(全員ではない)
    ②法律の対象となる「障害」があることを確認する。
    (障害の範囲チームの報告では、各種障害者手帳のほか、医師の診断書、意見書など客観的指標による認定となっている。)
    事前に確認方法を示し、サービス利用計画策定に入る前に本人及び相談支援専門員が確認可能な対応をとるようにする。
    ③本人サービス利用計画(必要なサービスを申請する計画)策定(申請者全員が策定)をもとに市町村に申請を行う。
    ④本人サービス利用計画について、市町村がガイドラインに基づき、ニーズアセスメントを行う。
    ⑤ガイドライン水準を超える申請の場合、本人(及び支援者)と市町村による協議調整を行い、支給決定する。
    ⑥両者による調整が困難である場合、もしくは本人が第三者機関での調整を要請した場合については、市町村に設置された合議機関において検討し、その結果を受けて市町村が支給決定を行うことができる。
  • ガイドラインとは、法における権利性に基づいて、「その地域の他の者との平等を基礎として生活することを可能とする支援の水準」を示すものである。ガイドラインの策定にあたっては、(1)利用者への説明、(2)支援の必要度の把握、(3)公費によるサービス提供水準、(4)市町村の障害者自立支援計画との連動、の4つの視点を持つものとする。
  • ガイドラインは、国が基本的な設定を示し、自治体ごとにそれを最低ラインとして、ガイドラインを策定することとする。
  • ガイドラインで示す支給水準は、権利条約に規定されている障害者の「他のものとの平等」「地域生活の実現」を基本原則にするべきである。この基本原則に基づき、障害のある人の支援の必要度を類型化し、類型ごとの標準ケアプランに基づく支給水準を示す。

3.支給決定に際しての「合議機関」について

  • 本人と市町村の協議で調整がつかない場合、もしくは本人が第三者機関での調整を要請した場合については、市町村に設置された合議機関において検討し、その結果を受けて、市町村が支給決定を行うことができる。合議機関は、当事者相談員、相談支援専門員、地域の社会資源や障害のある人の状況をよく知る者等の関係者の参画を得て、市町村に明確に位置付ける。

4.不服審査やアドボカシ―の仕組みについて

  • 支給決定にかかわるアドボカシーの仕組みとしては、①サービスの利用に関して当事者の自立生活をエンパワメントするシステム②本人中心支援計画の作成に当たって、当事者をエンパワメントするシステム③支給決定における、不服申し立てを執り行うシステム、がある。①に関しては、身近な地域で当事者相互支援活動(セルフヘルプグループ)が展開できる公的なサポート体制を創設すること②に関しては身近地域での相談支援体制の充実が重要である。
  • 不服申し立ての仕組みとしては、複数の合議体での検討、また不服審査での書面審査ではなく、直接当事者を呼んで調査・審査を行うことなどを順守させることが重要である。さらには、障害者差別禁止法で構築されるであろう、都道府県レベルでの権利擁護機関により、准裁判方式である「仲裁権限者と両当事者の審問形式」の展開も検討すべきと考える。

5.相談支援専門員の役割や位置づけ及び研修体制について

  • 相談支援専門員は、本人のニーズを満たすためにフォーマルな支援に結びつけるだけでなく、インフォーマルな支援を含む福祉に限らない教育、医療、労働、経済保障、住宅制度等々あらゆる資源の動員を図る努力をする。また資源機能の不足などについて、その解決にむけて活動することも重要な役割となる。
  • 相談支援専門員は相談する当事者(本人・家族など)の利益のために存在することを一義とする。そのためには福祉サービス等を決定し提供する役割から独立することを原則とする。
  • 当事者が相談支援専門員となり、地域の相談支援体制全般において、協働することが望ましい。尚、当事者が相談支援専門員になる際には、当事者としての生活経験などを実務経験として勘案するなどを検討すべきである。
  • 研修については、基礎研修、フォローアップ研修、専門研修、更新研修、その他などを国の研修要綱として位置づけ、都道府県が実施する。また定期的に任用資格の更新を行うこととする。

制度の実現にむけての補足事項

  • 協議調整による支給決定システムの実施については、現状からのスムーズな移行のために、早期の試行事業の実施が必要である。
    さらに、全国各地の障害者の地域生活の実態を踏まえて、程度区分に変わる国のガイドラインの検討・策定を行う体制作りが早急に行われるべきである。

他のチームとの調整が必要な事項

  • 市町村が、ニーズに基づいて必要な支給量を決定することを可能とするための財源調整の仕組みについて
  • 支給決定プロセスにおける、法の対象となる障害の範囲の確認方法について
  • 地域における実効性のある権利擁護、不服申し立ての仕組みについて