列島縦断ネットワーキング
[千葉]
障害をもつ人と高齢を迎える人の旅サロン「ぼらんたび」を出展して
草薙威一郎
●はじめに
1995年12月、「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~」が策定された。広く知られたことプランの中に、旅を楽しむための条件整備の事項も盛りこまれている。このことは、旅行という文化がやっと生活の質を高める活動のひとつとして、政策の中に位置づけられたと言えるだろう。
ひとくちに旅行促進のための施策と言っても、関係する分野は大変広い。対象としては飛行機や鉄道・バスなどの交通機関、旅館やホテルなどの宿泊関連施設、美術館・テーマパークなどの観光施設、また「観光地」と言われる地域全体の整備も関係してくる。つまり観光客が利用するすべての空間や施設が対象となるわけである。
また、旅行促進のためにするべき施策も多い。先にあげた諸施設が、車いすを利用する人やコミュニケーション上の障害をもつ人など、すべての人に使いやすいようにハード面の整備をすること、またそこに働く人々や旅行会社に働く人々にサービス面の教育を行うこと、諸施設の整備の現況を情報として整備し利用者に提供すること、そして社会のすべての人に、このような整備が必要であることを理解し、進んで協力するように呼びかけることなどが必要である。
●これまでの動き
そのような多くの課題があるなかで、昨年4月、運輸省・自治省の後援による国内観光振興を目的とした「旅フェア'95」(旅フェア'95実行委員会主催)が、千葉県幕張メッセで開催された。私達は主催者や関係業界、障害をもつ人の団体などと協力して、「ぼらんたび」実行委員会を組織し、「ツーリズム・フォー・オール(すべての人のための旅行)」を11万人を超える入場者に訴えた。これまで旅行促進を「福祉」のための施策と位置づけてきたのに加え、誰もが楽しむ「観光」の課題として捉え、観光行政・観光事業者にも自らの視点で問い直すためのアピールにも力を注いだ。
その結果、同年6月の観光政策審議会答申の中に、「すべての人に旅をする権利があり、とりわけ障害をもつ人や高齢の人には貴重な機会である」と初めて明文化されたのである。それに続いて、運輸省・(社)日本観光協会が中心となって旅行促進のための具体的な活動をすることとなった。また、旅行会社の集まりである日本旅行業協会(JATA)の中に「障害者・高齢者旅行研究会」が結成され、受け入れ側の課題を洗い出す作業に入った。
なお、「ぼらんたび」は同じ主旨で、昨年11月大阪で開催された「JATAトラベルショー」にも出展し、海外の観光関係者にも注目された。
●今年の「ぼらんたび」
今年も、4月10~14日まで幕張メッセで「旅フェア'96」が開催された。「ぼらんたび」は、昨年の倍のスペースを主催者から提供され出展することになった。
今年の出展のコンセプトは昨年と大きく変わらないが、もっと展示を明るくてわかりやすく展開することとした。そのために、多くの課題をアピールするのはもちろんだが、加えて実際に体験してみる機会を多くしたり、旅行に役立つ展示に心がけた。具体的なブースプランは次のとおりである。
(1) 疑似体験コーナー
①高齢者疑似体験=耳栓や、白内障を再現する眼鏡、加重チョッキ、関節を固定するサポーターをつけて、加齢に伴う身体的変化を体験する。
②宿泊施設のトイレや風呂=障害をもつ人と高齢を迎える人に適したトイレや風呂など最新式のコーナーを再現し、今後の宿泊施設整備に生かす。
③リフト付き観光バスの運行=本年3月に完成したばかりのリフト付き観光バスを会場周辺で運行し、多くの人が体験乗車することで、より多くのリフト付きバスの導入を図る。
(2) パネル・展示・旅行相談コーナー等
①体験旅行展示パネル=北海道、甲信越、中部方面やクルーズの実際の旅行をパネル化する。
②展示コーナー=航空会社の機内用車いす・ドクターズキット、旅行出版物、旅行情報誌、砂浜でもめり込まない車いす、耳の不自由な人の旅行用機器、旅行ビデオを展示する。
③旅行相談コーナー=旅行に行きたい人のために相談員を配置する。
④盲導犬ショー=盲導犬の理解を深めるためのステージショーを行う。
●「ぼらんたび」の効果
開催期間中は、障害をもつ人、高齢の人やその家族、福祉関係者、観光産業に携わる人、マスコミ、行政関係者など約23万人の入場者があった。特に「ぼらんたび」ブースを訪れた運輸大臣から「国として障害をもつ人の旅行促進に力を入れる」とのコメントがあった。
次に会場を訪れた人へのアンケート結果から、印象をまとめてみたい(サンプル数685名)。
