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第24回・25回・26回の報告 -リレー 推進会議レポート9-

北野誠一(きたのせいいち)
NPO法人大阪生活支援ネットワーク理事長

障害者基本法の改正に関する議論も10月中に、その総則と推進体制の部分の審議を終えて、11月からほぼ毎週のペースで、各則関係部分のたたき台の審議に入った。

第24回(11月8日)

 第24回は、まず各則の①司法手続、②情報バリアフリー、③年金等及び経済的負担の軽減、について、事務局からの「これまでの推進会議における議論を踏まえ、事務局において規定ぶりイメージの素案(たたき台)を作成したものであり、今後条文化していくに当たっては、各論点について、さらに検討・精査の上、関係各省との調整が必要であるが、それぞれのポイントについての規定ぶりのイメージ」を元に話し合われた。
 ①は、これまでの障害者基本法には無い項目であり、特に司法手続の範囲を、犯罪捜査や刑罰確定前の手続はもちろん、確定後の刑事施設等の処遇等を含め、さらに適切な意思疎通の手段として、本人が希望する手段と情報保障や必要な合理的配慮や支援がなされなければならないこと等が話し合われた。
 ②については、たたき台の表現が分りにくいことや整合性が読み取りにくい点の修正や、災害情報の提供については、障害の特性等に配慮したものであることを明確にするために、別立てで行うべきという意見も出た。
 ③については、全体として、障害者と他の市民との平等を基本とした社会参加に必要な所得保障や、社会参加に必要な障害者固有の支援に対する負担をどう補償するのかといった問題が話し合われた。
 続いて、新たに議論した分野についての問題認識として、①住宅、②障害の予防、③文化・スポーツ、④ユニバーサルデザイン、について、事務局の原案を元に話し合われた。
 とりわけ①は、多くの委員から、障害者権利条第19条と第一次意見の「地域社会で生活する権利」を実体化するためにも、住宅保障や住宅政策が基本であることが確認された。さらに、法的な根拠がないにもかかわらず、グループホームやケアホームの設置にあたって、自治体が地域住民からの了解の取り付けを求める問題や、消防法や建築基準法がバリアにならないような手だてを求める意見が出た。
また②は、否定的な障害者観を払拭するために、障害者権利条約のように「健康」の項目に組み込むか、残すのであれば「障害原因の予防」とすべきとの意見が多く出された。

第25回(11月15日)

 第25回は、まず、障害者基本法に関する「障害」「障害者」の定義について議論した。これまでの論議を整理する形での「担当者メモ」に基づいて、医療モデルでも、制限列挙モデルでもない、社会モデルに基づき、かつ隙間をうまないモデルを求めて、活発な議論がなされた。

 続いて、前回の議論を踏まえて、障害者基本法の改正に関する規定ぶりイメージ素案として、①住宅、②文化・スポーツ、③相談等、が話し合われた。
 特に③においては、障害当事者等によるエンパワメント支援としてのピア・カウンセリングの重要性や、人権侵害に対するアドボカシーを含めた多様な相談に適切に対応できる相談体制と研修体制の整備が求められた。
 最後に、文科省の中央教育審議会「特別支援教育のあり方に関する特別委員会」の担当課長による、「論点整理(委員長試案)」についての説明を受けて、これまた活発な質疑が行われた。
 多くの委員の指摘は、「論点整理」のインクルーシブ教育の基本的理解・認識の問題点と、それにふさわしい制度設計がなされていないのではないのかという点であった。
 「インクルーシブ教育システムにおいて重要なことは、…多様な学びの場を用意しておくことが必要」という表現は、そもそもインクルーシブ教育が意味する「原則は普通学校・学級での支援である」という基本的認識から逸脱しているのではないのか、また「本人と保護者の意見を尊重した就学先決定」は、教育委員会が決定権をもつ現状と変わらないのではないかといった問題点が論じられた。

第26回(11月22日)

