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特集/各県の総合リハビリテーションシステムの現状

栃木県の総合リハビリテーションシステムの現状

大友崇義

1 はじめに

 平成7年12月に障害者保健福祉推進本部から、1兆円の財源を担保し、平成14年を目指した「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略」が公表され、はじめて施策の整備目標値をもった実施計画が示された。ゴールドプラン、エンゼルプランに加えて、これで3つの計画が出揃ったことになり、未曾有の高齢・少子社会に対応する本格的な保健・福祉行政を推進する時代になった。

 今後、国、県、市町村が一体となってこの計画をどのように具体化していくか、その取組が期待されている。

2 栃木県の状況

 栃木県の人口は、平成8年1月1日現在、198万6,825人(推計)で、高齢者人口は、人口の14.2%である。しかし、地域差が大きく、32.2%を超える地域もある。平成8年度の県予算額は、7,778億8,000万円、保健福祉部の予算額は812億3,000万円で、県予算額の10.4%である。身体障害者は、5万9,243人、知的障害者は、6,569人、寝たきり老人は、4,673人である。障害の重度化・重複化・高齢化は確実に進行している。

 今年度、県においては、10年ぶりに大幅な組織改革を行い、保健と福祉を所管する部を統合し、県職員総数の約3割弱にあたる1,500名を超える最大の部となった。今後、本格化する高齢社会に対応した保健福祉行政の総合的な推進を図ることとしている。

3 栃木県における総合リハビリテーションシステムの取組

(1) 研究調査

 栃木県でリハビリテーションを本格的に検討しはじめたのは、昭和61年度を初年度とし、平成7年を目途とする「とちぎ新時代創造計画」における位置づけからであった。

 計画では、障害の重度化・重複化・高齢化に対応して栃木県身体障害医療福祉センター(以下「身障センター」という)の医学的リハビリテーション機能を充実することであった。身障センターの前身は、肢体不自由児施設(昭和35年)にはじまるが、昭和48年に、身体障害者更生相談所、肢体不自由児施設、肢体不自由者更生施設、重度身体障害者更生援護施設を新たに付設して、児童から成人までの一貫した施設となった(平成8年4月1日現在、入・通所定数272名、職員数138名)。

 しかし、その後、人口の高齢化に伴う脳卒中後遺症による障害者や交通事故等による障害者の増加など、障害の様相も変化し、これらの状況変化に的確に応えたセンターの再編が求められていた。このため、昭和62年度に、「栃木県心身障害児者総合リハビリテーションシステム研究会」(座長・板山賢治全国社会福祉協議会常務理事)及び、作業部会(部会長・高山忠雄国立リハビリテーション研究所障害福祉研究部長)を設置し、2年間にわたる調査研究を行った。

 そして、平成元年1月に、「総合リハビリテーションシステム構想」をまとめ、今後の総合リハビリテーションシステム構築のあり方とその中核機関のあり方を提言した。

(2) 構想の原型となった心身障害児地域療育システム

 昭和56年に「国際障害者年」に伴う事業として障害者の家族と知事の懇談会が開催されたが、その時、障害児を抱える家族から障害児の早期療育システムの必要性について提言があった。障害児をできるだけ早期に発見し、早期に療育することの重要性については、大津市での実践やボイタ・ボパーズ等の療育技術の発達が明らかにしていたが、まだ積極的にシステムとして取り組む自治体は稀れであった。

 昭和57年、県において「栃木県心身障害児地域療育システム研究会(委員長・高柳慎八郎)」を設置し、足利市をモデルとして3か年をかけて研究調査に着手し、障害児の発見から相談・診断・判定・治療・訓練・指導等の一貫したシステムのあり方を提言した。現在、このシステムは、全市町村で実施されるようになっている。

