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旅で始まるいきいきライフ

第3章 障害のある人の旅をサポートする

2. 旅の拠点づくり:点から面へ
~「風曜日」13年の活動~

ピュア・フィールド風曜日 三木 和子

Q.風曜日を設立される前にはどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

A.風曜日は基本的に、夫と私と二人でやっているのですが、夫のほうは普通の会社のサラリーマンでした。それこそ営業マンだったんです。私のほうは、専業主婦をしながら、しばらくしてから介護福祉士の国家資格ができた時に、レクリエーション指導法という科目が必修で入りましたので、その時から専門学校や短大等々で「レクリエーション指導法」担当の非常勤講師を何校かでさせていただきました。

Q.障害のある人を対象としたレクリエーションはずっとやられていたのですか?

A. はい。もともと私は福祉系の大学を出ていますが、大学を卒業してから初めて選んだ職場が日本レクリエーション協会でした。その頃はまだ介護福祉士という資格もないですし、ボランティアなんかで福祉関係のところにいって、レクリエーションの援助をするということはずっとありましたが、学生時代もずっとボランティアで、障害児のワークキャンプみたいなお手伝いもしていました。レクリエーション協会に在籍していた時にはまだ福祉系のレクリエーション援助というのはありませんでした。ただ、高齢者のレクリエーション指導者養成が在職中に始まりましたが、あくまでも老人クラブに参加されるようなお元気な方々のレクリエーション指導者ということだったと記憶しています。

Q.風曜日を作ろうと思われた経緯について教えてください。

A.風曜日は夫と私との合作というか、二人の思いが一緒になったものなんです。まず夫のほうは普通のサラリーマンでしたが、なぜか40歳過ぎぐらいからですかね、50歳になったら会社を辞めて自分で何かをしたいって言い始めました。ただ、それが何かっていうのは形になっていなかったのですが、たまたま縁があった北海道弟子屈町で何かをやりたいっていうことを真剣に言い出しました。私はその頃は介護福祉士の養成校で非常勤講師をやっていましたし、ちょうど夫が50歳になる時はうちの次男が20歳になる時だったんですね。『男の子たちだし、もう20歳になったら好きなようにすればいいから、どうぞ好きなことやって』と私も夫のことを応援していました。それとは別に私が仕事の関係で、障害をお持ちの方、高齢の方に対してのレクリエーション援助を考えて行く時に、単にゲームだとか歌だとか、そういったプログラムだけではなく、もっと幅広く捉えなければならないのではないか、と考えていました。何がその方の生活の中で一番本当にやる気を再創造(リクリエイト)できるというか、生き生きわくわくできるかなっていうと、いろんな事がある中で、やっぱり『外に出たい』という障害をお持ちの方の要望というのはすごく強いですし、それが最初のうちはただ外に出たいだけだったのが、やっぱり車いすの方でも行動範囲が広がれば、旅行に出たい。私自身が昔から旅行が大好きで、一人で日本一周もしていました。旅に出ることって、すごく再構築(リクリエイト)でいいんじゃないかなとずっと思っていたんですね。ただ、さっき言ったように障害をお持ちの方、高齢者の方にもそういう場面がたくさんあるといいのですが、なかなか日本国内に目を向けると、安心して泊まれる宿がない。

その頃、先駆者的な障害をお持ちの方は、海外によく行ってらしたんですね。なんで海外に行くんですかと聞くと、やっぱり飛行機で行くと簡単ですし、行った先で、全くバリアがないというわけではないけれど、別に車いすだからとか、白杖ついていても、皆さんがそれなりに温かく迎えてくれて、日本の社会よりもずっとバリアがない。だから行きやすいっていうお話を聞いていて、「じゃあ、日本でそういう設備が整ったらどうなんですかね」とある方に伺ったら、「そりゃ、日本でそういうところがあれば行きたいよ」というお話を聞いていました。

確かにそういう目で見ると、私自身がいろんなところに行くのが好きだったものですから、仕事を再開してからもいろんなところに行くといわゆるハンディキャップルームに対して、すごく「えっ?」というミスマッチな部屋があったり、いろんな設備が整っていても、「これは誰のための設備なの」というようなものがとても多かったんですね。

