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列島縦断ネットワーキング

[滋賀]

明日にかける橋

滋賀県障害者雇用支援センターから

片岡卓示

●はじめに

 平成6年10月、障害者の雇用の促進に関する法律の改正に伴い、障害者雇用支援センターの設置・運営の道が開かれた。すでに障害者の雇用促進については、企業の理解と協力により一定の進展を見ているところであるが、今後はさらに重度障害者の雇用対策に重点を置き、可能な限り一般雇用の促進と、障害の特性に応じたきめ細かな対策を総合的に講ずる事になった。

 以前から滋賀県においては、重度障害者の一般企業への就労・職業的自立を促進するために関係機関及び、その専門家がプロジェクトをつくり、協議を重ねていたところであった。そして、その支援の一環を担う専門的施設の開設に向けて準備を進めていた。こうした背景もあり、平成6年11月、滋賀県南部の7市町と滋賀県が母体となり、財団法人滋賀県障害者支援センターは設立された。そして12月に法律に基づく障害者雇用支援センター業務を行うものとして、知事の許可を受け正式に発足したわけである。

●「明日にかける橋・しが」の役割

 センターの入り口には「明日にかける橋」の看板を掲げている。このネーミングは障害者が就職し、社会の中にあって、ノーマライゼーションの推進役となってくれることに期待し、そして滋賀県障害者雇用支援センターがそんな「かけ橋」となりたい。こんな想いを込めて掲げた目標であり、スローガンである。

 今日まで教育、福祉、労働、医療それぞれの現場が養ってきた実践の結果、障害者に対する社会理解は確実に進展しつつある。そして、全国各地域では重度障害者の就労支援への取り組みが、様々に推進され始めている。平成6年の障害者の雇用の促進等に関する法の改正はこうした動きに大きく弾みをつけた。この潮流の中で全国で最初にスタートを切った滋賀県障害者雇用支援センター「明日にかける橋・しが」の使命もまた大きいと感じている。今こそ各地域、各分野がしっかりと連携し、明日につながる大いなる橋をかけるときではないだろうか。「明日にかける橋・しが」は、いま全国各地域で進みつつある重度障害者の雇用支援への取り組み(橋かけの仕事)に、連携のメッセージを発信したいと考えている。

 滋賀に続き現在、熊本と埼玉に障害者雇用支援センターが出来ており、その業務を開始している。そして現在、その先駆けとなった滋賀湖南地域障害者雇用支援センター「明日にかける橋・しが」には、全国各地の県や市からの問い合わせや視察も多く、全国各地に「障害者雇用支援センター」が次々と出来ていく兆しを感じている。障害者の職業的自立に向けての、継続的な支援活動が全国各地で、連携を持ちながら取り組まれていく。そんな姿が見え始めてきた。

●職業準備訓練・職場実習と職場開拓

 平成7年4月、センター発足当初から、在職中(あるいは休職中)の障害者やその保護者などから様々な相談が舞い込み、雇用支援の拠点施設として世間の期待もまた大きいことを痛感している。現在までに10名の支援対象者を迎え、センター内では「職業準備訓練」を実施すると共に、障害者の就労に関する種々の相談に対応すべく奔走している。

 現在、職業準備訓練を受講している支援対象者の年齢幅は大きく、障害程度も様々である。今日までの経歴もまた様々であり、日々の対応から今後の展開計画についてもまたそれぞれの特性に応じた個別な対応が必要になってくる。従って訓練内容にも工夫が求められるわけである。

 訓練はともすると単調になりやすく、いかに意欲を引き出すかを一つの目標として、訓練内容を組み立てるようにしている。幸い地域企業の協力を得て、いくつかの受注作業を手がけることが出来たことは、「職業準備訓練」に変化と活気をもたらしている。またそれらの事業所を見学したり、仕上がった製品を納入する手続き方法などを通じ、訓練期間中にも実社会と交流し、「労働」の認識を深めるよう心がけている。