 まず、推進会議と総合福祉部会との3つの合同作業チームである①医療チーム、②就労チーム、③障害児支援チームから、それぞれのチームで、障害者基本法に盛り込むべき事項についての報告を受けた。
 ①では、主に精神医療を中心に盛り込むべき規定として、社会的入院の解消等のための施策の根拠規定、医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」を解消するための根拠規定、強制的な入院等に関する適正手続を保障する規定の3点が提起された。
 ②では、主に障害者権利条約第27条等に基づく、「障害者が他の者と平等の労働についての権利」の保障、福祉的就労制度の抜本的改革、多様な就労の場の創出、雇用・就労に関する合理的配慮、等が提起された。
 ③では、主に障害児の最善の利益の考慮、障害児の意見表明権、障害児の早期支援、等が提起された。
 続いて、「障害」表記に関する作業チームの検討結果を受けて、主に「障碍」の「碍」の漢字の取り扱いについて議論が交わされた。 次に、障害者制度改革の重要方針についてと題して、「第二次意見書の骨子案」が検討された。特に議論されたのは、総則関係で表現されている「障害のある女性」を各則部分にも盛り込むのか、また基本的政策関連(各則部分)で、①地域生活(支援)をそのトップに据えて明確に表記すべき、②精神障害者に係る地域移行の促進と医療における適正手続の確保を表記すべき、③情報バリアフリーは、情報アクセスと言語・コミュニケーションという形で明確にすべき、④年金等は、これまでの議論を踏まえて所得保障とすべき、⑤同じく選挙等も政治参加とすべき、といったことが議論された。

筆者のコメント

 私は、この開催回数も多く、かつ長時間に及ぶ推進会議の構成員を務めさせていただいて、三つのことを実感している。
 一つは、この推進会議のもつ極めて民主主義的で、それゆえ筋書きのないドラマ性である。そのために、ここでの議論の結果、意見書に組み込まれる可能性の大きさを鑑みれば、各委員の発言や提案がこれまでにない重要性と責任性を帯びていることは間違いない。
 もう一つは、その歴史的意味である。この筋書きのないドラマは、時には各省庁や政治の思惑をすら超えてしまい、その法・制度への落としどころが見えにくい点は否めない。しかし、それこそが、今回の歴史的な意味であって、障害者権利条約の批准は、小手先の手直しには馴染まない。
 とは言っても、障害者基本法の改正等の目指すことは、ごくささやかなことである。それは、一般の市民と同じ基本的自由と生活を、障害者も共有したいという願いの実現である。そのためには、普通に地域社会で参加・参画するのに必要な合理的配慮や支援が保障されねばならないことに尽きるのである。それを「地域社会で生活する権利」と呼ぼうと、「地域で暮らす権利の保障」と呼ぼうと、「自立生活の権利」と呼ぼうと、「自己決定・自己選択への支援を踏まえた権利」と呼ぼうと、それは同じことを意味している。
 「私たち障害者は、特別なサービスを特別な場で受けて、保護されるべき特別な弱者なんかじゃありません。どうか私たちにも国民・市民としての権利と義務を全うさせてください」と心から念じているだけなのだ。
 最後の一つは、推進会議のメンバー間の理解や共感の広がりや深まりについてである。私は、この推進会議で、高いレベルでのコミュニケーション支援の重要さと、豊かな時間と場を共有することの大切さを味わった。自画自賛ではないが、推進会議は、多忙な25人の身体と精神と時間を思いきり奪うことによって、見事に深化した。
 しかし、大きな課題が残されている。それは、まず推進会議や部会と、それに関係する省庁との相互の理解と共感の構築である。今後、各種の法制化に向けて、各省庁との連携は不可欠であり、フォーマル・インフォーマルな時間と場の共有の中で、その関係を深めていかねばならない。
 さらに法制化と必要な予算化に向けて、多くの国会関係者や全国の関係者に、障害者支援について理解と共感を深めてもらわねばならない。
 現在、推進会議は、各地で地域フォーラムを開催しているが、その主催や運営の仕組みや取り組みが、地域のすべての障害者や支援事業者、そして、各種市民団体や地域の政治関係者や行政関係者等の広がりや深まりの展開にまで至っていないことが気がかりである。もう一歩、胸襟を拓いていこうではないか。


原本書誌情報

北野誠一.第24回・25回・26回の報告(リレー推進会議レポート9).ノーマライゼーション 障害者の福祉.2011.2,Vol.31, No.2, p.44-45.

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