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参考資料1

障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業の実施に係る同協議会の設置・運営暫定指針

平成26年3月31日
内閣府政策統括官
(共生社会政策担当)決定

目次

はじめに

1 地域協議会を組織する趣旨

(1) 地域協議会の事務

ア 障害者差別に関する相談等に係る協議

イ 地域における障害者差別を解消するための取組に関する提案に係る協議

(2) 対象となる障害者差別に係る事案

ア 基本的な考え方

イ 具体例

2 地域協議会の基本的な仕組み

(1) 地域協議会の組織

(2) 構成員

(3) 運営方法

ア 代表者会議

イ 実務者会議

3 都道府県単位で組織する地域協議会と市町村単位で組織する地域協議会について

(1) 地域協議会に期待される役割

ア 都道府県の地域協議会に期待される役割

イ 市町村の地域協議会に期待される役割

(2) 都道府県の地域協議会と市町村の地域協議会の関係

ア 地域協議会を組織している市町村と都道府県との関係

イ 地域協議会を組織していない市町村と都道府県との関係

4 地域協議会の事務局

(1) 役割

(2) 想定される部局

(3) その他の機能

5 相談及び紛争の防止等のための体制

(1) 役割

(2) 地域協議会への情報提供

6 既存の協議会等との関係

(1) 法律又は条例に基づく協議会

(2) 法律に基づかないネットワーク

7 秘密保持義務

(1) 趣旨

(2) 適用範囲

(3) 罰則

(4) その他注意を要する例

(5) 個人情報の提供に当たっての本人の同意

はじめに

 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)では、国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事するもの(以下「関係機関」という。)は、社会生活を円滑に営む上での困難を有する障害者に対する支援が効果的かつ円滑に実施されるよう、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会(以下「地域協議会」という。)を組織できるとされている(第17条第1項)。
 この「障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業の実施に係る同協議会の設置・運営暫定指針」(以下「暫定指針」という。)は、障害者差別解消支援地域協議会の在り方検討会において、各地方公共団体等における障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業(以下「体制整備事業」という。)の円滑な実施に資するよう、参考となる基本的な考え方を取りまとめたものである。
 もとより、体制整備事業の実施に当たり各地方公共団体等における地域の特性や障害者を取り巻く環境は様々であり、直面する課題も異なる。そこで、体制整備事業を実施する各地方公共団体等にあっては、この暫定指針を参考に、それぞれの地域の特性を踏まえた主体的な取組を進め、地域協議会を組織・運営するための課題を抽出するとともに、障害を理由とする差別(以下「障害者差別」という。)の解消の推進に資する取組を先行して実施することにより、障害者差別解消法施行時に他の地方公共団体等が地域協議会を組織する際のモデルとしての役割を担うことを期待するものである。
 なお、本暫定指針は体制整備事業の実施状況の推移を踏まえ、随時改訂されるべきものであり、障害者差別解消法施行時には、基本方針及び体制整備事業の実施結果を踏まえた地域協議会の設置・運営指針を改めて示すことになる。

1 地域協議会を組織する趣旨

 障害者基本法(昭和45年法律第84号)第3条では、全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこととされている。
 また、同法第4条では差別の禁止の基本原則を掲げており、これを具体化した障害者差別解消法は、障害者差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とし、障害者が地域生活を円滑に営むことができるよう、行政機関等又は事業者による障害者差別を禁止するとともに、相談体制の充実を図ることとしている。
 しかし、地域生活を営む障害者の活動は広範多岐にわたっており、障害者差別の解消の推進は、単一の機関による取組だけでは困難である。
 また、障害者が行政機関の相談窓口に対して障害者差別に関する相談等を行うに当たり、どの機関がどのような権限を有しているかは必ずしも明らかではなく、相談等を受ける機関としても、相談内容によっては当該機関だけでは対応できない可能性がある。
 このため、国及び地方公共団体の機関は、地域における障害者差別に関する相談等について情報を共有するとともに、当該事例を踏まえた協議の結果に基づき、地域協議会を構成する機関等(以下「構成機関等」という。)が、それぞれ自らの役割に応じて、当該事案の解決のための取組や類似事案の発生の防止等の地域における障害者差別を解消するための取組を行うネットワークとして、地域協議会を組織できることとされた。

