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資料4-6
(6月1日ワーキング・セッションⅡ:資料3)

【ワーキング・セッションⅢ:精神障害者・医療ケアを必要とする重度障害者等の地域移行の支援など】
~諸外国における地域移行をめぐる動向について~

平成27年6月1日
厚生労働省

平成20年6月25日 第5回「今後の精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」配布資料(抄)

諸外国における地域移行をめぐる動向

(参考)
1)平成19年度厚生労働科学研究費補助金
精神医療の質的実態把握と最適化に関する総合研究(主任研究者:伊豫雅臣)
「精神医療の提供実態に関する国際比較研究」(分担研究者:佐々木一)
2)精神保健医療福祉の改革ビジョン研究ページ「海外の事情」
http://www.ncnp.go.jp/nimh/keikaku/vision/overseas.html
3)Mental Health Atlas 2005, WHO

地域移行にかかる類型

1グループ:病床軽減率が高い国(概ね65%以上)
・1Aグループ:60-70年代に病床数が大きく減少した国
例)①オーストラリア、イタリア、アメリカ合衆国、ノルウェー
・1Bグループ:80年代に病床数が減少した国(北欧、西欧等)
例)②フィンランド、③イギリス、スウェーデン、ルクセンブルグ
2グループ:病床削減率が低い国(概ね40%以下)
例)④ドイツ、カナダ、チェコ、オランダ
※下線部の国を以下例示

1Aグループ:①オーストラリアの精神医療改革例(1)

【制度の概要】
・公的医療はキャッチメントエリア制になっている。
家庭医(GP)がプライマリーケアに当たり、必要に応じて専門医に紹介するという、GP制度を採用している。
・連邦政府は予算提供と精神保健戦略の制定を担っている。精神医療に関する予算はこの10年間で65%伸びたが、医療費全体における割合は7%で変化していない。
・人口100,000人当たり精神科スタッフ(WHO2005)は、精神科医:14、精神科看護師:53、臨床心理士:5、ソーシャルワーカー:5

【改革の概要】
・人口1000人当たり精神病床数は1960年の3.1より、1990年には0.5に減少。
・Australia's Mental Health Strategyが1992年から採用され、1960年代から無秩序に進められていた病床削減を計画的に行うことを目的とし、入院医療システムからよりバランスの取れたサービス分配システムへの移行が進められた。
・1992~1997年においては、重症精神障害者へのサービスに重点を置き、地域中心サービスへの一層の転換、精神保健サービスの向上および総合医療・保健サービスへの統合、単科精神病院への依存度の改善、サービスへの責任および利用者の権利の尊重の向上を主眼とした。
・1997年~2002年においては目標の継続と、精神保健の推進、精神障害の予防、公的な精神保健セクターと他のセクター(民間精神科医、GP、救急サービス、NGO)との協力によるサービス改革、サービスの質と効率の改善を目的に加えた。
・2003年からの第3次計画では、こころの健康づくりと精神保健上の問題(自殺を含む)と精神障害の予防、サービス提供への責任の強化(サービスアクセス・ケアの継続・家族支援)、サービスの質の強化、調査研究の振興・イノベーションの推進等

1Aグループ:①オーストラリアの精神医療改革例(2)

【改革の成果】
・ 地域ケアへの支出の増加
精神保健に関する政府の支出の内訳は、1993年には地域ケアへの支出が29%、入院医療への支出が71%だったが、2003年には地域ケアへの支出が51%になっている。
・ 急性期病床の増加
1993年から2003年にかけて、急性期病床は約3500床から約 4000床と微増、急性期以外の病床は約4500床から約2000床と減少。
・地域ケアへの人員配置の増加
2003年の地域ケアの人員配置は1993年と比較して約2倍となっており、常勤換算で人口10万人あたり37人になっている。ただし、州によってばらつきがある。
・精神保健サービス提供施設利用者の、運営参加割合の増加
1993年の33%から2003年には68%に増加。
・利用者の満足度評価を実施している公的精神科システムの割合
2000年の0%から2003年には57%に増加。

【課題】
(先進的とされるビクトリア州の例)
・ベッド削減が進みすぎて、入院を必要としても入院できないことや、もう少し入院が必要でも途中で退院になる場合がある。
・地域医療に対する支出の割合は増えているが、スタッフ数は増えていないこと
・住居サービスの充足が立ち遅れていること等

