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障がい者制度改革推進会議

DINFのお知らせ

シンポジウム 「もっと知ろう、デイジー教科書を!」
日時:2013年02月03日(10:30~16:00)
場所:戸山サンライズ 大研修室
 

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障がい者制度改革推進会議
第6回(H22.3.30) 資料1

司法手続きに関する意見一覧

司法手続きにおける障害者の位置づけ

捜査段階における刑事手続き

公判段階における刑事手続き

受刑者の状態

司法関係者に対する研修

その他、民事訴訟、行政訴訟手続きも含む問題

第六回障がい者制度改革推進会議 意見提出フォーマット
司法手続き

司法手続きにおける障害者の位置づけ

障害者の権利条約第13条は「締約国は、障害者がすべての法的手続(捜査段階その他予備的な段階を含む。)において直接及び間接の参加者(証人を含む。)として効果的な役割を果たすことを容易にするため、手続上の配慮及び年齢に適した配慮が提供されること等により、障害者が他の者と平等に司法手続を効果的に利用することを確保する(政府仮訳)。」と規定している。

ところが、日本の司法手続きに関して、関東弁護士会連合会は「わが国の刑事訴訟手続きや民事訴訟手続きをはじめとして、裁判の手続きは、原則として障害者が裁判を受けることを想定していない」と指摘している(同連合会編『障害者の人権』(明石書店、1995年))。

このような指摘を受けている現行の司法手続きが、障害者に対する「手続上の配慮及び年齢に適した配慮」を提供していると考えるか、否か、まずは概括的なご意見を賜りたい。

【大久保委員】

司法手続きは知的障害のある人たちにとっては全ての手続が難解を極めるものであり、その用語の読み方、意義、法的な位置づけなどを理解するには、最低限、障害の有無にかかわらずその内容が理解できるようにするための説明や、人的援助が必要である。そうでなければ、知的障害のある者が司法にアクセスすることは不可能であるだけでなく、いざ当事者として関与することになった場合、予測できない不利益を被ることになりかねない。

したがって、まずは司法手続きに対する一般的な理解を深めるべく、教育課程に司法アクセスについて導入するなど司法を知的障害のある人たちにとって身近な概念にするべく啓発を行うことが必要であると考える。

また、手続全般において、振り仮名を振るなどの容易な配慮に加え、法律用語をできるだけ平易な言葉に置き換える、手続主催者による丁寧な説明を行う、人的支援が必要な手続の場面においては支援者の付き添いを認めるなどの合理的配慮により司法アクセスの機会を保障することが必要であると考える。

【大谷委員】

提供しているとはいえない。

現行の司法手続きは基本的に障害の有無にかかわりなくすべて形式的に平等に適用される。配慮規定としてわずかに、刑事訴訟法49条に、「被告人は、読むことができないとき、又は目の見えないときは、公判調書の朗読を求めることができる。」とされ、同法176条に「耳のきこえない者又は口のきけない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳させることができる」との「できる」規定は存するが、権利として保障するとの観点からは、義務的規定にすべきであるし、たとえば朗読では不十分であるから調書の点訳などきめ細やかな配慮が不可欠である。

権利条約13条の司法アクセス権については、日本の裁判や取り調べで障害のある人が差別されているという実態に鑑み、日本政府が提案したところ、他の諸国政府代表やNGOに熱烈に支持され、設けられた条文であるのであるから、条約の批准にあたっては、ことさら現行の訴訟法における規定や関連立法が、障害のある人が司法にアクセスすることを阻害していないか、また、障害のある人の手続き上の権利を実効的に保障するための手続きにおける必要な配慮がなされているかについて、つぶさに検証し、規定がなければ積極的かつ可及的速やかに条文を創設する必要がある。

【大濱委員】

障害者に対する「手続上の配慮及び年齢に適した配慮」を提供していると考えない。

日本の司法手続は、意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に対する配慮を著しく欠いている。要するに、極めて例外的なほどに重度の難(障害)がある場合に、責任能力がない、訴訟能力がない、といった扱いがなされるにすぎない。しかし、司法手続全体に関する理解、自己防衛、弁護人との接見、取調べ・公判における真意の供述など、極めて基本的な場面において、意思表示について難がある人は適切な支援がなければ、難の無い人と同様の手続を保障されていることにはならない。日本の司法手続においては、そのような配慮は皆無に等しい。

【尾上委員】

十分に提供していない。

障害者個人個人に必要な情報保障や支援はそれぞれ異なるものであり、それらをきちんとくみ取り、保障する法的な体制が必要である。これらがなされていないため、当該障害者について、冤罪等が発生し、拘置所や刑務所等における取り扱いにおいてもさまざまな不利益を被っている。

わずかに、刑事訴訟法49条には、「被告人は、読むことができないとき、又は目の見えないときは、公判調書の朗読を求めることができる。」とされ、同法176条に「耳のきこえない者又は口のきけない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳させることができる」との規定はあるが、権利条約第13条上の規定や合理的配慮義務からは司法手続きに関する配慮としての請求権を保障する義務化が必要である。

ちなみに、権利条約13条は国連の条約交渉において日本政府が提案したいわゆる「日本条項」である。交渉過程において、もともとの日本政府の条文案からは多少修正等されているが、多くの政府やNGOから支持され、高く評価された条項である。提案した背景等をかんがみ、日本政府は同条項の履行については各国の模範たるべきである。

【門川委員・福島オブザーバー】

まず、そもそも、現行の司法手続きにおいて、実際にどのような配慮が提供されているのかという事実関係を確認する必要があると考える。詳細な事実関係を承知していないし、どのような配慮が提供されていることをもって「提供している」と判断するのかという基準そのものが論争的であり、概括的に、「提供しているか否か」という二元的な回答については保留とせざるをえないが、以下の二つの面から、問題があると考えており、どちらかといえば「提供していない」ということになるのではないかと考えている。

第一は、現行の司法手続きにおける全般的な問題である。捜査、取り調べ、法廷、といった様々な段階で、障害者に限らず、国民(特に被疑者)の権利が侵害されないような配慮がなされていないのではないかという疑念がある。制度上でも運用上(現場)でも、そうした配慮を徹底しなければ、障害者への配慮が十分に提供されるようにはならないと考える。

第二は、現行の司法手続きにおける障害者への具体的な配慮の提供方法の問題である。とりわけ、聴覚障害者に対する手話等での通訳、視覚障害者に対する点字・音声等での情報提供、さらに、精神障害、知的障害、言語障害、発話障害などをもった人へのコミュニケーションの保障のための配慮提供の枠組みが欠けている点が指摘される。そのうえ、司法手続きへの参加について、現行の福祉施策におけるサービスを活用できる環境にはないと思われる。そうした配慮の提供にかかる、行政府と司法府との間での費用分担や責任分担を明確にしたうえで、障害者への配慮が十分に提供されるようにならなければならない。

なお、この第二のコミュニケーション保障の問題については、第一の問題とも関わって、先日外国人被疑者への通訳の不備について報道されている(参考資料参照)。

・・・・・・・・・・・・・・・(参考資料)・・・・・・・・・・・・・・・・

朝日新聞

裁判員裁判で通訳ミス多数 専門家鑑定 長文は6割以上

2010年3月21日21時17分

大阪地裁で昨年11月にあった覚せい剤密輸事件の裁判員裁判で、司法通訳人2人が外国人被告の発言を英語から日本語に訳した際に、「誤訳」や「訳し漏れ」が多数あったと専門家が鑑定したことがわかった。長文に及ぶ発言では全体の60%以上になると指摘している。被告の弁護人は「裁判員らの判断に影響を与えた可能性が高い」とし、審理を地裁に差し戻すよう控訴審で求める。

この被告はドイツ国籍の女性ガルスパハ・ベニース被告(54)。知人女性らから依頼され、報酬目当てで覚せい剤約3キロをドイツから関西空港に運んだとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の罪に問われ、懲役9年、罰金350万円の判決を受けた。

南アフリカ生まれの被告は英語が母語であることから、地裁は男女2人の英語の司法通訳人を選任。2人は交代で通訳にあたった。被告は法廷で「違法な薬物を運んでいるという認識はなかった」と無罪を主張したが、判決は「罪を免れるための虚偽」と判断し、容疑を認めた捜査段階の供述のほうが信用できるとして実刑を導いた。

控訴審から弁護人になった渡辺●修(ぎしゅう、●は「豈」の右に「頁」)弁護士(大阪弁護士会)は今年2月、通訳内容を検証するため、司法通訳人の活動実績もある金城学院大文学部の水野真木子教授(通訳論)に、地裁が2日間の審理の過程をすべて録音したDVDの鑑定を依頼した。

その結果、主語と述語がそろった文を二つ以上含む被告の発言の65%(61件中40件)で、意味を取り違える「誤訳」や、訳の一部が欠落する「訳し漏れ」があったとした。「はい」「いいえ」といった一言のやりとりを除く短い発言を含めると、通訳ミスは全体の34%(152件中52件)でみられたという。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【北野委員】

A.現行の司法手続きは、障害者に対する合理的配慮が欠如している。

R.第12条「3 締結国は、障害のある人がその法的能力の行使に当たり必要とする支援にアクセスすることができるよう適切な措置をとる。」

第21条「1 締結国は、障害のある人が自ら選択するあらゆる形態のコミュニケーションにおいて、表現及び意見の自由(情報及び考えを求め、受け、伝える自由を含む)についての権利を行使することができることを確保するためのすべての適切な措置をとる。」

のために、障害者が取り調べを含むあらゆる法的手続きに必要な支援にアクセスでき、警察官を含む司法関係者をトレーニングし、さらに、その社会生活全般において、必要な情報・コミュニケーションから疎外されないように、必要な手話・点字・わかりやすい言葉等の支援や関係者の啓発・トレーニングを実施することがぜひとも必要である。

【佐藤委員】

階段の多い法廷や裁判所、座って手話通訳をさせた最近の例などから、1980年代以降の世界的なノーマライゼイションの動き、とくに障害者権利条約に示された平等・差別禁止・社会参加の原則などからかけ離れたままではないかと感じる。物理的情報的なバリアフリーを含めて、すべての裁判所の実態調査とその公表が必要とされる。

2008年の無年金障害者裁判で最高裁は、聴覚障害のある傍聴者に手話通訳者の同伴は認めたものの、手話通訳者を1人に限った上、立っての通訳を認めず聴覚障害者が座る席の1つ前の席に座って体をひねって後ろを向いての通訳を命じた。法廷では全員座るというルールを優先し強要した。

一人の通訳者に長時間通訳をさせることが職業性頸肩腕障害を生み出すとの判決があるのに、生かされていない。また通訳の正確さのためにも複数通訳者がとくに試験、警察、裁判などで必要とされることが理解されていなかった。その後改善されたと期待するが、全国の裁判所での徹底が必要である。

【新谷委員】

我が国の裁判手続き規定は裁判所設置側からの手続き規定で、障害者の裁判制度利用の視点は、基本的に考慮されていないと感じます。私たち聴覚障害者に関係の深い規定は、第13章 通訳及び翻訳、特に176条の「耳の聞えない者又は口のきけない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせることができる」と云う規定ですが、「できる」という表現にあるように、通訳準備は裁判所の裁量となっています。

また、裁判段階ではこのような規定がありますが、捜査段階ではこのような明文規定もありません。職務質問などは通常口頭でなされるでしょうから、このような場合聞こえない人への配慮がなければ、質問を受けた人は非常に不利な立場に追い込まれます。

口頭による手続きの場面では、必ず「筆記・文書」による手続きを明文化する必要があると考えます。

【関口委員】

否である。精神障害者が合理的配慮を保障されながらの、司法手続きとはなっていない。

障害が社会にあるという立場をとるとすれば、個人の訴訟能力を問題にする以前にまず警察、検察、裁判所の司法の側のいわば能力、合理的配慮の有無を問うべきである。

精神障害者について言えば、いわば大怪我をして大出血しているにもかかわらず放置したまま逮捕取調べ、裁判が進行している実態にある。

まず逮捕時点で混乱の状況にあるなら本人の求める安心した状況を保障し、本人の回復を待って刑事司法手続きを進めるべきである。

さらに拘禁下で精神疾患となったものについてはまず刑事施設から釈放して回復を待つ制度が必要である。

松本智津夫死刑囚の死刑判決確定の過程では、まず被告人段階で彼に関して一件資料を読める合理的配慮はなかった(彼は点字は読めず拡大文字しか読めないが、現状ではそうした費用は公的に負担されない、一般の被疑者被告人に関しても一件資料のコピー代は公的に保障されず、被疑者被告人の防御権は著しく侵害されているのが現状)しかしさらに障害者の場合防御権保障は皆無といってもいいと考える。

また公判過程では、裁判所も『意思疎通できない』としながら、訴訟能力はありとして死刑判決をしたことは許されない。

なお『訴訟能力なし』とされても以下事例がある。

勾留16年事件
「勾留16年、判決まだ 心神喪失の強殺被告、再犯を懸念」
<2009年3月17日15時0分朝日新聞より>

強盗殺人罪で92年に逮捕、起訴された千葉県内の男性被告(48)が、刑事裁判中に統合失調症による「心神喪失」と診断されながら、十分な治療を受けることなく現在まで拘置施設に勾留(こうりゅう)されていることが朝日新聞の調べで分かった。被告は、一度も裁かれること無く16年以上も勾留され続けていることになる。

被告は92年10月、千葉県松戸市のガソリンスタンドで店長を鉄パイプで殺害し、現金約56万円を奪ったとして逮捕された。過去に統合失調症で通院歴があり、起訴前の2回の精神鑑定は、刑事責任能力がない<心神喪失>と責任能力はある「心神耗弱」とで結果が割れた。千葉地検松戸支部は「心神耗弱」の鑑定結果を採用し、逮捕から1年後に起訴に踏み切った。

ところが、裁判が始まると被告は通常の受け答えもままならず、再び精神鑑定したところ、「心神喪失」と診断された。これを受けて千葉地裁松戸支部が94年12月、公判停止を決定した。

一般的に、被告が病気などの理由で公判が停止し、逃亡や証拠隠滅のおそれが無い場合は、病状回復を図るため、裁判所が検察側の意見を聞きつつ勾留を停止し入院させるなどの手続きを検討する。

被告の弁護人は95年6月に<勾留執行の停止>を申し立てたが認められなかった。理由について、弁護人は「被告は攻撃性が強く、(社会に出れば)他害のおそれもある。もし同じような事件を起こしたら、社会の非難は避けられない。裁判所はそう考えたのだろう」と語る。

また97年5月には、改めて訴訟能力の有無を調べるため、地裁が精神鑑定を実施したが、やはり心神喪失との結果が出たという。その後は特段の動きはなく、被告は刑務所内にある拘置施設に勾留され続けた。

裁判が再開できず勾留も長引く中で、被告を一時的に入院させたり、裁判そのものを打ち切って措置入院させたりする選択もあり得た。しかし重大犯罪の被告に判決が下されないことなどに、地裁、地検、弁護人のそれぞれがちゅうちょし、今日の長期化につながった模様だ。

被告は現在、独房で生活し月1回程度の診察と注射による治療のみがなされているが、病状は回復しておらず、妄想や幻覚の症状も強いという。刑務所に勤務経験のある精神科医は「統合失調症患者にとって他者との接触は大切な治療でもある。医者とも接触機会が少ない独房生活では回復が期待できない」と話す。一方、弁護人は「勾留が続くことは決していいとは思わないが、再犯の心配は私にもないわけではない。本人との意思疎通が難しく、家族も連絡が取れない状態では判断が難しい」と語った。

千葉地検は「被告は心神喪失の状態が続いているとの認識だ。現時点で、公判を再開したり公訴を取り消したりする新たな対応は検討していない」としている。千葉地裁は「個別の裁判についてコメントできない」としている。(冨名腰隆)

〈触法心神喪失者の法的扱い〉

容疑者が事件当時、心神喪失状態と判断されれば、検察庁が不起訴にしたり裁判で無罪判決が出たりする。その後は、都道府県の責任で措置入院させられてきた。05年施行の「心神喪失者医療観察法」により、重大犯罪行為をした人は裁判官と精神科医の合議で入院などの処遇が決まるようになった。いずれも回復したら社会復帰することになるが、現在はその判断に裁判所が関与する。

〈中島宏・鹿児島大学法科大学院准教授(刑事訴訟法)の話〉

これほど長期の勾留を伴う公判停止は珍しく、本来、法律は想定していない。もし予防拘禁的に勾留を使っているなら、制度の趣旨に反すると言わざるを得ない。長期勾留による心身への影響も踏まえて回復可能性を検討すべき段階ではないか。回復の望みが薄ければ、検察による公訴取り消しや裁判所による公判手続きの打ち切りが模索されていいはずだ。

【竹下委員】

現在の司法手続においては、障害のある人の位置づけ、あるいは障害のある人に対する配慮の考え方に関する基本的な規定が設けられていないし、各手続の段階における具体的な合理的配慮の内容や基準についての規定も設けられていない。その結果として、障害のある人が訴訟を中心とする司法手続の各段階において、権利保障が行われていなかったり、司法関係者の任意の判断によって取扱いが異なる事態が発生している。

1 まずは、障害者基本法または障害を理由とする差別を禁止する法律(仮称)において、原則的ないし基本的考え方に関する規定を設けるべきである。

2 訴訟をはじめとする各段階や手続の種類ごとに、合理的配慮の基準ないし現時点で考え得る配慮事項を明文化して、その実施を義務付けるべきである。

3 障害のある人自らが望む配慮事項を請求することができる旨の規定を設けるべきである。そして、その請求が受け入れられない場合については、司法手続の性質上、可及的速やかに結論を得るための調整手続が設けられるべきである。

4 司法手続における補助者の配置は、障害のある人本人のための補助者と司法関係者(裁判官、検察官、弁護士など)のための通訳者などとは区別して配置されることが原則である。

【中西委員】

障害者に対する「手続上の配慮及び年に適した配慮」を提供していると考えない。

障害のある人が司法手続の対象となった場合、知的障害、発達障害、高次脳機能障害、精神障害など、認知や理解、表現に問題がある人に対する配慮が著しく欠如している。彼らの認知、理解、情報処理、記憶などの状態に応じた情報提供の仕方、説明の方法などを準備する必要があるが、そのための人材の確保や研修などは整っていない。とりわけ精神障害者にとっては、継続して服薬や治療が必要な場合が大半であるが、司法手続のためにそれが中断させられ、必要な医療を受けられないケースが生じている。身体障害者については裁判所を始め、警察署、検察庁、弁護士会などの司法手続に関係する機関のアクセスへの配慮が十分であるとはいえない。視聴覚の障害者についても、情報の提供、コミュニケーションの手段などについて、上記の各機関で人的・物的な配慮が整っていない。

現行の司法手続は、障害者が司法手続にかかわることを予想しないまま作られているため、その配慮は未整備で不十分である。

知的障害者の家族は、一番大きな問題として弁護士と被疑者(被告人)の接見活動が充分保障されていない事を指摘している。聴覚障害者や外国人の場合弁護士と被疑者の間に通訳者が入り双方のコミュニケーションの保障がなされているが、知的障害の場合個々の障害者の言語能力が違うため、充分なコミュニケーションが図れないままに、事柄が進む場合が多いという。

【長瀬委員】

提供していない。司法手続きにおける合理的配慮の欠如をはじめ、現行の司法手続きは、13条をはじめとする障害者の権利条約の用件を満たしていない。特に、難聴者、ろう者、視覚障害者、盲ろう者、知的障害者、精神障害者、発達障害者それぞれへの配慮が捜査段階、公判段階、判決それぞれの段階で欠如している。

【久松委員】

手話を通常のコミュニケーション手段としているろう者に関する司法手続きについては、言語の中で手話を明記している障害者権利条約とともに、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(国際人権規約)、特にその第14条第3項の規定を総合勘案し、ろう者に対する手話通訳保障を確立させるべきである。

同項は、「すべての者は、その刑事上の罪の決定について、十分平等に少なくとも次の保障を受ける権利を有する」として「(a)その理解する言語で速やかにかつ詳細にその罪の性質及び理由を告げられること」「(f)裁判所において使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受けること」と規定している。

ろう者に対する各種権利の告知や、取調、供述の際には、手話通訳者を保障することが必要条件であるが、現行の司法手続においては手話通訳者を権利として保障する規定がなく、聴覚障害者に対する手続上の配慮はきわめて不十分である。

また、現行の刑事訴訟手続、民事訴訟手続においては、通訳人の費用は「訴訟費用」に含められており、当事者負担が原則とされている。当事者負担を課することは、司法に対するアクセスを阻害するものである。

さらに、手話通訳者を付することを保障することはあくまでも最小の必要条件であって、十分条件ではない。手話通訳者を付することの保障をした上で、さらに、手話通訳が円滑にでき、ろう者が十分に手続内容を理解できるように、司法関係者において、ろう者にとって理解しやすく手話通訳による伝達が容易になるような分かりやすい用語の使用、質問を簡潔にする、発話のスピードに気をつける、ろう者が発言できる機会を十分に保障するよう合理的配慮が求められる。

また、ろう者の中には、手話言語も日本語も十分に習得できないまま成年に至ったろう者も少なくない。このようにろう者の言語習得の程度によっては、手話通訳者を付することを保障した上で、司法関係者において合理的配慮を尽くしてもなおろう者が司法手続を理解できず、防御権を十分に行使できないと判断される場合もある。このような場合には、すみやかに訴訟手続及び捜査を打ち切るべきである。

【松井委員】

裁判所によっては建築上の構造から車いす利用者が法廷に行けないこと、聴覚や視覚に障害のある者への手話通訳や点字などによる情報保障がなされていないこと、および知的障害のある者の理解を助けるような支援がなされていないことなどから、いまのと障害者に対する「手続き上の配慮及び年齢に適した配慮」が提供されているとは考えられない。

【森委員】

現行の司法手続き過程には、多様な障害特性を考えると、さまざまな制限が認められる。警察官や検察官の作成した供述調書を確認する場合の聴覚障害者のコミュニケーション手段である手話、視覚障害者の調書の確認手段等といった不利益な部分が、現在、問題となっていることや、非日常的な出来事に対する知的障害者や精神障害者の受け止め方に関する制限とその後のコミュニケーション上の課題、その他に司法の場の物理的バリア等、こういったことに対しての配慮を要することが必要と思われる。

捜査段階における刑事手続き

1 令状主義

被疑者が逮捕される場合、警察官は権限のある裁判官が作成した逮捕状が存在することを示し、犯罪事実の要旨を告げることになるが、このような令状主義は、障害者に対して有効に機能していると考えるか、否か。問題点があれば、どのような手続き上の配慮が必要かも含めて意見を賜りたい。

【大久保委員】

知的障害のある人たちにとって、逮捕状の意味や内容を理解することが困難な場合が多い。したがって、丁寧かつ解りやすい説明はもちろんのこと、支援者の付き添いなどの配慮が必要であると考える。

【大谷委員】

有効に機能していない。

令状主義においても、障害に対する配慮は一切なされていない。単に聴覚障害のある人に書面を示したり、視覚障害のある人に読み聞かせたり、知的障害のある人にそのまま告知するだけでは、真に内容を理解できるとは限らず、また、権限のある裁判官が作成した逮捕状かどうかの確認ができない可能性があり、防御権の保障としては極めて不十分である。

