音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

参考資料3

平成25年度 障害者権利条約の国内モニタリングに関する国際調査 実施報告

1.調査の目的

 今年1月に我が国が批准した障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)は、条約の適切な実施を図るため、第33条第2項において締約国に対し、「条約の実施を促進し,保護し,及び監視するための枠組み」を自国内に指定又は設置することを求めている。これについて、我が国では、平成23年に改正された「障害者基本法」において、障害者政策委員会が障害者基本計画の実施状況を監視(モニタリング)することとされている。
 そこで、諸外国における国内モニタリングの実施状況を把握することにより、我が国における障害者政策委員会の運用等の国内モニタリングの適切な実施に寄与することを目的として、本調査を実施した。

2.調査概要

(1)調査対象国

イギリス、ドイツ、韓国、オーストラリア、アメリカ (5か国)

(2)調査の構成

①主要国の関連資料収集・整理
②現地ヒアリング調査(イギリス、ドイツ)
③各国関連機関へのメールによる問い合わせ

(3)調査事項

①障害者施策に関する基本的な枠組み(関連組織,法令,基本計画等)
②障害者権利条約の国内実施体制
③包括的な最初の報告の作成プロセス
④国内モニタリングの枠組み
⑤その他(各国特有の状況、背景等)

3.イギリスにおける障害者権利条約の実施と国内モニタリング

障害者権利条約の批准、実施、報告の状況

2009年に障害者権利条約を批准。

2011年に障害者の権利に関する委員会に包括的な最初の報告を提出。

国内の実施体制

中央連絡先:Office for Disability Issues (ODI)

調整のための仕組み:Office for Disability Issues (ODI)

独立した仕組み:平等人権委員会(Equality and Human Rights Commission : EHRC)他

 ODIは、障害者問題全般を扱う政府組織として、労働年金省の下に2005年に設置され、イギリスにおける中央連絡先と調整のための仕組みを兼ねている。
 独立した仕組みには、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドにそれぞれ設置されている人権委員会が指定されている(平等人権委員会は、イングランドの人権委員会)。ただし、ウェールズ、スコットランドの人権委員会の機能は限定的で、平等人権委員会がこれらの地域についても多くの権限と役割を担っている。

包括的な最初の報告の作成プロセス

 報告作成ではODIが中心的な役割を担い、英国政府の各省庁との調整、各地方政府との調整を行った。また、ODIは市民社会(障害者団体等)と定期的な会合を持ち、意見を収集した。報告の草案はパブリックコメントに付され、市民社会(障害者団体等)の他、独立した仕組みも意見を提出した。

政権交代による影響

 イギリスでは2010年総選挙の結果、政権が交代した。政権交代後、ODI等の関係機関の予算が削減された他、市民社会への政府補助が削減され、それまで中核的な役割を担ってきた障害者団体が活動を停止する等の影響が出ている。

障害者政策に関する基本計画等

 2010年に発足したキャメロン政権下で、新たな障害者政策の基本戦略「Fulfilling Potential Making It Happen」が2013年に策定された。Fulfilling Potential Making It Happenは、障害者権利条約批准後に策定された戦略であるため、障害者権利条約の実施を強く意識した内容となっている。

国内モニタリングの枠組み

 英国政府の国内モニタリングは、Fulfilling Potential Making It Happenに枠組みが示されている。分野別に設定した指標によりモニタリングを行い、労働年金省が報告書を発行、それに基づき社会正義内閣委員会が監督・評価を行う。このプロセスには障害者団体等が関与することになっている。ただし、これらの戦略の実施は2014年から開始されるため、現時点では詳細は不明である。
 また、ODIは独立した仕組み(4つの人権委員会)との間で、障害者権利条約の実施に関する情報交換を継続的に行っている。その他、市民社会では複数の団体がネットワークを形成し、パラレルレポートの作成を進めている。現在のところ、パラレルレポートは地域別に作成され、英国全体で1本にまとめたパラレルレポートにはならない見通しである。

4.ドイツにおける障害者権利条約の実施と国内モニタリング

障害者権利条約の批准、実施、報告の状況

2009年に障害者権利条約を批准。

2011年に障害者の権利に関する委員会に包括的な最初の報告を提出。

国内の実施体制

中央連絡先:労働社会省(Bundesministerium fur Arbeit und Soziales)

調整のための仕組み:障害者に関する連邦政府弁務官(Beauftragter der Bundesregierung fur Belange behinderter Menschen)

独立した仕組み:ドイツ人権機関(Deutsches Institut fur Menschenrechte)

 障害者に関する連邦政府弁務官は、政府内の調整だけでなく、市民社会と政府との接点や、地方政府等への情報伝達等の役割を持つ。弁務官の下には、関係機関の代表、障害者の代表等で構成する包容諮問委員会と4つの専門委員会が設置され、連邦政府弁務官への助言を行う。
 ドイツ政府から独立した機関であるドイツ人権機関の中には、障害者権利条約の独立した仕組みの役割を担う専門部署(CRPD国内監視機関)が設置されている。

