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資料9

「障害を理由とする差別の禁止に関する法律の制定等」
に関する差別禁止部会の意見(部会三役の原案2-2の修正
【簡易迅速な裁判外紛争解決の仕組み】(修正箇所表示版)

第3章 紛争解決の仕組み

第1、紛争解決の仕組みの必要性

 本法の目的のひとつは、国、地方自治体及びこれに従事する公務員のほか、民間事業者、私人も含めた社会に対して、行為規範(人々が行為する際の判断基準)を法で定め、何が差別に当たるのかの判断の物差しを提供することにある。これにより差別等の紛争が事前に回避されることが望ましい。
 しかしながら、不幸にして紛争が発生した場合に備えて、司法的解決のほか、本法の目的を実現するため、本法にかかる紛争の性質に即した簡易迅速な裁判外紛争解決の仕組みが用意される必要がある。

第2、自主的な解決の仕組みと促進

 紛争が発生した場合においても、本来的には、自主的に解決されることが望まれる。そこで、国等にあっては、一般的な広報啓発活動の他にガイドラインの策定や事例集の作成等、当事者間の自主的な紛争解決を促進するため取組を進めることが求められる。
 その中でも、本法において規定される【雇用や就労】の分野のように紛争当事者間に継続的な契約関係がある場合においては、可能な限り、当事者間における自主的な努力により円満な解決が図られる仕組みが、民間事業者等において事前に用意されることが望まれる。ただ、知的障害や発達障害のある労働者を含む障害のある労働者の孤立した状況に鑑みると、障害のある労働者をサポートする第三者の参加等の工夫が必要である。
 また、【教育】の分野のように、本来学校や教師と児童生徒及び親との間に継続的な信頼関係が特に求められる分野においても、学校が同様の仕組みを用意する必要がある。なお、【雇用や就労】の分野と同じく、児童生徒及び親の立場をサポートする、たとえば、一部自治体で設置されている子どもオンブズパーソン等の第三者の参加等の工夫が必要である。

第3、想定される紛争事案

1、相手方と事案の性格

 紛争が自主的に解決できない場合の解決の仕組みを検討するに当たっては、まずは、誰に対してどのような紛争が起こりうるのか、ある程度そのパターンを想定する必要があろう。その際、前記の通り、本法が国、地方自治体及びこれに従事する公務員のほか、民間事業者、私人も含めた社会に行為規範を示すものであることや本法において規定される個別分野の特徴を踏まえる必要がある。
 そうした観点から見ると、一定の分野(【雇用や就労】、【公共的施設・及び交通機関施設の利用】、【商品・役務・不動産】、【情報・コミュニケーション】、【医療】、【婚姻妊娠出産養育】*各論の議論を経ない と確定できない)においては、主に民間事業者や私人が相手方として想定される。
 もちろん、この分野においても、雇用主が国や自治体である場合など、相手方が公的機関である場合もあるが、この分野における紛争の性格において、民間事業者と区別して取り上げる必要性は少ないと思われる。
 他方、それ以外の分野(【司法手続】、【政治参加(選挙等】、【教育】、【国家資格取得*各論の議論を経ない と確定できない)においては、主に、国、地方自治体及びこれに従事する公務員が相手方として想定されるだけでなく、事案の性格も権力作用に関わる行政処分的な要素も孕んでいる点で、前に述べた分野における事案の性格とは異なる点があると言えよう。

2、紛争の態様

つぎに、紛争の態様といった視点からの考察も必要であろう。そうした点から、

1)まず、解決の困難性という観点から大まかに見ると、

①相手方の思い込みや誤解をなくしたり、少し相手方に配慮してもらえれば解決可能な軽微な事案、
②一定の利害対立が想定され、正しい理解や情報の提供など簡易な調整では納得が得られないような事案であるが、一定の時間をかければ、合意的な解決が望めそうな事案
③利害対立が強く合意的な解決では解決が望めない事案

等、紛争の度合いにおいて異なるパターンが想定される。

2)また、紛争の個別性や地域性という観点から見ると、

①事案が、地域的な広がりを持たず、他への影響をあまり考慮しなくて済むような個別的事案、
②事案が広域にわたるとか、行政の一般的な運用に関わるもので、個別的な解決が困難と思われる事案

といった違いも考慮すべきであろう。

3)さらに、日常的な生活のなかで、一定の継続性を持った関わり合いがある中で発生する事案であるかどうかといった点も紛争解決の仕組みにおいて考慮される必要があるであろう。特に関わり合いが一定の継続性を持った関係の中で発生する事案においては、紛争事案の発生後においても関係が継続されることを考えると、可能な限りしこりを残さない円満な解決が望まれるからである。