(1) 地域協議会の事務

 地域協議会の事務は「必要な情報を交換するとともに、障害者からの相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関する協議を行うこと」であり、関係機関相互の連携の下、障害者差別の解消を推進するための取組を円滑に行うための協議機関として規定されている(第18条第1項)。
 なお、地域協議会の趣旨や事務に鑑みれば、個別事案ごとに差別か否かの判断を行うことまでは想定されないことに留意する必要がある。
 地域協議会において協議される内容は、例えば、次のような事項が考えられる。

ア 障害者差別に関する相談等に係る協議

 関係機関から提供された障害者差別に関する相談又は相談に係る事例(以下「事案」という。)について、適切な相談窓口を有する機関の照会や具体的な対応例を共有することによる協議、地域協議会を組織する構成機関等による調停やあっせんを含む様々な取組による紛争の解決や、事案の内容によっては複数の機関で紛争解決等に対応することへの後押しをすることが考えられる。

イ 地域における障害者差別を解消するための取組に関する提案に係る協議

 関係機関における紛争の解決に至った事例や合理的配慮の好事例、相談から社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備を実施するに至った取組などの事例を紹介・分析することにより、構成機関等における業務改善など、事案の発生を予防するための取組に関する協議、事案の発生状況を把握するとともに好事例を含む事例を集積、検討を加えることによる障害者差別に対する共通した認識を形成するための協議、構成機関等による周知・啓発活動の取組について協議することが考えられる。
 また、障害者差別の解消に資する社会資源の開発及び改善について、例えば、ボランティア団体等による相談活動の実施について提案することや、障害者差別に関して活用し得る相談機関等、障害者差別の解消に資するリソースの掘り起こしなどについて協議することも想定される。

(2) 対象となる障害者差別に係る事案

ア 基本的な考え方

 地域協議会における情報共有等の対象となる事案は、行政機関等又は事業者による事案であり、一般私人の行為や個人の思想、言論については、障害者差別解消法第7条及び第8条において対象とされていないことから、一般私人による事案は地域協議会における情報共有の対象としないこととする。
 ただし、例えば、障害者差別解消法第5条に規定される環境の整備に関する相談、また、制度等の運用に関する相談についても、情報共有の対象とし、構成機関等における環境の整備を始め、制度等の運用の実態の検証・改善に向けた検討などの取組につなげていくということは十分に考えられる。
 また、これまで事案の集積が乏しい状況に鑑み、当初においては、関係機関に寄せられた情報を提供し合い、事案の分析を行うとともに、その対応方法等について協議することを積極的に行っていく必要がある。

イ 具体例

 構成機関等が提供する事案として、例えば、①行政機関等による障害者差別、②事業者による障害者差別、③社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備に関する相談、④制度等の運用の実態の検証・改善に向けた検討などが考えられる。
 これらの中には単一の機関の体制・権限で対応可能なものもあるが、例えば、商店街など多様な事業者が集合する地域全体で取り組む必要性のある事案、障害者本人が適切な機関とつながっておらず医療や保健などの専門機関による支援が行われていないことから生じている事案など、単一の機関による対応では紛争の防止や解決に至らなくなった事案については地域協議会における協議が必要と考えられる。
 その他にも、相談を受けた機関が当該相談に関する直接的な権限等を有しておらず、かつ、複数の機関の権限等に属するものと考えられる事案、例えば、保健機関に寄せられた相談が当該機関の事務の所掌範囲にとどまらず、学校や職場を含む日常生活全般に課題が生じている事案などが考えられる。