(3) 総合リハビリテーションシステムの概念

 昭和57年の身体障害者福祉審議会答申で、「リハビリテーションは第3の医学と言われることもあるが、それは単に運動機能障害の機能回復訓練の分野を言うのではなく、障害を持つ故に人間的生活条件から疎外されている者の全人間的復権を目指す技術及び社会的、政策的対応の総合的体系と理解すべきである」としている。

 総合リハビリテーションシステムとは、障害者の全人間的復権を目指して、医学的リハビリテーションにとどまらず、社会的、教育的、職業的リハビリテーションの技術及び社会的、政策的対応を統合あるいは連携するシステムと考える必要がある。

 すなわち、心身障害児療育システムの実践とこれら内外のリハビリテーションの理念を踏まえて、児童から高齢者にいたるライフステージの各段階に対応して、障害の発見・相談・判定・治療・訓練・指導・社会復帰等に関わる一貫した医療・教育・社会・職業分野の各リハビリテーションを総合的に提供するシステムを構築しようとする構想が「総合リハビリテーションシステム構想」である。

(4) 総合リハビリテーションシステム実現に向けての具体的な取組

 ①「健康と生きがいの森(仮称)」構想システム構想を具体化するに当たって、まず課題となったのは、システムの中核を担う拠点整備に係わる敷地の確保であった。

 おりしも、国においては、行革審の方向を受けて、国立病院の再編問題が検討されていた。栃木県においては5か所の国立病院があり、県中央に隣接している3か所の病院の内1か所が統廃合されることになった。

 その敷地は21haあり、その跡地の利用について、昭和62年、県民各層を代表とした委員からなる「健康と生きがいの森(仮称)整備懇談会」(会長・池嶋和雄栃木県博物館長)が設置され、県民の健康と生きがいづくりを促進する保健福祉の総合ゾーンとすることの提言が行われた。

 平成3年度には、県においてこの提言をもとにして「とちぎ健康と生きがいの森整備(仮称)基本計画」をまとめ、対外的にその内容を示した(表1)。

表1 「健康と生きがいの森」の骨子
①健康づくりセンター ②生きがいづくりセンター ③総合リハビリテーションセンター
・健康増進部門
・保健情報の提供
・調査研究
・健康科学展示部門
・学習・研修
・総合相談
・情報の提供
・調査研究
・世代間交流
 各種イベントの開催
・総合相談・判定部門
・情報提供・調査研究
・医療部門
・施設部門
・地域リハビリ支援部門

 平成4年度には、「健康と生きがいの森(仮称)」整備準備室を設置し、第1期工事として、健康づくりセンター、生きがいづくりセンターの整備に係わる基本設計・実設計に着手した。総合リハビリテーションセンターについては第2期工事とされた。

 平成6年度には、第1期工事が開始され、平成8年の秋には総延面積2万3,000m2の建物が完成する。

② 総合リハビリテーションシステムの構築

 総合リハビリテーションシステムの構築に当たっては、地域リハビリテーションシステムの整備とその中核機関の整備が不可欠として「とちぎ障害者福祉プラン」(平成5年~12年)に位置づけた。

 まず地域でのシステム整備については、平成4年度から足利市(人口160,000人)で、平成7年度からは、鹿沼市(人口8万人)において、3年間の「総合リハビリテーションシステム推進モデル事業」を開始し、現在、その総合的なあり方について調査研究を進めている。また、システムの中核拠点としての総合リハビリテーションセンターの整備については、平成6~7年度にかけてセンターの機能、規模、運営計画等のあり方についての調査を進め、庁内の合意形成を経て、「総合リハビリテーションセンター設備について」(平成8年1月)をまとめ、その内容を対外的に示した(表2)。

表2 総合リハビリテーションセンターの整備について
Ⅰ 総合リハビリテーションセンター整備目的

 近年における障害者は、重度化、重複化、高齢化等の傾向にあり、障害者に対する有効な支援としてのリハビリテーションの対応は、できるだけ早期に、かつ、相談、判定、治療、訓練、指導等の一連の流れが、一貫して、体系的、総合的に実施されることが必要である。このため、医療をはじめ、教育、職業、社会の各分野が緊密な連携のもとに行われる総合リハビリテーションシステムを円滑に推進する中核機関として「総合リハビリテーションセンター」を、「とちぎ健康と生きがいの森(仮称)」に整備する。

