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「障害者リハビリテーション」入門(19)

小腸機能障害

倉本 秋
大原 毅

Ⅰ 概念と病因

 小腸機能障害は、①小腸がさまざまな原因(疾患)によって広範に切除され、吸収面積が絶対的に減少し、消化吸収が妨げられた病態と、②クローン病やアミロイドーシス、特発性仮性腸閉塞症などの小腸疾患によって、(小腸が切除されていなくても)実効吸収面積が減少し、消化吸収が妨げられた病態に大別できる。ここで小腸とは、十二指腸、空腸、回腸までを指し、小腸広範囲切除が行われる疾患には絞扼性イレウス、腸間膜動脈血栓症、腸間膜静脈血栓症などがある。

 ①の特徴は術直後期から安定期までの時間経過によって症状が変化すること、②の特徴は原疾患に対する治療が必要なこと、原疾患の再燃によって消化吸収障害の程度が変化することなどがあげられる。小腸機能障害の類語としては、短腸症候群、吸収不良症候群などがある。

Ⅱ 病態

 小腸は全体が同じ機能を持っているわけではなく、部位別に吸収する物質が異なっている。このため切除された、あるいは疾患に罹患した部位によって、発生する障害が異なってくる。図1に主な栄養素の吸収部位を示した。

図1. 小腸における栄養素の吸収部位(文献1略より引用)

図1. 小腸における栄養素の吸収部位

 鉄やカルシウムの吸収は十二指腸と上部空腸が切除されると障害される。上部空腸は短時間で糖質を吸収する場所でもあり、同時に糖質の吸収障害も生じる。一方胆汁酸やビタミンB12の吸収は回腸末端が切除された時に障害される。

 直接の吸収部位が切除されなくても発生する吸収障害もある。例えば回腸末端が切除されると、胆汁酸の吸収が低下し、胆汁酸プールが減少する。このため二次的に胆汁酸と脂肪、脂肪酸の混合ミセルの形成が不十分になって、主に空腸で吸収される脂肪の吸収が悪くなる。同時に脂溶性のビタミンの欠乏症も生じる。吸収されない脂肪や脂肪酸がカルシウムと結合してしまうために、経口摂取されたシュウ酸がシュウ酸カルシウムとして沈降できず、シュウ酸が大腸から吸収されて腎結石の原因となる現象も派生する。

 また部位別に消化管ホルモンの局在も異なっている。コレシストキニンやセクレチンは十二指腸、空腸に多いので、この部位が切除、障害されると、胆嚢の収縮が悪くなり、胆石形成の原因になる。このような病態が複雑に絡み合って、小腸機能障害を持つ症例では尿路結石や胆石症が多くなる。

 切除(障害)される部位とともに、その長さも機能障害の決定要因である。小腸機能障害の障害程度等級表では、その等級を表1のように規定している。残存腸管の長さは腸間膜付着部の長さで測定する。ただし、残存腸管の長さと機能障害の相関には個人差もあり、また残存腸管に炎症があるかどうかによっても大きく異なってくる。

表1.小腸の機能障害程度等級表
級別 小腸の機能障害 栄養状態の指標 小腸切除例 機能障害例
1級 身辺の日常生活が極度に制限される 栄養所要量の60%以上を常時TPNで補う 残存小腸が75㎝未満(小児では30㎝未満) 永続的に小腸機能の大部分を喪失
2級        
3級 家庭内の日常生活が著しく制限される 栄養所要量の30%以上を常時TPNで補う 残存小腸が75~150㎝(小児では30~75㎝) 永続的に小腸機能の一部を喪失
4級 社会での日常生活が著しく制限される 随時、TPN、または経腸栄養法が必要 永続的に小腸機能の著しい低下

(身体障害者診断書作成の手引をもとに改変)

Ⅲ 検査所見と診断

 小腸大量切除の術後の経過はおよそ次のように分類される。Ⅰ期(immediate postoperative period:術直後期)、Ⅱ期(intestinal adaptation:回復期)、Ⅲ期(optimal intestinal compensation:安定期)であり、それぞれ術後2~4四週、1~12か月、1年以上に相当する。Ⅰ期は頻回の下痢を来すことから、intestinal hurryとも呼ばれる。電解質異常も認められ、エネルギー投与とともに、水電解質の補正が重要になる。Ⅱ期は小腸の拡張、小腸の絨毛の過形成(背が高くなる)などの適応によって、小腸機能が回復してくる時期を指している。切除範囲によってはintestinal hurryを呈さずⅡ期に移行することもあれば、小腸切除が広範囲におよべば、適応がⅡ期で停止することもある。