2 地域協議会の基本的な仕組み

(1) 地域協議会の組織

 地域協議会を組織するに当たっては、障害者が日常生活等を営む地域において障害者差別の解消を推進するという障害者差別解消法の趣旨に照らし、地方自治法(昭和22年法律第67号)第1条の3に規定する地方公共団体が主導して組織することを基本とし、その中には普通地方公共団体である都道府県及び市町村のほか、特別地方公共団体である特別区や地方公共団体の組合(一部事務組合や広域連合)も含まれる。また、単独で地域協議会を組織することが困難な場合、一部事務組合や広域連合を設けることなく、事実上共同で組織することも可能である。
 なお、新たに地域協議会を組織する場合は必ずしも条例を根拠とする必要はなく、名称についても「障害者差別解消支援地域協議会」という名称を用いなければならないものではない。
 地域協議会を組織する場合、既存の協議会の性質や構成員等の意見等を勘案しつつ、当事者を取り巻く状況など地域の実情を踏まえて組織することが重要である。

(2) 構成員

 事案への対応は、障害者差別解消法に「国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図るものとする。」とされているように、一義的には当該地域に存在する既存の相談窓口が行うものである(第14条)。
 地域協議会は、構成機関等の相談窓口に寄せられた事案を始め、紛争の防止又は解決に係る取組等を踏まえ、構成機関等が地域の幅広い分野にまたがる障害者差別に係る情報の共有を進め、当該事案の解決のための取組や類似事案の発生の防止等のための取組を構築されたネットワークを通じて一体的に行うことなどを通じて障害者差別の解消を推進することを目的の一つとしている。
 このため、障害者差別解消法は、地域協議会の構成員として、国及び地方公共団体の 機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事する者を始め、特定非営利活動促進法(平成10年法律第7号)第2条第2項に規定する特定非営利活動法人その他の団体、学識経験者、その他当該国及び地方公共団体の機関が必要と認める者、例えば、障害者雇用を積極的に進めている事業者など障害者の日常生活及び社会生活に関わりの深い者が参加することを想定している(第17条第2項)。

想定される地域協議会の構成機関等

分野 都道府県市町村
行政国の機関法務局、労働局 等法務支局、公共職業安定所 等
地方公共団体障害者施策主管部局、都道府県福祉事務所、保健所、精神保健福祉センター、都道府県消費生活センター、教育委員会、学校、都道府県警 等障害者施策主管部局、福祉事務所、保健センター、市町村消費生活センター、教育委員会、学校 等
関係機関団体等当事者障害者団体、家族会 等障害者団体、家族会 等
教育校長会、PTA連合会 等PTA会長 等
福祉等都道府県社会福祉協議会、民生・児童委員協議会、福祉専門職等団体、社会福祉施設等団体、障害者就業・生活支援センター 等市町村社会福祉協議会、相談支援事業者(基幹相談支援センター、市町村障害者相談支援事業者)、社会福祉施設、民生・児童委員 等
医療・保健医師会(医師)、歯科医師会(歯科医師)、看護協会(保健師・看護師)、医療機関、病院団体 等医師、歯科医師、保健師、看護師 等
事業者商工会議所、経営者協会、公共交通機関、事業者 等商工会議所、公共交通機関、事業者 等
法曹等弁護士会(弁護士)、司法書士会 等弁護士、司法書士、人権擁護委員 等
その他 学識経験者、新聞社、放送局 等学識経験者 等

 もとより、法律上規定されている医療、介護、教育等、関連する分野の団体等を必ず含めなければならないものではなく、地域の実情に応じて、ある程度限定したり、逆に幅広くしたりすることも考えられる。特に、当事者の参加について配慮するとともに、当事者の参加に当たっては、意思疎通を円滑化するための措置を実施することやわかりやすい資料を作成し提供するなど、当事者の障害の特性に応じた配慮を行うことが必要である。なお、庶務を処理することとなる地方公共団体の担当部局は構成員となることが考えられる。
 また、障害者差別解消法第17条第2項3号の「特定非営利活動法人その他の団体」には、社会福祉法人などの法人のほか、①団体としての組織を備えること、②多数決の原則が行われていること、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続すること、④その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること(最判昭39・10・15民集18巻8号1671頁)の四条件を満たすいわゆる権利能力なき社団も含まれる。