(1) 「ぼらんたび」ブースの情報源
「パンフレット」11%、「新聞・機関紙」12%、「会場に来て」76%、「その他」2%と会場に来て知った人が多かったが、障害をもつ人は事前に知っていたケースも多かった。
(2) 「ぼらんたび」ブースの感想
「大変興味深かった」45%、「まあまあ興味がもてた」52%、「興味がもてなかった」2%、「その他」1%であり、好感をもって迎えられたと言えるだろう。
(3) 障害をもつ人・高齢の人の旅行への関心
「大変関心がある」33%、「関心がある」59%、「特に関心はない」7%、「その他」1%であり、9割以上の人が関心をもっていることがわかった。特に観光産業関係者や高齢の人の割合が高かった。
(4) 旅行相談を受ける場所
「旅行会社」44%、「在住自治体福祉課」38%、「旅行先観光案内所」16%、「その他」2%であった。やはり旅行に出かける前に多くの情報が必要であり、その窓口として旅行会社や自治体によりいっそうの努力が求められていると言える。
(5) 真っ先に改善する点
「移動に関する施設」70%、「宿泊に関する施設」22%、「観光に関する施設」7%、「その他」2%であった。移動に関する施設では、鉄道駅の階段を指摘する声が多かった。観光産業関係者では、宿泊施設の改善を指摘する意見も多かった。
(6) 旅行に行けずに困っている人
「周囲にいる」34%、「特に思いつかない」30%、「周囲にいない」34%、「その他・不明」2%であった。約3人に1人が「周囲に旅行に行けない人がいる」と答えている点は、大変重要である。今後の旅行を考えるうえで、この課題は社会全体で避けて通れないことをアンケート結果が如実に示している。
●「ぼらんたび」アンケートのその他の声
主だった自由意見をあげてみたい。
〈観光産業関係者の意見〉
・旅行業務に携わっているが、関連する情報が少なくて案内できないでいる
・自分の会社の特急列車に乗れない車いすのお客様を見た時、自分の会社が恥ずかしかった
・リフト付きバスを大量に作り、コストを下げる必要がある
〈一般見学者の意見〉
・これからは、近所の体の不自由な人を気軽に散歩や花見に誘いたい
・宿を改善してほしい。自分も年をとったら利用したいので
・ここに来て多くのことを知った。これから健常者以上に旅に出て、心豊かにする社会環境がほしい
・駅や踏切が障害者や高齢の人には不親切(中学生)
・思いやりの気持ちや、ボランティア活動の高まりが必要
・アメリカの空港の設備が整っていたのに比べ、日本は遅れている
〈障害をもつ人の意見〉
・温泉のお風呂が入りにくかった
・どの駅にエレベーターやエスカレーターがあるのか、ガイドマップがほしい
・旅行会社のカウンターに手話のできる社員をおいてほしい
・付き添いと2人になるので、旅行費用が安くなるようにしてほしい
・電車に乗って、自由な旅行がしてみたい
・うちのおじいさんは、体が不自由でどこへも出られない(中学生)
・足の弱い老母との旅行で、車いすの備えてあるところはありがたかった
・ヨーロッパでは、何不自由なく楽に旅行ができた
●おわりに
「ぼらんたび」期間中は、各方面から延べ100名を超えるスタッフに協力していただいた。スタッフは障害のあるなしにかかわらず、多くの人々に知ってもらいたいという熱意をもち、また自分の持ち場での役割を考えながら行動した。ようやく動き出したかに見える旅行促進の動きだが、本番はこれからである。一歩ずつ積み重ねながら、「誰でも、自由に、どこへでも」旅を楽しめる社会づくりを進めて行きたい。
最後に協力していただいた団体(企業)名を掲げて感謝の意にかえたい。
協力・協賛団体・企業(順不同)
日本セイルトレーニング協会、アイメイト協会、全日本盲導犬使用者の会、空とぶ車イストラベルサロン、もっと優しい旅への勉強会、旅行のソフト化をすすめる会、全国障害者文化センター、ワールドパイオニア、地球は狭いわよ、ミューズ・プリント、赤十字語学奉仕団、アテック・インターナショナル、ランディーズ、トラベルネット、TOTO、大東京火災海上保険、日本航空、全日空、日本エアシステム、JCBトラベル、明治航空、東急観光、日本旅行、近畿日本ツーリスト、JTB、日本旅行業協会、全国旅行業協会、日本観光協会、「旅フェア'96」実行委員会、「日本全国観光バスフェスティバル」実行委員会
(くさなぎいいちろう 「ぼらんたび」実行委員会代表)
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年8月号(第16巻 通巻181号) 56頁~59頁