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参考資料3

第3回小委員会(11/26)の補足事項について

【文部科学省】

○ 教科書発行者による高等学校用教科用拡大図書の発行点数

  • 45点(平成24年度)

○ 点字出版所等による高等学校用教科用点字図書の発行点数

  • 50点(平成24年度)

○ 平成24年度用高等学校用教科書のデジタルデータの提供点数(平成24年11月末現在)

《ボランティア団体等からの申請に基づくもの》

  • 教科用拡大図書作製分 62点
  • 教科用点字図書作製分 8点

《高等学校からの申請に基づくもの》

  • 教科用拡大図書作製分 42点

※ 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律により、ボランティア団体及び高等学校等から希望のあった教科書デジタルデータを提供することとされており、教科用拡大図書等の作成に係る負担の軽減を図っている。

◎障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(抄)(平成二十年六月十八日法律第八十一号)

第五条 教科用図書発行者は、文部科学省令で定めるところにより、その発行をする検定教科用図書等に係る電磁的記録を文部科学大臣又は当該電磁的記録を教科用特定図書等の発行をする者に適切に提供することができる者として文部科学大臣が指定する者(次項において「文部科学大臣等」という。)に提供しなければならない。

2 教科用図書発行者から前項の規定による電磁的記録の提供を受けた文部科学大臣等は、文部科学省令で定めるところにより、教科用特定図書等の発行をする者に対して、その発行に必要な電磁的記録の提供を行うことができる。

◎教科書デジタルデータの提供に関する実施要項(抄)
(平成21年2月10日文部科学大臣決定 平成22年3月10日改正)

3 具体的手続き
(ア)教科用特定図書等の発行をする者で次のいずれかに該当する者は、データ管理機関に対し、使用(教科用特定図書等を発行するための使用に限る。)を希望する教科書デジタルデータの種類について、別に定める様式により届出を行う。
1.教科用拡大図書を製作する者
2.教科用点字図書を製作する者
3.音声読み上げのコンピュータソフトを利用した教材(教科用図書に準ずるものと認められるものに限る。)を、障害のある児童生徒に向けて製作する非営利団体
4.教科用拡大図書を製作する高等学校及び特別支援学校(視覚障害等)高等部

○ 通常学級における教科用拡大図書及び教科用点字図書の無償給与者数
(平成23年度)

 拡大点字
小学校5295263
中学校2292272
7587535

《平成23年度文部科学省調べ》

※ 「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」第10 条に基づき、小・中学校の通常学級に在籍する視覚障害のある児童及び生徒が検定教科書等に代えて使用する教科用特定図書等(教科用拡大図書及び教科用点字図書)について国は無償給与している。

◎障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(抄)
(平成二十年六月十八日法律第八十一号)

第十条 国は、毎年度、小中学校に在学する視覚障害その他の障害のある児童及び生徒が検定教科用図書等に代えて使用する教科用特定図書等を購入し、小中学校の設置者に無償で給付するものとする。

小・中・高等学校等に在籍する弱視等児童生徒に係る調査結果について(平成21年9月1日現在)

※ 本調査における「弱視等児童生徒」とは、視覚障害により「眼鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもの(点字教科書使用者を含む。)」とし、現に点字教科書又は拡大教科書を使用・希望するなど、学校において弱視等児童生徒として把握している場合も対象とした。

※ ( )は在籍ごとの弱視等児童生徒数に対する割合。四捨五入の関係で合計が100にならない場合がある。

(1)全体

在籍弱視等
児童生徒数
学校として主に使用することが望ましいと判断している教科書の種別
点字教科書拡大教科書通常の
検定教科書
絵本等の
一般図書
小学校段階3,449186
(5.4)
1,009
(29.3)
1,254
(36.4)
1,000
(29.0)
中学校段階1,541109
(7.1)
516
(33.5)
382
(24.8)
534
(34.7)
高等学校段階1,835124
(6.8)
562
(30.6)
641
(34.9)
508
(27.7)
合計6,825419
(6.1)
2,087
(30.6)
2,277
(33.4)
2,042
(29.9)

(2)小学校段階

在籍弱視等
児童数
学校として主に使用することが望ましいと判断している教科書の種別
点字教科書拡大教科書通常の
検定教科書
絵本等の
一般図書
小学校・通常学級1,5478
(0.5)
522
(33.7)
1,017
(65.7)
-
(-)
小学校・特別支援学級69340
(5.8)
344
(49.6)
202
(29.1)
107
(15.4)
特別支援学校・小学部1,209138
(11.4)
143
(11.8)
35
(2.9)
893
(73.9)
合計3,449186
(5.4)
1,009
(29.3)
1,254
(36.4)
1,000
(29.0)

