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資料10

平成27年8月10日

障害者政策委員会ワーキング・セッションⅡ
「精神障害者・医療ケアを必要とする重度障害者等の地域移行の支援など」議論の整理(たたき台)に対する意見(特に精神障害者の地域移行の支援について)

障害者政策委WSⅡコーディネーター
上野秀樹、大濱眞、川﨑洋子、平川淳一

1.入院制度について

(1)医療保護入院 → 2-(2)-6

◎ 参考1のとおり、近年、医療保護入院が増加し、任意入院が減少している。

【意見1】

○ 精神科病院での入院治療において、本人の意思が反映されない傾向が強くなっているのではないか。

※理由:精神保健福祉法の改正によって医療保護入院の要件が明確化された平成11年の翌年から、医療保護入院の在院患者数が反転して増加している。

※理由:国連自由権規約委員会2014最終見解の第17段落の柱書き

※理由:国連拷問禁止委員会2013最終見解の第22段落の柱

【意見2】

○ 長期入院の治療概念の変容によって、在院日数はできるだけ短く、そして症状悪化時に緊急介入するという様式になりつつあり、入退院回数が増加している。また、超高齢社会の到来によって認知症による入院も増加している。近年の医療保護入院の増加は、このような要因によるものであり、本人の意思が反映されない入院が増えたという内容ではない。

○ そもそも医療保護入院は、入院治療が必要であるのに、説明を尽くしてもなお患者本人の理解が得られない場合に適用される入院形態である。したがって、患者本人の最善の利益を考えれば、医療保護入院の増加だけを以って、本人の意思が軽視されている、権利侵害が拡大している、と判断するのは早計である。

◎ 精神保健福祉法の改正によって保護者制度は撤廃されたが、依然として医療保護入院には家族等の同意が必要とされており、家族の重責は変わっていない。

(2)精神科医療の制度 → 2-(2)-6

◎ 医療保護入院、措置入院、隔離、拘束などについての手続きについて。

【意見1】

○ 手続きの厳格性が不十分である。

○ 医療保護入院については、私人が私人の権利を制限する形式になっており、法理論的に説明がつかない。したがって、医療保護入院の決定について、裁判所などの公的機関が関与する必要があるか検討が必要である。

※理由:国連自由権規約委員会2014最終見解の第17段落の(b)

※理由:国連拷問禁止委員会2013最終見解の第22段落の柱書き、(a)、(c)、(e)

【意見2】

○ 精神保健福祉法が遵守されて運用されている現行制度が、厳格性に欠いているとは言えない。

○ 諸外国との比較で厳格性が十分であるか否かという議論があるのは承知している。ただし、海外にも精神科医を決定権者とする非自発的入院制度は存在するようである 【1】

◎ 精神保健指定医制度について。

【意見1】

○ 入院後の行動制限(隔離や拘束など)に関してついて、1人の指定医に権限が集中しており、第三者チェック機能が事実上機能しておらず、本人の権利擁護が不十分である。

○ 精神保健指定医制度は、そもそも誰が書いたかわからないレポートを合否判定の基礎とするなど、制度の根本に問題がある。その結果が、今回の指定医不正取得問題である。したがって、精神保健指定医制度を根本から見直す必要がある。

【意見2】

○ 現代の精神科医療は、精神保健指定医が集権的に決定権限を掌握しているのではなく、チーム医療に基づいて提供されている。

○ 精神保健指定医が独善的に決定権限を行使すれば、精神科医療の提供体制を自ら掘り崩す行為である。それと同時に、患者の人権を重視する精神保健福祉法にも反する違法行為であり、刑法に基づく処罰の対象にもなる。

○ したがって、このような事件ですべてを否定することは性急すぎる。

◎ 密室になりやすい精神病床において、患者本人の権利を擁護する仕組みが不可欠である。

(3)精神医療審査会 → 2-(2)-4

◎ 定期の報告等のうち審査結果が出された257,249件に対して、
「他の入院形態への移行が適当」が6件(0.002%)
「入院継続不要」が3件(0.001%)
退院等の請求のうち審査結果が出された2,270件に対して、
「入院又は処遇は不適当」とされたのは116件(5.1%)
処遇改善の請求のうち審査結果が出された308件に対して、
「入院又は処遇は不適当」とされたのは18件(5.8%)【2】

