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列島縦断ネットワーキング

[大阪]

豊かな高齢社会へ生活提案

―動き出したATCエイジレスセンター―

後藤俊明

 「エイジレス」という言葉を、みなさんご存じでしょうか。「エイジ(年齢)」と「レス(~がない)」の合成語で、もとは「年を取らない」という意味の英語ですが、最近は、とくに福祉関係者の間で「年齢による障壁のない用具や社会システム」などの積極的意義に使われ始めています。日本の高齢化は急速に進んでおり、2020年には65歳以上の人が人口の4分の1を突破すると予測されています。

 こうした「超高齢化社会」の到来を目前に控え、年をとっても高齢を感じずに、豊かに明るく暮らせるためには、今からどんな提案ができるだろうか。そんないろいろな提案の花を咲かせる場ができないものか、との願いを込めて「豊かな高齢社会をめざす総合生活提案館-ATCエイジレスセンター」が今年4月27日、大阪市住之江区のアジア太平洋トレードセンター(ATC)内に誕生しました。

●3か月で10万人が来場

 このセンターは、大阪市とATCが設置し、朝日新聞社が共催するもので、全国各地から計72の企業や団体が出展したり協力したりしています。会場はATC内のITM(国際卸売マート)棟11階約3000平方メートルを占め、11のゾーンに分かれています。

 特色としては、来場者が福祉用具に実際に触れたり、車いすに乗ったりできる来場者参加型であること、数多くのイベントや講座などを開催していること、また3年間という長期にわたるほぼ常設的な展示施設はわが国には前例がないことなどです。

 こうした点が評価されたのか、来場者はオープン後3か月で10万人を突破、7月27日には10万人突破記念セレモニーと大抽選会のイベントも開かれました。開幕前予想が年間15万人でしたので、予想の約2.7倍の高い反響を記録し、改めて一般市民の高齢社会への関心の高さを示しました。

●ATC、大阪市、朝日新聞の三者協力で実現

 ATCは、大阪市と関西財界が出資して作った第三セクターで、1994年4月、大阪ベイエリアに開設した延べ床面積約33万平方メートルの巨大施設です。当初はバブル崩壊後の余波により、空きオフィスが目立つことなど立地条件が懸念されましたが、若いカップルを中心に年間1500万人の人出でにぎわっていること、来年末には地下鉄とニュートラムの延伸で新駅ができ、大阪市中心部とのアクセスが格段に改善されることなどのプラス材料も評価されました。

 朝日新聞社は数年前から、来るべき高齢社会がどうあるべきか、識者との対談企画や連載記事を通じて啓発紙面を作成し、世論にもアピールしてきました。そうした経緯を踏まえ、福祉用具から生きがい提案まで含めた情報発信と相互交流の拠点開設を、大阪市に提案。大阪市は次世代産業育成事業として当センターを強力に推進することを決め、またATCは、施設全体の活性化の起爆剤にしたいとの意向もあり、昨年10月、大阪市・ATC・朝日新聞の三者が実行委員会を組織しました。その後、約半年がかりで、賛同する企業や団体に参加と協力を呼びかけ、今春のオープンにこぎつけました。

 センターのコンセプトは、①住まいを考える、②生きがいを見いだす、③福祉用具を学ぼう、④未来商品に触れよう、⑤公共機関、海外情報にもアクセスしよう-の5つの柱があります。出展企業も住宅、医療、介護、福祉、ベッド、衣料、レジャー、スポーツ、カルチャー、パソコン、通信機器まで、まさに多彩な業種にまたがっています。

●全国大会や団体見学相次ぐ

 当センターの特徴の1つは、単なる展示場であることを超えて、各団体とのアクティブな交流の拠点となっていることです。車いすなど姿勢保持用具を製作したり取り扱ったりする業者らが2年前に発足させた全国組織「姿勢保持協会」は、当センターで今年の総会と講習会を5月に開きました。全国から会員が詰めかけ、より使いやすい車いすの構造について熱心に議論しました。6月には、全国の約150社が組織した「日本健康福祉用具工業会(JWA)」のフォーラムが当センターで開かれました。今後もこうした健康、福祉関係の団体の相互交流の場としてどしどし活用していただけたらと思います。

 第2の特色は、団体見学の数と種類の多さです。開館約1か月後から予約を受け付けたところ、7月現在で約200団体、計約6000人にも上りました。内容は、学校のPTA、高校生の校外学習、大学生の研究、地域の主婦グループ、企業の社員研修、ボランティア団体、老人クラブの学習会などです。現在も連日申し込みが相次いでおり、半年先ぐらいまで予約が入っている状況です。

 3つ目は、小規模のミニ講座を毎週展開していますが、これがようやく定着してきたことです。「高齢社会を考える女性起業家の会」は毎週日曜の午後、会員が交替で講師になり、公開のエイジレス講座を開いています。また、車いすのまま海外旅行を目指す人たちのための「バリアフリー海外旅行入門」などの旅行講座も好評です。大阪府の医師会、歯科医師会、薬剤師会もそれぞれ定期健康講座を開いています。

 堅い勉強ばかりでなく、子どもからお年寄りまで楽しめるイベントも当センターの特色です。これまでに、3世代ブーメラン大会、劇団ひまわり公演「ファンタジーシアター」、河内音頭とジャズ、クラシック音楽が楽しめるクッションコンサート、親子ダーツ大会、カップル連珠大会……等、数え上げればきりがない程です。

●今後の課題と展望

 センター事務局にいると、うれしいことに、熱心な全国の団体から企画のお申し出がどんどん入ってくることです。車いすの方たちの暮らしを手伝う「介助犬」の普及を目指す「介助犬協会」もその1例です。10月には講演会を当センターで開く話がとんとん拍子に進み、関西初の企画が実現しそうです。

 今後はリフォームセンターの設置計画、ネットワーク情報の拠点化、小・中学校のエイジング教育と連携等センターの課題は多いのですが、皆様のご協力を仰ぎながら一歩ずつ進んでいこうと思っています。

(ごとうとしあき ATCエイジレスセンター事務局次長・朝日新聞大阪本社広告開発部)

ATCエイジレスセンターへのお問い合わせは

〒559 大阪市住之江区南港北2-1-10

ATCエイジレスセンター事務局

TEL:06-615-5123

FAX:06-615-5240

開館時間:午前10時半~午後5時半

水曜休館

WWWアドレス:http://www.iijnet.or.jp/ageless/


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年10月号(第16巻 通巻183号) 52頁~55頁