(3)中学校段階

在籍弱視等
生徒数
学校として主に使用することが望ましいと判断している教科書の種別
点字教科書拡大教科書通常の
検定教科書
絵本等の
一般図書
中学校・通常学級5205
(1.0)
241
(46.3)
274
(52.7)
-
(-)
中学校・特別支援学級2326
(2.6)
112
(48.3)
73
(31.5)
41
(17.7)
中等教育学校・前期課程20
(0)
0
(0)
2
(100.0)
-
(-)
特別支援学校・中学部78798
(12.5)
163
(20.7)
33
(4.2)
493
(62.6)
合計1,541109
(7.1)
516
(33.5)
382
(24.8)
534
(34.7)

(4)高等学校段階

在籍弱視等
生徒数
学校として主に使用することが望ましいと判断している教科書の種別
点字教科書拡大教科書通常の
検定教科書
絵本等の
一般図書
高等学校(定時制含む)5388
(1.5)
118
(21.9)
412
(76.6)
-
(-)
中等教育学校・後期課程240
(0)
0
(0)
2
(100.0)
-
(-)
特別支援学校・高等部1,295116
(9.0)
444
(34.3)
227
(17.5)
508
(39.2)
合計1,835124
(6.8)
562
(30.6)
641
(34.9)
508
(27.7)

平成22年度「民間組織・支援技術を活用した特別支援教育研究事業」(発達障害等の障害特性に応じた教材・支援技術等の研究支援)最終報告書

団体名 慶應義塾大学

所在地 横浜市港北区日吉4-1-1(日吉キャンパス)

研究期間 平成21~22年度

Ⅰ 概要

1 研究テーマ

高等学校段階における弱視生徒用拡大教科書の在り方に関する調査研究

2 研究の概要

本研究の目的は、高等学校段階の弱視生徒の拡大教科書に対するニーズ・利用実態・利用効率等に関するエビデンスに基づき、有効な拡大教科書の在り方を明らかにすることである。第1年次の研究により、高校では小さな文字サイズの方に好みがシフトしていること、模擬授業の結果ではさらに小さな文字サイズの方が高い効率を示していること、単純拡大方式の拡大教科書が有効な生徒が少なくないこと等が明らかになった。また、フォント(書体)変更により、単純拡大教科書の有効性がさらに向上する可能性があること、レンズ等の拡大補助具の利用・併用に対する要望が生徒にも教員にも一定数以上あることが示唆された。そこで、本年度は、レンズ等の拡大補助具の利用・併用を含めた総合的問題解決の在り方に関する調査を行い、弱視生徒の社会的自立を考慮した際の拡大教科書や補助具等の活用方法や指導方法の在り方を明らかにした。

3 研究成果の概要

生徒対象の調査の結果、高等学校では好みも効率も小中学校段階よりも小さな文字サイズにシフト(ピークが22 から18 ポイントに変化)していることがわかった。272 名中63%の生徒が単純拡大教科書の給与を受けているが、日常的に利用しているのは54%であった。拡大教科書を使っていない理由は、判が大きすぎる、文字が小さすぎる、補助具を併用しなければならないのが不便、フォントが見えにくい等が挙がっており、これらに配慮すれば単純拡大教科書を活用できる生徒の数はさらに増えることが示唆された。また、すべての弱視生徒が拡大教科書を求めているわけではなく、拡大補助具があれば拡大教科書は必要ないという生徒も28%おり、その実態を明らかにする必要があることが示唆された。この傾向はフィールドで実施した模擬授業によるパフォーマンス評価でも確認された。なお、好み調査ではレイアウト拡大を必要とする弱視生徒が69%いるが、その実態に関しては今後さらなる個別調査が必要であることが示唆された。教員調査の結果、拡大教科書はすべての教科・学年で用意すべきであるが、拡大教科書を使って指導するかどうかは児童・生徒の実態に応じて行う必要性があるという意識が強いことがわかった。ところが、拡大教科書や補助具をどのような基準で選択させるかについては、評価の実態と理想の間でズレが見られた。今後、その理由を究明する必要性が示唆された。