Ⅱ 総合リハビリテーションセンターの設置場所

 宇都宮市駒生町地内〔とちぎ健康と生きがいの森(仮称)約21ヘクタール内〕
           第2期工事用地 約7ヘクタール

Ⅲ 総合リハビリテーションセンターの基本的性格

 (1) 県域の総合リハビリテーションの中核として、市町村域、広域の他のリハビリテーション医療機関等では、対応が困難なリハビリテーションニーズを持つ障害者を対象とする。

 (2) 子供から老人まで、すべての年齢層の障害者のリハビリテーションを対象とする。

 (3) 医学的のみならず、社会、教育、職業的リハビリテーションの一貫したリハビリテーションを体系的に実施する。

 (4) 生活基盤である家庭や地域社会での自立を目指したリハビリテーションを実施し、地域リハビリテーションへの早期かつ円滑な移行を図る。

Ⅳ 総合リハビリテーションセンターの機能概念図
Ⅳ 総合リハビリテーションセンターの機能概念図

 この整備構想をもとに、平成8年度には、基本設計・実施設計費(平成8年・9年度の2か年継続事業)3億2,000万円(総延面積2万1,000㎡・総額180億円)を計上し、平成12年度内の完成を目指し、新たに職員6名を増員し、本格的な整備作業を開始している。

③ 地域リハビリテーションシステムに関する諸条件の整備

 県域システムの中核機関としての総合リハビリテーションセンターの整備については、方向が明確になったが、今後、地域でのシステムをどのように構築するかが大きな課題である。足利市や鹿沼市でのモデル実践の成果に期待するところが大きいが、総合リハビリテーションセンターのオープン時に合わせて、市町村域や広域での地域リハビリテーションシステムを作動できるように諸条件を整備することが喫緊の課題である。

 県の「障害者福祉プラン」(平成5年~12年)は、3年を経過した時点で、総合的な点検を行うことになっており、今年はその年に当たる。ちょうど、国からも「ノーマライゼーションプラン」と市町村計画の策定ガイドラインが示されたことから、国・県・市町村がリンクした計画の策定をめざして、本年度、2,000万円の予算を計上した。今後の地域リハビリテーションシステムの整備には、市町村における計画の策定が大きな役割を果たすものと考えている。

 また、システムの運営方法・技術の開発も大きな課題であり、市町村圏や広域圏のシステムを推進する機能を明確にすることが大切である。現在、県では、保健と福祉の組織改革の第二弾として、平成9年度に保健所と福祉事務所を統合し、「保健福祉センター(仮称)」とする作業を急いでいる。このセンターが、今後、地域リハビリテーションを推進する役割をどのように担うことができるか十分に検討したいと考えている。このため、関係者の英知を集めて、市町村や広域におけるシステム運営の具体的なあり方について調査研究を進めることとしている。さらに、リハビリテーションの方法・技術を担うマンパワーの養成も重要である。幸い、本県には、リハビリテーションマンパワーを養成する国際医療福祉大学が設置されており、今後、その卒業生の活躍に期待している。

4 おわりに

 総合リハビリテーションシステムの構築といっても、まだ、その概念、システムのあり方、システム運営方法、各リハビリテーション技術を担うマンパワーの養成と確保のあり方について、具体的なものは、実態化されているわけではない。システムの構築は、まだ、目的概念の段階にあり、今後、関係者のたゆまぬ努力が必要である。児童から高齢者までを対象とした総合的なシステム構築は歴史的な実践の積み重ねが大切と考えている。

(おおともたかよし 栃木県保健福祉部生涯福祉課長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年6月号(第16巻 通巻179号)20頁~23頁