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特集/市町村の福祉のまちづくり

町田市のバリアフリーの取り組みについて

水島 弘

1 車いすで歩けるまちづくり

 町田市では、「一度でいいから、自分の力で買い物をしたい」という車いす利用者の声を聞き、数々の検討の中から、1972(昭和47)年、重機運搬用大型トラックの上下動する油圧装置をヒントに、それを小型化してワゴン車の後部に取付け、車いすのまま乗れるリフト付きワゴン(ハンディキャブ)「やまゆり号」(写真1 日本初のハンディキャブ「やまゆり号」 略)を日本で最初に開発・運行した。このハンディキャブの運行が、町田市のまちづくりに大きな影響を与えることになった。

 それは、歩道、建物をはじめ街の至るところに段差があり、まして、車いす利用者が使用できるトイレはどこにもなく、折角ハンディキャブで車いす利用者が街に出ても、ひとりでは一歩も動けない現実があったからだった。

 問題解決の手始めとして、市役所周辺の歩道の段差切下げと公共施設の出入口の改善及び車いすで利用できるトイレの設置を行った。そしてこの動きは、デパート、事業所など民間の施設にも広がったが、「基準」がないため、中には十分に使えない施設が作られる結果となった。

 そこで、この問題に対応するため、実際に車いす利用者の動きを実測し、さらに、学識経験者の意見から欧米の基準を参考として、1974(昭和49)年、全国に先駆けて、「町田市の建築物等に関する福祉環境整備要綱」(以下、福祉環境整備要綱)を施行した。福祉環境整備要綱は、大型店舗、映画館、病院、官公庁舎など多くの市民が利用する建物、道路及び公園を対象として、スロープの設置、段差の手すり設置、ドアの幅員の確保、車いすで利用できるトイレなどの整備を求めた。具体的な運用としては、実行性を上げるため、特定行政庁としての立場を生かし、建築指導課との連携をとりながら、建築主に事前協議を求める体制とした。

 この福祉環境整備要綱の施行は、社会的な反響をよび、「車いすで歩けるまちづくり」は大きく前進することとなり、特に、1980(昭和55)年の町田駅前再開発事業に際しては、JR横浜線から小田急線への乗換通路に段差をスロープ化したペディストリアンデッキ(写真2 町田駅前のペディストリアンデッキ 略)が設けられ、さらに、JR町田駅には、当時の国鉄としては初めて、旅客用エレベーターが設置された。

 さらには、他の自治体へも影響を与え、京都市、横浜市などが相次いで福祉環境整備要綱を施行し、国際障害者年〔1981(昭和56)年〕を契機に全国の自治体へと波及していった。

2 町田市福祉のまちづくり総合推進条例

 町田市では、目前に迫った高齢社会にすべての市民が安心して暮らしていける対策を検討するため、1990(平成2)年に「町田市高齢社会対策検討委員会」(樋口恵子委員長。以下、委員会)を設けた。委員会では、「市民の意見を聴く会」を開催すると共に、「町田市高齢者保健福祉調査」を実施し、高齢社会に対する市民の問題意識を受け止めながら作業を進め、「まちづくり」「住宅・施設」「社会参加」「福祉と保健・医療サービス」を基本的な課題とする四部会を設け、検討を加えて行った。

 そして、この委員会において「福祉環境整備要綱は新たな方向性の検討(対象の拡大、規制強化など)が必要である」との提言をもとに、高齢者・障害者をはじめすべての市民の社会参加を促進する「福祉のまちづくり」をより発展させるため、福祉環境整備要綱の趣旨を生かして条例化することになり、町田市議会の議決を経て、1993(平成5)年12月「町田市福祉のまちづくり総合推進条例」を公布した。