 小腸機能障害の検査所見としては、総蛋白<6.0g/dl、アルブミン<3.5g/dl、コレステロール<120㎎/dlなどがあり、貧血も認められる。Ⅰ期では電解質異常も多い。肝臓で合成され、半減期の短いrapid turnover protein(トランスフェリン、プレアルブミン、レチノール結合蛋臼)の低下なども見られる。

 栄養素の吸収試験としては、糖質についてD-キシロース吸収試験、乳糖負荷試験、脂肪については糞便中の脂肪定量(>6g/日)などがある。その他、胆汁酸負荷試験なども行われる。

 どの部位が、どの程度切除されているかについては、手術を受けた病院からの情報が一番確実な情報であるから、手術記載などを取り寄せなければならない。小腸造影検査を行えば残存小腸の長さの診断が可能で、クローン病の縦走潰瘍や、skip lesion、狭窄像などの所見も得られる。内視鏡によって小腸全長を検査することは難しいが、上部空腸や、回腸末端に特徴的な内視鏡所見があれば診断の一助となる。同時に生検を行うことで、クローン病の類上皮性肉芽腫(guranuloma)やmicrogranuloma、そしてアミロイドーシスの所見などを見いだして確定診断を行うことができる。

Ⅳ 治療

 小腸機能障害の治療目標は、①栄養のサポート、②水、電解質の補正、③欠乏する栄養素の補充、そして④基礎疾患の治療である。その治療の2本の柱が、完全静脈栄養法(Total Parenteral Nutrition:TPN)と経腸栄養法である。

 TPNは高濃度のブドウ糖(糖質)とアミノ酸溶液、微量元素、各種ビタミンなどを、中心静脈に留置したカテーテルから投与する完全栄養法で、同時に脂肪乳剤を末梢静脈から投与する。一方経腸栄養法は、天然濃厚流動食、半消化態栄養剤、消化態栄養剤、成分栄養剤などの形で、各種栄養成分を腸管から吸収させる方法である。経腸栄養剤の投与法としては経口法(飲ませる)と経管法(管を挿入して注入する)がある。そして経管法には経鼻胃管法と経胃瘻法、経腸瘻法がある。

 小腸機能障害の治療手段としてTPNを採用するか、経腸栄養法を採用するかの原則は、「重症であればTPN、急性期であればTPN」と考えて良い。小腸広範囲切除後のⅠ期ではTPNを行う。Ⅱ期になれば、残存腸管が30~40㎝以上あれば経腸栄養法に移行できる。残存小腸が0㎝に近いときには、Ⅲ期になってもTPNから離脱できないことがある。これ以外に、腸管に狭窄が見られる時や、基礎疾患がクローン病で炎症が強い時期にはTPNを行わなければならない。

 方針はいつでも「TPNから経腸栄養法へ、そして経口摂取へ」で、一旦TPNを始めた場合にも絶えず、経腸栄養法に、さらには経口摂取に切り替えらないかを考慮する必要がある。なぜなら経腸栄養法は小腸を経由して栄養摂取を行えるという点で、TPNよりはるかに生理的な方法だからである。

 また最近はTPNを行っていると、小腸粘膜が萎縮し、bacterial translocationを起こすという報告がある。bacterial translocationとは、腸管粘膜の構造的なバリア機能が破壊され、腸内細菌やエンドトキシンが全身に侵入することである。腸管が使用されないと、腸粘膜の萎縮が見られ、分泌型ⅠgAの減少など消化管の免疫が低下することによって、bacterial translocationが起きやすくなる。可能ならTPNより経腸栄養が推奨される所以である。

 成分栄養剤、消化態栄養剤と、半消化態栄養剤のおおまかな違いを表2に示した。成分栄養剤(elemental diet:ED、エレンタール(R)、ヘパンED(R))は消化態栄養剤の1つで、窒素源がアミノ酸だけからなるものを指している。オリゴペプチド栄養剤と呼ばれる他の消化態栄養剤(エンテルード(R)、アミノレバンEN(R)、ツインライン(R)など)に較べて、浸透圧が高く、副作用としての下痢は多いが、消化吸収機能が低下しているときには有効である。経腸栄養法のうち、成分栄養剤を経管的に投与する場合だけが保険適応になっている。

表2.経腸栄養剤の種類と特徴
  成分栄養剤 消化態栄養剤 半消化態栄養剤
窒素源 アミノ酸 アミノ酸
オリゴペプチド
大豆蛋白、乳蛋白
(アミノ酸)
糖質 デキストリン デキストリン
(二糖類)
デキストリン
(二糖類、単糖)
脂肪 大豆油
(0.17~0.9g/100kcal)
大豆油、コーン油
(1.25~2.8g/100kcal)
中鎖脂肪酸、大豆油、コーン油
(3.0~3.52g/100kcal)
浸透圧

