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列島縦断ネットワーキング

[大分県]

大分県日出町の障害者福祉

佐藤賢之助

1 町政40年で福祉課を新設

  波静かな別府湾を抱き、湧水の清らかな流れ、鹿鳴越山系を背にした日出町は、城下町としての面影をとどめながら、一方では大分・別府市のベットタウンとして都市化が急速に進行、県下の他町村が過疎化傾向の中で、有数の人口増の町として発展している。昭和60年、福祉の町の指定を受ける。

 平成6年、町村合併40周年を迎え新庁舎の建設と町政の機構改革を行い、同居していた住民課から福祉課が独立した。「平松知事がネーミングされた『福祉の町サンライズ』を合言葉に、福祉の充実に意をそそいでいます」と町内にある福祉施設の一覧表と略図を示しながら取材に応じていただいた雲井課長さんは初代福祉課長ということになる。「平成2年には、障害者向けの『デイサービス』をスタートさせるなど、社会福祉協議会が地域福祉向上の中心的役割を果たしています。ボランティア団体もその支えとなり、障害者に対しての援護だけでなく、健康、医療、教育、労働、さらに家庭や地域との連携により総合的、体系的な福祉行政を展開しています」と、福祉行政について熱っぽく語る課長さんに、『福祉の町づくり』の基本コンセプトをお尋ねした。「ノーマライゼーションの思想実現に向け、福祉政策の総合化と福祉モデルコミュニティの形成を図ることが基本理念です。そのためには、①多くの住民参加による町づくり、②長期的展望の下に段階的実施、③官民がそれぞれ役割を分担する、④施設の広域配置、⑤テクノ構想との関連化の方針で推進する」と、明快だ。新設福祉課の意欲が感じられた。

2 小さな町にビックな施設

 日出町は総面積73.17Km2、人口2万5000人(平6年11月)の小さな町だが、福祉施設は比較的恵まれている。以下町内にある障害者を対象にした諸施設の概要を設立年次順に紹介する。

(1) みのり学園

 児童福祉法に基づく精神薄弱児施設(定員75名、昭26年12月1日認可)大木園長は82歳になられる。氏は元来は曹洞宗の禅師であり、歴史の教師として教壇に立たれていたが、さきの大戦で敗戦を迎えた時、「歴史の教師として再び学校に帰ることは出来なかった」という。

 昭和26年、道元禅師の「人が人を大切にする。礼拝は正法眼蔵」の教えを福祉の道で生かそうと、当時、九州には施設も学校もまったく無く、放任状態にあった知的障害をもった子どものために『みのり学園』を創設したのが始まりとのことである。

 現在は、一部杵築市にまたがる10万坪の土地の中に、7つの施設をもつ総合施設として地域に根づいている。

(2) 大分県渓泉寮

 生活保護法に基づく救護施設(定員120名、昭36年6月1日認可)

 河村寮長の話では「入所者のほとんどが精神障害回復途上者であり、家庭及び社会復帰が困難なため長期滞留化と高齢化が進んでいる。そのため、生活の質や心の豊かさを処遇の基本とし、日常生活においてより質の高い生活環境づくりを進めるとともに自立意欲の向上、社会適応能力の養成、さらに社会復帰を促進するための訓練指導に努めている」とのことである。

 施設を一巡して、入所者一人ひとりの人格尊重の応対、余裕と楽しみを感受できるより質の高い援助が見受けられた。

(3) 白百合園(設置主体:みのり学園に同じ)

 精神薄弱者福祉法に基づく精神薄弱者更正施設(定員:26名、昭37年12月8日認可)

(4) 福祉工場「ナザレトの家」・福祉ホーム「希望の苑」

 精神薄弱者福祉法に基づく精神薄弱者援護施設(定員50名、昭62年3月1日認可)

 福祉のまちづくり構想の一環として、昭和62年4月、県の要請を受け、全国初の精神薄弱者福祉工場としてオープンした。現在プラスチック成型、マネキン塗装、コーヒーフィルター、木工、メンテナンスの5課に従業員50名を雇用している。うち30名は隣接の福祉ホーム「希望の苑」の利用者である。

 療育手帳保持が条件とされ、通勤、買い物等に支障のない軽中度の者が条件である。

 設立から7年を経過し、現在まで19名の従業員を一般企業に就労自立させるなど着実に成果をあげている。反面、空洞化の波がここにも押し寄せ、企業努力は大変なようである。

 三ケ尻勝彦総務課長さん「生産性や品質管理において福祉工場と一般企業との差はない。当然労働三法の適用を受け、あらゆる面から一般企業以上の経営努力をしている。納期の厳守、良質製品の生産、低価格を基本に関連企業との信頼関係を第一に積極的に受注の拡大を図っている。」と熱意が感じられる。

(5) 大分県ハイテク福祉農園実験実証施設

 (定員8名、昭63年4月1日認可)

 地域の基幹産業である農業分野における障害者、高齢者の就労の可能性を実験、実証する施設で、野菜栽培用システム1棟、花卉栽培用システム1棟からなっている。

 作業プロセスの一部自動化、車イス使用者等障害者の機能補償技術、コンピューターによる育成環境の自動制御システム、作業量の年間平準化あるいは運営方式などの実験実証を行い、それによって、障害者の就労の場としての農園を設立するとともに、障害者農業としての新技術の研究開発を行うことを目的とした施設である。