【意見1】

○ 短時間であまりにも多くのケースを処理している現状から、精神医療審査会が監視機能を十分に果たしていないのではないか。

※理由:たとえば平成19年度の47都道府県の実績では、年間25.2回の開催で、1回あたり平均54.8件の審査を行っている【3】

※理由:国連自由権規約委員会2014最終見解の第17段落の柱書き

※理由:国連拷問禁止委員会2013最終見解の第22段落の(d)

【意見2】

○ 「適当」の審査結果の割合が高い理由には、精神医療審査会の機能不全の可能性もあるが、単に精神保健指定医の適正な判断に対して精神医療審査会がそれを認めているだけに過ぎない可能性もある。したがって、「適当」の審査結果の割合の高さは、精神医療審査会の機能不全の根拠としては不十分である。

○ また、定期の報告等と、退院等の請求や処遇改善の請求との間で、「適当」の審査結果の割合が大きく異なることは、精神医療審査会において実質審議が確保されている傍証ではないか。

(4)任意入院 → 2-(2)-1

◎ 任意入院のなかには、患者本人が積極的に入院に納得していない場合もあり、よって本人の意思が十分に反映されていない入院が含まれている可能性もある。したがって、どのようにすれば本人の意思を反映していけるか、引き続き検討が必要である。

◎ 長期在院者(入院期間が1年以上の者)では、任意入院による患者が医療保護入院を上回っており、その地域移行の推進にあたっては特段の留意が必要である。

※理由:平成24年6月30日現在の在院1年以上197,082人のうち、
医療保護入院 85,855人(43.6%)
任意入院 109,430人(55.5%)
平成24年6月30日現在の在院5年以上108,992人のうち、
医療保護入院 43,771人(40.2%)
任意入院 64,085人(58.8%)【4】

(5)地域移行 → 2-(2)-1

◎ 精神病床の平均在院日数が短縮傾向にあるものの、依然としてOECD諸国のなかで群を抜いて高水準である。

※理由:平成23年度病院報告とOECD Health Data 2012の比較【5】

※理由:国連拷問禁止委員会2013最終見解の第22段落の(b)

【意見1】

○ 1年以上の長期入院者が任意入院で10万人以上、医療保護入院で8万人以上いる現状に対して、長期在院者の地域移行に対する取り組みが不十分ではないか。

※理由:第4期障害福祉計画の基本指針では、平成24年6月30日現在の長期在院者数184,690人を3年かけて18%(33,245人)以上削減するとしている【6】。しかし、長期在院者の死亡退院が年間11,040人(平成23年度)である【7】ことから、新規入院から1年以上の入院に移行する年間51,000人(平成23年度)【8】の全員を、1年以上の入院に移行する前に退院させれば、既存の長期在院者の地域移行を推進しなくても達成できる水準である。

※理由:旧精神障害者地域移行・地域定着支援事業の事業対象者数は、平成22年度で全国2,411人であった【9】。指定地域移行支援(精神科病院のほか、障害者支援施設、保護施設、矯正施設を含む)の利用者は、平成26年3月提供分で全国547人であった【10】

【意見2】

○ 精神科病床の定義や計算式などをOECD Health Dataの基準に揃えて、我が国の精神病床の平均在院日数を計算すると、欧米諸国と遜色はないという指摘もある。

※理由:佐々木ほか、2015年【11】

○ また、在院日数が減少すると患者の死亡率が上昇するという報告もある。1年を超えるような長期入院は「重度かつ慢性」の議論を待つところであるが、一般的に在院日数が長いことがそれほど悪いことなのか、検討が必要である。

(6)精神科病院における虐待 → 山本深雪参考人のご指摘から

◎ 近年、強制入院や隔離拘束などの権利制限が多用される傾向が高まっている。

◎ 密室である精神病床に対して、第三者機関による監視体制が必要。これを、代弁者制度をさらに1歩進めた権利擁護官の職務として位置づけるべき。

※理由:第16回障がい者制度改革推進会議(平成22年7月12日開催)資料2

※理由:国連自由権規約委員会2014最終見解の第17段落の(c)

※理由:国連拷問禁止委員会2013最終見解の第22段落の(f)、(g)

2.地域生活

(1)地域の医療体制 → 2-(1)-1

◎ 24時間365日の対応が可能な地域医療体制が未整備である。

◎ 整備のための予算は?