(3) 運営方法

 地域協議会は、障害者差別に関する相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害者差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うことを目的としている以上、まずは地域の関係機関が一堂に集まり、お互いに「顔」の見える関係を築くことから始めることが望ましい。
 地域協議会の運営方法は、組織する単位が都道府県か市町村か、市町村であっても大規模か小規模かなど地域により事情が異なるため、一律に考えることは適切ではないものの、障害者差別の解消を推進する取組に関する提言や企画の決定及び進行管理等を実施する構成機関の代表者によって構成される会議の下に、提言の起草や企画の実施及び相談窓口による紛争の防止、解決に資する協議等を担う実務者会議を組織することも考えられる。
 また、実務者会議のみで十分に関係者の意思疎通が図られ共通認識が醸成される場合は、必ずしも代表者会議を設けないことや、障害者差別の解消を推進する取組の内容に応じて参加する構成機関を限定して開催することも考えられる。
 ここで、代表者会議、実務者会議のそれぞれが所掌する内容は、例えば次のようなことが想定される。

ア 代表者会議

 代表者会議は、地域協議会の基本的な運営方針や提言、企画の決定及び進行管理等、実際の担当者で構成される会議が円滑に運営されるための環境整備を図り、代表者レベルでの連携を深めるとともに、当該地方公共団体の区域内における障害者差別の状況について情報交換を行い、関係者の共通認識を醸成することを目的とする。
 また、幅広い分野に及ぶ取組に係る連携を図る趣旨から、「障害者施策主管部局」以外の地方公共団体の関係部局も参加することが考えられる。

イ 実務者会議

 実務者会議は、障害者差別の解消を推進する取組の企画、地域の実態把握、相談窓口による紛争の防止、解決に資する協議やそれぞれの機関の活動状況等についての情報交換などを目的とする。
 また、構成機関等に所属する職員を対象とした講演会の実施、ボランティアを含む支援者に対する研修などを始め、企業や商店街などに対して障害者との交流事業などの実施を提案するなど、地域的な広がりを持った障害者差別の解消の推進に資する基盤整備のために必要な連絡調整を行うことも考えられる。

3 都道府県単位で組織する地域協議会と市町村単位で組織する地域協議会について

(1) 地域協議会に期待される役割

 都道府県の地域協議会と市町村の地域協議会のそれぞれに期待される役割として、個別の事案に関する協議については住民に身近な市町村の地域協議会が担い、都道府県の地域協議会は、そのバックアップを行うとともに各相談窓口からの情報提供を踏まえた協議に基づき、地域における障害者差別を解消するための取組に関する提言を行い広域の取組を推進するといった役割分担を基本とすべきである。
 都道府県の地域協議会と市町村の地域協議会にそれぞれ期待される役割は以下のとおりであるが、地域の実情に応じて、必要とされる役割について検討し、機能を付加していくことが望ましい。

ア 都道府県の地域協議会に期待される役割

①事案の情報共有及び構成機関等への提言
②地域における障害者差別解消の推進のための取組に関する協議・提案
・事例の集積による認識の共通化
・構成機関による周知啓発の取組
・社会資源の開発・改善
③市町村の地域協議会から情報提供のあった事案又は協力を求められた事案への対応に係る協議

イ 市町村の地域協議会に期待される役割

①事案の情報共有及び構成機関等への提言
②事案の解決を後押しするための協議
③事案について、都道府県の地域協議会へ情報提供を行い、又は協力を求めること

(2) 都道府県の地域協議会と市町村の地域協議会の関係

 一般に、都道府県の地域協議会は都道府県単位に設置されている国の機関の参加を得て効果的に運営できるとともに、都道府県の区域全体の人的資源を活用することが可能であることを踏まえ、市町村の地域協議会だけで扱うことが困難なケースがある場合に、市町村の求めに応じ、市町村の地域協議会に対して都道府県の地域協議会が助言をすることや、市町村の地域協議会での会議に都道府県の地域協議会を構成する国の機関の職員や都道府県に在職する専門職等に対して参加を要請するなどの協力が考えられる。
 しかし、各地域の実情によっては組織するに至らない市町村も存在することが予想されるため、市町村が地域協議会を組織しているか否かにより、都道府県と市町村との関係は例えば次のように整理され得る。
 なお、政令指定都市の地域協議会は都道府県の地域協議会に準じて考えることが適当である。

