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特集/市町村障害者計画

シリーズ・市町村障害者計画

第1次市区町村アンケート調査結果から

市町村発、障害分野の新時代

藤井克徳

はじめに

 ある程度予想はしていたものの、実態はそれをはるかに上回るものがありました。全国の市区町村のうち、障害者計画について既に策定済と回答があったところは6%強、策定中を合わせるてどうにか10%を超える程度という厳しい数値が明らかになりました。

 一方、わが国の障害分野において今最も力点を置くべき課題は、障害者プランの実効度を高めていくことであり、わけてもその実質的な推進役を担う市区町村の実施体制をいかに強力なものにしていくか、このことが問われています。努力目標とはいうものの、総理府が求めた市町村障害者計画の策定期限は平成8年末です。それほどの余裕はなく、半年後に迫っています。大半の市区町村が未策定にある現実をどのように好転させていくか、21世紀のわが国の障害分野の水準を占ううえで重要な意味を持つだけに、関係者の努力が求められるところです。

 なお、著者も「新・障害者の十年推進会議」企画委員の一員として、調査にかかわってきました。そうした立場から、本誌において今号と次号との2回にわたって今回の調査結果に見る実態と特徴、さらにはそこから浮かび上がってくる今後の課題について、紹介したいと思います。

1 首長自らの直筆回答80市区町村

 全国3255市区町村すべてに対して行われた今回の調査、回答があったのは2043(62.8%)市区町村でした。専門の調査機関の話によると、市区町村を対象とした悉皆調査としては比較的回答率が高いとのことでした。回答率を市区町村別に見ていくと、市区74%、町60%、村58%と、自治体規模が小さくなるにつれ、回答率が低下しています。なお、回答率と後掲する「障害者計画」や「障害者施策推進協議会」の策定・設置状況などとの関係を見てみましたが、ほとんど相関していないようです。

 次に、「回答者」について見てみます(図1参照)。本調査は、依頼にあたって「原則として、市区町村長によって記していただきたい」旨をリクエストしました。言うまでもなく、調査を通して少しでも障害分野への関心や認識を深めてもらうことがその趣旨だったのです。結果的に直筆による回答は、2043市区町村中80人(3.9%)の首長に留まってしまいました。これについては、首長の障害者施策に対するいわば熱心度のバロメーターともなるもので、もう少し高い数値を期待していただけに、やや残念です。市区町村別では、市区9人(回答のあったうちの1.8%)、町512人(同4.4%)、村19人(同5.7%)となっており、ここからはとくに際立った傾向は見られません。

図1 回答者についての市区町村別回答状況

図1 回答者についての市区町村別回答状況

2 障害者計画の策定、半数が消極姿勢

 「市町村障害者計画の策定状況」、このことが今回の調査の大きなポイントの1つでした。「市町村障害者計画」については、障害者基本法にも明記され(第7条2)、また総理府によって作成された市町村障害者計画策定指針においても、平成8年度末を策定期限とし各市区町村に努力を呼びかけています。どのような回答が寄せられるのか、関係者の注目を集めていました。

 まず驚いたことは、意外と策定が進んでいないということが分かったことです(図2参照)。策定済の127市区町村(6.2%)と策定中103市区町村(5.1%)とを合わせてもわずか11.3%、非常に深刻な数値です。ただ救いなのは、「策定を予定している」と回答のあったところが723市区町村(35.6%)にのぼり、検討中の921市区町村(45.3%)を加えると、今後の展開によっては相当な水準に達することも期待できます。

図2 市区町村障害者計画の策定状況

図2 市区町村障害者計画の策定状況

 他方、「策定の予定がない」と回答があったところが159市区町村(7.8%)ありました。市区町村高齢者保健福祉計画が義務規定(老人福祉法第20条8)だったのに対し、障害者計画が努力規定であるとの違いはあるにせよ、最初から「予定なし」という姿勢はあまりにも後ろ向きなような感じがします。