そういう中で、戸山サンライズで何度か仕事をさせていただいている時に、お泊まりの修学旅行の子どもさんたちに「きょうはどこ行ってきたの?」って聞いたら、「ディズニーランドに行ってきた」と。「そう良かったね」って言っていろんな話をしているうちにふと考えてみたら、確かにディズニーランドは本当にバリアフリーだし、いろんな障害をお持ちの方が安心して出かけられる。でも、何人かで泊まれる宿というと、今から20年近く前の話ですから、なかなかそういう宿がないんだなって考えさせられました。

先ほど北海道弟子屈町に縁があったって言いましたが、私の兄が40年も前から、摩周湖ユースホステルというのをやっているんですね。もともと北海道人ではないのですが、私の兄も摩周湖に魅せられて、向こうに行ってしまった人間なんです。その兄に「ユースホステルも古いから、立て直さなきゃいけないだろうから、これからはバリアフリーにするといろんな方が来てくださるから、半分ぐらいはバリアフリーにしたら?」ってある時何気なく言ったんですね。そうしたら、「トオル君(夫)がやりたいって言ってるんだからお前たちやればいいじゃないか」っていうふうに返されて。「え?」っていうところから実は風曜日が始まったんですね。

だから私たち、夫は何かやりたいと思っていた、そして、私は自分の仕事を続けながらそういう社会システムの整備の重要性、たとえば障害をお持ちの方や、病気、高齢になって、大変な思いをしていらっしゃる方々に、安心して旅に出ていただける環境を整える必要性を単純に思っていたのですが、まさか自分でやるとはまるっきり思っていなかったんですね。それを何気なく兄に言ったら、「お前たちがやれば」って言われて「え?本当にできるの?」と思いつつ、一番びっくりしたのは、私の夫がその気になっちゃったんですね。それはなんか面白そうっていうか、これからの時代に必要なんじゃないかっていうことで、やる気になりまして、でまあ、風曜日が出来たということですね。

Q.風曜日を設計する時には色々なことを考えられたのかなと思いますが、お作りになる時には、どのような苦労がありましたか?

A.本当に大変でした。それこそ戸山サンライズのハンディキャップルーム、和室も洋室も見させていただいて、お風呂の設備も見させていただいたんですけれども、やっぱり「え?」って疑問もあったし、そういう思いでまた、色々と見せていただくと、やっぱり障害をお持ちの方自身が関わったのではないようなところが結構ありました。そうかと思うと、障害の方でもある一定の障害の方には使いやすいけれども、その他の方には使いづらいというのがありました。

じゃあ、解決するためにはどうしたらいいんだろうということで、海外に行ってそういう部屋を見せていただいた時のことも思い出したりしながら、国内いろんなところを見て歩いたけれども、一つ一つのアイデアとしていただいたものはたくさんありましたが、トータルとしてこれはすごいなっていうのは残念ながらなかったんですね。

そうして自分たちで考えるより他はないと思っていた時に、たまたまご自身が二級建築士を持っていて電動車いすで生活をしているという女性の方と出会うことがあって、その方がたまたま北海道出身の方だったんですね。それだったら私も一緒に考えると言ってくださって。もう一人、高齢者のユニバーサルデザインの住宅を手掛けている、やはり女性のインテリアデザイナーと女性3人で、ああでもないこうでもないと、とにかく大変でした。

ただ風曜日の場合は民間ですので使えるお金も限りがあるし、いろんな制限がある中でどうするかと本当に大変でしたが、お金のことはちょっと置いておいて、戸山サンライズでお会いした修学旅行の生徒さん達の人数は大体どれぐらいだろうというところが、大きさを決めるのに一番決定的なものでした。

成人だと貸し切りで観光バス1台となると、40人50人っていうことがありますが、車いすの生徒さんがいて、介護者とかご家族の方がもし乗るとしたら、そんな人数にはならないだろうと。それで定員を34ということに設定して、スタートしたんです。