ア 地域協議会を組織している市町村と都道府県との関係

 市町村が地域協議会を組織している場合には、まず当該市町村において障害者差別の解消を推進する取組を行うこととするが、広域にわたる課題や市町村の地域協議会に参加する構成機関等の権限に属さない事項については都道府県の地域協議会に情報提供又は協力を求めることや、市町村の地域協議会に都道府県の地域協議会の構成機関等がオブザーバーとして参加することが考えられる。

イ 地域協議会を組織していない市町村と都道府県との関係

 市町村が地域協議会を組織していないために障害者差別の解消を推進する取組が全く行われない状況を回避するには、未設置市町村で生じる問題への対応は都道府県の地域協議会が扱うことが考えられる。
 この場合には、当該市町村の担当部局は、都道府県の地域協議会の会議にオブザーバーとして参加することが考えられる。

4 地域協議会の事務局

(1) 役割

 障害者差別解消法では、地域協議会を構成する地方公共団体が庶務を処理することとなっており、多くの関係機関等から構成される地域協議会が効果的に機能するための事務局として役割を果たすことが期待されている。地域協議会の事務局は、運営の中核として地域における障害者差別の事案を取り巻く状況を的確に把握し、必要に応じて他の関係機関等との連絡調整を行うことをその役割とする(第18条第4項)。
 なお、事務局の業務として具体的に想定されるものは、以下のとおりである。
①協議会に関する事務の総括
・協議事項等の協議会開催に向けた準備
・協議会の議事運営、議事録の作成、資料の保管
・協議会で対象となった個別事案の記録の管理
②取組の実施状況の進行管理
③取組の実施に係る関係機関等との連絡調整

(2) 想定される部局

 事務局として、各地方公共団体の障害者施策主管部局が一般的に想定されるが、具体的にどの部局とするかは各地方公共団体の判断による。

(3) その他の機能

 あらかじめ、地域の各相談窓口と連携を密にし、事務局に直接寄せられた事案について、権限を有する他の機関につなぐといったコーディネート機能も併せて持つことが望ましい。なお、事務局にそれらの機能を専門に担う相談員を配置するかについては各地方公共団体の判断による。

5 相談及び紛争の防止等のための体制

(1) 役割

 障害者差別解消法では、国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害者差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害者差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるような体制の整備が求められている(第14条)。
 障害者差別解消法においては、行政肥大化防止等の観点から、新たな機関は設置せず、既存の機関等の活用・充実を図る趣旨としているが、相談及び紛争の防止等のための体制の整備に当たっては、各機関において障害者差別に関する相談を受け付ける相談窓口を明確にすることを基本とする。
 なお、ここでいう紛争の防止又は解決とは、例えば、相談機関等による①電話相談、窓口における相談、②聞き取りや訪問による問題把握などの本人へのアプローチ、③事実確認や聞き取りによる実態の把握、障害特性の説明等の事案の対象者に対するアプローチ、④関係機関による情報の共有など障害者差別の解消のための取組など、様々な社会資源を活用し、多様なアプローチによるものを想定している。
 その他、必要に応じて、障害の特性に知見を持つ保健・福祉の分野と連携する場合も考えられる。
 また、事案における事実のみではなく、そこに至るまでに日常生活及び社会生活における本人に対する他の機関からの支援が十分であったかどうか、他の要因によるものと認識していた本人の抱える困難が、実は障害者差別であるのではないかという視点による検討を関係機関の協力を得ながら行っていく必要がある。
 このように、各機関の相談窓口において期待されることは、幅広い分野にまたがる障害者差別に関する相談に対し、紛争を防止又は解決する機能を果たすことであるが、必ずしも、当該相談における全ての問題を当初受け付けた機関だけで解決することが求められるものではない。すなわち、各機関の相談窓口においては、少なくとも関係機関のリスト、相談内容の記録を整備するなどして相談の一次的な受け皿になり、自ら対応できない事案については、地域内の他の適切な機関に「つなぐ」ことが重要である。
 ただし、相談者を地域内の他の適切な機関に紹介する場合、相談者の希望を踏まえ、紹介先の受入意向等を確認するとともに、個人情報の取扱いを各法令に基づき適正に処理したうえで、相談者を当該機関に紹介するなどの配慮が必要である。

