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高度情報化社会にむけて

パソコン通信への道

第2回

-受ける側から支援の側へ

内山幸久

1 パソコン通信による出会い(ネットワーク・コンソーシアムの活動)

 連載第1回で、私はパソコン通信することにより、「情報発信することを知り、活動する仲間を得て、さらにパソコンをするための機器とソフトと知識を得たのである」と書いた。今回は、まずその「活動する仲間」達から紹介する必要がある。

 ワープロ通信を始めてから約三年経ったころ、「ネットワーキング・フォーラムin横浜」(主催・ネットワーキング・デザイン研究所)が開催された。私はそのパネリストとして招かれたが、ネットワーク・コンソーシアム研究会の仲間とは、このフォーラムで出会ったのである。社会的基盤が欲しかった私には、興味深い内容であった。ちなみに、会長からは「情報弱者のための道具作りをしてみないか」と声をかけられた(念のため、私は一会員にしか過ぎないことを断っておく)。今では、介護用品や障害者の身の回りの品を企画・開発している。

 研究会の会議は、パソコン通信を活用している。会員間は遠距離であるので、これはかなり有効である。但し、パソコン通信だけで全てを済ますのではなく、実際に顔を突き合わす会議(月1回)ももっている。これは、会員間の意思の疎通を図るためと実作業を行うためであり、パソコン通信では主に経過報告が主体である。

 参考までに、以下にネットワーク・コンソーシアム研究会の目的と理念を挙げる。

① 自立と自律の自己を持つ個人から構成される組織であること

② 社会貢献が出来る組織であること

③ お互いに平等の関係を保つネットワーク組織であること

④ 自己実現の場となる組織であること

2 複数のメディアを活用した障害者支援

 ところで、私は、マウンテン・ペンギン(重度頸髄損傷者自立リアルティー・モデル・ルーム)も主宰している。これは、そもそも、私という頸髄損傷者の実生活の場を訪ねて来る人が遠慮しない様に、「公」としての宣言をしたので、その名称を付けた訳である。活動内容は、主に、「福祉機器を活用した実生活の紹介」や、「福祉機器の利用コーディネート」・「開発された福祉機器のモニター・テスト」の他、会員向け「ペンギン通信」の発行や「パソコン通信をするためのお手伝い」を行っている。また、ネットワーク・コンソーシアム研究会とは、親密な連絡体制(事業提携)を取っている。

[ペンギン通信]

 ペンギン通信は、重度障害者のための手作り道具を紹介するミニ通信紙である。企画から発行までには、5つの工程(企画立案、イラスト作成、本文・編集後記作成、校正、発送)があり、その一部分にパソコン通信を含めた情報メディアを巧く活用している。

(企画立案)ネットワーク・コンソーシアム研究会の会議で提案する。

(イラスト作成)簡単なスケッチをデザイナーにファクシミリする(スケッチは、会議の時に事前に描いておく)。完成イラストは、Macintoshのファックスモデムで受け取る(修正依頼は、電話とファクシミリとで行う)。

(本文・編集後記作成)本文は、イラストを見ながら作成。

(校正)同研究会の仲間にファクシミリを送る。

(発送)ペンギン通信の購読会員にファクシミリまたは郵送。

 なお、編集にはMacintoshの版下作成ソフトを利用しており、レイアウトなども同時に行っている。もちろん、ファックスモデムを利用して、プリントアウトせずに先方へ送ることも可能である。

[パソコン通信の手伝い]

 重度身体障害者には、自らが不特定多数の者とコミュニケーションできるパソコン通信が有効である。しかしながら、パソコン通信を行うには、機器の選定・設置、ソフトの組み込み・設定が必要の他、障害に対応したソフトを選ぶことから、ホスト局のIDの取り方、アクセスの仕方、また自動巡回をするためにはマクロの組み込みが必要となる。このサポートは次の様に段階的であり、決して急いでは行わない。

① 機器とソフトウエアの選定

② 機器の設置とソフトの組み込み

③ IDの取り方やアクセスの仕方の相談・指導

④ ボード散策の仕方

⑤ マクロのサポート

3 パソコン通信を利用した自立生活センター(サポートの記録)

 大手商用パソコン通信局コペルニクス(株式会社ケイネット)には、障害者の相互による自立生活支援を目的とした「くるまいすライフサロン」がある。これは、移動困難な重度障害者にとって情報通信が社会参加に役立つことを研究する「高齢者・障害者へのヒューマンテクノロジー応用研究(神奈川県)」のモニター実験として開設された。私もモニターの一人として参加している(ネットワーク・コンソーシアムやマウンテン・ペンギンの事業とは関係ないので、念のため)。当初のモニター実験において検証された相互支援の有効性を、広く公の場で展開するため、この「くるまいすライフサロン」を開設した。以下、モニター実験における支援内容の概略を記す。なお、本章の末尾に紹介する大谷顕弥氏とはモニター実験以来の仲間である。

① モニター時代のサポート

 ・機器とソフトの選定、ハードの設置 ソフトのインストール(神奈川リハビリテーションセンター・リハ工学研究室による)