視覚障害のある人には、令状の点訳を示すべきであるし、聴覚障害のある人の場合は、手話通訳等の理解可能な手段を保障すべきである。ただ、難解な法律用語については、手話通訳等が困難な場合が存するので、用語の見直しをすべきである。知的障害のある人に対しても、ルビを振る、平易な言い換えをするなどの配慮が必要であるが、それだけでは足りず逮捕の段階から自分を守る力の弱い知的障害のある人を補助する人(アシスタントパーソン)をつけることを義務付けるべきである。

【大濱委員】

否。

視覚障害・盲ろう(警察官であるのかの確認、令状が存在するのかの確認手段の欠如、盲ろう者に対する特別に配慮された認証シンボルなどの欠如)

聴覚障害・知的障害(手話通訳者や要約筆記者、理解を助ける支援者の立ち会いの欠如)(精神障害についても同様)

明治新憲法以来我が国の刑事司法裁判は、国の秩序を守るために国の公権力が、被疑者を逮捕し、裁判を行い処刑するのが刑事司法裁判。国の秩序を守るという観点から国の公権力の行使には「間違いがない」という前提があり、判例の積み重ねによる、推定真実が積み重ねられているにすぎない。故に、個別の微細な違いがある事例には、有効に機能する流動性がないといえる。障害者が裁判の当事者となったとき、微細な配慮が必要。それには、十分な時間をかけ真実を検証すべきで、少なくとも障害者が当事者であるときは、公判前手続きのような手法は用いず、時間をかけ丁寧に真実の背景を検証すべき。

意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)は、適切な支援がなければ、司法手続を理解できず、有効・適切に自己防衛できない場合が多い。このような人たちに対し、何の支援もつけずに形式的に逮捕状を提示し、犯罪事実の要旨を告知しても、実質的には防御の機会を保障したことにはならない。そのような難のある人に対して、逮捕状の意味・犯罪事実の意味を理解させ、自分なりの対応表現を引き出せるような支援者を立ち会わせて、上記のような手続を行うことを保障しないと、手続として適正とは言えない。

【尾上委員】

有効に機能していないと考える。

令状主義において、捜査令状や逮捕礼状を提示する際の配慮はされていない。単に聴覚障害者や視覚障害者に読み聞かせたり、知的障害のある人にそのまま告知するだけでは、内容を理解し、または確認することはできない。

必要な配慮としては、視覚障害者には点訳の令状を用意することや、とくに知的障害者に対しては、平易な言葉で説明するなどの配慮が必要であり、普段からコミュニケーションのやり方をよく知っている支援者や関係者の支援が必要である。逮捕状の請求に際しては、請求者は当該関係者の障害の有無や必要な支援の内容等を申告するなどの方法が考えられる。

【門川委員・福島オブザーバー】

令状主義は、警察官が強制力の濫用を防ぐために一定の効果を果たしていると考えられる。とはいえ、別件による現行犯逮捕等の「抜け道」もあり、強制力の濫用防止のための措置としては必ずしも十分とは言えない。

一方、令状主義が障害者に対して有効に機能しているか否かについて、「抜け道」の問題は別として、「強制力の濫用を防ぐ」という観点から考えてみる。

まず、令状の発行段階における問題について、被疑者が障害者であることがあらかじめ判明している場合、あるいは障害者である可能性がある場合については、令状を発行する裁判所においては、被疑者の事情や障害の特性等を十分に勘案し、令状の発行が適切かどうかについての判断を下す必要がある。

次に、逮捕をする段階における問題について、人権侵害を防止し、「わけもわからず逮捕される」ということがないように、令状の内容に関する説明が障害者に対して十分になされる必要がある。

【新谷委員】

聴覚障害に限定して意見します。

犯罪事実の要旨を口頭で告げる場合は、筆記ないし要旨を文書化したものの提示が必要です。

【関口委員】

否である。

墨字の礼状を読めない人にとってはなんら機能していない。

家宅捜査にあたって、押収品目録を視覚障害者に渡さず、カーボン紙を渡した事例すらある。

また令状の意味を本人に判るよう伝えることがもっとも必要だが、こうした合理的配慮はなされていない。

【竹下委員】

現時点でも形式的には令状主義とその実行としての要旨の告知は基本的には、あるいは原則的には行われていると思われる。しかし、障害のある人の障害に配慮したものとはなっていないおそれがある。知的障害のある人に対する要旨の告知は、本人に対してどのような方法と内容で行うべきかの基準や、本人に加えて権利擁護者(保護者)に対しても要旨の告知を行うなどの規定が設けられるべきではないか。

【中西委員】

令状主義は障害者にとって配慮されたものとなっていない。

令状に記載されている逮捕や捜索押収の理由は一般人にも理解しにくいものであり、精神障害者や知的障害者にとっても難しい法文で書かれた令状をそのまま理解するのは困難であるので、何もわからないままに逮捕され拘留される結果となっている。初期段階の思い込みを修正する事が困難なケースもあり、弁護活動に大きな支障をきたしている。視覚障害のある人にとっては、墨字の書面を提示されても判読はできず、捜査官が読み上げるとしても、それが裁判所の発布した令状と同内容であるかを確認することができない。従って、令状に最低限度ルビを付けることや点字あるいは本人の補助者の立会いの下での内容確認などが求められる。捜査の初期段階で知的障害などの障害がある可能性がある場合は、直ちに身近なサポーターを配置して、本人の意志確認を正確に行う必要があるが、現状ではそのような配慮が全くなされていない。

【長瀬委員】

有効に機能していない。視覚障害者や盲ろう者の場合に、警察官であることの確認ができないほか、逮捕令状の有無、その要旨の確認ができない状態である。難聴者とろう者の場合は筆記者と手話通訳者の立会いが必要であるほか、知的障害者や発達障害者は、理解を助ける支援者が必要な場合があるが、現在はそうした配慮がなされていない。

【久松委員】

令状主義は有効に機能していないと考える。

<現状(逮捕状、逮捕理由の告知)>

逮捕状により被疑者を逮捕するときは、逮捕状を被疑者に示さなければならない(刑事訴訟法第201条2項)となっているが、手話を主にコミュニケーション手段とするろう者に対し手話通訳者が立ち会って通訳することなく逮捕状を示すだけになっている例、手話通訳者の立ち会いがなく筆談でやりとりをする例が多い。

また、ろう者の中には日本語を言語として十分習得していない人も多い。このような人々が逮捕状の内容を理解できず、逮捕される理由がわからないまま警察署に連行されることも多く、十分に防御権を行使できない。

さらに、手話言語も日本語も十分に習得できないまま成年に至ったろう者も少なくない。このような人々にとっては、手話通訳をいくら保障しても、逮捕理由といった抽象的概念を理解できないこともある。このように、実質的に聴覚障害者が防御権を十分に行使できないにもかかわらず、形式的に手話通訳者がいることを理由にして司法手続が進められてしまうことがある。

<対策>

まず、ろう者が手話言語を第一言語とすると認められる場合又は本人からその旨の申し出があったときには、すぐに手話通訳者を付する権利を明文化する必要がある。なお、手話通訳者は資格を有することが必要である。

次に、手話通訳が円滑にでき、ろう者が十分に手続内容を理解できるように、司法関係者において、ろう者にとって理解しやすく手話通訳による伝達が容易になるような分かりやすい用語の使用、質問を簡潔にする、発話のスピードに気をつける、ろう者が発言できる機会を十分に保障するよう合理的配慮を義務づける規定が必要である。

そして、捜査機関において、ろう者が手続内容を理解できないまま捜査手続を進めた結果得られた供述等の証拠は、公判においては証拠能力を有しないという規定を設ける必要がある。

【松井委員】

現在のところ、視覚障害や聴覚障害がある者に対して、中立の第三者(手話通訳者や朗読者など)による情報保障がなされていないことから、令状主義は、障害者に対して有効に機能しているとは、考えられない。

【森委員】

前項『司法手続きにおける障害者の位置づけ』に記述したように、障害の特性にかかる情報保障の問題がある。司法関係者の障害者に対する偏見も根強く、適正な配慮がとられるよう啓発教育が必要と思われる。

2 弁護人選任権や黙秘権の告知

被疑者は、弁護人選任権や黙秘権の告知を受けることになるが、このような権利の告知が障害者に対して有効に機能していると考えるか、否か。問題点があれば、どのような手続き上の配慮が必要かも含めて意見を賜りたい。

【大久保委員】

知的障害のある人たちにとって、弁護人選任権や黙秘権の意味や弁護人選任のための手続き等を理解し、自らこの権利を行使することは困難と思われる。当然、その告知は丁寧かつ解りやすいものであるべきだが、先ず、重要なのは、支援者を付き添いのもとに、告知を行う必要があると考える。

なお、弁護人選任権を有効に行使するうえで、知的障害を理解する弁護人の選任が重要であるが、弁護人の知的障害に対する理解が不十分で、被疑者の権利が必ずしも守られていない状況も推測されるところであり、支援者を通じた弁護人の選任が必要な現状もある。

【大谷委員】

有効に機能していない。

基本的に令状主義のところで述べたことと同じであるが、特に単に「べんごにんをせんにんできる。」とか「もくひけんがほしょうされている。」と告げるだけでは、告げていないのと同じである。その言葉の持っている意味について説明しなければ権利の告知とは言えない。

【大濱委員】

否。

告知の要旨について
聴覚障害、盲ろう、知的障害(手話通訳者や要約筆記者、理解を助ける支援者の立ち会いの欠如、視覚情報・聴覚情報を補助する支援者の欠如)
精神障害についても同様。
黙秘権の告知について
聴覚障害、盲ろう、知的障害(手話通訳者や要約筆記者、理解を助ける支援者の立ち会いの欠如)
精神障害についても同様。

1の令状主義と基本的に同様である。また、国は手続的適正を担保するため、実質的に、意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)の弁護を有効にできる弁護人の養成に積極的に努めるべきである。

被害者になる可能性と、加害者になる可能性、に健常者と障害の間に、差異があるわけではないが、弁護人選任権や黙秘権の告知を聞いて理解できない障害者がいるのも現実として受け入れなければならないであろう。尚、障害があることで抑圧的な生活を強いられている、知的の障害者が取り調べの警察官の誘導に迎合しやすいと指摘されている。特に可視化を十分に行い、冤罪の防止に思慮すべきであると考える。

【尾上委員】

有効に機能していない。令状主義の部分と同様である。

【門川委員・福島オブザーバー】

弁護人選任権や黙秘権の告知については、障害者のみならず、全般的な問題として、有効に機能していない可能性があると考える。そして、当然、告知におけるコミュニケーションへの配慮は十二分に行われなければならない。また、さらに重要なことは、弁護人選任権や黙秘権が単に告知されるだけではなく、被疑者が実際に弁護士を選任したり、黙秘したりすることができるかどうかということであって、障害者の場合には、特にこの「実際の権利行使」において困難を抱えることが多いと考えられる。

したがって、告知後すぐに取り調べを行うのではなく、「実際の権利行使」を行うための時間を確保する必要があるとともに、障害者の弁護に精通した弁護士を障害者が選任するための環境を整備することが望ましい。

なお、特に知的障害者や精神障害者等、本人が希望する場合については、当人を長く支援してきた者などを特別弁護人として選定し弁護団の一員に加える、さらには被疑者段階においても特別弁護人を選定することを可能とすることも検討に値するのではないだろうか。

【新谷委員】

告知が口頭による場合は、筆記ないし告知を文書化したものの提示が必要です。

【関口委員】

否である。逮捕された時点で、著しい緊張状態にあることから、弁護士選任や黙秘権について入念に告知される必要がある。

国際的に異例とも言える、3日、10日、10日という起訴前勾留の期間の長さ、および代用監獄への勾留が大前提として問題であるが、さらに、精神障害者が大混乱している中で、権利告知を理解できない状況は多々あり、あるいは、警察署あるいは拘置所の『秩序維持』のため大量の抗精神病薬が投与され口も聞けない状況にされて、弁護士が、弁護士としての活動ができないと民事訴訟した例もある。

【竹下委員】

1 弁護人の選任権は形式的には保障されていると考える。しかし、弁護人の選任権が実質的に保障されるためには、手話通訳者や意思疎通を図るための補助者をもあわせて保障することが必要である。

2 これに対し、黙秘権の告知には、極めて問題がある。とりわけ、知的障害のある人や手話通訳を必要とする聴覚障害のある人に対しては、秘権の告知は実質的には保障されていないといってもよい。現に行われている法廷において、裁判所は形式的に裁判官が黙秘権の告知として通常の説明を加えれば十分であるとしており、その結果として被告人(または被疑者)がその告知内容を十分に理解したうえで証言しているか否かについては、確かめる必要はないとしているからである。障害のある人に対しては、その障害に応じた告知の方法、内容が検討されるべきであって、障害のある人がその内容を理解できていない限りは、黙秘権の告知は保障されていないというべきである。

【中西委員】

障害者は一般に弁護人選任権や黙秘権の告知等の法的な手続きについて無知である。そのため事件に巻き込まれた場合に全くの無防備状態となる。司法手続き上の配慮が現状では全くなされておらず、障害者にとって非常に不利な状況が生まれている。聴覚障害のある人には口頭での告知は効果がないので、書面を用いるなどの工夫が必要であり、知的障害者については、弁護人選任権の理解を得る工夫が必要である。知的障害の状態によっては、黙秘権の意義を理解することが困難な状況もある。つまり、言いたくないことは言わなくてもよいが、話した場合には、その内容は有利にもあるいは不利にも証拠になるというような条件を伴う説明文を理解することができない。この状況を改善するためには、司法関係者が特に精神・知的障害者の置かれているコミュニケーション上の障害を良く理解する必要があり、そのための研修を行う必要がある。

刑事・検事・裁判官・弁護士と言う司法の仕組みを理解していないと、冤罪が起こった場合真実を明らかにする事が非常に難しくなる。国選弁護人の場合は特に、弁護活動において弁護士に課せられる守秘義務等により、弁護士接見等で得た本人から情報やその想いを、弁護士も誤解して受け取り事を進めたり、過度な黙秘権の行使等で後の公判に不利益な状況を生み出す事にもなってしまう。また当事者を支援するためのサポーターや聴覚障害者のための手話通訳者や要約筆記者の配置なども適切に行う必要がある。このような配慮のない司法判決は無効とするような司法制度の整備が早急に求められる。

【長瀬委員】

有効に機能していない。必要な配慮の例には、難聴者の場合には、必要に応じて筆記者を通じた筆談、ろう者の場合には手話通訳者を介する手話など、各自に応じた適切な告知がある。視覚障害者の場合には、口頭による適切な音声情報や点字や拡大文字を通じた各自に応じた告知、盲ろう者の場合には点字や拡大文字、触手話、指点字など各自に応じた告知、知的障害者の場合には、分かりやすい表現を含めた、やはり個人に対応した告知形態が必要である。

【久松委員】

権利の告知規定は有効に機能していないと考える。

<弁護人選任権の告知について(現状)>

被疑者が逮捕された場合は、犯罪事実の要旨や弁護人を選任することができる旨告知し、弁解の機会を与えなければならない(刑事訴訟法第203条第1項)。

この場合も、手話通訳者がいなければろう者は告知の内容を理解することができず、十分な防御ができないし、弁解の機会を与えられたとしても自分の言語を以て弁解をすることができず、弁解の機会が実質的に与えられていない。実際は手話通訳者の立ち会いがなく筆談でやりとりする例が多い。

さらに、手話言語も日本語も十分に習得できないまま成年に至ったろう者も少なくない。このような人々にとっては、手話通訳をいくら保障しても、逮捕理由、弁護人選任権といった抽象的概念を理解できないこともある。このように、実質的にろう者が防御権を十分に行使できないにもかかわらず、形式的に手話通訳者がいることを理由にして司法手続が進められてしまうことがある。

<供述拒否権の告知について(現状)>

取調の際には、あらかじめ、供述拒否権があることを告げなければならない(刑事訴訟法第198条2項)となっているが、手話通訳者の立ち会いなしに筆談でやり取りする例が多い。手話言語を第一言語とするろう者の中には日本語を言語として十分習得していない人も多い。このような人々に対して筆記等で供述拒否権を告げられてもその意味を理解できない。このため、供述拒否権があることを理解しないまま取調が開始され、ろう者が十分に防御権を行使できないことが多い。

さらに、手話言語も日本語も十分に習得できないまま成年に至ったろう者も少なくない。このような人々にとっては、手話通訳をいくら保障しても、供述拒否権といった抽象的概念を理解できないこともある。このように、実質的にろう者が防御権を十分に行使できないにもかかわらず、形式的に手話通訳者がいることを理由にして司法手続が進められてしまうことがある。

<対策>

まず、ろう者が手話言語を第一言語とすると認められる場合又は本人からその旨の申し出があったときには、すぐに手話通訳者を付する権利を明文化する必要がある。

次に、手話通訳が円滑にでき、ろう者が十分に手続内容を理解できるように、司法関係者において、ろう者にとって理解しやすく手話通訳による伝達が容易になるような分かりやすい用語の使用、質問を簡潔にする、発話のスピードに気をつける、ろう者が発言できる機会を十分に保障するよう合理的配慮を義務づける規定が必要である。そして、捜査機関において、ろう者が手続内容を理解できないまま捜査手続を進めた結果得られた供述等の証拠は、公判においては証拠能力を有しないという規定を設ける必要がある。

そして、捜査機関において、ろう者が手続内容を理解できないまま捜査手続を進めた結果得られた供述等の証拠は、公判においては証拠能力を有しないという規定を設ける必要がある。

【松井委員】

とくに重度の知的障害者については、弁護人選任権や黙秘権の告知を受けてもその意味を理解することは困難である。したがって、これらの障害者に防御権を保障するには、弁護人や支援者の立会いを認める必要がある。

【森委員】

視覚障害者や聴覚障害者に対しては、双方向のコミュニケーションにおいて問題がある。また、知的障害者や精神障害者に関しては、弁護人選任権や黙秘権の告知に関する概念を理解することが難しい場合も想定され、権利の告知等が有効に機能するとは考えがたい場合もある。その場合には、常に身近な支援を行っている人がいれば、そのような人の介在が重要な役割を演じると考えられる。また、さまざまな障害特性とその関わり方に熟知した警察官などの配置が求められる。

3 取り調べ

被疑者に対する取り調べに際して、障害者に対して適正な取り調べが保障されていると考えるか、否か、調書の作成やその内容の確認方法も含めて問題点があれば、どのような手続き上の配慮が必要かも含めてご意見を賜りたい。

また、取調べの可視化(全面録画)についてどう考えるか、ご意見を賜りたい。

【大久保委員】

知的障害のある人たちにとって、状況の判断や自らの考えや思いを他人に上手く伝えたりすることが不得手といえる。

取調べの過程で、誘導的、暗示的質問や難解な質問に対して、その質問の意味や内容を十分理解できないまま供述する可能性があり、障害に配慮しないなかでの供述を重視した捜査や裁判が問題であることは、広く関係者が指摘するところである。

このような知的障害のある人たちの供述特性を踏まえ、当然、誘導的、暗示的質問や難解な質問は厳に慎むべきであり、丁寧かつ解りやすい質問と支援者の付き添いなどの配慮が求められる。

また、その供述調書の信用性を担保するためには、被疑者に対する質問と回答の内容を一つひとつ丁寧に検証することが必要であり、特に、知的障害のある人たちに対する取調べについては、昨今要請されている取調べの全面可視化が不可欠であると考える。

【大谷委員】

適正な取調べが保障されているとはいえない。このことは過去の冤罪の状況や現在の受刑者の実態をみれば、障害に対する手続き上の配慮がまったくなされていなかった結果であることは明らかである。

手話通訳者の立会や供述調書の点訳が保障されていない状態での取調は、防御権の保障は不可能に近いといえるし、特に、迎合的で誘導されやすい特徴を持つ知的障害のある人の取調においては、弁護人や支援者の立会が不可欠である。そして、その手続保障の担保のために可視化は是非必要である。

【大濱委員】

取調べについて・・・否。
聴覚障害、盲ろう、知的障害(手話通訳者や要約筆記者、理解を助ける支援者の立ち会いの欠如、視覚情報・聴覚情報を補助する支援者の欠如、誘導防止の欠如)
知的障害(誘導防止や任意性担保手段の欠如)
精神障害も同様。
調書の閲覧、読み聞け(刑訴第198条Ⅳ)
視覚障害、盲ろう(閲覧、内容の確認手段の欠如、通訳、わかりやすいコミュニケーション支援の立会人の欠如)
聴覚障害、知的障害(手話通訳者や要約筆記者、理解を助ける支援者の立ち会いの欠如、視覚情報・聴覚情報を補助する支援者の欠如)

可視化(全面録画)は必要。

現在も犯罪捜査規範168条2項において、誘導・心理的報酬などを用いた取調べに対する制限が規定されているが、実際の現場では、ほとんど無視されているに等しい状況だと思う。現状では、個々の意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に関して、どの辺に難があるのか、という点を把握・留意する過程は無いに等しい。そのような中で、取調べにおいては、捜査官が考える合理的ストーリーを、被疑者の認識の中に貼りつける、という作業が行われているに過ぎない。

このような状況を打開するには、①捜査官は、とくに意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に対しては、誘導・心理的報酬などを用いた取調べを絶対に行わない、というルールを徹底する、②もしも行われたら、そのような取調べと因果関係ある証拠はすべて証拠能力なし、と扱う、③上記①のチェックのためにも、取調べ過程の全てを可視化(全面録画)する、④意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)の取調べにおいては、弁護人及び本人の真意の表示を有効・適切に支援できる人を立ち会わせることを保障する、といったことが必要である。

設問が被疑者=加害者としているが、被害者=原告が障害者である場合も相当あるので、設問に加えてください。

千葉県浦安市立の小学校で起きた強制わいせつ事件の控訴審で、東京高裁の判決では、「犯行が行われた事実」は認めるが、証言(知的に障害のある女児)は、証拠として採用するには不十分であると、男性教諭に無罪の判決を言い渡しました。知的に障害のある子供であると作話的な証言はできないのですが、証言の聞き方と警察における調書、検察の捜査段階での調書、公判検事による調書、さらに加害者側の弁護士による尋問、公判廷における裁判官の尋問等度重なる質問に、同じ証言ができるかというと、日時や場所の特定には不向きである。これも、知的障害の特性であるが、証言としての証拠価値は必ずも高いとまでは言えないのが現実の評価である。適正に被害の真実を聞き出せるよう、特別の制度の創設と配慮が必要であると考える。特別の配慮の要望については、最後のその他の項で被害者に知的に問題のある人の司法支援の提案をします。

【尾上委員】

宇都宮事件等、過去の冤罪や現在の受刑者の実態をみれば、障害に対する手続き上の配慮がされていないことは明白である。

手話通訳者の立会や供述調書の点訳が保障されていない状態での取調は、防御権の保障は不可能に近いといえるし、特に、迎合的で誘導されやすい特徴を持つ知的障害のある人の取調においては、弁護人や支援者の立会が不可欠である。そして、その手続保障の担保のために可視化は是非必要である。どのように答えたか、を後からビデオで検証し、そのうえで、供述の任意性・信用性を評価することが必要であり、障害のない人の取り調べについても当てはまる。知的障害者の場合、その必要性が顕著である。

