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特集/災害時における対応

小規模作業所の再建に向けて

岡 克明

1 被害実態

 悪夢のような阪神・淡路大震災から1年半が経ち、街は平静を取り戻し、混乱、喧騒、不安の続く毎日から徐々に脱し、復興への息吹を感じる。しかし、依然として、旧避難所や待機所での生活を余儀なくされている人が今年の6月現在でも380人おり、仮設住宅等の仮住まいで、将来に不安を抱えながら生活している人が約8万5000人いる。住宅再建、産業復興を含めた街づくりにはまだまだ時間を要しそうだ。

 一方、障害をもった人たちが通う小規模作業所も大きな被害を受けた。地震が発生した時点で、兵庫県下には150か所の小規模作業所があり、半数以上が最も被害の大きかった神戸・阪神間に集中していた。県下の社会就労センター(授産施設)、小規模作業所の人的被害は、利用者16名、家族18名、職員2名が死亡、建物被害は全壊21か所、半壊21か所で、そのうち小規模作業所に限れば、人的被害は、利用者11名、家族13名が死亡、建物被害は全壊20か所、半壊17か所で、備品等の被害は82か所にのぼった。全・半壊合わせて37か所という数字(兵庫県共同作業所連絡会調査)は、県下作業所総数の25%、被災地域105か所の実に3分の1以上が全・半壊したことになる。備品の被害にあった作業所を含めると、ほとんどの作業所が何らかの被害にあったことになる。いかに小規模作業所の被害の実態が大きいかがわかる。そして、全・半壊した37か所の作業所には、450名程のさまざまな障害をもつ人たちが通っていた。

2 原因と問題点

 今回の震災は、小規模作業所の実態の弱さ、貧しさを改めて浮き彫りにした。全・半壊した作業所の90%近くが木造の建物を使用していた。認可施設は、設置基準があり、鉄筋コンクリート造等の建物を使用して運営しているのに比べて、無認可の小規模作業所は、家賃の安いプレハブや文化住宅等の木造住宅を使用・借用して日々の取り組みを行っていたことが、被害を大きくした原因と考えられる。公的補助金だけでは運営できないために、バザー等自主財源づくりに励みながら、障害者の自立や社会参加に向けた労働や生活面の取り組みをしている作業所の運営基盤の不安定さがこの現状を打開する手立てを失わせた。小規模作業所の職員、利用者、家族や関係者そして行政が「災害時にどれだけ仲間の安全を守ることができるか」を真剣に考えてみる必要がある。地震が開所時間帯に起こっていたら、被害はもっと大きくなっていたであろう。

3 支援活動

 震災直後は、被災地域の作業所はそれぞれが被害にあい、自分たちの作業所の仲間や家族、職員の安否確認や救援活動に奔走していたために、他の作業所への連絡や支援、被害調査等をする状況にはなく、全国からの数々の支援、温かい励まし、心よりのお見舞い等は、被災した作業所にとって、本当に心強い思いを抱かせてくれた。

 1月20日には大阪の障害者センター内に「合同対策本部」を、1月23日には共同作業所全国連絡会、全国授産施設協議会(現全国社会就労センター協議会)、全国身体障害者療護施設協議会が合同で兵庫県福祉センター内に「障害者支援センター」を設置し、県下の被災作業所の利用者、家族、職員の安否の確認、建物の被害状況や在宅障害者の被災状況調査、行政との折衝、電話相談や救援物資の配送等の支援活動を行ってきた。4月15日に支援センターが解散することになり、以後の活動は兵庫県社会福祉協議会と神戸市社会福祉協議会に託された。兵庫県共同作業所連絡会が活動の体制をとれたのは、2月に入ってからで、支援センター等と協力して支援活動や連絡・調査活動、兵庫県や神戸市に対して要望書の提出等を行った。7月末より調査活動が電話連絡等だけでは、実情をつかみにくいため、

 ①各作業所が抱えている問題や要望を把握し、今後の支援の方向を探る

 ②フェイス・トゥ・フェイスの関係づくりによって、作業所が問題を抱えたまま孤立したり、行き詰まらない前に相談してもらえるようにする

 ③障害の種別や団体のセクトを越えて、交流や情報交換ができる場づくりをすすめる

 ことを目的に、県社協の協力を得て、訪問調査を実施した。八月に県社協内に、小規模作業所再建支援相談員六名が置かれ、2か月ごとの調査活動、各作業所の実情に合わせた支援と相談活動、復興イベントの開催等を行う中で、顔の見える関係づくりができ、徐々に相談や支援への要望が相次いできた。再建支援会議は、神戸市社協を含め平成8年7月までに14回開催された。

