音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ


WWW を検索 サイト内を検索 Google

メールマガジン登録

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会

障害者情報ネットワーク

日本障害者リハビリテーション協会の活動にご支援をお願いします。(ご寄付)

JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部

被災者生活支援ニュース(厚生労働省)

マルチメディアDAISY(デイジー)で東日本大震災に関わる情報を

障がい者制度改革推進会議

DINFのお知らせ

シンポジウム 「もっと知ろう、デイジー教科書を!」
日時:2013年02月03日(10:30~16:00)
場所:戸山サンライズ 大研修室
 

Enjoy Daisy 読めるって楽しい!

公益財団法人日本リハビリテーション協会は国際シンボルマークの取扱いを行なっています。

障害者福祉の総合月刊情報誌『ノーマライゼーション』発売中

マルチメディアDAISYのCD-ROM付き絵本『赤いハイヒール』発売中

意見書レジュメ

平成22年 4月 19日

全国遷延性意識障害者・家族の会 代表 桑山 雄次

【状態像】

遷延性意識障害は、いわゆる「植物状態」と言われ、障害の程度は極めて重い。発症原因 には、労災事故や交通事故など第三者行為によるものが多い。医療的ケアもあり、その生活 には医療も福祉も必要であるが、医療からは「治療は終わった、これは障害である」とされ、 福祉からは「障害が重すぎて受け入れることができない」と言われ、行き場所=生き場所の 選択肢は非常に少なく、在宅が大部分である。医療的ケアがあるため、法律上介護職では対 応が無理な場合が多い。

また中途障害に陥る障害者(多くは20代~30代)の介護家族は、その親である高齢者 (50代~60代)が多く、発症後10年~20年以上経過しており、家族は疲労の色は濃 いにも拘わらず、「ヘルプレス」の状態が続いており、「待ったなし」の家族がほとんどで ある。

平成16年に困難な中、全国会を結成し一貫して支援を要請し、多くの方々の努力もあっ たが、結果的には大きな進展はなかった。

【要望事項】

  1. 「在宅重度障害者の効果的支援の在り方に関する研究」(平成20年3月に報告) により、課題は明らかになっているので、意思表明が困難で医療的ケアの必要な重い障 害をもった障害者について、医療と福祉をミックスした格段の配慮を盛り込んだ施策を 策定し、支援体制を実効力のあるものにして下さい。
  2. 「障がい者制度改革推進会議」の下部組織である「各課題別専門員会」の一つに、 「重度者部会」のようなものをつくり、自らの意思表示が難しい重度障害者の立場を代 弁できる委員を選んで下さい。
  3. 介護者亡き後、あるいは介護ができなくなったとき、重い障害者の処遇についての 安心できる仕組みを提示して下さい。

障がい者制度改革推進会議委員の方々への意見書

平成22年 4月 19日

全国遷延性意識障害者・家族の会 代表 桑山 雄次

【1】私たちの家族の現状

私たちの会は、人生半ばで交通事故や脳卒中など、事故や病気が原因で遷延性意識障害と 診断された障害者(患者)と家族の会です。遷延性意識障害者とは、1972年に日本脳神 経外科学会が定義した6項目を満たす状態が、3カ月以上にわたって遷延した、いわゆる「植 物状態」とされています。(注)

(注)1、自力での移動ができない 2、自力で摂食ができない 3、糞尿失禁状態にある
4、目で物を追うが認識できない 5、「手を握れ」「口を開け」などの簡単な命令に応ずる
こともあるが、それ以上の意思の疎通ができない 6、声を出すが、意味ある発語はできない

平成16年10月に、多くの方々の支援の下に各地で活動していた会が集まり、全国組織 を結成し、同年11月1日に当時の尾辻大臣に面会が叶い、ヘルパーによる痰の吸引のAL S患者以外への解禁や、遷延性意識障害者の実態調査のお願いをしました。その結果、ヘル パーの吸引は条件付きながら緩和され、厚生労働科学研究「在宅重度障害者の効果的支援の 在り方に関する研究」が開始され、平成20年3月に報告があり、その極めて困難な状況が 明らかになりました。