取調べの可視化については、諸外国・地域では、イギリス、オーストラリア、香港、台湾、アメリカ合衆国のイリノイ・ワシントンDC・テキサス等、フランスにおける少年の取り調べ、においてすでに実現している。

【門川委員・福島オブザーバー】

取り調べにおける問題についても、障害者に対してのみではなく、全般的な問題として考える必要があることを前提としたうえで、コミュニケーションへの配慮が十分に行われる必要があることを繰り返し指摘したい。

また、取り調べの可視化は、特に障害者が被疑者となっている場合について、取り調べ中の人権侵害を防止する効果が得られることが期待されるが、重要なことは、可視化そのものではなく、実際に人権が尊重されることであり、取り調べの場面において常に弁護士なり支援者なりが同席することができることについても検討に値するのではないだろうか。

なお、取り調べにおいて人権侵害が発生する理由の一つとしては、犯罪発生時に犯人を早急に検挙し厳罰を与えるよう要請する世論(マスコミの論調を含む)の影響も大きいと考えられる。犯人の早急な検挙や厳罰よりも、推定無罪の原則と冤罪の発生抑止・被疑者の人権保護が優先するということについての国民的な合意形成を行う必要があるのではないだろうか。ただし、そうした合意形成を行うにあたっては、虐待など、障害者が被害者となっているような場合について、犯人の検挙を急がなければ障害者の被る被害が甚大なものになる可能性があることなど、犯罪被害者保護の観点をどのように盛り込むのかについても検討する必要があると考える。

【佐藤委員】

ろう者には手話通訳を、中途失聴者難聴者にはようやく筆記者をつけ、知的障害者や発達障害者には理解を促したり解説したりするための補助者を必要に応じてつけるべきである。

冤罪事件がしばしば報道されるように、日本の警察の取調べは、何よりも自白を取ることを目的としており、そのため強引で誘導的な取調べが主流になっていると指摘されている。障害をもった人に対する適切な配慮があるとは思えない。警察官職務執行法などにも、障害をもつ人に対する配慮は書かれていないと聞いている。

【新谷委員】

障害者全体に共通しますが、特に問題となる段階です。尋問内容を正確に理解するため、要約筆記者などの介助が必要です。調書の作成段階での確認は当然ですが、取り調べの段階ごとに相互に内容確認をすることが必要です。取り調べの可視化は非常に有効な手段と考えます。

【関口委員】

まずとわれるべきは国際的に異例とも言える、3日、10日、10日という起訴前勾留の期間の長さ、および代用監獄への勾留が大前提として問題である。

このことを問わずに可視家のみにて問題を解決できるがごとき幻想は誤りである。まずこの長期の勾留こそが問われるべきであり、可視化によってこの長期勾留が合理化されてはならない。取り調べは密室で行われており、自分自身に客観性を持たせることが困難な状況にある。取り調べ側の強制力も働くため、被害者、証人の事情聴取を含めた、全面的な可視化が必要である。

その上で精神障害者の取調べに関しては、先に述べたように精神障害者について言えば、いわば大怪我をして大出血しているにもかかわらず放置したまま逮捕取調べ、裁判が進行している実態にある。

まず逮捕時点で混乱の状況にあるなら本人の求める安心した状況を保障し、本人の回復を待って刑事司法手続きを進めるべきである。

さらに拘禁下で精神疾患となったものについてはまず刑事施設から釈放して回復を待つ運用が必要である。

また現行の運用では接見禁止が乱発されているが、初めて会った弁護士ではなく日ごろ付き合いのある、友人あるいは精神障害者のピアサポートとしての支援が必要であり、それなしには、自白の任意性は、いかがわしいといわざるを得ない。

【竹下委員】

1 イギリスでは、DDA(イギリスの障害者差別禁止法)が成立したことから、警察官に対する研修が実施され、障害のある人に対する理解や障害のある人に対する接し方を警察官が身につけるようにしていると聞いている。わが国においても、警察官・検察官に対し、障害に対する基本的な理解を身につけてもらうための研修会を定期的に実施することが必要である。また、捜査・取調にあたっては、被告人・被疑者・容疑者または事件関係者の中に障害のある人がいる場合は、その人の捜査の前提として当該障害の特性を理解するための学習を行うか、当該障害の特性を理解している捜査官等を立ち会わせることを必須条件とすべきである。

2 捜査・取調にあたっては、障害のある人のために補助者を配置すべきである。その補助者はあくまでも障害のある人が選ぶことのできるシステムにしておくことが必要である。たとえば、手話通訳者は被告人・被疑者等のための手話通訳者と捜査担当者のための手話通訳者を分けて配置することが必要である。

3 障害のある人に対する取調等は、十分に障害に対する配慮が行われた状態で実施されたかどうかを検証することができるようにしておくことが必要であり、そのためには取調の全面的な可視化は絶対に必要である。たとえば、黙秘権の告知がどのような方法と内容で行われ、当該被告人等がそれを理解できているかどうかを確認し、あるいは供述が誘導ではなく真意または記憶に基づいてなされているかどうかを検証するためには、取調の可視化は必要不可欠である。

4 供述調書への署名手続において、「読み聞け」がどのようになされるかは視覚障害者にとって重要である。視覚障害者にとって供述調書が正確に読み上げられているのか否かを確かめる術はないからである。補助者の立ち会いを前提として署名させるか、点字化された供述調書による確認とその添付を条件として署名させるかが必要である。

【中西委員】

障害者に対して適正な取り調べが保障されていると考えられない。

足利事件でも冤罪になった当事者は知的障害のある人であったということであり、知的障害者が捜査官の誘導や強制によってうその自白をさせられてしまうことは現実に起こっている。まったくの冤罪でない場合でも、殺意があったのかなかったのか、わいせつ目的があったのかなかったのかなどについて、罪が重くなる方向に不利な供述をさせられてしまう場合も少なくない。こうした点では可視化や弁護士や身近な支援者の取り調べの立会いなどを行わなければ適切な取り調べにはならないと考えられる。

調書は捜査官が書き上げた後に、読み聞かせが行われ、内容に問題がなければ署名押印を求められる。知的障害の場合に、調書の記載内容を分かりやすい記述にしないと、読み聞かせを受けても十分に理解できない場合がある。また、聴覚障害の場合、手話等あるいは調書を直接読めるようにするなどの工夫が必要である。取調べに関して、手話通訳者の配置や精神障害者や知的障害者のサポーターの配置などが制度化されていないため、不利な結果が生じている。どのような尋問を行ったか、その言葉の意味を本人が十分に理解して返答を行ったのかをチェックするためには、取り調べの可視化は必要である。

【長瀬委員】

適正な取調べが保障されていない。現状は非常に多くの問題点がある。取調べの際の必要な配慮は、視覚障害者、ろう者、難聴者、盲ろう者、知的障害者それぞれに対応した適切な情報提供(必要に応じて、筆記者、通訳者、支援者の立会いが含まれる)のほか、精神障害者や発達障害者の場合の必要に応じた適切な休憩が含まれる。発達障害者の場合には、感覚過敏に対する配慮が必要な場合もある。

調書の作成と確認についてもほぼ同様の課題がある。視覚に障害がある場合、調書の記載事項の確認を自ら行う方法が欠如している。必要に応じて視覚情報を補うための支援者の立会いが必要となる。ろう者の場合、書記日本語に堪能でない場合、調書の記載事項を手話通訳者を介して自らが理解できる手話で確認する必要がある場合がある。知的障害者の場合、記載されている内容の本人による確認を適切に行うためには、単に読み上げるのみならず、その内容を分かりやすい形で伝えるための支援者が必要な場合もある。

取調べの全面的可視化が必要である。特に知的障害者の場合に、誘導性の有無を確認するために不可欠である。これは捜査側にとっても、公判段階で取調べの適切さを証明するために有効ともなりうる。

【久松委員】

適正な取調が保障されていない。また、全面録画は必要である。

ただし、全面録画の際、立ち会う手話通訳者の人権の保護を検討することが必要である。

<取調の現状>

検察官、検察事務官又は司法警察職員が被疑者、参考人、被害者に対して供述を求めるときに、ろう者の自然言語が手話言語であることを考慮しないまま一方的に筆談(筆記)等で取調を行うケースが圧倒的に多い。この結果、ろう者は筆談(筆記)による供述を強いられ、自らの自然言語を以て任意に(刑事訴訟法第198条2項)供述を行うことができない。

また、取調の際には、あらかじめ、供述拒否権があることを告げなければならない(刑事訴訟法第198条2項)。手話言語を第一言語とするろう者の中には日本語を言語として十分習得していない人も多い。このような人々に対して筆談(筆記)等で供述拒否権を告げられてもその意味を理解できない。このため、供述拒否権があることを理解しないまま取調が開始され、ろう者が十分に防御権を行使できないことが多い。

さらに、手話言語も日本語も十分に習得できないまま成年に至ったろう者も少なくない。このような人々にとっては、手話通訳をいくら保障しても、供述拒否権といった抽象的概念を理解できないこともある。このように、実質的にろう者が防御権を十分に行使できないにもかかわらず、形式的に手話通訳者がいることを理由にして司法手続が進められてしまうことがある。

次に、捜査機関における合理的配慮が十分でない結果、手話通訳が円滑にできず、ろう者が十分に取調の内容を理解できないことがかなり多い。

<職務質問(警察官職務執行法第2条1項)の現状>

警察官が、ろう者の言語について配慮を行うことなく、一方的に音声を使用して質問を投げかけ、コミュニケーションが図れないことを以て、一方的に犯罪の嫌疑をかけてしまうことがある。この結果、ろう者が、音声をコミュニケーション手段とする人々と比べて不利益な扱いを受けることがある。

また、ろう者と音声をコミュニケーション手段とする人との間に交通事故が起きて、警察官が現場に駆けつけてきたとき等の事案では、ろう者に対して手話通訳の保障を行わず、一切事情聴取を行うことのないまま、一方的に音声をコミュニケーション手段とする人だけの供述を聞くのが常であり、ろう者は一方的に不利益を強いられる。

<対策>

まず、ろう者が手話言語を第一言語とすると認められる場合又は本人からその旨の申し出があったときには、すぐに手話通訳者を付する権利を明文化する必要がある。

次に、手話通訳が円滑にでき、ろう者が十分に手続内容を理解できるように、司法関係者において、ろう者にとって理解しやすく手話通訳による伝達が容易になるような分かりやすい用語の使用、質問を簡潔にする、発話のスピードに気をつける、ろう者が発言できる機会を十分に保障するよう合理的配慮を義務づける規定が必要である。

そして、手話通訳がろう者にとって理解しやすい内容になっているかどうかをチェックするためには、全面録画が必要不可欠である。

また、捜査機関において、ろう者が手続内容を理解できないまま捜査手続を進めた結果得られた供述等の証拠は、公判においては証拠能力を有しないという規定を設ける必要がある。

【松井委員】

たとえば、知的障害者に対して適正な取調べを保障するには、弁護士や支援者の立会いが不可欠である。

無実の知的障害者が強盗容疑で起訴された宇都宮事件のような、申立人の真意と異なる自白調書によって刑に処せられるといった冤罪事件をなくするためにも、取調べの可視化(全面録画)を実現すべきである。

【森委員】

取り調べ時のコミュニケーション支援とともに、その内容を難しいと感じる障害者に対しては、その内容について概念理解を進めるための支援が求められる。また、非日常的な取り調べ自体に大きなストレスを感じる場合もあり、適切なストレスマネジメントも障害特性によっては必要になる。また、取り調べの可視化(全面録画)は是非とも実現する必要がある。

公判段階における刑事手続き

1 自白の任意性

取り調べにより自白すると書面が作成されるが、その自白に任意性がなければ、証拠として使えないことになる。捜査段階における障害者に対する取り調べ等に関して、任意性を否定すべき場合が存在するか、否か、存在するとした場合、それはどのような場合かについて、ご意見を賜りたい。

【大久保委員】

知的障害のある人たちにとって、自白の任意性を否定すべき場合が存在すると考える。

例えば、「はい」という応答が、質問に対して肯定する意味として意識的に発した言葉ではなく、言葉のやりとりのなかの反射的な言葉として発する場合も想定できる。つまり、質問の意味や内容を十分理解できないまま、誘導的、暗示的質問やその場の雰囲気や環境に影響され、応答してしまう状況が考えられる。

【大谷委員】

存在する。

取調べの際にそれぞれの障害に対する配慮がなされないまま録取された自白調書は任意性がない。たとえば、知的障害のある人の場合、質問の意味がわからなくても今までの生活経験から全て肯定することがある(黙従反応)し、何回も同じことを尋ねられると答えが間違っていると思って前言を翻すことがあるとされている。そういった供述特性を理解しない取調官によって取調べがなされると取調官の意識・無意識にかかわらず強く誘導され、結果として任意性のない供述がなされる可能性が高い。

したがって、公判段階においては、障害に対する配慮がなされずに録取された供述調書においては、任意性がないことを明文化すべきであるし、信用性の判断においても、障害の供述特性を十分に踏まえたうえで、たとえば「人はウソを付いてまで自分に不利なことは認めない」という経験則が知的障害や発達障害のある者には必ずしも妥当しないとして、同経験則が根底にある刑事訴訟法322条による自白調書の証拠能力の肯定を制限する等のなんらかの措置が必要である。

【大濱委員】

任意性を否定すべき場合が存在する。

自白の任意性
(立ち会い権、捜査の可視化、その他の代替手段の欠如の場合)

現状では、意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に対して、誘導・心理的報酬などを用いた取調べが行われ、その難に配慮した供述調書などまったく作成されていないに等しいものと思われるので、そのような難のある人の自白調書についてはほとんどすべて、有効適切な真意の表明になっていない、任意性がない、と考える。

なお、知的に障害があったとしても、真実を述べていて相当に裏付けが取れるとき、証拠能力を低く見ないようにすべきである。禁治産者に指定されていない程度の障害者には、自白調書においても、公判廷における証言にも同等の信憑性があるものという前提に立つべきである。

【尾上委員】

存在すると考える。

支援者も含めたコミュニケーション・情報保障が義務付けされていないことをかんがみれば明らかである。例えば、知的障害者の場合、相手の言うことに対して肯定的な態度や言動をとることがあり、そうした障害の特性に配慮がされない場合は任意性を否定すべき場合が存在する。

刑事訴訟法322条による自白調書の証拠能力の肯定を制限する等のなんらかの措置が必要である。

【門川委員・福島オブザーバー】

自白の任意性の問題についても、障害者に対してのみではなく、全般的な問題として考える必要がある。とりわけ(障害種別にかかわらず)障害者の場合には、長期間の拘束が心身状態の悪化につながりやすく、自白の任意性が損なわれる危険性が高いことに十分配慮すべきであり、また、コミュニケーション上の問題から、任意性の検証を厳密に行うことそのものが困難な場合があることを十分に考慮に入れ、任意性の有無にこだわることなく、「疑わしきは被告人の利益に」という原則の徹底を図り、自白により作成されたとされる書面の証拠採用については慎重であるべきと考える。

【佐藤委員】

ろう者には手話通訳を、中途失聴者難聴者にはようやく筆記者をつけ、知的障害者や発達障害者には理解を促したり解説したりするための補助者を必要に応じてつけるべきである。

【新谷委員】

任意性を担保するために、捜査段階・取り調べ段階での手続きの厳正化の論点が出ていると理解します。

【関口委員】

任意性がない場合が多いと考える。

先に書いたように精神障害者について言えば、いわば大怪我をして大出血しているにもかかわらず放置したまま逮捕取調べ、裁判が進行している実態にある。

まず逮捕時点で混乱の状況にあるなら本人の求める安心した状況を保障し、本人の回復を待って刑事司法手続きを進めるべきである。

さらに拘禁下で精神疾患となったものについてはまず刑事施設から釈放して回復を待つ制度が必要である。

なお戦前の刑事訴訟法でも自白は証拠とされなかったにもかかわらず、戦時特別立法として自白が証拠とされたことが戦後も継続しているのであり、そもそも自白は証拠とされるべきではない。

【竹下委員】

1 知的障害のある被疑者に対する取調については、誘導が大いに予測されるし、オウム返しによる供述が多いと思われる(これまでも知的障害があると思われる被疑者の自白調書が証拠として採用され、冤罪を出した例はいくつもある)。取調の可視化により検証できるか、補助者が立ち会っていない場合は、原則として調書の任意性はものとして取り扱われるべきである。

2 聴覚障害のある人や視覚障害のある人(広くはコミュニケーション障害のある人)についても、原則として手話通訳者を含む補助者の立ち会いがない供述調書は任意性がないものとして扱われるべきである。

【中西委員】

任意性を否定すべき場合が存在する。

取調べにおける自白が、任意性をもって行われたかどうか疑わしい場合が障害者の場合に頻発している。これは法律の難しい文章を理解できる者が非障害者に比べて少ないことと、一般の言語や漢字を理解できない精神、知的障害者が存在するためである。どこまでが事実でどこからが誘導かは、犯人性に疑いがない場合は、弁護士も判断できないことがある。司法関係者は知的障害に付随するハンディキャップを理解せぬままに取調べを行い、調書を作成している。一般には、調書をとられると弁護士の接見の際にその内容を弁護士に伝える事ができるが、知的障害の場合それができない場合がある。そのため、現状では取り調べの可視性や証拠物の確認等がない上に、調書についても起訴されるまで分からない状況が生じている。

知的障害者が黙秘権の意義を理解できていない場合、知的障害者に取り調べに弁護士及び本人が希望する援助者の立会いが認められなかった場合、調書の内容が本人に理解できていなかった場合などは、任意性を否定する余地があると考えるべきである。取調べ官は障害についても十分な知識を持つべきであり、そのための研修を受け、必要とするサポーターや通訳者を交えて尋問や取調べ、調書作りの方法を学ぶべきである。

【長瀬委員】

任意性を否定すべき場合が存在する。特に、一部の知的障害者は、誘導されやすいように社会化されてきている場合があり、誘導尋問等により、任意でない自白を強要されることがある。自白の任意性を担保するためには、適切な情報提供(保障)と全面的可視化の両方が不可欠である。これはたとえば視覚障害者をはじめとする他の障害者にも当てはまる。

【久松委員】

任意性を否定すべき場合が存在する。

<任意性の現状>

検察官、検察事務官又は司法警察職員が被疑者、参考人、被害者に対して供述を求めるときに、ろう者の自然言語が手話言語であること考慮しないまま一方的に筆談(筆記)等で取調を行うケースが圧倒的に多い。この結果、ろう者は筆談(筆記)による供述を強いられ、自らの自然言語を以て任意に(刑事訴訟法第198条2項)供述を行うことができない。

また、取調の際には、あらかじめ、供述拒否権があることを告げなければならない(刑事訴訟法第198条2項)。手話言語を第一言語とするろう者の中には日本語を言語として十分習得していない人も多い。このような人々に対して筆談(筆記)等で供述拒否権を告げられてもその意味を理解できない。このため、供述拒否権があることを理解しないまま取調が開始され、ろう者が十分に防御権を行使できないことが多い。

さらに、手話も日本語も十分に習得できないまま成年に至ったろう者も少なくない。このような人々にとっては、手話通訳をいくら保障しても、供述拒否権といった抽象的概念を理解できないこともある。このように、実質的にろう者が防御権を十分に行使できないにもかかわらず、形式的に手話通訳者がいることを理由にして司法手続が進められてしまうことがある。

<対策>

まず、ろう者が手話を第一言語とすると認められる場合又は本人からその旨の申し出があったときには、すぐに手話通訳者を付する権利を明文化する必要がある。

次に、手話通訳が円滑にでき、ろう者が十分に手続内容を理解できるように、司法関係者において、ろう者にとって理解しやすく手話通訳による伝達が容易になるような分かりやすい用語の使用、質問を簡潔にする、発話のスピードに気をつける、ろう者が発言できる機会を十分に保障するよう合理的配慮を義務づける規定が必要である。

そして、捜査機関において、ろう者が手続内容を理解できないまま捜査手続を進めた結果得られた供述等の証拠は、公判においては証拠能力を有しない、という規定を設ける必要がある。

【松井委員】

重度の知的障害者の場合、弁護士や支援者の立会いがないまま作成された自白調書は、任意性が認めがたいことから、証拠として採用すべきではない。

【森委員】

自白が偏重される現行制度においては、取調べ過程のコミュニケーション支援とともに、理解の確認をどのように進めるかによって、障害特性によっては容疑者の十分な判断ができないままに自白と受け取られる場合も考えられる。そのようなことから、障害者の場合の自白の任意性が疑われる場合も生じると考えられる。この場合も、捜査に関わる関係者の障害特性理解、コミュニケーション支援能力が求められる。

2 証人尋問

被告人や証人が障害者の場合、質問や尋問が適正になされていると考えるか、否か、問題点があれば、どのような手続き上の配慮が必要かも含めて意見を賜りたい。

【大久保委員】

現在の司法制度では、知的障害者の裁判においても支援者の同席は認められていない。ろうあ者には手話通訳が、外国人には通訳者の同席が認められているようであるが、知的障害のある人にも支援者の付き添いを認める必要があると考える。

現在、知的障害のある人たちは、多くを弁護人に依存せざるを得ないが、知的障害に理解のある弁護士がそれほど多くない現状がある。これら弁護人に対する「訓練」の体制も整備する必要がある。

【大谷委員】

適正になされていない。

聴覚障害のある人の場合は、手話通訳等の理解可能な通訳を義務づけるべきである。

知的障害のある人に、質問や尋問をする場合は、裁判官・検察官・弁護人三者とも、具体的な事実を問う質問にするとか、短い文章で質問する、指示代名詞を使わないなどの障害特性に配慮すべきである。また、時間の順を追って質問する、威圧的な質問をしないなど混乱させるような質問をしないことも必要である。その他、質問を理解する時間をかける、誘導尋問をしない、非言語的表現の意味するところをはっきりさせる等に注意する必要がある。知的障害のある人の証言能力は十分あるのであるが、これまで信用性がないとされたのは、証言者自身の問題ではなく、質問(尋問)者の側の問題であったことを肝に銘じるべきである。

なお、刑事司法手続きにおいて、補佐人の規定(刑事訴訟法42条)をもっと積極的に利用すべきである。特に知的障害者については、権利保障のために積極的に義務付けるべきである。

【大濱委員】

被告人や承認が知的障害者の場合、現状は、質問や尋問が適正になされていると考えることはできない。

尋問(被告、証人)
聴覚障害、盲ろう、知的障害(擬声音の表現、音声・聴覚情報、過去の仮定、抽象的概念の伝達、物的証拠の触覚的確認)
視覚障害(図面や証拠物を利用した尋問)
精神障害

現状の証人尋問手続では、意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)の真意表明が担保されているとは言えない。そのような難のある人について一定の理解のある弁護人を養成し、本人の真意の表示を有効・適切に支援できる人を立ち会わせることを保障する必要がある。

