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1000字提言

ノーマライゼーション文化を創る

アキイエ・ヘンリー・ニノミヤ

 阪神・淡路大震災から1年が経過した。破壊された家の戸数は約20万戸、仮設住宅は4万8300戸造られた。

 自然災害だけでなく震災後の人的災害もある。障害者の人災をみると、第1に、地域で自立して生活していた障害者の救助、避難、安否確認が十分できなかった。大きな理由の1つは、地域住民がそれらの地域で自立して生活している障害者と交流が少なく、障害者を十分市民として受けとめていなかった。さらに、地域に根ざしたコミュニティ・ソーシャル・サービス・システムがほとんど都市部になかったからである。日本の福祉は入所施設措置システムを中心に発展してきた。1981年の国際障害者年より通所施設も増加してきた。施設を利用していた障害者は施設職員によって救助、避難、安否確認がなされた。つまり、今に至るまで障害者は地域においてノーマライズされていない。

 第2に、住居を失った障害者・高齢者に対して、一般の仮設住宅と切り離して、特別に障害者・高齢者用仮設住宅を計画し建築した。一般仮設住宅は四畳半と6畳の二間の他にトイレ、洗面所、風呂、流し調理台が付いている。しかし、障害者・高齢者用は六畳又は4畳半の一間だけで、トイレ、洗面所、風呂、流し調理台はなく、それらは皆、共同利用となっている。

 何故、同じように被災した市民を一般市民と障害者とに区別する必要があるのだろうか。それは普段からノーマライゼーションの意味を十分理解、認識していない為だと思う。さらに障害者・高齢者用の仮設住宅は部屋数が少なく、トイレ、洗面等の生活に欠くことのできない付属設備を部屋に付けなかったのは、一般仮設住宅と比較すると差別である。

 私はこれら障害者・高齢者用の仮設住宅へボランティアとして参加している。寒い冬、部屋の外の寒い廊下にあるトイレへ行くのはつらそうだ。風呂に入るのも困難、食事もなかなかできない。もし、障害者も一般仮設住宅の一員だったらトイレ、洗面、風呂付きで楽だったばかりでなく、障害を持たない隣人の助けを得ることができたと思う。

 ノーマライゼーションは「同じ地域に住む市民と同じ生活をすること」です。仮設住宅における反ノーマライゼーションの実態は福祉、教育、就労、結婚生活等にもある。ノーマライゼーションの文化創りが必要である。

(関西学院大学総合政策学部教授)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年1月号(第16巻 通巻174号) 36頁