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列島縦断ネットワーキング

[宮城]

「とっておきの芸術祭 in MIYAGI」

加藤 良彦

はじめに

 従来、宮城県における障害者福祉の分野においては、残念ながら、芸術文化活動を始めとする日常的に営まれる活動支援のプログラムやそれを支えるシステムがつくられておらず、障害をお持ちの方々がもっている多様な能力を発揮する場づくりができずにいたのが現状です。

 このような状況の中、あるとき突然、何がとっておきなのか?、何が芸術なのか? も良く分からないまま、宮城県において非常にユニークな子供たちの美術教育を始めとする多彩な活動を展開している、ハート&アート空間BE―Iの新田氏そして平山氏の強い奨めにより「とっておきの芸術祭」が開催されることになりました。

 以下、この度の「とっておきの芸術祭」の開催に至るまでの経過を簡単に紹介させていただき、事務局から見た芸術祭について述べさせていただきます。

開催に至るまでの経過

 宮城県において初めての試みであるにも関わらず、実際に運営に関わるスタッフが参加して本格的な会議を開催できるようになったのは、実行委員会が正式に発足した4月以降であり、本番まで半年の余裕もない状況で実質的な準備が始められました。、

 宮城県、多賀城市、七ケ浜町の行政による積極的な財政支援があったとは言え、実際に芸術祭のもつ意義や実施する上での方法論については十分な論議をすることができず、運営委員の力量を思う存分に発揮してもらうことはできませんでしたが、宮城県において今後、障害をお持ちの方々の芸術活動を推進していく上で基本となる以下の3つの柱を確認できたことは大きな財産だったと思います。

(1)県内障害者福祉施設利用者を対象とした事前ワークショップの実施による人材発掘と啓蒙活動の実施。

(2)障害者芸術活動の今後の推進のための障害者福祉の分野と芸術分野における新たなネットワークの創設。

(3)広く県民に障害をお持ちの方々の優れた芸術文化との出会いの場を提供し、交流を深めることによりノーマライゼーションの実現を図る。

 このような目的のもと、1万人を越える数多くの方々に入場いただき芸術祭を終了することができました。

なぜ、芸術祭か?

 芸術とは何を基準に定義づけることができるのかといったことはよくわかりませんが、今回芸術祭を開催してみて、何かを創造したり、表現したりする営みは極めて自由で個人的な活動であり、誰からも強制されたりすることのない、自由な世界なのではないのかと感じました。

 一人一人の個性の違いを前提にして、初めて成り立つことができるものであり、画一性と効率性を求められる現代社会のなかでは、思うように受け入れられない障害をお持ちの方々にとっては、とても魅力的で、もしかしたら障害を1つの個性として認めてくれる唯一の世界なのではないかと思われます。

 その意味では、芸術文化活動は、人間生活における普遍的な営みであり、障害をもっていることがプラスにはなってもマイナスにはならない世界と言えるのではないでしょうか。

 自分自身、障害者福祉の分野に身を置きながら、障害というものを今回ほど肯定的にとらえることができた経験をしたことがありませんでした。

 障害を持つことの意味とそのことによってもたらされる新たな可能性を信じることができる世界、芸術祭とはそんな世界であるような気がします。

事前ワークショップによる人材発掘

 宮城県における芸術祭の大きな柱として取り組んだのが、事前ワークショップでした。

(1)音楽と身体表現(2)音楽と絵画表現(3)書による表現の3つのワークショップを専門家の協力を得て県内6施設で開催することができました。

 初めてのこともあり運営委員の所属する施設並びにつながりがあって且つ意欲的な職員のいる施設を対象に実施したところ、当初の予想を上回る豊かな感性をもち、可能性を秘めた新たな人材を数多く発見することができました。

 当初は、講師も当事者も施設職員も初体験ということもあり、どのような成果を得られるのか不安もありましたが、施設側との事前の打合せや下見を行うことにより、素晴らしい成果を上げることができました。

 そして事前ワークショップを通じてわかったことは、日頃、施設で取り組まれている芸術文化活動が当事者の能力を引きだす機会に成り得ていないこと、当事者の方々は芸術的な感性が非常に豊かであるにも関わらず、施設職員の感性が非常に乏しいことを痛感しました。

 何事にもとらわれない自由で個性的な表現活動ができる人々を障害者と呼んでいる福祉に携わる職員の在り方を改めて考えさせられました。

組織体制の在り方について

 宮城県においては、出演者とスタッフを確保して運営にあたりましたがプログラムの内容、使用会場の状況と数、公共交通機関等による会場までのアクセス、出演者の状況、予算規模などの諸条件に応じて柔軟に整備される必要があります。

 紙面の都合上、詳細な点は省かせていただきますが、核となる事務局が様々な状況にいかに対応できるような条件づくりをどれだけできるのかが重要なポイントだと思われます。

今後に向けて

 1回目の経験をもとにいかに継続することができるのかが大切だと思われます。

 制度や組織は確かに人を支えてはくれますが、人を育てるのはやはり人なのだと痛感させられました。

 今後は、障害をもっている人(作り手)、能力を引き出す人(指導者)、世に送りだす人(協力者)の三者の人材確保と育成、そしてネットワークづくりを、事前ワークショップを展開するなかで求めていきたいと思っています。

 最後にボランティアなしではできなかったこの芸術祭に参加して下さったすべての人に深くお礼を述べ終わらせていただきます。

(かとうよしひこ 宮城県心身障害者福祉センター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年12月号(第15巻 通巻173号) 47頁~49頁