第4、第三者が関与する解決の仕組み

1、紛争解決の仕組みに求められる機能

 先に述べたように紛争解決に当たっては当事者間での自主的な紛争解決が望ましいが、解決の受け皿がないことによって、障害に基づく差別事案の多くが放置されてきたことに鑑みると、中立・公平な第三者が当事者間に関与する仕組みを設けることで、紛争の円満な解決を促進することが求められる。
 第3で述べた想定される紛争事案の態様等を踏まえると、紛争解決の仕組みには以下の機能が求められる。

1)相談及び調整の機能

 どのような事案であれ、解決紛争の仕組みに求められる機能として、最初にあげなければならないのは、障害者が身近なところで、安心して相談できるものであることである。
 ここで留意すべきことは、差別によって精神的にも被害を受けている状況の中で、このような痛みを理解できるピア・カウンセリング的手法を用いた相談、あるいは、コミュニケーション支援や意思決定支援を伴う相談であることが重要であり、かかる機能を担当できるような障害者、家族、障害及び障害に基づく差別問題に理解のある専門家などの社会資源(以下「相談担当者」という)をこれに当てることが求められる。
 障害をめぐる紛争は、障害や障害者に関する理解不足や思い込み、あるいは双方のコミュニケーション不全に起因して発生する場合もある。このような場合には相手方の誤解をなくし、相手方の理解が深まることで解決可能な場合もある。
 このような場合には、地域の身近なところに配置された相談担当者が相手方に出向き、相談で問題となった事柄、障害者の置かれた状況等について説明し、相手方との関係を調整することが求められる。
 これは、一定の継続性を持った関わり合いがある中で発生する事案で可能な限りしこりを残さない円満な解決が望まれる事案においても同様のことが求められる。

2)調停、斡旋、仲裁、裁定(以下「調停等」という)の機能

 事案の中には、一定の利害対立が想定され、状況の説明、正しい理解や情報の提供など簡易な調整では納得を得ることが困難である事例も想定される。
 このような事案でも、一定の調整の手続きを経るべきであるが、調整だけでは紛争の解決が困難であると見込まれる場合には、障害者の権利擁護につき専門的な知識、素養、経験といった資質を備えた専門家を含む中立・公平な機関による調停もしくは斡旋等の手法により、粘り強い紛争の解決を図ることが求められる。
 紛争解決のひとつの手段として仲裁がある。これは、紛争当事者が、第三者の判断に解決を委ねることを予め合意することを条件に、中立・公平な第三者の判断により紛争の解決を図るものである。この手法も合意的解決のひとつであるが、仲裁の結果に不服申し立てする手段がなくなるというリスクもあるため、これを取り入れるにはかかるリスクの検討が必要であるとともに、運用においてはその点の十分な説明が求められる。
 事案の中には、利害対立が強く、以上のような合意的な解決手法では解決が望めない事案も想定される。
 このような場合に、本法による解決の仕組みに、第三者による裁定等によって解決を図る仕組みを導入することが求められるが、これについては、調停や斡旋とは質的に異なる、いわば準司法的な機能を担える機関として、後に触れる障害者政策委員会がこれを担える枠組みを備えているのか、他に適当な機関があるのか、新設の機関を設置できるのか、等の大きな課題がある。

3)実効性の担保

 以上述べたように、紛争解決の仕組みにおいては、相談や調停の機能をはじめとして調停等の機能が求められるが、特にこの調停等の機能を発揮するうえで、その実効性を担保することが求められる。たとえば、事実調査に関する協力義務や出頭など手続きに協力する義務について、またこれに加え、一定の解決を見たにもかかわらず、相手方が任意にこれを履行しない場合、あるいは、明らかに差別に該当する行為が認定され、しかも、事案が悪質であると認められるような事案については勧告ないし公表などの解決の実効性を図る仕組みが検討されるべきである。

2、紛争解決に当たる組織の在り方

 紛争解決の仕組みに以上のような機能が求められることを踏まえると、紛争解決にあたる組織の在り方としては以下のことが求められる。

1)相談及び調整を行う機関

 相談及び調整の機能を担当する組織の検討に当たって、重要なことは、障害者が気軽に相談等を行うことができるよう、また、障害者が気付いていない場合でも問題を発見することができるよう、障害者にとって身近な存在であることである。
 ここにおける相談担当者は、法律のみならず、障害の置かれた立場、心情をよく理解できる素養、障害や障害に基づく差別問題に関する知識、紛争を円滑に解決するために紛争当事者を説得する技術も求められる。
 このような者として、具体的には、相談実務の経験を有する障害者、家族、身体障害者相談員、知的障害者相談員、障害者と日常的に接する関係者や支援者及びそれらのネットワークや障害者団体等の知見を活用することも考えられる。
 また、政府は、相談及び調整の重要性に鑑み、これを担当する者の研修、さらなる人材の育成・確保に努めるための取組を進める必要がある。
 これらの点を踏まえた具体的な組織としては、例えば、障害者総合支援法に基づいて市町村が設置する基幹相談支援センター、又は都道府県の条例等において独自に設置された広域の相談支援センター等の既存の組織を活用することなども含め、検討されるべきである。

