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特集/「アジア太平洋障害者の10年」中間年を迎えて

「アジア太平洋障害者の10年」における政府の取り組み(国際協力分野)

外務省総合外交政策局国際社会協力部人権難民課

 第37回国連総会(1982年)は、1983年から1992年を「国連障害者の10年」と定め、加盟国がこれを「障害者に関する世界行動計画」(1982年、国連総会において採択)の実施のために利用するよう呼びかけました。しかし、この「10年」が終了した1992年の時点で、アジア太平洋諸国における障害者施策には、ある程度の進展が見られたものの、障害者を取り巻く環境は依然として厳しく、欧米諸国に比べると立ち後れが見られました。このため、ESCAPは1992年の総会で「アジア太平洋障害者の10年」の決議案を採択し、1993年から2002年までを「アジア太平洋障害者の10年」と定めるとともに、障害者に関する世界行動計画の目標、特に「完全参加と平等」を達成するため関係国間の協力を強化することが合意されました。

 我が国は、これまでも、国連障害者基金やユネスコ(国連教育科学文化機関)のアジア・太平洋地域教育開発計画(APEID)への協力と平行して、ESCAPの社会福祉に関連する活動にも積極的に貢献してきました。例えば、1984年以降、「日本・エスカップ協力基金」(JECF)を通じて、ESCAPの障害者プロジェクトに資金協力を行うほか、1990年からはESCAP事務所へ障害者問題専門の日本人職員を派遣しています。

 また、開発途上国に対する政府開発援助(ODA)は、1992年6月に閣議で決定された「政府開発援助大綱」に基づいて行われていますが、ここには、「我が国と歴史的、地理的、政治的及び経済的に密接な関係にあるアジア地域への援助に引き続き重点を置くこと」や、「子供、障害者、高齢者等社会的弱者に十分配慮する」ことが述べられています。

 それでは、近年、アジア太平洋地域に対しては具体的にどのような援助が行われているのでしょうか。

 まず、無償資金協力の例としては、インドネシアに対し、1989年に巡回リハビリテーション機材の供与をしたほか、1995年度、「障害者職業リハビリテーションセンター建設計画」に対し、協力を実施することとしました。

 技術協力の分野では、JICA(国際協力事業団)を通じ、開発途上国から研修員を受け入れたり、日本人の専門家や青年海外協力隊をタイ、フィリピンなどに派遣したりしています。JICAは、このように途上国の障害者リハビリテーション関係者の水準を高めることを目的とした人物交流を毎年行う一方で、より効果的な新しい援助の方法についても検討中であり、障害者自身がODA事業に参加することの意義や制約について、障害者団体へのアンケートをもとに分析を行うなど、調査研究に努めています。

 JICA以外の組織を通じた我が国の取り組みの例としては、社団法人国際厚生事業団(JICWELS)による研修生受け入れが挙げられます。ここでは、政府の委託を受け、1983年から、アジア地域の福祉水準を高めることを主な目的として、アジア各国の社会福祉関係の行政官を受け入れ、障害者福祉行政についての研修を行っています。この研修に参加するため、1995年には11人の研修生が来日しました。

 また、国立身体障害者リハビリテーションセンターが、中国の肢体障害者リハビリテーション研究センターの設立を支援したほか、日本障害者雇用促進協会(特殊法人)は、我が国の障害者雇用についての情報を提供し、国際協力へのニーズを調査するため、1992年以来、アジアの開発途上国においてセミナーを開催してきています。この他、日本において、アジア諸国の職業リハビリテーション専門家のための研修も行っており、1995年には、中国とフィリピンの専門家を招待しました。

 さて、近年見られる政府の活動の新しい動きとしては、民間援助団体との協力があります。民間援助団体は、開発途上国に対し、きめ細かい迅速な援助を行うことが可能であり、障害者に関する分野でも大きな効果を上げてきていますが、政府はこのような活動に注目し、いくつかの団体に対して事業のための補助金を交付しています。補助金交付を通じ日本政府がその活動を支持している団体の1つ「難民を助ける会」は、ベトナムにある聴覚・言語障害児のための孤児院において、手芸や洋裁などの職業訓練を実施しており、この事業は、障害児の自立を支援するものとして高く評価されています。

 1997年は、「アジア太平洋障害者の10年」の中間年に当たるため、ESCAPでは、これまでの成果などをもとに、取り組みについて見直しが行われる予定ですが、これは我が国にとっても、開発途上国への援助の効果を評価するとともに、今後どのようにアジア太平洋地域の障害者施策に貢献していくかを考える良い機会です。1995年にESCAPが行った障害者施策についての進捗レヴュー会合では、域内でも、国により目標達成度にかなり差が出ていることが指摘されており、現在も同じ問題が残っていることが考えられます。我が国は、このような点に注意し、各々の国の状況をよく見つつ、現地で最優先されているニーズに応えるような援助を行うよう努めていきます。

 また、日本はアジア太平洋地域では障害者施策に関する先進国と言われていますが、世界的に見れば、他の国から学ばなければならないことは多くあります。日本政府としては、障害者関係の施策を効果的に行っている国々の例も参考にしつつ、「アジア太平洋障害者の10年」が、一般の人々の障害者施策に対する関心を高め、障害者にとって住みやすく、活動しやすい社会がつくられるよう、域内の各国と意見を交換し、協力を進めていきたいと考えています。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年1月号(第17巻 通巻186号) 16頁~17頁