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スウェーデンにおける重度の心身障害を持つ人の地域生活支援

竹端寛

筆者はかつて、スウェーデンで半年調査間、障害者の地域生活支援について調査していた事があるi。帰国後その報告を行うと、少なからぬ方が筆者にこう尋ねた。「いくら施設解体をしたっていっても、やはり重度の人は入所施設で暮らしているのでは?」スウェーデンとノルウェーは障害者の入所施設は統計上ゼロである、というEUの報告書iiを見せても、疑り深い人は、「例えば“重症心身障害児(者)”のための入所施設も本当にないのか?」と筆者に重ねて尋ねてくる。そこで今回は、筆者が取材したスウェーデンにおける重度の心身障害を持つ人の地域生活支援に取り組む二つの団体の紹介を通じて、その疑問の真相に迫ってみたい。

<エルドラードは可能性開発の拠点>

スウェーデン第二の都市、イエテボリ市で重度の心身障害を持つ人の日中活動を提供する場である「エルドラード」を筆者が訪れたとき、時刻はちょうど朝9時。利用者が続々と福祉タクシーに乗って「エルドラード」を訪れる時間帯だった。移動にも介助が多く必要な人々が中に入っていくのを見届けたあと、筆者も中に入ると、入り口から綺麗なピンク色の壁や調度品や置物なので飾られた、美しい非日常空間。「音、色、匂いなどを使って、重い障害を持つ人が『エルドラードにやって来た』ということがわかるようにしています」と所長のエラインさん。ご自身のお子さんで利用者でもあるピアさんがグループホームからエルドラードに週に1度、やってくる際には、家の中からエルドラード訪問に向けた関わりが始まる、という。

「まずその日は家にいる時から、エルドラードの写真を本人に見せ、エルドラードに向かう車中でも写真を本人の手元にずっと置いておきます。また車内では、エルドラードに行くときにはいつも同じ歌を支援者が歌っています。そして、車がエルドラードに到着したら、写真もしまいます。そうやって感覚を刺激することによって、今から何が始まるか、を本人にわかってもらい、心の準備をしてもらっておくのです。」

エラインさんの説明に象徴されるように、ここでは重度で意思表示や理解が難しい、と従来はみなされてきた人々のコミュニケーションを活発にし、感覚を刺激するための仕掛けであふれている。水・火・土・空気、をそれぞれのテーマにした4つの部屋では、日本でも最近お馴染みになったスヌーズレンやジェットバス、アロマテラピーなど、五感を刺激する様々なアイテムがそろっている。また、意思表示のパネルであるブリスや文字盤など、コミュニケーションを円滑にするための補助具やその専門家もいる。さらに、重度の人に自分のアイデンティティを感じてもらうための鏡も、建物のあちこちに設置されている。カフェは季節感あふれる装飾に変えられ、庭では嗅覚を刺激するハーブを植えている。

このような“ハコモノ”だけでも私たちは圧倒されがちだが、エラインさんはハードよりソフトの大切さを強調していた。「エルドラードの利用者の大半が、“ここ”と“今”で生きている人です。彼等彼女らにとって、見た目が綺麗で居心地がいいことが、すごく大切です。」綺麗で居心地のよい空間は、エルドラードだけで十分、ではない。イエテボリ市内だけでも140カ所ある重度の心身障害を持つ人を支援しているグループホームやデイセンター、学校などにエルドラード職員が出張し、利用者の“ここ”と“今”を豊かな空間にするために、支援者や家族などへのレクチャーも度々行っている。また、エルドラードでも支援者のためのセミナーを毎月何度も開いている。つまりは、地域で暮らす重度の心身障害を持つ人たちの“ここ”と“今”の可能性を刺激し開発するために、ハードとソフトのトータルの環境づくりを行う場所、それが「エルドラード」という場なのである。

<JAG協会は生活保障の拠点>

読者の中には、「重度の人向けの日中活動の場は日本でだって最近増えている。でも住まいの場を考えたら、最重度の人は家族介護か施設での暮らし、の二者択一なのでは?」という疑問を持つ人もいるだろう。そこで、以下では二者択一のどちらでもない選択肢を作り出した、JAG協会iiiの取り組みをご紹介したい。