1Bグループ:②フィンランドの精神医療改革例(1)

【制度の概要】
・医療保険は税により運営され、収入や納税の有無によらず全国民をカバーする。
・精神医療の公的財源の75%は市から、25%は国の補助金による。精神科医療のコストは全医療費の概ね10%。
・入院医療の主流は公的医療機関である。民間医療機関は外来に集中し、民間入院医療施設は非常に少なく限定されている。入院医療機関は単科精神科病院から総合病院中心に移りつつある。
・全国に200箇所あるコミュニティメンタルヘルスセンターが各2~3万人のエリアを担当し、高度な教育を受けた多職種医療チームがケアを担当している。精神保健サービスの4割はプライマリケアに移管され、慢性期の統合失調症の患者を含め多くの精神障害者がプライマリケアでフォローアップを受けている。
・人口100,000人当たり精神科スタッフ(WHO2005)は、精神科医:22、精神科看護師:180、臨床心理士:79、ソーシャルワーカー:150

【改革の概要】
・1981~1987年に国家的統合失調症プロジェクトを実施。目標は長期在院群(2年以上精神科病院に入院継続)の統合失調症患者と入院長期化予備群(精神科病院に初回入院し、1年以上入院継続)の統合失調症患者をそれぞれ10年間で半減させることとされた。
・政府委員会が1984年に発足し、脱施設化のため、入院施設に代わるシステムを構築し、それが実現した場合のみ入院病床の削減を行うという原則が定められた。
・スタッフの教育として、全ての精神医療区域から職員が 2日間のワークショップに半年に一度参加することを義務づけられた。
・入院長期化予備群を減らすための治療プログラムとして、「ニーズに適応する、統合的モデル」が提唱された。
・長期在院群の対策として、治療共同体の概念に基づく心理社会的リハビリテーションの推進、個別のリハビリテーションプランの作成を行うこととし、リハビリテーションを段階的に行うための施設整備を行った。
・施設類型として、リハビリテーション病棟、シェルター的居住施設、コミュニティのリハビリ的住居とその近隣の居宅、支援つきアパート、デイケアセンター、交流クラブ、支援つき就労施設、移行的就労施設等の各段階が整備された。

1Bグループ:②フィンランドの精神医療改革例(2)

【改革の成果】
・人口1000人当たり精神病床数は、1980年に4.0、1990年に2.3、2000年に1.0まで減少した。
・1992年にプロジェクト開始10年後のアウトカム評価を行ったところ、長期在院群と入院長期化予備群とも目標(半減)を上回る60%以上の減少を達成。ホームレスの増加の報告はなく、知的障害、認知症、器質性精神障害の入院はほとんど見られなくなった。

【課題】
・診察までの待ち時間が2-3週間と長い。摂食障害の入院では1年待ちもありうる。
・民間医療機関では自己負担がかかる。
・プライマリケア専門家に対する精神保健分野の教育は不十分である。
・地域によりケアの水準にばらつきがあり、コミュニティで生活する長期患者への支援サービスが少ない。

1Bグループ:③フィンランドの精神医療改革例(1)

【制度の概要】
・医療のニーズに対応した公平なアクセスを理念として、1948年にNHS(国民健康サービス)が設立された。NHSは主にプライマリケアとセカンダリケアを担当し、保健省が地域のNHSのサービス全体の管理、モニター、及び資金提供を通じて支援を行っている。
・イギリスの精神科病院の約90%は国営であり、残りの約10%は民間の病院に委託されている。
・1983年に精神保健法が改正された。改革の主な要点として、医療制度、水準の向上、治療、開放 処遇への変化、患者の権利の保護拡大等が挙げられた。
・1990年にNHSサービス及びコミュニティケア法が成立し、自治体が社会復帰関連施設を整備し社会資源を提供することにより、障害者がコミュニティの中で生活できるようにするという、コミュニティケアへの転換が支援されるようになった。
・1995年には、障害者差別禁止法が制定された。
・人口100,000人当たり精神科スタッフ(WHO2005)は、精神科医: 11、精神科看護師:104、臨床心理士:9、ソーシャルワーカー:58

1Bグループ:③イギリスの精神医療改革例(2)