あと部屋をどのように割り振ろうかとか、部屋の設備をどうするかっていう時に、最初は完璧なバスルーム、いわゆる施設にあるようなものをそろえようだとか、部屋によって全部変えてみようだとか、いろんな事を考えました。単にバリアフリーというか、その時にユニバーサルデザインという言葉に出会いましたが、誰でも使えるっていうことを考えると、あんまり設備を重たくしてしまうと、一般の人に使ってもらいにくくなる。だからうちの場合はハンディキャップルームじゃなくてどなたでもどうぞ、というコンセプトです。

その代わり最低限、車いす利用の方がこれだけは必要だろうというところは整えなければいけない。あとはオプションでその方にあったものを提供すればいいんだという考え方に変わっていったんですね。それからは割と気が楽になって、あとは定員が三十何名ということで決まっているのと、これもまた現実問題に戻ってしまうんですが、1,000平米を超えるとスプリンクラーを設置しなければいけないという消防法の問題があって、その1,000平米以内で抑えようとか…。色々細かいことを言うときりがないのですが、制度の枠と私がしたいと思うことなどを折り合いながら、出来上がっていったのが今の風曜日です。

でも、車いす利用者でも、自分で何とか立ち上がることのできる人たちは、うちの部屋だと広すぎるというお話をされて(笑)、壁伝いで歩いていきたいからもっと狭い部屋がいいって言われます。

現在、風曜日にはシングル・ツイン・それからトリプル・フォーベッドルーム4種類あるんですが、一応どこでも車いすの方でもご利用いただけるし、どういう障害の方でもその人に必要なものはお貸しするという形でやっています。

特別支援学校の先生が下見に来られた時に、和室はないかと言われます。生徒さんが転がってベッドから落ちてしまう場合がある。やっぱり和室が必要だと言われるんですね。それも最初から分かっていましたが、和室がない。じゃあどうするかと言うと、フォーベッドルームにですね、マットレスの上だけ全部敷き詰めます。下は外して。和室みたいにしちゃうんです。そのお部屋に7名お休みいただくなんていうこともありました。

一部屋一部屋をゆったり作っていますので、いろんなことが出来るんですね。ナイトテーブルも外して、電源もいたずらできないようにとか色々と大変ですが、本当に広さがあるというのと、基本的にベッドがホテル用のベッドで全部可動式ですから、何とでもなるというのは、いろんなお客様にすごく喜ばれています。

Q.そういうふうにしてできあがった風曜日ですが、「自由に使えるように」作られたけれど、思いもよらなかった、利用された方から「こういうふうになれば良かったのに」とか、「こういうことができればよかったのに」ということはありますか?

A.たくさんあります(笑)。

特に面白いのは、旅行慣れている方はあまりおっしゃらないんですね。ここまでやってくれたのかって言ってくださいます。いろいろなところに泊まっていて見ているから。だけど初めて旅に出たという方は…ここはね、私には使いづらいのと。うちのトイレはこうなっているんだけど、こういうふうにしてくれるといいとかね(笑)。

Q.家を想定しちゃうんですね。

A.そうなんです。だから、お部屋のトイレが使いづらい場合には、共同のトイレが3箇所あって、そこが全部便座の高さとか手すりの位置とか、それから介護者がいる場合にはここのトイレというふうに変えてありますと言ってご案内すると、うん、でもやっぱりせっかく部屋にトイレがあるんだから自分の家のようになっているといいって(笑)。本当に実演を見せてくださりながら、説明してくださる方もあって、そういう声っていうのも本当にきりがないですね。

ただ一つ意外だったのは、洗面所に丸い木のいすが置いてあるんですが、あれはオープンしてから2カ月目ぐらいで入れたんです。なぜかというと、2メートルちょっとくらいの背の高い方が泊まりに来られて、その方が泊まられた時に、洗面所のところのドライヤーが使えないって言われたんです。なぜかっていうとドライヤーが壁に固定されているんです。