平成22年度「民間組織・支援技術を活用した特別支援教育研究事業」(発達障害等の障害特性に応じた教材・支援技術等の研究支援)最終報告書

団体名 東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野

所在地 東京都目黒区駒場4-6-1

研究期間 平成21~22年度

Ⅰ 概要

1 研究テーマ

教科書等教材の効果的学習を促進するための具体的方策に関する研究~電子化された教材の加工とパソコンなどの支援技術の活用を中心として~

2 研究の概要

発達障害等のある児童生徒への治療教育には限界があり,支援技術(Assistive Technology:AT)による能力補助,学習環境への合理的配慮の必要性が認識されつつある。書籍のデジタル化の動きが急な中で,発達障害のある子どもの教育面で期待は大きいが,その教材作成,導入方法,効果などは十分に検証されているとは言えない。そこで,教材活用における教育現場での具体的な実践を行うための方策を明らかにする研究を行う。特に,教科書バリアフリー法に基づき出版社から提供される教科書データを,発達障害等の障害のある児童生徒の個別ニーズに合わせ,どのような形で加工し,AT を活用して利用可能とすればよいのかについて,多面的な実証研究に基づき,電子教科書・教材導入の効果的な方法の提言を目指した。

3 研究成果の概要

本研究では紙の教科書との親和性を考え,読み上げ可能なPDFデータをタブレットPCに載せ,拡大縮小のみならず,触れればその場所を読み上げる形で児童に電子教科書を提供した。2 つの小学校を協力校として,どのような形で電子教科書を子どもに提供するのが効果的かの検討を行った。まず,上記の電子教科書を提供された児童が,通常の授業場面でどのように使用するのかを,使用場面の観察によって検討した。加えて,一方の学校では学級内の全員に電子教科書を提供し,他方の学校では読みに困難があると考えられる特定の子どものみに提供し,使用場面を観察することで,電子教科書の導入方法についての検討を行った。
最後に,電子教科書導入の効果について,質問紙調査の実施や学力テストなどといった客観的データと,教員へのインタビューから,多角的に検討を行なった。このような実践の結果,以下の点が明らかになった。
・電子教科書の使用方法について 今回導入した電子教科書には,“読み上げ”と“拡大”の機能を搭載したが,例えば,事前のスクリーニング検査で“視知覚のコントロール”に困難があると考えられた児童は,その認知特性を補うような“拡大”の機能を積極的に活用していた。このように,教員があらかじめアレンジせずとも,児童はそれぞれ自分の困難にあわせてAT を自己調整して活用していたことが考えられた。
・電子教科書の導入方法について 全員に電子教科書を提供した学級において,該当単元終了まで電子教科書を使用していたのは30 名中10 名程度であった。特定の児童に提供した場合は,その児童は単元の終了まで使用をしており,他の児童がその点で不満をもらすことはなかった。児童はAT の使用が自分に必要かどうかを自身で選択できていたと考えられる。また,児童はいつも電子教科書を使用しているわけでなく,線を引いたり書き込みをしたりする場合には,紙の教科書を用いており,電子教科書と紙の教科書は学習場面によって使い分けられることが考えられた。
・電子教科書の導入効果について 教員のインタビューと,実践前後の質問紙調査,そして到達度テストから,電子教科書を使用した児童の中には,学習意欲や学力テストの得点が著しく上昇したものが存在し,学習の到達度に効果がある可能性が見出された。ただ,なぜこのような上昇がみられたのかについてのプロセスは明らかになっておらず,今後の課題であると考えられる。

平成22年度「民間組織・支援技術を活用した特別支援教育研究事業」(発達障害等の障害特性に応じた教材・支援技術等の研究支援)最終報告書

団体名 財団法人日本障害者リハビリテーション協会

所在地 〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1

研究期間 平成21~22年度

Ⅰ 概要

1 研究テーマ

発達障害等に適する電子教科書と教材の研究

2 研究の概要

(1)現状の分析と研究の目的

 発達障害等に適する電子教科書の備えるべき機能について仮説を立て、DAISY仕様の教科書を用いて、内容理解および自尊意識と積極性の変化に留意した実証実験を行って仮説を検証した。1年次はアンケート調査を中心に、2 年次については、1 年次のアンケート調査結果を踏まえて、環境設定にも留意した実証実験を行った。また、発達障害の児童に利用可能な電子教科書の出版を想定して異なる製作工程による製作コストの比較を行った。

(2)研究内容・方法・検証方法

①児童の障害の状態、発達段階、教科の特性等に応じた教材の在り方

 1年次に策定をした発達障害等に適する電子教科書の備えるべき機能とアンケートの結果を踏まえて、22 年度に使用する教科書等および試験問題のDAISY 製作工程を計量して製作コストの分析を行った。

