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特集/検証「障害者プラン」

数値目標から見た「障害者プラン」

尾上浩二

1 ゴールドプランとエンゼルプランのはざまで

 ここ数年、福祉分野では「計画」策定がブームのようである。これまで高齢者福祉の「ゴールドプラン」、児童福祉の「エンゼルプラン」が策定されてきた。これらの福祉分野での「計画」策定が、ともすれば財政事情に左右されがちな〝福祉政策〟を、市民生活に不可欠な〝生活基盤〟としてしっかりと確保していくために策定されてきているならば歓迎すべきことだろう。

 障害者政策の分野でも、「障害者新長期計画」(以下「新長期計画」)が既に1993年に策定されている。しかし、この「新長期計画」と上記二つのプランとは性格が異なる。ゴールドプランでは、ホームヘルパー・デイケア等具体的な項目について、向こう十年で整備すべきサービスの総量が具体的な数値をもって示されている。

 それに比べて「新長期計画」は、理念と各分野ごとの課題について述べられているだけで、見劣りがするのは否めない。

 そのため障害者政策の先行きが見通せない状況にある。例えば、私の住む大阪市では1987年の「国連・障害者の十年」の中間年以降、介護やグループホーム、作業所などの独自の制度がかなり充実してきた。しかし、ここ2、3年ピタッと動きが止まってしまった。

 たしかに税収の落ち込み等が背景にはあるが、それだけに原因は求められない。同じ民生予算でも「ゴールドプラン」関連のホームヘルパーやデイケアは着実に伸びてきているからだ。「単年度主義」の予算の中で、実効性を欠いた障害者政策の脆弱さがもろに出てきたといえよう。

 こうした中、「ゴールドプラン」に匹敵する障害者計画が求められていた。さらに、昨年5月に障害者対策推進本部が発表した「市町村障害者基本計画策定指針」(以下、「策定指針」)の中でも「数値目標を設定した計画」の必要性が指摘されていた。

 そのように障害当事者・関係者の注目を集めて策定された「障害者プラン」ではあるが、果たして、その期待に応えるものであっただろうか。

2 紆余曲折を経て策定された障害者プラン-目立つ省庁間のバラつき

 まず、「障害者プラン」の策定までにかなりの紆余曲折があったことに注目しなければならない。

 一つは、数値目標の設定をめぐってである。一昨年から厚生省の「障害者保健福祉施策推進本部」を中心に作業が始められてきたが、秋の予算案の段階では白紙のままであった。もう数値目標はつかない」とうわさされる中、最終的に厚生省関連に限って一応示された。しかし、そうした経過からも分かるとおり、「計画」とは言うものの、「客観的なニード」に照らした数値ではなく、財政当局が認める数値を当てはめたというのが正直なところだろう。

 もう一つは、プランの所轄省庁についてである。中間報告までは厚生省の障害者保健福祉施策推進本部で検討が重ねられていたが、最終段階で総理府の障害者対策推進本部に変わった。それに伴って、「関係省庁の施策を横断的に盛り込んだプランになった」と言われている。障害者のあらゆる分野での社会参加の実現ということからすると、全省庁が関ったことには意味がある。しかし、数値目標は、厚生省以外はほとんど示されていないし、何よりも省庁間のバラつきが大きい。

 内容的には、「①地域で共に生きるために」、「③バリアフリー化を促進するために」が多少注目に値する内容が含まれているくらいで、その他は、「策定指針」の中からピックアップした内容がベースになっている(前述の経過からすると、厚生省以外は、ほとんど再検討する時間がなかったことも一因であろう。)

 ①「地域で共に生きるために」では、地域での住まいや働く場の確保をトップ項目とし、今後すべての公営住宅のバリアフリー化を提起していることは評価できる。また、グループホーム2万人やホームヘルパー4.5万人と、地域で生活していく上で必要不可欠なサービスについても、ともあれ数値が示された。他方、働く場・活動の場の確保については、授産施設6.8万人とあるものの、全国で3500か所にもなった共同作業所については「分場方式」「デイサービス」に言及されているだけで、今後の見通しを欠いたものとなっている。

 加えて、障害者の自立生活推進の原動力となっている自立生活センターについてもまったく言及されていない。「30万人に2か所、相談・生活支援・情報提供の実施」との記述が随所に出てくるが、各地で発展してきている障害当事者が運営する自立生活センターが正当に位置づけられるようにすべきだ。

