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特集/「障害者の機会均等化に関する基準規則」から見た日本の現状

日本の現状

⑤規則11 レクリエーションとスポーツ

  平等な機会のためのわが国の努力

中川一彦

その過去と現状

 第二次世界大戦後、わが国では、社会体育と呼ばれて、国民のレクリエーションとスポーツ活動が、学校以外の職場や地域で広く行われていた。しかし、障害者については、1961年に「スポーツ振興法」ができるまで、それは、〝絵に描いた餅〟のような状態であった。

 1961年、大分県身体障害者体育協会が発足し、第1回大分県身体障害者体育大会が開催された。そして、1963年、「身体障害者スポーツの振興について」という通知が厚生省から出され、同省を中心に、障害者のスポーツ政策が展開されるようになり、1964年の東京パラリンピックを契機に、レクリエーションとスポーツへの平等な機会のためのわが国の努力が始まったのである。

 以来30年余り、「全国身体障害者スポーツ大会について」(1965年)に始まり、全国的、国際的な行事に障害者が参加するよう支援し、「身体障害者地域活動の育成について」(1966年)で、レクリエーション等により、地域身体障害者の福祉の向上を求め、「心身障害者対策基本法」(1970年)第25条で、明確に、「心身障害者が自主的かつ積極的にレクリエーションの活動をし、若しくはスポーツを行うことができるようにするため、施設、設備その他の諸条件の整備、文化、スポーツ等に関する活動の助成その他必要な施策」を講ずることを求めたのである。そして、身体障害者福祉センターの設置(1972年)、身体障害者スポーツ指導研修事業(1973年)、各種会館施設や国民宿舎等の保養施設における障害者の利用のための施設上の配慮(1975年)、障害者社会参加促進事業の実施(1979年)などを介し、それまで、リハビリテーションの手段として施設中心だったレクリエーションとスポーツが、賦与の形で、地域で展開されだしたのである。

 このように、賦与と依存の関係の中で、レクリエーションとスポーツの機会を与えられた障害者は、国際障害者年を契機に、自主的に、積極的に、そして自立的な活動としてレクリエーションやスポーツを楽しむようになったのである。そして、今では、車いすバスケットボール、バドミントン、柔道、水泳、テニス、アーチェリー、陸上競技、マラソン、卓球、スキー、重量挙げなどの種目別競技大会や指導者の養成、身体障害者スポーツ協力医の研修、障害者スポーツセンター協議会の開催、都道府県単位の障害者スポーツ協会の育成、そして精神薄弱者のスポーツ大会など、障害者のレクリエーション・スポーツ活動の社会化、言い換えれば、地域社会への統合化が進み、それは、自立の形で、地域社会で、QOLを目指し、展開されているのである。

今後の課題

 1995年、「市町村の障害者計画策定に関する指針」が出され、レクリエーションとスポーツについても、その促進のために、施設の整備、事業の実施、指導者の養成、団体の育成等を通じ、障害者のスポーツ推進のための諸条件の整備に努めること、建築物のバリアフリー化、そして公園、水辺空間等オープンスペースの整備を求めている。

 障害者のレクリエーション・スポーツ活動が盛んになり、社会化の動きもみられるようになってきた昨今、しかし、そこには、まだ沢山の問題が隠れています。

 その1つは、盛んになってきた障害者のレクリエーション・スポーツ活動が、まだまだイベント段階だということです。つまり、日常的にレクリエーションやスポーツを楽しんでいる人が少ないということです。多くの障害者が、生涯スポーツとして、余暇活動を発展させられるようにしなければなりません。

 2つ目は、〝みんなのスポーツ〟などと言われますが、レクリエーションとスポーツの主体者として、重度障害者が大切にされにくいということです。オリンピックやパラリンピックのことが注目されると、上ばかり見て底辺が見失われがちになるのです。もちろん、重度障害者固有のレクリエーションやスポーツもなければならず、底辺があって頂点があることを大切にしなければならないのです。オリンピックやパラリンピックは、統合されたレクリエーションやスポーツの家族であり、全ての障害者は、レクリエーションやスポーツの家族なのです。

 3つ目は、やはり、指導者が少ないということでしょう。障害者が、自己の能力を楽しく伸ばせるよう、障害を考慮したレクリエーションやスポーツから能力至上主義のスポーツまでを、障害者と共に作り上げることのできる、障害者とレクリエーションやスポーツを良く理解し、知識と技術を備えた、人に豊かさを保障する指導者の出現が待たれているのです。

 そして、最後は、まだまだノーマライゼーション、つまり、障害者の機会均等化、平等な機会には程遠いということです。もちろん、インテグレーションはまだまだです。何故なら、わが国のレクリエーションやスポーツは、特別視の対象ではないでしょうか。わが国では、障害者のレクリエーションやスポーツは、それぞれの親団体であるレクリエーションやスポーツの組織に所属し、平等に、その社会的責任を分担している姿を見ることがほとんどないからです。

 障害者のレクリエーションとスポーツの発展・平等な機会の保障のために、21世紀に求められているもの、それは、正に、インテグレーションであり、そのためのリハビリテーションやコミュニケーションだと思います。

(なかがわかずひこ 筑波大学体育科学系教授)

規則11 レクリエーションとスポーツ

政府は障害を持つ人がレクリエーションとスポーツへの平等な機会を持つことを保障するための方策をとる。

1.政府はホテル、海岸、スポーツ場、体育館等のレクリエーションやスポーツの場を障害を持つ人が利用できるようにするための方策をとるべきである。これらの方策にはアクセシビリティ・参加・情報・研修計画それぞれの方法を開発するためのプロジェクトをはじめとするレクリエーションとスポーツ事業の職員への支援を包含すべきである。

2.観光当局、旅行代理店、ホテル、自主的団体、レクリエーション活動もしくは旅行の機会に関係するその他の団体は障害を持つ人の特別なニーズを考慮に入れ、サービスを全員に提供すべきである。適切な研修がこの過程を支援するために行われるべきである。

3.スポーツ組織はスポーツ活動に障害を持つ人が参加できる機会をつくりだすよう奨励されるべきである。参加への機会を開放するにはアクセシビリティを整備するだけで十分な場合もある。特別な手筈や特別なゲームが必要になる場合もある。政府は障害を持つ人が全国的、国際的な行事に参加するよう支援するべきである。

4.スポーツに参加している障害を持つ人は他の参加者と同じ質の指導と研修を利用できるべきである。

5.障害を持つ人向けのサービスを作成する場合に、スポーツとレクリエーションを組織する者は障害を持つ人の組織と協議すべきである。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年3月(第16巻 通巻第176号) 24頁~25頁