そのような中で、障害者自立支援法が施行され、施策の一つである「重度障害者等包括支 援」の事業所に期待し、吸引を始めとする医療的ケアを行う事業所を探し、自治体にも事業 所への指導をお願いし努力しましたが、事業所が皆無に近く、制度があっても実質的な支援 はない「ヘルプレス」の状態が続きました。

再度、平成19年5月22日付の柳沢伯夫大臣への要望書、平成20年4月17日付の舛 添要一大臣への要望書(舛添大臣とも面会)、平成21年5月26日舛添大臣の要望書(渡 辺孝男副大臣と面会)を提出し、官僚の方々ともその他に何度もお話し、私たちの要望を継 続して伝えてきました。官僚の方々のご尽力もあったのですが、実質的に動く仕組みとして の制度設計の要望は叶いませんでした。

新政権が誕生後の平成21年12月4日に、山井厚生労働政務官との面会が叶い、私たち は、やっと医療的ケアの必要な極めて重い障害者が、地域で生きることが可能になるかもし れない、という感触を感じ、今日に至りました。

当会会員は交通事故、労働災害、医療過誤、犯罪被害による者も多く、人生半ばでの中途 障害は、誰にでも起こる可能性があります。このような第三者行為による被害者支援の施策 はまだまだ不十分で、その賠償の体制にも課題は山積しています。一昨年に亡くなられまし たが、松本サリン事件被害者の河野義行さんの奥様である河野澄子さんや、JR西日本福知 山線の脱線事故、地下鉄サリン事件による障害などはよくマスコミでも報道されますが、そ の他にも交通事故だけでも、事故により寝たきりになった人は、(独)自動車事故対策機構 によれば、現在でも2000人(うち約半数が頚髄損傷で、残りの半数が脳損傷)を超えま す。

病院からは「治療が終わった」とされ、退院を促され、福祉施設の身体障害者療護施設な どからも医療的ケアがあると入所を断られ、在宅を余儀なくされます。

発症や事故が18歳までなら重症心身障害児者の施策があり、65歳以上なら介護保険が 適用されますが、その間の年代の障害の場合、施行された障害者自立支援法が最重度の障害 者に十分には対応できず、家族に「丸投げ」の状態になっています。具体的には、難病対応 にもならず訪問看護の回数も制限され、訪問介護でも経管栄養はヘルパーには行えず、吸引 についてもヘルパー個人との契約になるので、実質的には事業所の許可がないと困難で、現 在の状況では利用できる福祉サービスは訪問入浴くらいしか使えていません。そのことは、 前記の厚生労働科学研究「在宅重度障害者の効果的支援の在り方に関する研究」からも困難 な状態が浮き彫りになっています。

またここ数年は、事故や発症直後、救命救急病院にすらたどりつけないこともあり、大き な社会問題になっているだけでなく、在宅の障害者が、体調悪化の際に夜間に診察してもら い、入院の必要性があると考えられるケースでも、「障害が重度すぎる」「担当医がいない」 などの理由で入院を断られる事例も出てきています。これでは重度の障害者は地域で生きて いくことは不可能です。その一方で、医療事情がどんどん悪化し、リハビリの上限日数が設 定され、部分的には緩和されたものの、多くて週に1回程度のリハビリしかありません。 リハビリが不十分だと、関節部分など身体がどんどん硬くなり、障害本人もしんどく、また 彼らを介護する家族もその介護がたいへんになってきます。

特に在宅で成人の子どもさん(30代~40代)を看ておられるご両親(70代~80代) が、その命を削りながら、24時間の介護を続ける中、体調を崩される事例が本当に多くな りました。退院を余儀なくされ、在宅になったもののその地域生活の維持は困難を極めてお り、私たち家族の生活は限界に近づきつつあります。

新聞報道では、老々介護(老人が老人を介護する場合)や、老障介護(老人が障害者を介 護する場合)による悲劇は続出しています。そのようなときに福祉事務所や民生委員の方の 談話として「相談に来てくれれば良かったのに」という談話が掲載されたりします。私たち は市町村や県だけでなく、平成16年の全国会を発足してから国にもずっと要望を出し続け てきています。行政の不作為は明らかにあると思います。

18歳を超えて脳に起因する重い障害をもち、医療が必要な障害者は、症状的には最重度 でありながら、多くの制度の谷間におかれています。重心施策もなく、難病対策もなく、制 度の狭間の中で本当に困っています。その一方で重度障害者に対して医療の中止や、「尊厳 死」の対象者にされるなど、二次被害、三次被害に合っているのが実情で、客観的に見れば 信じられないような厳しい生活を送っています。