 条例の前文において「すべての人々が、ひとりの人間として尊重され、社会参加の機会を平等にもつことにより自己実現を果たせる社会を実現することは、私達の願いであり、責務でもある。(中略)来る21世紀に向けて、すべての市民にとって住みやすいまちづくりを推進するために、市民の総意で取り組む決意をもって、この条例を制定する」と掲げ、条文は、4章37条からなっている。

 第1章では、条例の目的と、市長・市民・事業者のそれぞれの責務を定めた。

 第2章では、「福祉のまちづくり」に重要な地域社会の連帯形成、健康の確保、社会参加の促進、在宅福祉の充実などを規定した。

 第3章は、福祉環境整備要綱の新たな意味付けを行い、すべての市民が安全に移動でき、住み続けられることを目標に、都市施設の整備、電車・バスなどの公共車両の整備、住宅の整備を求めた。

 第4章においては、条例の施行を規則に委任することを規定した。

 そして、条例を1995(平成7)年7月より施行するため、「福祉のまちづくり総合推進条例施行規則」(表)を定めた。

都市施設の種類(建築物) 都市施設整備基準
大規模公益施設 学校、博物館、図書館、社会福祉施設、官公庁舎〈すべてのもの〉 ・道路から出入口に至る通路(135㎝・1/20以上)
・出入口幅員(主要100㎝・その他85㎝以上)
・廊下幅員(140㎝以上)
・階段(手すり・幅員120㎝以上)
・車いす仕様エレベーター(1000m2以下の学校・保育園は除く)
・便所出入口幅員(85㎝以上)
・車いす便房
・点字ブロック
・駐車場(車いす仕様)
病院、診療所〈入院施設のあるもの〉
集会所〈1の集会所の床面積が200m2超〉
飲食店、物販店、ホテル、旅館、劇場、映画館、展示場、体育館、プール、ボーリング場、金融機関、郵便局、事業所、工場、地下街、複合施設〈1000m2超〉
小規模公益施設 診療所〈入院施設のないもの〉 ・道路から出入口に至る通路(90㎝・1/12以上)
・出入口幅員(主要85㎝・その他80㎝以上)
・廊下幅員(90㎝以上)
・階段(手すり)
・便所出入口幅員(80㎝以上)
・車いす便房(300m2超の飲食店・物販店・集会所は設置義務)
・集合住宅のエレベーター(5階以上・4階かつ40戸以上〔ワンルームは50戸以上〕・公営住宅は、設置義務)
理髪店、美容院〈すべてのもの〉
集会所〈1の集会室の床面積が200m2以下〉
物販店〈1000m2以下・200m2超〉
飲食店、事業所、物販店・飲食店・事業所の複合施設〈1000m2以下・300m2超〉
劇場、映画館、展示場、体育館、金融機関、郵便局〈1000m2以下〉
遊技場(パチンコ店、ゲームセンター)〈200m2超〉
集合住宅〈9戸以上〉

3 今後に向けて

 町田市では、1994(平成6)年11月に、地方分権特例制度(パイロット自治体)の指定を受けた。今回、申請した特例措置は、市立小・中学校の余裕教室を利用し、高齢者施設に転用するものである。

 いままで、国の補助を受けて建設した学校を学校以外の施設に利用する場合は、文部大臣の承認が必要であり、その上、利用できる用途も学童保育、児童館、集会所などに限られ、高齢者施設として利用することは、出来なかった。

 具体的には、町田市高齢者総合計画に基づき、南地区の小学校の一部を高齢者デイサービスセンターとして計画を進めている。

 町田市は、障害者や高齢者を特別な存在としてとらえるのではなく、市民のひとりとして、自然に触れ合うべきだと考えて「福祉のまちづくり」を進めてきた。今後ともこの精神を生かし、「町田市福祉のまちづくり総合推進条例」をより具体化させ、真のバリアフリー社会が実現できるよう願ってやまない。

(みずしま ひろし 町田市福祉部福祉総務課)

参考文献 略


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年5月号(第16巻 通巻178号) 14頁~16頁