②教科用特定図書等を活用した効果的な指導方法とそれらの教育効果

 対象児童に提供する「DAISY 形式を用いてデジタルデータ化した教材」(以下「DAISY 教科書」という)の効果的な指導法について担当教員と連携して指導計画を立案し、パソコン等の電子教科書提示環境とその操作指導方法に留意して、内容理解および自尊意識と積極性の変化を評価した。

③通常の学級で使用する際の活用方法や配慮事項等

 発達障害等の対象児を含む一斉授業における発達障害等に適する電子教科書の活用について実証実験を行い、学習に困難な児童に配慮した授業のあり方を研究した。

3 研究成果の概要

(1)DAISY仕様の教科書を用いて、通常の学級にいる発達障害児を対象に国語、英語、理科のDAISY教科書を通級指導教室、および家庭で使用する実証実験を行い、次の知見を得た。

①アンケートおよびヒアリング調査の結果、DAISY 教科書の機能・仕様はほぼ適切であり、読むことに対する負担を軽減し、学ぼうとする意欲を高めるという結論を得た。
②内容理解を評価するためには教科書だけでなく試験問題も DAISY化の必要があるという調査研究委員会の指摘があり、また、研究協力校からの試験問題のDAISY 化の要望があったため、DAISY 化した試験問題を用いた試験を実施した結果、対象児は自力で質問の内容を理解できることで試験を受けようという意欲を持ち、得点にもその結果が表れ た。
③通常の学級の発達障害等の対象児を含んだ一斉授業における実証実験を通じて、対象児の通級指導教室担当教員と授業を実施する担任教員の連携が必須であり、授業中の教科書の音読の際の対象児とそれ以外の児童が使用する教科書の種類および音読箇所の提示方法を含む、対象児のパソコン使用に関するガイドラインの必要性が示唆された。

(2)発達障害等に適する電子教科書の機能、活用法、効果と共に、DAISY教科書製作工程を最適化してコスト低減を図ることが重要であるが、工程によって製作コストは大きく異なることが明らかになり、適切な製作工程を工夫することによってコスト低減をはかることも可能であることが分かった。

(3)DAISY 化した試験問題による実証実験の結果、読むことに課題を抱える発達障害等の対象児は、同時に書くことにも課題を抱えていることがわかり、発達障害等に適する電子教科書の周辺機能として「書きこみ」機能が重要であることが示唆された。

平成22年度「民間組織・支援技術を活用した特別支援教育研究事業」(発達障害等の障害特性に応じた教材・支援技術等の研究支援)最終報告書

団体名 特定非営利活動法人エッジ

所在地 東京都港区浜松町1-20-2 村瀬ビル3階

研究期間 平成21~22年度

Ⅰ 概要

1 研究テーマ

 音声による教科用特定図書等や教材の在り方及びそれらを利用した効果的な指導方法や教育効果等に関する実証実験

2 研究の概要

 本研究1年目で音声合成ソフトウエアとWebを利用した仕組みで教科書の音声化が行えるシステムを試作し、音声教材が短時間で作成できるようになったことを踏まえ、2 年目に下記のような内容で実証実験を行った。すなわち
(1)通常学級に通学する小学生と発達性読み書き障害児を対象に、音声CDを聴いた場合と聴かなかった場合における読解力の相違について、独自に作成した課題を用い客観的な得点を算出し比較した。
(2)通常学級に通学する小学生と発達性読み書き障害児に教科書内容を音声化したCD を配布し、その効果についてCD配布前後、計2回のアンケート調査による学習面、心理面、社会的側面に関して検討した。
(3)音声化する際、汎用性が広く簡便であるソフトウエアを実際に用いることにより考えられる長所、今後修正すべき課題などについて考察した。

