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高度情報化社会にむけて

体験・今、盲学校では

吉田重子

 パソコン画面の音声読上げソフトの登場は、視覚障害者にとって、墨字の文書を読み・書きする可能性を大きく広げるものであった。そして、より早い時期からこの「恩恵(?)」にあずかるための力を身につけるにはどうしたらよいか。

 学校教育におけるパソコンの指導は、今回の指導要領には「情報手段の活用」として登場した。筆者の勤務する盲学校でも、五年ほど前から、中学生に対しパソコンを使った指導を始めたが、ここ2年間、とくに、点字使用児を対象としたパソコンの活用の指導内容・指導方法をテーマに、検討しているところである。

 まず、パソコンに触れる手始めとして、視覚障害者(点字使用者)にとって常用文字である点字のエディタの使用から入り、キーボードに触れること、合成音声の聞き取りに慣れることなど、指導のステップや留意事項を整理した。そして、次に現在の指導として、墨字文書の作成を目標としている。墨字文書を作成するにあたって、視覚障害者(点字で学習してきた者)にとって、大きなネックとなるのが、漢字の用法の問題とレイアウトの問題である。今、我々は、中学生が墨字文書を書くための基礎として、前者の問題に取り組んでいる。

 現在行っていることは、教育漢字の学年別配当表の段階に従って、同音異義の漢字の三択問題のソフトを作成し、これを解きながら合わせて、一般のエディタを使い、短い例題文を入力して漢字変換する学習である。この漢字の三択問題について若干説明すると、例えば、画面には「しょうねんじだいのしょうを漢字にすると、①ちいさいのしょう、②ただしいのしょう、③すくないのしょう。番号で選んでね」と表示され、正答の番号を選べば「大当たり」、誤答の番号は「はずれだよ」とメッセージがあり、次の問題へと進んでいく。この「すくないのしょう」「ちいさいのしょう」といった漢字に関する説明は、いわゆるMS-DOS画面音声化ソフトがもっている漢字の説明読み(詳細読み)の表現に基づいて作成したものである。

 この学習を通して、「台風」は「大風」、「新聞」は「新文」など、普段から漢字を使用していれば考えられないような間違い(意味から想像しての思い込み)に気付かされていく。これは、まさに、筆者自身の体験でもある。より早い時期から、クイズ感覚で楽しみながら、漢字というものを意識できればよい、という筆者の願いである。

 それにしても、小学校で習う教育漢字だけでも千字近くに及び、とても追いつくものではない。また、2字の漢語であれば、近ごろの賢いFEP(漢字変換機能ソフト)がこの乏しい知識を補ってくれるかもしれないが、鉛筆の「芯」のような一字の漢字を自分で調べるのは難しく、また、「みつけだす」「はしりこむ」などの複合動詞、「~したところだ」などの形式名詞を意気揚々と漢字にしてしまい「普通はこんなの漢字にしないよ」と笑われてしまうような微妙な失敗については、今後も続く課題であろう。

 何でも完璧を目指そうとせず、墨字への関心、墨字を書こうとする意欲をもちつづけさせる指導を、と他の教師に呼びかけるのが、筆者の役目であると考えている。

(よしだしげこ 北海道札幌盲学校)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年9月号(第16巻 通巻182号) 51頁