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1000字提言

障害者対策の本格的見直しを

伊藤弘泰

 10月、英国イーストサセックスを訪問した。英国はいま、医療、福祉制度の改革に必死に取り組んでいる。かつて「ゆりかごから墓場まで」といわれた、いき届いた国丸抱えのナショナルヘルスサービスは、サッチャー政権の財政改革の対象となり、94年4月から本格的に新たなコミュニティケア法が施行された。病院の民間への移行や独立採算化、あるいは病院からナーシングホームヘの転換等も進んでいる。

 非営利の法人経営による「チェスレイ」というナーシングホームには、交通事故、労働災害、さまざまな疾病による障害者がいたが、なによりも軍隊勤務で障害を受けた人が多かった。ナーシングホームといっても高齢者だけを対象としているわけではなく、若い人も多い。障害のレベルの高い人も多く、ベッドに寝たままの人もいた。ヘリコプターの墜落事故で重度の障害を受けたという。

 施設内ではコンピュータの操作やプログラムづくりの訓練も仲間うちでこぢんまりと行っていた。しかし、日本の授産施設でのような組立作業のようなものはとくになかった。

 ここでは、障害をもつ人々が身体的管理や自立生活の支援を受けながら、施設内で居住して、日中は、一般企業に勤務することを積極的に進めている。障害に応じた自動車運転トレーニングがなされているようで一般社会への復帰、参加が目標となっている。

 我が国では、一部の対象を除き、福祉施設に入所している障害者が一般企業に勤務することを前提としていない。厚生・労働行政の密接な連携がないのも理由であろう。もちろん英国の社会においてノーマライゼーションの思想がはるかに日本よりも浸透しているという背景は大きい。また、バス等の公共交通の車イス等に対する配慮は、自分で車を運転できない障害者や高齢者の、移動の自由と生活圏の拡がりを確保している。

 我が国ではいま高齢者の分野では医療、保健、福祉の統合をめざし、制度改革が進んでいる。

 この際、障害者についても各省庁間の分断行政を改め医療、福祉、労働等の統合を図ってはどうか。最近の約10年、高齢者対策に比べ、障害者対策ははるかに遅れをとっている感がある。「国際障害者年」はかなり遠くなったようだ。

(いとうひろやす 日本アビリティーズ協会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年12月号(第15巻 通巻173号) 29頁