2)調停等を行う機関

 一定の利害対立が想定され、調整によっては解決が望めない事案については、先に述べたとおり、調停等による解決の仕組みが用意されることが求められる。
 この仕組みもできるだけ身近なところで解決されることが要請されるので、少なくとも都道府県毎に、調停等の機能を果たすものとして、障害者の権利擁護につき専門的な知識、素養、経験といった資質を備えた専門家を含む中立・公平な機関による機関が必要となる。
 これらの点を踏まえた具体的な組織としては、例えば、障害者基本法に基づいて都道府県が設置する審議会その他の合議制の機関、あるいは都道府県により障害者の権利擁護を図るために設置された委員会等の既存の組織を活用できるかも含め、検討されるべきである。

3)中央に置かれる機関

 事案の中には、先に述べたとおり、構造的なものであって広域にわたり、他に与える影響が重大で個別的な解決が困難な事案もある。また国の行政の一般的な運用に関わるもの、又は国が行った行政処分的な事案は性質上地方公共団体の解決にはなじまない事案である。こうした点に鑑みると、このような事案は、例えば、国が障害者基本法に基づいて設置する障害者政策委員会等の既存の組織を活用できるかも含め、検討されるべきである。

4)国内における実施及び監視

 障害者権利条約第33条2項は、「締約国は、自国の法律上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し、及び監視するための枠組み(適当な場合には、一又は二以上の独立した仕組みを含む。)を自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する。締約国は、このような仕組みを指定し、又は設置する場合には、人権の保護及び促進のための国内機構の地位及び役割に関する原則を考慮に入れる。」としている。
 この中で、条約が求める保護には、人権が侵害された場合の救済が含まれているので、障害者権利条約は、締約国にこの救済の枠組みを用意するよう求めているが、その在り方としては、人権の保護及び促進のための国内機構の地位及び役割に関する原則を考慮に入れ、適当な場合には独立した仕組みであることを求めていることになる。
 この点に関して、障害者権利条約の文言からも分かるように、障害者権利条約は、必ずしも独立の仕組みであることを絶対的な要件としているわけではないが、仮に障害者政策委員会に調停等の機能を付与するとなれば、条約上の要請を満たすよう努めることが求められるのではとの意見があった。
 これに対して、多くはその方向性については同様の意見であると思われるが、司法制度という独立した仕組みがあるなかで、現状においては、この原則にこだわらずに具体的な紛争解決の仕組みを早急に用意すべきであるといった意見も出された。
 このように、紛争解決に当たる組織の在り方の検討にあたっても、障害者権利条約上の要請を意識した議論が求められるところであるが、いずれにせよ、本法においては、障害に基づく差別による紛争が生じた場合に備え、簡易迅速な実効性のある裁判外紛争解決の仕組みを早急に用意すべきである。

第5、他の紛争解決の仕組みとの関係

 本法に係る紛争について、既存の紛争解決の仕組みを通して解決することは排除されるものではない。
 例えば、労働分野において、労働者と事業主との間の個別労働関係紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)に基づく都道府県労働局長による情報提供・相談等や紛争調整委員会によるあっせん等の仕組みが設けられているが、本法に係る紛争の解決にこれらの仕組みを利用することも妥当と考えられるが、この点については、手続きの実効性の観点から、政府において引き続き検討することが期待される。

第6、司法判断

1、裁判規範性

 本法は行為規範であると同時に司法判断の基準となる裁判規範性も有している。本件にかかる紛争について、以上の解決の仕組みで解決が図られない場合、最終的には、司法の判断に委ねられることもある。