その他の項で取り上げるが証人尋問では、裁判官のような法衣を着た人による尋問には、委縮してしまうので特別の拝領を要望する。

【尾上委員】

適正になされていないと思われる。上記「自白の任意性」など取調べの過程に共通する課題である。

聴覚障害者における手話通訳者や筆記者等、コミュニケーションを可能とする支援を義務づけるべきであり、知的障害のある人に質問や尋問をする場合は、全ての関係者は障害特性に配慮すべきである。

【門川委員・福島オブザーバー】

質問や尋問については、適正になされているかどうか以前の問題として、障害者が疎外されていることが大きな問題だと考える。たとえば、知的障害者、精神障害者等の中には、法廷という空間がきわめて抑圧的なものとして作用し、情緒的に多大な影響をうけて、その人本来の意思や思考が乱されたり、パニック状態に陥ったりする可能性のある人も含まれることに留意すべきである。したがって、法廷という場において、障害者が十分に自分の意見を申し述べることができる環境を整えることが重要であり、もし法廷という場では難しいということであれば、事前に(よりリラックスできる、あるいは設備の整った環境下で、弁護人のみならず中立的立場としての裁判所関係者同席のうえで)録音・録画による意見陳述を行えるようにすべきである。質問や尋問すべき事項が法廷の場での「流れ」により決まってくる面も確かにあるであろうが、被告人や証人が障害者の場合にはそうした「流れ」の中で誘導されやすい場合もあり、法廷の場での質問や尋問にのみこだわるべきではないのではないかと考える。

【佐藤委員】

ろう者には手話通訳を、中途失聴者難聴者にはようやく筆記者をつけ、知的障害者や発達障害者には理解を促したり解説したりするための補助者を必要に応じてつけるべきである。

【新谷委員】

第十三章 通訳及び翻訳の規定に、「被告人・証人が求める場合は必ず準備しなければならない」という文言を追加すべきと考えます。また、このような規定の存在を裁判所が被告人・証人に告知する必要があると考えます。

【関口委員】

裁判自体、多くの体力と精神力を要するものである。裁判準備に配慮することが必要。また拘置という状況では、精神症状に悪い影響を与えるため、治療のための勾留の一時執行停止や保釈が早期になされることが必要。

精神障害者についてはその疲れやすさや緊張に配慮し、休憩を本人の求めに応じて取る訴訟指揮が必要である。

またいかめしい法廷ではなく、ラウンドテーブルを囲むような法廷の構造も求められる。

【竹下委員】

1 現行制度の下でも通訳人の配置が規定されているが、当事者のための通訳者(補助者)とはなっていない。現行制度の通訳者は、あくまでも裁判所のための通訳者であって、被告人(聴覚障害またはコミュニケーション障害のある人)のための補助者ではない。

2 聴覚障害のある人にとって自らが十分に理解し、自らの攻撃防御のためには自らが適当と思われる手話通訳者を選択し、選任することができる制度でなければならない。そうでないと、全ての聴覚障害のある被告人は必ずしも全ての手話通訳者の通訳を理解できるわけではないからである。

【中西委員】

質問や尋問が適正になされていると考えられない。

尋問の場の雰囲気や裁判官のような法衣を着た人の存在を前にして委縮してしまったり、普段聞きなれない言葉遣いで問われる事に対して理解できないことが多い。平易な言葉遣いだけでコミュニケーションが取れるわけではないため、信頼できる支援者を手話通訳者並みに配置し対応するなどの特別の配慮が必要である。知的障害のある人に難解な質問をするなどの不適切な対応を改めさせるためにも、弁護士、検察官、裁判官に対して障害のある人の障害に応じた尋問のあり方に関する必要な研修を行うべきである。

【長瀬委員】

適正になされていない場合が多い。法廷での質問や尋問の意味が障害者である被告人や証人に適切に伝わるために必要な配慮が提供されていない。難聴者の場合の文字情報、ろう者の場合の手話が適正に提供されていない。また、一部のろう者や知的障害者には、難解な法廷での用語を適切に伝えるための支援が必要となる場合があり、視覚障害者の場合には、証拠に関する視覚情報を伝えるための支援者が必要な場合があるが、そうした必要への対応が十分でない現状がある。

【久松委員】

適正になされていない。

<現状>

ろう者の中には、手話言語を第一言語とする人々も多い。このような人々に対する証人尋問、被告人質問の際には、手話通訳者を保障することが必要条件である。現行の刑事訴訟法第176条は、「耳の聞えない者又は口のきけない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせることができる。」と規定されている。(なお刑事訴訟規則第125条「証人が耳が聞えないときは、書面で問い、口がきけないときは、書面で答えさせることができる。」という規定もある。)。しかしながら、この規定は手話通訳者を権利として保障する規定ではなく、裁判所の裁量にとどまる。これが外国語通訳を義務づけた刑事訴訟法175条の規定とは異なる。このため、手話通訳者が保障されなかった事例が時々存在する。

また、現行の刑事訴訟手続(民事訴訟手続も)においては、通訳人の費用は「訴訟費用」に含められており(刑事訴訟費用法2条2項)、被告人負担が原則とされている(刑事訴訟法181条1項本文)。実質的には、被告人に訴訟費用を負担させないこととする判決が多い(刑事訴訟法181条1項ただし書)が、原則として被告人負担とすることは、司法に対するアクセスを阻害するものである。

さらに、手話通訳者を付することを保障することはあくまでも最小の必要条件であって、十分条件ではない。手話通訳者を付することの保障をした上で、さらに、手話通訳が円滑にでき、ろう者が十分に手続内容を理解できるように、司法関係者において、ろう者にとって理解しやすく手話通訳による伝達が容易になるような分かりやすい用語の使用、質問を簡潔にする、発話のスピードに気をつける、ろう者が発言できる機会を十分に保障するよう合理的配慮が求められる。しかしながら、ほとんどの公判においては、裁判官、検察官、弁護人のいずれもこのような合理的配慮を欠いている。

また、ろう者の中には、手話言語も日本語も十分に習得できないまま成年に至ったろう者も少なくない。このようにろう者の言語習得の程度によっては、手話通訳者を付することを保障した上で、司法関係者において合理的配慮を尽くしてもなおろう者が司法手続を理解できず、防御権を十分に行使できないと判断される場合もある。このような場合、現状としては、「被告人が、耳が聞こえず、言葉も話せないなどのため、通訳人を介しても黙秘権の告知、訴訟行為の内容の伝達ができないことから、その訴訟能力に疑いがある場合には、医師の意見を聴き、必要に応じてろう教育の専門家の意見を聞くなどして審理を尽くし、訴訟能力がないと認めるときは、原則として刑事訴訟法314条1項本文により公判手続を停止すべきである」(最判平成7年2月28日刑集49巻2号481頁)とされて公判停止になったが、これが長期間続き、起訴された日から19年後の平成11年9月3日まで公判停止が続いてようやく公訴棄却に至った事例がある。

<対策>

まず、ろう者が手話言語を第一言語とすると認められる場合又は本人からその旨の申し出があったときには、すぐに手話通訳者を付する権利を明文化する必要がある。

次に、手話通訳が円滑にでき、ろう者が十分に手続内容を理解できるように、司法関係者において、ろう者にとって理解しやすく手話通訳による伝達が容易になるような分かりやすい用語の使用、質問を簡潔にする、発話のスピードに気をつける、ろう者が発言できる機会を十分に保障するよう合理的配慮を義務づける規定が必要である。

また、ろう者の言語習得の程度によっては、手話通訳者を保障した上で、司法関係者において合理的配慮を尽くしてもなお、ろう者が司法手続を理解できず、防御権を十分に行使できないと判断される場合には、すみやかに訴訟手続を打ち切って公訴棄却をすべきである。

【松井委員】

重度の知的障害者の場合、質問や尋問の内容について理解できているかどうかを弁護人が確かめる必要がある。弁護人としては、どのように伝えれば本人が理解できるか工夫すべく、事前の準備が必要である。

【森委員】

適正になされているとは考えられない。障害によっては、手話、文章表示、点字、わかりやすい表現などを含めた、障害特性に応じたコミュニケーション支援が必要になると考えられる。

また、裁判官、検察官、弁護士、その他関係者の障害特性の理解が求められそのための研修なども必要と考えられる。

3 判決

判決は宣告により告知されることになるが、判決内容の伝達や判決文の交付が適正になされていると考えるか、否か、問題点があれば、どのような手続き上の配慮が必要かも含めて意見を賜りたい。

【大久保委員】

知的障害のある人たちにとって、判決文はルビがあったとしても、難解で理解が困難と思われる。平易な文言とし、支援者の付き添いのもと宣告されるべきものと考える。

【大谷委員】

適正になされていない。

判決内容について、聴覚障害者に対しては、手話通訳等そのものが理解可能な方法で伝達されなければならない。知的障害のある人に対しても判決内容を平易な言葉に置き換えて伝達したり、補佐人から同時に説明を受けられるようにすべきである。

判決文については、独特の言い回しや難解な表現を改め、理解しやすい文章としたうえで、ルビを振る必要がある。

判決文の交付については、視覚障害のある者に対して点訳を裁判所の費用で行い、かつ、その費用は被告人に負担させないことが必要である。

【大濱委員】

適正ではない。

聴覚障害、盲ろう、知的障害(手話・筆記(要約筆記)・点字、その他の方法による通訳者や、コミュニケーションの理解を助ける支援者の欠如。視覚情報・聴覚情報を補助する支援者の欠如)

判決謄本又は判決抄本の交付
視覚障害、盲ろう(点字、拡大文字等による書面交付の欠如)

意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難があり(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)、有効・適切に防御できない人に関しては、現状の判決内容の告知では、手続的適正を確保したことにはならない。本人の真意の表示を有効・適切に支援できる人を立ち会わせることを保障する必要がある。

知的障害のある小学生の女児が性被害に遭った事件で、被害者が子供であるにもかかわらず、被害者の実名が起訴状にはそのまま記載され、公判廷で検察官により朗読されます。(裁判長の指示で実名を朗読しないとか、最初に一度読みあげたら二度目からは、氏名を伏せる等の配慮を示す裁判官もいるが)必ずしも特別の配慮義務が課せられているわけではない様である。

特別に配慮すべき事由として、明記するようにしてほしい。合理的に配慮すべき理由として、特別学級や障害者施設では、障害者は自己主張出来ない環境に置かれており、問題が深刻化する前に対応すべきです。

【尾上委員】

適正になされていないと思われる。判決内容について、それぞれの障害の必要性に応じた配慮はほとんどされていないためである。

【門川委員・福島オブザーバー】

宣告による告知は主文及び理由を朗読することにより行われると承知しているが、その際に、コミュニケーションへの配慮が行われることは必要不可欠である。しかし、内容が難しいものであれば、当然、法廷での告知のみでは内容がきちんと伝わらないことも想定しうる。その際には、被告人からの申し立てに応じて、法廷での朗読による通常のやり方での告知に加え、裁判長が被告に個別に説明を行う場を設けることも必要であると考える。なお、そのような説明の場には、適切な支援者が立ち会うとともに、裁判の公開の原則のもと、録音・録画等により可視化することが望ましい。

【新谷委員】

上記と同様の問題です。

【関口委員】

障害による差別を理由とした、刑事訴訟の再審を棄却させないこと。

【竹下委員】

現行制度の下でも判決の言い渡しは概ね適正に行われていると思う。かつて盲ろう重複障害のある被告人に対し点字で判決の重要部分(主文と罪となるべき事実)を作成し、被告人に手渡した上で判決言い渡しが行われた例もある。しかし、それらは裁判官の個人的な配慮によって実施されているに過ぎないから、全ての場面で確実に合理的配慮が実施されるように、裁判所法ないし施行法で合理的配慮事項を規定すべきである。

【中西委員】

適正になされていると考えない。

聴覚障害、知的障害、視覚障害のある人にとって、判決の告知が口頭で行われ、多くは内容が難解であり、判決書が墨字で記載されているなどが、判決内容の伝達や判決文の交付の際にもバリアとなっている。量刑が課せられた場合、拘置所から刑務所へそのまま収監されると考えられるが、本人が弁護士並びに支援者とで、その宣告内容を確認する機会をもうける必要がある。

それぞれの障害に応じた判決内容の理解を図るような配慮が必要である。

【長瀬委員】

適正になされていない。他の司法過程と同様に、判決内容の伝達に関しても、難聴者の筆記、文字通訳や、ろう者の手話通訳、盲ろう者への通訳(触手話や、指点字など)、知的障害者の情報支援等が欠けている。判決文の交付に関しては、盲ろう者や視覚障害者への点字や拡大文字などの配慮が必要である。

【久松委員】

著しく不適正というわけではないが、「執行猶予」「未決勾留日数の算入」など法律の専門用語が理解できない場合がしばしばあり、合理的配慮が必要である。

【松井委員】

重度知的障害者の場合、判決の内容が理解できるよう、支援者などがわかりやすい言葉で伝達する必要がある。

【森委員】

上掲「2証人尋問」と同じく、適正になされているとは考えられない。障害特性に応じたコミュニケーション支援が必要になると考えられる。また、裁判官、検察官、弁護士、その他関係者の障害特性の理解が求められ、そのための研修なども必要と考えられる。

受刑者の状態

1 IQ69以下の受刑者

法務省の矯正統計年報によれば、新受刑者のうち、知能指数69以下の人は22%を占めているとされている。片や、障害者白書では、知的障害者は0.4%とされている。両者の判断基準が同一ではないため単純比較は出来ないが、なぜ、このような状況であるのか、その原因について概括的なご意見を戴きたい。

【大久保委員】

同統計によれば、「テスト不能」者を含めると、刑務所に入る4人に1人が知的障害の可能性があるとされている。これらの背景には次のような事情があると考えられる。

知的障害のある人たちが被疑者・被告人として刑事手続きに参加する場合、その被暗示性、被誘導性等の特性により、事実とは異なる供述をすることが往々にしてある。自白した被告人について公判で真犯人が現れた宇都宮事件だけではなく、多くの被疑者・被告人は、関係のない余罪を押しつけられたり、本心とは異なる動機を供述させられたり、犯行の関与の程度を強く歪められたりするなど、体験と一致しない調書が作成されていることは容易に予測できる。それほど知的障害のある人たちの防御能力は脆弱なものである。

一方、弁護人についても、十分な研修を受けていない者が知的障害のある人たちの弁護を担当することにより、その障害に配慮しない弁護を通じてかえって本人の権利を侵害するということも実際に見受けられるところである。

裁判所における被告人としての知的障害のある人たちは、その特異な行動や表情から、法廷で反省していないと受け取られたり、社会に戻した際の不安材料として受け取られ、量刑に不利な事情として斟酌される可能性もある。裁判員制度の下において裁判をうける場合であればなおさらであり、社会の偏見がそのまま法廷に持ち込まれる可能性は否定できない。

このように、知的障害のある人たちにとって不利益な状況が重なっており、同統計の数字の背景になっていると考える。

【大谷委員】

自己を守る力の弱い知的障害者が、障害に対する配慮がまったくなされないまま司法手続きに乗せられた結果であると考える。障害者白書における知的障害者は、療育手帳を所持している者という意味であるが、受刑者の多くは、本人も家族などの周囲にも障害のあることに気づかれないまま、適切な福祉的支援につながらず、刑務所に入って初めて知能指数が低いことが分かった者である。彼らは、何の支援も配慮ないままで、その知的能力の低さから教育の機会が限定され、就労の機会も限定されていわゆる貧困の連鎖に陥り、また、社会参加の機会も限定されるため社会生活にかかわる様々なスキルを習得する機会も少ないため、社会的不利な状況で生活することとなる。また、生来の自己防衛力の低さから被害にあうことも多く、経済的搾取にも多くあっている。その結果、万引きや無銭飲食といった犯罪を繰り返すこととなる。

しかし、また、基本的にコミュニケーションの障害があるので、その犯罪に至る経緯や動機について、うまく語ることができず、たとえばパンを盗んだのはおなかが減ったからといった供述しかできず、結果として短絡的で自己中心的であるとされてしまう。また、内面について語ることも苦手であるため、反省も上手に表明することができず、さらに、真っ正直で場に適した言動ができないことから、ともすれば開き直った不遜な態度と取られ、必要以上に重い量刑となることが少なくない。加えて、先述した種々の障害特性や供述特性に対する配慮のなさから任意性、信用性のない供述調書が作成されたり、アリバイについて語れなかったりするために、島田事件をはじめとして冤罪も多い。共犯者の罪をかぶせられたり、他の同種事件を押しつけられたりといったことも少なくない。

前者に対する対策として、2009年7月から、各都道府県において、刑務所等の矯正施設からの出所者で高齢者や障害がある人など支援の必要な者に対して、帰住先地域の社会的資源と調整を行う「地域生活定着支援センター」の設置が始まった。しかし、2010年2月末現在設置は11県とまだ少なく、今後はきちんとした法制度化が必要である。

後者に対しても、埼玉弁護士会や大阪弁護士会といった単位会が、社会復帰支援委託援助事業や障害者刑事弁護サポートセンターなどの独自の取り組みを行っているが、これについても法制度として規定すべきである。

【大濱委員】

障害者白書は、療育手帳を持っている者だけを知的障害者(公的に知的障害者と認定されている人)と扱い、その割合を示した数値が0.4%であるとしているのではないか、と思う。療育手帳を持たない知的障害者は多数存在し、かつ、そのような人たちには、生活上も有効・適切な支援がなされていないために、受刑者になってしまう割合が非常に大きいのだと思う。

知的障害者の場合、適切な支援があれば、法を犯すことが無かったと言う例が多い。現状は福祉的な支援や職場での支援が足りない。

また、より重度の知的障害場合で、異性の子供に抱きつく、商店の商品を取って食べてしまう・・などを目を離すと起こしてしまうような障害者の場合、ヘルパーやガイドヘルパーを長時間連続で利用できるようにして、地域で暮らすことができるようになった例がある。しかし、現状では多くの市町村ではヘルパー制度・ガイドヘルパー制度の適切な支給決定が行われていないので、これを大きく充実させるべき。

高齢で知的に障害のある受刑者の処遇の問題、刑務所では知的に問題のある受刑者の多くが刑務官に聞くと「模範囚」であるという回答が返ってくるそうです。刑務官や受刑者の仲間に反抗的な態度をとったり、作業の手抜きをすることはなく、ひたすらおとなしく従順であるから、「模範囚」であると評価されています。「模範囚」で、刑期が短縮され早期に社会に出てきても、知的に問題のある受刑者が再就職するに相当高い壁があります。地域で暮らすことが困難だから、安易に衣食住が保障されている、刑務所へ逆戻り=軽微な犯罪を繰り返し、結果的に高齢で知的に問題のある受刑者が多いということになります。犯罪者として裁き刑を科すことにより社会の秩序を保つことと、この社会に高齢で知的に問題のある人の再犯率が高いとう実態の間にこそ、福祉的配慮が必要であると考えます。

【尾上委員】

まず、非常に狭い障害の範囲の問題が関係する。

日本では、障害福祉サービスを受けることができる障害者はほぼ、障害者手帳を持つものに限定されている。日本の手帳制度は非常に厳格な医療的判断によって、その障害の有無や等級等が判断される。知的障害の場合は一義的にはIQで判断され、軽度の知的障害者(ここで問題にされているIQ70前後以上の方々)の場合は福祉サービスの対象外となることが多い。そのため、知的障害者の中で手帳を取らない人が多い。こうして障害福祉の対象にもならず、司法手続きの中で障害に基づく配慮を全くうけられない無防備の状況におかれる人が、生活の手立てや支援のなさとの相互作用の中で、「犯罪者」となってしまう、あるいはされるということが、設問に対する回答となると思われる。

ちなみに権利条約は第1条等で障害を知的も含む機能障害と社会の環境との相互作用によって社会参加が不利になる人も「障害のある人」とする障害の社会モデルを採用しており、早急に条約上の対応策が日本は求められている。

【門川委員・福島オブザーバー】

論点の趣旨を解釈することが困難であるが、新受刑者に占める「知的障害がある疑いがある者」の人数比率が高いことについてどう考えるか、ということであると理解するなら、以下のような考え方がありうる。

それは、知的障害が軽度である場合、一定程度は社会に包摂されやすいものの、実際には知的障害があるために、ぎりぎりのところで排除されることになり、そうした排除の過程において、軽度の知的障害者本人が「犯罪」に手を染めるという形になってしまう可能性が高いということである。知的障害という障害が障害学における社会モデル的な意味での「社会的に」構成されるものであるという考えとも、そうした考え方は一定程度整合性を持ちうる。しかし、極めて重要なこととして、このような考え方は、「軽度の知的障害者の犯罪率が高い」ということを示唆するものでは「ない」、ということに十分に留意する必要がある。

とりわけ、考えておかなければならないことは、そうした軽度の知的障害者については「冤罪」の可能性も高いのではないか、さらには教唆されたり強制されたりしている可能性も高いのではないか、ということである。

いずれにしても、提示されている論点は、軽度知的障害者に対する社会的な支援の不足が軽度知的障害者を犯罪に走らせているという問題意識を含むと考えられ、罪を犯す前になんらかの社会的な支援を行う必要性があるということについては十分に考慮するべきである。なお、知的障害者が経済的困窮のために、やむなく犯罪をおかし、収監されることで「安定した生活」を得ようとした、とされる山口県での事例の報道もかつてなされたことが想起される。

ただし、具体的にどのような形で支援するべきか、という点について踏み込んで考えた場合、軽度知的障害者の「選別」や「ラベリング」を助長しかねないという危険性に十分に留意すべきである。すなわち、軽度知的障害者のように、一定程度、社会に包摂されている人々については、障害者として選別し特別の施策を提供するということではなく、より一般的な施策(貧困対策や更生保護制度など)の充実を図る中で、軽度知的障害者への適切な対応方法を模索するという方向で対処することが望ましい側面もあるのではないかということである。

なお、受刑者のIQの測定については、測定する環境や本人の「サボタージュ」(IQ測定をすることに対する不満として)といった要因から、正確性に欠けるとも考えられ、安易に受刑者のIQを基準に施策を考えるべきではないと考える。さらに、そもそもなぜ受刑者のIQを測定しているのかというところから考えたとき、刑務所側の処遇の不適切性という問題を、受刑者の側に押しつけるものとも考えられるのではないだろうか。上述したような知的障害者への誤った先入観を助長することにもなりかねないことから、IQ測定のあり方について、人権擁護の観点から問題がないか、改めて、十分に検討する必要があるのではないかと考える。

【北野委員】

A.矯正施設内では、決まったパターン行動とルーティン動作を求められる。そのことにいったん適応できれば、むしろ模範囚となってしまうために、IQのことは、共生施設内ではそれほど問題視されていないのではないか。

一方、アメリカ等では家庭環境等による軽度の知的障害者の問題が長年研究されてきている。IQの低さは、おそらく環境要因等によって適切な教育的環境を欠いたために、十全の成長・発達が阻害された可能性が考えられよう。