3 研究成果の概要

 発達性読み書き障害児は、全般的な知的発達にも、音声言語の理解力の発達にも遅れを示さない。したがって、文章が文字で示された時には理解が困難であっても、当該文章が同時に音声でも提示されると理解は促進されると考えられる。
(1)オリジナルに作成した文章読解4課題を使用した。半分の2課題を文字提示のみ、残りの2課題を文字に加えて音声提示も行う条件とした。対象児童の半数には文字提示条件を先に、残りの半数を文字+音声条件を先に実施し、課題別効果も順序効果も相殺できるように実験条件を統制した。その結果、通常学級在籍の小学2年生169 名、4年生169名、および発達性読み書き障害児37 名に関して、文字+音声条件の方が文字提示条件よりも読解力得点が高い傾向を示した。特に、発達性読み書き障害群では大きな差が認められた。通常学級在籍児童を個別に検討すると、音声の補助によって文章理解力が大きく上昇する児童がいることが判明した。
(2)2回のアンケート調査により、学習の意欲と国語教科書の読みやすさ及び音声CD使用回数が第二時点の学習の意欲を高め、級友への適応を高めるモデルが示された。
(3)音声合成を利用したソフトウエアは、専門家でなくとも使用でき、短い時間で音声化メディアを作成できることが実証された。一方、メディアとしては必ずしもCD である必要はなく、様々な音声メディアの利用が有用であることが示された。

学びのイノベーション事業

(前年度予算額281百万円)
25年度要求額281百万円

1.要求の要旨

 21世紀を生きる子どもたちに求められる力を育む教育を行うためには、情報通信技術の、時間的・空間的制約を超える、双方向性を有する、カスタマイズを容易にするといった特長を生かすことが重要である。
 教育の情報化を推進し、教員がその役割を十分に果たした上で、情報通信技術を活用し、その特長を生かすことによって、一斉指導による学び(一斉学習)に加え、子どもたち一人一人の能力や特性に応じた学び(個別学習)、子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)を推進していくことができる。
 このため、総務省と連携して、様々な学校種、子どもたちの発達段階、教科等を考慮して、一人一台の情報端末や電子黒板、無線LAN等が整備された環境において、デジタル教科書・教材を活用した教育の効果・影響の検証、指導方法の開発、モデルコンテンツの開発等を行う実証研究を行うものである。

2.要求の内容

(1)情報通信技術活用実証研究

 21世紀を生きる子どもたちに求められる力を育む教育を実現するために、様々な学校種、子どもたちの発達段階、教科等を考慮して、一人一台の情報端末や電子黒板、無線LAN等が整備された環境において、デジタル教科書・教材を活用した教育の効果・影響の検証、指導方法の開発、モデルコンテンツの開発等を行う(総務省「フューチャースクール推進事業」と連携)。なお、事業の最終年度として成果の取りまとめ等を行う。

(2)教育の情報化の実態に関する調査

 学校における教育用情報機器等の整備状況や、教員の情報通信技術の活用指導力等に関する全国調査を実施する。

研究成果報告書サマリー(H23-A-04)
[専門研究A]
デジタル教科書・教材及びICT の活用に関する基礎調査・研究
(平成23年度)

【研究代表者】金森 克浩

【要旨】

 本研究は中期特定研究「特別支援教育における ICT の活用」のスタートアップの研究として位置づけられたものである。障害のある子どもが教育にアクセスするための重要なツールとしてのICT の活用に向け、その中核となるデジタル教科書のガイドライン(試案)を作成し、併せて、ICT を活用した教育の改善について必要な基礎的情報収集を行い、今後5年間の研究の課題を明らかにするための研究を行った。デジタル教科書のガイドラインの作成にかかる研究においては3つのデジタル教科書の形態を定義するとともに、海外のデジタル教科書の作成動向を把握した。また、関係者との協議等から、我が国では、デジタル教科書の作成にあたって、著作権及びデジタルデータの活用が課題であることが改めて確認された。特別支援教育におけるICT 活用の課題についての研究では、各障害種での検討すべき研究課題を提示することができた。(本研究においては、デジタル教科書に「教材」の内容も含まれていることから「デジタル教科書」と表現している。)

【キーワード】

 デジタル教科書・教材、ICT の活用、ガイドライン、教育の情報化ビジョン、教育へのアクセス、アクセシビリティ

平成24年3月
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
National Institute of Special Needs Education

【背景・目的】

 「教育の情報化ビジョン」(平成23年4月文部科学省)ではICTの活用について「特別な支援を必要とする子どもたちについては、それぞれの障害の状態や特性等に応じて活用することにより、各教科や自立活動の指導において、その効果を高めることができる点で極めて有用である。」と書かれている。また、「これまでの特別支援学校における取組の実績・成果やデジタル教科書等を活用した実証研究を通じて、更に充実・発展させることにより、広く障害のある子どもたちの学習においても、有効かつ重要なツールとすることが期待される。」とも書かれている。なお、本研究所については「国において特別支援教育における情報通信技術の活用を検討するに当たっては、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所と密接に連携し、その研究成果を生かすことが重要である。」とその役割が述べられているところであり、ICT の具体的な活用の進め方やそれを支えるシステム等について本研究所が検討を進めることはきわめて重要である。
 このことを踏まえて新たに平成 23 年度から5 年間にわたる中期特定研究の枠組みの中で「特別支援教育におけるICT の活用」を取り上げることとしたが、本研究ではその初年度の研究設定として、障害のある子どもが教育にアクセスするための重要なツールとなるデジタル教科書のガイドライン(試案)を作成し、併せてICT を活用した教育の改善について必要な基礎的情報の収集を行うことを目的とした。