(6) ゆうわ

 身体障害者福祉法に基づく身体障害者療護施設(定員50名、昭63年4月1日認可)。

 身体上の著しい障害のため日常生活において常時介護を必要とし、家庭では生活することが困難な最重度の身体障害者を受け入れ、医学的配慮のもと、家庭的な雰囲気でリハビリテーション・生活・学習訓練など必要なケアを行い、充実した生活ができるよう支援が行われている。小野施設長は「ユニークな活動として、日出町内の小・中学校児童生徒に福祉の学習の機会を提供する福祉体験教室やボランティアによる大正琴の教室」などを紹介してくれた。地域住民参加による福祉の町づくりの一面がうかがえる。

(7) 大神ハイツ

 身体障害者福祉法に基づく身体障害者福祉ホーム(定員60名、昭63年6月1日認可)。

 身体上の障害のため、家庭において日常生活を営むのに支障のある身体障害者に対し、低額な料金で日常生活に適する居室、必要な便宜を提供する住宅が五棟、57戸(内夫婦用3戸)建設されている。車イス使用の障害者が使いやすいように設備の工夫、設計がされていて、ここに居住しながら他市町村の職場へ車通勤している方も多い。

(8) ソニー・太陽株式会社日出工場

 障害者雇用促進法による重度障害者多数雇用事業所。ソニー㈱と太陽の家などの共同出資によるソニー・太陽株式会社の第2工場として昭63年7月1日に建設され、障害者110名を含む200名の従業員がマイクロホンなどの組み立てを行っている。鶴島総務部長の案内で応接室に入ると、創設者の故仲村裕氏の遺訓、『世に身心障害者はあっても、仕事に障害はあり得ない。』の額が目に付く。工場は、広い職場スペースと段差のない廊下、そして車イスなどでも容易に仕事のできる作業台・机・椅子をはじめ、治工具や計測器類にも、独自の工夫が数多くされている。ラインでは、手・足・言葉に障害をもつ人は、ソフトの開発やメンテナンスなどを、両手の力の弱い人は、マイクロホンの半自動化された計測検査など、障害の重さに関係なく、個々の障害に対する指導とフォロー、個人のもつ職業的能力に応じた各種生産ラインに配慮がなされているのが印象的である。

(9) 大分県厚生年金センター(平1年4月11日竣工)

 福祉の町づくりにおける地域の保健、休養、交流のための中核施設として子どもから老人まで3世代が憩うことができる施設、最近では障害者の利用も多いとのこと。

(10) ホンダ太陽株式会社・ホンダR&D太陽株式会社(平4年7月17日設立)

 本田技研と太陽の家が共同出資した、自動車部品の製造及び販売、福祉機器の研究開発、CAD設計を事業内容とする特例子会社。日豊線日出駅から車で十分、緑の木立ちの中に太陽の色を象徴する黄色の建物が心地よく調和している。

 「建設に当たっては、従業員200人一人ひとりの要望を大切にした」という。『自然・人・地域との調和』が実現され、『ノーマライゼーションも不必要な会社、障害者であることを忘れるような環境をつくろう』の理念が、ここに結実している。プランニングの段階からのコンビで口角泡を飛ばしながら理想を追及したという鈴木利幸専務、山下猛常務の語りには、自信と満足感が溢れている。

 車イス使用者が多い関係上、角度を感じさせないスロープ。芝生に輪がめり込まないようにプラスチックの植え込みや溝に落ち込まない工夫。足乗せで家具を痛めない工夫等々至る所に細かい配慮が見られる。

 地域住民との交流も支障なく図れたとのこと、媒介の役をするカラオケルームや従業員の健康維持のためのトレーニングルームもグレードが高い。プライバシーの尊重のために1棟建て風の住居、数々の安全のネットワーク設備にも驚かされる。

 『何より人間』、夢・希望・笑顔の基本コンセプトが完璧に実現されている。

(11) 教育・療育関係

 児童福祉法に基づく保育所7か所(数か所で障害幼児を受け入れている)、小学校6校中5校・中学校3校中2校に障害児学級を設置、単独の学校としては、県立日出養護学校(精神薄弱)が設置され、小さな町としては、教育の分野でもハード面の充実が見られる。

3 よりよい町への課題は

(1) 施設・機関相互間のネットワークの確立

 それぞれが独自にユニークな活動をし、実績を上げているが、相互の交流がない。

(2) マンパワーの掘り起こしと、活用

 どこで、どんな方が、どんな活動をしているか、掘り起こしが欲しい。取材を通してだけでも、この方の講話を沢山の方に聞いていただくことができたら、もっと福祉が推進するだろうと感じることが多かった。貴重な人材は町の財産である。

 改めて日出町の障害児者福祉の状況を概括して見ると、他町村に比べて、ハード面では群を抜いている。しかし、ソフトの開発は、と問われると、課題山積が率直な感想である。上記2点は、心の壁を除くのに、大切な視点であろう。

(さとうけんのすけ 大分大学附属養護学校)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年1月号(第16巻 通巻174号) 58頁~63頁