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1000字提言

ケアをしている人のケアを

ツルネン・マルテイ

 弱者の世話をする健常者のケアは、日本の社会福祉において最も遅れている分野の1つであると思います。ケアをしている人はその立場によって、身内の人、職員、ボランティアに分けることができます。いずれの場合でも使命を果たすために、ケアする人自身もケアを受けることが必要です。しかし、日本ではこのようなケアがどの福祉施策にも含まれていないようです。精神的な悩みと苦しみを打ち明けたくても、中立の立場で専門家として聞いてくれる人がいない場合が多いようです。

・家庭で障害者の面倒をみる人は、自分の休息を取る時間がほとんどない。

・福祉を職業にしている人の賃金が低い。社会からの評価や激励を受けることもめったになく、そのせいもあってストレスや過労によって、喜びをもって進んで働くことができなくなる。

・ボランティアはケアをすることが無償の奉仕だと思い込むときがあり、追いつめられた心境の中で、奉仕を少しでも負担に感じると「ボランティアだから」という口実ですぐにやめてしまう。

 私の提言は、ケアをする側のケアサービスを緊急に整備するようにということです。実行する組織としては「社会福祉協議会」を勧めます。なぜならば、「社協」の方が行政より自由に新規事業をスタートすることができるからです。サービス内容はケアをする人本人が必要とする援助をできるかぎり与えるようにします。

①弱者の世話で心身ともに疲れ切った身内の人に休暇が取れるように手配する。

②職場の人間関係で悩んでいる職員には専門家のカウンセリングを提供する。

③セラピーサークルを地域ごとに開催し、ボランティア活動の意義が見えなくなった人にはグループセラピーに参加することを提案する。

 そこで専門家の講演を聞くのではなく、10~20人位のグループで参加者の心理についてセラピストの指導でディスカッションをします。例えば会合を年に3~4回、メンバーは弱者の身内、職員、ボランティアで構成し、自治体の議員にも交替で参加してもらいます。この会合は施設や職場の朝礼と役割が違いますし、仕事の打ち合わせをする場ではありませんので、心を癒すための精神修養の場を提供することに意義があります。

 ケアをする人が精神的な困難に陥ったとき、もしケアを受けることができたら姿勢をプラスの発想に切り替えることができるかもしれません。そしてそのお蔭で人生を弱者と共に蘇生の方向へ歩むことになるでしょう。

(元湯河原町議員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年9月号(第16巻 通巻182号) 68頁