 回答があったところのうちこれを都道府県別に見ていくと、策定済・策定中が最も多かったのが山梨県内市町村の72.9%、次いで東京都53.8%、大阪府37.5%、群馬県37%の順になっています。これとは逆に、策定の予定がないとした市区町村が10%台にあるところが8府県、20%台以上が5県にのぼっています。

3 「政策決定段階への参加」 このままでは…

 障害者基本法には、市町村に「……地方障害者施策推進協議会を置くことができる。」(第30条4)とあり、この設置をいかにして推進していくかが重要な課題となっています。そこで本調査では、地方障害者施策推進協議会の設置状況とその内容について回答を求めることにしました。

 まず設置状況についてですが、既に設置しているところが76市区町村(3.8%)、設置予定164市区町村(8.1%)、検討中1299市区町村(64.3%)、予定なし480市区町村(23.8%)となっています(図3参照)。とくに気になるのが、予定なしと回答のあった市区町村が約4分の1にも及んでいることです。これを都道府県別に見ていくと、設置を予定していない市区町村が30%を超えているところが10都道府県、また設置市町村ゼロというところが19道府県もあります。全体としては非常に低調な状況にあるなか、既に設置が28%に達している大阪府など、数はそれほど多くはありませんが熱心な自治体も見受けられます。

図3 地方障害者施策推進協議会の設置状況

図3 地方障害者施策推進協議会の設置状況

 次に、既に設置されているところ(106六市区町村)についてその内容を見ていきます。これについて、2つのポイントから迫ってみます。1つは、地方障害者施策推進協議会の開催回数についてです(図4参照)。年間の開催回数が1~2回が51市区町村(48.1%)、3~4回39市区町村(36.8%)、5回以上16市区町村(15.1%)という状況にあります。今一つは、その構成にあたって障害者・障害者団体の代表がどの程度参画しているかということです(図5参照)。さすがに、大半のところでは障害者が加わっており、97%に達しています。ただし参画している人数となると非常に低調で、1~2人に留まっているところが41.1%にのぼります。開催回数の面から、また当事者参画の面からも、どの程度実質性を持つものなのか疑問が残るところです。

図4 市区町村障害者施策推進
協議会の年間開催日数

図4 市区町村障害者施策推進協議会の年間開催日数

図5 市区町村障害者施策推進協議会における
当事者・障害者団体代表者の参画状況

図5 市区町村障害者施策推進協議会における当事者・障害者団体代表者の参画状況

(次号は、①障害者施策担当体制②各市区町村の重点施策③障害者関連予算④今後の課題などについて記載します。)

 前号では、「障害者計画策定に係わる市区町村長アンケート調査」のうち、①アンケートの回答状況、②市区町村障害者計画の策定状況、③市区町村障害者施策推進協議会の実態について考察を加えました。本号は、前号に続き調査結果から明らかになった特徴点に焦点を当て、合わせて市町村障害者計画をめぐる今後の課題について言及してみたいと思います。

1 手薄い障害者施策担当体制・専門の相談窓口

 障害がある人々のための施策展開にあたっては、専門性や継続性を備えた行政組織が必要となってきます。逆にいえば、担当体制が充実していればしているほど障害者施策の水準が高められる条件があるということになるのです。

 今回のアンケートで、「市町村障害者施策担当体制」の項について回答のあった市区町村数は2019でした。特徴点は、以下のとおりです(図1参照)。

図1 障害者施策担当体制

図1 障害者施策担当体制

 その第1は、専門の部課係を設置しているところが非常に少なく、わずか18%に留まっていることです。市と区(東京都の特別区をさす)については、それぞれ42%と59%となっていますが、町村となるとこれが一挙に10%前後にまで減少してしまいます。

