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列島縦断ネットワーキング

[岡山]

第9回岡山吉備高原車いすふれあいロードレース大会

山根 勇

 去る9月8日(日曜日)残暑の残る秋晴れのもと、人間尊重、福祉優先を目指した岡山県の吉備高原都市で「第9回岡山吉備高原車いすふれあいロードレース大会」が行われました。

 この大会は一般ランナーと車いすランナーが同じコースを走って、理解とふれあいを求めることを最大の目的として昭和63年以来、毎年ここ吉備高原都市のコースを舞台に行われています。今年も車いすロードレースに約100人、ランニングロードレースに約400人の大勢の方が参加して行われました。

 ここ吉備高原都市には、医療から職業まで一貫したリハビリテーションサービスを行う総合リハビリテーションセンターをはじめ、多くの福祉施設や授産施設が点在しており、車いすの障害者のほか、知的障害者やその他の障害者も健常者に混じって数多く参加しての大会でした。

 また、この大会は、地元の吉備高原都市の町々や施設・団体をはじめ、近隣の大学、高校、中学さらには岡山県庁や県内の各団体等から600人近くの人々がボランティアとして参加しており、大会の準備から選手を迎えての前夜祭、当日のコースの整備、交通規制、車いす選手の介助や表彰等のレース運営全般、さらには地元の特産品や名産品の販売や紹介を行う「ふれあい広場」設営など、すべての運営がこれらボランティアの人々によって支えられています。選手は、こうした数多くのボランティアや沿道の人々の熱い声援をうけてゴールを目指して懸命に力走しました。なお、入賞した選手には、地元特産の切花やキムチが副賞として贈られました。

 この大会は、レースに参加する選手ばかりでなく、吉備高原都市という地域を中心としていろいろな人々がさまざまなふれあいを楽しむことのできるユニークな大会となっています。

 最近では、身体障害者に対する考え方や国際的な感覚での意識の変化が社会環境や生活習慣に影響を及ぼすようになって、各地で「吉備高原車いすふれあいロードレース大会」のような大会が年々増えているようです。そのひとつとして、先日12月15日に東京国立競技場で車いすランナー、盲人ランナー、一般ランナーとで走る「第1回神宮外苑ロードレース」の案内が届きました。盲人ランナーを加えたことで、深みと厚みを増した一歩前進した大会となっているようです。これは、大変喜ばしい傾向で全国的にも浸透して普及することを期待しています。

 それから、この大会のもうひとつの特徴として頚髄損傷者の参加が多いことです。頚椎損傷者(首の骨を折ったりして首神経に異常があり上肢機能にも障害がある者)がスポーツをする上で肉体的運動機能の最大の障害は、①車いすを操作する手にまで著しい障害が残り、上肢の運動機能が非常に少ない、②生理機能の障害によって体温調整をする発汗作用がなく、運動することで体温が上昇して体内にこもるために霧吹きで体の表面に水分をかけて、水の気化熱で温度を少しでも下げてやる必要がある、③肺活量が非常に少ない(500~180cc)ために運動機能が低く、心拍数が上がらずに酸欠状態になり長時間の運動に支障がある、ということです。

 前記のように、重い運動障害をもった彼らがそれぞれの目的でこの「吉備高原車いすふれあいロードレース大会」に参加してくれていることが非常に意味があると思います。

 また、頚髄損傷者がこの起伏の多い吉備高原のコースを走る目的には走ることができる喜び、自分との戦い、記録への挑戦、仲間との友情のふれあい、スタートして気持ちが高揚して平常心を失う陶酔感、ゴール瞬間のそれまでの緊張感から放心状態への精神的な快感の味わい、完走できなかった時の体裁の悪さなどの感情や卑下感を克服して、「今度こそは」という闘争心を得るまでの感情の起伏が味わえることなどが考えられます。彼らは重い身体的障害があっても精神的な感情は一般健常者と同じように、もしかしてそれ以上に、この「吉備高原車いすふれあいロードレース大会」では、わずかな残された身体機能以上の精神的に凝縮された感情の高まりと充実感を味わい、このロードレースを楽しみにしているのではないかと考えています。

(やまねいさむ 第9回岡山吉備高原車いすふれあいロードレース大会事務局)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年12月号(第16巻 通巻185号) 54頁~56頁