包括的な最初の報告の作成プロセス

 包括的な最初の報告は、労働社会省が作成し、連邦内閣で決定後、連邦議会へ送致され、さらに英訳して国連事務総長に提出された。障害者に関する連邦政府弁務官および市民社会は、報告案に対する意見表明を行ったが、作成には関与していない。CRPD国内監視機関は、報告の形式面について政府に助言を行ったが、独立性を担保するため、内容面には関与しなかった。

障害者政策に関する基本計画等

 ドイツでは、障害者権利条約批准に当たり、同条約の実施に向けた国内行動計画を策定することが市民社会および連邦議会から求められた。これを受けてドイツ連邦政府は、労働社会省が責任組織となり、2011年に「連邦政府国内行動計画(Der Nationaler Aktionsplan der Bundesregierung:NAP)」を策定した。NAPでは、12の施策分野について連邦政府の基本方針、個別措置および計画のリストが記載されている。

国内モニタリングの枠組み

 連邦政府行動計画には、その進捗を確認するための指標等は示されていないが、信頼できる数値的指標の確立が謳われている。これに基づき統計指標の整備が進められ、2013年発行の連邦政府障害者報告では多数の数値データが掲載されている。
 一方、市民社会では2012年にCRPD-Allianzという連合体が結成され、パラレルレポートを作成して、障害者の権利に関する委員会に提出した。
 CRPD国内監視機関は、障害者権利条約および国内行動計画の実施について、連邦政府と定期的な情報交換を行う他、包容諮問委員会にオブザーバーとして出席する。また、2014年8月に独自の報告書を障害者の権利に関する委員会に提出する予定である。

5.韓国における障害者権利条約の実施と国内モニタリング

障害者権利条約の批准、実施、報告の状況

2008年に障害者権利条約を批准。(発効は2009年)

2011年に障害者の権利に関する委員会に包括的な最初の報告を提出。

国内の実施体制

中央連絡先:保健福祉部障害者政策局

調整のための仕組み:障害者政策調整委員会

独立した仕組み:国家人権委員会

 韓国政府内で障害者政策に関与する機関としては、後述する総合計画の中で12部庁が挙げられている。また、国務総理直属の非常設機関として障害者や障害者団体の代表を主要メンバーとする障害者政策調整委員会を設置し、障害者政策に関する審議・調整を行っている。
 国家人権機関は2001年に発足した独立組織で、常任委員会の他4つの委員会が設置されている。そのうち、障害者差別是正委員会が独立した仕組みとしての業務を主に担当している。

包括的な最初の報告の作成プロセス

 包括的な最初の報告は保健福祉部障害者政策局が作成した。国家人権委員会は、報告草案を事前に検討し意見表明を行った。また、障害者政策調整委員会が草案の審議を行った。

障害者政策に関する基本計画等

 韓国では1998年に最初の障害者政策総合計画を策定し、以後5年ごとに改訂を行い、現在は第4次障害者政策総合計画の実施期間にある。計画の対象領域は、当初は比較的限られていたが、改訂の度に拡大され、現在の総合計画は障害者権利条約に対応した幅広い領域をカバーしている。

国内モニタリングの枠組み

 政府のモニタリングは、障害者政策総合計画の進捗を点検することが柱となっている。モニタリングには、基礎的な障害者統計の他、障害者実態調査(3年ごとに実施)、障害者差別禁止法の実施モニタリング調査等のデータが用いられる。
 国家人権委員会も独自の実態調査を行うことが根拠法で定められているが、障害者政策総合計画との連動性が薄いことが課題とされている。市民社会ではKOCUN(韓国国連人権政策センター)を創設して、独自のモニタリングおよびパラレルレポートの作成を進めている。

6.オーストラリアにおける障害者権利条約の実施と国内モニタリング

障害者権利条約の批准、実施、報告の状況

2008年に障害者権利条約を批准。

2010年に障害者の権利に関する委員会に包括的な最初の報告を提出。

2013年に障害者の権利に関する委員会で総括所見が採択された。

国内の実施体制

中央連絡先:法務省(Attorney-General’s Department)、社会サービス省(Department of Social Services)が共同で担当

独立した仕組み:オーストラリア人権委員会(Australian Human Rights Commission : AHRC)

 オーストラリア政府の中央連絡先には、法務省、社会サービス省の2省が指定されている。この2省が調整の役割も担っていると考えられるが、包括的な最初の報告には、調整のための仕組みに関する記述がない。

包括的な最初の報告の作成プロセス

 オーストラリアは連邦制であり、報告作成に当たり連邦政府と州政府は広範な協議を行った。連邦政府は複数の段階で市民社会に対し見解を求め、その意見・提案を踏まえて報告の作成・加筆・修正を行った。また、オーストラリア人権委員会とも協議を行ったことが報告されているが、詳細は不明である。

障害者政策に関する基本計画等

 連邦政府、地方政府全体を対象とする障害者政策のフレームワークとして、「The National Disability Strategy 2010-2020(国家障害者戦略、NDS)」を2011年にオーストラリア政府間評議会(Council of Australian Governments : COAG)で決定した。NDSは、障害者権利条約の実施を強く意識し、6つの成果領域で政策実施の考え方を示している。また10年間の実施期間を3つのフェーズに分け、実行計画は各フェーズ別に発表するとしている。