【方法】

 早急にガイドラインを策定する必要があるデジタル教科書に関する研究と、それ以外のICT 活用に関する研究を並列的に進めた。それぞれの研究は以下のとおりである。

(1)デジタル教科書に関する研究について

 海外の先進的な事例調査、国内のアンケート調査、関係者との協議を行うことにより、障害のある子どもに対応するデジタル教科書のガイドライン(試案)を作成する。

(2)ICT 活用に関する研究について

 先進的な取組を行っている学校への実地調査、研究協力者との研究協議等により、各障害におけるICT の教育的活用の内容や方法、ICT を活用した授業改善、ICT を活用した特別支援教育の専門性の向上に関する情報を収集・分析し基礎的な資料をまとめる。

【結果と考察】

(1)デジタル教科書

①デジタル教科書の現状

 教育の情報化ビジョンにおいてはデジタル教科書を「指導者用デジタル教科書」と「学習者用デジタル教科書」の2 つに分けて定義している。また、障害のある子どもたちのためには「教科書のデジタルデータ」が活用されており、本研究ではこれら3つをデジタル教科書として捉えて検討を行い、その中でも障害のある子どもたちが直接操作をすることが可能な「学習者用デジタル教科書」を対象にガイドラインを作成することとした。

図1 3つのデジタル教科書

指導者用デジタル教科書

  • 一斉指導用として作られている
  • すでに各会社から発行
  • 主に FLASH で作成されている

学習者用デジタル教科書

  • 児童生徒一人一人に配布して個別に使われることを想定している
  • まだ作成されていない

本研究でガイドラインを作成

教科書のデジタルデータ

  • 印刷物に障害のある子どもたちのために個々のニーズに応じて作られる
  • 例えば「拡大教科書のためのPDF データ」や「DAISY」など

 これまでの紙の教科書では読むことが困難であったり、ページをめくれなかったりなど直接に学習内容にアクセスすることが難しかったさまざまな障害のある子どもたちが、デジタル教科書を活用することで障害のない子どもたちと同じように学べる可能性がある。

②海外におけるデジタル教科書の現状

 アメリカではIDEA(Individuals with Disabilities Education Act:個別障害者教育法)の改正により印刷された教科書を読んだり、それを使って学んだりすることに困難のある子ども(Print Disability)への対応が強く求められている。IDEA では、小学校から高等学校までの障害のある子どもが使用する教科書に関して、教科書発行者は求めに応じて教科書デジタルデータを全国教材アクセシビリティ標準規格(NIMAS)のファイル形式で、全国教材アクセスセンター(NIMAC)に納めるよう規定している。実際には、このNIMASファイルが点字や音声、拡大あるいはDAISY といったファイル形式に変換され利用されている。
 韓国では2007年よりKERIS(韓国教育学術情報院)が主導となり、全国の132校のパイロット校で実証実験を進めており、全国のすべての学校に2014 年~2015年に提供することを目指している。日本と同様に、インフラを整備することが課題だが、実証実験を進めながら、活用によるメリットだけでなく、デメリットも検証し改善を図りながら進めようとしていることが特徴である。韓国のデジタル教科書の基となるデータの形式は、XML形式で作られており、これに動画やインタラクティブなソフトの機能を付加させる形になっている。それらのデータをパソコン上で表示して操作できるようなソフトを用意して使用している。この基本的なデータはKERIS のサーバからダウンロードし、オンラインまたはオフラインで活用することが可能となっている。障害のある子どものための機能としては、拡大表示や音声読み上げなどユニバーサルデザインになっているが、様々な障害のある児童生徒に合った機能であるかはまだ検討段階にある。また、今後の方向性としては元になるデータの形式をEPUB にし、タブレットPCだけでなくiPadなど様々なプラットフォームに対応できることを目指し研究を進めている。

③デジタル教科書ガイドライン(試案)