私たちは、意識障害をもった家族が不幸にも亡くなられるのを数多く見てきました。家族 は、わが子のため、夫のため、妻のため、命を削り健康を害しながらも日常を生き抜いてい る姿を見てきました。障害当事者もこのような困難な中を生き抜くと同時に、障害発症以来 10年を超えても、粘り強いリハビリテーションや看護・介護の結果、経口摂取ができたり、 声を出せるようになった障害者も多く見てきました。

従来、社会保障審議会障害者部会などで、多くの議論がなされてきましたが、自らの意思 表示が難しい重度障害者の意見はなかなか出てこない現実もあり、そのような立場を汲むこ とのできる部会を発足して下さるようお願いします。

【2】困難点(問題点)の整理

(1)医療的ケアの介護職への拡大

平成22年3月19日に「チーム医療の推進に関する検討会」の報告書によれば、地域に おいても介護職員による一定の医行為の実施方策の早急な検討の答申がでており、早く検討 を実施して欲しい。デイサービスや、ショートステイなどに繋がる。

(2)極めて重い障害者についての福祉デザインがないこと

遷延性意識障害者には、支援機関も非常に少なく、この現状の改善は必須である。従来の 障害者自立支援法にあった「重度障害者等包括支援」は、実施している事業所は数えるほど しかないのが現状であり、どうすれば良いのか、当事者とともに一緒に考えてほしいこと。

また、必要な医療的ケアが、経管栄養のみの場合、経管栄養+気管切開の場合、呼吸器装 着の場合など、状態像が異なるが、きめの細かい施策を作って欲しいこと。

(3)医療と福祉の連携の仕組みが確立されていないこと

遷延性意識障害者には、重心施策のような、医療と福祉の2階建ての仕組みが必要である が、行政の縦割りの関係で、国でも都道府県でも連携が薄く谷間に置かれていること。

(4)医療の保障1(リハビリテーション)

リハビリテーションについては、発症から2カ月以内に急性期病院から、回復期リハビリ 病棟に入院しないと、集中的なリハビリを受ける機会がなくなる。実際には、高熱が続く場 合や、肺炎を合併したりなどして実質的なリハビリが行われていない患者も多い。

日数的な制限は緩和されつつあるが、意識が定かでないと、長期療養型病床に転院せざる を得ない現状があり、今まで医療保険料を払いながらもリハビリがほぼ皆無というのは、医 療保険制度として問題が多すぎるし、人権上極めて問題があること

(5) 医療の保障2(緊急入院)

障害者本人の体調悪化の際に、主治医が不在で、入院すら断られるケースがある。また入 院しても家族の付き添いを余儀なくされる場合もあり、「重度障害者入院時コミュニケーシ ョン支援事業」などでの介護ヘルパーの付き添い制度があるが、不十分である。

また、介護者の体調悪化の際、介護者の入院すら非常に困難である。

平成21年度より導入された「医療型短期入所」も、単価が引き上げられたにも関わらず、 受け入れ病院が増えず、国としても各県と連携して、何とか緊急時の受け入れ態勢を整えて ほしいこと。

(6)医療の保障3(基幹病院・拠点病院の設置)

難病などで行われている「拠点病院」はできないのか?(脳に起因する疾病・障害の総合 医療センター;高次脳機能障害では、拠点病院がほとんどの都道府県でできている)

ICUを出てから急性期~慢性期にかけて一連の医療を行い、遷延性から高次脳までの脳 損傷についての専門病院を全国で数か所つくり、治療・看護・研究とともに、相談活動機能 を併せ持つ病院が必要である。

私たちは、今まで少なくない改善例を見てきたが、遷延性意識障害に関する医師、看護師 療法士など医療職の認識が乏しく、機能回復の可能性があるにも関わらず、真剣な治療は考 慮されず、安易に長期療養型病院に転院させられており、研修が必要であること。

(7)地域生活

現在の福祉制度のベースには、障害者自立支援法と介護保険がある。その上に重心施策、 難病対策、労災や自賠責、ヒ素ミルク中毒、水俣病などによる被害者対策があり、上乗せ・ 横出しで自治体独自制度があるが、現在の制度の中では遷延性意識障害者は、非常に厳しい 障害でありながら、非常に手薄であること。

