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1000字提言

障害者の復権

-すばらしくありたい1回きりの人生-

伊東弘泰

 いささか私事で恐縮だが、わがアビリティーズ運動はこの4月で30周年を迎えた。

 「保障よりも働くチャンスを」「人間に無能力者はいない」のスローガンを掲げ、運動体として日本アビリティーズ協会を、重度の障害者の働く場として株式会社日本アビリティーズ社を設立し、運営してきた。そして、障害者の職業能力を実証し、一般企業への障害者雇用を願ってきた。

 私は1歳にしてポリオを患い、3級の障害者だ。卒業の時、それを理由に100社余りの会社から採用を拒否された。願書は試験の前に返送されてきた。

 昭和46年、当時の原健三郎労働大臣に面会。それをきっかけに障害者雇用促進法の見直しが始まり、昭和50年に大幅な改正法が実現、いまの雇用率制度が設けられ、実効ある運用に入った。

 そして早20年が経つ。しかし一般企業の障害者雇用は依然進んでいるとは言い難い。わずか1.6%の雇用率も達成していない企業が多く、特に5千人以上の大企業が不振だ。企業サイドには障害をもつ人々に進んで雇用の機会を提供する姿勢が弱い。本気では考えていない。だからネガティブな理由がたくさん出てくる。

 一方、送り出す側、つまり、教育、訓練、厚生支援、雇用安定行政、医療サポート等のシステムや内容、関係者の熱意もまた脆弱だ。職業的能力がないと思われていた心身に障害をもつ多くの人々が、実は、理解と機会、時間や適切な応援や指導を得られることにより見事に成長し、素晴らしい成果を発揮するようになっていることをたくさん見てきた。

 障害者をめぐる人々の中には、専門家を含め、障害者をそれぞれの仕事の対象として考えたり、研究の対象として考えている人が多い。

 しかし、障害をもつ人々にとっては、そんな人生でも1回きりの、取り戻せない人生である。時間を無駄にしたくない。他の人と同じように挑戦し、人生の喜びも得たい。チャンスを得て、精根こめてやれる場が欲しい。

 障害をもつ人々の思いを心から受け止め、自分の人生の問題としてともに涙し、歩んでくれる、そんな人々が周囲にもっと増えれば、社会における障害者の「複権」は急速に進むに違いない。

(いとうひろやす ㈱日本アビリティーズ社)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年8月号(第16巻 通巻181号) 29頁