 教育の情報化ビジョン等で示されているデジタル教科書ではさまざまな機能がそこに盛り込まれマルチメディアデータとしてのデジタル教科書が想定されている。そこで、本ガイドラインはWeb サイトのアクセシビリティーガイドラインである「ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG 2.0)」と学習におけるユニバーサルデザインについてのガイドラインである「学びのユニバーサルデザイン(UDL2.0)」を元に、関係者と協議をして、「知覚可能」、「操作可能」、「理解可能」、「互換性・堅牢性」の4つの原則に分けて作成した。また、対応する障害については障害名ではなく、その困難性に着目し「見ることに困難のある場合」、「聞くことに困難のある場合」、「上肢の操作に困難のある場合」、「病気のために外出に困難のある場合」、「認知理解に困難のある場合」で具体的な対応内容を示した(図2)。

図2 ガイドラインの一部

  WCAGUDL  
    見ることに困難のある場合聞くことに困難のある場合
1. 原則 1:知覚可能    
 1.1 絵や写真などには代替テキストを付加することによって、拡大印刷、点字、音声、シンボル、平易な言葉などのような、児童生徒が必要とする形式に変換できるようにする。(WCAG1.1)(UDL1.1)
(UDL1.2)
(UDL1.3)
◎「テキストの付加」
・どの写真,図表,画像,動画にもテキストが付加されている。
 
 1.2 動画などの時間の経過に伴って変化するメディアには字幕などの代替コンテンツを提供する。(WCAG1.2) ◎「代替コンテンツの提供」
・デジタル教科書で再生する動画は字幕などの代替コンテンツが提供され,動画の内容を別の媒体で理解可能にする。
◎「代替コンテンツの提供」
・デジタル教科書で再生する動画は字幕などの代替コンテンツが提供され,動画の内容を別の媒体で理解可能にする。
 1.3 教科書の内容や構造を損なうことなく、さまざまな方法(例えば、よりシンプルなレイアウト)で提供できるように、教科書を制作する。(WCAG1.3) ◎「レイアウトの変更」
・デジタル教科書のレイアウトは,内容を損なわず,かつ児童生徒が理解しやすいように配置を変更する事ができるようになっている。
 

④デジタル教科書作成と教科書デジタルデータの課題

 関係者との協議で検討した中でアクセシブルなデジタル教科書を作成するための大きな課題として考えられたのは教科書データの著作権をどのように保護し、かつ必要な子どもたちに提供できるかということである。また、本研究ではデジタル教科書のデータについての検討を行ってきたが、それを再生するためのソフトウェアや再生するためのPC 等を総合的に検討しなければ、より使いやすいデジタル教科書とはならない。そのためには、デジタル教科書のモデルを試作し、作成上の課題や実際に利用する際の課題なども検討する必要があるだろう。
 また、よりアクセシブルなデジタル教科書を作成したとしても、さまざまな障害のある子どもたちのニーズに合わせるためには、基本となる教科書のデジタルデータを容易に取り出し、個々の特性に応じた内容に加工できるような仕組みが必要とされる。また、実際にそれらのデジタルデータを利用するためには、データの形式、日本語読み上げの精度、著作権とデータの管理、提供システム、運用方法などの問題について、今後十分に検討していく必要がある。

(2)特別支援教育におけるICT活用(デジタル教科書を含む)の課題

①特別支援教育における ICT 活用の課題整理

 ICTの活用については、これまで情報関連支援機器、あるいはアシスティブ・テクノロジーの名称で、ICT 活用の実践や研究が実施されてきたことを紹介し、文部科学省による「教育の情報化に関する手引」並びに「教育の情報化ビジョン」から、特別支援教育におけるICT 活用の課題についての分析を行った。具体的には、各障害種別のICT 活用について「具体的なICT関連教材・機器・ソフトウェア等」、「これにより実現される機能」、「その活用によって可能になる活動」という観点で整理しICT 活用の課題の検討に結びつけた。ここでは、知的障害分野では、ICT 活用の具体像をより鮮明に示すこと が必要と考えられた。

②学校調査

 実際の学校におけるデジタル教科書やICTの利用状況の調査結果を整理した。デジタル教科書やICTに関しては、より使いやすい機能や、障害に対応した機能が備わっていることへの要望とともに、マルチメディアの機能への期待も示された。また、学校へのICT機器の普及のためには、校内の支援体制や専門家の必要性、十分な数の機器の整備、特別支援学校の地域支援システムの充実発展についての意見などが出された。これらのことを十分に吟味しつつ、改めて、全国調査を定期的に実施するなどして、その導入、普及の経過や有効性、問題点などの把握が必要と思われた。

