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「障害者リハビリテーション」入門

てんかん

久保田英幹

はじめに

 てんかんとは、大脳の慢性疾患の1つで反復する発作を主たる症状とする。てんかん発作は大脳の神経細胞の一時的、過剰な興奮によってもたらされる。ほとんどの場合、発作はいつ起こるかわからない。このことがてんかんを持つ人々のリハビリテーションの大きな障害になっている。しかし、てんかんという病気をよく知り、ひとりひとりの発作症状を理解し、個々の持つリハビリテーションの阻害要因を分析すれば、てんかんを持つ人々に対するリハビリテーションの意義や目的が明らかになる。

 本稿では、てんかんを病気としての側面と、障害としての側面の両面から簡単に解説する。

1 てんかん発作の分類

 てんかん発作は、発作の始まりかたから大きく2つに分類される。1つは、始めから大脳全体が発作に巻き込まれる全般発作で、もう1つは、大脳の限局した一部から発作が始まる部分発作である。

 全般発作には、①全身を硬くする強直発作、②ガクンガクンと全身に規則的に力が入ったり抜けたりする間代発作、③強直けいれんに間代けいれんが続く強直間代発作、④全身あるいは体の一部が一瞬ピクンと跳ねるように動くミオクロニー発作、⑤突然意識を消失し、数秒から十数秒後にぱっと回復する定型欠神発作、⑥意識消失の始まりと回復が定型欠神ほどはっきりせず、持続も数十秒と長引くことの多い非定型欠神発作、⑦瞬時にして全身の筋力が失われ転倒する脱力発作、などがある。重要なのは、左右両方の脳が同時に発作に巻き込まれるため、発作の最初から意識は失われ、ミオクロニー発作を除いて症状に左右の差がないことである。

 部分発作は、発作が大脳の一部に限局しているうちは意識が保たれていることが多く、従って発作の始まりを自覚する。これを単純部分発作という。その後過剰な興奮(発作発射)が脳内を広がるにつれて意識は曇ってくる。これを複雑部分発作という。さらに発作発射が脳全体に広がると、強直間代発作に進展することもあるが、全般発作と区別するためにこれを2次性全般化という。2次性全般化が全般発作の強直間代発作と異なるのは、けいれんの始まりに眼球や頭部に一方的にねじれたり、手足のけいれんに左右差があることである。単純部分発作は、運動発作、感覚発作、自律神経発作、精神発作の4つに分類され、各々はさらに細分類されている。

2 てんかんの分類

 てんかんは部分発作を持つ部分てんかんと、全般発作を持つ全般てんかんに大きく分類され、各々は、推定病因の有無によりさらに特発性と症候性の2つに細分される。特発性とは明らかな原因がなく治りやすいという特徴を持つ一方、症候性とは何らかの脳障害を背景に発病し、薬物治療に抵抗性を示すことが少なくない。以上よりてんかんは例えば、特発性全般てんかん、症候性部分てんかんなどと分類される。

3 てんかん発作の介助と観察

 てんかん発作の特徴の1つに、発作は数秒から数分という短時間のうちに自然に止まることがあげられる。従って通常、発作を止めるための特別な処置は必要ない。30分あるいは1時間以上発作の続く状態を発作重積状態といい、この時のみ薬で発作を止める必要がある。発作時には、発作による二次的外傷の予防を考慮する程度で十分である。以上はあくまで原則であり、個別の対象を基本とする。医師が診察室で発作を目撃することは稀なため、周囲の人の発作の観察はてんかん診療では重要な役割を担っている。発作を目撃した場合には意識の状態、表情、手足の様子などを時間を追って記録することが重要である。発作の始まりを自覚できることもあるので、発作後に自覚症状の有無を聞き、あったらその内容を記録することは診断上貴重な情報となる。そのためには発作をただ見ているだけでなく、名前を呼んだり、手足に触れてみるなど積極的にかかわる必要がある。医師の立場からすると、「強直間代発作があった」という専門用語を用いた報告より、ありのままの状態を教えてもらった方がはるかに有用である。

4 てんかんの診断

(1)症状の観察

 てんかんの診断において最も重要なのは症状の確認である。詳細な情報により、発作がどこから、どのようにして起こるかが推定される。大胆に言えば、以下に述べる諸検査はその確認のためである。

(2)脳波検査

 脳波検査は、てんかんの診断にとって最も重要な検査である。先に述べたようにてんかん発作の本質は神経細胞の過剰な興奮にあるが、それは発作の最中だけではなく発作のない時(発作間けつ時)にも認められる。一般にてんかんの場合、発作間けつ時脳波を記録し診断に役立てている。てんかん性の過剰な興奮は脳波上、棘波や鋭波という鋭い波となって出現しこれらを総称し、てんかん波という。てんかん波の出現部位、出現の仕方などをみる。外科治療を前提として、さらに精密な発作起始部位を知るために、微細な電極を脳内や脳の表面に電極を留置して脳波を記録する方法もある。

(3)CTスキャン、MRI

 X線や磁気を用いて脳の形態や構造の異常を知るための画像検査であり、特にMRIが普及してからこれまで知り得なかった発作に関連する形態異常が同定されるようになった。その結果、手術により後遺症なく発作を止めることに成功した患者さんは大勢いる。

(4)その他の補助診断

 当院では脳の血流を調べるためのSPECT(スペクト)や、脳波上のてんかん波の出現部位を精密に知るためのMSI(脳磁図)測定などを行い、より精密な診断に役立てている。他に脳の代謝を測定するためのPET(ペット)という検査もいくつかの施設でてんかん診断に役立てている。