そのように考えれば、この国では、そのような教育的環境の問題のためにボーダーの人がかなり存在するが、適切な支援を受ける機会のないために、障害者手帳とも無縁な世界に置き去りにされているというのが実態ではあるまいか。

【佐藤委員】

これらの数字の正確さは疑問であるが、実は相互に関連している。概括的に言えば、乱暴だが0.4%が原因で22%が結果である。

知的障害者として教育、福祉、所得、雇用など色々な分野での支援される対象が非常に狭いことを0.4%という数字は示している。そのため知的機能の発達がやや遅れている人々が適切な支援もなく、理解もされず、いじめにあい、社会生活上の困難に直面しがちである。つい窃盗や無銭飲食などの軽犯罪を犯してしまうのではないか。

【新谷委員】

取り調べ・裁判段階での知的障害者に対する支援不足の表れと思います。

【関口委員】

原因を論じる以前に、IQを調査すること自体に差別がある。

原因は、知的障害者を対象とした、代用監獄での自白の強要による違法・違憲な取り調べによる冤罪としても差し支えないかもしれない。が、根本的に代用監獄があることが問題。または、代用監獄の時間を短くして、弁護士つきとすること。

【竹下委員】

質問(論点)の趣旨ないし意図が十分理解できていないが、仮に国民の中での知的障害のある人の比率に比較して、受刑者の中に占める知的障害のある人の比率が高いことの原因ないし理由を問題にしているのだとすれば、刑事学ないし犯罪の分析が必要である。そうした専門的な分析を抜きに経験上から指摘できるものとしては、以下の点がある。

1 知的障害のある者が自己抑制ないしは自己コントロールが十分にできなかったり、そうした学習を受けていないために、窃盗などを犯す例が多いと思われる。

2 刑事裁判において、責任能力の判断が適正に行われているか否かも疑問である。

3 判決の量刑にあたり、知的障害がどのように考慮されているかも疑問である。とりわけ、体刑、自由刑を科すことの妥当性(強制の可能性の有無を考慮した上での量刑となっているか否か)に疑問がある場合が多い。

4 再犯防止のための援助体制が十分に確立していない。犯罪予防の見地から知的障害のある人の中で、犯罪傾向のある者に対する学習や補助者の配置を含む援助体制が検討されるべきである。

【中西委員】

すべての新規入所受刑者について処遇の分類をするために受刑者に関しては知的障害が発見されやすいという側面があるとしても、22%の受刑者が知的障害者であるという一般人口比を大幅に上回る数値の差は、知的障害のある人に対するセレクティヴサンクション(米国で同程度の犯罪行為をしても黒人のほうが白人より摘発されやすい傾向があり、その結果、受刑者には黒人が多いという現象)が行われている可能性を否定できないと言われている。これは、福祉的問題を司法的問題として取り違えていることに起因しているからである。地域での乏しい支援、少ない所得、継続的な職業に従事することの困難さなど、知的障害があることから社会的排除を受け、その結果、窃盗や無銭飲食などの犯罪行為を繰り返してしまう人もいる。犯罪を繰り返すのは、刑務所が唯一の住処であり、食事の不安なく暮らせる場として選んでいるとも言える。山本譲二氏の「獄窓記」にはその状況が詳しく書かれているが、障害のある人に対する社会的排除とセレクティヴサンクション(刑罰を受けることでなおさら社会的に排除される)が悪循環をもたらし、受刑者の中に高い比率で知的障害のある人がみられる結果になっている。地域で生活する方法も知らず、刑務所を福祉施設として利用しているこのような状況を放置してきたのは国の責任であり、福祉制度の不備がこのような結果を招いているとも言える。

【長瀬委員】

非常に慎重な分析が必要である。まず、論点に挙げられているように、知能指数だけで判断できる問題ではないということが挙げられる。次に、前述の知的障害者に対する取調べ段階での合理的配慮の欠如により、誘導的な尋問に対して、自己防御することができなかったために受刑することになった人もいると推測される。しかし、最大の要因は、定義と障害認定の仕組みの不備により、いわゆる軽度の知的障害者の多くが障害者としての認定を受けず、したがって必要な社会福祉制度の利用ができないため、必要な支援が社会の中で得られず、社会的孤立の状況にあり、最終的に受刑にまでたどり着く構造である可能性がある。仮に犯罪をおかした場合、家族や職場、地域社会といった社会的なネットワークがある場合には、有罪となっても、受刑に至らない事例が非常に多いが、そうした社会的ネットワークから切り離されてしまい、社会福祉制度の利用もない人の場合は、受刑に至らざるを得ないためである。そのために高率で受刑者の中に知的障害者と見なされる人が含まれてしまっている可能性がある。同様の現象は、ホームレスの人の中に多くの知的障害者が高率で含まれているという報告でも見られる。別の言い方をすれば、本来は支援が必要な軽度知的障害者は、社会的スティグマ(烙印)である「知的障害」というレッテルを本人や親が意識的に避けたり、また、支援の必要性が誰からも認定されないまま、支援がない状態に置かれ、結果として受刑者となったり、ホームレスとなっている可能性がある。なお関連した根本的な問題点として、「知的障害」の法的定義の欠落がある。

【久松委員】

知的障害者にはコミュニケーションが十分に図れない人々も少なくない。捜査手続や公判手続におけるコミュニケーションが十分でなかったために被疑者・被告人に不利な判決が出され、受刑に至った事例が少なからずある。

【松井委員】

知的障害がありながら、正式な判定を受けていないため、必要な支援も受けられず、生活に困窮して窃盗を繰り返したり、あるいは前述の宇都宮事件のように、無実であるにもかかわらず、弁護ができないため刑事手続きがとられ、受刑者となった者も相当数いると思われる。知的障害者に対する適切な社会的支援があれば、受刑者に占める知的障害者の比率はずっと少なくできよう。

【森委員】

知的障害者の定義が、法的に確立されていないことが大きな要因と考えられることからも、データを分析する必要がある。

2 刑務所における合理的配慮

受刑中の障害者の処遇に関して、適正になされていると考えるか、否か、問題点があれば、どのような手続き上の配慮、もしくは合理的配慮が必要かも含めて意見を賜りたい。

【大久保委員】

既述したように、知的障害のある人たちは、状況の判断や自らの考えや思いを他人に上手く伝えたりすることが不得手であったり、受動的傾向もあり、人間関係や作業などにおいて困難な状況が考えられる。さらに、その障害特性からいじめや便利使いの対象となることも想定される。したがって、他の受刑者と同様の処遇には問題があると考える。

なにより、「犯罪」や「受刑」の認識や受刑後の「生活設計」などに課題がみられる場合が多いように思われる。知的障害のある人たちのための更正プログラムを作成する必要があるとともに、その実施にあたり専門家を配置する必要があると考える。

【大谷委員】

適正になされているとはいえない。

第1に、受刑者に障害があると正しく認識されていないために、何らの配慮も支援もされない者が多数存する。2006年から行われた厚生労働科学研究「罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究」による調査でも知的障がいが疑われる者のうち、療育手帳を取得していた者は1割にも満たなかった。そのため、たとえば配慮のない扱いにより問題行動を起こして懲罰や保護房入りを繰り返している障害者がいることも事実である。また、それが、刑務官による虐待の遠因となることもある。

第2に、PFI刑務所の中に、高齢者や障害者への特化ユニットが設置され、「島根あさひ社会復帰センター」では知的障害のある受刑者の治療教育プログラムが実施されている。それ自体はひとつの配慮といえるが、対象数があまりにも少なく、すべての障害のある受刑者に到底行き渡らない。また、はたして認知行動療法等の治療教育プログラムを刑務所内で行うべきであるのか否かについては検討すべきである。司法の仕組みの中ではなく、地域生活の中で、福祉的支援の一環として行う方がはるかに権利条約19条の趣旨に沿うし、費用対効果としてもPFI刑務所に特化ユニットを設置するより、たとえば更生保護施設の更生プログラムを充実させる方が大きいからである。

【大濱委員】

現在の日本の刑事手続・矯正手続においては、意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に関して、どの辺に難があるのか、という点を把握する過程は無いに等しい。その把握無くして適正な処遇などあり得ない。更に言えば、そのような把握なくして、再犯防止もありえない。何よりも、そのような把握の努力をすること、そして再犯防止のためにはどのような支援が必要なのかという点の把握の努力をすること、が必要だと思う。

条約第2条並びには合理的配慮を提供しないことは原則として差別に当たるとし、とくに、第14条「身体の自由及び安全」では、

「障害のある人が、・・・自由を奪われた場合には、・・・この条約の趣旨及び原則に従い取り扱われること(合理的配慮を行うことによるものを含む)を確保する」

としている。これは、身柄の拘束を受けた障害者が、身柄の拘束を受けた障害のない者と実質的に同等の地位を確保するために求められるものである。ところが、以下の事例等にもみられるように、わが国においては、身柄の拘束を受け、拘禁されている障害者への合理的配慮は保障されていない。

・事例① 水野国賠訴訟

長年服用していた薬を拘置所が一方的に打ちきったために、被告人が自殺した事件について、遺族が国の責任を追及して提起した訴訟。被告人(当時45歳)は、精神疾患の治療のため長年投薬を受けてきたが、2002年6月26日に八王子拘置支所から東京拘置所に移された際、一方的に投薬を打ち切られたために、不眠、不安な状態になり、メモを看守に渡して、同月30日未明、独房内で雑巾を飲み込み窒息死した。2005年1月31日の東京地裁判決は、①投薬を勝手に中止したこと、②自殺の危険を認識して半タオル等を撤去しながら雑巾を撤去しなかったこと(自殺防止義務違反)、③意識がない被告人を発見しながら気道確保等の救命措置をとらなかったことの拘置所の責任を認めた。国が控訴したが、東京高裁の2006年11月29日判決は、地裁と同様に国の責任を認め、過失相殺をも否定する全面勝訴判決。

・事例②(平成7年(行ウ)第3号懲罰処分取り消し等請求事件/京都地裁平成10 年5 月8 日判決、大阪高裁平成12年6月15日判決)

しょっちゅう手を洗うという覚せい剤精神病あるいは強迫神経症の者に対して、獄中での水の無駄遣いということで懲罰の対象とされた例。一審では原告敗訴だったが、二審では逆転勝訴。

・事例③(2003年5月29日付 受刑者の補装具使用に関する人権侵害事件に対する奈良弁護士会の大阪刑務所に対する勧告書)

身体障害者1 級の手帳保持者で常時車いすを利用する者が大阪刑務所に対して行った、補装具として交付されている座席の上の専用の「パッド」使用の申し入れを刑務所側が拒否した事例。

【尾上委員】

権利条約第2条並びには合理的配慮を提供しないことは原則として差別に当たるとし、とくに、第14条「身体の自由及び安全」では、「障害のある人が、・・・自由を奪われた場合には、・・・この条約の趣旨及び原則に従い取り扱われること(合理的配慮を行うことによるものを含む)を確保する」としている。これは、身柄の拘束を受けた障害者が、身柄の拘束を受けた障害のない者と実質的に同等の地位を確保するために求められるものである。ところが、以下の事例等にもみられるように、わが国においては、身柄の拘束を受け、拘禁されている障害者への合理的配慮は保障されていない。

拘禁時の合理的配慮の内容等を決定する法的な手続きが必要である。

【事例】水野国賠訴訟

長年服用していた薬を拘置所が一方的に打ちきったために、被告人が自殺した事件について、遺族が国の責任を追及して提起した訴訟。被告人(当時45歳)は、精神疾患の治療のため長年投薬を受けてきたが、2002年6月26日に八王子拘置支所から東京拘置所に移された際、一方的に投薬を打ち切られたために、不眠、不安な状態になり、メモを看守に渡して、同月30日未明、独房内で雑巾を飲み込み窒息死した。2005年1月31日の東京地裁判決は、①投薬を勝手に中止したこと、②自殺の危険を認識して半タオル等を撤去しながら雑巾を撤去しなかったこと(自殺防止義務違反)、③意識がない被告人を発見しながら気道確保等の救命措置をとらなかったことの拘置所の責任を認めた。国が控訴したが、東京高裁の2006年11月29日判決は、地裁と同様に国の責任を認め、過失相殺をも否定する全面勝訴判決。

【門川委員・福島オブザーバー】

受刑者の処遇についての問題も、障害者に対してのみではなく、全般的な問題として考える必要があるが、受刑者の処遇についての実態を承知していないので、具体的な問題点を指摘することは困難である。

ただし、言えることは、受刑者の更生を図るためには適切な処遇が必要であり、とりわけコミュニケーションへの配慮が行われることが必要不可欠であることと、障害をもつ受刑者が社会復帰後にも継続した支援が受けられるように、受刑中から、受刑者が定期的に専門家や支援者の訪問を受け、信頼関係を築くことができるようにすることが必要であることである。

【川﨑委員】

精神疾患を有する精神障がい者の場合、適切な医療の確保が欠かせない。定期的な通院、服薬の管理、病状の変化したときの医師との連絡がきちんとなされるようにすることが必要である。また精神障害者は疲れやすく、一般の健康な人と同様の時間作業を行うことは難しく、休憩時間もたびたび必要とする。無理解、無配慮の状況は病状悪化にもつながるため、配慮が必要である。

【新谷委員】

刑務所など特別権力関係では、合理的配慮を問題とするのではなく、受刑者の人権確保の観点から、適切な配慮内容を明文化すべきと考えます。

【関口委員】

否である。医療の保障もされず昼夜独居拘禁に処遇されている精神障害者が多い。医療の保障と夜間独居拘禁という配慮が必要。また社会との接点である手紙・面会について累進処遇制度に準ずるのではなく、十分な配慮が必要。

懲罰等刑務所の内規は、第三者機関により審査される必要がある。

本人が求めても医療保障がなされず、また逆に『秩序維持』のため強制的に抗精神病薬や睡眠薬を投与されそれからの離脱症状に苦しむ場合がある。

さらに精神障害者の場合その『症状』大声を出した、房内を歩いた、足ったということを持って懲罰に科せられる例がある。また自殺未遂は脱獄と同様に扱われ懲罰の対象となる。合理的配慮以前の問題である。

獄中医療の原状については
例示として

・事例1 水野国賠訴訟

長年服用していた薬を拘置所が一方的に打ちきったために、被告人が自殺した事件について、遺族が国の責任を追及して提起した訴訟。被告人(当時45歳)は、精神疾患の治療のため長年投薬を受けてきたが、2002年6月26日に八王子拘置支所から東京拘置所に移された際、一方的に投薬を打ち切られたために、不眠、不安な状態になり、メモを看守に渡して、同月30日未明、独房内で雑巾を飲み込み窒息死した。2005年1月31日の東京地裁判決は、1)投薬を勝手に中止したこと、2)自殺の危険を認識して半タオル等を撤去しながら雑巾を撤去しなかったこと(自殺防止義務違反)、3)意識がない被告人を発見しながら気道確保等の救命措置をとらなかったことの拘置所の責任を認めた。国が控訴したが、東京高裁の2006年11月29日判決は、地裁と同様に国の責任を認め、過失相殺をも否定する全面勝訴判決。

・事例2(平成7年(行ウ)第3号懲罰処分取り消し等請求事件/京都地裁平成10年5月8日判決、大阪高裁平成12年6月15日判決)

しょっちゅう手を洗うという覚せい剤精神病あるいは強迫神経症の者に対して、獄中での水の無駄遣いということで懲罰の対象とされた例。一審では原告敗訴だったが、二審では逆転勝訴。

・事例3(2003年5月29日付 受刑者の補装具使用に関する人権侵害事件に対する奈良弁護士会の大阪刑務所に対する勧告書)

身体障害者1級の手帳保持者で常時車いすを利用する者が大阪刑務所に対して行った、補装具として交付されている座席の上の専用の「パッド」使用の申し入れを刑務所側が拒否した事例。

【竹下委員】

受刑者に対する処遇の実態を把握していないが、若干の見聞からいえば、特段の配慮(合理的配慮)はほとんどの場合実施されていないと思う。

刑務官に対し、障害に関する研修が実施されていないし、知的障害を含む障害のある受刑者に対しどのような処遇、あるいは補助を行うべきかについての規則が制定され、安定した援助体制が確立されるべきである。

【中西委員】

適正になされていない。

刑務所の物理的、人的設備は障害のある人が受刑することを想定していなかったので、概して配慮が欠けており、旧来の施設のバリアフリー化を進める必要がある。また、精神障害者など医療を必要とする人については、刑務所内の医療は全く不十分である。精神障害者にとっては、自由刑(社会生活の自由を刑罰として奪うこと)のほかに身体刑(身体に苦痛を加える刑罰)まで受けているに等しい。本来は刑務所の中にいても外にいるのと同等の医療を受けることが認められなければならないので、医療を充実させることが必要である。

刑務所という閉ざされた空間で思いが周囲に伝わらなかったり、周囲の言う事が理解できない受刑者が暴力を振るってしまった場合、単に目に見える行動のみで判断されてしまう。障害者の行動が意味するものは、一概にいえない面が多々あり、刑務所内での生活について、外部との連携も合理的配慮に含まれるべきである。

山本譲二氏の「獄窓記」の記述によると、合理的配慮のないなか今や刑務所は知的障害者の作業所の体をなし、守衛も看守も福祉作業所の職員のような仕事をさせられている。

【長瀬委員】

適正になされていない。刑務所内での合理的配慮を求めている障害者の権利条約第14条(身体の自由と安全)に違反している状態である。物理的アクセスや、情報アクセス・保障、介助に加えて、服薬、投薬の停止といった生命の危険に直結する事例まで含め、刑務所内での合理的配慮が必要である。

【久松委員】

適正になされていない。

<理由>

ろう者の言語、コミュニケーションに対する権利、手話通訳を依頼する権利が全く保障されておらず、処遇が実をあげているとはいえない。

手話による会話の機会が保障されないまま精神的に孤立した生活を強いられていることになる。

<対策>

手話通訳者を付することの保障及び手話による会話の機会を保障することが必要である。

【松井委員】

新受刑者のうち知能指数69以下の人が22%を占めるとされるが、刑務所のスタッフの配置などから、受刑中のこれらの障害者に対して適正な処遇が行われていないのが実情と思われる。これらの障害者に対する適正な処遇が確保できるよう、専門的な支援スタッフの配置なども含む、合理的配慮がなされる必要がある。

【森委員】

受刑中の状態については十分に把握できていないため、的確に意見を述べることが難しいが、報道等の情報から判断すると適正になされているとは考えられない。

障害に対する理解、コミュニケーション支援、生活空間のバリアフリー化、ストレス対策・心理的なケア、体調管理の問題等、障害特性に応じたかかわりが求められるとともに、これらの欠如が、二次障害をもたらしたりする可能性が極めて高いと考えられる。

司法関係者に対する研修

障害者の権利条約第13条は「締約国は、障害者が司法手続を効果的に利用することに役立てるため、司法に係る分野に携わる者(警察官及び刑務官を含む。)に対する適当な研修を促進する。」と規定している。

しかし、日本では、たとえば、25歳の知的障害のある男性が自転車走行中に蛇行運転したとして、警察官に追跡されたうえ、取り押さえられている最中に死亡した事件が発生した。この事件で、遺族は、わずかの会話を通じて知的障害者と分かる社会的弱者に対する格別の配慮もないまま、警察官らのいきすぎた暴行行為があり、その暴行行為が死亡原因となったと主張している(佐賀県弁護士会会長声明参照)。

このような事件が発生する中で、日本の司法関係者に対する研修が必要であると考えるか、否か、ご意見を賜りたい。

【大久保委員】

我が国において、知的障害のある人たちの地域生活を推進しているなかで、地域における知的障害のある人たちへの理解促進は重要な課題といえる。特に、佐賀事件の背景には警察関係者の知的障害のある人たちへの無理解があると考える。

したがって、知的障害や発達障害等に関する理解の促進を積極的に図るべく司法関係者への研修は不可欠である。

具体的対応として、我が国では平成19年に警察庁少年課により「触法調査マニュアル」が発行され、触法少年について知的障害や発達障害がある場合の配慮事項について規定しているが、触法少年のみならず全捜査過程においてこのような趣旨が活かされるようなマニュアルづくりや、前述の欧米の一部で行われている捜査機関全体に対する研修のような「訓練」が必要である。

【大谷委員】

必要である。

上記事件は氷山の一角に過ぎない。実際警察官等の配慮のない不適切な行為によりパニックを起こし、その結果、公務執行妨害や事後強盗の構成要件に該当してしまい、必要以上に重い量刑につながることが少なくない。パニックを起こした時に押さえつけることは逆効果であることを知っているだけで防げる事態である。ちょっと知的障害者の特性を知っているかいないかで、大きな差が生まれるのである。

したがって、警察官に対する研修は不可欠であるが、特に警察学校で障害理解に関する研修を必修とすべきである。のみならず、すべての司法関係者に研修は必要であるので、同様に、司法研修所での研修の義務化と、障害者施設での体験実習を選択ではなく必修とすべきである。

条約13条2項は、これまで、司法関係者が障害の特性やその置かれている状況について理解が乏しいことにより、障害のある人に対して、さまざまな不利益や重大な人権侵害を引き起こしてきたことの反省に基づき、設けられたものである。

したがって、本規定を具現化する条文や特別法を設けるべきである。

ちなみにアメリカ・イリノイ州では、警察官に対する研修の特別プログラムが実施されており、知的障害や精神障害のある人の取り調べを専門にする警察官や検察官が存する。

なお、刑事手続全般の問題として、特に知的障害者の場合、先に見てきたように逮捕から受刑に至るまですべての段階で配慮がなされる必要性が高い。また、更生についても刑務所における懲役刑はおよそ効果があるとはいえず、むしろ治療教育プログラムの方が功を奏することを考えれば、自己防衛力が弱く、判断能力が未発達である少年の保護と教育を目的としている少年法と同じ趣旨で、特別法を設けるべきであると考える。

オーストラリア・ヴィクトリア州では、触法行為のある知的障害者を「ジャスティス・クライアント」と呼び、日本の厚生労働省にあたるヒューマン・サービス省(DHS)の障害サービス部門に所属するケース・マネージャーが、逮捕から裁判・処遇・釈放後の各段階を通じて一貫してかかわっている。そして、「ジャスティス・プラン」と呼ばれる更生計画書を使用し、刑事裁判における判決に福祉的介入を含めることが制度化されている。その結果、たとえば、懲役刑ではなく、福祉施設における再犯防止の各種プログラムの実践などが言い渡されることなどが参考になるであろう。

【大濱委員】

必要。

司法関係者全体に共通する重大な任務の一つとして、手続的適正を確保することがある、と考える。意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に関しては、現在の日本では、手続的適正が確保されていない。したがって、その手続適正確保のために何が必要なのかを考えるため、その前提知識・認識を獲得するための研修は不可欠、と考える。

日弁連の中には「障害者部会」があり、少数の弁護士が所属し障害者問題についての建さんがなされているようではあるが、最高裁・最高検にもこうした「障害についての研修の部会」を設け、障害者のある人が加害者となったときの司法支援・障害者のある人が被害者となったときの司法支援について問題点をちょうさしてください。

