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資料2-1

ワーキング・セッションⅠ:成年後見制度も含めた意思決定支援など議論の整理(たたき台)

〔基本計画該当項目:「1.生活支援」「8.差別の解消及び権利擁護の推進」〕

(1)成年後見制度の位置付け・機能について

○制度の基本的な建付けが取消権を中心とした保護主義的な代行型の枠組みであり、取消権(行為能力制度)や法定代理権が持っている社会的な排除作用(銀行口座の扱いや欠格条項など)について、改革のための検討が充分に行われているとは言いがたい。

○本人に判断能力がないことを制度利用の前提にしつつ、他方で、本人の意思に配慮すること(民法858条「身上配慮義務」)が求められることについて未整理である。その人なりの意思や判断があること(能力存在推定)を基本においた再整理が行われなければならない。

○民法858条では、どうすれば本人意思を尊重したことになるのか、空白である。本人の意向に沿っているかをどうチェックするのか、本人の意向に沿っていない時に、成年後見人などの支援はどのように評価されるのか、現状では何も分からない。

○本来は本人の権利を守るための制度であるはずが、支援者や家族のためのリスクマネジメントになっている。財産管理と身上監護が業務の中にあるとされているが、結果的には、使えない財産管理ではないか。

○条約の一般的意見1で、代理決定はいけないと言っている。日本の後見人制度において後見と保佐は代理決定になっているため、条約に抵触している。

→条約の文言を見る限り、代理権の付与自体がこの条約に反するとは解釈できないということが前提としてある。例えば我が国の成年後見制度のうち一番判断能力が少ない「後見」については、事理を弁識する能力、つまり判断能力を欠いているのが通常の状況にあることが要件になっている。その方に意思決定をさせることになると、かえって本人の利益が害されるおそれもある。その場合は、代理人が適切に判断することが重要になる。ただ、成年後見制度で一番重い後見類型についても「本人の意思を尊重しなければならない」という規定があり、後見人が代理行為をするにあたっては、本人の意思を尊重し、かつ心身の状態や生活の状況に配慮しなければならないという注意義務が課されている。本人と相談しながら最終的にどういう契約をするのか決めていくというのが民法上も予定されている。(法務省)

(2)家庭裁判所等の負担について

○成年後見制度については、所管する家庭裁判所が裁判(審判)をした後も、裁判所の仕事として監督業務が続く。毎年1万件を超える規模で増えている。今後も増え続けると推測され、負荷過剰になりつつある。

○家庭裁判所が本来的に担う業務とは異なるものであるにも関わらず過重な負担を負わされているとすれば、後見監督業務を他が担うことが模索されなければならない。諸外国では行政機関が担うことが多く、我が国でもそうした方向が検討されるべき。中短期的な施策としては、意思決定支援に習熟した機関が法人後見や成年後見人などの支援を担う方向が現実的である。

○厚生労働省の成年後見制度の後見支援事業で、市民後見人も含めた法人後見のあり方が模索されている。現場での意思決定をもっと厚くして、下から積み上げたところで最後に家庭裁判所の機能や役割がどういうものがふさわしいかなど検討するという考え方もありうる。

(3)成年後見制度と意思決定支援との関係について

○「本人意思こそが絶対であり、知的障害者の支援も成年後見制度ではなく意思決定支援で」との意見については、知的障害者の障害特性を知らない人の考えである。意思決定をする事項の中には、簡単な行為から難しい法律行為まであり、内容を理解できない事柄については意思決定できない。形式的な本人意思の尊重だけでなく、実質的な権利を守ることも重要な権利擁護であり、権利条約の理念。

○日常生活における意思決定支援は有効であり、体験を増やし、生活を豊かにするもの。間違った決定であっても被害は少ない。一方で、本人に取り返しのつかない不利益を及ぼす重要法律事項の決定は、本人意思や意思決定支援に委ねず、成年後見制度で守る必要がある。