 震災直後から仲間が集う場所を失った作業所では、長い間作業所を再開することができず、在宅ないしは避難所での生活を余儀なくされた仲間が多く、「仕事がしたい」「作業所へ行きたい」「家にずっといると元気がでない」等の心の底から湧きでるような思いや願いを思うと、作業所を1日でも早く再開することが必要だった。テントやコンテナ、他の作業所や施設等を使用して1日おきに通ってきたり、他の作業所と合同で使用したりして部分開所できるようになった。また、民間助成団体からの資金援助で建物の補修や損壊した備品を購入して再開することができた作業所がある一方で、半壊している建物を無理して使用している作業所や、昨年7月より順次神戸市内7か所、西宮市内2か所の計9か所に建設された仮設作業所を使用している12作業所は、再建へ向けて模索を始めた。2つの作業所が合同で建物を使用したり、トイレや水の設備もないまま使用しているところもある。仮設の場所が遠くなり、通所が不便になる等のさまざまな問題を抱えながら、すべての作業所がとりあえず、仲間が毎日通える場所を確保した。「前の作業所より仮設作業所の方がきれいで広いねぇ」この作業所の仲間の言葉は、小規模作業所の現状を明確に表しているといえる。

4 教訓および今後の課題

 震災から1年半が経ち、被災した小規模作業所の課題がはっきりしてきた。同時に、再建へ向けての取り組みにも明らかに差が出てきた。震災前の状況まで回復する等順調に再建しつつある作業所と、将来への見通しが依然としてたたない作業所とに分かれてきている。いち早く賃貸の物件を押さえて再開した作業所や土地を借りたり、元の場所を使用して、民間助成団体から建築費用を補助してもらい、再建へ向けての動きを始めた作業所がある。その一方で、土地や建物が見つからないために、再建へのメドがたっていない作業所が依然として数か所ある。認可施設は、震災後間もなく「社会福祉施設等災害復旧費補助事業」の適用を受け、国と兵庫県が6分の5を補助し、建物の大規模修繕または設備の整備を行って、再開したが、無認可というだけで、小規模作業所には、国からの財政支援は一切なく、県は昨年8月末になり、ようやく復興基金の小規模作業所への適用を決めた。これは、全・半壊作業所(ホームは含まれていない)を対象として、建物の建設、移設、借上の場合6分の5まで補助するもので、平成9年3月までに申請をしなければならないというもの。この復興基金を利用して、再建の予定をしている作業所は多いが、利用に際して制約が多く、全壊同然なのに、被災証明が取得できないために利用できないといったケースがあり、申請した作業所はわずかだ。震災前より、恒常的に運営基盤が不安定である小規模作業所が、自力で再建していくことは困難で、自助努力には限界があり、共助と共に行政による公助がなくては、作業所の再建はさらに遠のいてしまう。作業所を再建するにしても、震災前と同じものをつくるのではなく、災害に強い、みんなが安心して作業、生活できる作業所づくりをしなければならない。

 また、仕事の確保と販路の問題も大きな課題だ。仕事がなくなった場合、職員が個人で仕事を開拓するには限度がある。共同受注センターを設置することによって、仕事の斡旋ができ、合同店舗を設置することによって、販売網を拡大することができる。そういった機能を含めた拠点となる施設があれば、災害時だけではなく、日常的に仕事の問題は軽減されていくだろう。震災直後には、特に神戸市内に拠点となる作業所がなかった。拠点になって情報の収集や発信、支援、相談活動をする作業所があれば、各々の作業所の被災状況や要望に応じてより迅速、的確に対応ができただろう。これは、日頃から作業所間の連携を深め、ネットワーク化を図っていくことの大切さを同時に物語っている。

 障害者の「働きたい」という願いや思いを実現するために、全国各地で草の根的に増えている小規模作業所は、4000か所近くにのぼり、社会就労センターと比較しても設置数や利用者数は上回っており、現在では認可施設の補完的役割ではなく、障害をもった人たちにとってなくてはならない社会資源として不可欠のものになっている。今回の震災をバネにして、小規模作業所の運営費や家賃補助を大幅に増額する等抜本的な改正をしていく中で、行政の中にしっかりと位置づけられたものにしていく必要がある。建物の再建だけではなく、補助金を含めた小規模作業所全体の底上げをしてはじめて、真の復興といえるのではないか。同じ地域福祉を担っているにもかかわらず、無認可というだけで援助の手が差し伸べられない現実を真剣に考えなければならない。さらに、今回の震災から、日常はもとより、緊急時の支援の在り方をハード面とソフト面をあわせて、福祉施策の中で考えていく必要がある。

(おかかつあき 兵庫県共同作業所連絡会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年9月号(第16巻 通巻182号) 23頁~25頁