 第2に、障害種別と担当体制との関係についてで、ことに精神障害者施策についての担当体制が極端に弱体であることが挙げられます。専門の担当体制について、身体障害者施策ならびに精神薄弱者施策についてはそれぞれ18%台と17%台ですが、精神障害者施策は8%台でしかありません。またこれと表裏の関係で、「担当体制なし」(専門部課係・兼務部課係のいずれも)と回答があったのが、身体障害者施策1%、精神薄弱者施策8%、精神障害者施策20%と、こちらの方は精神障害者施策が突出して多くなっています。

 第3に、都道府県によって担当体制に相当な落差が見られ、総じて都市部ほど体制の整備が図られていることが挙げられます。東京都、神奈川県、大阪府、京都府下の市区町村においては、身体障害者施策ならびに精神薄弱者施策の専門担当体制を確立しているところがいずれも30%以上に達しています(平均は18%)。

 なお、市区町村における専門の相談窓口についても、ほぼ同じ傾向を示しています(図2参照)。全体で見ると、障害分野についての専門の相談窓口を設置している市区町村は、わずか13%という状況です。これを障害種別で見ていくと障害者施策の担当体制と同様、精神障害者のための相談窓口は他障害と比べ大きく立ち遅れ、8%でしかありません。

 以上の調査結果から、障害者施策の担当体制ならびに専門の相談窓口については、自治体規模が小さくなればなるほどその水準が低下していく傾向にあり、また障害の種別では精神障害者への対応の不十分さが際立つものになっています。

図2 専門の相談窓口設置の状況

図2 専門の相談窓口設置の状況

2 重要施策の上位は地域生活支援関連施策

 各市区町村に対し、今後充実すべき施策(国への要望含む)についてあらかじめ設定した31項目の中から複数選べるかたちで回答を求めました(回答数1997件)。上位の施策項目を見ていくと、①公共建造物や道路等の障害者に対する配慮(47%)、②ボランティアの育成・障害者への理解を求める市民啓発活動(46%)、③在宅サービス(ホームヘルパー・デイサービス・ショートステイ)の推進(45%)、④通所作業所など福祉的就労施策の充実(40%)、の4項目が40%台で、第五位以降の施策とはかなりの開きが見られます。いずれも障害がある人々の地域生活を推進していくうえで不可欠の施策であり、地域生活支援に重心を置いてきた昨今の政策基調が、市区町村にも着実に浸透していることがうかがえます。

 また、市区町村によって重要施策の順位に若干の差異があり、市で第1位にあげたのは在宅サービスの充実、区は通所作業所の充実、町村は共に公共建造物・道路等の充実でした(重要施策ベスト20は図3参照)。

図3 重要施策への要望

図3 重要施策への要望

 なお、障害者施策関連の予算についても興味深い結果が明らかになりました。本アンケートでは、1994年度(平成6年度)予算をもとに回答を求めましたが、市区町村別に見ていくと最も予算額が多いのは区で34億3000万円、次いで市の11億3000万円、村の5500万円。町の5000万円の順となっています(いずれも、1自治体の平均額)。人口の規模から見て、障害がある人々の数は町の方が村より多いと考えられ、しかしながら予算規模がなぜ逆転しているのか、その理由は定かではありません。

 予算額と障害の種別との関係でもはっきりとした傾向が表れています。全体としては、身体障害者が最も手厚く、精神薄弱者、精神障害者の順となっています。例えば、市について見ていくと、身体障害者施策予算の5億8000万円、同じく精神薄弱者施策予算の3億9000万円と比べ、精神障害者施策予算は、1700万円、まさに桁違いといったところです。村に至っては、精神障害者施策予算は40万円(身体障害者4900万円、精神薄弱者350万円)と、まさに悲惨な状況に置かれています。ここでも精神障害者施策の立ち遅れが目立ちます。障害者全体に占める精神障害者の割合が30%近くにものぼりながら、どうしてこうした状況に置かれているのか、極めて深刻な問題として受けとめるべきです。