そうすると背が高いとコードが伸びないって言うんです。だからすごく使いづらいって。その時、たまたま事務所にある他のいすを持っていって、「じゃ、座ってお使いください」って言ったんですけれども、「あ、そうか」と思って。それまでも実は洗面所の使い勝手では色々問題を抱えていて、というのはどういうことかというと、基本的にうち、お風呂の入口も洗面所の入口も全部引き戸なんですが、そうすると、よくあるホテル式のドアのところにフックがついていて、バスタオルをかけるところがないんですね。お部屋にお入りいただくと分かるんですが、たくさん手すりがあるし、どこでも掛けようと思えば掛けられるからいいじゃないかって思うんですけど、やっぱりものを置く場所がない。それをどういうふうにクリアしようか。でも洗面所のカウンターが広いからいいかとか、いろんなことを思っていました。そこで背の高い方は、座って顔を洗ってもらうとか、ドライヤーも安心して使ってもらえるように、いすを置けばそのいすを色んなふうに使っていただけるかなっていうことで、あの丸いいすを置いたんです。

そうしたら、やっぱりそれはとっても大正解で、もちろん背の高い方もそうなんですけど、杖の方とか、足腰が弱っているけれども車いす利用ではないという方が座って洗面されていました。だからやっぱり良かったんだと思いました。

Q.風曜日を利用される方は身体障害の方が多いんですか?知的障害の方はどうでしょうか?

A.知的障害の方もいらっしゃいますし、聴覚障害の方とか、日本で最初に点字を紹介した方がこの夏お客様で来られましたね。そういう視覚障害の方、盲導犬のユーザーの方も来られます。いろんな方が来られますよ。

特別支援学校の生徒さんの場合だと身体・知的など学校によっても違いますよね。それによって、例えば知的障害の方の高等部だと、中等部でもそうですが、お部屋の備品をなるべく片付けちゃうんですね。先生から置いたままにしないでくださいって言われるんです。歯磨き粉も食べちゃう子がいますとか、石けんもやめてくださいとか。それで、言われるようにそういうものを全部下げたりとか、色々しています。実際に知的障害の方に大きなお洒落なインテリアを壊されたこともありましたし(笑)。それはそれで誰も怪我しなかったから良かったんですけど。

非常ボタンについては、うちはお部屋に設置するのをやめたんです。トイレとお風呂には設置していますが、お部屋はどうしようかっていう時に、そういう障害の方がお一人だけで泊まりにくるっていうことはないだろうから、もし何かあったら内線の電話で分かっている人がかけてくれればいいということで。悩んだんですけどやめました(笑)。

Q.風曜日のホームページの掲示板を拝見すると、泊まった方でゴルフをやりたかった方や畑でトウモロコシを収穫した方などの話が掲載されています。「地元の方がご厚意で手伝ってくれました」とありましたが、近隣の方々とはどのように連携されているのでしょうか。

A.私どもの風曜日設立当初からいろんな方がお手伝いして下さっているんです。もうそれは本当に話したらきりがないくらい。「えっ?」っていうぐらい色々とありまして、今のトウモロコシとかそういうお話の前に、元々ボランティアの団体が、弟子屈町の車いすトイレマップを作るということを2年目ぐらいからやっているんです。

最初は、公共編とか一般編とか色々やってきましたが、その方たちが一通り車いすマップを作った時に、たまたま夫が町のエコ町推進協議会っていう、要するに『エコな町をみんなで作っていきましょう』という協議会の中のいわゆるユニバーサルデザインに関する部署を立ち上げようじゃないかということになって、そのボランティアを今までやってくれた人たちを中心に、『弟子屈UDプラザ』というのを立ち上げました。その方たちが色んな形で手伝ってくださいます。

お客様が例えば団体で来られて、ちょっとバリアのあるおそば屋さんに行きたいとか、みんなで観光地に行ってゆっくりしたいけど、車いすの利用者が多いと押したりするのも大変だ、なんていう時に来て手伝ってくれたり、何かあった時(人手が足りない時)にサポートしてくれる。

それから、手話の会の仲間がいますので、手話が必要な方っていうのは、結構仲間で来られていらっしゃるから、我々が手話でお話ししなきゃならないっていうことはなかなかないのですが、こられた方々をサポートしてくださる。

最近始めたんですが、うちの共同のお風呂にはリフトがついていて、基本的には家族の方でも入ることができるんですが、高齢の方だとご心配でなかなか入れられないとか、全身硬直しているような方だと、お一人で入浴するのは無理という場合に、看護師の資格を持っている人、介護福祉士の資格を持っている人が仲間にいますので、その人たちがお手伝いに来てくれるんですね。