 1か月を経過した段階で、1人の訓練生については意欲も十分であったために、企業実習を経験させることが出来た。この実習については近隣の重度障害者多数雇用事業所である企業の社長が、支援センターを訪問した際、訓練生の作業ぶりを見て、「会社で仕事の場を提供するから早めに実習させてみてはどうか」と勧めていただき実現した。一般企業を利用させていただいての職場実習はより実践的な訓練であり、事業所の理解を得て積極的に取り組んでいきたいと考えている。その後も訓練生の課題に応じ職場を選び、職場実習を実施しているところである。

 さらに今年から企業の協力を得て、週間の訓練メニューに訓練生全員を引き連れての職場実習を取り入れている。センター内の作業はどうしても手作業の仕事に限定されるが、これから彼らを送りだそうとする企業では、道具の利用を含めた機械操作が求められることが多い。センターでは用意しきれない部分については、大いに社会資源を利用していきたいと考えている。そして一人では不安が大きい対象者についても、この方法だとスムーズに企業の雰囲気に馴染むことが出来るし、就労に対する意欲を向上させる上でも効果は大きい。経費面、効果面で大きいメリットがある。

 昨年11月に、支援センター訓練生の中から第1号の就職者が出た。これは他の訓練生にとっても大きな励みとなった。平成8年1月には2人目が決まり、もう1名は就職前提の職場適応訓練を開始している。

●就職後の支援、援助

 長期職適訓練を含めると、支援センター訓練生から現在3名が社会に巣立ったわけであるが、そのいずれもがまだまだ不安部分を多く抱え、継続的な支援なしには就労定着が困難と思われるケースばかりである。就職初期には付き添い指導を実施し、本人がまず安心して仕事が出来るように、職場には余裕を持って見守っていただけるよう、両者の関係作りを主にフォローアップを行っている。従業員の方たちとは一緒に作業しながら、私たちが媒体となり理解と協力をお願いする方法が一番である。

 障害者の雇用好事例には、企業の中に必ず障害者を支えるキーパーソンとなる人がいる。関わりの中から理解の輪を広げ、キーパーソンになっていただく方を見つけ、連携を密接に保ち、就労定着に向けて相互努力をしていきたいと考えている。初期の導入がうまく行けば、その後生じる問題についても比較的対応しやすい。

 さらに、就労支援の相談については、在職中(あるいは休職中)の障害者や保護者、福祉施設や学校などから種々の相談が舞い込み、このような場合、関係の企業や地元の公共職業安定所、障害者職業センター、福祉機関・施設等に敏速に連絡を取り、相互の連携の中で問題の早期解決に向けての活動を行っている。今後とも障害者の就労定着のための相談、援助業務は重要な仕事であることは言うまでもない。

●障害者雇用の拡大とノーマライゼーション実現に向けてのネットワーク

 発足当初に、湖南地域の共同作業所・授産施設等を訪問した。その結果、障害者雇用支援センターに寄せる期待の大きさを実感した。また地域の障害者の就労に積極的に取り組んでいる作業所グループ代表の方々の訪問を受けた。こうした交流の中で、障害者雇用の拡大や就労支援に向けて、共通理解と認識を深める事が出来た。この問題に関心を持ち、関わる人たちがいかに連携し、ネットワークをつくり、具体的な展開方法を見つけるかが、これからの課題であり大きな仕事であると考えている。

 障害者の就労の場の確保や拡大には、まだ困難な問題が山積みされているが、ノーマライゼーションの理念が浸透し、障害者に対する社会理解は徐々に広がっている。そして障害者の就労を促進し、自立を援助するためのシステムづくりもまた、全国各地で徐々に広がりを見せつつある。今これらの実践をお互いに勉強し合い、情報を交換しあえるネットワークが求められている。そうした連携の取り組みを推進していきたい。滋賀県障害者雇用支援センター「明日にかける橋・しが」もこの一役を担いたいと考えている。

(かたおかたくじ 滋賀県障害者雇用支援センター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年4月号(第16巻 通巻177号) 59頁~61頁