このJAG協会とは、重度の心身障害を持つ人とその家族で構成されるNPOである。創始者は、重度の心身障害を持つ当事者であるマグヌスさんと彼の母親のヤードさん。マグヌスさんは今から15年ほど前、グループホームから出て仲間と共同で介助者を雇っての生活を始めた。それはグループホームでの“おまかせのケア”が安全ではない、と感じていたからだ。雇用者として当事者の意向に基づいたケアが提供される仕組みを作らない限り、施設からグループホームに移っても、ケアの質は向上しない。その想いと、1994年に始まったLSS(一定の機能的な障害のある人々に対する援助とサービスに関する法律)という法律が重なった。同法の中で、「パーソナル・アシスタントによる援助」が権利として得られる特別な援助サービスの一つとして明記されたからである。

このパーソナル・アシスタントによる援助とは、障害者自身(あるいはその代弁者)が決めた介助者が、障害者側で決めた時間に介助に来てくれる、という「当事者管理」ivの介助サービスである。役所から派遣される支援者と違い、自分の納得できる介助者に、自分のニーズに合った時間で自分にあったサービスを提供してもらえる、という点で大きな特色がある。本人にその必要性が認められた場合、無料でそのサービスが利用できる。

LSS制定時の94年に同協会内で協同組合を立ち上げ、重度の心身障害を持つ人がこのパーソナル・アシスタンスによる援助を使いこなすための仕組みも作り上げた。利用者の多くが週168時間(つまりフルタイム)の介護が必要と認定されており、330人の利用者を、2500人のパーソナル・アシスタントで支えている。意思表示の難しい当事者が雇用者となるために、その補佐役として「サービス保証人」という協会独自の制度を作った。当事者と共に雇用者として介助者の雇用管理を行うと共に、介護の質を担保し、他の介護者の都合がつかない場合の最終的な介護保障責任を負っている。このサービス保障人と当事者の二人三脚で「当事者管理」をしていこう、という考えなのだ。重責が伴うこの「サービス保証人」には、利用者の家族や親戚がなるケースが多かったが、最近では利用者から信頼され、長い支援の経験を持つパーソナル・アシスタントがなるケースもある、という。

JAG協会としては、パーソナル・アシスタントの質を高めるため、初任者・現任者研修をするだけでなく、サービス保障人への支援や、よりよい制度になるための政治家への働きかけなども積極的に行っている。

<共通する視点とは>

この二つの拠点に共通するのは、本人の想いや願いを満たすために、本人ではなく社会や環境を変えよう、という視点である。エラインさんとヤードさんは、共に重度の心身障害を持つ人の母親であり、30年前からスウェーデン国内でも一番遅れていた重度の人への支援の必要性を、家族会や政治家に積極的に働きかけてきた。重度の障害を持っても普通の人と同等の生活を過ごす権利がある、というノーマライゼーションの理念を現実のものとするため、新たにシステムをゼロから作り上げてきた張本人でもあった。そして、日中活動や生活保障の拠点を作った後、今では支援者の教育に力を入れている点でも共通する。

ハコモノやシステム、そして制度は、それを継続的に支える人々の力がなければ、形骸化する。重度障害者の脱施設、そして地域での「可能性開発」と「生活保障」の拠点作りにリーダーシップを発揮してきた二人の母親とも、次の目標を「人作り」と更なる環境構築へと定めていた。この中身を豊かにする視点こそ、地域移行が叫ばれる今、日本の私たちが学ぶべき視点ではないだろうかか、筆者にはそう感られた。

(たけばたひろし 山梨学院大学法学部講師)

写真 JAG協会のエントランス
JAG協会のエントランス

イラスト 従来型の支援モデル
従来型の支援モデル(JAG協会HPより)

Traditional structure

EMPLOYER

STAFF

PERSONS RECEIVING CARE/SERVICE

イラスト 当事者管理の新たな支援モデル
当事者管理の新たな支援モデル(JAG協会HPより)

Personal assistance

PERSONAL ASSISTANTS

USER

SERVICE GUARANTCR

JAG = EMPLOYER


i調査内容は「スウェーデンではノーマライゼーションがどこまで浸透したか?」というタイトルでDINFにも掲載して頂いている。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/other/takebata.html

ii European Coalition for Community Living(2003)Included in Society
http://www.community-living.info/contentpics/226/Included_in_Society.pdf

iii JAG協会は英語のHPも持っている。http://www.jag.se/eng/eng_index.html

iv スウェーデンのパーソナル・アシスタンスについては、次の文献に詳しい。アドルフDラツカ著「スウェーデンにおける自立生活とパーソナル・アシスタンス」現代書館