ただ、最近はそれに関しては、有料でやろうということになって、その代わりきちんと資格をもっている人が…私がお手伝いをする時は無料なんですけれども(笑)、有料でやるっていうことにして、そういうサポートをしてくださる仲間もいます。その他にさっきのお話にあったような車いすゴルフの場合は、うちにアウトドア用の『ランディーズ』という車いすがあるんですけれども、たまたま隣がゴルフ場なんですね。最初はそのランディーズでもって北海道で盛んなパークゴルフをやろうという話になっていて、いつでもどこでも出来るようになっているんですけれど、今お話にあった、車いすのゴルフをやりたいっていう方は、リハビリの病院でゴルフクラブに入っていて、片麻痺だけどゴルフをやっているという方々なんですね。そういう方々がやっぱりいつも練習場でやるだけだから、本当のコースに行ってやりたいという話があって、その場合にはどうかっていうことで隣のゴルフ場に行ったら、「一般の人が混む前とか、あるいは夕方もうスタートが全部終わっちゃったあととか、そのお客様のご要望によって、また季節によっても違うけれども、ゆっくり回ってもらえるような時にいつでもどうぞ」と言ってくださって、いつでもそういう体制を取ることができています。

そういう意味では他にも、これはもうずいぶん実施していますが、ラフティング・カヌー・乗馬など障害をお持ちの方でそういったアウトドアプログラムに参加されたいという場合には、地元のインストラクターの方たちにおつなぎして、色々楽しんでもらっています。最後に出たトウモロコシの話ですが、それは9月の半ばぐらいまでいわゆる一般の方がトウモロコシを取りに行くと、1時間1,000円だったか1,500円で取り放題っていうところがあるんですね。じゃがいもなんかもあるんですけれども、たまたまその方が来られている時に夫がご案内していて、「トウモロコシの取り放題があるけど行ってみますか」って言ったら、その方はその日午前中にラフティングボートやる予定で、ラフティングボートやるところとすぐ近くだったものですからちょっと見ていただいたら、できたらぜひやりたいということで、そうしたら農家の方が「わかりました」って言って、午後にまた行かれたんですけれども、その時にわざわざ車いすの方でも届くようなところで、ちょうどいいのがいっぱいなっているところを残しておいてくださったらしいんですね。本当に30分ぐらいだったらしいんですが、すごいたくさんのトウモロコシが採れたと言ってとっても喜ばれました。地元に送っていらっしゃいました。

そんなふうにその時その時のタイミングで、いつも出来るわけではないですがタイミングさえ合えば、地元の皆さんに言うと、色々と「分かりました。いいですよ」って言ってくださって、受け入れてくださるんですね。そういうパイプ役というのが、前は風曜日だけだったんですが、今は弟子屈UDプラザと一緒になって色んな楽しみ方をしていただいています。

Q.風曜日に行くことが決まったお客さんに対して、「この時期ならこういうことができますよ」というアナウンスなどをされているのでしょうか?

A.そうですね。もう何度も来られている方が結構いらっしゃるんですが、そうすると、障害をお持ちの方だと一度にあれもこれもはできないから、例えば今度来た時はラフティングをやりたいとか、今度来た時はぜひ乗馬にチャレンジするとか、そういう場合はいつ頃がいいですかっていうふうな感じですね。お花のきれいな時期はいつですかというのと同じで。

Q.風曜日を経営していて良かったと思う瞬間はどういう点でしょうか?

A.そうですね。本当にありすぎて、どう言ったらいいか分からないくらいです。親戚みたいなお客様が多いんですね。全体のお客様の数は残念ながら今観光業にとって非常に良くない時期ですから上がらないんですけれども、ただいまって帰ってきてくださるお客様とか、本当にリピーターの方で親戚のような付き合いをしていただくような方がたくさんいらっしゃいます。

健常者の方でもね、そういう方がいらっしゃるんですよ。ちょっと違う風が流れていると感じてくださるのかなと思うんですけれども、最初は「えっ、ここのドアって全部引き戸なの?」とか、なんかちょっと普通のホテルとは違う違和感を持った方でも、来てみたら広くてゆったりして、気持ちよかったと言ってくださって。ご家族でも来てくださいますね。最近、9月もおばあちゃんの88歳のお祝いと、ひ孫さんの1歳のお誕生日と全部一緒に3家族4世代で来てくださって。