内閣府の所管する犯罪比害者対策室へのお願いですが、犯罪被害者基本法の中に、障害者の項目がありません、障害者のある人が加害者となったときの司法支援が抜け落ちています。障害者の「項」を立て障害のある人への「支援策」を入れてください。

【尾上委員】

必須である。権利条約第13条も上記設問の事例を想定し、第2項に研修の規定をわざわざ規定したものである。権利条約の履行上、研修等の制度化は必須である。

【門川委員・福島オブザーバー】

論点に提示されている通り、日本の司法関係者の知識不足は明白であり、障害者に関する基本知識から実際の接し方に至るまで、幅広い研修が必要であると言える。ただし、全員の司法関係者が知識を有しないわけではなく、障害者の司法手続き利用のために、多くの専門家が尽力していることも事実であり、研修の内容としては、一方的な講義形式で知識を伝達するのみならず、そのように尽力している専門家と実際に障害者の司法手続き利用のための支援を協働する機会を設け、地道に「実際に支援を行うことができる司法関係者」を増やし、ネットワーク化するという努力を積み重ねるべきであって、そうした努力の積み重ねを促進するための枠組み(制度)を構築するべきであると考える。

【川﨑委員】

うつ病の人が拘留され、その間に服薬ができなかったために自殺に至ったという事件があった。人権が軽視されている現実である。精神疾患を有している精神障がい者には服薬が不可欠であることは認識されていなければならない。日本の司法関係者に対する十分な研修が必要である。

【北野委員】

A.わが国の司法関係者に対する研修が必要。

R.第12条「3 締結国は、障害のある人がその法的能力の行使に当たり必要とする支援にアクセスすることができるよう適切な措置をとる。」

第21条「1 締結国は、障害のある人が自ら選択するあらゆる形態のコミュニケーションにおいて、表現及び意見の自由(情報及び考えを求め、受け、伝える自由を含む)についての権利を行使することができることを確保するためのすべての適切な措置をとる。」
のために、障害者が取り調べを含むあらゆる法的手続きに必要な支援にアクセスでき、警察官を含む司法関係者をトレーニングし、さらに、その社会生活全般において、必要な情報・コミュニケーションから疎外されないように、必要な手話・点字・わかりやすい言葉等の支援や関係者の啓発・トレーニングを実施することがぜひとも必要である。

【佐藤委員】

研修の必要性は言うまでもない。

しかし上記例示は、ふまえておくべき最近の代表的な関連事実であるとはいえ、回答を大きく誘導するもので、回答の社会的信頼性を損ねかねないのではないか。

【新谷委員】

司法関係者への人権教育、福祉・障害分野の研修は必須です。

【関口委員】

必要である。受刑者が躁状態になっていると認識もせず、看守が直対応で暴行を加え、保護室に隔離し、その後懲罰に処する事例もある。

障害当事者からの研修が必要と考える。

【竹下委員】

司法関係者に対し障害に関する研修が定期的に実施されなければならないことは当然の事理である。イギリスにおいてDDAの成立に伴い警察官に対する研修が行われていることを参考にすべきである。指摘されている不幸な事件は知的障害に対する基礎的な予備知識があれば防ぐことができた可能性があるし、そうした事件にまで発展しない場合においても適正な捜査の実施という点からしても、人権保障という見地に立っても、研修の実施と合理的配慮に関する規定が創設されるべきである。そして、各障害ごとに基礎的な配慮事項が指針として制定され、各司法関係者に徹底されるべきである。

【中西委員】

司法関係者に対する研修が必要である。

知的障害者が訪ねて行った先の介助者の帰りを待つために外に立っていたら、近所の人に通報され警官がやってきた例がある。質問される内容がわからず質問に対する回答も意味不明と言う事で、パトカーに乗せられて警察まで連れて行かれようとしたので暴れだし、結局拘束されてパトカーに乗せられてしまった。他のケースでは、市民からの通報を受けた警官が、障害者に質問したところ障害がある事が分かり、連絡を受けた関係者が現場に急行し、本人が落ち着いた対応をとれたと言う事もあった。これらのケースからみて、司法関係者に対する研修は不可欠であり、極めて重要であり急務である。特に障害当事者が講師となって行う研修は必要である。障害当事者団体の協力で、講師は簡単にさがせるはずである。

知的障害ひとつをとっても一様に表現できない様々な対応が必要であり、常に新たな対応が求められる。基本的な研修に加えて、警察と支援団体との連携を強める事も同様な重要性をもつ。

【長瀬委員】

司法関係者に対する研修の必要度は高い。障害者の権利条約に基づく社会モデル的観点からの司法関係者への研修を、ロースクールのカリキュラムや司法修習の中で設けるべきである。その際には、全日本手をつなぐ育成会の警察官を対象にした知的障害者に関する取り組み(警察プロジェクト)が参考となる。

【久松委員】

研修は必要である。

<理由>

警察官の職務質問での暴行行為はろう者にもあると聞く。

ろう者の中には、手話言語を第一言語とする人々も多い。このような人々に対する各種権利の告知や、取調、供述の際には、手話通訳者を保障することが必要条件である。しかしながら、これに賛意を示す司法関係者は極めて少なく、ろう者の防御権が保障されない。何よりも第一に、ろう者の言語ないしコミュニケーションに十分配慮し、その権利を保障するような教育が必要である。

さらに、手話通訳者をつけても円滑に手話通訳ができるようにする考え方は少ない。手話通訳者を付することの保障をした上で、さらに、手話通訳が円滑にでき、ろう者が十分に手続内容を理解できるように、司法関係者において、ろう者にとって理解しやすく手話通訳による伝達が容易になるような分かりやすい用語の使用、質問を簡潔にする、発話のスピードに気をつける、ろう者が発言できる機会を十分に保障するよう合理的配慮を行うよう教育が必要である。

【松井委員】

知的障害者などの冤罪といった不幸な事件を根絶するとともに、受刑中の障害者に対して適正な処遇を確保するためにも、障害者権利条約第13条で求められている、司法関係者に対して適切な研修を実施することは、きわめて重要である。

【森委員】

司法関係者を対象とした障害理解に関する研修が求められる。具体的には、障害特性の理解、障害に配慮したコミュニケーションや生活支援の基本的な理解についての研修である。そして司法関係者として、社会福祉領域での十分な知識と技術を持った社会福祉士などの適切な配置が求められる。

その他、民事訴訟、行政訴訟手続きも含む問題

1 損害額の認定

障害者の稼働能力が低く認定される結果、逸失利益の認定が低く押さえられることについて、どう考えるか、ご意見を賜りたい。

【大久保委員】

我が国が施策として障害者の就労を推進するなか、障害者がその障害の重さに関わらず、就労し稼働収入を得ることを想定し、逸失利益の認定することが妥当であると考える。

したがって、障害者を一律に「労働能力がないもの」あるいは「労働能力が低いもの」として扱うことは不当であると考える。

【大濱委員】

同年代の健常者と同様に遺失利益を計算すべきである。

稼働・収益可能性が不動の損害額算定基準になっている一般的現状、及びそれによって慰謝料の金額が不当に低く抑えられて認定されていることに問題があるものと考える。稼働・収益可能性は、社会状況の産物と言えるものであり、これを損害額算定の一般的基準にすることは、とくに社会的弱者にとの関係では理不尽と言える。慰謝料認定額を現在の2~3倍程度にするか、あるいは、事故発生時点の国民全体の平均収入額を通常損害として一律に認定すべきだと思う。

青森県で小学二年生の男児がスクールゾーンの交差点で、同校の女性教諭の運転する乗用車に轢かれた死亡した事故で、損害賠償裁判で死亡した男児の遺失利益が争点になり、加害者の女性教師から「ダウン症の重い障害を有しているので遺失利益はゼロである。」という主張がされ「障害者の遺失利益」が裁判の争点となった事件があります。加害者は同じ小学校の女性教師です。療育手帳をもらうために児童相談者所で受けた相談のローデーターが、加害者が教師であることから、稼働能力の否定の為の証拠として裁判所に提出されました。子供がダウン症であると医師から診断されると親は、早期の療育支援の必要性を感じ、何回かの判定を受ける中で判定結果が「軽度~重度」へと療育手帳が変更されました。障害の程度と受けられる障害のサービス量に差があるのも問題ですが、療育手帳の判定の材料が障害当事者やご家族[ここでは、遺児の両親、兄、祖父母が被害者遺族です。]の意に反して、加害者側によって一方的に不利に扱われました。さらにこのデーターをもとに8歳の児童の将来の可能性と存在の意義を全面的に否定したうえで「遺失利益はゼロ」というのは問題です。

和解案の中で、加害者側が「遺失利益がゼロではない」・「事故の過失割合を争点にしない」ということを骨子に「和解案」双方が合意しました。遺失利益の額は青森県の99人以下の事業所の平均賃金の金額で合意されました。これは、判決ではなく和解の事例です。

北海道の自閉症の施設起きた「業務上過失死」事故は、癲癇の障害のある17歳の男児が入浴中に轢死した事故では同じく「遺失利益を争点に」争われ、昨年青森地裁で判決が下され600万の「遺失利益」を認める判決が出されました。いずれも相当損害賠償額は低いものです。想定される損害賠償額が少ないと、弁護士が受件してくれない、或は低い金額で和解を勧められるという傾向にあります。司法支援制度により「法テラス」の弁護士を利用することにより、低額の損害賠償で提訴の可能性が増えています。自立支援費の自己負担は憲法違反とする訴訟にも「法テラス」の支援は大きく寄与しています。低額の年金で暮らしている障害者の民事訴訟を支援するため、特別の司法支援を考える必要性があります。

【尾上委員】

基本的には、実質的に障害に基づく差別となると考える。

【門川委員・福島オブザーバー】

障害者の稼働能力が低く認定されていることは、現在の障害者のおかれている環境では、障害者が働くことが困難であるからであるという意味で、障害者に対する就労支援の取り組みが不十分であることを露呈していると考える。

そして、そもそも、「過去」から「未来」を推測することは根本的に不可能である。「稼働能力」は、過去の就労状況等により判断せざるをえないが、とりわけ、本人の責に帰すことができない環境要因によって大きく変動し、仮に障害者でなくとも、職業等による違いも大きいこと等を考慮すれば、社会経済情勢の変化によっても大きく変動しうるものであって、逸失利益をそのような方法で認定すること自体が不公正であると考えられる。

ついては、例えば事故で人命が失われたような場合については、逸失利益の額を、年齢・性別・職業等に関わらず、一律の額(例えば1億円)とすることも検討に値するのではないかと考える。ただし、そもそも逸失利益を「誰が」」「どのように」受け取るべきか(例えば親族内で受取割合を巡る対立が生じる可能性)という問題や、加害者の支払い負担能力の問題も残っており、具体的な損害賠償の履行にあたっては、きめ細かな対応が必要となる点にも留意して検討を行うべきではないかと考える。

【佐藤委員】

平成21年12月25日、青森地方裁判所において、重度障害者の逸失利益を認めるという重要な判決があった。特別支援学校に通う重度の障害をもった16歳の男の子が、入寮していた寮内の浴室で入浴中にてんかん発作をおこして溺死をしたことから、施設側に適切な見守りを怠ったという安全配慮義務違反が存在したとして、遺族であるご両親が損害賠償請求を求めたというものである。

判決では、施設側の安全配慮義務違反を認めた上で、16歳の男の子の逸失利益として600万円を認めた。概要としては、障害者への理解が進み、社会状況が変化し就労機会が増えつつあり、故人の作業能力等からも考えれば、故人には障害をかかえながらも、最低賃金相当額の収入をえることはできたというべきと指摘して、青森県の最低賃金を基礎収入として67歳までの逸失利益を認めた。その上で、収入の大部分は介護の付添いの費用等生活費として費消することが想定されることから、その70パーセントを控除して計算して、約600万円を逸失利益として算定した。

今までの裁判例では、中・軽度障害者には認められることはあったが、重度の障害者には将来の労働能力を認めることは困難であるとして逸失利益は否定されてきた。授産施設などで将来働くべく訓練・準備をしている利用者であっても、「生きていても将来働いて収入を得る可能性はない」と判定するむごいものであった。非人間的であるだけでなく、重度障害者が色々な支援と工夫により働けるようになってきた過去数十年の取り組みの成果をも無視する非科学的なものでもある。

昨年の青森地裁の判決はその後控訴されず確定したとのことであり、これを契機に障害者の逸失利益についての考え方を見直すべきである。

【新谷委員】

具体的な逸失利益の算出の問題と思いますが、障害を理由とした恣意的な算出であれば問題と思います。

【関口委員】

差別である。精神障害者への就労環境の整備が未整備の中、稼働能力が低く認定されることは認められない。

【竹下委員】

障害のある人についての損害算定は極めて差別的な認定が多い。知的障害及び視覚障害の被害者の事例で逸失利益が否定された事例が多数存在している。これは、明らかに差別的な認定である。交通事故において弱視の視覚障害のある人に対し、逸失利益を低く算定したり、肢体障害のある被害者について、慰謝料を低く算定した例があり、極めて不当な判決であると考える。

【中西委員】

最近の障害者の就労支援においては、支援があれば障害があっても就労できる人たちが増えている。稼働能力が低くなってしまうのは、支援の不足の故であり本人の能力ではない。人間の価値を稼働能力で計算する逸失利益の計算方法は、その能力が低い者を価値の低いものと算定することになるので、人命の平等性に反する考え方である。障害者の死亡事件の判例を見るとその命はいかに安く見積もられるかに愕然とする。逸失利益の算定において命の価値を8割、収益可能性を2割と見るような人命重視の判定基準を設定してほしい。

また、障害者権利条約の観点からすれば、稼働できない理由は社会が合理的配慮を提供しないことにあるのであるから、そのことで本人に不利に評価するのは不公正である。仮に稼働能力を逸失利益の算定に用いるのであれば、合理的配慮によって稼働できる状態を前提として、障害のある者の逸失利益を算定すべきであろう。

【長瀬委員】

差別の再生産の構造を示している。まず、差別の結果として就労の可能性が制約され、その結果として低く見積もられた稼動能力の結果として、被害者となった場合の賠償金額が著しく低く見積もられてしまう事例が多い。そうした構造を打破する判決の例(2009年12月25日青森地方裁判所等)も見られる。そもそも、稼動能力の認定に基づく逸失利益による賠償という構造自体に疑義を呈する「死傷損害説」もある。

【久松委員】

障害の社会モデルという考え方からすれば、障害者の稼働能力が低いものとして扱われるのはまさに社会が自ら障壁を作って障害者の就労の機会を与えなかった結果である。

訴訟における損害の認定に当たっても低く押さえていくのは、社会が障害者に対して障壁を作ってきたという社会の責任を、一方的に障害者に押しつけるものであり、社会正義に反する。

このような結論は極めて不当というほかない。

【松井委員】

昨年12月25日の青森地裁の判決で、「2004年に福祉施設で入浴中に事故死した重度知的障害のある男性(当時16歳)」について、「支援や介護があれば、一定程度の就労可能性があった、として、逸失利益約600万円」が認められたことは、これまで認められてこなかっただけに画期的といわれる。しかし、それにしても、その額は障害のない人と比べ、きわめて小額である。(仮に最低賃金で30年間勤続した場合、ボーナス分を除く、賃金総額は4,000万円以上になる。)

こうした低い逸失利益額を引き上げるためにも、重度障害者が雇用・就労に参加できるようにすべく、施策の拡充がきわめて重要である。

2 その他

【大久保委員】

・民事手続きにおける参加について

知的障害のある人たちが民事訴訟の当事者となる場合に、本人の訴訟遂行上の能力が問題になることが少なくない。例えば、消費者被害に遭った本人が弁護士に依頼して悪徳業者を訴える場合、知的障害があることを理由に契約解除をしているのだから、弁護士への委任能力にも問題があると考えられ、成年後見人をつけるように勧められることがある。

しかし、消費者被害については冷静な判断ができない者であっても、自身の利益を守るために弁護士へ依頼することが十分理解できている者もおり、この点は柔軟な判断がなされなければならない。これは、一方で裁判所の配慮があれば適切に訴訟遂行が可能であることの裏返しであり、裁判所は、このような障害特性に応じた配慮をすべきことになる。権利条約13条2項の「司法に係る分野に携わる者の訓練」も、このような観点から必要である。なお、裁判所における配慮は、このような場合に障害のある本人のために人的配置を行うことの費用負担についても要請されるところである。

また、訴訟行為をするためだけに後見、補佐、補助をつけることは、成年後見の費用助成が殆どなされない現状において、かえって本人の権利を侵害する可能性をも孕むものである。したがって、訴訟行為をするためだけに成年後見が必要と判断される場合については、一時的に成年後見を付けることができる制度(訴訟終了後成年後見が終了する制度)の創設についても検討されるべきである。

・被害者としての司法参加について

知的障害のある人たちが被害者となる場合、その供述の変遷や、短期記憶の記憶力が乏しいなどの供述特性から、そもそもその被害がまともに取り扱われなかったり、取り扱われたとしても、供述に信用性がないとして、加害者が不起訴となったり、無罪となったり、あるいは告訴能力がないと判断されるなど、二重の被害を受けることが少なくない。

このような知的障害のある人たちの被害を救済するためには、まずは、被害申告の初期の段階の供述を、警察等の関係公的機関が適切な手法で証拠化することが必要である。この手法としては、欧米で用いられている司法面接の手法が有用である。

また、捜査機関や司法機関に障害に対する理解がない場合、被害が適切に受け取られないばかりか、被害者がその心的被害を拡大させることになるため、同機関の障害への理解とこれに基づく配慮が必要である。具体的には、欧米の一部が捜査機関へ障害のある者に対する配慮の研修を義務づけているが、我が国でも権利条約13条2項の訓練として、全警察官及び検察官に対する同様の研修を義務づけるべきである。

実際の裁判の判断においても、知的障害の供述特性を十分に踏まえた供述の信用性判断がなされなければならない。知的障害のある人たちに対する虐待事案として著明な水戸アカス事件、サン・グループ事件においては、供述で変遷がなされやすい虐待行為の時間・回数・場所などについては、供述の周辺事実であるとして変遷が許容され、中心的部分である虐待の有無についての信用性を重視するとしているところである。当該目的については、上記に述べた手続上の研修を経ることによっても一定の効果が得られるものと考えられる。

・裁判員制度

裁判員制度において、知的障害のある人たちについても選挙権がある以上候補者名簿に名前が載ることがあり、裁判員候補者として裁判所に呼ばれることもある。

しかしながら、まずは呼出等の手続において、裁判員制度や候補者の意味、呼出後の手続の経過が十分理解できないことが考えられる。この点は文書に振り仮名を振る、平易な表現での説明を付記する、呼出の際は、支援者の付き添いを許可する等の配慮が必要である。

また、心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者は裁判員になることができないが(欠格事由)、例えば知的障害がある、あるいは知的障害の公的な判定が重いなどの理由で欠格事由該当性が容易に認められるべきではなく、条約における司法アクセス権が充足されるためには、知的障害に配慮した前記のような手続上の配慮を尽くした上で、なお職務遂行に著しい支障があるか否かが判断されなければならない。

なお、裁判員に選任される過程においては、弁護人、検察官ともに、候補者の内から理由を示さず4名ずつ排除することが可能であるが(無理由排除)、事前に知的障害であることの情報提供が弁護人及び検察官に提示された場合、そのことのみをもって無理由排除が行われることが予測される。しかしながら、かかる司法関係者の対応は直接差別又は間接差別にあたりうる行為であるという重大な問題を含んでいる。したがって、このような無理由排除の前提として、本人の障害の内容を伝えるか否か、どの程度伝えるか、その際に司法機関が行う配慮とその結果審理に影響を及ぼす程度について十分に説明するかなどの点について、議論が尽くされなければならない。

さらに仮に裁判員に選任されたとしても、単に手続に参加しているだけでは司法アクセス権の実質的保障とはほど遠い。知的障害のある人たちの場合、長時間審理に集中できない、審理のスピードに追いつけない、適切な言葉を使って質問ができない、合議の議論が難しくて参加できないなどの事態が予測されることから、それぞれの課題に応じて、休憩時間をこまめにとる、審理のスピードを緩やかにする、できるだけ平易な言葉を用いるように配慮する、比較的自由に本人から職業裁判官への質問ができるようにする、発言の機会を積極的に与えることで本人の理解を確認する、本人に手続の内容や議論の意味を伝える役目として支援者の付き添いを認めるなどの合理的な配慮が不可欠であると考える。

【大谷委員】

民事訴訟法154条では、「耳が聞こえない者若しくは口がきけない者」が口頭弁論に関与するときは、通訳人を立ち会わせるとしているが、同法61条の訴訟費用の敗訴者負担の原則により、通訳人に要した費用も訴訟費用となるので、障害のある人が自身の権利実現のために不可避的に要した費用を、自身が負担することとなり、障害がない敗訴者と比較して不公平となる。従って、障害の配慮に要する費用は負担させないという規定を設けるべきである。

民事訴訟法31条では、成年被後見人は、法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができないとされている。また、自立支援法訴訟では、重度の知的障害のある原告の訴訟能力について被告から主張がなされたので、訴状の陳述ができないことがあった。同法35条の特別代理人の規定も原告に訴訟能力がない場合を想定したものではない。成年後見人を選任したうえでなければ訴訟行為ができないとなると、司法アクセス権の保障の重要性に鑑み、不当な制約になるおそれがある。

また、人事訴訟については成年後見人の代理権が及ばないので、その場合にどうやって司法アクセス権を保障するのかを検討する必要がある。

いずれにせよ、成年後見制度と司法アクセス権の保障の整合性については十分に議論をつくすべきである。

障がい者の裁判員裁判への参加に関する具体的方策についての提案

2009年5月より、裁判員裁判制度が実施に移されているが、障がい者が裁判員に選任されることについての具体的対応については、検討が不十分である。現時点では、障がいを有することをもって裁判員の欠格事由(裁判員法14条)に該当しないことが確認されているものの、障がい者への具体的対応の検討が不十分であるがゆえに、裁判員の選任手続きにおいては、検察官及び弁護人から「理由なき不選任」の対象者としてあげられる可能性が高い。このような状態を放置すれば、障がいを有することが欠格事由にはあたらないとしても、事実上、障がい者が裁判員裁判制度から排除されてしまう可能性は高いといえる。

そこで、障がい者の司法手続きへの参加の一場面として、障がい者が裁判員として裁判員裁判に参加することができるような具体的対応についての十分な検討が早急に行われる必要がある。そこで、以下の点について提案を行う。

1 審理計画の策定について

障がい者が裁判員となった場合、起訴状・審理予定表・冒頭陳述書などの点訳、手話通訳者との打ち合わせなど様々な準備を行う必要がある。しかし、現在の審理計画では、第1日目の午前中に選任手続きを行い、その日の午後から審理を開始するため、上記のような準備をする時間的余裕がない。そこで、障がい者が裁判員に選任された場合に必要となる準備のための時間的余裕を創出するため、以下の2通りの提案を行う。

(1) 第1日目の午後を準備期間とし、第2日目の午前から具体的審理を行う方法

(2) 金曜日に選任手続きのみを行い、翌週の月曜日から具体的審理を行う方法

このような審理計画を公判前整理手続きで立てることを可能とするための具体的手順として、以下の方法を提案する。

ア 次年度の裁判員候補者に送付される調査票に、自らが障がい者であり返送してもらう。

イ 公判前整理手続きが開始された後、早い段階で、当該事件において裁判員候補者となる者の選出のみを行う。

ウ イで選出された裁判員候補者の中に、アの調査票に合理的配慮が必要である旨を記載した者が含まれているか否かをチェックする。

エ ウのチェックにより、当該事件の裁判員候補者の中に合理的配慮が必要である者が含まれている場合には、公判前整理手続きにおいて、金曜日を選任手続きとし、翌週月曜日から審理を行うという審理計画を立てる。

なお、上記審理計画を立てる場合には、審理最終日の翌日を「予備日」とすることを提案する。

障がい者が裁判員となった場合には、図面の把握や手話通訳に要する時間など、事案の把握に通常より時間を要することが考えられる。そこで、前述した金曜日の選任手続において、実際に障がい者が裁判員として選任された場合には、この予備日を含めた日程を審理期間とし、障がい者が裁判員として選任されなかった場合には、予備日を除いた日程を審理期間とすることを提案する。

2 聴覚障がい者が裁判員に選任された場合の対応

具体的審理において、録音テープなど聴覚を用いる必要が生じた場合には、手話通訳者による十分なサポートにより、聴覚障がい者が裁判員として職務を遂行できるような合理的配慮を行う必要がある。

3 視覚障がい者が裁判員に選任された場合の対応

具体的審理において、防犯ビデオ、取り調べ状況を撮影したDVD、写真・図面など視覚を用いる必要が生じた場合には、レーズライターによる図面の作成、及び補助者による情報伝達を行うことなどの十分なサポートにより、視覚障がい者が裁判員として職務を遂行できるような合理的配慮を行う必要がある。

4 要約筆記について

手話によるコミュニケーションが不可能な聴覚障がい者にとっては、要約筆記は重要なコミュニケーションの手段であることから、可能な限り時間をとって、要約筆記の内容を充実させる措置をとることや、要約筆記者を複数人配置するなどして聴覚障がい者に伝達する情報量を充実させることなどにより、手話を用いることができない聴覚障がい者が裁判員として職務を遂行できるような合理的配慮を行う必要がある。

5 補助者について

具体的審理において、障がい者にとって、状況説明を行う補助者を用いる必要性が生じる場合が考えられる。このような場合には、補助者が通訳人程度の役割を果たすような方策などを検討することにより、障がい者に対して十分なサポートを行い、障がい者が裁判員として職務を遂行できるような合理的配慮を行う必要がある。

【大濱委員】

障害のある人の司法手続全体への主体的参加を具体的に保障し、そのための支援を確保することが、その他の手続における適正確保の近道だと思う。

「法律行為」はすべて、「有効な意思表示」を大前提としている。意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)については、有効な意思表示を確保するための支援を保障して初めて、法的に「人」として認めたことになる、と思う。

[知的障害者が犯罪にまきこまれた際のサポーター制度について]

1 はじめに

知的障害を持つ児童・生徒が学校で、また、知的障害を持つ人が勤務先や通所先の施設で性犯罪等の犯罪の被害者となる事件は後を絶ちません。

しかし、裁判になると、いつも知的障害を持つ人々の証言能力が問題となり、犯罪の立証は、状況証拠に頼らざるを得ないのが現状です。

2 知的障害を持つ人の記憶は不正確なものなのでしょうか?