5 てんかんの治療

 てんかんの治療は薬物療法と外科療法に大きく分けられる。外科療法は、十分な薬物療法を行っても発作の抑制が困難で、発作の起こる場所が限局していて、切除しても後遺症の残らないことが推定される患者さんに対して考慮される。てんかんの治療の基本は薬物療法である。発作型により有効な薬物は異なるため、診断に基づき適切な薬物が試みられるが、必ずしも一度で有効な薬物が決まるわけではない。その調整の間、副作用が出現したり、発作が悪化したりすることもあり、本人や家族の不安を招いたり、本人の状態が一定せず周囲の者が困惑することがある。患者さんの状態によくわからない変化の生じた場合には、治療の進行状況を医師に確認することも重要となる。

 てんかんは慢性疾患ゆえ長期にわたる服薬が必要となるが、その間様々な理由で患者さんが自ら服薬をやめてしまうことがある。これは、てんかん重積状態という極めて危険な状態を招いたり、医師の判断を誤らせるもととなるので、そのような場合には、主治医とよく相談するようアドバイスする必要がある。

6 てんかんリハビリテーションの意義と阻害要因

 これについては、国立療養所静岡東病院の八木が1986年に発行された『てんかんリハビリテーション研究1』に全く同じタイトルで論文を発表している。てんかんを持つ人々は、病者としての側面と障害者としての側面の両面を合わせ持つ。これらを総括的に理解し、ひとりひとりの持つ問題点を明らかにすることなく、リハビリテーションの成功はない。以下は八木論文の要約である。

7 てんかんリハビリテーションの意義

 同論文では、16歳以上の外来通院患者さん310人について、医学―社会学的側面より分類を試みている。基準は1974年に発表されたハーチソンの論文中に記載されているJ.A.Simpsonのてんかん雇用分類である。同分類はてんかんを持つ人々の雇用形態を職業選択の自由なカテゴリー1から作業センターや手芸センターで作業可能なカテゴリー6および施設保護の必要なカテゴリー0の七段階に分類している。冒頭の310人をこの分類に当てはめたところ、70%の人が就労可能と推定されたにもかかわらず、実際に就労していたのは60%にすぎなかった。約10%の人は就労可能であるにもかかわらず就労していないことになる。この数字を日本国内で就労可能年齢にあるてんかん患者数で推定すると約4万人にものぼった。これらの人にこそリハビリテーション対策の必要性、意義が存在するとしている。

8 てんかんリハビリテーションの阻害要因

 さらにこの310人のリハビリテーションの阻害要因を詳細に検討した結果、以下の11の要因を分析している。

(1)発作―発作頻度が高いほど、てんかん病態の重度なほど就労率は低い。

(2)作業能力―知能障害は発作頻度より高い阻害要因であり動作緩慢、理解力、創造性の低さが問題となるが、作業持続性は良好なことが多い。

(3)生活の自己管理、独立心の問題―長期にわたる保護的生活、行動制限、生活環境の狭さなどがその原因として考えられる。社会復帰しても長続きしない要因となる。

(4)対人関係の未熟性―依存的で自信がない反面、他人への干渉が多くトラブルの原因となる。長期家庭への引きこもりによる訓練不足が原因であり、その期間が長いほど矯正は困難になる。

(5)重複障害のあること―片麻痺などの身体障害に加えて、抑鬱、興奮、不安など精神的な不安定さも大きな阻害要因となる。

(6)家庭内葛藤―親の高齢化、兄弟の結婚、世代交代などの家庭内力動が精神的状態に影響を及ぼし阻害要因となる。

(7)障害受容の困難さ―発病後20年近くたっても発作の不安から逃れられなかったり、発作があることの劣等感を払拭できないなど、障害を受容するのに時間がかかる。

(8)職業の制限―てんかんを持つことで法的に様々な職業の制限を受ける。諸外国にならって運転免許の制限が実状にあうように緩和されれば、それだけで職業の選択肢は広がる。(著者註:自動車運転免許に関しては、てんかん学会が1992年に緩和に関する見解を公表してから、少しずつ状況は改善しつつある)。

(9)治療の問題―適切な治療と助言を提供できないでいる治療者の側の問題である。

(10)リハビリテーション体制の不備―発作がありながら適切なリハビリテーションを提供できる体制がない。

(11)社会の偏見―患者さんがいかに差別されることを恐れているかは、学校、職場への病名の告知率の低さからうかがえる。就業するまでは雇用側に差別感があるものの、就業後には働く能力さえあれば上司も同僚も差別するわけではない。社会的偏見、差別がリハビリテーションの機会を奪うことになる。

 以上、簡単に八木の論文をまとめたが、てんかんを持つ人々のリハビリテーションを阻害する要因は多岐にわたることがわかる。個人に帰すれば、これらの要因が様々に絡み合っているのが実状である。ひとりひとりについて分析的に対処して初めて、個々のリハビリテーションの目的と課題が明らかになろう。そのことにより、患者さんの社会的生活の向上が得られることは、当院デイケアの長年の取り組みにより明らかである。

最後に

 以上簡単に、てんかんという病気の医学的、社会的側面を紹介したが、各々の問題は幅広くとてもこれだけの紙面では紹介しきれるものではない。現在てんかんに関する様々な出版物があるので、関心のある方は是非一読をお薦めする。日本てんかん協会に問い合わせれば詳しい出版案内を郵送してもらえる。

 てんかんは、昨年十月から始まった障害者手帳制度の対象となった。今後リハビリテーションを中心とした対策が積極的に講じられることを願って結びとする。

参考文献 略

(くぼたひでもと 国立療養所静岡東病院〈てんかんセンター〉)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年1月号(第16巻 通巻174号) 76頁~79頁