来てくださって、1歳のお孫さんがお餅を背負って歩かせるという、それもやると。だから、いろんな世代を超えて、お部屋の取り方がその時によって色々ですけれども、うちだとどこでもハンディキャップルームみたいなものですから、どういう取り方でもできるということです。

Q.では逆に苦労をされていること、一番つらかったことを教えてください。

A.苦労しているのはずっとですけど、黒字になかなかならないということです(笑)。もう本当に、せっかくやっと少しこれでうまくいくかなと思った時に、リーマンショックの前に、北海道は原油高でもう大変だったんですね。ガソリン代は上がる、灯油代も上がる。北海道の経済がどんどん落ち込んでいって。宿泊者の総数からすると道外のお客様が多いんですけれども、やっぱり5月の連休とか夏場のお盆のシーズンに地元の方が来てくださらないと、年間を通してうまく回って行かないんですね。地元の方が本当に旅に出られなくなって、それがあったその次に今度リーマンショック。それからインフルエンザとか。でまた震災、今度は円高。ずっともう、来年こそは来年こそは…っていうのはあるんですが、経営環境が良くならないので、弟子屈町内でも、クローズしているお宿が今年は結構増えているんですね。だからいつまで持ちこたえられるのか(笑)。つらいというか苦労という意味では経済的な面ですね。

辛いことは、それこそ障害をお持ちの方や高齢の方が多いものですから、入院をされたっていうならまだ良い、まだ良いって言っちゃいけないんですけれど…亡くなられる方って結構あるんですよ。

毎年こられるような方で、ご主人が脳梗塞で倒れて、障害をお持ちだったんですけれども、奥様のほうが先に亡くなっちゃったんですね。奥様が3年前にがんだと分かって、手術して一度は成功したんです。そのあとも風曜日に1回来てくださっているんですが、亡くなってしまって。ことし春先に電話がかかってきて、「うちのやつ死んじゃったよ」とご主人からぼそって電話がかかってきて。お参りに行ったんですけど、夏に来られるって言っていたのがやっぱり一周忌前はいけないから来年また行くとまたこの間お電話いただいて。じゃ今度行って時間を見つけてお会いしましょうと言って。

その方はリハビリを頑張ってすごく良くなって、今はお一人でマンションにお住まいになって訪問介護を受けながら生活してらっしゃるんですが、いずれにしてもお客様との距離がすごく近くなってうれしい反面、亡くなられたとか、そういう場面に出会うことがすごく多くて、高齢者の施設なんかだと当たり前と言えば当たり前のことなんですけれど、宿としてはそれがすごく多いですね。こればっかりは避けられないのですが。

本当に毎年何人か必ずあって、何度もきている方じゃなくても、今年あともう一人、忘れられないのは、道内の方だったんですけど、去年ご夫妻で来られて、その奥様からお葉書くださって、実はことしも行こうと思ったんだけど、夫は1月に亡くなった。何でそれを書いたかというと、ご主人がうちに来たことを本当に喜んでくださって、またぜひ、毎年行きたいって言っていたと。それで、ことし6月ぐらいに来たいねと話していた矢先、亡くなったんですって。

私それでとにかくお電話したんですね。そうしたら、「こんなこと普通だったら泊まった宿に葉書なんて書くようなことじゃないんだけど、あまりにもご主人が楽しみにしていたから、ついつい去年行った時期になると思いあまって…葉書を書きました」なんて言ってくださって。だから奥様に、お気持ち少し落ち着かれたらまたどうぞ、お一人ででも、お子さんたちと来られても、ぜひどうぞとお話ししたんですけど、そういうのがやっぱりつらいですよね。でもそういう時にこちらがきちんと受けとめないとご家族はもっとつらい思いをされているということですね。

Q.障害のある人が旅をすることについてどう思われますか?