知的障害を持つ人々は、確かに難しい文字は読めません。理解できる言葉の範囲も狭いのは事実です。しかし、知的障害を持つ人々の言葉が不正確かと言えば、決してそのようなことありません。言葉の数は少なくても、たとえ、その言葉が幼いものであっても、そこには真実があります。

知的障害を持つ人々の言葉が信用できない、と裁判における証言能力を否定するのは、全くの偏見に過ぎません。

3 合理的な配慮を求められる人々

現在国連で草案づくりが進められている「障害者の権利条約」の中では、「合理的な配慮」という言葉が使われ、これまでの「特別な配慮」に代わる表現として注目されています。

知的障害を持つ人々に対する合理的な配慮としては、
①白衣、作業衣等の制服で面接することは避ける。
②狭い面接室は避ける。
③質問の言葉は、できるだけやさしい言葉を使うとともに、大きな声や強い口調は避ける。
④質問の意味を理解しているか確認しながら面接を進める→表情を観察するとともに、質問に対して的外れな答えがあったときには、再度異なる言葉で同じ質問をしてみる。
⑤面接の場面と同じことを裁判所において証言することは困難なため、ビデオによる証言を認める。
等が考えられます。

4 知的障害を持つ人々に対するサポーター制度について

知的障害を持つ人々は、上記3の合理的な配慮が粂求められる人々です。このような人々が犯罪の被害者となった場合には知的障害に対する理解を持ち、多くの知的障害を持つ人々と接した経験を持つサポーターの存在が非常に重要となります。

事件を担当する弁護士が、知的障害を持つ人々と多くの接点を持っている場合もあるでしょう。しかし、そのような経験を持つ弁護士が少ない現状では、弁護活動をサポートするサポーターの存在が重要です。

5 成年後見制度とのリンク

成年後見制度が導入されてから5年以上経過しているものの、法務省の予想よりも制度を利用する知的障害をもつ人々は増えていません。

その理由としては、申請手続が煩瑣、利用料が高い、制限される法律行為の範囲が広過ぎる等が挙げられています。

そのような成年後見制度ですが、知的障害を持つ人々の権利を擁護する制度として、犯罪被害者となったときのことも想定し、制度を改正することにより、知的障害者の財産権の保護だけではなく、犯罪被害からも擁護することが可能になると思われます。

【尾上委員】

司法手続きについて、抜本改正される予定の障害者基本法の中にも項目を設けた上で、差別禁止法制度においても諸規定を盛り込む必要がある。

【門川委員・福島オブザーバー】

司法手続き(とりわけ刑事訴訟)における裁判所の位置づけは、本来的には、「無罪を証明するための場」であり、「裁判を受ける権利」があるとの前提のもと、被疑者の人権を守るための場でなければならず、それは、人権を侵害されやすい立場にある障害者にとって、非常に重要なものであるということについて、障害者基本法などの関係法令において明記すべきであると考える。

また、被疑者としてだけではなく、証人や傍聴者、あるいは被害者としての障害者が、司法手続きをきちんと利用できるよう、いわゆる施設のバリアフリー化にとどまらず、司法手続きを利用する場合の情報保障(コミュニケーションへの配慮)が行われる必要がある。そしてそうした情報保障については、司法手続きの独自性に鑑みて司法府が主体的に取り組むべきであるとともに、司法手続きの、人権を守るための最後の砦としての重要性に鑑みて、より現実的には、日常利用しているいわゆる福祉サービス提供者(ガイドヘルパーや手話通訳者、盲ろう者向け通訳・介助者など)と同一者を利用した場合でも、司法手続きに関与する場合には、司法府が全額を費用負担する責任があることを明確にすることで、司法手続きへの障害者の参加を適切に促進する必要があると考える。

さらに、今後、ADR(裁判外紛争処理)の領域が広がっていくことが予想される。裁判所内で行われる民事調停や家事調停(司法型ADR)について、上記の司法手続きにおけるような配慮がなされるべきことは当然であるとして、行政型ADRや民間型ADRにおいても、司法手続きにおけるものと同様の配慮がなされる必要があると考える。

なお、国民が、司法手続きやADR等を利用しやすいように支援するための特別の機関として日本司法支援センター(法テラス)があるが、その「業務方法書」には、障害者についての支援が明記されていない。かろうじて、関係機関との連携という項目があるだけである。司法手続きの特殊性に鑑みれば、障害者の司法手続きやADR等への参加を保障していくために、法テラスの役割として障害者への支援を位置づけることも検討に値するのではないかと考える。

【佐藤委員】

その他1 裁判員制度への障害者の参加について

2009年5月から始まった裁判員裁判では、2009年中に裁判員に選出された人は838人であり、現在では1000人を超えていると思われる。

政府が公式に示す障害者出現率からするとその5-6%、50人から60人が障害者であっていいはずである。しかし、私の情報不足のせいでもあるが、障害者の裁判員の例は聞こえてこないし、マスコミでも報じられていないと思われる。政府は早急に、情報保障面や物理的バリアフリー面などで、とくに個別の対応が必要な裁判員がいたかどうか、調査し国民に公表すべきである。

この裁判員制度の司法制度における重要性やこの制度への国民的関心の高さを考えると、障害者が必要な場合には適切な配慮を得て裁判員に選出され、市民としての義務を果たし、また権利を行使することは、今後の日本における障害者の社会参加と障害者理解にとってきわめて重要である。

「障害をもつ人の参政権保障連絡会」のホームページによれば、同連絡会が本制度発足約1年前の2008年5月14日に最高裁と折衝したときに、最高裁は「裁判員制度は、障害のある方を含め、国民に参加されることが必要であり、障害がある方が裁判員に選任された場合には出来るだけ配慮する。」との基本姿勢を表明し、具体的な配慮として次の事項を約束したという。

○視覚障害のある方に対して

①、裁判員に選任されるかどうかの段階で書類などの点字翻訳を求められれば、点字化を行う
②、裁判所内の点字ブロックは整備済み
③、盲導犬の同伴は可能、盲導犬の同伴がない場合は職員が補助をする
④、図面、写真などが裁判の事実認定や立証に必要な事件では、実際に見ることができない人は裁判員をできない場合がある
⑤、④以外の場合で裁判員になった場合は、審理に当たって、口頭の説明を行うなど適切な処置をする
⑥裁判資料の点字化は、裁判員裁判は口頭でのやりとりが基本であり、裁判員に裁判資料を読んでいただくことは必要がないので、点字翻訳も必要はない

○聴覚障害のある方に対して

①、事前に手話通訳や要約筆記の希望があれば、手配をする
②、裁判の事実認定に当たって、証拠物の録音テープが必要な裁判については、聞こえない人は裁判員をできない場合がある
③、②以外は、不自由を感じられないように、手話通訳、要約筆記は保障する

○肢体障害のある人に対して

①、玄関にスロープや段差解消を処置、車椅子用トイレを設置した
②法廷については車椅子利用者がスムーズに移動できるようにスロープやリストを設置し机の高さも調整する

これに対して同連絡会は、「外形的には点字や手話通訳の保障、段差解消や盲導犬の許可などのバリアフリーに配慮しているように見えるが、図面、写真などを見ることのできない人、録音テープを聞こえない人が裁判員から外される可能性が大きいとしている。裁判で図面や写真、録音テープが使用されることは多いと考えられるので、実際は障害をもつ人は裁判員から排除されるのではないか、また裁判資料を読む必要のない裁判とは裁判なのか」と質問している。また、知的障害など他の障害のある人への配慮はどうか、などの指摘や要請を行っている。しかしその後の明確な回答はないということである。

たしかに映像や音の認識・理解が刑罰の判断に影響することはあるであろうが、それは全体の判断の一部である。その一部の困難をどう補うか、そしてその人が持っている力をどう生かすか、が問われているのではないか。できるだけ多くに人が一人の市民としての義務と権利を行使できるようにするか、が問われている。目の見えない弁護士がおり、耳の聞こえない弁護士がいる時代に、なぜ障害者を裁判員としては敬遠するのか理由がたたない。

より初歩的な段階で、障害者が無視されている実例が新聞で報道された。裁判員選任プロセスで手話通訳を求めていたにもかかわらず用意されず、(理由は不明だが)結局選任されなかったものである。

朝日新聞 2010年1月20日
手話通訳準備せず裁判員不選任 高知地裁、要望見落とす

高知地裁で19日に始まった強制わいせつ致傷事件の裁判員裁判で、裁判員の選任手続きに出席した耳の不自由な女性候補者が手話通訳を求めていたにもかかわらず、地裁が準備していなかったことが分かった。事前に送った質問票の回答を地裁側が見落としていたためで、女性は結局、裁判員に選ばれなかった。地裁は女性に陳謝した。

高知地裁によると、地裁は昨年11月30日、裁判員候補者100人の中から辞退者らを除く65人に「呼出状」を発送し、辞退希望や介助の有無などを尋ねる「質問票」を同封した。この女性の回答は同年12月9日に地裁に届いた。

女性は質問票の中の「必要なお手伝いについて」という項の「手話通訳」という欄に丸をつけていたが、地裁職員が見落としていたという。

19日の選任手続きに出席した女性は、ペンで白いボードをなぞる磁石式の筆談器を使ってやりとりした。「手話通訳を用意してくれないのですか」と申し出たが、地裁側は質問票の記載を見落とし、手話通訳者を準備せず筆談器を使って対応した。女性は地裁を出る際「事前に要望していたのに。裁判所を嫌いになりました」と書いたメモを地裁職員に見せたという。

最高裁によると、障害のある裁判員候補者から事前に配慮を求められた場合、各地裁で障害に応じた措置を取ることが制度の前提。ただ、そうした配慮は義務づけまではされておらず、最終的には各地裁の判断に委ねられている。

裁判員制度に詳しい園田寿・甲南大学法科大学院教授(刑法)は「ハンディキャップのある人たちへの配慮が各地裁の裁量任せになっている制度の欠陥が表に出たケースだ。全国民が参加する裁判員制度の趣旨に立ち返り、制度を見直すべきだ」と話した。

読売新聞 2010年02月22日
裁判員手話問題 原因究明求め弁護士会声明文=高知

地裁が聴覚障害を持つ裁判員裁判候補者から要請があった手話通訳の手配を怠っていた問題で、高知弁護士会(参田敦会長)は16日、原因究明と再発防止を求める声明文を、地裁に提出した。

声明文では、今回の問題について、「(憲法14条で定める)法の下の平等の観点から誠に遺憾で、弁護士会として重大な関心を寄せている」としたうえで、「制度の適正な運用には、障害者も隔てなく手続きに参加できることが不可欠」と訴えている。

【新谷委員】

●傍聴に対する配慮

昨年始まった裁判員制度に関連して、法廷への磁気誘導ループの準備を要望していましたが、漸く全国60庁舎の地方裁判所に磁気ループシステムが設置されました。準備されている部屋が限られています。すべての法廷に磁気誘導ループを準備するようお願いします。

また、法廷内のやり取りを要約筆記でスクリーンに投影し、傍聴者へも法廷内のやり取りを理解させる必要があります。このように、裁判に当たっての傍聴への配慮は皆無に等しい状態にあります。聴覚障害者が傍聴希望する場合、必要な情報保障を申し出て、それに基づき必要な情報保障を準備する仕組みを導入する必要があります。

【関口委員】

精神保健福祉法および心神喪失者等医療観察法により、裁判を受ける権利を一方的に奪われ、不定期拘禁や地域での強制医療を科せられる実態は差別である。

警察段階で精神保健福祉法の警察官通報、あるいは検察の一存で検察官通報、により措置入院とされたり、または心神喪失者等医療観察法にまわされ不定期拘禁される現状は精神障害者差別である。

行為が実際あったかどうか裁判を受ける権利を奪われる措置であり、措置入院、心神喪失者等医療観察法で、まず冤罪による拘禁が生じる可能性がある。

また満期出獄、刑務所の門から直接措置入院という事例は差別そのものであり、精神保健福祉法の矯正施設長の通報はあってはならない。

民事訴訟法の訴訟能力について

当事者能力があっても、訴訟無能力となれば、訴訟行為に際して、法定代理人を強制されることになる。

訴訟能力のない者の訴訟行為は、意思無能力者の訴訟行為のように不存在(無効)というわけではなく、法定代理人等が事後的に行為を認める追認によって有効とすることができるが、逆に言えば、追認を得られなければ、訴訟の自由を侵害されることになる。

また、法定代理人は、実定法上の法定代理人と訴訟法上の法定代理人の二つに別けることとなり、前者によって、法律行為の効果がもたらされることになる。前者は、民法の行為能力と同様、自己決定を法的に搾取するものであり、条約第12条第2項、同条第3項に抵触する。

訴訟において必要なのは、任意代理人の訴訟代理人(すなわち、原則弁護士)である。近年、弁護士の選任が難しいのだが、こちらのほうをなんとかして欲しい。同様に、適切な弁護士の数が限られていると思われる点も改善が必要であるし、弁護士への研修も必要である。

情報開示に基づく生活保護個人ケース記録本人開示を求めたある精神障害者の場合、ほぼすみ塗りでかえってきた例がある。実際に、これを争うには当事者に大変な負担と決意が必要である。公的なアドボケイトと、無償の弁護士による訴訟援助が必要である。

添付資料

参議院 法務委員   先生 御机下  2003年5月8日

    厚生労働委員 先生 御机下  越智祥太(労住医連 精神科医)

「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」を廃案にしてください

平素よりのご活躍に敬意を表します。

本日は標記のお願いに参上いたしました。

私どもは日ごろ地域医療に奉職いたしております医療従事者の集まりです。

今法案に対しましては、現場より多くの反対の声が寄せられております。

先日、廃案を求める私ども労住医連の声明を持参いたしましたが、既に多くの医療保健福祉関係者の賛同が寄せられ、その数は更に増え続けています。

声明にも述べましたが、今法案は特に下記の点に問題を認め、このまま今国会で成立し、施行されてしまった場合、取り返しのつかない禍根を残すことになります。現在でもなお諸外国に比較して著しく遅れ、閉鎖性をかねて指摘され改善を求められている日本の精神保健医療福祉は、いっそう遅れ歪んでしまいます

問題の多すぎる今法案は廃案にし、日本の精神医療と司法の問題について、改めて根本的な論議を重ねていただきたく、なにとぞよろしくお願いいたします。

法案の問題点

Ⅰ.精神障害者は実際には一般より犯罪率も再犯率も少ないにもかかわらず、医学的にも統計的にも誤った精神障害者=犯罪傾向者という認識に基づいている。さらに精神障害者に対し、一般の法廷とは別の簡単な法廷でもって、憲法に保障される十分な弁護権も認めず、反対尋問権もなく冤罪もありうる一方的な裁判によって、罪刑法定主義の大原則を精神障害者にのみ覆して予防拘禁・不規則拘禁としての治療処分を科すものである。精神障害者に対する差別を法的に規定し、差別をますます助長するものであること。

Ⅱ.今法案は、ずさんな起訴前鑑定による不起訴の問題、名古屋刑務所事件で明らかになった刑務所内での精神医療の貧困の問題、そもそも鑑定や処分優先で治療が後回しの司法における精神医療の乏しさの問題、等のかねて触法精神障害問題を論じるうえで指摘されてきた四方の側の問題については全く手付かずのままであること。上記を解決しない限り、再犯率の少ない精神障害者の再犯をいかに予防拘禁で抑えようと、問題は減らないこと。

Ⅲ.精神医療をかつてのハンセン病対策のような隔離収容と管理統制の流れにねじ曲げ、開放化に進んできた日本の精神医療を、再び諸外国より遅れたものに荒廃させること。

「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案(修正案)」の衆議院での強行採決に強く反対し、この法案の参議院での即時廃案を求める声明

現在、精神科医療を歪め、精神障害者福祉を害する恐ろしい法案が、マスコミの「精神障害者」タブーで国民に実態が知らされないまま、先の衆議院の強行採決を経てしまい、今年1月20日から始まっている通常国会において参議院での成立を企図されています。

「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」というこの法案は、いったん重大な他害行為を行ったとされた場合、精神障害者のみを一般的な司法制度から除外し、強制的に不定期予防拘禁できるものです。そしてその後も、精神障害者のみを保護観察所や精神科医療機関を動員しての監視体制の下に置くものです。

この法案に対し、精神神経学会や日弁連をはじめとした精神科医療関係者、司法関係者、そして多くの障害者団体から反対の声が続出し、衆議院の審議でも、参考人の多くから法案の根幹に関わる疑義が述べられました。政府・与党はこれら当事者の声に明確に答えることすらできず、法案の理論的欠陥を露呈するばかりでした。にもかかわらず、法案を廃案にせず、不都合な言葉のみ変え、名ばかりで実体のない「医療」や「社会復帰」をこれみよがしに強調するだけで、本質的には何の変化もない「修正案」をもって、形ばかりの審議を最後は強行採決という暴挙で打ち切り、昨年12月に衆議院で可決させました。

この法案は、精神障害者を犯罪素因者として危険視した上で社会防衛的に作られた、保安処分立法です。現在でも差別に苦しむ精神障害者にさらに憲法の人権保障も、刑法の罪刑法定主義も認めない差別立法です。精神障害者への社会の差別もさらに強まるでしょう。

法案は精神科医療を治安対策としてしか捉えていません。日本の精神科医療は、国際的に批判されてきた長い隔離収容政策の時代が続き、ようやく精神障害者の保健福祉の充実が叫ばれ始めたところです。諸外国に比べ桁違いに長い入院期間、数多い入院患者、中でも七万を越す社会的入院患者、精神科のみ医師・看護師が少なくてよい特例、等の実態は、隔離収容時代の残滓です。その中で日本の精神科医療は身体科に比べ、医療水準でも人権保障でも大きく遅れています。司法精神医療においても、起訴前の鑑定や医療のずさんさ、矯正施設での精神医療の乏しさ等の基盤の問題は放置されたままです。保安処分を前面に出したこの法案が成立すれば、精神科医療は再び隔離収容と管理統制の流れに歪み、さらに悪化します。医療近接性が下がれば逆に触法行為の増加を招く悪循環が予想されます。

「修正案」は批判を受けて、「医療」や「社会復帰」のためと謳い直し、「附則」(おまけ)に「精神保健福祉全般の水準の向上」を掲げていますが、内実のない美辞麗句を重ねただけで、実効性は全くない欺瞞に過ぎません。保安処分の実質には何の変更もなく、かえって漠然と「医療」必要者に対象が拡大された実質的な改悪です。保安処分に伴い精神医療に予算が下りても、精神保健福祉全般の向上には役立たず、逆に悪化を増強するだけです。

新法は必要なく、現在の法制度の中で十分に精神保健福祉が充実されれば足ることです。

参議院でこれらの問題点が検討され、今国会で廃案にされることを強く求めます。

資料;

本日は、特に名古屋時刑務所事件で明らかになった、日本の刑務所における医療の貧困、特に精神科医療の貧困について資料をまとめました。

触法精神障害問題を解決するのに、今法案は必要ありません。

①ずさんな起訴前鑑定の改善

②刑務所等矯正施設における貧困な精神科医療の改善

③司法における鑑定や処分優先の精神障害に対する態勢に、治療的診断を導入する改善

これらの司法の側の問題が、

④一般の精神医療の底上げ(精神化救急医療の改善、社会復帰制度の充実、精神科特例撤廃など精神医療を他科なみに引き上げること)と同時に改善されれば、

触法精神障害者問題のみならず、一般の犯罪者に対する矯正医療や矯正教育の改善にもつながります。

Ⅰ.名古屋刑務所事件について

マスコミで取り上げられて話題となった「名古屋刑務所暴虐死事件」の死亡者は、いわゆる「拘禁反応」を呈していたと推察されます。

「大便を壁や視察孔に塗りつけるなどの異常行動を反復した」といいます。

これらは典型的な「弄便」行動であり、譫妄状態等の意識障害時にはよく見られるものであり、それ以前の経過を考えてみても、被収容者はここで拘禁反応を呈していたことは明らかです。