 また、所得保障や難病者へのサービスが付け足し程度にしかふれられていない。さらに、精神障害者関連の政策では、グループホームや福祉向上などの数値に精神障害者分も含まれているというものの、相変わらず医療中心の記述になっていることも大きな問題だ。

 ③「バリアフリー化を促進するために」では、歩道や交通機関、建築物について比較的具体的な記述がなされているが、いずれもエレベーター整備指針やハートビル法等すでに実施されてきている政策をまとめたものと言えよう。

 こうした点以外は、「策定指針」の記述とほとんど大差のない内容となっている。

 特に、「②社会的自立を促進するために」は、その不十分性が際立っている。教育では「盲聾養護学校・特殊学級」と相変わらず分離教育に固執しており、雇用では雇用促進法に基づく助成・指導並びに重度障害者は第3セクターという従来の枠組みから一歩も抜け出ていない。「教育と労働」という社会参加の基本的部分では「障害者は別枠」という姿勢のあらわれで、このプランの基本理念であるノーマライゼーションやバリアフリーに反しているとすら言える。

 最後に、数値目標について、「大阪府新長期計画(ふれあい計画)」との比較表を作成してみた。

表 障害者プランと大阪府ふれあい計画・数値比較表
   障害者プラン 府換算 ふれあい計画 単位 補足
グループホーム 20,000 1,050 3,780 府の数値は知的3200,精神580人
身障ケア住宅・グループホーム     500 障害者プランは項目なし
授産施設・福祉工場 68,000 3,570 3,500   
ホームヘルパー 45,000 2,363 1,842 人上乗せ 府の数値を上乗せ分に換算
ショートステイ 4,500 236 800 か所   
デイサービス 1,000 53 54 か所 府の数値は在宅供給ステーション70を除く
精神障害者生活訓練施設 6,000 315 990 府は「入所型社会復帰施設」
精神デイケア 1,000 53 45 か所 府の数値510人増を施設数に換算
精神障害者適応訓練事業 5,000 263    府は該当項目なし
通所型社会復帰施設       740 障害者プランに項目なし
共同作業所       1,430 障害者プランに項目なし
身体障害者療護 25,000 1,313 730   
精神薄弱者更正 95,000 4,988 3,300   

 各々の計画での項目の立て方も違うので単純な比較はできないが、障害者プランを人口比で換算した数値(府換算)と大阪府新長期計画での目標量(ふれあい計画)を比べると、地域福祉分野では唯一ホームヘルパーが大阪府の計画を上回っている程度で、それ以外は同等か、下回った数値となっている。その点からすると、今回の障害者プランは「地域中心主義」の政策体系とは決して言えない。

 他にも、今回の数値の不十分さの証左がある。障害者プランの準備の過程では、例えばグループホームは「人口1万人あたり2か所」等の数値が示されたと言われており、それに比べると実際に出来上がったプランは、その五分の一の数値目標にしか過ぎない。

3 当事者参加で特色あふれる市町村計画を! 真のノーマライゼーションプランへの見直しを!

 以上、「障害者プラン」についてザッと見てきたが、どうしても厳しい評価にならざるを得ない。

 しかし、あえて言うならば、まがりなりにも数値目標が示されたこと自体に、今回のプランの意義がある。これまで「障害者のニードは多様だから、数値目標はできない」と、まことしやかに言われ続けてきた。だが、ようやく数値目標が示されたのである。

 「策定指針」では、1996年度中に市町村計画を策定することとなっている。ぜひ、「障害者プラン」も一つの参考にして、各地で地域の特色あふれる市町村計画が全国各地に広がることを期待する。

 そのためには、障害当事者の参加が決定的に重要だ。昨年、私たちDPI日本会議も実行委員会構成団体として準備を進めた「第1回障害者政策研究集会」は予想を超える参加者を得て、熱心な討論が繰り広げられた。ここに示された草の根の障害者運動のパワーが結集し、数値目標も含んだ実効力ある市町村計画が広がっていくならば、「障害者プラン」の見直しにつながっていくだろう。

 すでに実例はある。ゴールドプランが、実際に市町村の高齢者保健福祉計画の数値を積み上げたところ、当初の数値を上回り、ホームヘルパー17.5万人等の新ゴールドプランにつながったことは周知の通りである。

 1997年は「新長期計画」の中間年に当たる。この時期を一つのポイントにして、それまでに少しでも多くの自治体で実効力ある市町村計画を、私たちの手でつくりあげていこう。そのことをバネにして、「障害者プラン」の見直しへつなげていこう。

(おのうえこうじ DPI日本会議)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年4月号(第16巻 通巻177号)21頁~23頁