音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

1000字提言

入所施設のアブノーマライゼーション

アキイエ・ヘンリー・ニノミヤ

 1970年代始め、私がカナダで臨床心理カウンセリングをしている時、ノーマルという言葉は変化の激しい社会では、その意味が曖昧になるので使用しないことになったことを最近思い出しています。その当時、経済競争の中でのストレス、離婚等による家庭崩壊、犯罪による不安等が急増し、精神障害をきたし精神病になる市民が多くなりました。精神病にかかることはアブノーマル(異常)でなくなったのです。

 ノーマルというのは社会、市民全体の一般的な状態を指します。したがって、北米ではノーマライゼーションをメインストリーム(変わりゆく社会の中の本流という意味)と呼んでいます。

 社会がほとんど変化しない時代の思想は陸上の思想と呼ばれ、ノーマライゼーションの概念は固定化されます。しかし、変化する時代は海上の思想と呼ばれ、海の潮の流れ、風、波、温度によって常にその概念は変化します。

 今の日本は激変の時代に突入しました。土地・株価、高度成長率の右肩上がりの常識は崩壊し、日本型経営、終身雇用制も変化しています。日本の技術の安全性も阪神大震災で崩れ、今や官僚制度も大蔵省の住専問題、厚生省のエイズ対策問題で変化しています。さらに人類が経験したことのない超高齢化社会に突入しました。こうしてみると、1981年の国際障害者年から言われているノーマライゼーションは過去15年間の激変する海上で大きく変化しているはずです。

 しかし、社会福祉施設、とりわけ障害者関係の入所施設はそのような社会の大変化から孤立しているようにみえます。

 ノーマライゼーションは障害をもつ人も一般社会の市民と同じような社会生活をすることを目指しています。50人単位以上の集団生活はアブノーマルに思いますが如何でしょう。入所施設は社会参加する過程の中間施設です。ノーマライゼーションを提唱したバンクミケルセンの国デンマークも、スウェーデンもカナダもコロニーを解散しました。しかし、日本ではコロニーも大型の長期入所施設も依然として存在しています。今後、日本での議論はどう推移するでしょうか。

 ノーマライゼーションは施設側の努力だけでなく市民の積極的なボランティア的な努力が障害をもつ人々を隣人としてコミュニティにインテグレーションできると思います。私も市民の1人としてがんばろうと思います。

(関西学院大学総合政策学部)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年9月号(第16巻 通巻182号) 69頁