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特集/障害者基本計画

地方障害者基本計画への期待

総理府障害者対策推進本部担当室 小池将文

1 はじめに

 昨年は、戦後50周年でいろいろな戦後史が語られた。障害者施策の歩みを振り返ってみると、まだ多くの課題、新たな課題を抱えながらも大きく進展してきた。昭和30年代、40年代はリハビリテーションという言葉が新鮮な響きを持った時代であった。昭和56年の「国際障害者年」とこれに続く「国連・障害者の十年」は我が国の障害者行政の推進に極めて大きな影響を与え、ノーマライゼーションという今日障害者施策の最も重要な理念が我が国に定着していった時期であった。障害のある人も高齢者や子供と共に社会の構成員として、地域の中で普通の暮らしができる社会にしていこうということである。そして障害者施策は施設中心の福祉から地域福祉・在宅福祉へとその重点を移してきた。

 こうした流れの中で、平成5年「障害者対策に関する新長期計画」が策定され、「障害者基本法」が成立、公布された。21世紀の時代から振り返ったとき、平成5年(1993)は障害者行政において大きな意味を有する年と位置づけられるのではないかと思う。

2 地方障害者基本計画の意義

 障害者基本法では、国には障害者基本計画の策定義務を課し、都道府県と市町村には地方障害者計画策定の努力義務を課した。この趣旨は、障害者施策を効果的に進めていくためには、国・都道府県・市町村がそれぞれの立場・役割に応じた整合性のある計画を策定する必要があるとの認識によるものである。また、ノーマライゼーションの理念に少しでも近づいていくためには、自治体、特に住民に最も身近な行政主体である市町村の果たすべき役割は極めて大きい。にもかかわらず地方障害者計画の策定が努力義務規定になっているのは、国のレベルの国会で義務づけ、強制をするのではなく、自治体の自主性、主体性を尊重したからにほかならない。従って努力義務規定の意味するところは、障害者基本計画を作っても作らなくてもいいということではなく、全ての自治体で、国の施策との整合性を図りながらも、それぞれの地域の実情に即した総合的な障害者施策推進のための計画づくりに主体的に取り組んで欲しいとの強い願いが込められたものである。

3 市町村障害者計画策定指針

 政府(障害者対策推進本部)が平成5年3月に策定した「障害者対策に関する新長期計画」は、障害者基本法により国の策定すべき障害者基本計画とみなされた。都道府県・指定都市は、国際障害者年の後、国の計画に準じ障害者施策に関する計画を策定し、ここ数年の間にその改訂作業が進み、ほとんどのところで基本法で要請している障害者基本計画が策定されている。しかし、その他の市町村では計画づくりはなかなか進んでいない。そこで国会等からの要請もあり、昨年5月障害者対策推進本部で、市町村の計画づくりを支援するため「市町村障害者計画策定指針」を作成し、都道府県を通じ市町村へ周知した。

 指針作成の際の議論の1つに単独計画にする必要があるかという点があった。障害者基本法に基づく計画なので単独計画が望ましいが、一口に市町村といってもその数は約3300もあり、人口、財政規模等千差万別である。人口の少ないところでは障害者の数も極めて少ない、あるいはほとんどが高齢障害者であるというケースも考えられる。市のレベルでは単独計画を策定して欲しいが、町村については、福祉事務所等を単位に複数の町村で計画を作るという案もあったが、やはり行政単位をベースにせざるを得ないということになり、場合によっては総合的な福祉計画や老人保健福祉計画の一部で障害者基本計画を位置づけても差し支えないこととした。しかしその場合でも、基本法にいう障害者基本計画としては主要施策についての目標と具体的方策が示される必要があるのは当然である。

 また、策定時期については、平成8年度中では時間的余裕がなく拙速に流れるのではとの意見もあったので、平成8年度は一応の目安とし弾力的に対応することとした。このように指針では、市町村の主体的取り組みを期待し、画一的な扱いは極力避けるようにした。

4 地方障害者基本計画への期待

 高齢者、障害者、児童は福祉行政の3本柱であるが、障害者の場合は乳幼児期から高齢期に至る人生のそれぞれのライフステージで医療・教育・雇用・住宅・福祉・移動等幅広い分野のニーズに対し適切なサービスが提供される必要がある点に特徴がある。そのためにも関連施策の横断的な連携とライフサイクルに対応した施策の連続性を体系化する計画を作る意義は大きい。決してスマートな計画でなくていい。全ての自治体が、地域の実情を把握し、当事者参画の場で十分論議し、それぞれの地域にふさわしい計画づくりが進むことを期待している。

(こいけまさふみ)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年1月号(第16巻 通巻174号) 8頁~9頁