※理由:国連自由権規約委員会2014最終見解の第17段落の柱書き、(a)

※理由:国連拷問禁止委員会2013最終見解の第22段落の柱書き、(b)

(2)モバイル・チーム → 2-(2)-1-イ

◎ モバイル・チーム(多職種チームによるアウトリーチ、訪問診療、訪問看護)の整備が不十分である。

◎ 整備のための予算は?

※理由:国連自由権規約委員会2014最終見解の第17段落の柱書き、(a)

※理由:国連拷問禁止委員会2013最終見解の第22段落の柱書き、(b)

(3)早期支援 → 1-(1)-10 / 2-(2)-1-ア / 2-(2)-3

◎ 早期の相談支援や訪問支援によって早期に必要な医療へ繋ぐ体制の整備が、不十分である。

※理由:早期に治療につなげることにより、重症化を防ぎ、早期回復を期待できる。引きこもりなどでは訪問型の支援体制によって医療につながったケースも多い。

(4)福祉サービス、居住支援 → 2-(2)-1-ウ / 5-(1)-2

◎ 居宅介護、短期入所、日中活動系サービスなどの提供体制の整備が不十分である。

※理由:国連自由権規約委員会2014最終見解の第17段落の柱書き、(a)

※理由:国連拷問禁止委員会2013最終見解の第22段落の柱書き、(b)

◎ グループホームや賃貸住宅などの居住支援の体制が不十分である。

◎ 居住支援協議会の機能が不十分である。

※理由:民間賃貸住宅への入居に際して、精神障害者であることを理由に断られる。

※理由:精神障害者を主たる対象とするグループホームの設置に際しての反対運動。

(5)家族支援 → 1-(1)-10 / 2-(2)-3

◎ 精神障害者の家族(家庭)が必要としている訪問型支援体制が整備されていない。

◎ 家族支援のための予算は?

※理由:医療保護入院において「その家族等のうちいずれかの者の同意」【12】が要件とされているので、家族支援が不十分であれば、家族が支えきれないという理由から、医療保護入院に同意せざるを得なくなる。

※理由:障害児の保護者に対する支援を除くと、家族支援は、市町村地域生活支援事業の自発的活動支援事業【13】しかない。

3.今後の検討課題

(1)認知症

◎ 精神科医療と認知症の関わりについて。

※理由:「患者調査」によれば、
統合失調症の入院患者
平成8年213,300人→平成23年171,200人(△19.7%)
認知症の入院患者
平成8年28,100人→平成23年53,100人(+89.0%)【14】

※参考:新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム「第2R:認知症と精神科医療とりまとめ」(平成23年11月29日)

※参考:厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」(平成27年1月27日)

【意見1】

○ 認知症は、一旦正常に発達した知的機能が低下し、複数の認知障害があるために、社会生活に支障を来している状態であり、必要なのは生活上の支援である。一部の認知症患者には精神症状が出現する可能性があるが、認知症に対する社会的支援が充実すれば改善するものと考えられる。認知症を支える場面においては、精神科医療は中心となるべきではない。

○ 新オレンジプランにおける認知症の循環型の仕組みについては、認知症の特性であるリロケーション・ダメージを考えると、再検討する必要がある。

【意見2】

○ 認知症の人が地域で生活するうえで、精神症状や行動・心理症状が顕著な場合は、成年後見の判断や入院を含め精神科医療の介入は必須の事項であり、今後、精神科病院は積極的に認知症ケアに参加すべきである。

参考1:入院形態別在院患者数の推移(平成3年度~平成24年度) ※厚生労働省精神・障害保健課からご提供いただきました。

※平成11年精神保健福祉法改正において医療保護入院の要件を明確化(任意入院の状態にない旨を明記)

精神・障害保健課調べ(各年度6月30日現在)

任意入院、医療保護入院、措置入院、その他の在院患者数に占める割合の棒グラフと折れ線グラフ

掲載者注:グラフは、内閣府サイトのもとのPDFを参照のこと。
資料10 障害者政策委員会ワーキング・セッションⅡ議論の整理(たたき台)に対する意見(PDF形式:248KB)
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/k_24/pdf/s10.pdf