【改革の概要および成果】
・人口1000人当たり精神病床数は 1977年の3.2より 1998年には 1.0まで減少。
・1999年に、精神保健施策10か年計画「精神保健に関するナショナル・サービス・フレームワーク」を発表し、以下7つの基準に沿って対策。
①精神的健康の増進:スティグマと差別に対抗するプログラムによるキャンペーン、雇用促進や日常生活支援、女性、ホームレスへのサービスに取り組み、サービスの数と範囲の拡大を図る。
②プライマリー精神保健ケア:主に心理学を修めた卒業生をプライマリーヘルスケアワーカーとして採用し(目標1000名)、簡便な認知行動療法などを実施することによってプライマリーケアの充実を図り、セカンダリーケアとの連携を強化し、新しいタイプの薬の普及を図る。
③サービスの利用:地方実施チームにゲイトウェイワーカーを配置し、アクセス改善に取り組み、危機解決チーム/在宅治療チーム、積極的アウトリーチチームからなる 24時間体制の確立、24時間電話相談、サービス情報の公開、予約待ちの改善に取り組む。
④専門家によるケア:積極的アウトリーチ班(2004年3月で263チーム)、24時間体制の専門家による在宅での評価と治療を提供するチーム(35チーム(2000)→168チーム(2004))、発病初期介入チーム(41チーム)を整備。さらに、ケア計画の統合、摂食障害・学習障害などの準専門サービス、人格障害へのサービスにも対応。
⑤病院と危機対応住居:急性期治療病棟の治療的地位を回復させ、充実を図る。その結果、急性期病床は4.8%減少したが、中等度保安病床は18%増加。
⑥家族(carers)への支援:家族サービスを増やし、家族支援ワーカーを全国で700名配置する見通し。
⑦自殺を防止する:地域の精神的安寧の促進、自殺手段の利用しやすさと致死性の軽減、マスメディア対策などにより、10年間で20%自殺を減らすという目標に向かって自殺率最低を更新中。

2グループ:④ドイツの精神医療改革例(1)

【制度の概要】
・民間、公的両方の医療保険が存在する。リハビリテーションは医療保険と公的年金、福祉制度により賄われている。公的保険がカバーしない医療について付加的民間保険に加入する者が増えつつある。
人口の10%程度の富裕層は公的保険に加入できない。
精神医療はプライマリ医療機関で受けられるようになっている。重症の精神障害の治療であってもプライマリのレベルで行われることがある。患者はプライマリーケアを行う一般医にも専門医にも自由に受診できる。
・人口100,000人当たり精神科スタッフ(WHO2005)は、精神科医:11.8、精神科看護師:52.0、臨床心理士:51.5、ソーシャルワーカー:477

【改革の概要】
・ドイツでの改革は70年代に始まった。まず単科の巨大な精神科のベッド数を削減し、次にそれ以外の一般精神病床も削減した。続いて、コミュニティケアの施設を充実させ、さらに総合病院の一部として小さな精神科病院を増やした。急激な病棟閉鎖によりホームレスを生み出すことは避けられ、古い病院も急性期治療に適したよりよい医療設備にアップグレードされた。
・脱施設化後も患者は元の医療提供者の下にとどまる傾向が強く見られた。これを変えるため、1992~1996年にエキスパートコミッションが実施され、ケアを「供給主体」から「患者の需要主体」へシフトすることになった。
・改革により、病院外来とよばれる多職種によるチーム医療外来ができ、アウトリーチ活動を取り入れており、現在2000か所で運営されている。精神科の外来治療施設は人口約16万に一箇所整備されている。

2グループ:④ドイツの精神医療改革例(2)

【改革の成果】
・人口1000人当たり精神病床数は1980年に2.0、1990年に1.8、2000年に1.3と緩やかに減少した。

【課題】
・1970年代にはほぼゼロだった心身症・精神療法病床が、 2001年には治療のために3,200床、リハビリテーションのために15,400床に増加した。これらの病床は公的規制の対象となっておらず、問題視されている。
・精神科病院を出た患者は多くは障害者の居住施設やナーシングホームに移ったが、100~200床あるような施設が多く、民間の業者が主となっており、立地条件や医療・ケアの質が低いことが問題となっている。
・コミュニティをベースとする支援住宅、就労支援などのサービスは、財源が様々で、中心的にコントロールする機関が存在しなかったために、断片的、協調不十分であるという欠点がある。例えば、医療は医療保険を財源とするが、福祉は税を財源としているため、連続性が断たれるおそれがある。また、一つの地域で公民が財源を取り合って、患者のケアが分断されているという例も見られる。