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特集/検証「障害者プラン」

全体として評価できる「障害者プラン」

手塚直樹

 「障害者プランの数値目標の設定・財政の裏づけ・早期実現」を主要事項とした障害者関係団体の要請行動は連続して実施され、昨年の12月15日には総理官邸で村山首相に直接会って最後の要請をした。その一連の行動に、知的障害者の福祉を推進する「全日本手をつなぐ育成会(以下「全日本育成会」)」として、他の障害者関係団体の代表と共に行動してきた実感から、総理府が関係省庁のプランのとりまとめに入ってから短期間で実現したことを喜びたいし、先ず評価したいと思う。実現へ向けての関係者の尽力に感謝したい。

1 現状の認識と特徴

 知的障害の立場から問題をとらえていくとき、次の3点の認識は重要である。

 第一に、知的障害に関する法律は身体障害に関する法律に10年遅れて制定されたし、全日本育成会が総力をあげて全国から256万人の署名を集めて実現した「JR等運賃割引制度」は身体障害者に40年遅れて実現した。知的障害に関する施策は「障害者」と総体的にとらえられる中では、その存在がきわめて弱いか質的に遅れていることが少なくない。

 第二は、統計数字上からみて、身体障害者約280万人、精神障害者約150万人、知的障害者約39万人で、施策の基本となる統計数字はむしろ少数派である。

 第三は、知的障害者は意思能力に弱い面をもつことがあるので、周囲の支え、援助が必要であり、特に現状においては本人の意思を尊重しながら親や関係者が発言し行動していくことが必要なことである。

2 障害者プランの評価

 全体を通しての考え方、必要な施策の組み立て、内容等は評価できると思う。特に「七つの重点施策の視点」の第一に「地域で共に生活する」、第二に「社会的自立を促進する」ことを位置づけていることは、全日本育成会の運動目標とも一致するところであり、高く評価したい。また全体的にみて「障害種別を超えた総合化」「地域生活充実の具体的施策の方向」「住民に最も近い市町村での施策の推進」を基本としていることに賛成である。

 特に知的障害の立場からみて、地域生活実現への要となるグループホーム等を5000人から2万人に増加したことと、平成8年度予算でさっそく例年より多い設置と重度加算を導入したことは評価できる。また療育体制の充実を強調していることや、具体的対応が示されていない不満はあるが「成年後見制度の実現」「無年金者の解消」「義務雇用制度の検討」「高齢化への対応」「精神薄弱の用語の見直し」等が提示されていることは、評価できると思う。

3 障害者プランの問題点

 特に知的障害の立場から主な問題点をあげると次のようになる。

 第一は、障害者プランは、物理的な環境の障壁、情報確保の障壁、市民のもつ意識や心の障壁、こうした障壁を取り除くバリアフリーを各箇所で強調しているが、情報の提供、安全や緊急時等の具体的な施策に、知的障害者がほとんどあがっていない。検討の過程でどのように位置づけられたのか疑問である。

 第二は、障害者プランの新しい一つの対策として計画された「障害者の社会参加を促進する事業を概ね人口5万人規模を単位として実施する」ことに、知的障害者が位置づけられているかどうか不明である。これから中味を具体的に検討するというのであれば、地域生活支援の中心となるこの事業に、きちんと位置づけて欲しいと思う。

 第三は、介護サービスの充実、特にホームヘルパーを4万5000人上乗せする計画になっているが、知的障害者の利用ができるのかどうか不明である。地域生活推進のうえで重要な介護サービスに、知的障害者をきちんと位置づけて欲しいと思う。

 また、家族支援の視点から重要であり、全日本育成会も強く要望してきたレスパイトサービスについての具体的な施策、地域生活を推進するうえで最も必要な、地域の中で利用できるショートステイの充実が考え方として確立されているのか疑問である。

 第四は、個有の重要な問題点である更生施設の増設である。障害者プランは「精神薄弱者更生施設を8万5000人から9万5000人分にする」と数値目標をあげている。1万人分を7年間で増加していく基本としての考え方、数値の根拠が明らかでない。また障害者プランが強調する地域生活の推進に、施設が新しい時代と社会のニーズに応えて変化していかなければならない役割と機能について、いっさい触れていないことは大きな問題点である。

4 具体的な進展への課題

 障害者プランの実現は、市町村での障害者計画の策定と実施にかかっている。

 全国の育成会は、他の障害者団体と協同して、それぞれの地域で具体化するように運動を進めていきたいと思うが、知的障害の立場に立ってみたとき、特に次の点に留意したいと思う。

 第一は、障害者プランの中の、個々の「障害者計画」に、知的障害者がどのように位置づけられているかの確認、第二に知的障害の固有の課題への具体的な対応の検討、第三に各県・各市町村の障害者計画策定への参加と、実現へ向けての運動の展開である。

 そして、各市町村での具体的な実施の中から問題点を把握し、見直しをしていくことが必要である。2002年までの7年間を考えると、この見直しは遅くとも2年以内に実施されることが必要だと思う。

(てづかなおき 全日本手をつなぐ育成会常務理事)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年4月号(第16巻 通巻177号) 15頁~16頁