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列島縦断ネットワーキング

[広島]

広島市の福祉のまちづくり事業の取組みについて

森 雅志

はじめに

 広島市は、昨年、被爆50周年を迎えました。廃墟の中から立ち上がった広島は、今ではアジア競技大会を開催できる都市にまで発展しました。

 平成6年12月、本市は、これまでの都市づくりの成果を踏まえて、21世紀に向けての新たなプロジェクトを含む近未来への都市づくり構想「ひろしま新世紀都市ビジョン」を発表しました。

 この都市ビジョンには、広島市の都市建設目標である「国際平和文化都市」を実現していくための行動目標として「世界に輝く人間讃歌都市ひろしま」を掲げています。

 この都市ビジョンに掲げるプロジェクトの一つとしてすべての人にやさしいまちづくりを積極的に進めていくこととしています。

1 市公共施設福祉環境整備要綱の制定─福祉環境整備基準の改定

 本市では、国際障害者年を契機として、誰もが住みよいまちづくり、出かけやすいまちづくりを目指した「福祉のまちづくり環境整備要綱」を昭和57年制定し、民間施設の整備指導、公共建築物、道路、公園等の整備・改善を進め一定の成果をあげてきました。

 しかし、この間に社会状勢も変化し、特に、今後の高齢社会の到来を踏まえた都市環境の整備を推進するためには、現行の基準では、必ずしも十分対応できなくなってきました。このため、この要綱の見直し作業をすすめていたところですが、平成6年6月に、いわゆるハートビル法が制定され、昨年3月には、広島県において「福祉のまちづくり条例」が制定されました。

 こうした動向を踏まえ、民間施設の整備指導については、基準の輻湊による混乱を防止する観点から、県条例(8年4月施行)に基づき指導することとしました。

 一方、都市施設の根幹をなす本市公共施設の整備については、身体障害者や高齢者等の利用に一層配慮した独自の基準を定めて先導的、模範的な整備を推進することとし、昨年8月に、「広島市公共施設福祉環境整備要綱」を制定しました。

2 市公共施設福祉環境整備要綱の主な内容と特徴─旧要綱と比較して

(1) 車いす使用者主体の基準から高齢者を含む身体的ハンディキャップのある者全般の利用に配慮した基準へ

◎通路、歩道等の広幅員化及び緩勾配化

(屋外スロープ勾配12分の1→15分の1)

◎階段及びスロープへの両側手すりの設置

(旧要綱は片側でも可)

◎腰掛け式手すり付き便房の設置(各便所1便房設置)

◎公民館、福祉センター等身近な利用施設へのエレベーターの設置(3階建て以上設置→2階建て以上設置)

◎玄関ドアの自動ドア化(地区集会所等の小規模施設を除く)

◎歩道の連続した平坦性の確保(車乗り入れ部の構造等)

◎視覚障害者誘導用ブロックの形状、明度差等敷設基準の統一

◎視覚障害者誘導用ブロックを玄関受付まで敷設(現行は、敷地入口から玄関入口まで)

◎集団補聴装置の設置(大ホールのある施設)

(2) 新しい福祉機器の普及に対応した基準

◎電動車いす使用者への対応(車いす使用者対応便房の広さ及び通路の広幅員化等)

◎集団補聴装置の整備(大ホールのある施設)

◎視覚障害者誘導用音声案内装置の設置

(主要施設の前の歩道に設置)

(3) 一定の整備水準を確保する基準

◎計画、設計段階での基準適応の任意選択性を排除し、施設種別ごとに整備水準を統一

(4) 事前協議制度

 基本計画、基本設計を要する施設について、福祉のまちづくり担当である高齢者福祉課との事前協議を義務づける他は、各担当部局(者)が自ら整備基準を取り込んで、計画し設計するよう改定

(5) 維持管理、施設運営に当たっての配慮規定の新設

 施設の良好な維持管理及びハード整備を補う案内、誘導、接遇、介助等、公共施設の管理及び運営に当たっての人的対応整備に関する規定を新設

3 公共施設福祉環境整備要綱の手引(公共施設バリアフリーデザインマニュアル)の作成

 福祉環境整備事業は、公共建築物、道路、公園等の建設から管理に至るまで、庁内の広範な部局が担当します。実効ある事業を推進するためには、担当部局がそれぞれの領域において自ら取り組んでいくことが重要です。

 要綱を職員に周知するため、要綱に定める基準を具体化し、都市施設整備及び管理に当たっての主要な留意事項等をまとめた手引書を作成しました。この手引は、全職場に配布するとともに、特に、施設の設計・施工に直接係わる技術系の職員全員に1冊配布し、施設管理者を含め、職員研修を継続的に実施し、徹底を図ることとしています。

4 既存公共施設の整備・改善事業─バリアフリーひろしま2001計画

 新たに建設する施設は、新しい基準に基づいて整備を進め、特に、既に建設された庁舎施設や公民館等の市民利用施設、学校など約八百施設をはじめ、市営住宅、公園、幹線道路の歩道や横断歩道橋などの公共施設については、1995年度から2000年度までの6か年、約90億円をかけて改善していくこととしています。

〈主な改善内容〉

◎建築物…段差解消、自動ドア化、エレベーター設置、手すり付き腰掛け式便器への改修、階段等への手すりの設置、誘導用ブロックの設置

◎市営住宅…共用階段への手すりの設置、スロープ設置、高齢者・障害者向け仕様住宅整備その他

◎道路…歩道段差の切下げ、誘導用ブロックの設置、歩道橋への手すりの設置、エレベーターの設置、視覚障害者誘導用音声案内装置の設置

◎公園…公園内への車いす使用者対応共用便所の設置、公園内施設の改良その他

5 福祉のまちづくり啓発事業

 福祉のまちづくりを進める原動力は、人の心です。ハード整備を活かすためには、障害者等に対する心づかいや手助け等のソフト面の整備も重要です。

 例えば、自転車を無秩序に放置しない、違法駐車しない、街で困っている人を見かけたら必要に応じて声をかけたり、手助けする。また、施設の雰囲気を温かく快いものとし、利用する人には思いやりをもって案内し、応対することが望まれます。

 こうした、福祉のまちづくりを心の面から推進するため、高齢者や障害者の特性や手助け方法等について解説した応対ハンドブックを作成し、職員及び民間事業者等に配布し、職員研修及び従業員教育に取り組んでもらうこととしております。

6 人にやさしいまちづくり事業補助制度

 民間建築物の福祉環境整備を促進するため、民間事業者の行う新築建築物(ハートビル法に定める誘導基準に適合する「認定建築物」)の福祉環境整備事業に対する助成制度を設けました(平成7年度創設)。

7 福祉のまちづくり庁内推進組織の設置

 福祉のまちづくりは、広範な行政領域に及び、関係部局が連携を密にして全庁一体となって取り組む必要があることから、昨年5月に市長を本部長とする「人にやさしいまち推進本部」を設置し、その中に「福祉のまちづくり事業部会」を設け、ハード、ソフトの両面にわたる福祉のまちづくり施策を総合的、計画的に推進していくこととしています。

(もりまさし 広島市民生局福祉部高齢者福祉課福祉のまちづくり担当)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年3月(第16巻 通巻第176号) 62頁~64頁