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特集/「障害者の機会均等化に関する基準規則」から見た日本の現状

日本の現状

規則4 支援サービス 

中西由起子

 規則4の7項目のうち、1~5項が補助具について詳細に定めている。補助具に多くが割かれているのは、基準規則自体がむしろ障害者人口の半数以上を占める、途上国に居住するリハビリテーションを受けることさえままならない障害者を考慮したものであるからである。

 ここで言われる「支援サービス」は、自立を目ざす障害者にとって、同じく機会の均等化の前提条件として並べられた「啓発活動」、「医療」、「リハビリテーション」と比べて最も関心があるべきところである。しかしながら、規則4の大半を占める自助具やその他の福祉機器に関する項目は、日本の障害者にとって当然のサービスも含まれているため、既に実施されていることとして、関心を持たれていないのは残念である。

 実際、福祉機器に関しても、6~7項で簡単に触れられている介助を含む日常生活の支援に関しても、量や種類の点から、諸外国に引けをとらないサービスが用意されている。それらのサービスが利用者を満足させるような世界的なモデルとなっていけるように、以下の提言を含めて問題点を指摘したい。

 4の1での「ニードに応じて…重要な施策として保障する」との原則が、支援サービスの実施の際に最も重要と考えられる。わが国での高齢者を対象としたゴールドプラン、障害者対象の市町村福祉計画(案)の双方とも、マクロ的な視点に立っていて、サービスを受ける側のミクロの生活者としての実態が無視されている。

 その説明によく使われるのが入浴サービスである。障害があるために自宅で入浴が不可能な人数を、週に一回デイケア・センターで入浴をさせることが可能な人数で割って、センターの設置数のみを福祉サービス達成の基準とするような計画経済の政策を誰も欲していない。東京・江戸川区のように自宅の風呂が改造され、一人で、もしくはヘルパーの助けで入浴できるようになるのが、普通の暮らしと考える。

 福祉機器に関しても、片手にマヒが少し残るポリオで歩行の出来ない友人に、電動車いすの交付が受けられない。すぐ近くの商店は踏切の向こうにあり、彼女はレールを越えるだけでエネルギーを使い果たしてしまう。手動の車いすだけでは用事も出来ず、結局家に閉じこもっている。

 4の2に関しては、市町村の障害福祉課や福祉事務所の係員に対して障害に応じて交付される福祉機器に関する情報を、出し惜しみしないで欲しいと訴えたい。せっかく便利な機器が開発され、障害者が利用できるようになっていても、自分で情報を手に入れ申請しない限り現状ではその恩恵に浴することはできない。

 日本の障害者は、少し余裕ができると日本製ではなく欧米の車いすを欲しがる。デザインも優れているし、使う人への配慮が行き届いているからである。折り畳み式の電動車いすも欧米からいくつかのモデルが輸入されてから、やっと国内のメーカーが試作品を発表した。日本は技術的水準の高い先進国であるのに、福祉機器の開発に対する投資が足りないからであると考える。四肢マヒの人用の1人で食事出来る機械の完成は、確かにハイテク技術の成果かもしれない。しかし1人での食事に2時間も費やすのでは仕事にも行けず、地域で自立しての生活は不可能である。4の3で言う「障害者の生産への関与」はニードに則して最新技術を使うために重要である。

 4の4についても、4の2で指摘した適切な情報の提供が必要である。その他に、現在日本の中古の車いすを海外に送る運動が2、3のNGOで大規模に始まったが、車いすを含めた福祉機器の国内でのリサイクルの可能性も指摘したい。特に高価な風呂場用リフト、室内エレベーター、電動ベッドなど、引越しや必要とする家族がいなくなったりの理由で不要になっても、持っていくところがない。リサイクルによって、必要な機器が無料で提供される道が開けるようになろう。

 4の5で言われる子供を対象として作られた補助具も、わが国では機能優先で、デザイン等いまだ欧米の同種のものよりどうしても見劣りすることは残念である。大手のメーカーより町工場などの民間の小規模な作業所で良いものが製作されているので、彼らの努力に報いるような助成金制度が望まれる。

 現在政府が進めているホームヘルパー制度は、24時間の要求を満たすものではない。現行の制度では、最重度の24時間常時付添いが必要な人が地域で生きることは不可能である。介護保険制度においてもそのような人は対象に考えられていない。そこでは夜間巡回サービスが予定されているのみである。4の6での介助計画がそのようなものでなければ、障害者の真の社会参加は推進されない。

 介助計画に利用者を参加させることが、4の7で規定された計画の運営に最も障害者が影響力を行使しやすい形態と言えよう。そのためには介助者派遣を基本サービスの一つとして発展してきた自立生活センターの存在を政府は認めるべきである。来年度の予算でもさまざまな自立生活支援策に予算が付くようである。しかし、既に全国に50か所以上にまでなった自立生活センターに関しては現状を全く無視して政策が進められていることは論外である。

 規則4はそのまま読むのではなく、特にそれに続く規則5の6、7、10のコミュニケーション、6の2の統合教育、7の2の一般労働市場での雇用、7の3の職場での機器の利用と合わせて検討されるべきである。それによって、意図するところがよりよく理解できるはずである。

(なかにしゆきこ アジア・ディスアビリティ・インスティテュート)

規則4 支援サービス

政府は障害を持つ人が、その日常生活面での自立のレベルを高め、その権利を行使するのを支援するために、障害を持つ人用の補助具を含む支援サービスの開発と提供を保障すべきである。

1.政府は障害を持つ人のニーズに応じて補助具・機器、介助、通訳サービスを、機会均等化を実現するための重要な施策として保障すべきである。

2.政府は補助具・機器の開発、生産、配布、維持・修繕とその知識の普及を支援すべきである。

3.これを実現するために、一般に行き渡っている技術的なノウハウが利用されるべきである。ハイテク産業が利用できる国では、補助具・機器の水準と有効性を向上させるためにハイテク産業が十分に利用されるべきである。可能な場合には地元の材料と地元の生産施設を利用した、単純で安価な装置の開発と生産を刺激するのが重要である。障害を持つ人自身がこういった装置の生産に携わることも可能である。

4.政府は補助具を必要とする障害を持つ全ての人が金銭面も含め、適切な補助具を入手できるようにすべきである。これは、補助具・機器が無料、もしくは障害を持つ人かその家族が購入できる安い価格で提供されるのを意味する場合もある。

5.補助具・機器の供給を目指すリハビリテーション計画で、政府は障害を持つ少女・少年用補助具、機器のデザイン、耐用性、年齢へのふさわしさに関する特別の必要を考慮すべきである。

6.政府は重度かつ、もしくは重複障害を持つ人を対象とした介助計画と通訳サービスの開発と提供を支援すべきである。こういった計画は障害を持つ人が日常生活、家庭、仕事、学校、余暇活動への参加の程度を高める。

7.介助計画は利用者が計画の運用に決定的な影響力を持つ形で立案されるべきである。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年3月(第16巻 通巻第176号) 16頁~17頁