(2) 地域協議会への情報提供

 各機関の相談窓口において受け付けた相談のうち、地域内に他の適切な機関がない事案や、複数の機関による連携が必要と思われる事案については、本人の同意を得たうえで、地域協議会に情報を提供し当該事案に関する情報の交換や障害者差別を解消するための取組の協議に付することが適当である。
 また、紛争の解決に至った事案についても、個人情報や秘密に係る情報を特定しない範囲で情報提供することや、本人は障害者差別と認識していないが困難を抱えているような事案についても、障害者差別に起因する可能性もあり得るという視座の下、事案を地域協議会に情報提供していくことが望まれる。

障害者差別に関する相談の流れイメージ

障害を理由とする差別に関する相談

(↓相談)(↑紛争解決※1)

構成機関の相談窓口

  • 行政(国)
  • 行政(地方)
  • 事業者
  • NPO法人
  • 当事者
  • 学識経験者

※1障害を理由とする差別に関する相談に係る紛争解決に当たっては、各相談窓口で対応することが基本。

障害を理由とする差別に関する相談

(↓相談※2)

協議会の事務局

※2事務局に相談が寄せられた場合、協議会又は適切な相談窓口に情報提供することを基本とする。

障害者差別解消支援地域協議会

  • 相談又は相談事例を共有
  • 取組等について協議※3

※3具体的には、・事例の集積による認識の共通化・構成機関による周知啓発の取組・社会資源の開発・改善などの協議をすることが考えられる。

障害者差別解消支援地域協議会

(↑必要に応じて参加)(↓取組等の提案・情報提供※4)

非構成機関

  • 行政(国)
  • 行政(地方)
  • 事業者
  • NPO法人

※4市区町村の地域協議会から都道府県の協議会へ提供することなども考えられる。

構成機関の相談窓口

(↓構成機関による差別解消の取組の実施又は協議結果に基づく紛争解決等)

障害を理由とする差別の解消

非構成機関

(↓各相談窓口による差別解消の取組の実施又は協議結果に基づく紛争解決等)

障害を理由とする差別の解消

6 既存の協議会等との関係

 障害者関係については、既に法定の協議会と事実上のネットワークが存在しており、これらと障害者差別解消法の地域協議会との関係については次のとおり考えることができる。

(1) 法律又は条例に基づく協議会

 障害者施策に関する地方公共団体の附属機関としての審議会については、これまで障害者基本法を始めとする各法律によって設置されており、障害者差別解消法は地域協議会を新たに明確な形で組織することを求めているものではない。新たに組織するか、又は既存の附属機関又は要綱設置による協議体に地域協議会の機能を付加するかについては、地域の実情に即して地域協議会を組織する国の機関及び庶務を行う地方公共団体の判断に委ねられる。  なお、既存の附属機関や要綱等を根拠としている協議体に地域協議会の機能を付加する場合、障害者差別解消法に基づくものであることを当該機関の設置根拠となる条例、規則等に明示するとともに、その旨を公表することが必要である。 13

(2) 法律に基づかないネットワーク

 各地方公共団体の区域においては、障害者の日常生活及び社会生活に関する支援や取組を行う様々なネットワーク、例えば、相談支援専門員によるネットワーク、障害福祉サービス事業所等のネットワーク、特別支援教育に関わるネットワーク、障害種別ごとのネットワーク、自治会や防災に関わる任意団体等が存在する。
 地域協議会は、これらのネットワークに対し、周知・啓発の働きかけを行うことにより、地域の障害者差別の解消に関する理解の促進など、事案の発生を予防する取組を始め、ヒアリング等を通じて障害者差別の実状を把握するなど、事例を集積し、共通の認識の形成に資する取組を進めることが期待される。