2、法的効力

 ここで、本法の法的な効力に触れておく必要がある。
 本法は、国や地方公共団体の差別に該当する行為を禁止するだけでなく、既に触れたように差別禁止が及ばない部分もあるが、原則として民間事業者を含む私人の差別に該当する行為も禁止するものである。
 仮に本法が国や地方公共団体だけを対象とするのであれば、本法は憲法が人種等と並んで差別を禁止する「社会的身分」に障害者が含まれるとの解釈を前提とするものであり(なお、人種、性別等が憲法により特に列挙されているのは、歴史的に繰り返されてきた差別にかかる事由であり、かつ個人の意思によってはいかんともしがたい事由であることによると一般に解されていることから、障害者を人種、性別等と並べて憲法が掲げる「社会的身分」に含めて解することは自然といえる)、さらに、憲法がこれらの事由により「差別されない」とするその差別が具体的に何を意味するのかを立法レベルで明らかにして、障害分野における国等による差別を具体的に禁止する法律と言える。
 その場合、かかる法律は憲法における差別禁止を具現化するものであるから、国等から差別を受けた個人が、国等に対し差別してはならないと求めることは、法的根拠に基づくことであって、単に相手方の倫理や道徳を頼りにするお願いとは異なるものと位置付けられることになる。言葉を換えて言うならば、そのような法的根拠を認めることで、国等による差別から個人を保護するものということになるのである。
 本法は、そのような国等による差別に対する個人の保護を私人による差別に対しても広げようとするものである。私人による差別を受ける場合は、差別する側の私人にも契約に応じない自由等があることから、法的強制まで認められるかどうかは別として、差別を受けた個人が差別を行った私人に対して差別をしてはならないと求めることは法的根拠に基づくものであることを明確にしておく必要がある。
 仮に法的根拠がないとなれば、道徳や倫理の世界に委ねることと同じことになり、あらためて立法する必要はないことになる。また、それでは権利条約の国内的実施を行ったとは、とうてい言いがたいことになる。
 本法は、そういった意味で、私人と私人の間で差別が行われた場合にも、そのような差別をしてはならないと求めることに法的根拠を認めるもの、すなわち、相手方に対する法的な権利を認めるものである。

3、私人間効力と差別禁止法の位置づけ

 ただ、従来、差別禁止法といった特別立法がないなかにあっても、私人間における度を超した差別事案については、公序良俗に反し契約を無効としたり、不法行為法により損害賠償等の救済を認めることは可能であり、その場合、憲法で定められた差別禁止等の憲法規範は、直接には私人間に適用されず、民法90条や民法709条などの私法の一般条項を通して実現されるとする間接適用の考え方が取られてきた。このような従来の法的救済の仕組みと、本法が予定するそれは、矛盾するものではなく、本法はそれらの一般条項の内容を具体化する機能を果たすものと位置付けられる。
 従って、何が許されない差別に当たるかを判断する基準は本法が提示するとしても、他にどのような要件が備わる場合に、どのような法的救済が認められるかは、民法等の一般法の定めるところに従って判断されることになる。さらに、そのようにして民法等により権利があるとされる場合でも、それがそのまま訴訟上認められ、法律上強制できるかというと、そうではなく、民事訴訟法や民事執行法によって判決や強制執行になじむかどうかの吟味を経て実現されることになる。
 そういった意味で、相手方に対して差別をしてはならないと言えることは法的に認められる権利であるとしても、実際に差別を受けた場合に、どのような救済が認められるかは、民法等の一般法と民事手続法に従って判断されることになる。
 例えば、差別行為の差止め請求や妨害排除請求、合理的配慮の作為請求がどのような場合に認められ、判決として認容され、強制執行の対象になるかについては、物権や人格権に基づく差止め等に関する民法の解釈、民事訴訟法や民事執行法等の解釈に委ねざるを得ないと考えられる。

4、本法施行後の検証

 そういった状況に鑑みると、本法の施行後における司法的解決として現行法制度が差別禁止に関して機能しているのかについて検証し、不十分であれば団体訴訟等の訴訟形態も含め検討し、必要な措置を取ることが求められる。

第7、制度的な解決

 紛争解決の仕組みにおける事例の蓄積や当事者からもたらされる個別の紛争を超えた制度自体に関する問題点の指摘等によって、既存の制度や施策の問題点が明らかになることも考えられる。個別の紛争において、制度や施策自体の改正を行うことは困難なものと考えられるが、このような情報を国又は地方公共団体が権限ある行政機関にフィードバックすることで、必要に応じて、既存の制度や施策の見直しにつなげることが重要である。
 障害者政策委員会において、本法に係る紛争やその解決の状況、紛争解決の仕組みを通じて得られた情報に基づく制度や施策の状況等を把握し、必要に応じて、政策提言が行われることも期待される。
 また、制度的な解決においては、本法に係る紛争は幅広い分野で起こることが想定されるものであり、単独の機関だけで解決することは困難である。このような観点から、政府においては関係する行政機関間での連携の在り方や体制整備等についても検討する必要がある。