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特集/結婚と生活~さまざまな状況~

多くの人との出会いの場づくり

―結婚研修会「かがり火」の活動―

武山おわ子

結婚研修会「かがり火」

 秋が近づいてくると「集団見合いがあると聞いたんですが」とか、「今年の『かがり火』はいつあるのでしょうか」という男性からの電話がよくかかってきます。

 岐阜訓盲協会(愛盲館)では毎年秋頃に全国の視覚障害者を対象とした結婚研修会「かがり火」を行っています。これは将来結婚を希望する独身視覚障害者男女の出会いの場として、さらに結婚生活に対しての不安を少しでも取り除いていただきたいと、実際に結婚生活を送っている全盲夫婦の体験発表などを通して視覚障害者の結婚について研修する場として開催しています。

 さて、この「かがり火」は、今から34年前の1962年11月に岐阜県盲人協会が愛盲館の協力を得て開いたのが始まりです。当時は特に全盲女性の結婚に備えて、結婚生活や社会生活について勉強してもらうことが目的でしたので、研修会に家庭電化製品の取り扱い講習を取り入れて勉強していました。第4回(1966年10月)からは伊吹山登山や長良川の河原でのキャンプファイヤーを行い、お互いに助け合うことによって理解を深める集団見合いの性格が強く出てきました。

 第8回(1973年9月)からは主催者が愛盲館に代わり対象も全国に広がりました。研修の中身も希望する相手があれば随時自由懇談をするという形を取り、研修会後に結婚するカップルも増えてきました。第14回(1979年9月)からは自由懇談の時間を決めて希望した人とじっくり夜まで話し合うという形を取り、「出会いの場」を重視した行事に変わってきました。

 視覚障害者が結婚生活を円滑に進めていくためには、両親や家族の理解と協力が絶対に必要です。そこで「家族の集い」を同時に開催して、付き添いで来ている家族に対して「視覚障害者の家庭への理解と協力」を呼びかけています。

 最近では「結婚を前面に打ち出すと参加しにくい」という声も聞かれ、また参加者もこの会ですぐ結婚相手を捜すというよりも、多くの人との出会いや、そこから交際の輪が広がって将来の結婚へ結びつくきっかけを作りたいという考えの方が多くなってきました。そこで第23回(1988年9月)からは参加者のアイディアにより名称を「かがり火’88」とし「結婚」という文字も取り、その後「長良川、であい・ふれあい・めぐりあい」とのキャッチフレーズをつけ、出会いの場を強調した研修会へと変わってきました。

 現在では運営面でも工夫を凝らし、参加者全員が1対1で話ができる時間を作ったり、ゲーム的要素を取り入れて緊張しないで楽しく時間を過ごせるよう配慮をしています。また安心して参加できるよう岐阜駅・名古屋駅での出迎えはもちろんのこと、途中駅での乗り換えのお世話、ホテルでのお世話も泊まり込みで行っています。そして職員・ボランティア・視覚障害者の代表が集まってスタッフ会を定期的に開き、よりすばらしい会にしたいと努力しています。この2日間の研修会が、参加した方々にとって視覚に障害があることを忘れてとても楽しいひとときであったと思っていただけることが私たちの喜びです。そして視力という条件で相手を見るのではなく、1人の人間として理解し合い、尊敬しあって結婚してほしいと願っています。

女性の参加者が少ない

 こうして徐々に安定してきた「かがり火」ですが、1番の問題点は女性の参加者が少ないということです。この理由についてはいくつかあげられると思いますが、まず第1に「かがり火」に参加したことを他人に知られたくないというプライバシーの問題です。第2に日本全国が対象ですので、結婚が決まった場合全く知らない土地での結婚生活が果たして自分にできるのかという不安などがあげられるのではないでしょうか。