 消化態栄養剤はすべて薬品に分類されるが、半消化態栄養剤の中には、食品に分類され医師の処方がいらず個人購入が可能な代わりに保険適応にならないもの(メディエフリキッド(R)、ハイネックスR(R)など)と、薬品に分類され保険適応になるが個人や給食部で購入できないもの(クリニミールやサスタジェン(R)、ベスビオン(R)、ハーモニックM(R)、エンシュアリキッド(R)など)がある。薬品に分類されるか食品として扱われるかで、便利なところと不便なところがある。

 自然食品を材料にした天然濃厚流動食も市販されているが、粘稠度が高く経管栄養には適さない。

 消化態栄養剤を選ぶか、半消化態栄養剤を選ぶかについては、消化吸収機能が正常なものには半消化態栄養剤が、消化吸収障害があるものには、小腸粘膜細胞の酵素で水解、吸収可能な、成分栄養剤、消化態栄養剤が適応になる。また成分栄養剤の含硫アミノ酸の臭いは、経口摂取には不向きである。このように投与経路も経腸栄養剤選択の基準の1つになる。

 TPN、経腸栄養法を施行する際には、なんらかの栄養素の不足が起きてくる可能性をいつも念頭に置いておくことが大切である。その代表はカルシウム、鉄、亜鉛、ビタミンB12、必須脂肪酸などであり、必要に応じて経口的、経静脈的に投与する必要がある。

Ⅴ 在宅静脈栄養と在宅経腸栄養

 小腸機能障害をもった患者さんのQOLは在宅静脈栄養法(Home Parenteral Nutrition:HPN)と在宅成分栄養経管栄養法(Home Elemental Entenal Hyperalimentation:HEEH)によって大きく向上し、残存腸管が30㎝以下の小腸広範囲切除術後でも、社会復帰が図れるようになった。いつ、どんな患者さんを入院からHPN、HEEHに切り替えるかは、①長期にわたってTPNまたは経腸栄養が必要である、②病状が安定し、投与する成分が足している、③精神的、身体的にHPN、HEEHに支障がない、④家庭環境も受け入れ可能であることなどを参考にして決定する。具体的には更に2~3か月以上TPN、経管栄養が続くと考えられたら、HPN、HEEHへの移行を考慮する方がよい。

 HPNは1985五年から医療保険の適応になっている。経腸栄養法ではその名の通り、「成分栄養剤」を「経管法」で投与する場合(HEEH)だけが、1988年4月以降医療保険が適応となっており、経口法は認められていない。HPNとHEEHの適応疾患には若干の違いがあるが、小腸機能障害をきたす疾患は両方の適応疾患である。HPN、HEEHとも都道府県知事に届け出を済ませた医療機関に限って指導料を請求できると定められていたが、1994年4月にすべての医療機関で請求できるように改正された。

 HPNではジャケット(図2 略)等に、輸液と輸液回路、携帯用輸液ポンプをいれると、社会復帰に便利である。また慣れてくると、夜間に1日必要量を投与し、日中はカテーテルをへパリンロックして社会生活を送ることも可能である。大切なことは徐々に注入時間を減らす、注入時間が10時間前後に一定してきても注入開始時、終了時は注入速度をゆっくりにする点である。日中の低血糖にも注意を払う必要がある。

 HEEHでも夜間に経鼻カテーテルを自己挿入し、就寝中に必要カロリーを摂取することで日常生活ができる。HEEHでは液状の経管栄養剤を選ぶか、粉末状の経管栄養剤を選ぶかも問題になる。液状の製剤は溶解が不要で、溶解時の雑菌混入の心配はないが、保存期間が短く、重量がある。重いことは外来通院で持ち帰るには不便である。粉末状の製剤は逆に、溶解の手間や、その際の雑菌の混入などの欠点はあるが、持ち運びは容易で、保存期間も長い。患者さんの事情(車での通院かどうかなど)によって、剤型を考慮する必要がある。また最近は在宅医療に積極的に取り組む企業も増え、delivery systemも完備しようとしている。訪問看護婦の充足や、このようなdelivery systemの充実によって、HPN、HEEHがより安全に行える時代が来ると考えられる。

(くらもとしゅう、おおはらたけし 東京大学第3外科)

参考文献 略


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年12月号(第15巻 通巻173号) 70頁~74頁