しかるに、看守たちは、これらの症状を精神障害として治療に乗せるどころか、全く管理的側面のみを強調し、弄便行為を続けて自らの肛門に深い潰瘍を作るほど「異常行動」をとっていた被収容者を、まさにその拘禁反応症状をもっていじめ、遊戯的にその肛門を目掛けて高圧放水を浴びせて殺害する、という暴虐行為を呈したのです。

刑務所において精神医療がいかに貧困であり、看守にも精神医療の基本的な知識が十分に行き届いていないかがよく分かります。

Ⅱ.刑務所における精神科患者の死亡にみる、刑務所の精神科医療の貧困

死亡帳一覧表(法務省矯正局 2003年3月18日)の584の死亡報告の中には実際の死因が疑わしい症例が多いものの、その中でも精神疾患の関与が明らかに類推されるものとして、

146番 府中刑務所 H9 窒息(テンカン発作後の気道閉塞による)
161番 府中刑務所 H11 てんかん、高血圧症
189番 府中刑務所 H13 摂食障害
308番 鳥取刑務所 H6 悪性症候群(疑)
356番 広島刑務所 H13 C型慢性肝炎、肝硬変、糖尿病、精神分裂症(疑い)、急性心機能障害
378番 北九州医療刑務所 H10 精神分裂病、縊死
380番 北九州医療刑務所 H11 精神分裂病、胃内容物吸引
382番 北九州医療刑務所 H12 精神遅滞、窒息
384番 北九州医療刑務所 H10 精神分裂病、腸閉塞
401番 福岡刑務所 H12 悪性症候群
418番 大分刑務所 H14 精神分裂病、急性心肺停止
426番 鹿児島刑務所 H12 アルコール性肝硬変、肝不全
429番 沖縄刑務所 H8 高度肥満、肝臓疾患、精神疾患、肥満による呼吸不全、糖尿病による心不全、肝臓疾患
432番 福岡拘置所 H10 そううつ病、窒息(急性嘔吐)
439番 福岡刑務所 H13 変死、急性薬物中毒死
470番 宮城刑務所 H11 肝性脳症
519番 札幌刑務所 H9 脳腫瘍術後、てんかん、窒息、けいれん発作
535番 旭川刑務所 H8 アルコール性肝障害、アルコール禁断症状、嘔吐物による呼吸不全
558番 徳島刑務所 H10 老人性痴呆症、急性心不全

が挙げられます。

ここで目立つのは、初歩的対応で死亡にいたることを防ぐことが出来るはずの、一般に病院内においては考えがたい死亡例です。

特に189、308、380、384、401、432、439、519、535番の死因は、これが一般の病院であれば早速医療ミスで訴訟を惹起されるものです。

刑務所内の精神科も含めた医療の貧困が窺えます。

病名や死因に精神科病名の記載がないものでも、実際には精神化疾患あるいは精神化治療のその死因への影響が疑われます。

死亡診断書と死亡経過が提出されている府中刑務所事例を見るとそれがよくわかります。

165番「急性心不全」とされている事例では、有機溶剤中毒後遺症と診断されており、「診察時に突然笑い出すなど異常行動が見られ、気分の不安定及び被害妄想が認められる」など、活発な精神運動興奮状態が見られています。死亡日前日に「大声等」により保護房に拘禁されています。そしてその翌日、死亡14分前まで「独語を発しながら房内を徘徊しているのを」確認されています。そして急死しています。そして死因は「急性心不全」とされています。

これは激しい精神運動興奮状態にあり、精神科的救急対応が必要な状態であったにもかかわらず、十分な精神科的対応がなされるどころか、管理的な対応をされて保護房に閉じ込められ、精神症状は放置されたため、激しい精神運動興奮による身体負荷(衰弱、虚脱等)が起こったものと思われます。しかし当直医師の対応には、そのような観点からの制札は全く感じられません。

また、201番の死亡例では、

覚せい剤誘発性精神病性障害に対して、向精神薬内服を開始して僅か1ヵ月後の急死例であり、向精神薬との因果関係が明らかに類推されるにもかかわらず、死因は「急性心不全」とされています。

ちなみに、現在どのような疾患でも最後は急性心不全死に至ることから、「急性心不全」の死因記載は一般に不可とされているはずのものです。「急性心不全」の病名の濫発は事態の隠蔽を図っているとしか思われません。これも一般の病院であれば、「医療ミス隠し」と見なされ、厳しくその責任を追及されるものでしょう。

刑務所における精神科医療の貧困

計118施設中

常勤精神科医・心療内科医勤務施設 20のみ(16%)

(しかも常勤といいながら殆どは週3日以下の施設である)

非常勤医師も含めて精神科医がいる施設 43のみ(32%)

(非常勤医師はほとんどがわずかな時間しか勤務しておらず、実際の診療時間を持っていることが疑わしい、書類上の対処のみの可能性が高い)

各刑務所の精神科医療の実情(2003年3月17日現在)(法務省「各刑務所の医療の実情」2003年3月18日より)

札幌刑務所 精神科1人(1/7) 常勤 (週2日8時半~17時)
 札幌拘置支所 0(0/1)  
 札幌刑務支所 0(0/2)  
旭川刑務所 精神科1人(1/2) 非常勤 (週1日9時~12時(隔週11時))
釧路刑務所 精神科1人(1/2) 非常勤 (週1日10時~11時)
帯広刑務所 精神科1人(1/2) 非常勤 (週1日10時~12時)
網走刑務所 0(0/2)  
月形刑務所 0(0/2)  
函館少年刑務所 0(0/1)  
青森刑務所 0(0/4)  
 八戸拘置支所 0(0/1)  
宮城刑務所 0(0/7)  
 仙台拘置支所 精神科1人(1/1) 常勤 (週2日8時半~17時)
秋田刑務所 0(0/2)  
山形刑務所 精神科1人(1/2) 非常勤 (週1日9時半~12時)
福島刑務所 精神科1人(1/2) 常勤 (週3日8時半~17時)
 郡山拘置支所 0(0/1)  
 いわき拘置支所 0(0/1)  
盛岡少年刑務所 0(0/1)  
栃木刑務所 精神科2人(2/4) 非常勤 (週1日13時~16時半(月2回))
非常勤 (週1日9時半~14時半(月1回))
黒羽刑務所 0(0/5)  
 宇都宮拘置支所 精神科1人(1/1) 常勤 (週3日8時半~17時)
前橋刑務所 精神科1人(1/2) 常勤 (週3日8時半~17時)
 高崎拘置支所 0(0/1)  
千葉刑務所 精神科1人(1/6) 常勤 (週3日8時半~17時)
 松戸拘置支所 0(0/1)  
 木更津拘置支所 0(0/1)  
 八日市拘置支所 0(0/1)  
八王子医療刑務所 精神科4人(4/22) 常勤 (週3日8時半~17時)
常勤 (週3日8時半~17時)
常勤 (週3日8時半~17時)
常勤 (週3日8時半~17時)
府中刑務所 精神科3人(3/11) 常勤 (週3日8時半~17時)
常勤 (週3日8時半~17時)
常勤 (週3日8時半~17時)
 八王子拘置支所 0(0/1)  
横浜刑務所 精神科1人(1/5) 常勤 (週3日8時半~17時)
 相模原拘置支所 0(0/1)  
 小田原拘置支所 0(0/1)  
横須賀刑務所 0(0/1)  
新潟刑務所 0(0/3)  
 上越拘置支所 0(0/1)  
甲府刑務所 精神科1人(1/2) 非常勤 (週1日9時~11時(月1回))
長野刑務所 0(0/4)  
 長野拘置支所 0(0/1)  
静岡刑務所 精神科1人(1/3) 常勤 (週3日8時半~17時)
 沼津拘置支所 0(0/1)  
 浜松拘置支所 0(0/1)  
水戸少年刑務所 0(0/1)  
 水戸拘置支所 0(0/1)  
 土浦拘置支所 0(0/1)  
 下妻拘置支所 0(0/1)  
川越少年刑務所 精神科1人(1/4) 常勤 (週3日8時半~17時)
心神医学1人(1/4) 常勤 (週3日8時半~17時)
 さいたま拘置支所 0(0/1)  
松本少年刑務所 0(0/1)  
東京拘置所 精神科2人(2/11) 常勤 (週3日、1日8時半~17時、2日8時半~12時15分)
常勤 (週2日8時半~17時)
富山刑務所 0(0/1)  
金沢刑務所 精神科1人(1/4) 非常勤 (週1日13時~16時)
福井刑務所 0(0/1)  
岐阜刑務所 0(0/3)  
 岐阜拘置支所 0(0/1)  
笠松刑務所 精神科2人(2/5) 非常勤 (週1日9時~12時(月2回))
非常勤 (週1日、1日9時~12時、2日9時~14時(月3回))
岡崎医療刑務所 精神科3人(3/7) 常勤 (週5日8時半~17時)
常勤 (週5日、2日8時半~17時、3日12時45分~17時)
常勤 (週3日8時半~17時)
名古屋刑務所 精神科2人(2/12) 常勤 (週3日8時半~17時)
非常勤 (週1日、1日10時~12時、2日14時~16時半(月2回))
 岡崎拘置支所 0(0/1)  
 豊橋拘置支所 0(0/1)  
三重刑務所 精神科1人(1/2) 非常勤 (週1日14時~16時)
 四日市拘置支所 0(0/1)  
名古屋拘置所 精神科1人(1/4) 非常勤 (週1日11時~17時(月2回))
 一宮拘置支所 0(0/1)  
滋賀刑務所 精神科1人(1/3) 非常勤 (週1日、2日8時間、1日4時間(月3回))
京都刑務所 0(0/3)  
大阪刑務所 0(0/7)  
大阪医療刑務所 精神科3人(3/19) 常勤 (週3日8時半~17時)
常勤 (週3日8時半~17時)
常勤 (週3日8時半~17時)
神戸刑務所 0(0/3)  
加古川刑務所 精神科2人(2/3) 非常勤 (週1日12時~17時(月2回))
非常勤 (週1日12時~17時(月2回))
和歌山刑務所 精神科1人(1/3) 非常勤 (週1日8時半~12時半)
 丸の内拘置支所 精神科1人(1/1) 非常勤 (週1日15時~17時)
姫路少年刑務所 0(0/1)  
 姫路拘置支所 0(0/1)  
奈良少年刑務所 0(0/1)  
 葛城拘置支所 0(0/1)  
京都拘置所 精神科1人(1/3) 非常勤 (週1日8時半~14時(月2回))
大阪拘置所 精神科1人(1/8) 常勤 (週5日、3日12時45分~17時1日8時半~12時15分、1日8時半~17時)
神戸拘置所 精神科1人(1/3) 非常勤 (週1日5時間(月2回))
 尼崎拘置支所 0(0/1)  
鳥取刑務所 0(0/1)  
 米子拘置支所 0(0/1)  
松江刑務所 0(0/1)  
岡山刑務所 精神科1人(1/4) 非常勤 (週1日9時~14時半(月2回))
広島刑務所 0(0/4)  
 呉拘置支所 0(0/1)  
 尾道刑務支所 0(0/1)  
 福山拘置支所 0(0/1)  
山口刑務所 0(0/2)  
 下関拘置支所 0(0/1)  
岩国刑務所 精神科2人(2/5) 非常勤 (週1日13時~17時(月1回))
非常勤 (週1日13時~17時(月1回))
広島拘置所 精神科1人(1/2) 非常勤 (週1日1~2時間(月5時間))
徳島刑務所 精神科1人(1/3) 非常勤 (週1日、1日11時~12時、1日13時~17時(月2回))
高松刑務所 0(0/3)  
 丸亀拘置支所 0(0/1)  
松山刑務所 0(0/2)  
 大井造船作業場 0(0/1)  
 西条刑務支所 0(0/1)  
高知刑務所 0(0/1)  
北九州医療刑務所 精神科3人(3/6) 常勤 (週3日8時半~17時)
常勤 (週3日8時半~17時)
非常勤 (週1日8時半~13時)
福岡刑務所 精神科2人(2/11) 非常勤 (週1日14時半~16時半(月1回))
非常勤 (週1日13時半~16時(月1回))
麓刑務所 精神科1人(1/3) 非常勤 (週1日3時間(月1回))
佐世保刑務所 0(0/1)  
長崎刑務所 0(0/3)  
 長崎拘置支所 0(0/1)  
 福江拘置支所 0(0/1)  
熊本刑務所 精神科1人(1/3) 常勤 (週3日8時半~17時)
 京町拘置支所 0(0/1)  
大分刑務所 0(0/2)  
宮崎刑務所 0(0/1)  
鹿児島刑務所 心神医療科1人(1/3) 常勤 (週3日8時半~17時)
沖縄刑務所 精神科1人(1/2) 非常勤 (週1日、1日9時~12時、1日13時~16時(月2回))
 那覇拘置支所 0(0/1)  
佐賀少年刑務所 0(0/1)  
福岡拘置所 精神科1人(1/3) 非常勤 (週1日13時~17時)
心療内科2人(2/3) 常勤 (週3日8時半~17時)
常勤 (週3日8時半~17時)
 小倉拘置支所 0(0/1)  

【竹下委員】

障害のある人が権利行使をする場合の補助が確立されていない。とりわけ、裁判等を提起する場合の資金的援助だけでなく、専門的支援が制度化されるべきである。また、差別的取扱いを受けた場合の救済に関しては、特段の支援体制が必要である(イギリスにおけるDDAを参考にすべきである)。

【土本委員】

【札幌「三丁目食堂事件」刑事告発・検察が不起訴処分とした。検察審査会に申し立てたが不起訴処分が相当と議決した】

しょくどうの けいえいしゃは、年金の いちぶを しょくどうの けいえいに つかったことを みとめている。

ちてきな ハンディの ある とうじしゃ の とくせいを りかいしていない けんさつの人の ききとり かた ほうほうに もんだい が ある。

また けんさつ しんさかいの ひとたちも なかまたちの ことを りかいしているひとが ほんとうに いるとは おもえない。

【札幌で さいばんを おこした 仲間】

24じかんの こうてきかいごを もとめ さいばん を おこした ピープルファースト北海道の 仲間である 鬼塚 朗くん は、 サービスをりようするときの しんせい てつづき では ひとりのおとなとして あつかわれ、さいばんを おこすと アイキューが8才2ヶ月ではさいばんをする のうりょく がないと いわれた。

かってな つごうで いいように あつかわれて しまっている。

【広島県福山市で成年後見人とされてしまい わるい人にだまされた仲間】

後見人は なにをする しごと なのか ちゃんと せつめい をうけず、わけがわからずに ひきうけ、あずかった おかねを わるい人に だまされて つかってしまい たいほ された事件。

自分のおかねも かんり する ことが むずかしい ちてきなハンディのある仲間を 成年後見人 とした かんけいしゃや かてい さいばんしょのむりかい と むせきにんさ である。

たいほ から とりしらべ まで べんごし など の しえん を うけられず きんちょう と ふあんの なかで とりしらべ を うけた。

【佐賀県の安永健太さんが死亡した事件】

けいさつかん 5人に とりおさえられて 死んで しまった 仲間。

けいさつかんは 人のいのちを まもるのが しごと です。

仲間たちの ことを もっと りかいして いれば けんたさんが 死ぬことはなかった と おもう。

【千葉県東金市でおきた児童殺害事件】

ちてきなハンディのある 仲間が さつじんの犯人として たいほ された事件。しょうこが でてこないので とりしらべで ゆうどう され みとめさせられたら えんざい に つながる。

ちてきなハンディのある 仲間には 人をころしたと たいほされ さばかれた あとに 「ころしたんじゃねえもの」と むじつを うったえ つづけている 人もいる。

【わからないことでも 「ハイ」 と いって しまう仲間】

もともと まわりからの とつぜんの いらい や しつもんに よわい 仲間たちは ちゃんと わからないで 「ハイ」と ひきうけたり、とつぜんのしつもんに よく わからなくても 「ハイ」 といってしまう ことが ある。かりの はなしを されると わけがわからなくて 「そうだったかもしれない」と おもって しまう 仲間もいる。ゆうどう され やすい。

【さいごに】

おおくの 仲間たちが こんなん な ことを りかいされず ちいきで ひつようと する てきせつな しえん を うけられずに ほったらかされて はんざいに まきこまれたり はんざいを おかしたり している。

わたちたちの 仲間たちは かんたんに かがいしゃに され たいほされ さばかれる。でも ひがいにあったときは りかい を されないまま なきねいり させられている。

もっと ごうりてきはいりょが しほうのば でも ひつようです。

【長瀬委員】

(裁判員制度と合理的配慮、ユニバーサルデザイン)

2009年の裁判員制度の導入により、日本の裁判の進め方がそれまでの裁判官、検事、弁護士という法律の専門家同士でのやりとりから、法律の専門家でない市民に向けた展開への移行を進めているのは心強い。これを機に、裁判員としての障害者への合理的配慮提供のみならず、情報保障をはじめとする裁判全般のユニバーサルデザイン化促進が必要である。その意味で過度に難解な法律用語の使用を避ける傾向が、裁判員制度の導入と共に生じてきていることを歓迎する。

【久松委員】

手話通訳費用を訴訟費用から外すべきである。

<現状>

民事訴訟法154条1項「口頭弁論に関与する者が日本語に通じないとき、又は耳が聞こえない者若しくは口がきけない者であるときは、通訳人を立ち会わせる。ただし、耳が聞こえない者又は口がきけない者には、文字で問い、又は陳述をさせることができる。」、民事訴訟規則第122条「耳が聞こえない証人に書面で質問したとき、又は口がきけない証人に書面で答えさせたときは、裁判長は、裁判所書記官に質問又は回答を記載した書面を朗読させることができる。」との規定がある。

民事訴訟費用等に関する法律第11条1項1号、18条によると、通訳人に対する給付は「訴訟費用」に含まれている。

そして、訴訟費用は、敗訴当事者の負担とされている(民事訴訟法61条)。

しかし、市民的及び政治的権利に関する国際規約及び障害者権利条約の観点から言うと、手話通訳者を付することは、本来、司法機関が障害者に対してなすべき手続き上の配慮に含まれると解すべきである。そうすると、手話通訳者の費用は裁判所が負担すべきであり、当事者が負担すべきではない。

したがって、手話通訳に係る費用は、民事訴訟費用等に関する法律における「訴訟費用」から外し、裁判所が負担すべきである。

傍聴者がろう者である場合の手話通訳を裁判所が保障すべきである。

<現状>

日本国憲法82条によると裁判は公開とされており、傍聴は自由である。

しかし、傍聴人がろう者である場合、手話通訳を認めない裁判官もある。

認める場合でも傍聴者に見やすい位置は保障されず、立ち姿勢による手話通訳を認めないこともある。

レペタ法廷メモ訴訟最高裁判決(最判平成元年3月8日民集43巻2号89頁)によると、筆記行為は「筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべき…裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、傍聴人は法廷における裁判を見聞することができるのであるから、傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである」とされている。

この理は手話通訳にもあてはまるものであり、憲法21条1項に照らして法廷傍聴者のための手話通訳も保障されるべきである。

全国手話通訳問題研究会(全通研)の意見を参考までに紹介する。

項目 全通研の意見
1 司法制度における情報保障制度
【現状と問題点】
司法制度(警察、検察、裁判所)について、聴覚障害者の情報保障制度がない。現状では、市町村の登録通訳者が担当する例もあり、聴覚障害者の人権が保障されているとはいえない。

2 裁判の傍聴
【現状と問題点】
聴覚障害者が裁判を傍聴するにあたり情報保障制度(手話通訳、要約筆記)がない。
制度上は裁判所傍聴規則(昭和二十七年九月一日最高裁判所規則第二十一号)に基づき、裁判官の判断(裁量)により、配置の可否や配置責任者等が決定されることになるが、①手話通訳や要約筆記を配置する公的な制度(事業、財源)がない、②手話通訳者や要約筆記者が定員内とされている裁判所がある(定員以上の傍聴希望者がいる場合は手話通訳者や要約筆記者も傍聴券入手に並ぶ必要があり、入れない可能性もある)、③傍聴席での手話通訳の実行について裁判官が拒絶する可能性がある(承諾する保障がない)、という問題点がある。
1 司法制度における情報保障制度
司法制度全体を統轄する情報保障制度(手話通訳及び要約筆記)を設ける必要がある。
その際には、①手話通訳担当者は全国レベルの試験に合格していること、②経費は司法側が負担すること、③司法にかかる手話通訳を担当する手話通訳者の養成事業の実施、等の点を組み入れること。

2 裁判の傍聴
聴覚障害者が裁判を傍聴するにあたっての情報保障制度(手話通訳、要約筆記)を設ける必要がある。
その際には、①手話通訳者または要約筆記者の配置(コーディネート)及び経費負担は裁判所側であること、②手話通訳者または要約筆記者は傍聴の定員外として扱う、③傍聴席での手話通訳または要約筆記の実行は保障されること、などの点を組み入れること。

【参考】

「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)条約」

第十四条

1 すべての者は、裁判所の前に平等とする。すべての者は、その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。報道機関及び公衆に対しては、民主的社会における道徳、公の秩序若しくは国の安全を理由として、当事者の私生活の利益のため必要な場合において又はその公開が司法の利益を害することとなる特別な状況において裁判所が真に必要があると認める限度で、裁判の全部又は一部を公開しないことができる。もっとも、刑事訴訟又は他の訴訟において言い渡される判決は、少年の利益のために必要がある場合又は当該手続が夫婦間の争い若しくは児童の後見に関するものである場合を除くほか、公開する。

2 刑事上の罪に問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する。

3 すべての者は、その刑事上の罪の決定について、十分平等に、少なくとも次の保障を受ける権利を有する。

(a) その理解する言語で速やかにかつ詳細にその罪の性質及び理由を告げられること。

(b) 防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。

(c) 不当に遅延することなく裁判を受けること。

(d) 自ら出席して裁判を受け及び、直接に又は自ら選任する弁護人を通じて、防御すること。弁護人がいない場合には、弁護人を持つ権利を告げられること。司法の利益のために必要な場合には、十分な支払手段を有しないときは自らその費用を負担することなく、弁護人を付されること。

(e) 自己に不利な証人を尋問し又はこれに対し尋問させること並びに自己に不利な証人と同じ条件で自己のための証人の出席及びこれに対する尋問を求めること。

(f) 裁判所において使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受けること。

(g) 自己に不利益な供述又は有罪の自白を強要されないこと。

以下略

【刑事訴訟法等参考条文】

1.刑事訴訟法第175条~178条(第13章通訳及び翻訳)

第175条 国語に通じない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせなければならない。

第176条 耳の聞えない者又は口のきけない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせることができる。

第177条 国語でない文字又は符号は、これを翻訳させることができる。

第178条 前章の規定は、通訳及び翻訳についてこれを準用する。

2.刑事訴訟法第201条2項

逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。

3.刑事訴訟法第203条第1項

司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

4.刑事訴訟法第198条2項

前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。

5.警察官職務執行法第2条1項

警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。