7 秘密保持義務

(1) 趣旨

 障害者差別解消法では、地域協議会を構成する全ての者に対して地域協議会の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならないとすることにより、相談者に対して安心して相談できる環境を整備するとともに、地域協議会における積極的な情報交換及び官民間の連携の推進を担保することとしている(第19条)。
 同時に、事案によっては情報が漏えいした場合、事業者等の信用を棄損する可能性のある情報も取り扱うことが想定されるものであるから、障害者差別解消法の守秘義務の中には当然、事業者等の情報についても課されるものであることに留意されたい。
 ここで、秘密とは「非公知の事実であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるもの」(最高裁昭和48年(あ)第2716号同52年12月19日第二小法廷決定)とされているが、以下では、地域協議会で扱う秘密の多くを占めると予想される個人情報の取扱いについて説明する。

(2) 適用範囲

 障害者差別解消の秘密保持義務は以下の者に対して課される。ただし、体制整備事業においては、構成員に対し誓約書の提出を求めることなどにより、秘密保持義務を担保されたい。

①国又は地方公共団体の機関である場合
 当該機関の職員又は職員であった者
②法人である場合
 当該法人の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者
③①又は②以外の者
 協議会を構成する者又はその職にあった者

(3) 罰則

 秘密保持義務に違反した場合には、障害者差別解消法の罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が適用される。国家公務員法、地方公務員法及び刑法等に対し障害者差別解消法は特別法に当たるため、障害者差別解消法の罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が優先して適用される。したがって、国家公務員法(昭和22年法律第120号)第109条第12号、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第60条第2号、刑法(明治40年法律第45号)第134条第1項(医師、弁護士)、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第44条の3第1項、精神保健福祉士法(平成9年法律第131号)第44条第1項は適用されない。
 なお、体制整備事業は、障害者差別解消法施行前に行われるものであることから、上記の各法の適用があることに留意されたい。

(4) その他注意を要する例

①地域協議会の構成機関の職員が、会議には直接的には参加していない上司に対して復命した場合、当該上司は地域協議会の事務に従事する者として秘密保持義務がある。
②派遣労働者であっても、地域協議会の事務に従事する場合には、法律上の秘密保持義務がある。
③体制整備事業は、障害者差別解消法施行前に行われるものであることから、公務員や医師等ならば地方公務員法や刑法等による秘密保持義務があるが((3)参照)、それ以外の者には法律上の秘密保持義務は生じないことに留意する必要がある。

(5) 個人情報の提供に当たっての本人の同意

 地方公共団体の場合、個人情報の提供に当たって本人の同意が必要かどうかは、各地方公共団体の個人情報保護条例による。
 国の場合、例えば国立学校や国立病院から協議会に個人情報を提供するには、原則どおり、本人(未成年者の場合は、その法定代理人。以下同じ。)の同意が必要である。これは、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号)第8条第2項第3号、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第59号)第9条第2項第3号において、本人の同意なく個人情報の提供が許容される「相当な理由」とは認められないからである。すなわち、個人情報を入手する場合には、地域協議会とは何をする機関でどういう構成員が関わるのか、情報交換する構成機関等の範囲について説明をした上で、あらかじめ本人の同意を得る必要がある。
 その際、地域協議会の構成員には法律上の秘密保持義務が課されているので、秘密は守られることを相談者に対して示すことが必要である。
 なお、関係機関等から地域協議会に個人情報の提供を行うことについて本人の同意を得る際には、
①個人情報の提供先
②提供される個人情報の内容
③提供先における個人情報の利用目的
を明らかにした上で、署名又は記名・押印する方法によることが適当である。
 このほか、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個情法」という。)第2条第3号に規定する個人情報取扱事業者の場合、個人情報を地域協議会に提供することは、個情法第23条第1号に規定する「法令に基づく場合」に該当し得る。ただし、障害者差別法においては、協議会が個人情報の提供を受けることについての具体的根拠が示されてはいるが、個人情報取扱事業者から個人情報を提供すること自体を義務付けているわけではないことから、個人情報取扱事業者においては、個人情報提供の必要性と合理性が認められる範囲内で対応することが、個情法の趣旨に沿うものと考えられる。
 なお、体制整備事業は、障害者差別解消法施行前に行われるものであることから、個人情報取扱事業者は、個情法の原則どおり、本人の同意が必要であり、前述の国の場合と同様の対応が求められることになる。