A.私の元々の仕事からすると、本当に活力の再構築(リクリエイト)なのですが、最近リハビリの専門家の方々が、やはり旅は何よりのリハビリだから、ご自分から積極的に出ようという気持ちにならない方には、まず出るような環境を整えて支援をして、1回でも出ていい思いがあれば、また出たいとなる。また出たいと言うことは、今度は最初車いすだったのが、押してもらわなくても自分で行けるようになったり、あるいは立って杖で歩けるようになったり。もしかしたら杖がなくても歩けるようになったり。だからどんどん良くなって行く。それが普段の病院でやるリハビリよりもよっぽど効果があるということをおっしゃるんですね。

もちろんそういう方ばかりではないとは思います。うちに来られても重度の障害や病気で中途障害になったような方というのは滞在期間が長いとよく分かるんですが、最初に来られた時はすごく強張った顔をしているんです。「おはようございます」とか「こんにちは」とかお声を掛けても、なんだこの人みたいな感じで(笑)。「うるさいなこの人は」みたいな感じで見られるんですね。特に男性に多いんです。それが3日間とか滞在されると、表情がどんどん優しくなって軟らかくなっていくんですね。

それで、最後に、「ありがとうございました、また来ますね」とご本人が言ってくださる。例えば介助者が奥様だったり、その反対もありますが、例えば奥様が介助者で、ご主人が要介護だった時に、ご主人が最後にそういう言葉を言ってくださると一番喜ぶのって奥様なんですよ。本当にうれしそうな顔をされるんですね。

私たちは、障害をお持ちの方自身がそうやって変わっていく姿を見て、ああ良かったって思うのも良くありますが、それと同時に今言ったように介護をしてくださっている方がほっとしたような顔をされるのを見ると、すごくうれしいですね。だから障害があるからといって諦めてしまうのではなく、何かのきっかけでちょっと外に出てみようかっていうきっかけ作りが出来れば、後はもう、ご本人がやりたい、行きたいと思ってくださればしめたっていう気がするんですよね。

案外、今までうちに来られているお客様は、リハビリ途中の方が結構多いのですが、病院の先生がいいから行きなさいじゃなくって、やっぱりご本人が行きたいからっていうことで来られている場合が多いんです。それが組織的にやろうっていうことになると、受け皿のほうもどんどん変わっていくと思うんですよね。本格的にそういう人たちを外に出すようにしましょうっていうことになれば、受け皿がいっぱいないと困りますし、バリアフリー化もどんどん進むんじゃないかなと思います。医療費を押さえるためにも、いわゆる介護予防ではなくて、もう介護される段階にはなったけれども、その人たちの病気の進行を抑えるっていう意味で旅はいいんじゃないのかなって思います。でも、それが予防に繋がる繋がらないはともかく、私は本当に障害を持っても、高齢になって色々悪くなっても、旅に出ておいしい物を食べたり、色々な人と会ってお話をしたり、素敵な景色を見たりとか文化遺産に触れたりだとか、そういう楽しみを皆さん持ってくださるといいなって心から思います。

Q.最後になりますが、今後の展望をお聞かせください。

A.経営環境がどんどん悪くなる中、何とも言えないのですが、でもやりたいことはいっぱいありますね。色々なお客様のご利用の仕方を見ていると、14連泊してくださる方があったり、何度も何度も来てくださる方があったり…実に様々です。本当に、経営がもう少し安定していけば、町内との関わりを、風曜日だけが特別ということではなく、もっと弟子屈町、あるいはもう少しそれが広がって北海道のあのエリアというか、もう全体にそういう障害をお持ちの方や病気の方が出かけた時に、安心していただけるようなサポート体制を作って行くためのモデル作りみたいなのをきちんとやりたいなっていう思いがあります。

風曜日が目指して来た方向は、決して間違っていなかったと思います。それを地域に拡大して「地域と一体となってユニバーサルデザインの町づくり」という願い(特に夫には強い思い)です。

そして忘れてはならないのが、ハード面だけではなくソフト面のバリアフリー、つまり「心のバリアフリー」。

今のようなつらく哀しく、大変な時代だからこそ、弟子屈町をお訪ね下さる方々に、北海道の大自然の中、安心して、ほっとできる、優しい気持ちになっていただけるような環境づくりをして行きたいと思っています。