3 今後の課題

(1) 市町村障害者計画づくりに全力を

 ノーマライゼーションとリハビリテーション(全人間的復権)の理念を礎とした「障害者プラン」は、間違いなく今後のわが国の障害者施策をリードすることになるでしょう。しかしながら、それは市区町村の障害者計画によって裏打ちされるもので、市町村障害者計画の水準がプランの価値を左右するものになるといってもいいと思います。プランで示された施策の多くは、その実施主体や運営主体が市区町村となっており、敷かれたレールの上を前進することができるか否かは市区町村の姿勢(主体性)と大きく関係してきます。プランが策定された今、改めて市町村障害者計画がクローズアップされ、しかも形だけの計画ではなくその水準・出来映えが問われてきているのです。

 このように、かけがえのない役割を担う市町村障害者計画ですが、本アンケートを見る限り決して満足できる流れにはなっていません。計画の策定状況や障害者施策推進協議会の設置状況、同協議会への障害者の参画状況、障害者施策担当体制や相談窓口の実態など、いずれをとって見てもふがいないものがあります。

 総理府は、昨年5月、プラン策定の作業のさなか「市町村障害者計画策定指針」を都道府県に通知(平成7年5月11日・総内第77号)しました。この中で策定の時期について「……遅くとも平成8年度中には策定されることが望ましい。」と記し、努力目標とはいえ来年3月末を策定の期限としています。「平成8年度中」を目標に、策定の推進を図っていかなければなりませんが、何としても「未策定市区町村ゼロ」をめざしたいものです。もちろん内容面の充実にもエネルギーが傾注されなければなりません。

 なお、市町村障害者計画はプランの中間見直し(数値目標の再設定)にも直接影響するとされ、その意味からも高い水準を備えながらの策定推進が重要になってくるのです。

(2) 策定にあたっての留意点、3つのポイント

 最後になりますが、本アンケート結果も踏まえながら、計画策定にあたってとくに留意すべき事柄をいくつか挙げて見たいと思います。これから策定しようとしている市区町村、策定の推進を働きかけている民間の関係者の方々に参考にしていただければと思います。

 その第1は、策定の過程を重んじることです。既に策定されたいくつかの計画を見ると、結果として検討回数や当事者の参画が実質的なところほど、充実度は高いものになっています。

 第2は、すべての障害を対象とする視点を堅持するということです。今回のアンケートでは、精神障害者への対応の貧しさが浮き彫りにされました。精神障害者施策がどの程度位置付けられているか、このことが個々の計画の水準を占うバロメーターになるといってもいいと思います。精神障害者以外にも、欠落しがちな難病、脳血管障害やアルコール・薬物依存などによる中途障害者も施策の対象として、明確に位置付けるべきです。

 第3に、計画策定や策定後の施策推進の方法・形態の在り方についてです。具体的には、プランでも奨励している広域圏域(複数市町村)による計画策定や施策展開を図っていくことです。人口規模が2000人未満の町村は、823町村(市区町村全体の25%にあたる)にのぼります。これらの自治体が単独で、すべての施策を一定の水準で具体化していくということはあまりにも非効率的で、現実的とはいえません。施策によっては、複数の自治体で実施・運営するという方式(事務組合方式など)があってもいいと思います。この点での先進地域としては滋賀県が挙げられ、1982年度(昭和57年度)より福祉圏方式(全県を7ブロックに区分け)を実施し、さまざまな経験の蓄積が図られています。今回の市町村障害者計画についても、既に6月の時点で圏域ごとに策定作業が終了し「滋賀県各福祉圏における障害者地域福祉計画」がまとめられています(7分冊で構成)。

 当面は、計画策定の推進が最大のポイントとなり、新・障害者の十年推進会議としましてもその推進に全力を挙げ、さらに時機を見計らって市区町村を対象とした第2次アンケートを実施していく予定です。

(ふじいかつのり 新・障害者の十年推進会議企画委員、本誌編集委員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年8・9月号(第16巻 通巻181・182号) 12頁~14頁・44頁~47頁