参考2:国連自由権規約委員会「日本の第6回定期報告に関する最終見解」(2014年8月20日、外務省仮訳)

第17段落:非自発的入院

 委員会は,多くの精神障害者が,非常に広範な条件で,また権利侵害に異議を申し立てるための実効的な救済措置なく,非自発的入院の対象となっていること,また,代替となるサービスがないために入院が不必要に延長されるとの報告があることを懸念する(第7条及び第9条)。

締約国は,以下のことをすべきである。

(a)精神障害者のための地域密着型あるいは代替となるサービスを増やすこと。

(b)非自発的入院が,必要最小限の期間で,最後の手段としてのみ課されること,また自傷他害防止のために必要な場合のみかつ相応とされる程度のみ課されることを確保すること。

(c)虐待に対する実効的捜査と制裁措置及び虐待の被害者とその家族への補償を目的とする,精神病棟に対する実効的かつ独立した監視及び報告制度を確保すること。

参考3:国連拷問禁止委員会「委員会によって第50回会期に採択された日本の第2回定期報告に関する最終見解」(2013年5月29日、外務省仮訳)

第22段落:精神医学的ヘルスケア

 精神保健施設の「各運用基準」の根拠となる精神保健及び精神障害者福祉に関する法律や,締約国代表団から提供された追加情報にも関わらず,委員会は,自らの意志に基づかずに,しばしば長期間にわたって精神保健施設に入所している,心理社会的及び知的な精神障害のある者の数が多いことに引き続き懸念を有している。委員会は更に,頻繁な昼夜間単独室収容,拘束及び強制的な医療行為及び非人道的で品位を傷つけるような取り扱いに値する行為に懸念を有している。精神ヘルスケアに関する計画についての対話を行った際に得られた情報を考慮し,委員会は,締約国が精神障害を持つ者を入院させること以外の代替手段に対して注目を欠いていることにつき引き続き懸念を有している。最後に,委員会は,拘束的措置の過度な利用に対する効果的で公平な調査がしばしば欠如していること,また,関連する統計データが欠如していることに懸念を有する。(第2条,11条,13条,16条)

委員会は,締約国が以下の事項を確保することを要求する:

(a)自らの意志に基づかない処置や入院への効果的な司法的コントロール,及び効果的な上訴制度の設置;

(b)外来やコミュニティサービスを発展させ,入院患者の数を減らすこと;

(c)精神医学及び社会ケア施設を含む,自由が剥奪される全ての場所において,効果的な法的保護措置が尊重されること;

(d)効果的な不服申立制度へのアクセスを強化すること;

(e)拘束具又は昼夜間単独室収容は,それを避けるか,コントロールするための他の管理手段が全て尽くされた場合に,可能な限り短い期間,厳格な医学的管理の下,最後の手段として適用されること。また,そうした行為は正しく記録されること;

(f)そのような拘束的措置の過度な利用が患者の負傷につながった事例について,効果的で公平な調査を行うこと;

(g)被害者に救済と補償が提供されること;

(h)独立した監視機関が全ての精神科施設を定期的に訪問すること。


脚注

【1】第1回「保護者制度・入院制度に関する作業チーム」(平成23年1月7日開催)参考資料2

【2】平成25年度衛生行政報告例

【3】第21回「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」(平成21年7月30日)資料

【4】平成24年度精神保健福祉資料(いわゆる「630調査」)

【5】第1回「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」(平成25年7月26日開催)資料3

【6】第66回社会保障審議会障害者部会(平成27年7月7日開催)資料1-1

【7】第8回「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」(平成26年3月28日開催)資料4

【8】第1回障害者政策委員会WSⅡ(平成27年5月19日開催)資料3-4

【9】平成24年度行政事業レビュー(平成24年6月14日開催)資料

【10】厚生労働省「障害福祉サービス等の利用状況について」

【11】佐々木一、松本喜郎、馬屋原健、山崎學「精神科医療の平均入院日数についての国際比較」『日本精神科病院協会雑誌』第34巻第4号、2015年

【12】精神保健福祉法第33条第1項

【13】平成18年障発第0801002号の別紙1の別記2

【14】第1回障害者政策委員会WSⅡ(平成27年5月19日開催)資料3-5