③各障害別のICT活用の課題

 学校におけるICT活用の可能性と今後の研究課題の検討を障害種別に行った。そこでは、障害種別で記述された分量や具体性などの違いはあるものの、それぞれの障害における困難とそれを支援するICT 活用の可能性について整理した。
 また、教育の情報化では ICT 活用とともに「情報教育」、「校務の情報化」が大きな柱となっている。これらは、障害種を問わずに検討する必要があると思われる。

【総合考察】

 デジタル教科書の研究においては、国で示されている指導者用デジタル教科書と学習者用デジタル教科書とともに、一部の障害のある子どもの教育に活用されつつある教科書のデジタルデータの3つのデジタル教科書について検討し、アクセシブルなデジタル教科書作成のためのガイドラインの試案を作成した。この作成過程では、関係者との協議等から、教科書の著作権の扱いが課題であることが改めて確認された。また、デジタル教科書のデータだけでなく、それを再生するソフトウェアやPC のアクセシビリティを総合的に検討する必要があることが確認された。これに合わせ教科書デジタルデータの必要性と、それを運用する上でのさまざまな課題について整理をした。
 次に、特別支援教育におけるICT 活用の課題については、ICTの定義とデジタル教科書の位置付けを明確にし、本研究所がこれまで行ってきた研究をまとめ、「教育の情報化に関する手引」や「教育の情報化ビジョン」からICT活用の課題を整理した。
 また、学校調査ではICT 機器の機能上の課題や校内の体制、特別支援教育におけるICTを活用した地域支援システムの必要性などの意見を集約したが、障害種により課題が個別に違うため、課題が多岐にわたり十分な整理ができなかった。この点については、今後全国調査などの実施を検討する必要もあるだろう。
 最後に、学校におけるICT 活用の可能性と今後の研究課題の検討を障害種別に行った。そこでは、障害種別で課題の数や具体性などの違いはあるものの、それぞれの障害における困難とそれを支援するICT 活用の可能性について整理することができた。これらの知見は次年度より始まる研究につなげ、デジタル教科書の検討やICT 活用についての研究をより深めていくことが大切であると考える。

【成果の活用】

  • デジタル教科書の研究においては次年度以降にそのデジタル教科書のモデルの試作を行いアクセシビリティについての検証を進める。
  • ICT の活用については研究の必要性の高い課題となる視覚障害教育と肢体不自由教育での研究を進め、他の障害分野へ発展させていく。
  • 本研究の成果については、LD 学会、ATACカンファレンス等での学会発表を行い、広く周知させる。
  • デジタル教科書のガイドライン(試案)を作成することで特別支援学校や小中学校の支援を必要とする児童生徒への教育に生かされるようなデジタル教科書の作成に資する。
  • また、特別支援教育におけるICT の教育的活用の内容や方法・授業改善・特別支援教育の専門性の向上に関する基礎的な情報をまとめ、中期特定研究の次の研究課題につなげられる資料を作成する。

【経済産業省】

音声付き動画への字幕付与に関する要求事項ついて

 日本工業規格(JIS) X 8341-3(第3部:ウェブコンテンツ)において、音声付き動画への字幕付与に関する要求事項は、以下のとおりとなっています。

7.1.2.2 収録済みの音声コンテンツのキャプションに関する達成基準

 同期したメディアに含まれているすべての収録済みの音声コンテンツに対して,キャプションを提供しなければならない。ただし,その同期したメディアがテキストの代替メディアであって,代替メディアであることが明確にラベル付けされている場合は除く。

7.1.2.4 ライブの音声コンテンツのキャプションに関する達成基準

 同期したメディアに含まれているすべてのライブの音声コンテンツに対して,キャプションを提供しなければならない。


【総務省】

視聴覚障害者向け番組の普及促進

○ ローカル局への字幕制作費助成について実績

 平成23年度の字幕番組への助成実績のうち、ローカル局への助成額は約23%。

○ 字幕付きCMのトライアル実績

 在京キー局が字幕付きCMのトライアルに関して積極的な取組を実施しており、これまでの実績は以下のとおり。

2010年:TBS(3月)、日本テレビ(6月)、フジテレビ(6月、11月)
2011年:日本テレビ(3月)、フジテレビ(8月)
2012年:TBS(1~4月、10月~)、フジテレビ(10月~)、テレビ東京(10月)