○知的障害者には成年後見制度も意思決定支援も必要であり、双方の役割分担を考え、重要な事柄の決定についても、成年後見人が1人ではなく、普段の生活をよく知っている意思決定支援者や関係者が同じテーブルについて、本人を中心に協議する場を設定する等、本人の最善の利益を目指す前向きの制度設計が必要。

○継続して話し合っていく仕組みが大事。成年後見制度においても意思を尊重しながら決めていくこととされているが、相談支援の現場ですら難しい中で、弁護士や司法書士といった法律の専門職の方が、話し合いを懇切丁寧にやっているのか。

○弁護士は裁判所から選任をされて、全くかかわりのなかった人の後見に突然つくので、意思決定支援まではとても及ばない。また、弁護士等の専門職の後見人は、財産管理に目が向きがちであり、本人の身上監護などにも配慮するときに、(本人の意思尊重というところで)福祉の専門職などと相談、連携ができるような体制を整備し、意思決定支援という考え方自体をより普及、広めていくことが大事。

○成年後見制度は、財産の保全という方向だけで運用の改善がされている。1人は弁護士後見、もう1人は福祉関係の人ということもできると思うが、現実にはそういった運用になっていない。改善の余地がある。

○本人の意向に沿った支援ができるようにする検討や工夫が、成年後見人の腕の見せどころであり、そのための支援や社会環境整備が必要である。法人後見の利用や個人後見人を支援するための各種センターの拡充は有効な手段として期待されるが、そのような組織に社会的な支援が十分になされていない。

○家庭裁判所に機能を求めること自体が無理だという意見があった。一つは成年後見自体を法改正して大きく変えていくか。成年後見を限定的なものとして、今直面している問題意識に沿ったような運用ができる仕組みを新しく作るかどうか。実際に法務省・厚生労働省をはじめ、行政の中でどのような形で制度化していけるのか、制度改正できるかも踏まえた現実的な議論が必要。

○成年後見制度を意思決定支援の枠組みへ作り変えていく必要がある。仮に代行決定の仕組みが残るとしても、最後の手段として位置づけられるべき。

(4)成年後見制度と相談支援について

○発達障害は後見制度になじまない。どこまでを守るべきか、本人の希望と異なる形で制限することになる可能性もある。相談支援の中で対処すべきことなのか。(1-(1)-5)

○相談支援で詐欺被害から守るといった対応は、現実的に無理である。事実確認すらできない状況の中で相談に持ち込まれても、解決することは厳しい。

○成年後見制度がどういうものでどう運用できるのか、支援を担う市町村の職員や相談員、場合によっては親も、具体的にイメージできていない。

(5)意思決定支援の在り方について

○意思決定支援は、普段の生活を熟知した支援者が一人一人の気持ちに寄り添い、本人の日常生活を豊かにするために、より細やかな支援をすることが期待される。それによって本人の決定能力が向上し、意思表出が可能になれば、本人の意思尊重の理念は関係者の意識を変えていくことも期待できる。

○本来の意思決定支援をしている人たちを支援するような仕組みづくりが必要。法人後見を活用しながら、意思決定支援の本来の姿にかなり習熟している人たちが集まった機関が担えば、支援をしていけるのではないか。

○本人の意向に沿った意思決定支援について、生活の場、人生設計の場、命にかかわる場という3層構造でガイドラインのようなものはできるだろう。関係者の間で意思決定支援のやり方について紛議が生じたときに、調整あるいは判断をするといった役割を担う機関があれば足りる。プロセス的な判断枠組みができるべき。

○意思決定支援で大切なことは、間違った決定をした場合でも支援は続けること。失敗しても支援を続けるという考えの下に制度設計をすることが必要。ただし、医療分野など、失敗が許さない領域もある。

○意思決定支援を考えるとき、細やかな支援は極めて重要である。体験もせずに意思決定を求められても、特に地域移行などの場合、不安になる。サービスの仕組みの中に、体験した後に戻れる場所があるなど、地域生活の体験が担保される必要がある。