難病対策では、訪問看護やショートステイなどがある。遷延性意識障害は「難病」でない が、「難病など」の一つとして、医療や福祉サービスの適用を行う、「など」を関係文書の文 言に加えて欲しいこと。

訪問看護の充実の面では、「喀痰吸引」ということについても、吸引している分泌物の多 くは唾液であり、痰ではない。唾液を飲み込むこと=嚥下が上手になれば、吸引の回数はか なり減る。訪問看護では、むしろこういった面での指導が必要である。

(8)手帳制度及び障害程度区分の不備

遷延性意識障害は、知的(精神)・身体とも非常に重い障害があるが、18歳以降の発症 では療育手帳を取得できず、身体障害者手帳しかないこと。手帳1級の範囲も広く、障害程 度区分6の範囲もかなり広いのは事実である。身体障害者手帳に「遷延性意識障害」と銘記 することで、多くの医療福祉の利用を可能にしたり、障害程度区分の見直し作業に関連して 「区分6」でまとめるのではなく、例えば、「医療的ケアの必要な重度障害者」という概念 を導入し、必要な施策を行うこと

(9)小規模施設の可能性の検討をして欲しいこと

18歳以下の発症で重心認定者であっても、症状は様々であり、遷延性意識障害の場合、 現状の重心施設の中では、埋もれてしまう可能性が高い。また特に濃厚な医療的なケアが必 要な場合には、現状の重心施設であっても非常に厳しい。重い障害については、医師をはじ め多くの職種が必要なので、スケールメリットを考え、「大きな施設」という考えもあるが、 地元の開業医・訪問看護ステーションなどとの連携の中で、家族の延長のような形の小規模 施設である「重度型ケアホーム」の可能性の検討を是非お願いしたい。

障害者本人の私財・年金だけでなく、新たなリバースモーゲージの制度を作り、親族が所 有する私財での支援も可能となる制度を考えて欲しい。今までは福祉法人などへの寄付が考 えられてきたが、昨今の状況から考えると福祉法人に任せるのは非常に不安があること。

(10)介護者亡き後の入所先の確保・福祉業界参入の困難さ

当事者家族としては、一番懸念していることであるが、全くその方策が立たない。「待っ たなし」の家庭も多い。これは当会のみの要望ではないし、各地で心中事件など悲劇の報道 が繰り返されている。国としては、この件に関してどのような見解であるかお聞きしたい。

入所施設にしても、「今入らねば空きがなくなる」といった理由で入所するケースもある。
在宅での事情により、もっと出たり入ったりできる柔構造の仕組みはできないのかなど。

福祉分野の市場化に異論はないが、弱者救済、特に最弱者救済には「公」の強力な関与が 必要である。重度障害者のための社会資源がない自治体では、「貴方が中心となって法人を 作るしかない」とか言われ、介護をしながらの作業であり、何故こんなにハードルが高いの か、と素朴に思う。それとともに、現実としては、介護報酬が低いために、各事業所は「同 じ障害程度区分なら、より軽い障害者の取り合い」になっており、遷延性意識障害者は「敬 遠」されてしまっている。

(11)制度の狭間にある遷延性意識障害者の推定数

約10年前の調査である兵庫県や茨城県の調査からは、重心児・者でなく、若年性で介護 保険の対象にならない遷延性意識障害者は100万人に17人~36人と推計される。遷延 性意識障害者には、パーソナルな支援がないとその生命の維持すら困難であることもあり、 人数もさほど多くないので格段の配慮をお願いしたいこと。

(12)介護者の疲労が濃いこと

「在宅重度障害者の効果的支援の在り方に関する研究」によれば、10年以上在宅介護を している者は14.4%もおり、20年を超える介護をしている会員もいる。中途障害者の 介護家族は高齢であることが多く疲弊しきっており、「待ったなし」の状態である。

(13)その他

多くの団体からも要望がでていると思うが、医療面では、診療報酬、看護の報酬、療法士 の報酬、福祉面では重度訪問介護など介護報酬単価、介護士の報酬などを適正評価して欲し いこと。 地域間格差の解消、重い障害者には「障害者ケアマネジメント」が必要であるこ と