 ・ボードへの書き込み方(自己学習を含む)

 ・ボードでの会議の進め方や事業の行い方(経験者による)

② くるまいすライフサロンのサポート

 ・マクロサポート(パソコン通信の操作を簡略化するため)

 ・わいわい広場(気楽におしゃべりしながらするサポート)

 ・自立生活Q&A(少し改まってするサポート)

③ サポート体験録(文・大谷顕弥氏)

 私は、現在28歳の男性です。2年半前、26歳の時に思いがけない事故にあってしまい、四肢マヒ(首から下がマヒした状態)の障害を受け車いすでの生活を余儀なくされてしまいました。しかし、病院での入院生活の半年は短くて、在宅になってから快適に生活するための訓練も中途半端なままに退院が決まってしまい退院が間近に迫るにつれて「本当に、家に帰って普通に生活が出来るのか・何も不安なく暮らして行けるのか」という疑問が生まれるようになってきました。実際に在宅での生活に戻ると、不安なこと、分からないことだらけで、介助をしてくれている母と共に試行錯誤の続く毎日でした。

 パソコン通信との出会いは、退院を間近にひかえたOT(作業療法科)のリハビリ訓練で、担当の先生が参加している神奈川県の地域総合研究のモニターとして「パソコン通信を利用して在宅での訓練指導や、その他の障害者の方々との情報交換の研究に参加してみないか」と声を掛けてもらったことが始まりでした。

 この様な経緯があってパソコン通信を始めるようになった訳ですが、通信どころかパソコンをいじったこともなかった私は、本当にパソコンを使えるようになるのかと不安もありましたが、OTの先生達のサポートにより環境を整えて頂き快適にパソコンを始めることが出来ました。

 初めてアクセスした地域総合研究のボードはCUGボードだったこともあり、安心してパソコン通信に慣れることもでき、同じ様な障害を持つスタッフの皆さんに在宅生活での悩み等を相談することによって徐々に外出の機会も増え楽しい生活を取り戻すことができました。この経験から障害者にとって相互生活支援がとても大切であるということを痛感しました。

 しかし、アクセスする回数・時間が増えてくるようになり、手動でのボード巡回は大変手間が掛かるようになって来ました。そこでボード上で「楽なアクセス方法はないか」と問題を提起したところ、スタッフでもありベテランネットワーカーでもある内山氏がマクロサポートをしてくれると声を掛けてくれたわけです。サポートと言っても同じ障害者で、しかも重度の内山氏がどの様にサポートをしてくれるのかと心配もありましたが、マクロのファイルをメールで送ってもらったり、細かい所は電話で教えてもらったりすることによって思った以上に簡単にサポートを受けることができました。サポートを受けることによって自分自身のパソコンへの知識も向上した様にも思います。

 今では、内山氏やスタッフと共に、パソコン通信をこれから始めようと考えている障害者や高齢者、いわゆる情報弱者の為に「出来ることをしたい」という強い想いが自分自身に生まれてきていることを強く感じています。

4 インターネットへの支援

 近年、インターネットが話題にのぼる。しかし、インターネットで最もポピュラーなWWW(World Wide Web)サービスの利用であっても障壁が大きい。

 まず、パソコンはMacintosh(CPU68040以上が望ましい)か、WINDOWSを搭載したAT互換機かNEC製のPC98がいる。さらに、モデム(14400bps以上)と電話回線が必要である。ソフトは、ブラウザ以外にもPPP(電話回線を利用したインターネットに接続するソフトウエア)などが必要となる。しかしながら、インターネットにおける通信手順は難解であり、インターネットのためのソフトウエアには経験者に助言を求める様に記述されている説明書も多い。個人でインターネットにアクセスする場合はインターネット接続業者(プロバイダ)と契約を結ぶ必要がある。ちなみに、私は、比較的容易にインターネットが利用できるといわれるMacintoshユーザーであるが、各種の設定には困惑した。この際、プロバイダのサポートを受けたが、このサポートは通常受け得る権利なので、インターネットへの接続準備をする際は、ブラウザ等のソフトウエアを入手する前にプロバイダと契約することをすすめる。

 最後に、高度情報化社会、とりわけインターネットへの期待は大きい。しかしながら、障害者がパソコン通信するのは未だ困難であるのが現状であり、インターネットへの接続はそれ以上に知識と経験を必要とするのであれば、障害者の情報アクセス権が脅かされていることになる。何も障害者だけに限らないかも知れないが、やはり周りに、サポートしてくれる人がいるか否かは大きな違いとなる。サポートを受けた人が少しでも速く、少しでも多くの方々がサポーターになることを期待する。

 なお、「くるまいすライフサロン」は1996年3月の研究終了をもって閉鎖され、構成や名称を新たにして事業展開される予定である。

(うちやまゆきひさ ㈲ネットワーク・コンソーシアム、マウンテン・ペンギン)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年5月号(第16巻 通巻178号) 49頁~52頁