プライバシーを守る

 第1の理由については主催者側ではプライバシーを守るということに重点をおいています。参加者名簿には県名だけを記載するようにしていますし、当日の懇談についても相手の住所や電話番号を直接本人に聞かないというルールがあります。知りたい場合は本部を通じて聞くことになっています。これは研修会が終わった後もアフターケアとして私たち本部が行っている大きな特徴のひとつです。もうひとつの特徴は研修会の1週間前に全員から提出していただいた資料「プロフィール」と「声のメッセージ」を編集して参加者全員にお送りしていることです。当日の短い自己紹介だけでは全員の方を把握することは難しく、またプロフィールも当日ゆっくり読む時間がとれないことから前もってお送りすることによって参加者を少しでも理解し、あるいは希望の人をしぼって楽しみに参加できるのではないかと思います。

 ただここにもひとつの大きな問題点があります。テープは必ず当日に返却していただきますが、なかにはコピーして持っていたり、プロフィールの回し読みをしたりする人(特に男性)がいるようです。また研修会が終わってから地元の男性同士で女性参加者のことを話題にしたりして、情報はかなり遠くまで流れていくようです。それによって参加した女性が後で嫌な思いをしたということもあります。私たち本部が参加者のプライバシーを必死に守ろうとしても、こうしたモラルのない人たちによって崩れていくというのは何とも悲しいことです。

女性参加者の声

 もう1つ気になりますのは、男性の希望が弱視や半盲の女性に集中する傾向があることです。視力と結婚するのではなく1人の人間として理解してほしいと呼びかけていても、やはり全盲女性に対してきびしさがあることは否定できません。

 でも昨年の女性参加者にはすばらしい人がいました。夜のグループでの話し合いの中で「男性の方は弱視や半盲の女性をまず結婚相手として見ていますが、全盲である私たちはどうしたら結婚の対象として見ていただけるのでしょうか」と勇気ある発言をされました。私はとても胸を打たれ彼女の心の痛みを感じました。そしてそれが喜びに変わったのは今年の1月、全盲の男性から「彼女と結婚をしました」という報告を受けた時でした。彼女の胸の痛みを温かい心でしっかりと受けとめてくれた男性がいたのです。彼女の懸命に生きていく姿勢と勇気ある発言がきっと男性の心をつかんだのではないかと思っています。

周りの人たちの協力と本人の努力

 第2の知らない土地で生活することの不安という問題点ですが、これは視覚障害者だけに限ったことではありません。誰にでも不安はあります。ただ視覚障害者にはどうがんばっても見える人の協力を得ないとできないという不自由さがあります。こういった部分は家族や回りの人たちの協力と本人の努力によって解決できていくことではないかと思います。毎日の買い物、近所付き合い、子供が生まれれば育児、教育と考えれば不安は尽きません。

 でも結婚した女性にとってはすべてが初めての経験なのです。自分の好きになった人と一緒に生活をし人生を歩んでいけるという気持ちがあれば、不思議と力が湧いてくるものです。目が必要な時があること、できないことはできないと家族や近所の人に協力を求める勇気をもち、回りの人たちとふれあうことによってお互いが理解し合い、そこから信頼関係も生まれていくのではないでしょうか。

 一番大事なことは、できることは精一杯努力しているという姿勢ではないかと思います。そして目の代わりをする私たち協力者は、相手に負担感を与えないことが大切だと思います。買い物をする時は物を買うだけでなく買い物をする楽しさを味わっていただければ、また育児の手伝いをすることによって母親としての喜びを感じてもらえるとしたら、とてもすばらしいことだと思います。努力と勇気があれば道は開かれます。まさしく手さぐりで自分の人生を切り開いていってほしいと思います。

(たけやまおわこ 岐阜訓盲協会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年10月号(第16巻 通巻183号)11頁~13頁

この記事は、月刊「ノーマライゼーション」にご執筆いただいた当時(1996年10月)の情報です。

かがり火については、社会福祉法人岐阜アソシアにお問い合わせください。

社会福祉法人 岐阜アソシア(視覚障害者生活情報センターぎふ)
〒500-8815 岐阜市梅河町1-4
電 話  058-263-1310
FAX  058-266-6369
メールアドレス associaあっとccn.aitai.ne.jp(「あっと」を半角の@にしてご利用下さい)
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