国内モニタリングの枠組み

 NDSの進捗状況について、COAGに設置されたコミュニティ・障害サービス常任委員会が2年ごとに報告書を作成し、COAGに報告する。NDSでは、モニタリング指標案を示し、初回報告までに障害者団体等と協議し指標を確定させるとしている。また、2012年にはNDS実施に関する問題について意見表明を行うNDS実施レファレンスグループが設置された。レファレンスグループには、障害者・介助人・家族の代表が含まれている。
 オーストラリア人権委員会は、包括的な最初の報告の作成時に政府との協議を行った他、障害者の権利に関する委員会から情報提供を求められたため、独自にレポートを作成して提出した。
 市民社会では、主要な障害者団体等がDisability Rights Nowというネットワーク組織を作り、パラレルレポートを障害者の権利に関する委員会に提出した。オーストラリア政府は、パラレルレポート作成に対し、資金援助を行った。

7.アメリカにおける障害者政策と国内モニタリング

障害者権利条約の批准、実施報告の状況

アメリカは、障害者権利条約を批准していない。

障害者政策の枠組み

 アメリカでは、総合的な障害者政策の基本計画は存在しない。障害者政策全般に関わる法律として「障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act : ADA)」、「リハビリテーション法(Rehabilitation Act)」がある。この他、各分野において直接・間接に障害者政策に関わる法律が多数制定されており、これらに基づいた施策が各分野で進められている。基盤的な障害者施策として、障害年金の給付、メディケアおよびメディケイドによる医療保障が挙げられる。

国内の実施体制

 アメリカ合衆国政府において、障害者政策を総合的に担当する組織は存在しない。ADAでは、各分野を所管する政府組織がADAの実施を分野別に担当することとしている。全体に関わる組織としては、各分野のアクセシビリティ指針を担当する米国アクセス委員会(U.S. Access Board)が挙げられる。
 アメリカでは、障害者差別に対する救済について、行政上の救済、司法上の救済の2段階の救済制度を設け、司法省ではメディエーション・プログラムという裁判外紛争処理手段を用意している。

国内モニタリングの枠組み

 障害者政策全般のモニタリング機関として、全米障害者評議会(National Council on Disability : NCD)がある。NCDはリハビリテーション法に基づき設置された独立機関で、障害者施策に関わる多くの機関、障害者団体、障害者個人等から情報収集を行い、得られた情報を分析して、障害者政策に関する年次報告を大統領と議会へ提出する。年次報告は、障害者の現状や政策に関する資料調査とインタビューをベースとしており、モニタリングのための体系的な指標は設定されていない。
 この他、障害者に対する職業リハビリテーションの効果については、教育省リハビリテーション・サービス局(the Department of Education Rehabilitation Services Administration : RSA)がモニタリングを行っている。RSAは、評価基準とモニタリング指標を定めて独自に情報収集を行い、評価結果を毎年議会に報告している。この評価基準と指標は、3年ごとに改定している。

8.調査結果の考察

 本調査により、これまで情報が極めて乏しかった各国の国内モニタリングの実情について多くの情報が得られた。
 それによれば、各国における障害者政策の基本計画やそのモニタリング指標等の整備状況は、少なくとも各国が障害者権利条約を批准した時点においては、国によって相当の格差があったことがうかがえる。これらの整備が遅れていた国では、条約批准後に、新たな基本計画の策定、数値的なモニタリング指標の確立、関連する統計や調査の整備等が、政府により積極的に進められている。
 一方、独立した仕組みの国内モニタリングへの関わり方は国によって異なるが、中央連絡先や調整のための仕組みと継続的な情報交換を行う、障害者の権利に関する委員会に独自の報告を行うといった取り組みが見られる。
 障害者権利条約の実施について先行する国々におけるこれらの取り組みを参考として、我が国においても国内モニタリングの基盤となる指標整備や、障害者政策委員会の取り組みの具体化を進めていく必要がある。

9.今後の見通しについて

 本調査は、調査対象国に関する情報収集を概ね完了し、現在、得られた情報の精査・分析を行っているところである。
 今後、各国へのフォローアップ調査(問い合わせ)等を行い、5月末を目途に、最終報告をとりまとめる予定である。

参考:障害者権利条約第三十三条(政府公定訳)

第三十三条 国内における実施及び監視
1 締約国は、自国の制度に従い、この条約の実施に関連する事項を取り扱う一又は二以上の中央連絡先を政府内に指定する。また、締約国は、異なる部門及び段階における関連のある活動を容易にするため、政府内における調整のための仕組みの設置又は指定に十分な考慮を払う。
2 締約国は、自国の法律上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し、及び監視するための枠組み(適当な場合には、一又は二以上の独立した仕組みを含む。)を自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する。締約国は、このような仕組みを指定し、又は設置する場合には、人権の保護及び促進のための国内機構の地位及び役割に関する原則を考慮に入れる。
3 市民社会(特に、障害者及び障害者を代表する団体)は、監視の過程に十分に関与し、かつ、参加する。